「さて、修行だね!」
「あの、なんでカミセンがいるんですか?」
カミセンのアジトのトレーニングルームにて。早速特訓を始めようとしている瀧さんと私以外にも、なぜかカミセンがいた。愛華さんの調達したジャージに身を包んだ私達と対照的に、カミセンはいつもの白衣姿だ。
「俺がお願いした」
「瀧さんが?」
「俺がよく使うトレーニング機器は神瀬さんが作ったものだからな。普通の機械では壊してしまうんだ」
「力が強すぎてですか?」
「いや、俺が機械音痴すぎるだけだ」
「そういや瀧さんフリック入力もできなかったですよね……」
瀧さんが今使ってるスマホもカミセンお手製の物だって言ってたっけ。……カミセンに作れない物はないんだろうか。
「じゃあここにある物って全部カミセンが作った物なんですか?」
「そうだよ!瀧くんが使っても壊れない設計にしてあるのさ!」
「だがここにあるのは俺用に作った物であって、深紅に合わせたものではないだろう?そこで神瀬さんに深紅用のトレーニング機器を作ってもらおうかと思った次第だ」
「なるほど……」
それならカミセンがいてもおかしくはないか。私は納得し、カミセンに頭を下げた。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「なんだかいつも以上に素直だね?」
「失礼な。私はいつだって素直ですよ」
「深紅様って自分の言いたいこと素直に言っちゃうタイプですもんねー」
「そういうことで……って、愛華さん!?」
私の隣には、いつの間にか愛華さんが立っていた。たしかさっき出かけるって言ってたはずなのに。
「出かけてたはずでは!?」
「ついさっき戻りましたー」
「戻るの早くないですか……?」
「愛華はなんでもできるからな」
「愛華くんならこれくらい当然だよ」
「愛華さんは超能力者か何かですか?」
駄目だ、この大人達にツッコミを期待した私が馬鹿だった。ここに橙弥がいたらなぁ、なんて意識を飛ばしそうになる。あの子は自分からカミセンの育ててる花の世話を申し出て絶賛お世話中だ。本当に良い子に育ってくれたものだ。
「それで、神瀬様ー。頼まれてた物なんですけどー」
「お、全部揃ってるね。さすがは愛華くん、手際が良いね」
「それほどでもー」
「愛華、もう一つ頼めるか?深紅の動きを見てもらいたい」
「なんなりとー」
愛華さんは恭しく頭を下げた。そんな愛華さんを見て満足そうに頷いた瀧さんは、私に竹刀を投げた。
「まずは俺と模擬戦といこう。全力でかかってこい」
瀧さんも竹刀を構える。さっきまでと纏っていた雰囲気が変わり、瀧さんも本気を出すということを察せられた。
「はい、お願いします!」
私は竹刀を手に取り、瀧さんに向かって構え向かっていった。
数時間後。
「げほっ……ぜー……ぜー……」
数時間もの間瀧さんと手合わせをしていた私は、その場に倒れこんだ。
「大丈夫かい?深紅くん」
「はぁ……げほっ……」
「大丈夫じゃなさそうですねー。瀧様、いきなりスパルタすぎますよー」
「すまない。つい熱が入ってしまった」
「後輩みたいな存在ができて嬉しい気持ちはわかりますがねー」
「失礼しま……って、姉ちゃん!?」
汗だらけで床に倒れている私を見て、橙弥は慌てたように駆け寄ってきた。
「大丈夫!?」
「なん……とか……」
「とりあえず一回シャワー浴びてきて。オレその間にお昼用意しとくから。一人で立てる?」
「少し休めば……」
「わかった、じゃあそこのベンチに移動しよう。瀧さん、今日の分の特訓もう終わりで良いですよね?」
「あ、あぁ」
「神瀬先生は姉ちゃんの様子見ててください。愛華さんは必要そうなら姉ちゃんの着替えとか手伝ってあげてください。瀧さんはオレの手伝いお願いします。返事は?」
『イエッサー!』
どこかの軍隊の偉い人みたいにテキパキ指示を出した橙弥を前に、三人はぽかんとしていたけどすぐに返事をした。瀧さんと一緒にトレーニングルームを出た橙弥の背中を見送ると、カミセンと愛華さんが私の傍に寄ってきた。
「橙弥くんしっかりしているねぇ。いつもあぁなのかい?」
「はは、まぁ……」
「さすがは皇家次期当主様の弟君ですねー。……ふと気になったのですが、なぜ皇家の次期当主は深紅様なのですー?普通は男子がなるものではー?」
「あぁ……。それはですね、私の目の色が赤いからです」
私の答えに二人は不思議そうに首を傾げた。私はだいぶ回復してきたので体を起こし、ベンチに腰掛けて補足した。
「皇家の当主は瞳の赤い者がなる。それがうちの掟なんです。初代皇家当主の血の濃い人間を当主にしている、とも言えますね」
「なるほど……。たしかに深紅くんの瞳はかなり鮮やかな赤だよね」
「橙弥様はオレンジに見えますものねー。ですが、それで橙弥様は納得なされたのですかー?かなり理不尽な条件ともとれますがー」
「そうですね、小さい頃は結構ひねくれてましたよ。でもいつからか丸くなったんです。きっかけはわかってませんけど」
「彼なりの転機があったのかもしれないねぇ。それにしても、もう動けそうなくらい回復したんじゃないかい?」
「そのように見えますねー。深紅様、シャワー室に移動なさいますかー?」
「そうですね、そうします」
私は愛華さんに付き添われ、シャワー室に向かった。
ーーーーー
一方その頃のキッチンでは。
「橙弥は本当に深紅を慕っているんだな」
「なんか文句でもありますか?」
瀧と橙弥は二人並んで下ごしらえをしていた。それまで無言が続いていたのだが、唐突に瀧が口を開いたのだ。瀧の投げかけに、橙弥は照れを隠すようにあえてツンツンとした言い方で返した。
「いや、良いことだと思う。お前たちくらいの年頃のきょうだいは大体不仲だと聞くからな」
「そうですね、オレの周りのきょうだいがいる奴もあんまり仲良くないみたいです。姉がいる友人なんかは召使いみたいな扱い受けてるって」
「それは……なんとも……」
瀧は口をつぐんだ。
「それに比べて、姉ちゃんは本当に素晴らしい人なんです。小さい頃からオレを守ってくれました」
「守る?何からだ」
「……オレ、実家だとずっと存在を疎まれてたんです。瞳が赤くないからって」
「?なぜそれが橙弥を疎む理由になるんだ?」
「色々あるんですよ、色々。実家だと、オレ名前で呼ばれたことないんです。ずっと出来損ないって呼ばれてました。親にも、使用人にも」
「……」
瀧は絶句した。名前というのは、親から子どもに最初に与えられるプレゼントだ。それを平気で踏みにじることが、普通できるだろうか?この時点で皇家の異常さを瀧は悟ってしまった。
「小さい頃は本当に荒れてました。それがさらにオレの冷遇に拍車かけて。……ある日、聞いちゃったんですよね。親父が姉ちゃん呼び出して話してるの」
「……何を話していたんだ?」
「『あの出来損ないを捨ててこい』、って」
瀧は再び言葉を失った。しかしこの隣の少年の方がショックは大きかっただろう。なにせ実の父親に捨てられそうになったのだから。
それだというのに、橙弥の表情は明るかった。
「でも、姉ちゃんはこう言ってました」
『できません。橙弥は私の弟で家族です。一番身近な人を平気で不幸にする人間が人の上に立つのにふさわしいと本気で思ってるんですか?少なくとも、私はそんな当主になりたくありません』
「その時気づいたんです。あぁ、姉ちゃんはいつだってオレのことちゃんと名前で呼んでたなって。皇深紅にとって、オレは皇家の出来損ないじゃなくて、弟であり皇橙弥なんだなって。それからですね。姉ちゃんのこと心から尊敬するようになったの」
「……そうか。お前は、良い姉を持ったな」
「はい。自慢の姉です」
そう言って橙弥は心からの笑みを浮かべた。
ーーーーー
失「今日も発明品を紹介していくよー!」
深「またこの時間が来てしまった……」
失「深紅くんなんでそんなに元気ないんだい?まぁいいや。今回紹介するのはこちら!」
深「これは……お茶の葉ですよね?」
失「題して『七色の味が楽しめるお茶』さ!実際はもっと色んな味が楽しめるんだがねー」
深「七色の味?」
失「まずは飲んでみたまえ」
深「はぁ……。……え、甘い?見た目は完全に緑茶なのに」
失「そう!このお茶は淹れ方によって味が変わるのさ!」
深「へぇ……結構すごいのでは?これならお茶が苦手って人でも飲めそうですし」
失「ただし欠点があってねぇ」
深「なんで必ずどの発明にも欠点あるんですかってにっっっが!!」
失「一分以内に飲み切らないとめちゃくちゃ苦くなる」
深「条件シビアすぎません!?うわにっがもうこれ飲めませんよ!」
失「ちゃんと飲み切るんだよ、もったいないからね~。それじゃ、今回はここまで!」