生き別れの実弟が突然現れた。どうやら実妹と結婚するつもりらしい。頭が追いつかないので誰か私を助けてください。   作:SOD

3 / 4
本作のメインヒロイン、実妹の坂上唯。3話目にしてようやく、まともに動き、まともに喋ります。



はい。まともです。


愛する妹がとても反抗期です。誰か私を助けてください。

 例えばそれは復讐の美酒。

 家族に恋をするその気持ちに、どんな正当化(いいわけ)が出来るのか。

 親愛には程遠くて、ドロドロの恋……独占欲(よっきゅう)をさも美しいことのように騙れるのは、情欲に翻弄されたことのない人だ。自分よりも愛しい人がいない人だけだ。

 ジュクジュクと化膿したこの傷口(きもち)に、美しさなんて、あるはずがない。

 少なくとも、逆上唯(わたし)の恋は、そんなものじゃなかった。

 

 

 だから、わたしはボロボロになるしかなかったんだ。

 

 

 

 「……………………」

 

 目が覚めて、ベッドからカラダを起こす。

 いつもと同じように、赦されない行為の後遺症が、倦怠感と吐き気というカタチでわたしを襲う。いつもと同じ、目が覚めてからトイレに向かおうと、ベッドから降りる。

 足が踏みしめるのは、平らな床とは違う、木やガラスの破片。これもいつもと同じ。自分の感情が制御出来なくて眠った時は、いつもこう。あとで掃除しておかなきゃ。だって

 

 「………………お兄ちゃんが還ってきた時にこんな部屋じゃ、恥ずかしいよね……」

 

 思わず口にした言葉に次ぐように、強烈な吐き気が来る。いつもより…………ずっと強い。

 口元を抑えながら、トイレに向かう。少し、手の中に胃液が溢れる。

 

 

 「気持ち悪い……どうしてだろう? 使()()()()ちゃった、かな……?」

 

 壁伝いに歩いて、階段に。その時、私の神経を逆なでする声が聞こえた。

 

 「唯……? 起きたのか」

 

 私と同じタイミングで階段を登ってきた……()()()の声だ。

 

 「……なんだよ、何のよう?」

 

 「体調が悪そうだから、心配で……トイレか? 手を貸そう」

 

 「……いらないから。さっさと、ソコ……退いて」

 

 いつものように、自己満足で姉ぶりたがる留里に、苛立ちと殺意が籠もる……ムカつく。本当にムカつく。自己満足で私の姉振りたい厚顔さも、いかにも私を心配していますと言いたげな顔で、自己満足を満たそうとしてる。寄りにも寄って私に……。

 

「けど、そんな様子じゃ階段は危険だ。落ちたら怪我をしてしまう。

 なあ。お願いだから、いっしょにいこう?」

 

 うっとおしいなぁ……凄い邪魔。なに? その差し出した手は?

 ただでさえ具合悪くて辛いのに、コイツは本当にお構い無し。邪魔で、邪魔で、邪魔。

 

 --もういい、蹴散らしてしまおう。

 

 

 「…………もう満足でしょ? 視界から消え失せて」

 

 

 それだけ言うと、予兆もなく予感もなく。無音無情の私の()が伸びて、目の前の女を突き飛した。

 

 「--え……?」

 

 伸ばした手をそのままに、階段から突き落されたアイツが中を舞う。

 

 

 「誰がお前の手なんか取れるかよ。

 

 ばーか」

 

 

 「くっ--!? ……うあっ!? ぐうっ!? ああ……っ!」

 

 背中から滑り落ちていく中で、カラダを丸めて致命傷だけは避けるようなカタチを取って、落ち切った先でうずくまる。

 

 「……ざまぁみろ」

 

 落ちた拍子に服の裾が捲れて、アイツの肌が見える。

 青痣だらけの、女の子なら絶対に見られたくないような肌。私が今までつけてやった復讐の数々が。清々しく残っている。

 

 「う……うう……っ。ゆ、ゆい……」

 

 痛みに顔を歪ませながら、涙で頬を濡らしながら、それでもコイツは、私に向けて伸ばした手を、もう一度伸ばし直した。

 

 「……あのさぁ。別に、この名前に思い入れとかないけどさ。

 

 それでもアンタなんかに気安く呼ばれると、本気でイラつくんだけど……さぁっ!!」

 

 「ぎゃああああーーっっ!?」

 

 具合悪くてお腹を庇いながらでも、強打した背骨を踏みつけてやれば、充分痛みは味合わせてやれる。

 

 「私に姉ヅラするな!! 私から()()()()()()()()()お前が!!

 姉なわけあるか!! おいっ!!! お前なんか居なければ! 私はずっとお兄ちゃんと一緒にいられたんだ!! 分かってんのかよォ!!!」

 

 「いやあああぁぁー!? 痛いっ! 痛いっ! 痛いぃー!!

 お願い止めて唯っっ!!! 痛いいいいいーー!!!!」

 

 涙と鼻水と絶叫(こえ)を一度に吹き出して、また自分の為にコイツは声を上げる。

 

 「笑わせんな!! ()()()()()でお兄ちゃんは、もっと苦しくて辛い思いをしてるんだ!! お前のせいだ!!

 

 このくらいでいちいち泣くな!! お兄ちゃんは、もっとずっと辛い思いをしてるのに!! ふざけんな!!」

 

 「分からない!! 分からないよ!! 何を言ってるの唯!?

 私が離人に何をしたって言うの!?」

 

 

 

 「………………は?」

 

 

 

 自分の意思に反して、反射のような作用で、私のカラダが停止した。

 今、お兄ちゃんの名前を呼んだ?

 今までもずっと同じことを言い聞かせてきて、その都度コイツは、お兄ちゃんのことを()()()()()()()()のに……それが、突然……?

 

 私はすぐに留里の束ねた髪を掴み上げる。

 

 「ぐうっ!??」

 

 「……ねえ、今のは私の聞き間違い? 言ってみてよ。

 今、なんて言ったのかもう一度言ってみろよ」

 

 「わ、私が……離人に、何を、したの……?」

 

 聞き間違いじゃなかった。コイツは確かに、お兄ちゃんの名前を呼んでいる。

 

 (……どういうこと……? 何で急に思い出したのコイツ?)

 

 

 「まさか、出来損ないのアンタが、アイツの掛けた呪いを自力で破った? ……まさかね。そんなわけない。

 

 ねえ、アンタどうして突然お兄ちゃんのこと、思い出したわけ? これまで7年間。写真観ても、動画観ても、全然思い出さなかったじゃん。私ですら、少しでも力を抜くと一気に記憶を侵食されそうになるから、あんな嫌なクスリまで使ってたのに……。

 

 何かあったの? 食われた記憶を自力で修復する能力にでも目覚めたとか?」

 

 

「うっ……ぐうっ。り……離人は、さっき、やってきたんだ……」

 

 ヤッテキタ?  何だソレ? ヤッテキタって何……?

 

 

 「…………やって、来た……??

 やって来た……? やって来た………え?

 

 --ね、ねえ、ちょっと! お兄ちゃんもしかして還ってきたの!??

どういう事なの!? 説明してよ!!」

 

 

 「す、する! す、るから!! もう、暴力は……やめて……」

 

 「ああもう! 眠いこと言ってないで早くしてよ!! アンタ本当に鈍臭い!!」

 

 「お、お姉ちゃん……お腹痛いの……うま、く……喋れ、なくて……」

 

 「ああもうめんどくさいなぁ!! 治せばいいんでしょ! 治せば!

 

これでもしも嘘だったら、私、本気で留里を殺すからね!」

 

 「あ……ああ」

 

 「さっさと喋れ! 【ヒーリング】!!!!」

 

 

 

 

 

 

 場面は替わって、ただいま適当な店に入って下着を調達してきた離人が、公道を歩いているところだ。

 

 

 (たった7年で街の風景が変わりすぎてて戸惑ったが、なんとか買えたな。買えた。買えたはずだ。

……ボクサーパンツって、パンツで良いんだよな……??)

 

 歩くたびに実感するのは、自分が還ってきたという実感と、昔読み聞かせで知った、浦島太郎のような疎外感だ。

 

 子供の頃に慣れ親しんだ筈の場所なのに、何故かどこか余所余所しい。

 帰りたかった場所のハズなのに、帰りたかった場所では無くなっているこの現実が、離人の心を締め付ける。

 何もかもが変わってしまった。街の景色も、最愛の妹も。そして、最愛の姉も。

 

 (アイツ……留里はほんっと昔から、ポンコツで。

 一番誕生日早いから、私がお姉ちゃんだって言って、本を読み聞かせてくれようとしてたんだよな……。

 でも結局まだ字が読めなくて、最終的には、唯が留里に耳打ちして、俺一人が聞き役になってたんだよな。ほんと、どっちが姉だか分かんねえよな、アレ。

 

 けど、それでも。少なくとも俺は……留里を、姉だと思ってたんだよな……うん、思ってたんだよ)

 

 「……けど、アイツは俺のこと、忘れちまってたんだな」

 

 離人の脳裏に浮かぶ留里の顔は、いつもキラキラしていて。

お姉ちゃんであることに、全力だった。

 

 

 「あの家に、未練なんかありはしない。」

 

 

 進めていた足が停まる。周囲に、人の声がしない。生き物の気配も、生活の音もしない。

 

 

 「…………だから、俺は、お前に特に用なんかねえ」

 

 言いながら振り返る。殺気を孕んだ視線の先には、長髪を束ねた眉目秀麗なスーツ姿の男がいた。

 

 

 「ふふふ。まさかお前が、生きてあの森から還るとは思わなかったよ。離人」

 

 ニッコリと人受けのする表情を浮かべて、親しげに話しかける男。

 

 「そりゃ重畳だ。どうぞこのまま死んだことにして、お互い未来永劫に縁を切ろうじゃねえか。

 

 空炉井(うつろい) 灯飛(とうひ)

 

 

 「まあそう言うな。せっかく生き残ったんだ。

そう。生還祝いだ。また私のことを父と呼ぶ権利をやろう。

 

 我が息子、白夜離人」

 

 お互い顔に笑みを貼り付け、僅かたりとも笑っていない状態で向き合う。

 

 お互い、全く好きでもない感情で向き合う。

 

 驚くなかれ。この二人、なんと血の繋がった親子だ。では、7年ぶりの感動の再会を祝して、離人から返答を聞くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 「--野垂れ死んで糞でも喰らえ。下郎」

 

 

 

 

 ああ……なんと、模範的な回答だろうか。この上ない、完璧な返答だ。

 ならば、父からもまた、素晴らしい愛の言葉が出るというものだろう。

 

 

 「ふっふっふっ。相変わらず元気な子だ。

 

 

 --それじゃあ、再会を祝して、久しぶりに上下関係の教育をしてやるとしような」

 

 

 




やだ、オリ主の父親クソすぎ!??
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。