「……はぁ」
愛華さんと共用の部屋に戻り、また眠ろうとしたけどなかなか私は寝付けずにいた。……理由はもちろんわかってる。昨日のヴィードとの戦闘で、ろくに戦えなかったからだ。
あの時、リバイブファクトを持っていたのは私だけ。それなのに、戦力の大半を削っていたのは生身の瀧さんだった。その上変身を解いたら倒れる始末。なんとも情けない。
「私、こんなに弱かったんだな……」
これまでどれだけ私が自惚れていたか実感する。小さい頃から私は一人でも生きていけるよう鍛錬を積んできた。ほとんど独学の鍛え方だったけど、それでも何人かの男に囲まれても撃退できるほど力はあった。いや、あると思い込んでいたんだ。
「肝心な時に役に立たないんじゃ意味ないじゃん……」
私はため息をまた吐いて寝返りを打った。目を閉じようにも、昨日の戦闘のことを思い出してしまいまた悔しさが湧き上がってくる。
コンコン
「深紅様ー、入っても良いですかー?」
「愛華さん?はい、どうぞ」
私はベッドから降りて部屋の扉を開けた。愛華さんは綺麗に飾り付けられた果物が乗った皿を持っていた。
「それは?」
「深紅様の元気がないとのことで、差し入れてほしいと頼まれましてー」
「……はは、見抜かれてたか」
さすがは私の弟だな、と苦笑しながら皿を受け取る。橙弥の前では頼れるお姉ちゃんでいたいのに、彼はそうさせてくれないのだ。本当に、できた弟だ。
愛華さんは部屋に入ると、一緒に食べましょーと言って私をソファに座らせその隣に腰掛けた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「え、何も聞かないんですか?」
「聞いてほしいんですかー?」
てっきり元気がない原因を聞かれると思っていたので、私は身構えながら果物を食べていたというのに。愛華さんはこちらには興味ないと言わんばかりに果物を口に運んでいる。
「私は本当に関心のある人にしか深入りしませんよー?」
「こ、これがビジネスライクか……」
あなたには興味ないと遠回しに言われ、少し私はショックを受けた。そんな私を見て、愛華さんは何か考えるそぶりを見せた後果物を食べる手を止めた。
「何かありましたー?」
「あれ、私には深入りしないんじゃ……?」
「考えが変わりましたのでー。で、何かあったんですかー?」
こんな短い時間で考えが変わるものだろうか、と思いつつ私は手を置いた。
「私って弱いなぁって思って」
「それは仕方のないことかとー。貴女は一般人なのですからー」
「一般人、ね……」
苦笑いを浮かべた私を見て、愛華さんは首をかしげる。
「何かおかしいことを言いましたかー?」
「愛華さんは、皇家を知ってますか?」
「?知ってますよー。日本でも有数の名家じゃないですかー」
「私は皇家の次期当主です」
そう静かに告げると、愛華さんは目を丸くした。……それも無理もないと思う。私の家ーー皇家は、さっき愛華さんが言ったとおり日本有数の名家だ。日本で知らない人はいない……とは一概に言い切れないけど、それほどの知名度を誇っていると思ってくれて良い。
「なぜ、次期当主様がこんなところにー?ボディガードもつけないで平気なのですかー?」
「今は世間を知るための修行中みたいなもんなんです。それに警備もなく出歩いてると、分家の人間なのかなくらいにしか思われないもんですよ」
「そうなんですねー……。ですが、それなら戦うわけにはいきませんねー。次期当主様をこんなところで失うわけにはーー」
「なら、私は高みの見物でもしてろと?」
私は思わず愛華さんの言葉を遮っていた。
「当主なら当主らしく、高いところでふんぞり返ってれば良いとでも?私を信じてついてくる、私が導くべき人達が傷ついているのを黙って見てろとでも?ーーふざけるなよ」
「!」
「私は、私を信じるすべてを守るために当主になるんだ。苦しむ人間を見て見ぬふりなんか誰がするもんか。私が、この手ですべて守ってやるんだ。だから私は戦う力を手放してなんかやらない。……絶対にな」
「……」
「……すみません、ついカッとなってしまって」
「いいえー?素晴らしい考えだと思いますよー。ですが、今のままでは力不足なのは誰が見ても明白かとー」
「うっ」
「ここは瀧様あたりに教えを乞うのはいかがでしょうー?あの方なら喜んで力になってくださるかとー」
「瀧さんか……」
たしかにあの人は強い。なにせ生身でヴィードと渡り歩いた人だ。そんな人のもとで学んだら、きっと私の力になるだろう。
「ありがとうございます、そうします」
「いえいえー。お礼を言われるようなことは何もしてませんよー」
「善は急げって言いますし、早速瀧さんのところ行ってきますね。あ、残りの果物全部食べちゃって良いですから!」
私は愛華さんに頭を下げ、慌ただしく部屋から出ていった。
カミセンのアジトを一人歩く。それにしても、ずいぶん広いところだ。一体こんなに広く改装するのにどれだけ時間がかかったんだろうか。
「見たところ部屋だけじゃなくてトレーニングルームもあるし……どんだけ広いんだここ」
「おや、深紅くん!もう元気になったのかい?」
「ええ、まぁ……って、どうしたんですその格好」
カミセンの声がした方を見ると、泥だらけのカミセンが立っていた。
「いやあ少し土いじりをね?」
「土いじりも何も、ここ地下ですよね?」
「ふっ、甘いね深紅くん!ついてきたまえ」
どや顔のカミセンに少しイラっとしながらも、私は素直に後をついていくことにした。
その部屋はアジトの奥の方にあった。カミセンが慣れた様子で扉を開けると、そこにはいくつものプランターが置かれていた部屋が広がっていた。
「ふふん、見たまえ深紅くん!これが私の日々のお世話の賜物だよ!」
「え、全部カミセンが育ててるんですか?」
「そうだよ?」
「なんか、意外ですね。カミセンは変な発明作るか研究しかしてないもんだと」
「変な発明とは失礼だなぁ。まぁ息抜きみたいなものさ。自身の研究とはまた違うことをやることで見えてくるものもあるからね」
カミセンは一つのプランターの前でしゃがんだ。
「その花は?」
「ジャスミンさ。私が一番お気に入りの花だね」
カミセンはそれまで浮かべていた楽しそうな笑顔を打ち消し、どこか寂しさを感じさせる笑みを浮かべた。
「このプランターは、妻が遺していった物なんだ」
「……カミセンって結婚してたんですね」
「そうだよ。……すでに亡くなってしまったけどね」
私はどう言葉をかけるか迷った。カミセンが、まるで別人みたいに見えたからだ。私の知ってるカミセンは、ノリと勢いで生きているような人だ。でも、今のカミセンはーーどこか、虚ろな雰囲気を纏っていた。
「つまり私は未亡人ってやつさ!」
「……それ女の人にしか使わないそうですよ」
「そうなのかい!?」
すぐにいつものノリに戻ったカミセンに、私は奥さんのことを詳しく聞かないことにした。人には触れられたくない部分もある。きっとカミセンにとっては、それが奥さんのことなのだ。
「ところで、深紅くんは何をしていたのかな?」
「そうだ、瀧さんどこにいるか知りませんか?」
「瀧くんならキッチンにいると思うよ。さっき君の弟くんが夕飯の仕込みをすると言っていたから、それを手伝いたいとのことだよ」
「わかりました。それじゃーー」
「待ちたまえ。少しは休んでいったらどうかな?君、まだ本調子じゃないだろう?」
「いや、でも……」
「人生には休息も必要だよ。急いでも良い結果なんて出ないものさ」
「……」
……悔しいけど正論だ。私はカミセンの隣でしゃがみこんだ。
「なんなら私の手伝いをしても良いんだよ?」
「ちゃっかりしてますね……」
この後私は夜までカミセンの手伝いをすることになった。夕食の時に瀧さんに特訓をしてほしいと頼むと、彼は二つ返事で頷いてくれたので、私は明日から特訓を受けることになった。
ーーーーー
失「さぁ今日も元気に発明品の紹介といこうじゃないか!」
深(この人元気だなぁ)
失「今日の発明はこれだよ!」
深「……?何ですこれ。丸くて白い……?」
失「おや、深紅くんはフエラムネを見たことがないのかな?」
深「フエラムネ……?」
失「単刀直入に言えばお菓子だね。それも駄菓子に分類される」
深「へぇ……これが駄菓子……」
失(今度他の駄菓子も見せてあげよう)
深「で、このお菓子がどうしたんですか?見たところ普通のお菓子ですけど」
失「そのフエラムネを口に入れて吹いてごらん」
深「えーっと……こうですか?」
(ピーッ!と音が鳴る)
失「すると、なんと~?」
深「うわっ!蛇!?どこから!?」
失「題して『吹くと蛇が出てくるフエラムネ』だよ!」
深「蛇が好きな人にはたまらない発明でしょうね……私はあんまり喜ばないですけど」
失「ただ色々と欠点があってねぇ」
深「欠点?」
失「まず夜にならないと蛇が出てこない上に、呼び出したとしても操れるわけじゃないんだ」
深「そもそもどこ目指してこの発明作ったんですか……」
失「さて、それでは今回はここまで!深紅くん、蛇を元いた場所に帰してくれたまえ!私はあまり蛇得意じゃないからね!」
深「なおさらなんで作ったんですか!?」
今回もフォロワーさんからカミセンの無駄発明のネタいただきました。まだまだアイディア募集してます。