神瀬が深紅を連れて向かったのは、花舞市の住宅街の中にある何の変哲もない食堂だった。外食をする機会が少ない深紅は行ったことがないが、味が良い上にデカ盛りもメニューにあり財布に優しいと同級生にも人気と聞いたことがあるところだった。
「ここが秘密基地ですか?」
「半分正解といったところかな。まあ見ていたまえ。愛華くん、いるね?」
「お呼びですかー?」
食堂の扉を何の躊躇いもなく開けた神瀬を、メイド服姿の女性が出迎えた。食堂でメイド服……?と深紅は違和感で首を傾げたが、神瀬は慣れているのか何のツッコミも入れなかった。
「紹介しよう。彼女は
「はじめましてー」
「はじめまして。私は皇深紅です」
「皇くんは先程ローサーに変身してヴィードを撃退してくれたんだ」
「なるほどー。それは心強い味方が増えましたねー」
「あの、カミセン。そろそろ詳しい説明してもらえますか?」
深紅が授業中質問をする時のように手を挙げながらそう言うと、神瀬は大げさにこれは失敬!と額を叩いた。
「その前に。話を聞かれないよう少し場所を変えようか。愛華くん」
「はいー」
愛華が重そうなワインセラーを動かすと、後ろから厳重なドアが現れた。
「神瀬様ー。あれ渡してくださいー」
「はいよー」
「出た、四次元白衣」
神瀬は白衣からずるりと巨大な鍵のような物を取り出した。白衣の構造を気にする深紅を横目に、神瀬と愛華は話を進めていく。
「せーの!」
「「開けゴマー!!」」
「その掛け声必要ですか?」
神瀬と愛華は揃って巨大な鍵を突き挿して回した。鍵穴が回りドアが開くと、地下への階段が現れる。
「さぁ、この先へ行こう」
愛華を先頭に、神瀬、深紅の順番で階段を降りる。
「そういえば瀧くんは?」
「先に下で待ってますよー」
「それは何より」
はてなマークをずっと浮かべている深紅を置いて、神瀬と愛華は話を進める。
「私たち以外にも誰かいるんですか?」
「あぁ、いるよ。安心したまえ、彼はこうなる前から私の明確な味方さ」
「はぁ……」
「着きましたよ神瀬様、深紅様ー」
階段を下りた先には、どうやって作ったのか不思議に思うほど広い空間が広がっていた。テレビや冷蔵庫なども置かれているあたり、ここで生活もできそうだ。
「ここがカミセンのアジトですか?」
「その通り!そして、あそこに立ってるのが瀧くんさ」
神瀬が手で差した方向を見ると、一人の青年が愛華と話していた。シンプルな服装に身を包んでいるが、それ故に顔立ちの端正さとスタイルの良さが際立っている。青年に手を振った神瀬に青年も気づいたらしく、ぺこりと頭を下げた。
「無事でしたか、神瀬さん」
「君も無事なようで何よりだよ、瀧くん」
「……?後ろの彼女は?」
「皇深紅くん。私の教え子だよ。先程なりゆきで助けてもらってね。君と同じく仮面ライダーに変身して戦ってくれたんだ」
「なりゆきも何もカミセンが無理矢理巻き込んだようなものでしょう……。皇深紅です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。俺は
そう言って瀧は優しく微笑んだ。見てくれは完全にまっとうな好青年だ。なんでこんな人がカミセンと一緒にいるんだ……?と深紅は首を傾げそうになった。
「それで、カミセン。そろそろ質問に答えてほしいんですが」
「少し待ちたまえ。そろそろニュースで取り上げる時間だろう。愛華くん」
「はいー」
愛華がテレビの電源を入れると、ニュース番組が流れ始めた。女性アナウンサーが画面に映り、無機的にニュース原稿を読み上げていく。
『次のニュースです。プロジェクト・リバイブファクトの中心人物の一人
「月城教授……って、たしかカミセンと一緒に研究してた人ですよね?」
神瀬は珍しく真剣な面持ちで頷いた。
「その通り。彼女と私が中心となってリバイブファクトの研究を進めていた。……しかし、彼女はどうやらリバイブファクトの力に魅入られてしまったようでね。先程ニュースで読み上げられていたティタネスは、彼女のある目的を達成するために起ち上げられたんだよ」
「死んでしまった生命を蘇らせるっていう?」
「いいや、それは人員を集めるための甘言さ。真の目的は別にある」
「真の目的……?」
「そう、それは──」
「神秘の時代の復活だ」
「ちょっと瀧くんー!私の台詞奪わないでくれたまえー!」
「すみません。ですが一刻も早い説明が必要と見たので」
「ここはドラマティックに言うところだろう!?せっかく愛華くんにも演出手伝ってもらおうと思ってたのにー!」
急に締まらない雰囲気に戻した男衆を、深紅は呆れた顔で見ていた。愛華に目をやると、我関せずといった様子で優雅に紅茶をたしなんでいる。どうやらあの二人のやりとりはいつものことのようだ。
「深紅様もお茶いかがですー?」
「じゃあいただきます。あとついでに説明の続きお願いできます?」
「かしこまりましたー。ティタネスはですねー、言うならば神話や伝説上の生き物がいた時代を復活させようとしているのですよー」
「それは……なんともスケールが大きいですね」
「私もそう思いますー。何のために復活させようとしているのかまではわかっていませんがー」
「え、そこ結構重要では?」
「私たちの力だけで調べるにはここまでが限界だったのですよー。なにせティタネスは神瀬様を敵視していますからねー。どうもティタネス……というより月城奈音教授は少しでも手の内を明かしたくないようですねー」
「はぁ……」
愛華の口調のせいでどうにも締まらない説明を聞きながら、深紅は紅茶に口をつけた。
「じゃあ、次の質問良いですか?」
「どうぞー」
「仮面ライダーって一体何ですか?」
「リバイブファクトを研究している中で神瀬様が独自に作り上げた戦闘システムですねー。リバイブファクトの力を引き出し鎧のように全身に纏わせることにより、飛躍的な力を得られるそうですー。仮面ライダーという名前は仮称だったのですが、定着してしまいましてー。もうこのままで良いか、となり今に至りますー」
「適当だな……」
神瀬と瀧は未だに言い合っている(というか神瀬が一方的に理不尽な言いがかりをつけている気もするが)。醜い大人の姿から目をそらすように、深紅はスマホに視線を落とした。
「弟に連絡入れたいんですけど、ここってネット使えます?」
「もちろんですー」
「なら良かった。家に帰るのまだかかりそうって連絡しておかないと……って、ちょうど電話来た」
画面に皇橙弥と表示されたため、深紅はすぐに通話のアイコンをタップした。
「もしもし橙弥?ごめん、まだ家帰れな──」
『ね、姉ちゃん……』
橙弥の声は、電話越しでもわかるほど震えていた。
「橙弥?」
『助けて、姉ちゃ──』
プツン
「橙弥!?」
電話は急に切れてしまった。明らかな緊急事態に、深紅は気がはやるあまり何度も橙弥に電話をかけたが一向に出る気配がない。
「皇くん?どうしたんだい?」
言い合っていたはずの神瀬と瀧も、あからさまに顔色を変えた深紅に気がつき彼女のもとへ近寄った。
「橙弥が!弟が、助けてって!」
「落ち着け、皇。慌てたところで状況は変わらない」
「でも……!」
「愛華」
「おまかせをー」
愛華は素早くパソコンを立ち上げ、目にもとまらぬ速さで何か打ち込み始めた。
「こちらをご覧くださいー」
「地図……ですか?」
愛華がパソコンの画面に映し出したのは、花舞市の地図だった。赤い点が表示されていること以外は普通のなんてことない地図だ。
「赤い点が花舞高校の周囲に密集しているのがわかりますかー?この赤い点は生体反応を示していますー。高校の内部に密集しているのならわかりますが、周囲を取り囲むように点があるのはおかしいと思いませんかー?」
「まさか、もうヴィードが?」
「その可能性は否定できないかとー。なぜ花舞高校の近くに出現したのかはわかりませんがー」
「おそらくリバイブファクト絡みだろう」
「なぜわかるんだい?瀧くん」
「あの辺りにアーティファクションキーを落としたからな」
「「馬鹿野郎!!」」
深紅は瀧のドジに頭を抱えながらも、神瀬に向き直った。
「カミセン、また仮面ライダーに変身させてください」
「良いのかい、皇くん。仮面ライダーの力は君の想像をはるかに上回るものだよ」
「それはすでに愛華さんから聞いてます。百も承知で私は言ってるんです」
「君は戦うことが怖くないのかい」
「恐怖よりも強い思いが私にはあります」
「それは何か聞いても良いのかな」
「弟を──橙弥を守りたい。そのためなら、命だって──!」
深紅の言葉を、神瀬は遮った。いつになく真剣な瞳が深紅を見つめていた。
「君の覚悟はよくわかった。アーティファクションキー……いや、ローズカリバーを君に渡す前に、飲み込んでほしい条件がある。これに頷かないかぎり、君を仮面ライダーとは認めない」
「条件……?」
「あぁ。──死なないことだ」
神瀬はどこか寂しそうに笑った。
「一度失ってしまった命は取り戻せない。いや、戻すことすらしてはいけない。たとえそれがどんな人間であろうとね。……それに、教え子が死んで悲しまない先生はいないのさ」
神瀬は白衣のポケットからアーティファクションキーを取り出した。
「条件、守れるかい?」
「当然です。私の夢をこんなところで途絶えさせるわけにはいきませんから」
深紅の赤い瞳が神瀬を貫く。その瞳に宿った強い光に、神瀬はニヤリと口角を吊り上げた。
「頼もしい教え子で何よりだ!瀧くん、一緒についていきなさい。元は君のせいだからね」
「はい。皇、行こう」
「はい!」
深紅は神瀬からアーティファクションキーを受け取ると、瀧とともに秘密基地を飛び出した。
ーーーーー
「ずいぶん深紅様のことを気にかけているのですねー?」
二人が出ていった秘密基地にて。愛華の問いかけに、神瀬はそうかな、と返した。
「ただの教え子をあそこまで気にかけたりはしないでしょうー?……やっぱり、まだ気にされてますかー?
「……気にしないわけがないよ。なんたって彼女は──俺からすべてを奪った女性なんだから」
ーーーーー
「瀧さん、一つ聞いても良いですか?」
「なんだ?」
深紅と瀧は、瀧のバイクに乗って移動していた。
「なんでティタネスは瀧さんの落としたアーティファクションキーを見つけられてないんですか?結構特徴的な形してますよねあれ」
「おそらくだが、ヴィードでは触れられないからだろうな。リバイブファクトは神聖な物だ。なにせ聖遺物を元に作られているからな。ヴィードのような魔獣を倒す存在を、ヴィードがそう易々と触れられるわけがないだろう?」
「なるほど……。ところでさっきもここ通ったんですけどわざとですか?」
「なんだと」
度々方向音痴を発動して迷いそうになる瀧を深紅が誘導し、なんとか花舞高校に辿り着いた。
花舞高校の周囲には、愛華が見せた地図のとおり多数のヴィードが徘徊していた。物陰に身を潜め、深紅と瀧は様子を伺う。
「うわ、本当にヴィードがたくさんいる……」
「ウヨウヨしているな」
「その表現なんか嫌です。どうしますか?」
「アーティファクションキーが無い以上、俺は戦えない。申し訳ないが、皇のサポートに回らせてもらう。それでも良いか?」
「はい、構いません」
深紅はまたバックルを腰にあて、アーティファクションキーを差し込んだ。
──お前は本当にそれで良いのか?
「え?」
その瞬間、深紅の頭の中に声が響く。
──私を自ら手にする、その意味を本当に理解しているのか?
「意味……?」
──弟を守りたい。その心意気は立派なものだ。だが、たかがその目的のために巨悪を敵に回す覚悟はあるのか?
「……たしかに、人から見たらたかがそのためにって思えるかもしれない。弟を守るためだけに仮面ライダーの手を手にするなんて。でも、でもな!!」
深紅はバックルに差し込んだアーティファクションキーを横に倒した。
「弟だけじゃない。私は守りたいものすべてを守る覚悟をとうの昔に固めてるんだ!そのためなら、私は何だって利用する。たとえそれが、人知を超えた力であろうとも……!!」
──……そうか。
深紅の頭に響いていた声は次第に消えていった。深紅が前のように変身、と叫ぼうとした時──巨大な赤薔薇に包まれるとともに映像が頭の中に流れ込んできた。
それは人の記憶ともとれる不鮮明な映像だった。ノイズが混じっているために一体何の映像なのかはわからなかったが、悲しいものだということだけはわかった。
「皇、平気か?」
気づくと変身は終わっていたらしい。瀧の声で意識を取り戻した深紅は、頭を横に振って剣を握り直した。
「大丈夫です──行きましょう」
深紅は物陰から身を乗り出した。
ーーーーー
失&深「今日のカミセンの無駄発明〜」
失「さぁ始まったね皇くん!」
深「あの、これ何ですかカミセン?」
失「私の素晴らしき頭脳を世にさらに広めるため、私がこれまでに発明した物を紹介しようというわけさ!」
深(この人暇なのかな)
失「第一回はこれだよ!」
深「Tシャツ……ですか?強いて言うならクソダサいですね」
失「わ〜お辛辣〜☆皇くんは本当に忌憚なく意見を言ってくれるよねぇ」
深「これのどこが発明品なんです?」
失「ちょっとこれに着替えてくるから待ちたまえ!」
(五分後)
失「着替えたよ!さぁ間違い探しだ、さっきと違うところに気付けるかな?」
深「違うところ……?Tシャツ以外ありますか?」
失「実を言うとね……Tシャツの文字が変わっていたのさ!」
深「あ、言われてみれば。さっきは何も書いてなかったのに」
(でも『りば茶』って何だ?)
失「着た人の気分によって文字が変わるTシャツというわけさ!どうだい、すごいだろう!」
深「その技術もっと別のことに使えば良いのになって思います」
失「皇くんが辛辣すぎて泣きそうなので今回はここまで!ではまた次回〜」
『りば茶』と書いて『リバティー』と読みます。