1話 ここはどこ?俺は朝比奈春樹
……驚いた。
な、なにを言っているのかわからないかもしれないが俺も何が起きたのかよくわからない。信じられるか? スマホが急に光ったかと思ったら知らない場所に居たんだ。
何が、どうして、こうなったのか。まったくもって見当がつかないがこれはあれだ。
恐らく宇宙人に誘拐されたか、何者かの固有結界に引きずり込まれたに違いない!
……よ、よぅし、少し落ち着いてきたぞ。さっきまでの俺はどうかしていた。そうだ考えればわかることじゃないか。これは夢だ。
「目覚めろ!目覚めるんだ、俺!はやく!お願い!」
………。
……………。
…………………なぜだ。
俺の叫びはこの広大な空間にむなしく響いていた。
今度は自分の頬をつねる。夢から覚めるにはこれだと昔から決まっているのだ。
「……痛い」
ああ駄目だ、理解が追い付かない。これは夢ではないのか? いや、だが夢痛というものも存在する。
まだ、これが夢だという可能性が──
「こんにちは。初めまして」
コエヲ、カケラレタ。
「ウォォォワァァァァァァァァ!!」
叫びながら、勢いよく後ろを振り向く。
そこには青にも緑にもみえる色をした髪の少女が立っていた。
「え、えっと…大丈夫?」
シャベッタ。
「ウォォォォワァァァァァ!!ウワァァァァァァ!!」
少女はビクッと震えていたが正直それどころではない。
誰だ!君は!いや、見覚えがある。あれだ!そうか!誰だぁ!
だめだまた混乱している。鎮まれ鎮まるのだ、俺。
「はぁ、はぁ。…えっと、驚かしてしまい申し訳ない。信じて貰えないかもしれないが気が付いたらここに居てね。良ければ帰る方法を教えて貰えないだろうか、お嬢さん?」
「フフッ。ここに誰かが来るなんて、珍しいな。わたしは、初音ミク。キミの名前は?」
いや、名前よりも帰り方を……うん?
「初音、ミク?」
「うん、そうだよ。よろしくね」
はつねみく。ハツネミク。初音ミク。ハッハーン。
「……そうか、俺は、死んだのか」
「え!?」
そうだ、俺は死んで魂だけが電脳空間に入り込んでしまったんだ。そうに違いない。
畜生め。これなら夢の方がまだましだ。
「大丈夫!?きみはまだ死んでないよ!?」
……え?そうなの?
「そっか死んでないのか!ああ、よかった!ああ、よかった!!」
言質とったからな!これで実は死んでましたとか言われたらマジ切れるからな!?
「アハハ、落ち着いてくれたみたいでよかった」
「あ、ああ申し遅れました
どうにか落ち着くことができたが、やはり理解が追い付かない。
目の前にいるのはどう見てもあのバーチャルシンガー、初音ミクだ。
夢……というにはリアルすぎる。かといって立体映像、ホログラムの類でもなさそうだ。
彼女は確かに、此処に存在している。
「春樹……とっても素敵な名前だね!わたしのことはミクってよんでいいよ!」
「は、はあ……」
初音ミクは陽キャだったのか、等とくだらないことが頭をよぎったがそんなことはどうでもいい。
「…それでミク、さん。ここはいったい…」
「ここはセカイの狭間。たくさんの想いが集まって、そして、たくさんの『セカイ』が生まれる場所だよ。」
ほほう、セカイとな。
「もう少し詳しく聞いても?」
「セカイはね、想いから生まれる不思議な場所なんだよ。想いの数だけセカイがあって、姿かたちを変えるの。わたしはここで、それぞれのセカイから歌が生まれるのを見守ってるんだ」
……想いの数だけ生まれるセカイ。そして、セカイから歌が生まれるのを見守る……。
駄目だ。まだ情報が足りない。
「歌が生まれる、というのは?」
「うん。セカイで、想いの持ち主が『本当の想い』を見つけるとその想いから歌が生まれるの。歌は、強い想いでできているから。だから、『セカイのわたし達』も本当の想いを見つけてもらうために世界で待ってるんだよ」
……ふむ。歌うために造られたバーチャルシンガーである初音ミクが歌を生み出すサポートをする、というのは動機として納得ができる。できる、が。
「セカイの『わたし達』という事ははつまり、ミク以外のバーチャルシンガーもいるのか?」
「うん。レンにリン、ルカにメイコにカイト達も本当の想いを見つける手助けをしてるんだ。それに『セカイ』が一つ一つ姿を変えるように、その『セカイ』のわたしたちも姿かたちや性格が変わるんだよ」
マジか。つまり、あれか。初音ミクの増殖(?)ということか!
「すべて……理解した」
「あれ?てっきり『難しい』とか『よくわからない』っていわれると思ってたけど、きみは頭がいいんだね?」
「それは違うな、ミクさん。俺はただ『ありえないなんてことはありえない』と知っているだけさ。それに人はみんな強い想いを持ってるものだし」
「フフッそうだね。……ねえ、私と一緒に歌ってみない?きっと、歌がわたしとキミの心を繋いでくれるはずだから」
……え?
「い、いや遠慮するよ。俺歌うのはあまり得意じゃないし……」
「思いが込められていれば上手い下手なんて関係ないよ。さあ、キミの想いを教えて!」
「待って! せめて曲を! 歌う曲は選ばせて!」
【歌唱後】
まさか曲さえ選ばせてもらえないとは……。初音ミクと一緒に『Tell Your World』を歌うとか、それなんて拷問?
「ありがとう、一緒に歌ってくれて。キミは…みんなの想いを、そしてセカイを見守りたいって思ってくれてるんだね。ふふ、わたしと一緒だね。だから、この場所にも来られたのかな」
「それは……いや、そうだな。本当の想いを見つけてセカイから歌が生まれるのを見守る。うん、面白そうだ」
なにより、ここなら美しい物が見られるような、そんな予感がする。
「ねえ、ちょうど新しいセカイが生まれようとしてるよ。キミにも聞こえる?」
「え?」
聞く……あ、なんか聞こえる。
希望と苦しみに満ちた、楽しく切ないパワフルな想いが…って
「なんか、多くない? ごちゃごちゃしてて聞き分けられないんだけど……」
「いい音色だね!」
ね、音色?
う、う~ん。わからん。混沌だ、混ざりすぎてわけわかめ。
「あ、ほら! 景色も見えるよ!」
「なに! どれどれ!」
おお~! これならよくわかる!
ペンライトの光があふれるステージ、街のようなセカイに笑顔あふれるテーマパーク!司が好きそうだな! 一面の星空に……
「……ん? なにもない。真っ白だ」
本当に何もない。殺風景。だけど俺は知っている気がする。
その景色は、まるで妹の……
と、考えていたところにミクの声がかかる。
「新しいセカイが生まれたみたいだね。ここから先はわたしも、キミも見守ることしかできないけど……でもきっと、想いの持ち主達は、本当の想いを見つけてくれる」
「あ、ああ。うんそうだな」
本当の想いを見つけて、このセカイから歌が生まれるその時を。どうせ暇だし。
「どうかしたの? 考え事?」
「ん。いや、何でもないよ」
首を振って誤魔化す。どうやらミクはちゃんと誤魔化されてくれたようだ。
「そう? じゃあ、新しい歌に会いに行こう!」
そう言って彼女は、初音ミクは笑顔で走り出した。
楽しみでしょうがないというその顔を見てると、つられてこちらも笑顔になる。
「……ああ、楽しみだな」
「って、ミク! ミクさん!? 元の世界の戻り方まだ教えてもらってないんですけど!?」