よわよわ吸血鬼はこじらせたコミュ障のせいで勘違いされ続ける   作:宮野 遥

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亡霊少女(前編)

(に、逃げないと、ころされるっ)

 

 侵入者と対峙したアストリッドは即座に逃走の選択肢を思い浮かべた。わざわざこんな場所に来た以上、狙いは彼女の首なはず。最強の魔王に挑みに来るような相手と戦って生き残れるわけがない。

 脇目も振らず逃げようとしたが、しかし体は思うように動かなかった。恐怖で固まってしまっているのだ。このまま死ぬしかないのかと絶望しかけたところで、あることに気がつく。

 

(震え、てる……?)

 

 どうしてか、相手の少女もアストリッドを見つめるばかりで動かないのだ。そればかりか、瞳に涙を溜めて冷や汗を流し、手足も震えているように見える。それはまるで今のアストリッドの鏡写しのようだった。

 

(わたしが怖いの?)

 

 冷静になって観察してみると少々おかしなことに気がつく。少女は何の武装もしておらず、身に着けているのボロボロのドレスのみ。伝説の魔王を倒すにしては随分と貧相だ。少なくとも戦いに来たわけではないらしい。

 

 ――そこまで思い至ったのと、少女がアストリッドに背を向けて逃げ出したのはほぼ同時の出来事だった。

 呼び止める暇もなく駆け出していった彼女は、何故かドアの方ではなく壁のある場所へ向かっていく。どうしてと思考を巡らせる時間もなく少女は壁に当たり、そのまま()()()()()いった。

 

(っ! ……まさか、幽霊(ゴースト)?)

 

 少女の正体に思い至る。

 どうやって生物に害のある瘴気を発する森を抜けてこの城までやってきたのかと思っていたが、幽霊(ゴースト)だったのならば納得できる。幽霊は未練を抱えて死んだ者の成れの果て、最下級の不死者(アンデッド)だ。

 

 そしてそれならば逃走を図ったことの説明もつく。単純な話、幽霊は弱いのだ。体はすり抜けるため物理的な干渉はできず、魔力は存在の維持に使う為魔法も基本的に扱えない。ただそこにいるだけの無害な存在。普通の少女程度の力しかないアストリッドの方がまだできることが多いというレベルだ。

 しかし、だからと言って油断はできないのが現実。特例として生前が優れた魔導師であればそこそこの戦闘能力は保有しているし、仮に少女が普通の無力な幽霊だったとしても強い仲間がいる可能性だってある。もし件の英雄が斥候として放ってきた等であれば即座に尻尾を巻いて逃げなければならない。

 

(ど、どうする……。隠れるべき……? で、でもわたし魔力で目立つから、隠れても意味ない……)

 

 部屋の中でオロオロするアストリッド。ずっと安全な城に引きこもっていた彼女は侵入者への対応など考えたこともなかった。とるべき行動がわからない。

 というか、そもそもあの少女が敵なのかすらもわからないのだ。もしかしたら偶々迷い込んでしまっただけなのかもしれない。

 

 何にしてもとにかく情報が足りないのが致命的だ。このままここにいても何も判断できない。

 アストリッドは決断する。

 

(……幽霊と、話しに行く)

 

 アストリッドを見て逃げたのだから、少なくとも向こうに戦う意思はないということだ。問答無用で攻撃されることはない、はず。

 大丈夫だと自分に言い聞かせながら少女が逃げていった方へと向かった。

 

 

 ◇

 

 

 気がついたら廃墟に一人立っていた。それが幽霊少女――ロリーナの最初の記憶である。

 元々人間だった自分が死に、そして不死者(アンデッド)となったことはなんとなくわかった。けれど、魔物として蘇った代償からか、彼女からは生前の記憶がほぼすべて失われていた。思い出せたのは自分の名前。そして、

 

「逃げ……ないと……」

 

 そうだ。自分は何かから逃げていた。あの途轍もなく恐ろしいものから逃げて、逃げて。■■■を守らないと……。

 

「……ッ」

 

 急にズキっと頭に痛みが走る。もやがかかったようでうまく記憶を引き出せない。あれ、今何を考えていたんだっけ。

 うずくまっていると突然耳障りな音が聞こえてくる。

 

krrrrrrrrrrrrrr!!

「っ!?」

 

 跳ねるように顔を上げ音の出所を見ると、そこにいたのは異形の怪物だった。原始的な恐怖を呼び覚ましてくるような、冒涜的な姿。

 同時に浮かんでくる記憶。『アレ』に捕まってはいけない。思考すると同時に彼女は走り出していた。

 

 ――逃げろ

 ――逃げろ

 ――逃げろ

 

 自分の声が聞こえてくる。重苦しくて、縋るような声。

 幸い、彼女の足は速かった。幽霊(ゴースト)の身軽さゆえだろう、はっきりとは覚えていないものの生前よりも遥かに容易に逃げられている気がする。

 

 しばらくするとどうにか振り切ることができたようで、後ろを見てもあの怪物はいなかった。ほっとして一息つく。

 ひとまずの安心を得てその場に座り込んだ。恐怖と緊張と疲れが重なり、軽くえずく。生身の体を持たない彼女には吐き出すものなどありはしないが。

 落ち着いてから不安に襲われる。自分は何者だったのか。これからどうしていけばいいのか。わからないことばかりで泣き出してしまいそうになる。

 

「どうしよう、■■■……」

 

 うつろな目で星空を見上げ、小さくつぶやく。精神は極限まで追い詰められていて、自分が誰の名前を呼んだのかもよくわからなかった。そのまま寝転がろうとしたところで、

 

 

krrrrrrrrrrrrr!!

 

「…………うそ」

 

 耳を引き裂くような不快な音。絶望の化身のような姿が近づいてくる。

 

 ――逃げろ

 

 疲れた体に鞭打って、その場を全力で離れる。逃げて。逃げて。逃げて、その先に何があるというのか。けれど、諦めることは許されない。永遠にも等しき鬼ごっこが幕をあげた。

 

 

 それからいくつもの日々を超えて、どうにかロリーナは生き残っていた。怪物は一種類ではないようで、空から、地中から、あらゆるところ場所で襲われた。

 四六時中追われているわけではない。たまには数日間何とも遭わない日もあった。しかしそれも、いつ新たな怪物に見つかるかずっと警戒していなくてはならない苦痛な時間に変わりない。彼女の心はどんどん擦り切れていく。

 

 

 そして。奇妙な森を見つけたのは、彼女が幽霊(ゴースト)として目覚めて五年ほどが経った頃だった。

 

 一日中真っ暗で生き物の気配を感じさせないその場所では、不思議なことに異形の怪物が一切現れなかった。

 どうせ偶々見つかっていないだけだろう、最初はそう思っていた彼女も一月ほど経った時点で朧げながら理解してくる。どうやら奴らはこの森に入ってこれないらしい。

 

 心に余裕が出てきたロリーナは森の探索を開始する。普段ならば不用意に動くことなどできないが、今は自由でいられるのだ。あるいは推測が間違っていて怪物がここに現れたとしても、それでもいいと思っていた。生きることに少し疲れてしまっていたから。

 

 三時間くらい歩いただろうか。彼女は不思議なものを発見した。巨大かつ豪華な、死の森には不似合いな綺麗な城。間違いなく初めて見るそれをロリーナはどこか懐かしく感じる。ひょっとしたら生前、似たようなものを見ていたのかもしれない。

 彼女は好奇心から城の中に足を踏み入れる。中はやはり外観と同じように豪華で、同時にどこか生活感があった。

 

(誰か、住んでるのかな)

 

 城の持ち主に思いを巡らす。あまり掃除がされているように見えないから、家主は少しずぼらなようだ。

 扉を開けて次の部屋に行くと、そこは図書室であった。森の落ち葉よりも多く感じるような、おびただしい数の本。圧倒されて立ち尽くす。

 

 ――次の瞬間。ロリーナはこの城に入ったことを心の底から後悔した。

 

「っ!?」

 

 そこに現れたのは()()()()()だった。白金色の綺麗な髪をなびかせる、人形のように美しい年下の女の子。

 一見すると人畜無害な人間の子供だが、本能が全力で警告を鳴らす。あの異形の怪物たちなんかよりも遥かに、比較にならないほど恐ろしい存在だ。直感的に理解する。

 彼女を射抜く紅い瞳の視線。絶対的な存在感。死の具現化のような恐怖の塊。これは何と表するのか。適当な言葉があったはず。それは。そう、

 

(魔王……!)

 

 冷や汗が体中を伝う。体が震えて動かない。どうすればいい、どうすれば。

 

 ――逃げろ

 

 そうだ、逃げろ。常識外の魔王から背を向けて全力で駆け出す。それは彼女の体に染みついた行動だった。

 しかし、想定外の事態が発生する。いくつかの部屋を抜けたところで現れた壁に()()()()()のだ。それは彼女にとってあり得ないことだった。実体を持たない幽霊(ゴースト)となった彼女が『物』に阻まれるなど起きるはずがない。

 何度も壁をすり抜けようとする。けれど押してもぶつかっても越えられない。早く、早く。焦りと恐怖が判断力を狂わせる。

 永遠のように長い時間、あるいは数分が経過したころ、後ろから小さな足音が聞こえてきた。

 

「その壁は、魔力を通さない」

 

 端的に告げる小さな声。魔王から発せられたそれは、死刑宣告に等しい響きを持っていた。

 そうか、幽霊(ゴースト)は魔力の塊のような存在だ。それが遮断されるならば通れる道理はない。ロリーナの頭はどこか冷静で、同時に諦めの境地にいた。

 やるならさっさと殺してくれ。その瞬間を今か今かと待っている。ついに死んでしまう。ようやく死ねるのだ。いやだ、死にたくない。もういい、終わりたい。だめだ、まだやらなきゃいけないことが。

 

 混乱する中でズキズキと頭が痛みだした。どこかでこんなことが前にもあったような、既視感が溢れてくる。

 

(魔王……。そうだ、私、こうやって『魔王』に追い詰められて殺されたんだ)

 

 失われた記憶が断片的に戻ってくる。脳裏に浮かぶのは人間だった少女を殺害した、蟲の容貌(カタチ)をした魔王。その姿が今目の前にいる化け物と重なって見えた。

 二度も奇跡が起きるなんてありえない。今度死ねばもう復活することはできないだろう。

 

「いやだ……やめて……」

 

 震える声で懇願する。恐怖が抑えられない。涙が瞳にたまり、失禁するような感覚を覚える。

 そんなロリーナの哀れな姿を見ても眉一つ動かさない魔王は、無表情のままに小さく口を開く。

 

「誰」

「……っ」

 

 簡潔な質問。あまりにも短く曲解の余地が残されていないが故に、誤魔化すことなど許さないという圧力を感じる。あるいは答えなどどうでもよくて、ただ落ちていたゴミを消す前に一応聞いておいたくらいの腹積もりなのかもしれない。

 

「ぁ、……ぇっと……、ろ、ロリーナ、です。」

 

 なんとか絞り出した名前を聞いて黙り込む魔王。気のせいか表情が少しだけ険しくなったように見える。望む答えではなかったのだろう。しかし彼女には過去の記憶がないのだから、これ以上何も話すことができない。

 

「わ、私……、ここが、貴方のものだと知らなくて……っ。ごめんなさい、ごめんなさい……っ」

 

 顔色を窺うように、ただひたすら謝り続ける。そのみじめな様子に呆れたのか、魔王は一つため息をついた。

 

「なら、なんで来た?」

「……その……。私、追われていて……っ。ずっと逃げてたら……ここにたどり着いたんです」

「追われてた……? 誰に」

「それは……」

 

 つい先ほど思い出した、その名前。生前のロリーナを嬲るようにして殺した、異形の怪物たちの親玉。

 

 

「――アルキス。魔王、アルキスです……」

 

 

「………………()()()()?」

 

 しまった、とロリーナは思う。今までの無感情とは明らかに違う反応。それもそのはず、もしも目の前の存在が彼女の想像通りに魔王だったとしたら、アルキスとは仲間であるかもしれないのだ。

 ここに逃げ込んでしまった時点で詰んでいた。ロリーナは自らの不運を呪いながら、目を閉じて殺される時を待つ。

 

 しかし、その瞬間はいつまで経っても訪れなかった。

 

「アルキス……。アルキス……?」

 

 目を開けると魔王は少し眉を寄せて、ひたすらその名前を呟いている。それはまるで何かを思い出そうとしているかのようだった。明らかに様子がおかしい。少なくとも、ロリーナに敵対するような雰囲気はない。

 

 数秒経って、彼女はポンと手をたたき、

 

「……あぁ。アルキス……あの小物魔王」

 

 涼しい顔で言い放つ。

 あの悪意の体現者を小物扱いするとは、彼女はどれだけの規格外だというのか。戦慄が止まらない。――けれど、本当の衝撃はそのすぐ後に訪れる。

 

 

 

「それ、最近死んだ、らしい……」

 

「…………ぇ?」

 

 理解できない言葉を聞いて小さく声が漏れた。

 

 今何と言ったのか。死んだ? アルキスが? 信じがたい、どころの話ではない。

 その手下たちの恐ろしさはこの五年間身をもって味わっていたし、生前に対峙した際に見た強さは伝説の勇者ですら太刀打ちできないのではないかと思うほど凄まじかったのだ。

 

 噓を言っているのではないかと一瞬疑ったが、魔王は驚くほど自然体で騙そうというような気配は全く見受けられない。まるで取るに足らない他人事のようだ。いや、事実そうなのだろう。超越的な力を持つ彼女にとってはアルキス如きが死んだ程度、瑣事でしかないないのだ。

 そしてその言葉を裏付けるように、実際ロリーナはここ一か月彼の配下から襲われていなかった。森の特異性によるものかと考えていたが、指揮官が死んでいたからだというのならそちらのほうが説得力がある。

 

(あの怪物が、死んだ……)

 

 張りつめていた糸が切れたようにその場にへたり込む。終わりの見えない逃走劇から解放された。実感が湧かない。白昼夢を見ているかのような気分だ。目の前に恐るべき魔王がいるのも忘れ、茫然としてしまう。

 そんな姿を冷たい視線で見つめる彼女はゆっくり口を開き、

 

「どこから来た」

「っ! 私が、ですか……?」

 

 突然投げられた質問に慌てて返事をすると、彼女は首肯した。

 

「私、幽霊になる前の記憶がなくて、なった後はずっと逃げてたので、わからない、です……」

「………………」

 

 正直に答えると、魔王は考え込むような姿勢で沈黙した。

 どういう意図の質問だったのか。まさか勝手に城に入った罪で故郷を滅ぼそうとでもしていたのではないか。暗い想像をしていると、魔王は驚きの一言を放った。

 

 

「なら……ここに、住む?」

「……ぇ?」

 

 その言葉はあまりにも突飛すぎ、思わず声を上げてしまう。

 

「そ、それは、どういう……」

「行くところ、ある?」

「……ありません、けど……」

 

 ロリーナは混乱する。それは一体、どういう思考回路から出てきた発想なのか。どうしてそんな、親切にしてくれるのか。

 と、ここでロリーナは気づく。

 

(そういえば……、この人、一度も私にひどいことしてない)

 

 不思議なことに、言葉でも力でも、攻撃しようとしてくる気配がないのだ。害するつもりなら、腕の一振りでも存在を消し飛ばせるほどに力の差があるというのに。

 

(もしかして、敵じゃ、ないの……?)

 

 訳を探して思い至る。何年も怪物に追われ続けていた彼女からすれば発想の外であったが、一度思いついてみれば至極当然の理由。

 いや、そもそもこの少女のことを何故恐ろしい魔王だなどと思ったのか。確かにその膨大な魔力から読み取れる強さは並外れたものだが、それ以外はどう見ても普通の女の子である。

 

(そっか。私、人と会話するの初めてなんだ……)

 

 思い返してみれば、幽霊となってから彼女が出会った相手は、問答無用で襲ってくる怪物だけであった。攻撃されて逃げる以外のコミュニケーションをとった経験がなかったため、無意識のうちに彼女のことも敵であると決めつけてしまっていたのだろう。

 

 けれどそれは違った。ただただ親切心で事情を聴いてくれていただけなのに、勝手に怖い人だと思い込んで怖がってしまった。申し訳なくて、恥ずかしい。

 しかし同時に疑問が残る。経緯はともかく結果として無断で入り込んでしまったロリーナに対して、あまりにも優しすぎる気がしたのだ。

 

「どうして、見ず知らずの私によくしてくれるんですか……?」

「…………。……ロリーナが、わたしに、似てたから」

「似てる……?」

 

 予想外の言葉に驚いて聞き返す。少女は少し考える様子を見せてから、おずおずと語った。

 

「……わたしも、弱くて、一人ぼっちだから」

 

 小さな声でそう告げる彼女に、ロリーナは困惑する。

 

(弱い? この人が……?)

 

 少女が無表情なのもあり冗談を言っているのではないかと思ったが、何かが引っかかる。

 

(そういえば、この城、なんで他に人がいないんだろう……)

 

 逃げる過程でいくつもの部屋を見たが人影はなく、今も気配を感じない。この城は広く、明らかに大人数で生活することを想定された造りだというのに、これは不自然だ。出払っているにしても限度があるだろう。どうして彼女一人しかいないのか。

 

(弱い、一人ぼっち……。もしかして)

 

 ロリーナは考察し、閃いた。

 

(ここには元々たくさんの人が住んでたけど、敵に襲われて皆亡くなって。この人は敵から仲間を守ることができなかったから、自分のことを『弱い』って言ってるのかも)

 

 そう考えれば辻褄が合う。明らかに少女一人が使うには多すぎる生活用品がこの城には存在した。かつては他にも誰かがいたことは間違いない。それが何故いなくなったのか。死んでしまったと考えるのが自然だ。

 ここに来る途中のことを思い返す。城の周りの森には動物が一切おらず、植物も枯れているものが多かった。今考えると、あれは敵との戦いによるものだったのではないか。豊かな森が破壊されていく凄絶な光景が想像できる。

 

 この少女は生き残った。最終的に戦いには勝利したのだろう。けれど、その時にはもう仲間は誰もいなかった。

 正面に立つ背の低い少女を見つめる。彼女はずっと無表情で、大きく感情を動かすような様子は一度も見せなかった。単に興味を持たれていないだけかと思っていたが、もしかすれば大事な人を失ったことが傷となり、心が凍ってしまったのかもしれない。

 

 そう考えると少しだけ親しみが湧いてくる。こちらを見る彼女の表情は変わらないけれど、どこか寂しそうに見えた。

 もともと自分は記憶喪失であり、アルキスから解放されたとしても行く当てなんてない。ならば、彼女の誘いを断る理由もないだろう。

 

「お名前を、教えていただけますか」

「……アストリッド」

 

 居住まいを正し、礼をする。

 

「アストリッド様。不束者ですが、これからどうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 こうして、二千年の孤高を貫いた最後の吸血鬼の許に、初めて配下が加わったのだった。

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