『零』に至るゼロ   作:イスカリオテのバカ

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 こ……今度こそ一ヶ月後になるかも…

 本来ならルイズは『月姫世界のタタリ』の後継者なのでFate世界の死徒という枠組みは世界の容量キャパ的に存在出来ません。
 しかし、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグのように死徒かどうかも『あやふや』な存在が許されるのならば居てもいいだろうという結論に至りました。
 Fateと月姫の決定的な差は『朱い月』が復活出来る可能性が有るか否かです。
 
「あれ?じゃあゼルレッチ翁はFateだと死徒じゃないの?」

 という疑問もありますが、その点に関してはきのこ自身が「Fate世界のゼルレッチは吸血種ではない」と明言してます。


 うちのルイズは魔眼の影響によって、精神の成熟が早いです。むしろ原作ルイズよりも大人に近いです。

 そもそもFate世界にはブリュンスタッド姉妹のような一部を除き死徒ニ十七祖に並ぶ存在はいません(これは強さ的な意味ではなく存在証明的な意味)それどころかⅧ以上は確認されていません。
 ですので、ルイズは世界の理を逸脱するという点において『魔法使い』や『  』接続者と同じです。


 今さらですが、ルイズの一人称視点の場合わざと吸血種ではなく吸血鬼と書いてます。理由としてはルイズはまだこちらの世界の常識を知りませんので、正式な呼び方を知らない状態です。


File:2

『気分は如何かな、お嬢さん(ルイズ)

 

「………最悪よ」

 

 幽鬼の如き白い肌が視界一面を覆う。正に吸血鬼と呼ぶに相応しい肌色だ。

 しかし、そんな美貌が目に入ろうとも今の自分には毛ほども心が揺らぐことはなかった。

 それどころか本日二度目の___一発目は当たらなかったが___拳を叩き込んでやりたかったのだが、こいつの仕業なのか知らないが腕が上がる気がしないし、この演劇作家様が素直に殴らせてくれるとは思えない。

 木々の隙間から空を見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた。

 随分と長い間寝ていたらしい。

 平民と比べれば大層豪華な服を着ているが、こいつはそんな事お構いなしに土の上に長く寝かせていたらしく、頭の後ろに湿った土の感触があった。

 

『おおよそ4時間経ったかな。二本の演劇が幕を下ろす程度の時間は過ぎている』

 

「だから何よ……」

 

『つくづく君は名優だよ。その豪胆さはあの子以上にタタリ()の後継者に相応しい』

 

 その言葉を聞いて、納得する。

 だから夜のはずなのに昼間のようにハッキリと周囲が見えるのだなと。

 

(ああ、私………吸血鬼になっちゃったんだ)

 

 不思議と取り乱さす事はなかった。ただそうなのだ、という現実を受け入れる事に問題はなかったからだ。 

 人を辞めて改めて思う。

 やはり吸血鬼とは恐ろしくて、呆れるくらいに自分勝手な存在なのだと。

 メイジのように魔法という手段を持って初めて暴虐不尽に振る舞うのではなく、生まれ持った異能を振りかざして自分の思うがままに生きる事こそが、吸血鬼の本質なのだと理解する。

 

「それで?どう責任取ってくれるのよ」

 

『ふむ……生憎この劇場には裏方が居なくてね。この森に住まう獣畜生に君を任せるのは少々はばかられる』

 

 直感で理解する。

 この吸血鬼、碌でもない事を考えているに違いない。魔眼を使わずとも、その何処か飄々とした口ぶりから察することは容易だ。下手な大人より貴族としての経験は豊富なぶん、この程度はすぐに読み取れる。

 

『そこで私から君へのプレゼントだ。タタリとしての私ではなく、個人としても君に興味があるのでね』

 

 そう言ってこいつは懐をあさり、箱の様な物体を取り出す。

 リングケースほどの大きさのそれは、上面と下面に黒い線が入ったクリスタルの様に美しい青を彩っており、ちょうど真ん中のラインには幾重にも重なる幾何学模様が刻まれている。

 

「何これ?確かに綺麗だけど今渡す必要ある?」

 

『これは私がタタリになる以前、とある学院の長だった頃に所持していた兵器の模造品だ。名を【ロゴスリアクト・レプリカ】といって、原品ならば世界を滅ぼす事すら簡単にやってのける』

 

 その説明を聞いて、横になったまま仰天する。だが、それも仕方ない事だろう。服でもプレゼントするような気軽さで、あろう事かゲルマニアのような軍事国家でさえ持て余すような超弩級の危険物を渡して来たのだ。

 

「バッ! バカじゃないの!?何でそんな危ない物を私に渡してくるのよ!」

 

『安心したまえ。このレプリカはそれ程の力は備わっていない』

 

 どこに安心する要素があるのか、今一度問いただしたい。

 個人、それも吸血鬼が持つには過ぎた物。そんな物を持つこいつはいよいよ以て信用ならない。

 

『逆に言うが、これが無ければ君は一時間としてこの森で過ごす事は叶わないだろう』

 

 至極神妙な表情でとんでもない事を暴露する。

 

「は?」

 

『獣畜生ばかりとは言え、この時代に生きるものならば皆が皆君の世界と比べ物にならない。身を護る手段はそれしか無いと思うのだが……どうするかね?』

 

 どの口がほざくのだろう。

 懐に仕舞ってある杖が折れてさえいなければ、今すぐにでも魔法をぶつけてやりたい。それ故に、今回限りはいつもの失敗魔法が恋しくて堪らない。

 それに、こんな危ない物に頼らなければならない場所に連れてきておいて、この態度は実にいただけない。仮にも召喚主、それも血を吸った相手に我関せずと突き放すのは吸血鬼云々を抜きにしても酷い話だ。

 

 血を吸われた影響なのだろう。ズェピアに対する恐怖はすでに薄れ、代わりに親しみの念が湧いてくる。不自然極まりないこの感情は、幸か不幸か平常心をもたらした。

 先程の発言から察するに、理由は分からないがコイツと共に居れる時間が残り僅かという事。そしてこいつが居なくなれば安全が保証できない事。

 大問題もはなはだしい。

 諦めを踏破する以前に、物理的に起き上がれる気すらしないのはどうすればいいのだろ。

 

「………仕方ないわね。いいわ、それを頂戴。貴方からのプレゼントなら受け取ってもよろしくてよ?」

 

 一瞬迷って、素直に恩恵をこうむる。

 

『これで舞台は整った。主催の役割はここまで。あの鏡を以て象られた“ズェピア”という虚影はタタリという幻影へと降る』

 

 胸の上にロゴスリアクトなる物をそっと置いたズェピアは、こちらへ背を向けゆっくりと謳った。

 それと同時に、別れの時が来たのだと血を介して理解する。

 

『さようならルイズ。願わくば……君は私のように狂気に屈しないよう祈るよ』

 

 影が掛かった。

 いや、影が溶けていった。

 

 次の瞬間、再三のお辞儀を成したズェピアの姿はどこにも無かった。隠れたのではない。擬似的な親子関係になった今だから分かるが、ズェピアは本当の意味で此の世から消え去ったのだ。

 森の中を、風が駆け抜ける。

 一人となったことによる不安を増長するかのように、風の妖精が徒に頬を撫でた。

 ともあれ、過ぎてしまった事は仕方がない。

 

「子供をおいて行くなんて、親として失格よ……」

 

 寝っ転がったまま、そう呟く。

 気がつけば、四肢は自由に動くようになっていた。掌を握ったり開いたりと繰り返しながら、胸の上に置かれたロゴスリアクトを手に取る。

 頭上に掲げたそれを見ながら改めて思う。ズェピアの事を、そしてこれからの事を。

 

「さようならズェピア。願わくば……今度こそ貴方を使い魔として呼びたいわ」

 

 今回はあくまでも失敗だ。

 されど、次こそは正式な方法で、正式な使い魔として影法師ではなく()()()()という錬金術師を召喚すると虚空へと誓う。

 ゆっくりと立ち上がり、その決意を示すように折れた杖を掲げる。

 いつかこの杖が再び天を突く時。その時こそ、このロゴスリアクトを含めた全てのお節介へ謝礼と感謝の意を込めて()()()()()()()と……。

 

 それこそが、ルイズ(自分)の出来る初めての我儘なのだから___

 

 

 

 ___ズェピアと別れて、数日。

 

「あいつ絶対許さない……いい感じに渡して来といて、なんの役にも立たないじゃない……」

 

 曇天が覆う森の中を彷徨いながら、ルイズは愚痴をこぼしていた。

 服は土に塗れ、元々は美しく自慢だった桃色の髪も、今では枝毛がちらほら目立っている。目つきも荒れに荒れ、ズェピアが警告していた森の動物たちも逃げ出す眼光を秘めていた。

 

「うんともすんとも言わないなら、世界を滅ぼす兵器だろうとガラクタ同然よ!」

 

 あの演劇作家様が居なくなってすぐの事、狙い澄ましたかのようにルイズに襲い掛かる魔狼や魔猪。それらすべてを自力で逃げ切ったルイズは、逃走の際に何の反応も示さなかったロゴスリアクトに腹を立てていた。

 

(もう二度と、あんな命懸けの鬼ごっこは御免被るわ)

 

 そもそも、何故ルイズが逃げ切れたのか。

 ここ数日間は雲に遮られて陽の光に晒されなかったという事もあるが、死徒としてそれは大前提の話である。

 ズェピアも言っていたが、本来ならば一時間も持たずに死体を晒している筈なのだ。使徒になったからと言ってすぐさま超常的な力を得るわけではない。

 その禍根は……偏にルイズの持っていた吸血種としての才能だった。

 死徒になるには数段階の過程を経なければならず、それ以前に適正がなければグール止まりもあり得た。しかしある程度の年月を経ればそれなりに進化でき、その中でもニ十七祖を除いて最も位が高い者として後継者()の階梯が存在した。

 

 ___ルイズは、タタリの後継者としての才能が異常だったのだ。

 

 運命の悪戯にも等しいそれは、ルイズを過程を飛ばして死徒へと昇華させたのだ。

 本人にその自覚はなく、彼女を吸血種にしたズェピア自身もここまで適正があるとは思っていなかった。

 人間の矜持を謳いながら。

 その実、バケモノになるのを望まれたような体質の持ち主だったのだ。

 

「流石に……げん…かい…」

 

 近場に生えていた木に凭れるように、ルイズは木の根元に倒れ伏した。

 

「……………」

 

 ロゴスリアクトを握り締めながら、ルイズは眠りに就いた。

 如何に頭脳が発達していようとも、体は子供の域を抜けない。吸血種が常人よりも頑丈とはいえ、飲まず食わずで数日間森を彷徨えばこうなるのは一目瞭然だった。

 

 木漏れ日が指す森で気持ち良さそうに眠るこの少女が、この世界で最も()()()()()()()だと誰が知れようか。

 ズェピアという特大の例外が、この世界に齎した死徒ニ十七祖という唯一無二の概念は、本来ならばありえない地位をルイズに与えたのだ。

 

「____おや?」

 

 眠りに入って一時間。

 ルイズの寄りかかる木の上から、可憐な人影が言葉を口にした。

 汚れ一つない真白な服は白百合を連想させる。金髪を結んだ黒いリボンは、彼女自身の幼げな雰囲気に反してどこか、優雅さを醸していた。しかしそれは、決して相反するものではなく、寧ろ意外性ともとれる調和を果たしていた。

 そして少女は、軽やかな足取りで枝を伝いルイズの側まで降り立った。着ている服に一切の汚れを付けず降りた彼女の身体能力は、大人顔負けである。

 

「外国からの旅人でしょうか。それにしては随分と軽装な……」

 

 屈んだ姿勢から身を起こした彼女の顔が光に照らされ、全貌を顕にした。

 それは正しく、天が精魂込めて作り上げた芸術だった。

 ルイズの美が人を極限まで美しく研ぎ澄まし、あらゆる男を魅了するものだとすれば。彼女はどこか、神聖さすら感じる美だった。

 

「この手に持つ物は一体……」

 

 少女が、ルイズの持つロゴスリアクトに気がついた。

 物珍しく思い手を伸ばした次の瞬間。

 

「ちょっとアンタ。人の物を何勝手に触ろうとしてるのよ」

 

 眠りから覚めたルイズが少女の伸ばした手をガッシリと掴んだ。

 逃がす気は全く無い。

 握りられた掌から、そういう意図が嫌というほど感じ取れた。

 

「あっ、おはようございます」

 

「何がおはようよ。てかアンタ、一体誰よ」

 

 半ば寝惚けているルイズは、警戒感と呼べる物が感じられない。そしてそれに答えるように、少女も麗らかに笑顔をみせた。

 

「アルトリアです!」

 

「そういう事聞いてるんじゃないんだけど……」

 

 白百合の少女___アルトリアは、ルイズの困惑を他所に笑顔で挨拶した。

 

 

**********************

 

 

 カリーヌ。

 エレオノール。

 カトレア。

 いずれも自分にとって忘れがたい人物像を秘めた家族であるが、目の前の少女___アルトリアはそのいずれとも違う性質を宿していた。

 

「えーっと、アルトリアだったかしら」

 

 頭痛がしたため頭を抑えながら、横目に少女を見る。

 この魔眼___名付けるなら『吟味の魔眼』はその人物の心情や感情、趣味嗜好はもちろん名前まで明確に映し出す。言うなれば、TPOを無視した自白剤のようなものだ。

 そんな特異な目を以てしても、この少女の素性の一切が読み取れない。

 

「はい。どこにでもいる普通の女の子ですよ」

 

 何でもないように、正面を見据える。

 

「あっそ………ねぇ」

 

 正確には、()()()()()()()()()()()が為されていて閲覧出来ない状態だ。

 自分の元居た世界でいう精神力や魔力に依存しない吟味の魔眼は、これまで一度だって不具合を起こしたことはない。

 

「 ? どうしました」

 

「私の名前は聞かないの?」

 

「聞いてもいいんですか?」

 

 やりづらい___。

 それが、この少女との会話で感じた正直な感想だった。

 残忍酷薄、温厚篤実、英俊豪傑……数えたらきりがない性質をそれぞれ持って生まれた我が家系。

 そのどれにも属さない不思議さを秘めているこの少女に、どう会話を切り開けていこうか迷ってしまう。

 

「本当なら高貴な身の上だから、おいそれと口にしていいモノじゃないんだけれど」

 

「その格好で言われても説得力に欠けますよ」

 

「………私、あんたの事嫌いかも」

 

「ええ!?」

 

 今更ながら、我が一族は歴とした貴族だ。

 ハルケギニアの国々でそれぞれ貴族としての定義は異なれど、私の祖国であるトリステインにおける貴族とは総じて魔法を使えるものを指す。

 実際のところは私利私欲に塗れた連中が多いのだが、我がヴァリエール家に関して言えば、それはないと断言できる。むしろ礼儀作法を重んじる家訓に殉ずる身としては、常に優雅でなくてはならない。

 

 しかし、しかしである。

 このアルトリアを名乗る少女相手に、貴族としてのプライドはものの見事に崩れ去った。

 

「とりあえずルイズで良いわ」

 

「よろしくおねがいしますね、ルイズ」

 

 屈託のない笑みに、ついつい虚を衝かれる。

 これでもこの世界に来て初めての人間。それも同世代の女の子なのだ。

 脳の血管がブチ切れそうになるが、これか身の安全を確保する為にもここは穏便に済まさねばならない。

 

「………ねぇ、アルトリアはこの森に一人で住んでるの?」

 

「まさか。流石にこんな森には住んでません。それに私には義理の兄がいます」

 

「あらそうなの?」

 

 わざとらしく首を振って否定しながら、苦笑いを浮かべるアルトリアだったが、突然妙案でも浮かんだかのように表情を明るくした。

 

「そうだ!ルイズも一緒に住みませんか!」

 

「え?」

 

「見たところ飲食すらマトモに取れてなさそうですし。込み入った事情があるならケイ兄さんも許してくれるはずです!」

 

 ケイ兄さんとやらがどんな人物なのか想像もできないが、急に押し掛けて良いのだろうか?

 こちらとしては、その提案は大変ありがたいのだが、如何せん人としての良心が即決即断を良しとしない。

 しかし、好意を無下にするのも憚られる。

 行って駄目と言われたら引き返せばいい。

 

「うぅん。じゃあ、お願いできる?」

 

 遠慮がちに頼む。

 

「それじゃあ行きましょう!一時間もすれば着きますよ!」

 

「まだ歩くのね……」

 

 正直、嫌気がさしていたのは顔に出てしまったと思う。

 もう数日ぶっ通しで歩き回ったり、時には魔獣から逃げる為に走ったのだ。吸血鬼になって体力は付いたものの、元は蝶よ花よと育てられた箱入り娘だ。

 

「ほらほら。のんびりしてると日が暮れちゃいますよ」

 

「ああもう分かったから、引っ張らないで!」

 

 

 

 

 ヴァリエールの領地は広大だ。

 トリステイン有数の大貴族と言うのもあるが、王族の血が通っている事もあり、権力と呼べるものが絶大だと知らしめる為でもある。

 といっても。

 平坦な土地と子供だったこともあり、移動は基本的に馬車が殆どだった。

 

 そんな事はさておき。

 険しい山道など、生まれてこの方一度も歩いたことのない身からすれば、あるかないかの坂道ですら疲労困憊となってしまう。

 もっとも疲れの理由は、魔獣たちとの楽しい鬼ごっこに加えて、数日間合わせてたったの()()()しか睡眠を取ってないというのも大きかっただろう。

 つまるところが、限界に近いわけだ。

 森の中の湿気のせいで服は汗と土で汚れて、綺麗なところを探す方が難しい。

 ローファーのせいで足が疲労を訴えてくる。思い入れもないので何時か脱ぎ捨ててやる。

 杖だってそうだ。魔法が使えないからと言っていい加減折れたままにしておくのは忍びない。どうにか直す手段を捜さなければ。

 

 ___一番の問題は、ロゴスリアクトだ。

 

 無駄にかさばる大きさで、懐を占領している。あいつの譲り物じゃなくて世界を滅ぼす兵器じゃなければ、土に埋めるなりアルトリアにあげるなりして処分していたに違いない。

 

「憂鬱だわ………」

 

「なにか言いました?」

 

「……独り言よ…」

 

 先を行くアルトリアが立ち止まり、無意識に溢した言葉に反応して振り返るが、独り言だと言って切り替える。そうですか、と言ってアルトリアも再び歩み始めた。

 

「っねぇ……あとっ…どれくらいで……着くの」

 

「もう少しですよ。急いで下さい」

 

 喘鳴混じりに問うてみる。

 この短い付き合いで魔眼を使わずとも、ある程度の人となりは把握出来るもので、アルトリアの適当とも思える返答は半ば予想できるものだった。

 

「具体的に……言いな、さいよ」

 

「あと少しです」

 

 もう反攻する気すら湧かない。

 

(ああもう本当に邪魔!!)

 

 懐を覗けば、ロゴスリアクトがこちらを向いている。無駄に頑丈な装甲は、ルイズという潜在的フィジカルだけなら最上位死徒クラスの()()()叩きつけでも欠片も損傷しない。

 仮に杖が折れてなく、いつもの失敗による爆発が起こせたとしても、完膚なきまでに破壊する事は叶わないだろう。

 

 

 それから、幾度とない苛立ちと格闘しながら、ようやっと目的の場所まで辿り着いたときだった。

 

「これが家?廃墟とかじゃなくて?」

 

 第三者からしても、それが家として機能してるようには見えなかった。

 風に煽られ揺れる雑木林と、微かにさざ波のたつ池が目に入った。一見すれば自然の中に出来た美しい風景なのだが、拓けた土地に建てられた小屋は雅をぶち壊していた。

 決して人が住めないほどオンボロになっている訳ではない。かといって貴族の出である自分にとっては、正直住みたいとは思えない建物だった。

 

「言いたい事は分かりますがもう少しオブラートに包めませんか?」

 

 苔の生い茂った壁面は、何十年という年月を容易に想像させる。

 雨でも降ろうものならば、雨漏りが絶えないのではと心配になる程に経年劣化が見て取れる。周辺の木々から感じる荘厳な年月に比べて、何と見窄らしい事だろう。

 

「だったらせめて屋根の修理くらいしたらどうなのよ?」

 

 あんまりな外見に文句をつけつつ、アルトリアに蔑如の籠もった視線を送る。

 それに耐えかねたアルトリアは顔を逸し、そそくさと小屋へと入っていく。呆れながらも、彼女に続いて戸を開けて中へお邪魔する。

 最初に、カビ特有の鼻につく臭いがした。

 実家にいた頃は知らず、あの森で数日間彷徨って初めて知った臭いだ。

 臭いに顔を顰めてるうちに、金色の髪が隣の部屋へ消えた。それと同時にゴチッ、と鈍い音と苦悶に満ちたうめき声が聞こえてくる。

 急いで彼女の元へ向かえば、殴られたであろう頭を抱えて蹲る彼女と、怒りの感情を隠そうともしない男が立っていた。

 

「おい、森の中には入るなって言ったよな?俺もう十回以上言ったよな?」 

 

「うぅ……はい…」

 

 不機嫌そうに顔を歪める金髪の青年は、腕を組んでつま先を煩いくらいに床へ叩きつけている。

 直感で理解した。彼こそが、アルトリアの言っていた義理の兄であり、ここの家主のケイなのだと。

 そして、彼の怒りの矛先はこちらへ向いた。

 

「そんで。そっちのピンク色のクソガキはどちら様で?」

 

 ブチッ、と血管の切れる音がした。

 無意識のうちに取り出していたロゴスリアクトは、投擲の名手も唸る勢いで投げつけられた。

 寸分違わずロゴスリアクトは彼の眉間に見事直撃した。

 

「ぐふぅ!!」

 

「ケイ兄さん!?」

 

 油断していたケイは、今まで感じたことのない激痛に見舞われながら地に背を預けた。

 側にあった椅子を道連れにしながら盛大に倒れる義兄を心配して声を荒げるアルトリア。そんな慌ただしい義兄妹を見ながら、私は久方ぶりの爽快感に満たされていた。

 床に転がるロゴスリアクトを拾って、至極下らない考えに至った。もしやズェピアは、これを投擲武器として渡してきたのではないか。ありえなくないと共に、そんな訳あるかと考えるのを辞める。

 

「クソガキで悪かったわね」

 

「クソッタレ……面倒なの連れてきやがって…」

 

 ケイの眉間に、皺が寄った。

 いくら凄まれても吸血鬼、それも正真正銘の化物クラスの威圧を経験してる身からすれば年上程度の威圧は軽く受け流せる。

 魔眼で覗いてみても特筆すべきものは見当たらない。強いて言えばアルトリアに関する情報が、義理の妹という点以外は隠蔽されてる事だろう。

 徹底的というか、用意周到というか。

 この隠蔽工作を行った人物はきっと筋金の入った臆病者。あるいは嫌がらせの達人だろう。

 分かった事とすれば、少なくとも私のような人の情報を搾取するノウブルカラー持ちにとっては、天敵ともいえる存在という事だ。

 

「おいアル。こいつを連れてきて何がしたかったんだ?」

 

「無許可で森に入ったことも、彼女___ルイズを連れてきた事も謝ります。でも小汚い格好で森を彷徨ってたのを見捨てる事はできませんでした……」

 

「誰の格好が小汚いですって?」

 

 ケイが何か言おうとするより先に、アルトリアの余計な一言に言及を促す。ビクッと肩を揺らした彼女は、ちらりとこちらの方を向くと謝罪の意を込めて気不味そうに頭を少し下げた。

 

「ハァ〜……えーっと、ルイズだっけ?」

 

「ええまぁ、今はルイズで良いわ」

 

「言っとくがウチは宿屋じゃないんでね、見ての通り二人住むだけで倒壊寸前なんだ。物見遊山なら他を当たってくれ」

 

 まともに取り繕う気がないことが伺えた。

 不愉快な言い回しに頭に血が登りかけるが、努めて冷静さを保つ。

 

「………っさいわね……私だって好きで森を彷徨ってたわけじゃないのよ………」

 

 絞り出すように、私は訥々と言葉を紡いだ。

 もとより、こうなった原因の大半はズェピアの気まぐれ、そして失敗した召喚魔法にあって目の前で困惑しているケイには何一つとして落ち度はない。

 それでもこんな状況に陥れば、早熟した精神の持ち主であっても何かに当たらずには居られない。 

 

「お前っ」

 

 項垂れる私を心配してか。先程までの皮肉げな口調は鳴りを潜め、心配そうに声を掛けてくる。

 それから、

 

「___あぁッたく!分かったよ!!」

 

 と、乱暴に頭を掻きながら言った。

 

「愚妹が拾ってきちまったモンは仕方がない。それに、今さら追い出してそこらで野垂れ死なれても目覚めが悪いしな…」

 

 気恥ずかしそうにそっぽを向きながら彼は居住の許可を下した。

 やや皮肉めいた言い回しは戻っていたが、不思議と先程よりも不快感を感じないのは、彼の持つ無自覚な優しさが滲み出ているのかもしれない。

 

___『まったく、毎日こんな泥だらけになるなんて!少しはヴァリエール家としての自覚を持ちなさい!』

 

 そう言いながら泥にまみれた顔を、少々乱雑ながらも拭ってくれた長女を思い出す。普段こそ高圧的で高飛車な態度をとる姉だったが、その真意は私に対する心配が大半を占めている事実を私は魔眼で見ている(知っている)

 ケイのそんな姿は、今後会えるかさえ分からない姉に似ていて懐かしさと共に寂しさを覚えた。

 

「良かったですねルイズ」

 

 頭の痛みが引いたらしいアルトリアは、立ち上がると柔らかな笑みを浮かべながら私の方へ振り向いた。

 

「それはそれとして、物を投げつけた件に関しては謝った方が良いんじゃないですか?」

 

「わ、悪かったね……」

 

「うっわ。反省する気ゼロだろお前」

 

 認めたというよりは、仕方ないといった風な態度でヨロヨロと立ち上がったケイは、不器用な動作で手を伸ばした。

 一瞬、なんの事だが分からなかった。

 しかしそれは、恥ずかしそうに顔を赤らめる彼を見てすぐに意図に気がつけた。

 

「案外ぶきっちょなのね」

 

「うっ、うっせーな!」

 

 羞恥心で騒ぎ立てる彼が可笑しくて、久々に顔を綻ばせる。

 一頻り笑って満足してその手をぐっ、と握り返したその時。

 

「どうやら、私の心配は杞憂に終わったようだね!」

 

 私達の入ってきたドアが勢いよく開かれ、珍妙な格好をした男とも女とも思える輩が声高らかに参上した。

 突然の来訪に、ポカンとしつつも声を振り絞って私は問いかけた。

 

「………………… どちら様?」

 

 




アトラス院の七大兵器は本来ならば『アトラスの契約書』が無ければレプリカだろうと外に出す事は禁じられている。それは、院長であるズェピアも例外ではない。
 しかし、超特殊事例である今回のルイズの使い魔召喚に伴い、ズェピアはこれを黙認する。タタリである彼がロゴスリアクトを持っていた理由は不明。

 Fate世界において死徒は弱体化しているが、ルイズは根本的にTYPE-MOONの世界とは違う___外宇宙(オリュンポス十二機神のようなもの)から来た者であるため実力的には始祖には及ばないものの、ある程度成長してからは肉弾戦でロリ化後(魔眼あり)の噛ませ犬先生くらいの代行者なら軽く蹴散らせる。

 しかしロゴスリアクト・レプリカの補助による疑似宝具次第では戦局を覆す事も可能。
 それに加えて、『再演・真偽混迷大釜アンヌヴン』という空想具現化現象マーブル・ファンタズムを()()()()を切っ掛けに発動可能となる。
 本来ならば、死徒二十七祖であろうとスミレとブリュンスタッド姉妹の千年城を除き空想具現化は不可能である。

 吸血衝動がほぼ無い。その理由は親がタタリという真祖なので本家本元の『朱い月』とは違うから。これはタタリの本来の後継者や残滓の白、冥界の砂を見れば一目瞭然。


 地球からすればルイズは「自分の子供を名乗る不審者」な為、空想具現化現象(本来ならばロゴスリアクト並に取扱い注意)ならば許容されるがある事件で手に入れた『  』とは違う()()()()()の『虚無』を使うと抑止力に引っかかる。

 分かりやすく言えば地球親に認知はされていても「愛されない異物(子供)」である。
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