生き別れの実弟が突然現れた。どうやら実妹と結婚するつもりらしい。頭が追いつかないので誰か私を助けてください。 作:SOD
はい。まともです。
例えばそれは復讐の美酒。
家族に恋をするその気持ちに、どんな
親愛には程遠くて、ドロドロの恋……
ジュクジュクと化膿したこの
少なくとも、
だから、わたしはボロボロになるしかなかったんだ。
「……………………」
目が覚めて、ベッドからカラダを起こす。
いつもと同じように、赦されない行為の後遺症が、倦怠感と吐き気というカタチでわたしを襲う。いつもと同じ、目が覚めてからトイレに向かおうと、ベッドから降りる。
足が踏みしめるのは、平らな床とは違う、木やガラスの破片。これもいつもと同じ。自分の感情が制御出来なくて眠った時は、いつもこう。あとで掃除しておかなきゃ。だって
「………………お兄ちゃんが還ってきた時にこんな部屋じゃ、恥ずかしいよね……」
思わず口にした言葉に次ぐように、強烈な吐き気が来る。いつもより…………ずっと強い。
口元を抑えながら、トイレに向かう。少し、手の中に胃液が溢れる。
「気持ち悪い……どうしてだろう?
壁伝いに歩いて、階段に。その時、私の神経を逆なでする声が聞こえた。
「唯……? 起きたのか」
私と同じタイミングで階段を登ってきた……
「……なんだよ、何のよう?」
「体調が悪そうだから、心配で……トイレか? 手を貸そう」
「……いらないから。さっさと、ソコ……退いて」
いつものように、自己満足で姉ぶりたがる留里に、苛立ちと殺意が籠もる……ムカつく。本当にムカつく。自己満足で私の姉振りたい厚顔さも、いかにも私を心配していますと言いたげな顔で、自己満足を満たそうとしてる。寄りにも寄って私に……。
「けど、そんな様子じゃ階段は危険だ。落ちたら怪我をしてしまう。
なあ。お願いだから、いっしょにいこう?」
うっとおしいなぁ……凄い邪魔。なに? その差し出した手は?
ただでさえ具合悪くて辛いのに、コイツは本当にお構い無し。邪魔で、邪魔で、邪魔。
--もういい、蹴散らしてしまおう。
「…………もう満足でしょ? 視界から消え失せて」
それだけ言うと、予兆もなく予感もなく。無音無情の私の
「--え……?」
伸ばした手をそのままに、階段から突き落されたアイツが中を舞う。
「誰がお前の手なんか取れるかよ。
ばーか」
「くっ--!? ……うあっ!? ぐうっ!? ああ……っ!」
背中から滑り落ちていく中で、カラダを丸めて致命傷だけは避けるようなカタチを取って、落ち切った先でうずくまる。
「……ざまぁみろ」
落ちた拍子に服の裾が捲れて、アイツの肌が見える。
青痣だらけの、女の子なら絶対に見られたくないような肌。私が今までつけてやった復讐の数々が。清々しく残っている。
「う……うう……っ。ゆ、ゆい……」
痛みに顔を歪ませながら、涙で頬を濡らしながら、それでもコイツは、私に向けて伸ばした手を、もう一度伸ばし直した。
「……あのさぁ。別に、この名前に思い入れとかないけどさ。
それでもアンタなんかに気安く呼ばれると、本気でイラつくんだけど……さぁっ!!」
「ぎゃああああーーっっ!?」
具合悪くてお腹を庇いながらでも、強打した背骨を踏みつけてやれば、充分痛みは味合わせてやれる。
「私に姉ヅラするな!! 私から
姉なわけあるか!! おいっ!!! お前なんか居なければ! 私はずっとお兄ちゃんと一緒にいられたんだ!! 分かってんのかよォ!!!」
「いやあああぁぁー!? 痛いっ! 痛いっ! 痛いぃー!!
お願い止めて唯っっ!!! 痛いいいいいーー!!!!」
涙と鼻水と
「笑わせんな!!
このくらいでいちいち泣くな!! お兄ちゃんは、もっとずっと辛い思いをしてるのに!! ふざけんな!!」
「分からない!! 分からないよ!! 何を言ってるの唯!?
私が離人に何をしたって言うの!?」
「………………は?」
自分の意思に反して、反射のような作用で、私のカラダが停止した。
今、お兄ちゃんの名前を呼んだ?
今までもずっと同じことを言い聞かせてきて、その都度コイツは、お兄ちゃんのことを
私はすぐに留里の束ねた髪を掴み上げる。
「ぐうっ!??」
「……ねえ、今のは私の聞き間違い? 言ってみてよ。
今、なんて言ったのかもう一度言ってみろよ」
「わ、私が……離人に、何を、したの……?」
聞き間違いじゃなかった。コイツは確かに、お兄ちゃんの名前を呼んでいる。
(……どういうこと……? 何で急に思い出したのコイツ?)
「まさか、出来損ないのアンタが、アイツの掛けた呪いを自力で破った? ……まさかね。そんなわけない。
ねえ、アンタどうして突然お兄ちゃんのこと、思い出したわけ? これまで7年間。写真観ても、動画観ても、全然思い出さなかったじゃん。私ですら、少しでも力を抜くと一気に記憶を侵食されそうになるから、あんな嫌なクスリまで使ってたのに……。
何かあったの? 食われた記憶を自力で修復する能力にでも目覚めたとか?」
「うっ……ぐうっ。り……離人は、さっき、やってきたんだ……」
ヤッテキタ? 何だソレ? ヤッテキタって何……?
「…………やって、来た……??
やって来た……? やって来た………え?
--ね、ねえ、ちょっと! お兄ちゃんもしかして還ってきたの!??
どういう事なの!? 説明してよ!!」
「す、する! す、るから!! もう、暴力は……やめて……」
「ああもう! 眠いこと言ってないで早くしてよ!! アンタ本当に鈍臭い!!」
「お、お姉ちゃん……お腹痛いの……うま、く……喋れ、なくて……」
「ああもうめんどくさいなぁ!! 治せばいいんでしょ! 治せば!
これでもしも嘘だったら、私、本気で留里を殺すからね!」
「あ……ああ」
「さっさと喋れ! 【ヒーリング】!!!!」
場面は替わって、ただいま適当な店に入って下着を調達してきた離人が、公道を歩いているところだ。
(たった7年で街の風景が変わりすぎてて戸惑ったが、なんとか買えたな。買えた。買えたはずだ。
……ボクサーパンツって、パンツで良いんだよな……??)
歩くたびに実感するのは、自分が還ってきたという実感と、昔読み聞かせで知った、浦島太郎のような疎外感だ。
子供の頃に慣れ親しんだ筈の場所なのに、何故かどこか余所余所しい。
帰りたかった場所のハズなのに、帰りたかった場所では無くなっているこの現実が、離人の心を締め付ける。
何もかもが変わってしまった。街の景色も、最愛の妹も。そして、最愛の姉も。
(アイツ……留里はほんっと昔から、ポンコツで。
一番誕生日早いから、私がお姉ちゃんだって言って、本を読み聞かせてくれようとしてたんだよな……。
でも結局まだ字が読めなくて、最終的には、唯が留里に耳打ちして、俺一人が聞き役になってたんだよな。ほんと、どっちが姉だか分かんねえよな、アレ。
けど、それでも。少なくとも俺は……留里を、姉だと思ってたんだよな……うん、思ってたんだよ)
「……けど、アイツは俺のこと、忘れちまってたんだな」
離人の脳裏に浮かぶ留里の顔は、いつもキラキラしていて。
お姉ちゃんであることに、全力だった。
「あの家に、未練なんかありはしない。」
進めていた足が停まる。周囲に、人の声がしない。生き物の気配も、生活の音もしない。
「…………だから、俺は、お前に特に用なんかねえ」
言いながら振り返る。殺気を孕んだ視線の先には、長髪を束ねた眉目秀麗なスーツ姿の男がいた。
「ふふふ。まさかお前が、生きてあの森から還るとは思わなかったよ。離人」
ニッコリと人受けのする表情を浮かべて、親しげに話しかける男。
「そりゃ重畳だ。どうぞこのまま死んだことにして、お互い未来永劫に縁を切ろうじゃねえか。
「まあそう言うな。せっかく生き残ったんだ。
そう。生還祝いだ。また私のことを父と呼ぶ権利をやろう。
我が息子、白夜離人」
お互い顔に笑みを貼り付け、僅かたりとも笑っていない状態で向き合う。
お互い、全く好きでもない感情で向き合う。
驚くなかれ。この二人、なんと血の繋がった親子だ。では、7年ぶりの感動の再会を祝して、離人から返答を聞くとしよう。
「--野垂れ死んで糞でも喰らえ。下郎」
ああ……なんと、模範的な回答だろうか。この上ない、完璧な返答だ。
ならば、父からもまた、素晴らしい愛の言葉が出るというものだろう。
「ふっふっふっ。相変わらず元気な子だ。
--それじゃあ、再会を祝して、久しぶりに上下関係の教育をしてやるとしような」
やだ、オリ主の父親クソすぎ!??