セカイの狭間から友人たちを見守ろうと思う   作:日彗

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3話 朝比奈まふゆの事情②

 

 ……別にただ『セカイをつくった』というだけであれば何も問題はない。例えば友人の天馬司。彼は幼い頃からスターになる事を目指している。スターに憧れる理由や切っ掛け等は聞いた事がないから知らないが、彼の『セカイ』を見れば何となく察しはつく。

 

 動いて喋る人形たち

 空飛ぶメリーゴーランド

 広がる青空

 何故か存在するオーロラ(etc…

 

 司のセカイは『楽しいモノ』『笑顔になれるモノ』で溢れている。恐らく自分と自分のショーに関わる全ての人間が笑顔になってほしいという願いが彼の、天馬司という人間の根幹を成しているのだろう。

 

 他のセカイも大まかには同じだった。

 ……会った事もないのに一方的に本人達しか知らない情報を知ってしまったことは結構気にしてるんだ。ごめんなさい。

 

 けれどあの子は、まふゆは違う。

 

 あの『誰もいないセカイ』からは『拒絶』『不安』『失望』といった想いが流れてきた。一見何もない、ただとてつもなく広い場所という印象に感じるかもしれない。

 だけど俺には、脆く不安定で今にも消えてしまいそうな、そんな印象を感じられた。

 

「……どうするか、な」

 

 先程、まふゆに話しかけられた時に動揺したのは詰まるところコレが原因だ。まさかまふゆがあそこまで追い込まれていたとは想像していなかった。

 

 だが打つ手が無いわけではない。

 

 昨夜流れ込んできた想いと記憶。その中にはまふゆが『救われたような気がした』と感じた(恐らく無意識)曲を作った者がいた。さらにまふゆはその人たちと同じサークルで作詞担当として活動しているみたいだ。

 

 ぼく、何も知らなかったんですが……。

 

「25時、ナイトコードで。……何曲か聴いたことはあるけどまさかねえ」

 

 まったく、末恐ろしい才能だ。あの子は逆に何が出来ないのだろうか。

 

「…………」

 

 いや、出来ない事だらけだ。まふゆは器用で不器用だか──

 

「いつまでそこ、占領してるの?」

 

 ──ファッ!?

 

 とっさに手で口を押さえる。変な声が出そうになった。

 

 入口の方へ首を向けると、そこにはこちらを見つめる人影が。

 いつから居た? なぜノックをしない? なぜノックをしない!?(大事なことなので2回)

 

「顔を洗いに行ってから10分以上経つけど何してたの。鏡をずっと見つめて」

 

 10分。そんなに経っていたのか。考え事をすると時間を忘れるのは悪い癖だ。

 

「いやぁ、つい鏡に映る自分に見惚れてたよ。教えてくれてありがとう。今空ける」

 

 ……マズイ。誤魔化そうとするあまり気持ち悪い事を口走ってしまった。これではただのナルシストだ。

 

 まふゆの目にハイライトがない。洗面所に入って来た時から無かったが、更に暗く冷たくなった気がする。どうやったらそんな目ができるんだ。泣くぞ。175cmの男が全力で泣き叫ぶ姿をその暗い目に焼き付けることになるぞ。

 

「……そう」

 

 まふゆが中に入ってくる。せめて俺が出るまで待ってなさい……。

 中に入ろうとするまふゆとすれ違う様に外に出る。そういえば今日は体育があったな。うへぇ。

 

「……今日も、お母さん達と話さなかったね」

 

 おっと、その話題をまふゆからするのか。

 

「どうしたんだ急に。お前からその話をするなんて今までなかっただろ」

 

「……わからない。ただの気まぐれなのかもしれない」

 

「そう、か。……ああ母さん達との件だったな。まふゆも知ってるだろ? あの一件以来、その、なんというか気まずいんだよ。お互いに」

 

 小学生の頃の事を今なお引きずっている俺も、両親も。

 他人が聞けば「くだらない」と評するかもしれないが、俺にとっては一大事だったのだ。

 まあ、我ながら大人げないとは思っているが……。

 

「いいね。そんなことにそこまで真剣になることができて」

 

 ……暗にくだらないと言われた気がする。

 

「まふゆこそ、大事なものが捨てられそうになった時はちゃんと『駄目』って言えよ。何でもイエスで答えるのが()()()ってわけじゃないぞ」

 

「………」

 

 会話は、どうやら終わりのようだ。少し言い過ぎてしまっただろうか……。いやいや厳しく、まふゆの為まふゆの為。

 俺は振り返り今度こそ洗面所から出──

 

「春樹は…消えてしまいたいって思ったことある?」

 

 まふゆの呟いた言葉。吹けば消えてしましそうな程小さな小さな声。

 自分が難聴系主人公じゃなくて良かった。と思うと同時に考える。

 

 ……これは、正直な気持ちを伝えた方がいいだろう。

 

 まふゆを見る。

 

 まふゆは控えめに口を押さえていた。

 恐らく言うつもりはなかったのだろうソレが零れてしまったことに、動揺している。

 ここまで取り乱す彼女はとても、とても珍しい。

 

「まふゆ」

 

 名前を呼ぶ。

 まふゆの目がこちらに向けられる。

 

「俺も別に消えたいと思ったことがないわけじゃないさ。それどころか結構あった。でもさ、もったいないだろう?」

 

 まふゆに問いかける。勿論、返答が返ってくるとは思っていない。でも、彼女の目が「続きを」と促しているような気がする。……いやどうだろう。自信がなくなってきた。わっかんねぇなコレ。

 

「だってさ、世界はこんなにも広い。少し目を向ければ『楽しい』もの『美しい』ものなんて山ほどある。それを知らずに、知ろうともせずに全てに絶望して消えてしまいたいなんてもったいない」

 

 全て受け売りだ。かつて絶望のどん底に居た俺を救った言葉。いつかスターになると確信している、星のような親友の言葉。

 

 まふゆは俯いている。今彼女の目に俺は映っていない。

 

 ……やっぱり、司の様にはいかないなぁ。

 

 ゆっくりと、まふゆに近づき頭を撫でる。割れ物を扱う様に繊細に、壊れてしまわないように。

 

「俺じゃ何の力にもなれないかもしれない。だけど一人で抱え込むことだけは絶対にするな」

 

 俺ではまふゆは救えない。まふゆを救う方法を幾つも考えた。その度に試し結局駄目だった。

 自分の無力さが忌々しい。

 

「…さっき、まふゆが本心を話してくれた時。実は結構嬉しかったんだぞ?」

 

 その言葉を最後にまふゆから離れ今度こそ部屋から出ていく。

 俺の言葉は少しでも、彼女に届いただろうか。そうだといいな。

 

 ……あ。

 

「ヤッベ、顔洗うの忘れてた……」

 




春樹が語っていた【あの一件】
正直どこで挟もうか悩んでいます。いきなり過去編みたいに入れようか。それとも小出しに情報を出していくか。
人によっては『しょうもな!』とまた別の人にとっては『絶対に許さん』となると思うんですよねぇ。多分私は後者寄り。
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