PERSONA -The End of UTOPIA- 作:タカヤマ一騎
そこは化け物がひしめく危険地帯ではあったが、響が"ペルソナ能力"に覚醒したことにより事なきを得る。
二人は謎の生き物、ウーミンの導きで元の世界へ帰還することができたが……。
2022年4月10日(月)晴
【夜】
亮と共にトンネルの向こう側の奇妙な世界へ行ったその日の夜。疲れから食事を済ませ、シャワーを浴びるなり、響はすぐに眠りに落ちてしまった。
目が覚めるとそこはベルベットルームであった。
「再びお目にかかりましたな」
眼前には当然ながらイゴールとエルサの姿があった。しかしなぜかエルサは口元をマスクで覆っていて、なにやら伏し目がちだ。
「契約は交わされたようですな。それにペルソナにも目覚めたようだ。『ヤマトタケル』ですか。これは興味深い」
ペルソナ。そういえばシュヴァルツもそんなことを言っていたか。神話の英雄であるヤマトタケルと名乗った、あの戦士の姿をしたもう一つの自分とも言える存在を。
「どうやらその自覚がおありのようですが、あなたのその力、ペルソナとはまさにもう一人のあなたの人格が生み出した。あなたが戦う意志と覚悟を決めた心が形となった矛であり盾」
なるほど。だからあのような姿で、戦う力となったわけかと腑に落ちた。
「それにあなたのペルソナは他の方とは違う特別な力を持っていらっしゃる」
特別な力。何の事であろうか。
「ワイルド……。それがあなたご自身が手に入れた力。一見からっぽにみえるそれは、無限の可能性にも満ち溢れている。いわば数字の0のようなもの。研鑽を重ねていけばその意味も見えてくることでしょう」
研鑽……。つまりはあの化け物、シャドウと戦うということであろうか。
「ペルソナ能力とは心を御する力。心とは絆によって満たされるもの。他者と関り、絆を育み、あなただけのコミュニティを築かれるが宜しい。コミュニティの力こそがペルソナ能力を伸ばしていくのです」
他者。知り合った者といえば亮やヴァネッサが思いつくが彼らがかかわっていくのだろうか。
「やがてはその絆の力が、必ずあなたが歩んだゲームに打ち勝つための道しるべとなってくれることでしょう。戦いだけがあなたの力を伸ばしてくれるとは限りません。そのことをお忘れなきよう……。これをお持ちなさい。これより貴方は正式にこのベルベットルームのお客人だ」
響の眼前に光るかたまりのようなものが浮かんだかと思うと、鍵の形に変わった。それを響は手にした。
「今度お目にかかる時には、貴方は自らここを訪れることになるでしょう。ではその時まで……ごきげんよう」
そうして視界は暗転するのであった。
その頃別の場所で見ていた夢は……。
──でかいくせにどんくさいんだよお前。
──馬鹿力だけど、何よりもバカでどんくさい。まあよくしてやればすぐつけあがっていいように使えるから便利だけど。
──黒帯といったってあんなごり押しみたいなことしてりゃ取れるのは当たり前。パワーばっかで技術が全然ないんだよなあいつは。むしろここまでだろうな力任せも。
──武内?ああ、でかい以外に取柄のない奴のこと?
そういう自分に対する言葉が黒い靄となって巨人となる。そして自分の体を握りしめる。今にも潰さんばかりに。
「くそっ……夢か!嫌な夢見させやがって……」
亮の夢であった。脂汗がひどい。
「俺だってやれるんだ……俺だって……」
昔から言われていた暴言。もう慣れたもんだと気にしてないつもりだったが、トンネルの世界での一件がぶり返させてしまったようだ。
2022年4月11日(火)晴
【朝】
昨日と同じような流れで響とヴァネッサは寮から学校への登校ルートを歩いていた。その時、後ろから声を掛けられる。すぐにそれが亮であると気づいた
「よぉ、響。早々に彼女同伴か?」
「亮か、おはよう」
「違うヨ。ヒビキくんとは同じ寮生なだけだヨー」
彼女同伴というフレーズにヴァネッサが反応する。とはいえども若干照れ気味ではあったが。
「そういや、一年の留学生の子だっけか。俺、武内亮。響のダチだ。よろしく」
「うん。ワタシ、ヴァネッサ・ムーラン。よろしくね、リョウくん。って顔すごいね。どうしたの?」
昨日の負傷のせいか、絆創膏やら湿布やらが顔面に貼ってある。自分と違ってわりと重症だったしなと思った。
「ああ、昨日階段で転んじゃってな。おかげで二枚目が台無しだわ……」
「ええっ!?大丈夫ナノ?病院行った?」
「大丈夫大丈夫。鍛えてるから体のつくりは頑丈にできてるのよ」
ぐっと腕に力を込めて、薄手とはいえジャージの生地の上からでもわかるほどの力瘤を見せてみた。
「うわーっ、リョウくんすごいネ!ボディビルやってるの?」
響から見てもすごいと思った。伊達に格闘技やってるだけあるんだなと感心した。それから三人で歓談しながら学校へと向かった。
学校についてからは毛色が違った。校門前にちらちらと見慣れぬ格好の連中が陣取っている。腕章や服に「新聞」や「テレビ」というフレーズが書かれていることからマスコミ関係であることは間違いなかった。
そして臨時に全校集会、ということで朝は体育館に全生徒が集められ、並ばされていた。
「臨時の集会なんてだるー」
「前野の話か」
「校門にマスコミいたよね」
そんな感じの話題でざわつく生徒たちを壇上で生徒指導の教師が鎮める。響にはまるで昔の戦争映画に出てくる鬼軍曹のように見えた。
「静かに!これから臨時集会をはじめる。では校長先生どうぞ」
教師が引き下がると代わりにやってきた校長が壇上でマイク越しに話始める
「みなさん、おはようございます。今日はみなさんに悲しいお知らせがあります。昨日の朝、2-Bの担任であった前野先生が転落事故で亡くなりました。今のところ事故なのか事件なのかは警察の方で捜査中とのことですが、マスメディアの人たちも多くおりますので、軽々しい発言は控えるようにおねがいします」
周囲は「やっぱり」ということで再びざわつき、それを生徒指導の教師が鎮めようとする中で黙々と校長は話を進める。
「前野先生の代わりになる先生はまだ手配しておりませんが、それまでの間は副担任の石動先生が2-Bの担任代理として務めますのでよろしくお願いします」
「まあそういう人事だわな」
後ろの方で亮がつぶやいた。そうしているうちに集会は終わり、生徒一同は解散となった
【昼休み】
響は亮と屋上で昼食を取っていた。昨日は残りの手続きのこともあって二人で昼食なのははじめてだった。
屋上は庭園風になっていて、生徒の出入りは許可されており、自分たち以外の生徒の姿も散見されている。
「一斤分のサンドイッチ……」
自分のは寮で敦子がこしらえてくれた弁当であったが、亮のそれは昨日のハンバーガーほどではないがやはり常軌を逸脱していた。
「すげえだろ?近所のパン屋さんで特注してもらってんだ」
「お、おう……」
「それにしてもお前の弁当は弁当で美味そうだな」
「ああ。うちの寮の管理人さんが作ってくれるんだ」
「いいねえ。俺も寮住まいにしようかな」
「お前地元だろ。それにお前が寮に来たら一日足らずで寮の食糧が尽きる」
「ははっ、冗談だぜ」
歓談をしながら食を進める。周りに入ってくるのはやはり死んだ前野の話であった。
「まったく……飯時に死人の話か……」
食事中には似つかわしくない内容で響は顔をしかめた
「もしかして前野のやつさ……」
「お前までなんだ」
「あー、すまん。これは俺の勘なんだが前野はトンネルに入ったんじゃないかなってな」
「先生があんな噂話、真面目に受け取ってたっていうのか?」
「お前は前野のことは知らないだろうけど、前に言ってたんだよ『自分は大学時代に元オカルト研で都市伝説調べてた』って」
なるほど、そういうことなら教師の身でも少しは信じてるのも実際に踏み込んだのにも合点がいく。
「トンネルに入ったから俺たちみたいにシャドウに襲われたってことか」
「そういうこと。それにウーミンだっけ?あのちっこいのも人の出入りがあるって言ってたじゃん」
そこは響もひっかかってたところだ。その出入りの中に前野の姿もあったということか。
「ちょっとでもいいからあいつに話聞いてみようぜ」
「つまりは今日もトンネルに入らないといけないってことか」
「そういうこと。手首のことも気になるしな。お前も消えてないだろ?」
そういえば亮の左手首にも黒地にファイヤパターンが入ったリストバンドが巻かれてる。
「やっぱ消えないよなあ」
その時だった。何者かが二人の前にやってくる。
「君たち、トンネル入ったの?」
栗色の髪をひっつめのおさげにしている女生徒がやってくる。ブレザーではなく水色のニットのセーターを羽織っているが、赤いリボンタイはちゃんとつけていたので、ということは自分たちと同学年か。
「石動か。そんなことお前には関係あるわけ?」
亮が女生徒に食いついた。
「警告。もう一度あそこに足を踏み入れたら命の保証はないわ。まぐれで出られたのに、次も大丈夫って調子乗ったら……死ぬよ、君たち」
言うだけ言って、すたすたと二人の元から女生徒は去ってしまった。
「あの子、誰?」
「2-Aの
そういえば昨日、石動が妹が2-Aに在籍してると言っていたのを思い出した。
「リアリストって聞いてたけど、意外にオカルトにも精通してんのかな」
「じゃあそんな子がわざわざ注意にくるなんてよっぽどじゃないか?」
「大丈夫だろ。お前のあの力があればよ。ペルソナ、だっけ?」
「俺に頼るか」
「だってほら俺は人並みの腕っぷしぐらいしか武器ないしさ……頼りにしてるぜ大統領!」
「おだてるな。プレジデントじゃないし」
とはいえ、さっきの女生徒、茉莉の口ぶりが気になる。あれはまるで自分たちより先にトンネルの向こう側の状況を知っていて、しかもあの化け物と戦いなれているのではないか、と直感がそう告げた。
「……まさかな」
「響、あいつの話なんて忘れて食おうぜ。次体育だし」
「そうだな」
こうして亮に促されて、まだ少ししか手を付けてなかった弁当を食べることにした。
【午後】
午後一の授業は体育だったが、先に用を足してから更衣室に向かうことにした響はふと踊り場で女生徒たちの立ち話を聞いてしまう。
「武内のやつ、さっそく転入生にとりいってやんの」
「無駄にでかいだけのバカだから、ああやって虎の威を借る狐のつもりなんでしょ」
「転入生のやつも災難だよねー。あんなのに懐かれちゃってるのにさー」
内容が内容だけに出てこれることもなく。そのままたった一日の間柄とはいえお前らにあいつの何がわかると歯がゆい思いになる。このまま出て行って何か一言でも言ってやろうかと思ったが。
「お、どうした響」
「亮……いや、なんでもない」
後ろから亮がやってきた。既に体操着姿になってる。半袖のシャツだから、それまでずっとわからなかったが確かに伊達に鍛えてないなと思える体格をしていた。
「そっか。先行ってるから遅れるなよ?」
もしかしてあの陰口、亮に聞こえてたのではと思ったが、気にするそぶりもなくすたすたと歩いていった。
「胸糞悪いな」
そうつぶやいて響は更衣室へ急いだ。
【放課後】
マスコミの人間が陣取っている。生徒にインタビューを聞いているようだ。自分たちは不審な言動で怪しまれないように、ほかの生徒が質問受けているタイミングを見計らって響と亮は学校を出ることにした。
さすがに駅前までには陣取られていなかったので、そこからバスターミナル、そしてトンネル最寄りのバス停まではすんなりとたどり着けた。
「まだ時間じゃないが。どこかで時間潰すか?」
スマホの時計はまだ4時44分どころか4時にもなっていなかった。
「噂通りなら大丈夫だ。言うなれば顔パスってやつ?」
「?」
亮の話ではこうだった。一度トンネルの世界に入ることができれば、時間に関係なく訪れたいときに訪れるということだった。だがここで一つ疑問がわいた。
「ちょっと待て!そういうことはここを出られた奴がいるってことだよな!?」
昨日は出ようとしても何度も戻ってきてしまった。ウーミンのおかげで出られることはできたが、つまりは何かしらの出る方法が別にあったということか。いや、そもそもこんな話が噂ではなく実話だとしたら、出られた人間がいなければこんな話が生まれることもない。
いや実際実話なのだ。昨日ああしてトンネルをくぐって向こう側の世界にたどりつき、そして化け物どもに襲われた。
「あっ!そういえば確かにそうだ!こいつは盲点だ!」
亮はしばらく思案するが。さすがに情報不足なので思い浮かぶものはない。すぐい思案するのは止めた。
「まあここで悩んでてもしょうがねえ。そいつも含めてあいつに聞いてみるしかねえ」
「そうだな」
そして響と亮はトンネルの中を潜っていった。
トンネルの向こうは昨日と変わりない風景だった。
「おーい、ウーミン来てるだろ!?」
大声で亮はウーミンに呼び掛けた。するとすぐにウーミンは姿を見せた。
「お前たち、来ちゃったのか!?」
「実は聞きたいことがあって……」
響と亮はウーミンに前野が来てなかったか確認することにした。幸い、顔写真を亮が持っていたが、ウーミンには気配だけしかわからず、誰が来ているかまではわからないとのことであった。
「そもそもオイラに人間の顔を見分けろっつってもわからないぜ」
「うーむ……小動物にそこまで求めるのは酷だったか」
「小動物じゃねえし!でも兄貴は別格!」
そうしてウーミンは兄貴の方を向く。亮といいウーミンといい、懐かれ上手な性分なんだろうか
「でもそのマエノって奴がここに来て死んだのは間違いないだろうな」
「やっぱりそこは当たってんのか?」
「ここはシャドウの巣窟。あいつらでうじゃうじゃしてるからな」
「シャドウ?」
「お前らも昨日見ただろあの化け物」
ウーミンの説明によれば、ここは人の心が生み出した集合的無意識とリンクする世界。あのトンネルがその出入口となっているらしい。
そしてシャドウはいわば人の心の影が生み出すもので、それがこの世界を住みかとしているようだ。どれも凶暴な性質を持っており、迷い込んできた人間を襲うとのことだった。
シャドウの名前はシュヴァルツの話でも触れていたが、ある意味では本体の人格を離れて好き勝手暴れてるペルソナの一種みたいなものだと解釈した。
「うむ。わからん!典型的な体育会系だし!」
「大体わかった」
「わかるの!?」
理解力を示した響に、亮は目を丸くした。
「さすが兄貴。そこのとーへんぼくとはわけが違うようだな」
「誰がとーへんぼくじゃい!ところでそのシャドウとやらがいるってんならここもやばくないか?のんびり立ち話してる暇じゃないだろ?」
「そこは察しがいいな。この辺りは安全地帯で、なんでかシャドウも寄ってこないんだ」
「なるほどな。道理で昨日は無事だったわけだ」
「で、マエノとやらの手がかり探してんだろ?実は一昨日、人の気配があった場所あるのに気付いたぞ」
一昨日といえば前野がトンネルくぐったって時間だろうか。
「よーし、ならすぐ案内してくれ」
「いいぜ。ついてきな」
二人はウーミンの案内に乗った。
たどり着いた先はいつの間にやら建物の中。どこかの建物の廊下の中だった。
「なんだこれ学校の中?でも高校とかとは雰囲気違うな」
「大学か?ほら、このポスター」
壁に貼られたポスターを響は指す。内容はおどろおどろしいイラスト、そして「部員募集中 城南大学オカルト研究部」と書かれていた。
「城南大学!?間違いねえ!たしか前野の母校だ。しかもオカルト研究部ときたもんだ!」
「この世界は侵入者が望む世界が作られるからな」
「そういや言ってたもんなあ、大学時代が一番楽しかったって」
亮が寂しげにつぶやく。自分たちもそういう将来になるのだろうか。と思っている内ふとある疑問が湧いた。
「そういえば何故こういう風景できているんだ。昨日はプロレスのリングみたいだったし。これが理想郷なのか?」
靄まみれの赤黒い空にシャドウだらけ、いかにもその言葉とはかけ離れた危険地帯ぶり忘れていた言葉。『トンネルのは向こうには理想郷がある』
「よくぞ聞いてくれた、兄貴。ここは入った人間の願望が形になるんだよ」
「なるほど。だから学生時代がいい思い出だった前野先生にとってはキャンパスの風景になったわけか。じゃあ昨日のあのリングは?」
「あー、俺ってプロレスラー志望だからな。高校卒業しからにするか、大学卒業経してからにするかはまだ迷ってるところだけど」
「だから昨日はあの試合会場が作られたわけか」
「ひでえ黒星だったけどな。あいつら一方的に叩きのめしやがって、普通だったらレフェリーストップだって。まあ非公式戦だからノーカウントということで」
「二人ともお喋りはそこまでだ!」
急にウーミンが目の色を変えた。
「やばい来るぞ!でかいのは引っ込んでろ!ここからは足手まといだ!」
現れたのは昨日も現れた球体のシャドウ、アブルリーが3体。それに響だけでなくウーミンも立ち向かう。
「兄貴、ペルソナ使えるよな!?」
「ああ。だけどそっちもか?」
「その通り!見せてやるぞ、オイラのペルソナ……ナタク!!」
ウーミンの背後から電光を纏いながら飛び出たのは、剛腕を持つ、ロボットのような巨人。ウーミンのペルソナである、ナタクであった。
「ちっこいの!お前もペルソナ、使えんのか!?」
「これでオイラはあいつらと今まで渡り合ってきたんだ!シャドウにボコられるしか能のない、でかいだけの役立たずとは違うんだよ!」
「なっ……!」
言い方ってものがあるだろと亮は思ったが、しかし一方で昨日はほとんど何もできなかったのも事実だってそれ以上はぐうの音も出なかった。今できるのは二人の戦いを見守るだけだった。
「雷撃せよ!」
ナタクは電撃を纏わせた両腕を突き出す。すると一体のアブルリーの頭上より稲妻が落ち、アブルリーは消滅する。
「俺も行くぞ、ヤマトタケル!」
響もヤマトタケルを発動させ、剣による一撃でアブルリーを一体切り裂いた。その隙をついて、残されたアブルリーが響に突撃する。不意を突かれた響はダメージを受ける。
「ぐはっ!」
「兄貴!回復だ!」
ウーミンが緑色に光ると、響も緑色の光に包まれる。光が消えると、響からは何事もなく傷や汚れが消えていた。
「ペルソナってそういうこともできるのか!」
「そういうこと!暴れるだけが能ってわけじゃないのだ!兄貴、やっちゃえ!」
「お返しだ!」
言葉通りお返しとばかりとヤマトタケルが放った光の槍がアブルリーに突き刺さり、アブルリーは消滅した。ひとまずこれでシャドウの気配はなくなった。
「すっげえ……」
亮は驚嘆するしかなかった。それに比べて俺は、と言いかけたところでウーミンに声をかけられた。
「ぼーっとしてる暇はないぜ。行くぞ」
「あ、ああ……」
一行は先を進むことにした。
「ここだな……」
ついた先にはドアが。「オカルト研究会」と手書きの張り紙がされている。
「入るぞ。何がいるかもわからないから、気をつけてな」
「ああ……」
ドアを開けて進む。誰の気配もない。机と椅子。机の上にはオカルトの雑誌や書類が散りばめられている。棚の中もそういう内容の書籍やファイルでいっぱいだ。
「なになに?"影時間"に"マヨナカテレビ"……?いかにもオカルトって感じだな」
机の上に広げっぱなしのノートを読みながら亮が呟いた。
「こっちには"怪盗団"についても調べてあるぞ」
棚の資料を取り出した響も反応する。昨日のハンバーガー屋での会話でも触れてはいたが、ハワイ住んでいた頃に耳にしていたのでこちらは帰国子女の響でもぴんとくる話題ではあった。
「あの"改心"ってのはある意味オカルトのそれだったんだろうなあ。しかし、こういうものまでしっかりできているな」
「思い出とか認知がそっくちそのまま形に出るからな……この間隔、また来るぞ響!」
天井を破るかのように現れたのは、仮面を被った長い金髪のプロレスラーのような姿のシャドウ、ギガスが三体だ。
「行くぞ、ペルソ……うわっ!」
ペルソナを召喚する間もなく響がギガスのタックルに弾き飛ばされた。
「兄貴!?ぐうっ!」
続こうとしたウーミンも隙を突かれて弾き飛ばされる。
狭い部屋の中では逃げ出す隙も無い。囲まれた響とウーミンは次々と踏みつけにされる目に遭う。
後ろにいたために連中の眼中になかった亮だけは無事ではあったが……。
「くそっ!俺はまた傍観者か!ダチが目の前でなぶり殺しだってのに!」
今でも飛び出したい気持であったが、体が動かない。昨日の痛みよる恐怖心が彼の体を引き留めていた。
「木偶の棒」
「図体だけの大男」
「独活の大木」
前に聞いてしまった自分に対する陰口。忘れたつもりのはずだったのに今になってぶり返す。昼休みにも平気なふりをしていたが、実際には女生徒たちの陰口は聞こえていた。
──でかいだけのバカ
「わかりきってたはずなのにな……わかっているのにどうしようもないのか、俺は!」
どうすることもできず、跪く亮。その時謎の人影が彼の前に現れる。足しか見えず、顔を上げる。目の前にいたのは自分自身の姿が。違いといえば瞳が金色の光に染まっていること。そんな目で自分自身を見下ろしていた。亮の心が生んだ影だった。
『このままでいいのかお前は?』
「だけどよ……動かねえんだよ、体が……!」
『このままだと本当に死ぬぞ。ダチも殺され、夢をかなえられぬ未来を望むのか?』
頭をよぎったのは昼休みに茉莉からの忠告にあった言葉だった。
──死ぬよ、君たち
そしてさっきウーミンに言われた言葉が続いてよぎる。
──でかいだけの役立たず
「俺、役立たずだ……」
「役立たず?そんなことない!」
踏みつけにされつづけながらも、なんとか振り絞って響が亮に語りかけた。
「響……」
「俺、日本に来て、転入して、友達いなくて心細かった!はっきり言って友達作れる自信なかった!でもそんな俺にすぐにお前は友達になってくれた!だから本当のお前はすげえ奴なんだよ!ここで立ち止まるちっぽけな奴じゃない!立ち上がれ、亮!」
「……!」
亮の中で何かが弾けた。
「くそ、どいつもこいつもスパルタだなあ……当たり前だろ……こんなところじゃ立ち止まれねえ!死ねねえ!死ねるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
亮は立ち上がり、鬨の声をあげる。そんな彼の眼前に浮かび上がるタロットカード、描かれているのは「11 STRENGTH」。"剛毅"を示すカードだった。それを亮は掴み、握りしめる。
「もう誰にも役立たずとは言わせねえ!!」
『よくぞ言った!』
そんな彼の姿を見た亮の影はやさしく微笑むと炎に包まれる。炎が晴れると姿は大きく変わる。筋骨隆々の赤い肉体に黒地にファイヤーパターンの入ったギリシャ風の甲冑を纏った大男の姿を持つ、亮のペルソナとなった。
『我は汝、汝は我!我は炎の闘士、オライオンなり!闘魂燃やして、燃やし尽くして、汝の敵すらも焼き尽くせ!』
「言うまでもねえ!やるぜ、オライオン!今日が俺たちのデビュー戦だ!」
オライオンからほとばしった炎が響とウーミン、ギガスたちの間に炎の壁を作り隔離する。
「まさかあいつもペルソナ使いになったのか!」
「まさに炎のファイター……」
ペルソナ使いに目覚めた亮に驚く響とウーミンのもとに亮が駆け寄る。
「待たせたな響、ウーミン!こっから俺にタッチだ!」
炎の壁をギガスたちが飛び越えてくる。亮は動けぬ二人を守るようにして立ちふさがった。
「いくぜ、てめえらごとき一分も要らねえ!秒殺でKOだ!行け!」
オライオンが肘を構えてギガスに突進。いわばエルボーのような形でギガスの頭に直撃すると一撃でギガスが消滅する。
「次は掟破りのアックスボンバーだ!!」
残りのギガスは二体。その内の一体に水平の広げた右腕をさらに肘でくの字に曲げてギガスの喉元に肘関節辺りをぶつける。やはりその一撃でギガスは消滅する。
「一番は俺だ!オライオン、焼きつくせ!」
オライオンが掌に火の玉を発生させ、それをギガスにぶつける。火柱が立ち上り、ギガスは黒焦げになる。だがまだ倒せたわけではない。
「とどめ、行くぞこの野郎!」
跪いたギガスに亮自身が駆け寄り、膝に飛び乗りそれを踏み台にして顔面に膝蹴り、いわゆるシャイニングウィザードをお見舞い。それが言葉通りとどめになってギガスは消滅した。
「ダぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
力いっぱい握りしめた右拳を天高く上げ、叫ぶ亮。それと共にオライオンの姿も消えていった。
「ふぅ……一度やってみたかったんだこれ……」
「すっかりワンマンショーだったな」
亮がオライオンで暴れてる合間に響もウーミンも回復魔法で立ち直っていた。
「へへっ、でも足手まといは卒業だろ?」
「そうだな。オイラが悪かった」
ウーミンは手を合わせて謝った。ものすごく申し訳なさそうな表情で、謝意が伝わってくる。
「気にすんな。事実だったし……でも汚名は挽回したんだ。それでチャラだ」
「亮、汚名は返上するもんだ。挽回してどうする」
「え、そうだっけ?」
響の冷静なツッコミに亮は目を丸くする。だがこうしてひとまずは切り上げて再び出入口の広場まで戻ることにした。
広場に戻るなり三人はこれまでのことを反芻し、考えをまとめていた。
「俺たちはペルソナ目覚めたから事なきを得たけど、前野はそうはいかなかったからシャドウに殺されたってことか」
「今わかることとしたらそれくらいだな。一つ説明がつかないことがあるが」
不可解な部分。それは、なぜ前野は駅前近くの路地裏に落ちたのかという点。住人であるウーミンもさすがにその仕組みまではわからないとのことだった。
「お手上げだな。こりゃ」
「あ、そうだウーミン。これわかるか?」
思い出したかのように響はリストバンドをめくる。そしてその下の痣をウーミンに見せる。
「ああ、それはスティグマってやつだな。トンネルの世界に入ったやつには刻まれるんだよ。そしたら好きな時に入り放題ってわけ」
「なるほど。一種のフリーパスだったわけか」
「顔パスってのはある意味あってたんだなあ」
「逆に言えばあっちの世界で同じようになってる奴がいたら、そいつはトンネルの世界を出入りしてるってことだな」
ウーミンのその言葉に響も亮も言葉を失った。
「そう言われりゃそうだ。こいつは盲点だ」
「前野先生のことについて何か知ってる可能性も」
「だろうな。そのマエノとやらがあっちの世界で変な死に方で発見された理由がわかるかも」
「ひとまずは今日はここまでってとこだな」
一同は解散し、響と亮は現実世界への帰路につく。二人はトンネルをくぐって帰還し、そして駅前へ帰るためのバスを待っていた。その間に亮が話しかけてきた。
「あのさー、実はな…」
「なんだ?」
「あいつらの陰口。実は聞こえてたんだけど、知らんぷりしてた」
体育の授業の前に女子が踊り場で愚痴ってたやつか。やはり聞こえていたのかと響は思った。
「自覚はあったんだ。だけどでかいしパワーもあるしだからさ。うかつなことして迷惑かけちゃいけないってな。はっきり言ってビビってた。自分自身にも、他人からの目にも」
亮は一旦伏し目がちになるが、すぐに目の色を変えた。決意に満ちている眼差しだ。
「だけどちょっとは前向きにもの考えてみるわ。でなきゃプロレスラーも夢のまた夢だしな。それにありがとな。お前のハッパがなけりゃペルソナには目覚めなかったし、ぐずのままあそこで死んでただろうよ」
「礼はいらない。俺は俺の思いのままをぶつけただけだし」
「それでいいんだよ。おかげで俺もお前もウーミンも助かった。結果オーライだぜ」
そう言うと亮は右手を差し出してきた。
「だからよ、よろしく頼むぜ。お前とならいいタッグ組めそうだ」
「ああ。こちらからも改めてよろしく」
響も手を差し出し、握手を組む。その時、脳内に何かが弾ける感覚が生じた。
我は汝……、汝は我……
絆を力とし、絆を力とせよ……
これより"剛毅"のペルソナに、力の祝福を与えん
汝、これを以て、最果ての破滅を打ち破るべし……
そして脳内に響く声。昨夜見た夢の中でイゴールが言っていた言葉を思い出した。
『ペルソナ能力とは心を御する力。心とは絆によって満たされるもの。他者と関り、絆を育み、あなただけのコミュニティを築かれるが宜しい。コミュニティの力こそがペルソナ能力を伸ばしていくのです』
仄かにではあるが確かに心の奥底に力が湧きだしている感覚がある。これがそういうことではあるのだろうし、今はわずかだとしてもこれからの自分の方針次第でこの力がより溢れていくことになるのだろうと響は思った。
「どうした?急にぼーっとして」
心配した亮から声をかけられて響は我に返った。
「あー、いや。なんでもない」
「ま、疲れちまってんだろうな。とはいえ俺もへとへとだし……お、バス来たぜ」
ちょうどバスが来た。二人で乗り込み駅前へ。たどり着くなりすぐに解散して、響は寮への帰路に就いた。
寮までの道の途中は再開発中でいくつか空き地がちらほらしている。その中に二人の人影があった。
一人は小学生ぐらいの男の子で、もう一人は彼よりは年上の少女。制服は自分とおなじ西舞学園のものだ。遠目ではあったが彼女がが茉莉だということに気づくのに時間はかからなかった。
二人の間には段ボール箱が置かれていた。何をしているのだろうかとは思いつつも疲れていて早く帰りたい気持ちもあったので、そちらを優先して寮へと帰ることにした。
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