『零』に至るゼロ   作:イスカリオテのバカ

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 「ルイズじゃなくても良くない?」と思う方が大勢いると思いますが『私が書きたいから書いた』だけで深く追求するつもりはありません。


 こういう転生物の場合ゼルレッチ翁の第2魔法が常套手段ですが、今回は何となくズェピアに登場してもらいました。
 本来なら『噂が立たない場所』には出現しない彼(?)ですが限定的な……それこそハルキゲニア式の使い魔召喚で強制的にズェピアの意識を主軸として奇跡的に召喚した形にしました。

 ズェピアにした理由?

 私が好きなのは勿論、ゼロの使い魔的にもTYPE-MOON的にも吸血鬼、それも独立した勢力であるタタリという立場は色々と話を盛り上げやすい訳ですので……アルトルージュ?知らない子ですね。



 Fate編は基本的にルイズの精神的成長よりも肉体的な成長をメインにしていきます。
 もちろん精神面も強化していこうとは思いますが、当時のブリテンのインフレ具合を見ると……どうしても原作ルイズだと追い付けないので……

 代わりにクロスオーバーでありがちな『ゼロ使』のと『Fate』のクロスのはずなのに片方の技しか使わないなんて事は起きないようにします。寧ろルイズの爆発を発展させていきたいなぁ〜。
 そんな訳で彼女には出会いと別れと別れと別れの地獄のような日常を送ってもらいます。


Fire:1

「___よくもまぁ、あの黒翼に勝てたわね」

 

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、浅い呼吸を繰り返しながらか細い声で勝利の言葉を口にした。

 腹部や頭部から流れる血潮が、もう助かる事はないと暗に示唆している。視線を横に逸らせば、愛用の杖に埋め込まれた立方体の青白い匣が目に入る。この世界に来て、最初に()()()から貰った宝物だ。

 匣はいつものように減らず口を叩く事もなく、その機能を停止させて久しい。

 もう起き上がろうとする気迫すら沸かない。もっとも、()()()が起こったところで行動に移す体力もなかった。自分の死期を悟った彼女にはこの挨拶を以て最後にすると己と約束したのだ。

 荒い息を吐きながら、わざわざあの丘から走って来たらしい。

 だからこそ、幼き頃から共に過ごして来た騎士王様(このバカ)に届くように言い聞かせる。

 身の内に刻まれた魔術式により辛うじて保っている意識を再浮上させる。古来より脈々と受け継がれてきた神秘の結晶、それを遥かに上回る正に()()()()()に触れた自分だからこそ、そんな無茶を突き通せた。

 もはや視界も効かなくなり、気配だけで騎士王を見定める。

 

「私たち、これでサヨナラよ」

 

 もう一度、万感の意を込めて言う。

 口に広がる血の味。

 今だって出来る事なら過去を変えてやりたい。

 もう一度やり直してあげたい。

 でもこの世界が、素直に了諾するとは最初から思っていない。むしろ私の存在証明を消しかねない程に激怒するだろうと、二十年以上に及ぶこの世界での生活が容易に想像させた。

 

「……()()()、私は」

 

 そっと手を伸ばし、静止させる。

 

「もう今生の別れなのよ。どうせなら本名で呼んでちょうだい」

 

 正直なところ表情筋一つまともに動かせない状況で無理に笑顔を作る。もう何時だったか忘れるくらい昔に作ったとっておきの笑顔。

 お互い騙し合って生きてきた。出自を騙し、年齢を偽り、そして___性別を隠した。

 魔術の師(ろくでなし)と義兄、そして全ての元凶を除けば自分と騎士王しか知らない秘密。どれをとってもバレたら国の崩壊を招きかねない秘密。

 

「ルイズ。最後に一つ、聞いてもいいだろうか」

 

「何よ……こちとら死にかけて…」

 

 と、言いかけるが止めた。

 今際のやり取りに冗談を交えたところで、この頭でっかちが察するとは思えない。

 

「私の、私達の築き上げてきた今までは……全て無駄だったのだろうか?」

 

「___」

 

「清廉潔白であろうと努めてきた。正しくあろうと正義に従事して来た。それでも、結果はこのザマだ。人を捨て、王となって国を治めたその先に待っていた結末は破滅だけだった……」

 

 騎士王の言葉に、後悔の念が混じっていく。

 黙ってそれを聞いていて感じたのだが、一国の王にしては随分と()()()()()()悩み事だなという感想だった。悩んでいたのは知っていたし、立場上ある程度の助言とも__ダメ出しとも捉えれる__提言を出せるタイミングでも、私はそうしなかった。なぜなら、それを自覚して正すのはあくまで王の務めだったからだ。

 

「救いあれと国に殉じた!果てしない戦と政事のその果てに、国の救済があると信じて王たらんと奮起してきた!」

 

「………ねぇ、アル」

 

 血が唾と絡まり、言葉を綴る度に嗚咽のように喉を鳴らす。

 死ぬ間際に説教紛いの言葉は垂れたくないのだが、この悩める騎士王様に悔いが残るのだけは頂けない。腐っても元は真面目なコイツが半端に悩むのを見てから死ぬのは、私自身後味が悪いものを残す。

 

「あんたさぁ。言ったわよね?王の座について最初に言ったわよね___後悔だけはしないって」

 

「ッ、それ…は……」

 

 結局のところ、今のこいつは自分の誇る正義の狭間で揺れているに過ぎない。傲るつもりはないが、きっと私にとってそうであるように、この今にも泣き出しそうな憐れで弱々しい騎士様も、過去を捨てるか否かの選択に迫られている。

 けれど、国の王としてそんな疑念を抱くこと自体が国に対する裏切りだ。

 

「気の迷いなんかじゃ済まされない。魔道を征く私だから言えるけれど、国を守る上で邪道も正道もないのよ。結果も根底も果は同じなのよ」

 

 死にかけの体に鞭打って無理矢理でも言葉を紡ぐ。ここで途切れさせてしまえば、それこそもう二度と口を開く事は出来なくなってしまう。

 

「私もあんたも、この国をより良くしていきたい何て願いのもとに動いた訳だし……あんたが王として、私が魔術師として互いを支え合った事実は変わらないわ」

 

「ッしかし!結局はこのザマだ!救いを願い抗った先に待っていた物は虚しさだけだ!!」

 

「上等じゃない。虚しさなんて、それこそ形あるものが得られる方のが稀よ。

 救済なんて物はね、与える側と与えられる側の認識の違いで簡単に変わっちゃうのよ……」

 

 誤認だと、私は考えている。

 そんなものは自己満足を突き詰めただけの、ただの虚栄心の亜種に過ぎないのだと。

 誰もがそれを知っていながら__誰も真剣に向き合おうとしない禁忌な領域。

 

「そうと分かっていても、あんたは問わずにはいられないんでしょ」

 

 目の前の少女の息を呑む音が聞こえてくる。

 きっとこいつは王としてだけでなく、個人としても問わずにはいられない。立場が狂えばその分見方が変わる。けれど狂う機会が訪れなければ見える景色に変化は起きない。

 いつの時代、どこに居てもそうだ。

 私が、この世界に来なければ知る事のなかっであろう事実。客観的に見たと思えばその実、単にそう思ってるだけでしかない。そんな事、世の中には大いにありふれていた。

 

「だから言ってやるわ。『  』を識る立場からあんたに説教してあげる」

 

 自嘲気味に、見えない瞳を細める。

 過去に一度、いつぞやの白き竜(ヴォーティガーン)に文字通り喰われた際に何の因果か()()()()接続した世界の意識が訴えてくる。

 思わぬ形で全てを知ってしまったが故の苦悩が、最後の最後で役立つ時が来た。

 同時に……この世界にほっぽり出した元凶であるクソッタレの演劇作家(吸血種)に腹が立つ。

 

「あんたの悩みを共有できる___そんな素敵な出会いを果たしなさい。そうすれば、きっとあんたの贅沢な悩みは解決するわ」

 

「…………ありがとう」

 

 私が識る未来(知識)が本当に地続きかは分からない。もしかしたら、無数にあるテキストのうち、ほんの一頁でしかないかも知れない。

 ただ、それを掴み取るのはあくまでもこいつの役目だ。

 弱きを助け強きを挫く。

 勧善懲悪を良しとした、この哀れな騎士王様が掴む未来に私は希望を見る。

 全と一を知るからこそ、手を出さなかった臆病者が最後の最後で手を出した。

 

 

 ____迎えに来たぞ。

 

 

 随分と遅いお迎えだ。

 薄れゆく意識の中、影に隠れる手をのばす赤い頭巾のナニカ。

 久しく見ていなかったそれに少し懐かしく思いながらも、伸ばされた手を掴む。

 

 ___もう良いのか?

 

 もう、十分だ。

 彼女が自分を認めなくても、ここに一人いるのだと伝える事はできた。

 無欲な王が唯一求めた『安寧』という名の我儘を乞うその姿を、認めた者がいるのだと。

 

「色々迷惑掛けたわね。世界によろしく言っといてくれるかしら」

 

 ____良いだろう

 

 それが、世界の末端であり深淵を知る私が出来る些細な世界への抵抗なのだから。

 

 

**********************

 

 

 春の穏やかな朝庭で、杖を振るっていた。

 父に杖を貰っておよそ一年数ヶ月だったが、その杖で魔法が成功する事はなかった。ただし魔法自体は顕現するものの、その尽くが爆発に終わった。

 そして今日も、ヴァリエール領の広大な庭に爆発音が鳴り響く。

 整地されていた道は、今は凹凸が目立つ。

 その強烈な音に呼応するように野鳥達が飛び去っていく。あるいは地に潜むモグラが、いつ爆発により絶命するかの恐怖で震えたいたり……。

 それでも、爆発は止まない。

 両親や二人の姉が体を心配して止めるように言うが、辞める気などさらさら無かった。精神力の枯渇など二の次とばかりに魔法を繰り返す。それでも……杖から溢れた魔力は爆発でしか答えなかった。

 

(ッ次!!)

 

 失敗した。ならやり直せば良い。

 今年で八歳になるが、今まで一度として成功した試しがない。一日百度杖を振るおうとも百発の爆発が起きるだけだった。しかしそれを理由に、怠惰に過ごす訳には行かない。魔法が使えるから貴族だと傲る訳には行かないのだ。

 ___さもないと、貴族じゃいられない。

 こんなのは、ただの我儘に過ぎない。

 

(痛ッ……あ、血が……)

 

 前腕の更に先、杖を持つ指に激痛が奔る。

 親指の腹のあたりの皮膚が裂けて、真っ赤な鮮血が溢れ出ていた。

 幾度に及ぶ反復練習に、先に体が悲鳴を上げたのだ。その証拠に、人差し指や中指までもぱっくりと割れていた。

 いつもの事だと、無視を決め込む。

 塵も積もれば山となる。そのことわざのように小さな痛みも積み重なれば何れは我慢の限界に達する。泥に塗れることを知らない貴族の子であるならば、それは尚の事だろう。

 だが自分にとってこの痛みは努力の証であり、唯一信頼を置ける汚れた結晶なのだ。

 

(………あ、ヤバい…)

 

 しかし残念ながら、その努力の結晶が何時も慰めてくれるとは限らない。

 極度の疲労と度重なる失血が、この時になってピークを迎えたのだ。そのせいもあって、太陽に反射する赤い液体に見惚れていてバランスを崩し、非ぬ方法で杖を()()()()()しまった。

 もう一度言おう。非ぬ方法___魔力を込めたままの状態で___へし折ったのだ。

 

「ああッ!!!!」

 

 困惑と悲壮が絡まり合い、悲鳴を漏らす。

 まともに魔法を扱える魔法使い(メイジ)ならば、不発で終わるだろうが、自分に限ってはそうも行かなかった。ただでさえ爆発しか扱えない出来損ないが、本当の意味で失敗した暁には、むしろ奇跡が起きるらしい。

 失意の中でさえ、眼前で低く滞空する()()に釘付けになっていた。ソレはいうなれば姿見。全身を映すほど大きな鏡だった。

 

「かが、み?それよりも……成功した…?」

 

 喜びよりも、どうしたものかと困ってしまう。無論嬉しくない訳ではないのだが、それ以上に困惑が優ってしまうのだ。

 

「これってサモン・サーヴァントの鏡じゃなかったかしら」

 

 魔法に関する知識ならば、詰め込めるだけ詰め込んでいた私は、ひと目見ただけで何の魔法が成功したのか理解した。それと同時に、なぜ詠唱もなしに成功したのだといった疑問も湧いてくる。

 

 ともあれ、件の鏡の外見は凄まじかった。

 楕円形のそれにびっしりと張り巡らせた罅はまだ微笑ましい。その罅の隙間から覗くように小さく、そして無数の影が詰め込まれていた。まず間違いなく触って良いものではなかった。

 ちょっとでも小突こうものなら破片がぱらぱらと零れ、中の得体のしれない影の主が飛び出して来るかもしれない。 

 

「え……?」

 

 危険だと理解していながらも、気がつけば体が勝手に鏡に指を差し伸べていた。

 まるで鏡の中の奴がおいでおいでと誘っているような感覚。

 今まで感じたことのない類の恐怖が心を支配していく。声を上げようと息を吸うものの、吐き出されるものは悲鳴では無く自分でも想像出来なかったほど妖艶な吐息だった。

 混乱気味な脳みそで、せめて死なないよう祈りながら覚悟を決めて鏡へ触れる。

 ぞくり、と背筋が凍る。

 中の蠢く影が硝子を割り、一斉にこちらへ飛び掛かってきたからだ。

 

「っ!!??」

 

 それは、粘つく泥のような不快感だった。

 体に纏わり付くそれは螺旋を描くように腕を伝って全身に侵食していく。

 明らかな異常事態でありながらも、未だに悲鳴をあげられない。それどころか意識も朦朧となりつつあり、本格的に危ない事態に陥り始めた。

 

『おやおや。こうして私がカタチを得るとは珍しい……あの夜会の演劇以来だ』

 

「えっ?」

 

『はじめまして、お嬢さん』

 

 頭を覆う影が、ふと話しかけて来た気がした。

 いよいよもって終わりに近づいて来たのだと、今までの短い人生に絶望する。  

 人生最後に聞く声が、両親や姉ではなく、この何とも不思議な声だったのは心残りだった。

 脳裏に響く声は止むことを知らず、泥は遂に全身を覆ったのだと肌で感じ取る。

 

『ふむ……いやはや、正に滑稽此の上なし。得られないと知りながら無駄を踏破しようと昂り、荼毘に臥す様は……愚かと呼ぶ他ない』

 

 露骨に嫌味を込めた言葉は、到底聞き捨てならなかった。

 無駄だからと言って諦める何てことを、今まで一度だってした事がない。自分で言うのもアレだが『不屈』という言葉がここまで似合う貴族は、今のトリステインには居ないだろう。

 自惚れているわけではなく、自分自身ハッキリ覚えていないが、幼少期に生死を彷徨うほどの大病を患って以来妙に()()()()()()()せいで普通は目が行かない所まで見えてしまうのだ。そのせいで人の善性や悪性、趣味嗜好まで見えてしまい、如何に今のトリステインが腐っているか知っている。

 

 そんな自分に___貴族たらんと努力して来た私に対してコイツは___無駄だと宣ってきた。

 

『アトラシアに挑み、そして挑み尽くした私が宣言しよう。君の今までの努力は全部……此の召喚の義を含めた全ては無駄な』

 

「___黙りなさい」

 

 遮られた声の主は、怪訝そうな気配を醸した。

 視界は影に遮られており良好とは言い難い。けれど元々見えない相手にそれは関係なく、あらん限りの眼力でその見えない何者かを睨みつけた。

 

「無駄?無駄ですって?アンタみたいな得体の知れないバケモノならそう思うでしょうね……」

 

 演劇でもするように語るそいつに反抗するように、愚直で感情的に、吐き捨てるように軽蔑の意を込める。意地の悪さが全面に出てる性格の持ち主相手ならばこれくらいの意思返しは成して当然だった。

 はたして、しばらく沈黙が続いた。

 時間にしておよそ十分。痛いくらいの静謐と辺りを覆う影が相まり、ふと気を抜けば夜と勘違いしてしまう。

 

『……さては君、魔眼(淨眼)持ちだな。奇貨の賜物でありながら純然なノウブルカラーの持ち主、それも黄金位に匹敵するときた。クククッ、さぞ苦労してきたのだろ』

 

「ノウブ……何よそれ?」

 

 聞き覚えのない単語に首を傾げる。 

 

『知識不足か、あるいは知らぬ間に使っていなのか知らないが今のうちに知っておくと良い。君の目は俗に言う魔眼の類だ』

 

 魔眼と聞いて、最初に思い浮かぶのはやはり吸血鬼だろう。このトリステイン、いやハルキゲニアでも最上位に位置する恐怖の権化。

 エルフを除く亜人種において並の魔法使い(メイジ)では太刀打ちできない悪夢のような最凶の存在。そんな連中がもつ異能の一つに『魅了』というものがあるが、この演劇作家様はそんな物騒な物が私にあると言うのだ。

 

『魔眼を持つ者を総称して、我々は敬意を込めてノウブルカラーと呼ぶ。君のそれはノウブルカラーの中でも序列3位に当たる黄金の魔眼だ』

 

 何が楽しいのか、自分の事のように謳うそれに耳を傾ける。思うにこの眼は吸血鬼のそれとは別の方向性を有するのやも知れない。

 決定的な違いはなくとも、その本質は歪みを含む間違いがあるのだと。

 そう考えれば合点がいく。

 初対面の人間の詳細が分かるなど、精神干渉などの禁忌の魔法でなければ到底成せない。ましてや魔法がろくに使えない自分の場合、むしろ魔眼のせいだと言われた方が説明がつく。

 

「それが何よ。あんたの名前も知らないのに、そもそもアンタ何者よ」

 

『おっとそこまでだお嬢さん。何も私自身が君に干渉したわけじゃなく、あくまでも君の不出来な()()()()に呼ばれたのだよ』

 

 微笑交じりに影が喉を鳴らす。

 不出来呼ばわりされたのは、不愉快極まりないが先程までの小馬鹿にする雰囲気から一転、影の主が最初の頃のような恐ろしいまでの威圧感を発する。

 

『今の私は烏合迎合に彷徨う夜ではなく、個人として君に相対した。本来ならあってはならない事態だが、この舞台が無礼講を良しとしたならそれに従うまで』

 

「ど、どういう意味よ」

 

『自己紹介と行こう。かつて人は私をこう呼んだ……アトラスの長を務めた【ズェピア】。あるいは、畏怖と敬意を込めて【タタリ】などとも呼ばれる現象(固有結界)だ』

 

 視界を覆う影の中から儚げな金髪が見えた。 

 続いて幽鬼を思わせる蒼白色の肌と貴族の着る以上に豪華絢爛な服を着飾り、纏うマントを靡かせる。

 しかし、なによりも印象的なのは煤けたルビーを思わせる……否、血をぶち撒けたように爛々と光る瞳だ。

 ヴァリエール家の血を印象づける淡い桃色の瞳とは似ても似つかない、赤い珠をはめ込んだと言われたほうが信憑性がある程に、瞳と言うには余りに禍々しかった。

 

 ハルキゲニアの吸血鬼とは比べ物にならない威圧感。いや、そもそも本物を見たことが無いのだが本能が告げている。こいつは吸血鬼どころかエルフすらも超える化け物だと。

 困惑と恐怖に揺れる私を差し置いて、ズェピアは開いた瞳を閉じて優雅に一礼する。

 

『改めて、はじめまして名優。私はタタリ(ズェピア)……かつてノウの舞台でものの見事に転げ落ちた哀れな役者だよ』

 

「な、中々いい男じゃない」

 

 ゆっくりと息を呑む。

 これ程までに華麗で悍ましい存在は見たことがない。浅ましいほどに役者然とした態度と小馬鹿にした言動は、並の大人ならばそのチグハグ具合に気を悪くするだろう。

 

『強がりも結構。名優なればある程度の肝は座っていなければね』

 

「何が名優よ。てか、何時になったら私を解放してくれるのよ」

 

 いい加減しびれを切らした問いに、ズェピアは口角を少し上げて笑みを湛えた。

 スマートな笑顔を崩さないままに、彼はさも当然とばかりに口を開いた。

 

『はて?異な事を言うお嬢さんだ。確かに君をこの舞台に引きずり上げたのは私だが……その先の公演舞台を決めたのは君じゃないかね』

 

 何を言っているのか分からず、たまらず首を傾げる。

 すると、彼は先程までの清廉な笑顔を崩して凶悪な相貌を湛えた。

 

『キ、キキ…キヒヒヒ!こんな喜劇が世の中にはあるのか!?あゝ世界とは何と残酷で、何と酔狂なのだろうか!!』

 

 がしり、と顎を痛いくらいに掴み顔を寄せる。狂気を孕んだ形相に相まってこいつの言動が本格的に理解できなくなった。

 混乱を差し置いて、彼は未だ狂ったように___本当に狂ってるのだが___有無を言わせない迫力で語る。

 

『お嬢さん!両親に別れは告げたかね?姉や兄、弟や妹と涙の離別は済ませたか? イヒヒヒ……そうだとも!君は正に悲劇のヒロインそのものだ!君ほど役者に相応しい者を見たのは何十年ぶりだ!!』

 

「なに!?何なのよ!!」

 

 影が退いていく。

 それと同時に、暗闇だった景色が晴れていく。

 しかし、そこに広がっていた光景は、想像していたヴァリエール領の庭ではなく何処かの鬱蒼とした森の中だった。

 人の気配は無く、野生動物たちの鳴き声が木霊する森はズェピアに対するそれとは違う恐怖心を駆り立てた。

 

Rebirth Summon(逆召喚)とでも言おうか。漂う素粒子から見るにまだ第五架空要素だが濃度が違う……さしずめ神代末期と言ったところか』

 

 孕んでいた狂気は霧散し、紳士的なズェピアに戻っていた。しかし自分にとって、その話を悠長に聞いていられる状況ではなかった。

 喉の奥から込み上げてくるマグマのように熱い何かを塞き止めるのに必死だった。

 だが、その抵抗虚しくそれは吐き出された。

 真っ赤な液体は、口元を汚しながら地面へ絶えず零れ落ちていく。

 

「ガ…ゴポ……」

 

『ふむ、やはり私の思った通りだったか。今の君はこの時代の織物(テクスチャ)に則していないせいで第五架空要素の毒に侵されている』

 

 言っている事の大半が理解できなかったが、この空間の空気が自分にとって毒である事は理解できた。その間も絶えず吐血していたせいで、意識が朦朧とし始めてきた。元々貧血だったところに追い打ちのような形で吐血。いよいよ死の間際に立たされた様な気持ちだった。

 絶えず溢れる血を、何を思ってかズェピアはその真白な肌の手で掬い取り、飲み干した。

 

『んん〜、第五新説要素混じりは効くな。()()()の血と比べて暴威が凄まじい』

 

 味わうように目を綴じて、上辺を向く。朦朧とした視界で捉えたズェピアの姿に、死にそうになってる人間の隣で優雅にテイスティングしているこいつの面を見て、殴り飛ばしたい衝動に駆られる。

 もう吸血鬼だとか、人間の太刀打ちできない存在だとか、そんな物はもうどうでも良くなっていた。馴れた訳ではないが最初と比べて、明らかに恐怖心は薄まっている。

 そこまで来れば、自身の暴力性に身を委ねた。

 最後の力を振り絞り、四つん這いの状態から立ち上がって拳を握る。そして未だに訳の分からない事をほざいているコイツへ、思い切り拳を振り抜いた。

 

『むむ、元気溌剌なのは良いがもう少し我が身を労り給え。役者の体調管理は義務だぞ?』

 

 だが、渾身の拳はひらりと避けたズェピアによって空振ってしまう。 

 

『立てるかな?』

 

「う"る"…さ"い"……!」

 

 矜持に任せて喚き散らしたい衝動を殺す。痛みと恥ずかしみが交わり、みっともなく喚き散らすのは勝手だと本能が告げるが、貴族としてそれを許さない。

 

『とは言ったものの……種族ゆえの隔たりはどうしょうもないか。いやはや裏の性質(grain "Ether")というのも考えモノだな……』

 

 もう一度立ち上がろうとするが、四肢はその命令を拒否する。

 こうなっては無理だと悟り、自分の掌に目を落とす。これまで積み重ねてきた努力の結晶が深々と刻まれている。この傷一つ一つが自分にとっては宝石よりも価値のあるものだった。

 しかし、それが再び重なる事はもうない。このクソッタレを召喚する代償に、愛用品の杖はへし折れた上にもう直ぐ私は死ぬからだ。そう思いながら掌から視線を外し、急に静かになったズェピアに目を向ける。

 その立ち姿は、正に学者の姿だった。

 熟考するように顎に手をやる様は華麗な容姿によく似合っている。

 

『お嬢さん。君は足掻くかね?』

 

 唐突に、ズェピアが聞いてくる。

 今までの言葉と比べて、酷く曖昧で抽象的な言葉だったが、それは酷く明瞭で具体的とさえ捉えれる言葉だった。

 

「あたり…まえよ!私は貴族……諦めを踏破してこそ、貴族なりよ!!」

 

 焼け付く喉を酷使しながら宣言する。地面に伏しながらの宣言は、滑稽に映るかもしれないがそんなのは関係ない。その意志こそが重要なのだ。

 

『君は良き女優になれそうだ』

 

 声色に優しさが滲んでいる。

 力なく地に横たわる手を握り、そっと口づけする。霞んだ視界に辛うじて映るそいつの顔は出会った当初の物恐ろしさはなく、閉じられた瞼と合わさって美男子と呼ぶに相応しい顔立ちだった。

 

『お嬢さん___御名前は?』

 

「…………ルイズ」

 

 ファーストネームだけ名乗った私に、ズェピアが笑った気がした。

 

『ではルイズ。親愛なる我が召喚士よ。君の熱意と誇りに敬意を表して私も、特別な舞台を用意しよう』

 

 限界を迎えて意識が落ちる瞬間、首筋に鈍くて甘美な痛みが走った。

 血がこれまで感じたことがない程に熱を持っているのを感じる。我慢の範疇を超えるような痛みが絶えず襲ってくるが関係ない。

 なぜなら私は、貴族だから。

 トリステインにおいて、最も気高くあると豪語した者として、不屈を貫く義務があるのだ。

 

『おめでとうルイズ、これで君も我が同胞だ』

 

 ふと、今までとは違うズェピアの雰囲気に、無意識のうちに毒されたのだろう。ゆっくりと体を蝕むように安堵の念が染みていった。

 

 

 痛みはもう___なかった。





 ルイズが訪れたのは[grain "Ether"]___俗に言う真エーテルが世界で唯一残った時代のアーサー王伝説の舞台であるブリテン島。

 ルイズはTYPE-MOONにおける完全な異種族である亜麗百種に近い存在。ゼロ世界における大魔力が、TYPE-MOONの真エーテルと同等の性質を有しているからだ。

 数千年前、始祖ブリミルの時代にシャイターンの目覚めと共に起きた『地を割る厄災』の際に地表に溢れ出た未知の物質。特異な魔眼を持つルイズにしか見えない素粒子状のそれは、ゼロ世界を形作る重要なファクターである。

 なおゼロ世界の住人を亜麗百種と評したのは真エーテルを無意識の内に活動エネルギーに変換するからだったりする。(人間種の騎士に該当するような存在は現在確認されていない)
 それ故に、転生した直後のルイズは環境の差について行けず、毒に侵されたような状態に陥る。

 しかし運良く(悪くとも言う)ズェピアのプレゼントという名の吸血により体の性質を変換・再構築され、呼吸を行えるようになる。いわゆる後継者VⅢの地位に当たる。ズェピアがゼロ世界に居れた理由は『タタリという現象』だったから本来ならば失われたはずの器を一時的に取り戻し、真エーテルの影響を受けなかった。
 それ以上にルイズの辿る『脚本未来』がひどく無粋に見えたから。

 最初の最後に出てきた赤いナニカ。タイプムーンファンなら何となく予想つくと思います。知りたい人は『Fate/Strange Fake』か『魔法使いの夜』を見ましょう。
 

 一ヶ月に一本出せたら僥倖。
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