『零』に至るゼロ   作:イスカリオテのバカ

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 今回話が殆進みません。寧ろ今までより雑だと思いマシュ。何というかルイズの使える()()の説明回のようなものです。


 今回からルイズは自分の種族を自覚したので吸血鬼ではなく死徒、もしくは吸血種と明記します。マーリンに教わったとでも思っておいてください。
 
 ルイズの『虚無』は型月に無理やり当てはめるなら『  』に最も近い太い流れに当てはまります。根拠は現状、ルイズ自身も彼女の真の魔法を知らないからです。無論ルイズ自身も『失敗魔法』が『虚無』とは知りませんし、そもそもブリミルの虚無がどういうものか知らないので魔術基盤は皆無に等しいです。
 

 世界観を(私が想定している範囲で)合わせるにはゼロ使世界の過去を書かなければなりませんがそこまで行けるかなぁ……?

 うちのロゴスリアクト・レプリカはロード・エルメロイII世の事件簿に出てくるアッドみたいな魔術礼装です。

 あとルイズには魔術刻印がありません。というか有るにはあるのですが『純然たる四角形』程ではありませんが一代目という考え方の方が良いくらいには少ないと思います。それでも才能という意味では破格ですね。

 ご都合主義が過ぎるかな?


File:3

 質素ながら、最上級の繊維で編まれたローブを纏っていた。日差しを透かす虹色の長髪と花弁のような耳飾りをつけ、手にしていたのは巧妙なデザインの杖である。

 巻きつけられた布の用途は判断しかねるが、おそらくは折れた杖など比べ物にならない価値は秘めているのではあるまいか。

 何よりも、フードから覗く老若男女全てに当てはまりそうで、そのどれとも違う美貌。

 思わず不審者であるにも関わらず、毒気を抜かれて見惚れてしまう。

 しかし、そうなっていたのは自分だけだった。ケイは不機嫌な顔を隠そうとせず、アルトリアまでもが不審者を旧知の仲のように見つめていた。

 途端に恥ずかしくなってしまったが、この不審者に目を奪われていたのは事実であるため、言い訳を並べるつもりはなかった。

 

「……何しに来やがった。珍しいものでも見つけたのか?」

 

 と、忌々しそうにケイが問い詰めた。

 

「やぁケイ、元気そうで何より。そうだね……確かに見つけたとも」

 

 あっけらかんと、嫌味に対して返答する。

 舌打ちを漏らすケイを無視してその男は、アルトリアをちらりと横目で見ながら何故かこちらに寄ってきた。

 人の良さそうな笑みを浮かべながら、手を伸ばしてくるがその手を取ろうとは思えなかった。

 

「マーリン、今日は稽古の日では無いはずです」

 

 スッ、と守るようにアルトリアがマーリンと呼ばれた男との間に割って入った。

 

「アルトリア、安心していい。別に私は彼女に危害を加えるつもりは毛頭ないからね」

 

「………」

 

 希代の魔術師___マーリンは人外の笑みをもって応えたのであった。

 

 

**********************

 

 

 自室の扉を閉じて、崩れ落ちるようにベッドへ倒れ伏した。

 

「……ふぅ」

 

 と、息をつく。

 一日分の疲労を吐き出すようなため息だった。

 この家に世話になるようになって三ヶ月。そのあいだ沢山のことを学んだし、平民の生活の大変さを身を以て痛感した。

 気怠い体を無理やり起こし、部屋に常備された水釜からコップに水を移して飲み干す。

 

「ケイったら私を何だと思ってるのよ……肉体労働なんてやった事ない貴族に薪割りを任せるなんてどうかしてるわ…」

 

 口元に残った水を袖で拭いながら、ケイから課せられた重労働に愚痴をこぼす。

 この三ヶ月間で家の掃除や料理など、様々な経験をしてきたが、元は貴族の小娘にとって斧を振り下ろす行為だけでも疲労困憊としてしまう。それら全てが影の差す場所で行われたのが幸いだった。

 唯一の慰めは一晩寝てしまえば、死徒特有の再生力で筋肉痛は治ることだろう。

 

(そういえば今日はあのお花畑が来る日だったわね……はぁ、憂鬱だわ)

 

 目元を抑えながら、今晩の事を考える。

 あの日、この家にお世話になると同時に出会った自称・花の魔術師様は自己紹介を済ませると、そそくさと出ていった。

 同じ日の夜、あいつは()()()()()()

 初めての時は心底驚いた。理屈も何も分かったものじゃなかったし、今でも原理は理解できるが再現しろと言われたら不可能としか言えないほど卓越した魔術の腕前だ。そんな事はさて置き。

 あいつに曰く、

 

「これも何かの縁だと思ってね。私としても色々好都合だし君に魔術を伝授しよう」

 

 要約すればこんな感じだ。

 そう言われた当初、魔法の使えない私への当てつけかと怒髪天を衝かんばかりに激怒したが、事情を知らなかったマーリンからすれば御門違いだったので今は反省している。

 

 それから色々ありながらも、朝から度々やってくるマーリンによって多少細工はされたものの、復元された愛用の杖を使った【魔術】の訓練に励んだ。

 未だ発展的な事は教えられていないが、自分の認知していた魔法とこちらの世界の魔術は違うことは理解していた。なにせ出来損ないの爆発しか起こせなかった自分が……事もあろうに一発で魔術を成功してしまったのだ。

 聞く話によれば、本来ならば魔術を行うには魔術回路なる物を開かなければならないのだが、マーリン曰く吟味の魔眼と併用して、自身の魔術回路をとっくに開いていたらしい。

 だから元居た世界の魔法は、世界に漂うマナの性質に合わず爆発してしまったとの事。

 

『___ルイズ、そろそろ就寝時間が迫ってきている。マーリンとの約束もあるのではないか?』

 

「うっさいわね。分かってるって」

 

 無駄に透き通った声は、聴く者を魅了する男にも女にも思える美声だった。

 声の主に視線を向ければ、そこには何時ぞやか地面に叩きつけた世界を七度滅ぼすと謳われた兵器が、机の上に転がっていた。しかしその見た目は、貰い受けた当初とは異なり青白い匣と化していた。

 

『私はルイズを気遣って言ったのだが。そんな私の助言を投げやりにするのは、私としてはとても悲しいぞ』

 

 無いはずの口が忙しなく動く幻影が見えた。

 これが、口八丁にご主人様に向かって減らず口をたたく奴の正体だった。

 

 ___リーズ。

 

 ズェピアが私に置き土産として大変迷惑ながらも渡したロゴスリアクト(魔術礼装)の成れの果てだ。

 こちらに来てから魔術礼装というものを学んだが、自分で考えて喋る礼装というのはマーリンからしても初めて見るものらしい。

 妙にズボラで頓珍漢な態度をとる様は、いつかのアルトリアを思い起こす。

 きっかけは指を切った時だった。流れた血が腕を伝い袖に隠してあったロゴスリアクトに触れたのが最初だった。突然青白く発行したと思えば、コントラバスの音色が響き始めたのには仰天した。オマケに、その音色を聞くと発狂するかと思えるほどの()()が走るのだ。

 当初こそ、ひどく驚いてマーリンに泣きつくように相談したりもした。しかし、この減らず口な性格が発露していくに連れて、そんな驚きは霞のごとく消え去った。

 

「いいから。減らず口はそこまでにしなさい」

 

『減らず口とは失礼な。ルイズのそのちんちくりんな五体は寝なければ成長しないと暗に言ってやってるのだぞ』

 

「…………」

 

 今では、こうだ。

 懐から取り出した杖を構え、リーズへと標準を定める。そして久しく使わなかった失敗魔法を打ち放つ。

 

「ファイアーボール!」

 

『アハンッ!!』

 

 意図的に起きた爆発は、見事リーズに直撃して悲鳴を上げさせることに成功する。

 あっちにいた頃より魔力云々の違いで威力は落ちているが、それでも牽制程度には使える。

 観念して黙り込んだリーズを拾い上げ、懐へしまってから、始祖ブリミルへ祈りを捧げてから眠りについた。

 

 

 

 見渡す限りに広がる花畑は、立っているだけで安らぎを覚えた。

 天上を見上げれば、神々しいまでに照りついた太陽が私を見下ろしている。日光に晒されて気分を良くする死徒というのも、中々に皮肉が効いているのでは無かろうか。

 誰もいない花畑の中心に立ちながら、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 そして、懐にしまってある杖とリーズを取り出して異常がないか隈なく検査する。安否確認が終わり次第、その両方を持ったまま花畑を歩き回る。

 

「さてと……今日はどんな幻術なのかしら…」

 

 この空間。我が魔術の師であるマーリンが作り上げた夢想の花畑は、眠りについて初めて訪れることが可能な場所だったりする。

 というのも、今まで___こちらの世界に来るまで___アルトリアが同じようにこの場所で剣の稽古を施されていたらしく、同様にここで魔術を習っているのだ。

 

「暴きなさい___吟味の魔眼」

 

 瞬間、桃色の瞳は黄金と緋色の混じった輝きへと変容した。

 

 

 \空間魔力濃度:若干濃度過多/

 

 \体内魔力濃度:正常/

 

 \魔術回路:三十本 + 四十本の魔術回路確認/

 

 \空間侵食度:1:1.618/

 

 \法術魔術:一工程(シングルアクション)の幻術/

 

 

 地へと手を付きながら、魔眼による隠蔽暴露を用いつつ魔術を行使する。

 基礎的な解析魔術だ。

 元来の魔眼の効力ならば解析魔術など用いずとも簡単に秘密は解けただろう。しかしこの空間は、希代の魔術師マーリンと自分の夢が入り混じった心象風景。下手に乱雑な解答へ導けば、()()に何らかの影響を与えかねない。

 

「一工程?流石にもう引っかからないっての!リーズ!」

 

『了解した。土を砂へ変えるならば造作もない』

 

 それ故に、得意の魔術を持って挑むのだ。

 手を地面から離してリーズを取り出す。青白く発光する魔術礼装に魔力を供給し、マーリンから教わったもう一つの魔術を発動させる。

 

「さぁ、乾きなさい……花が枯れるのは可哀想だけど、恨むなら創造主を恨みなさい!」

 

Elementum(四元) Eerra(大地)

 

 リーズから黄金に煌めく魔力が込められた音楽が流れ出すと、それらは私が放った解析魔術の痕跡に意思があるように反響し始める。

 半径五メートル圏内を網羅した音は、爆発的勢いをもってマーリンの幻術を侵食していった。

 

 ___錬金術。

 

 リーズの『概念武装』の効果がある音楽との相性を考慮して最も相応しいとされた術式だ。その使い方は様々であるが、自身の最も得意とするのは『他の概念に重ねて発動させる』点にある。

 本来ならば、魔術基盤や死徒に対する絶対的殺人権の関係で不可能に近いのだが、体質あるいは()()()という例外が齎した恩恵により、そんな無理やりな術式も突き通せた。

 

「あとは大詰めね。リーズ、お疲れ様」

 

 役目を終えた相棒を労いながら、第三の魔術を行使する為に杖を振り上げる。

 イメージするのは爆発。

 星の輝きを思わせるそれを、全身で想像する。

 最高潮に達した刹那、私の感覚は完全に吸血種(魔術師)として覚醒する。人間の感覚では掴むことの出来ない虚空に浮かぶ第五架空要素の粒子を、吸血種の超感覚と魔眼で認知する。

 

Uncover(暴け)

 

 静かに呼びかける。

 宙を漂うエーテルが、己の指のタクトに応じるように螺旋を描きながら収束し始めた。

 不可視の螺旋は空間を抉った。

 古来よりあらゆる地域でメジャーとされて来た螺旋は、ハルケギニアの魔法でも重要な役割を果たしていた。

 そこで、自身なりにこっちの魔術とあっちの魔法を組み合わせてみたのだ。

 

Gerunt in spiram et somnia vere imple(螺旋よ穿て。夢は真に塗りつぶさせる)

 

 侵食する魔力の螺旋は遂に、花の魔術師の幻術を突き破るに至った。

 自身にだけ見える紅に染まる魔力が役目を終えて霧散するのを見届けてから、この瞳は目の前に立つ男に注目した。

 

「うん。基礎はもう出来てるね。感心 感心!」

 

「よく言うわ……」

 

「やれやれ、私も随分嫌われたね」

 

 マーリンはわざとらしく肩をすくめる。

 しかし当然だろう。夢の中だから怪我も無かった事になるといって、さんざん無理難題に等しい修行を課せてきたのだ。

 

「しかし、錬金術の詰めの甘さは頂けないね」

 

「っ___」

 

 その指摘に、一瞬口ごもる。

 自覚がある分指摘されるとは思っていたが、こうも事も無げに言われると傷つくものもある。

 

「リーズにほとんど任せてしまうのは怠惰と言われても仕方ないよ。小節区分で補う為にも、今日は詠唱のおさらいにしよう」

 

 露骨に眉間に険が宿ったのを自覚する。

 マーリンにこそ言ってないが、ズェピアから貰った特級の魔術礼装であるロゴスリアクトは例外中の例外だ。使えるものを使って何が悪いと言うのか。ましてやリーズの主は私なのだから。

 

『マーリン、確かにあなたの言い分は最もであり傾聴に値する』

 

 不意にリーズが声を上げる。

 その声には小さな苛立ちが含まれているのを逃さなかった。

 

『ルイズはあなたからすれば赤子も赤子、逆立ちしようとも太刀打ちできない存在だと、この三ヶ月で嫌というほど理解している』

 

「ちょっとッ!」

 

『しかしだ。先の錬金術、あれは私だけの御技ではないとご理解いただきたい』

 

「リーズ……」

 

 啞然とした。

 普段後先のことを考えずその場の雰囲気で喋るこいつが私を庇うような言動に走った事は勿論、その言葉の節々には確かな優しさが籠もっていたからだ。馬鹿にされたり蔑如されたりと、この世界に来る前から色々な感情を向けられたことは多々あれど、正面から惜しみない称賛をぶつけられたのは初めてだったからだ。

 故に、悠然とマーリンに歯向かったリーズにちょっぴりとだが浮かれたのは秘密だ。

 

「う〜〜ん、私の言い方も悪かったというのもあるかな。ごめんよルイズ、悪気は無かったんだ」

 

「い、いや…その……」

 

 素直に頭を下げるマーリンに、驚愕と困惑が入り混じった声が漏れる。

 

『ついでだルイズ。丁度いい高さに頭が来たのだから拳骨の一発でもくれてやったらどうだ?』

 

「砕けるわ!!」

 

 死徒にそのジョークはブラック過ぎた。

 

 

**********************

 

 

 早いものでこの世界に来て半年にもなる。

 窓の向こうから覗く朝日を恨みがましく睨みながら、瞼を擦りつつリーズを服に仕まい込んで外へ出た。

 外にはすでにアルトリアが準備運動を済ませている。

 こちらに気が付いた彼女は、昇りゆく朝日と遜色ない笑顔で挨拶を交わす。

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

「ええ、朝から絶好調よ」

 

「死徒が絶好調とはこれ如何に……」

 

 ちなみに、アルトリアは既に私が死徒だと知っている。マーリンがこっそり告げ口したそうな。

 

「ケイはまだ寝てるの?」

 

「昨日の猪狩りが響いてるそうで、当分起きてこないと思います」

 

 未だ部屋で筋肉痛に呻いてるであろうケイを心配し、アルトリアに尋ねるが返ってきた答えは予想通りのものだった。

 

「確かルイズ、貴女は最近医療系の魔術を習ったそうじゃないですか。物は試しでケイ兄さんに掛けてあげてはどうです?」

 

「生憎私はエイルみたいに慈愛に溢れた医者じゃないの。あんな捻くれ者の為にリフィア山なんて登る気にはなれないわ」

 

 と、互いに冗談をかませる程度には親交を深めていた。お互い胡散臭くも確かな知識と実力を有する魔術師を師とする身として、ある程度知識を交えた会話も成り立つようになっていた。

 

「それはそうと」

 

 アルトリアが体ごと振り返った。

 気がつけば、その手にはどこに隠し持っていたのか木で出来た剣が握られていた。

 なるほど、と納得する。

 それに付随するように、杖を取り出す。リーズもそれを察知したのか、服の中で笑うように透き通るバイオリンの音色を奏でている。

 

「気が早いわね。さっきの質問だって本当はこの為だったんでしょ」

 

「あ、バレました?」

 

 と、可愛らしく舌を出すアルトリア。

 態度に表れるように、悪びれている様子は伺えない。それを親しき仲となった証と捉えるか、ただの悪戯と捉えるかは個人の采配に委ねられるだろう。

 

『まぁ良いじゃないか、ルイズ。アルトリアがこういう者とは知っているだろうに』

 

「別に気にしてないわよ」

 

 何でもないように否定する。

 手に収まる杖を起用に捏ねくり回す。ここに来る以前よりも鋭利さを増した先端は、それだけで刺突武器として成り立つ。

 おまけに頑丈さはマーリンお墨付きだ。

 

「さっそく始めましょう」

 

「ストップ。今日はハンデを設けるわ」

 

 私の提案に、アルトリアは眉をひそめた。

 分からなくもないが、こうも露骨に疑問を浮き彫りにされては悪戯したい気持ちも湧いてくる。

 

「とは言ってもリーズを使わないだけよ」

 

 リーズは使わない。それは裏を返せば普段の稽古はツーマンセルで挑んでる事を示しているのだが、今日は色々試したい事もあったので丁度良かったりする。

 

Ailchemy, Dia an Teine(火神よ、練金せよ)!」

 

 不意打ちとも取れるタイミングで杖を構えて魔術を発動する。

 

「ッ……!」

 

 迸る魔力の奔流を苦もなく剣で弾いた()()()()アルトリアだったが、狙い通りに行ったので思わず邪悪に口角をつり上げる。

 人によっては卑怯と言うかもしれない……むしろアルトリアのような騎士道精神に基づく考え方の持ち主には理解されないかも知れないが、立場的にはあくまでも魔術師なのだ。

 他の魔術師がどうなのか知らないが、少なくとも私は卑怯な手も惜しまない。

 

「小癪なッ」

 

「卑怯とは言うまいな……なんてね」

 

 してやったりと笑う。

 正直なところ、まともにやり合ったところでリーズの無い私では、才能という壁によってどうあっても勝ち星を取れない。

 もちろん彼女も承知の上で勝負を了諾したのだから不満に思いはせども、真っ向から非難してくることはないと知っている。

 

「それより良いのかしら?それを捨てなくて」

 

「なにを……ッ!」

 

 自身の得意な錬金術。そして内なる起源を解析魔術を以て解読した私が、半年をかけて作り上げたオリジナル魔術。それを回避することなく剣で弾いたアルトリアは、言葉に尾を引かれ自身の持つ剣に目を移し、驚愕に顔を歪ませる。

 

「残念、ちょっと遅かったわね___Explode(爆発せよ)

 

 既に神経はスイッチにより魔術回路へと変貌を遂げていた。

 呟いた言霊を合図に、()()()()()()()()()螺旋を描く不可視の魔力の塊は熱膨張を繰り返し、そして言葉通り爆ぜた。

 不可視の魔力は目に見えて濃度を増し、閃光と轟音を撒き散らす。

 

「くっ、しまっ…」

 

「足が止まってるわよ。騎士様?」

 

 魔力を巡らせることなく、素のフィジカルだけで地を蹴り接近する。普段のアルトリアなら目と耳を潰されようと、気配だけで反撃してくる化け物だったりするが、今日ばかりはそうも行かない。

 

「このっ!」

 

 ブン、と剣を振り抜こうとして硬直する。手から伝わる感覚で理解したのだろう。自身の持つ剣の剣身が半分以上失われていると。

 

「ハァ!!」

 

「ファイアーボール!!」

 

 それを無視して魔力で剣身を作り上げ、無理やり反撃してくるアルトリア。それを迎え撃つ形で失敗魔法を放つ。

 辺りの魔素を食い散らし膨張するそれは、迫りくる剣を食い止める。

 

「甘い!」

 

「危なッ!?」

 

 しかし破壊された魔力の剣身を、瞬時に再構築して斬り返す。堪らず数歩後退し、額すれすれを掠めて行った剣を注視する。

 

「アンタねぇ……それじゃあ木剣の意味がないじゃない」

 

「お相子ですよ。それを言ったらルイズも反則じゃないですか」

 

 首筋を伝う汗を拭う。

 命のやり取りに冷や汗をかく私に対し、まだまだ余裕を見せるアルトリアに要らぬ嫉妬を抱く。

 

「続き___やりましょうか?」

 

「大概にしなさいよ……なに当たり前のように私に勝つつもりなのよ…」

 

 右手首を軽く捻りながらぼやく。

 普段はリーズの『概念武装』による補助の下に行う魔術を行使したせいか、手首に収束する魔術回路が軽いショートを起こしていた。持ち前の再生力で痛みは無いものの、あの一撃で決めるつもりだったせいもあり上手く魔術が扱える気がしない。

 そもそもの話、生身の人間が死徒にフィジカルで勝てるのが可怪しいのだが。

 

claidheamh mór(大いなる剣よ) פרי עץ הדעת(■■の実よ)

 

 未だ神経が再生し切っていないながらも、無理やり錬金術で剣を作る。幸いにも『土くれ』程度ならば簡単に作れたので試合続行は可能だった。

 しかし、たかが土くれだからといって侮るアルトリアではなかった。無駄に意匠を込めて作ったせいもあり、簡易的な魔法円を付与していた。

 柄に描かれた魔法円の中心に刻まれる文字の意味を見破れたのなら、その時こそ私の敗北は確定する。

 

「ヘブライ語ですね。意味までは読み取れませんが、大方あなた自身への強化でしょうか」

 

「さぁ?もしかしたら呪いの類かも知れないわよ?もちろんアンタに対するね」

 

「どちらでも構いません!!」

 

 常軌を逸する身体能力を惜しみなく使う。

 人間だった頃の私なら、視認することすら不可能な速度で迫りくる剣。魔力で編まれた剣身は、彼女の金髪と相まって美しく輝いていた。たかが一本の木剣に至るまで芸術品としての価値があるのだから溜まったものじゃない。

 だが、そういう意味では私の持つ土くれの剣も負けていない。それどころか上回る。

 単純な性能という点に置いて、この土くれに勝るものを作り出すのは彼女では不可能だ。

 注ぎ込まれた魔力の質においては龍の因子を持つ彼女に軍配が上がる。しかし苦痛と快楽を伴うが、その気になればこちらは世界から魔力を引っ張り出す事さえ可能である。

 さらには刻まれる魔法円とヘブライ語。それらが助長して、今のコンディションは過去最高に達していた。

 

退()きなさい!」

 

「くっ、馬鹿な!」

 

 袈裟懸けに襲いかかる剣を相殺するように土くれで防ぐ。

 バチバチと魔力同士の反発により火花を散らせるような音が響く中、魔法円は自分の声に反応してその真価を発揮する。せめぎ合っていた二振りの剣のうち、アルトリアの剣が突如軌道を逸して地へ標的を変えた。

 

 馬鹿げた現象に面食らい油断を晒す彼女の隙をついて、私は土くれの剣を思い切って振り上げた。

 切れ味を有するそれは、キラキラと輝く彼女の毛先を容易に剃り取った。

 

「はい当たり!今日こそは私の勝ちよ!」

 

「………」

 

 役目を終えた土くれの剣がグズグズと崩れ落ちていく。恐ろしいまでの切れ味を誇ったそれは、目を離した隙に土塊へ却っていた。

 リーズの補助無しで手に入れた初白星の感想としては、湧き上がる歓喜に心頭したい程だった。

 対象に、彼女の顔は不服そのものだった。

 小躍りする私の傍らでわなわなと怒りにも困惑にも似た感情に苛まれていた彼女は、何を思ってか人差し指をピン、と突きつけた。

 

「先程の軌道のブレ、魔法円の効力だけではありませんね」

 

 指が指す先には山となった土塊。

 もはや何の反応も示さないそれに、未だ懐疑的な様子の彼女。それを良しとしてか、あるいは単に気分が良かったからなのか今後の事も考えずに私はベラベラと自慢話に興じた。

 それが意味するのは、魔術的視点での死以外の何物でもないのだが、有頂天気味だった私はそんなあたり前のことすら頭から抜け落ちていた。

 

「あの剣に刻まれた魔法円は物体が当たると不可逆の現象を引き起こす魔術なのよ。アンタの剣は逸れてそのまま地面に向かったのはそういう訳よ」

 

「なるほど……だから斬り返そうにも上に向かないわけです。不可逆の法則とは恐れ入りました」

 

 そうでしょう、と言葉にせず態度で示す。

 ちょっとでも魔術を齧っているならば見抜けるであろう大胆にして単純な魔術。それをちょっとした()()を経たとしても上手く隠せた自分に、ますます酔いしれてしまう。

 

「では第二回戦と行きましょうか。今度は不覚は取りません」

 

「はぁ!? ず、ズルい!私にだけベラベラ喋らせといて!」

 

「おや? 別に説明しろとは一言も。勝手にルイズが話しただけじゃないですか」

 

 どこまでも清廉で、どこまでも意地悪い。

 屁理屈を並べるその姿でさえも、茶目っ気と共に様になっているのは彼女が持つ従来の優しさがなす技か。

 

「………あぁッたく!分かったわよ!やるわよ。やればいいんでしょ!?」

 

 再度呪文を唱えて土くれの剣を生成する。

 剣を右手に、杖を左手に構えながら息を整える。

 

「ありがとう。では、いきます」

 

「怪我しても知らないからね」

 

 再度駆けるアルトリアの高速移動を、ヘブライ語で刻まれた文字を経由して加速させた思考回路を以て捉える。

 されど、その斬撃は先程と打って変わって突き技だった。

 繰り出される必死の一撃。

 閃光を纏う魔力の剣は、寸分の狂いなく胸元に狙いを定めていた。愚直なほどに正直な軌道で迫るそれを、残念な事に迎撃する手段はもはや無い。仮にさっきと同じ手法で迎え撃とうものなら、この天才は軽々と対応せしめるだろう。

 

「ほんとヤラシイわね……!」

 

 故に、体制を低くして回避に専念する。なにもバカ正直に受けて立つ必要はない。受け流して反撃できるなら御の字程度のもと、さっきは袈裟懸け斬りを受け止めたのだ。

 

『存外に苦戦しているな。手を貸そうか?』

 

「けっ・こう・よ!」

 

 袖に隠れたリーズが誂うように聞いてくるが、その甘い言葉を頼るつもりは無い。

 幾度となく迫る刺突を紙一重で避けながら自分だけで必死に模索する。この状況を打破する方法を。

 

「見てなさい……あんたに頼らなくても勝てるってこと教えてやるから!」

 

『それなら良いのだが___』

 

 しかしほとほと困った。魔術どころか自前の失敗魔法を撃つ暇すらない。下手に隙を晒せば一瞬で決着がつくほどに。

 だからだろう……リーズと会話なんてしたからこの結末になってしまったのは。

 

「余所見は禁物ですよ」

 

「あっ」

 

 脳天直撃のクリーンヒット。

 ぐわんぐわんと回る世界に混乱しながら、自らの失態に歯噛みした。

 魔術により加速させた思考回路の負荷も相まって、死徒だろうとお構いなしに脳震盪を起こしたのだ。

 

 結果は言うまでもなく負けだった。

 次こそは勝ち越してやる。そう誓いながら、腹部に直撃した木剣により今度こそ意識を刈り取られた。




 現状ルイズの使える最も強い技はclaidheamh mórともう一つ、北欧神話のドヴェルグに因んだ技の二つです。ドヴェルグに関しては『ガンド』と一緒に検索すると分かるかもしれません。


 今言えるとすれば、それは決戦の日より三年前に喰われた音楽を愛する哀れな聖職者。ともすればワラキアの夜より顕現するのは道理である。

 ロゴスリアクト・レプリカ改めてリーズはその超越的な回路を用いてアストラル光に刻まれた歴史を紐解く鍵となる。故にいつか来るその時、ルイズの負荷の肩代わりを成すだろう。

 限りない疑似人格候補の中から彼が選ばれた理由はそれほど多くない。ルイズ……というよりタタリの後継者候補に連なる者だからこそ。






 分かる人には分かると思いますが、今回から登場したリーズはメルブラの彼女です。だから攻撃手段を正式外典(ガマリエル)にしました。
 普通に考えたら死徒であるルイズからすれば劇毒以外のなんでもないのですが、ご都合主義というのもアレなのでここで説明します。 
 メルブラにて彼女の概念武装である死徒への絶対的な『滅び』の概念付与が、タタリであるオシリスの砂による固有結界内で戦闘が行われても効果が見受けられない点を鑑みて「これ、上手く調理すればルイズもいけるんじゃね?」という結論に至りました。
 というのも本来ガマリエルは『調和の取れた肉体』がなければ扱えないとされており、言い換えれば「健全な精神は健全な肉体に宿る」と言うわけです。

 そこで。
 タタリの血を受け継ぐ者であり、ロゴスリアクトの持ち主=ガマリエルの使用者の使用者という何ともややこしい立場を利用して、『概念武装』の効果を弱めました。

 まとめると。

 ・このリーズは『幻影の夏』以降の存在なのであらゆるしがらみから開放されている。だから記憶も曖昧であり、「あったかも知れない」程度にしか残されていない。

 ・ルイズもタタリの血を受け継ぐ者としてオシリスの砂のようにリーズの情報を無意識下でロゴスリアクトにインプットした。

 ・調和の取れた肉体を失ったリーズにガマリエルの本来の力は発揮できない。

 ・リーズ自身、サポート面でルイズの魔力の調整を補っている。だから別に概念武装に頼らない戦法もあるにはある(キリエ・エレイソン的なやつ)

 ・仮に概念武装を展開しても、今のルイズには頭がかち割れる程度の痛みで済む(痛くない様に見えるのは半分痩せ我慢しているからなのと、魔術回路起動による快楽中枢が刺激されるから)
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