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『警告、特異異能体の降臨を観測』
『境界偏光線より
『逆説効果(パラドクスエフェクター)を基にした膨張現象(インフレーション)を確認』
『降臨個体 四辺統括魔道士(シャイターン)』
『発生区間 観測宇宙時間 六千年に再定義』
『ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ』
『再編します』
「___これは、何処の記録だ」
老人が言葉を溢した。
「流れは良い。他と比べても限りなく良い所を突いている。だが、この娘は……」
暗い暗い闇の中、宙に浮く荘厳な椅子に座しながら老人は手元の本のページを捲っていく。
ペラっ、ペラっと紙の擦れる音と老人の独り言だけが暗闇に木霊する。
「なるほど、貴公の仕業というわけだ」
『御名答。流石はこの世界でも数少ない企画側の一人だ。この程度の三文芝居では筒抜けというわけか』
老人が本から目を離せば、何時から浮かんでいたのだろう。小さなテーブルと虚空へ伸びるコードに繋がった黒電話が置かれていた。
黒電話から出た声の主は、老人が何者なのか知っている。それが血を介した同胞故か、はたまた魔導を総べる者への敬意の表れなのかは定かではない。
「確かに銭を払うほどの価値はないが、無償で見れるのであれば暇つぶし程度にはなる。ましてや、貴公が気まぐれで残した脚本ともなればな」
電話の言葉に耳を傾けながらも、目線は手元の本に向けられたままだ。
『恐悦至極とは正にこの事。魔道元帥殿に誉められては幕引きまで確りと綴るべきだったかな?』
残念そうな声で幕引きを描かんとする電話の主の言葉に、老人は眉をひそめる。まるでそれが無粋な手立てと言いたげに言葉を紡いだ。
「いいや、むしろコレで良い。あの黒いのの鬱憤もいい加減コレなら晴れるだろう。後で儂から伝えておこう」
さきほどと一転してからからと気前の良さそうに笑う老人。豊かな顎髭と気難しそうな顔とは似つかわしくない笑みだった。
『そもそも。私がアレに呼び出される可能性を創ったのは御老公、貴方でしょう』
電話が『アレ』と呼ばれるものを指した時、実感のない慈しみの心を……あるいは玩具に対する愛玩の念を察知した老人は、惚けた声で返答する。
「はて、なんのことやら…」
『惚けるのも結構。我ら全員等しく演者たれ、その全てにおいて私も貴方も観客ではない』
「儂を演者呼ばわりか。だが、悪い気はせんな。しかしまあ、まだまだ舞台に登るには起承転結が整っていない」
老人は豊かな髭を弄りながら疑問点を指摘するが、電話の主は予め分かっていたのか、用意されたような台詞をなぞる。
『心配無用。貴方の出番は第二幕から確りと作ってある』
「子煩悩極まれりだな。何時からそんな他人に興味を持つようになった」
『私は、私の演劇に参加した演者達は全員覚えているとも。これから産まれる者も、既に荼毘に伏し塵となった者も産まれることなく散っていった屑星の全てを。無論貴方もあの子も十六番目の彼も例外なく』
電話から『十六番』という数字が聞こえたと同時に、部屋の天球が回り___老人の手元の本の頁もこれまで以上に勢いをつけてめくられていく。
羅列される頁に記されたものは、一人の人物の顔と、映し出されたものの情報だった。
老若男女の区別なく、悪人や聖人の差別なくあらゆる可能性を載せたそれは、物凄い勢いで頁をめくる。
「では楽しみの為に、此処から先は目を通さないでおこう」
暫く経って、頁の勢いは弱まった。
画面上には、一匹の
朱い月を背に、子連れの如く烏を連れて飛ぶ様子はとても様になっている。
『なるほど、では____からは_____』
「いや待て、それだと道理が通らん。貴公のソレは黒い姫との契約のはずだ」
『その通り。万に等しい手段を講じようと私のようには行かないだろう。だが、烏合迎合は時として幕が閉じないうちに薔薇を投げるものだ』
「___なるほど。それ故のあの時代か」
老人の疑問に芝居掛かっ回答をした電話の主に納得したのか。あるいは自己完結で済ませたのか定かではないが、老人は満足げに頷いた。
『アドリブまみれとはいえ公開中止とまでは行かない。彼もその為にこの時代まで生きてきたのだから。さて、そろそろ通信料金も手元の軍資金では足りなくなってきた頃合いだ』
「一つ聞かせろ。貴公は六に挑んだ愚者か、それとも三を讃えた妄執か」
電話の主が通信を切ろうとした瞬間、老人が待ったをかける。
『___敢えて言うなら、私は六に挑み破れた雑魂であると同時に三に希望を見出した者だとも』
「そうか、それは___実に愚かだな」
カチャン、と電話を切る音が虚しく響いた。
**********************
「あの娘、やはりアレの直系か……」
老人がその手に収めた本を閉じる。幾万にも及ぶ頁を綴っていた本は老人が手を滑らせると同時に暗黒へと溶け込んだ。
「タタリの話を聞いた時点で『載っていた』が、どうにもアレに関するものは儂からしても不可思議極まりないからな」
思い耽るように老人は椅子の背もたれに身を任せた。ギィ、と軋みをあげながら弛む椅子を気にする素振りも見せずに、老人は再び宙に指を滑らせた。
___ポン。
荘厳とした雰囲気に満ちた空間には不釣り合いな軽やかな音が鳴り響く。それと同時に、周囲を囲っていた天体の中でも老人の頭上を占領していた星の一つが、音と共に形を作った。
自由落下運動に従って落ちてきたソレを掴んだ老人は、遥か昔を懐かしむような視線を向ける。
「今やアレとの縁はこれだけだと思っていたが、この年になっても未知は在り続けるのだな」
老人の手中に収まったソレは一本の杖だった。真直に伸び、一本の亀裂が走っているソレを眺めながら老人はずっと杖を見つめていた。
幾時かの時間が過ぎ、周囲の天体が老人をゆっくり一周した頃、手に持つ杖を再び虚空へと仕舞い込んだ老人は椅子から立ち上がる。
「
「ブリシサンにも教えてやらねばな。あの
**********************
「あれ?もしかしてバレたかな」
優しそうな顔つきの青年が、やってしまったと言いたげな表情で苦言を漏らした。
「ちょっと、また
青年の隣に並ぶタレ目気味の特徴的な
「いやいや違う違う。なんて言えばいいかな……う〜ん、昔の友達に生涯隠そうとしてた秘密がバレたって感じかな」
こりこりと頭を掻きながら青年は左目を閉じて気まずそうに少女から顔をそらした。
呆れた様子で青年を睨んだ少女は、青年の閉じた左目をむりやり指でこじ開ける。
「何よそれ。結局この目で
「そこまで万能じゃないよ。あくまでも僕の目は見たものを
他人にむりやり目を開かされている状態でも青年は先程と変わらないテンションで少女に話しかける。まるで気にしていないのか、あるいはもう慣れてしまったのか。悲しい事実から目をそらしながら、物理的にそらしていた顔を少女に向き直した。
「それよりあそこ、どうするつもり?はっきり言ってあんなのどうあっても攻略出来ないわよ」
少女の目線の示す方向に、ソレはあった。
翡翠色の大小様々な大きさをもつそれは、数百はくだらない数を地面から生産していた。
___翡翠に輝く水晶の渓谷とも呼べる幻想的ながらも、どこか生命の根本から震わせる恐怖を彷彿とさせる景色が広がっていた。
「そうだよ。どうしたって無理だもん。仮にその可能性を視たら僕の頭がぶっ壊れる。現に■■■■■■■と■■■■■■■■は僕の見た通りの結果になった。」
何も感じていないように振る舞いながらも、青年の握る拳は小刻みに震えていた。
「じゃあどうするのよ」
ジトっとした目線に射抜かれ、気まずさを感じた青年は苦し紛れに感想を口にした。
「御師様ならあるがまま受け入れただろうけど僕は僕だからね。ゼルレッチに倣って最後まで抗うよ」
少女にとって青年の語る御師様やゼルレッチ某が何者なのかは分からない。
出会った当初からこの青年に対する興味関心は少なかったせいもあるが、青年本人が語りたがらないのも一つの要因である。
そも、少女からすればこの青年に『師』という存在が本当にあるのか疑わしいところであった。
「あとが怖いけど、君の力と僕の魔法でアレを縛る。最悪僕ごと狭間に封印するのも手だ」
少女が望み薄で聞いた手段に、青年はそれとなく答えた。
その回答が予想し得なかったのか、内心度肝を抜かれながらも少女は顔におくびにも出さずに再度問う。
「一ついい?仮にあんたのその策が上手く行ったとしてアレが素直に縛られてると思うの」
指さした方向。
水晶渓谷の中央の、一際輝きを放つ巨大水晶に囲われた形で『
___例えるなら、それは蜘蛛。
___例えるなら、それは絶望。
___例えるなら、それは終焉。
___否、相応しい言葉など存在しない。
ただとそこにあるが故に、世界はソレに食い尽くされる定めにある。如何なる理屈、法則を以てしてもソレの持ちうる概念は覆すことなど出来はしない。
故に、ある者はソレをこう例えた。
曰く、___どうしようもない絶望。
彼の者の名はORT。
惑星統括細胞、ワン・ラディアンス・シング。
今は地に伏し眠る怪物である。
「十中八九突破されるだろうね。それも魔法の構成を理解した上で侵食してくる。アレはそういう生き物なんだ」
「惑星統括細胞……確かそんなのだったわね」
二人の目にORTはどう写っているのだろう。その解を求めることは、この場において最も無意味な質問の一つだろう。
何にせよ、その怪物は人知で図るには埒外の存在過ぎた。
「そう。ああやって停止しながらも絶えず星を侵食してる正真正銘本物のバケモノだよ」
青年の言葉通り、ORTは活動を休止しながらも周囲の侵食を進めていた。
少しずつ、亀の歩みほどの進捗だったとしても世界は水晶に飲まれ続けている。
「だから僕たちは希望を残すんだ。老い先短い人間にとって希望は受け継がれるもの。血を介さない知性の継承を以て僕たちはアレを……ORTを倒すんだ」
手に持つ真直に伸びた一本の亀裂の走った杖を構えて、青年は静かに、そして気高く世界へ宣誓した。
「………ハァ、要するに私とあんたは来る時が来るまでの捨て石ってことね?」
少女はその宣戦布告ともとれる言葉に、冷めた様子で反論を加える。
その言葉に青年は、出鼻をくじかれた気持ちになりつつも、努めて少女に説法をかます。
「捨て石じゃなくて布石だよ。何十年何百年、何千年も先の誰かが手を取り合ってアレを倒す為のね」
そう言って青年は、右手をスッ、と擡げて少女に向ける。
「だから、さ……地獄の果まで付き合ってくれるかい?僕の愛しの使い魔」
差し出された手を数瞬眺めた少女は、険しい表情を解くと、見惚れる程に美しい笑顔をみせて青年に微笑んだ。
「もちろんよ。私は貴方の盾であり矛。生きているなら何があろうと守ってみせるわ」
その手を取って少女と青年は揃って笑う。
絶望なんてへっちゃらだと。
希望を信じて進むんだと。
先に待つ怪物なんて魔法使いと使い魔が揃っていれば倒せるんだと。
それが、なんの根拠もない虚勢であっても二人にとっては何よりも力強い理由だった。
「「行こう、怪物退治だ」」
そうして二人は、手を取り合って水晶渓谷へと足を踏み入れた。
なお、実際にはブリミルには3人の子と一人の弟子がいたので血による継承もしっかり行われた模様。
ブリミルの設定は原作の『マギ族』を魔術師の家系にしたというものです。今後書く予定もないしマテリアルに書くほどの物でもないのでここで吐き出します。
・ブリミルはソロモンの弟子だった。ソロモンの死後ブリシサンに同伴し時計塔(の原型)を作った。その時降霊科を作るのも手伝った。
・朱い月とゼルレッチの頂上決戦には参加していない。正確には参加しようとしたが、偶然居合わせたラスボスこと朱い月に魔術で強制的に転移させられてしまう。
・転移の際にブリミルの運命力と世界の意思が奇跡的に噛み合い、本来なら虚数空間に放り出される所をハルケギニアにたどり着いた。
・折角だからセカンドライフ謳歌しようと考えた矢先にハルケギニアにもORTが居た。
・ORTがいる理由が『ウッヒョー!(星の構成物質)食い放題やんけ!!』であることを知ってブチ切れる。
・聖地(エルフの国)を水晶渓谷にして眠ってるORTにビビりながらも、使い魔の故郷でありジン(真エーテル)の源泉であるその場所を奪還しなければ世界が滅びると確信する。
・何度か魔法で追い出そうとしたがすべて未遂に終わる(下手に手を出して起きたりしたらガメオベラ)
・ORT打倒に手を焼いているブリミルを観察していた当時のエルフ達は、彼を侮蔑の意味を込めて
・チキチキ!ハルケギニア防衛作戦!!決行中。
ブリミルが朱い月が来るまで寿命で死ななかった理由?いいだろ、宝石翁と時計塔学院長の同期だぜ?(ゼロの使い魔側の設定が絡んでくるから本当のことは後でマテリアに書きます)