口の代わりを務めるもの(〆)
この世界じゃ百人に一人は覚醒者らしい。
覚醒者、要するに《覚醒》によって何らかの超自然的な力を身に着けたヤツら。
そいつらは”氣”だとかを操るタツジン――アデプトだったり、マナを操ったりして魔法を繰り出したり精霊を呼び出すメイジやらシャーマンだったりする。
人によって力の出力や使い方も変わってくるそうだが、俺にはどうでも良い話だ。
俺には最高の魔法がある。
銃だ。
銃は文明が生み出した誰でも扱える最高の魔法だ。
「クソ、お、俺は魔法使いだってのに……!」
目の前にコンクリートに這いつくばってるヤツがいた。
そいつは行政の管理も行き届いてないようなクソみたいなコンクリートを更にクソみたいな血で汚してる。
周囲にもゴミが散らばってるが、俺にはコイツの血が一番汚く見えた。
コイツは覚醒者だ。
情報によれば偏位魔法使いってヤツらしい。
呪文だか精霊を呼ぶだか、色々ある内のどれか一つしかできない出来損ない。それが偏位魔法使い。
だがこういうヤツらは呪文を使えるとか、精霊を呼べるとかで調子に乗る。
俺はそういうヤツらが大嫌いだったし、だからこそそういうヤツらを文明の利器である銃で撃ち殺すのが最高に楽しかった。
俺は勿体ぶりながらアレス製のライトピストルをリロードする。
アレス・ライト・ファイア70は安価で手頃な銃器だ。
トリプルAという生粋のメガコーポの枠組みに入っているアレスが提供してる銃器はどれも素晴らしい。
勿論このライト・ファイア70はアレス・プレデターみたいな立派で大胆で力強い銃とは呼べないが、コイツは俺の銃殺処女を奪ったベイビーなので超愛している。
「クソ……なんでこんなことに――」
BLAMN!
ライト・ファイア70が火を噴けば、出来損ない覚醒者のヤツは後頭部を撃ち抜かれ即死した。
なんでこんなことに、と言っていたが別にこれといった理由はない。
そもそも人を殺すのにこれといった理由は必要だろうか?
俺は一瞬考えこんだが、無駄な考え事は脳のリソースを割かれるし、ピストルの射撃にもブレが出てしまう。
やめだ。
俺はその考えを捨てて、今日の仕事をこなすことにした。
俺の仕事は銃を撃つことだ。
ではさっきのも仕事に入るんじゃないかと言ってくるようなヤツもいるかもしれないが、そうではない。さっきのはちょっとした趣味の内だ。
俺は口の代わりに銃を使って、人を脅す。
そして揉め事を解決するのだ。
揉め事というのは大抵複雑な事情が絡み合っていて簡単に解決できないものと思われがちだが、実はちょっとしたことをするだけで解決できるものなのだということに人々は気付いていない。
それこそが銃だ。
口なんか使ってぺらぺらと喋るより銃で解決した方が良いに決まっているだろう。
これはそこら辺でピストルを持ってウロついてるチンピラ風情には難しすぎるだろうし、俺より上の立場にいると思ってるシャドウランナーのヤツらは難しいことの考えすぎで簡単なことを見落としてしまってると言える。
どいつもこいつも難儀なものだ。
俺は出来損ない覚醒者の死体を然るべき場所――といっても死体は路地裏にあるので特別動かしたワケではないが――に放置して、仕事の現場へと向かう。
今日の仕事の現場はとある廃倉庫だ。
シアトルには無数に廃倉庫があるが、ダウンタウン地区でもあまり治安が良いとは呼べない場所の倉庫街にある廃倉庫の一つが現場だ。
だから今日は趣味で人殺しができた。
ダウンタウン地区の中央に行ったらナイトエラントが来てちょっとマズいことになってたかもしれないが、こういうところではマッポの目が行き届きにくいし、なおかつ別に死んだところでどうでも良いヤツが一人死ぬだけならヤツらは手出しはしてこない。
俺の中のルールがそう言ってるんだから間違いではないだろう。
そしてこんな場所でする仕事の内容はと言えば、勿論表沙汰にはできないようなものだ。
依頼人のヤツはシアトルで幅を利かせてる大規模ギャング《カッターズ》の末端構成員の一人で、取引をしたがっていた。
どうやら取引相手はそのカッターズの相手に相応しくないチンケなスマグラーらしく、タグ付けされていないピストル類を大量に入荷したらしい。
もっと派手な銃器の取引をしたらどうだと思ったが、まあいくらカッターズの構成員とはいえ依頼人は末端も良いところ。
そういうチンケなヤツからチンケな武器を購入して、売り捌くのがシノギらしい。
末端構成員には相応しい取引だろう。
だが俺が呼ばれたってコトは、まともに取引しようとは甚だ思っていないらしい。
つまり俺が銃をその相手にぶちかまして、脅し取って超少額で購入するって魂胆だろう。
これには俺も思わずゾクゾクした。
取引で後先考えず銃をちらつかせたり撃ったりしちゃあ、シアトルの海でシーフードに食われるっていうのは良く聞く話だ。
だが今回は初めからそれを、依頼人に望まれている。
こんな楽しいことはない。
いつもなら依頼人の気に入らない相手の膝や腕に銃弾を二、三発撃ち込んで黙らせるくらいの仕事しか回ってこないんだが、今日この時はそんなチンケな仕事をする必要はない。
俺にもデカいビジネスチャンスが回ってきたというワケだ。
そういうチンピラを卒業して一回くらいビズをこなしただけだというのに超ラッキー。
約束の倉庫に辿り着くと、依頼人の男はいた。
依頼人はオークにしてはヒョロいヤツで、頼りないような雰囲気を醸し出してる。
後の特徴と言えばカッターズのカラーであるグリーンと金色のアクセサリくらいだ。
いくら末端構成員とはいえそんなのアリかよ、と思っていたものだが、良いカモになりそうな雰囲気もあるので嫌いではない。好きにはなれないし、対等な仕事相手としても見れないが。
その後ろには依頼人より屈強なヒューマンが一人、そしてトロールが一人いた。
どっちも俺より重武装してるので気に入らない。
「よ、セイヴ。来たぜ」
俺は依頼人”セイヴ”の後ろにいるヤツらにナメられないように、アレス・ライト・ファイア70をチラつかせながらヤツに話しかけた。
「あ、ああ。来たかオートボーイ。約束の連中はもうすぐそこに来てるらしい」
「何だと?まだ約束の時間より10分早いじゃないか」
ヒョロヒョロセイヴはあー、とか俺から目を逸らしながら言った後、
「り、律儀なヤツらしくてね。そういうヤツらと仕事できて光栄だろう?」
とか抜かしてた。
俺を呼んだんだろ?律儀に仕事をする気があるのか?
と言いたくなったが、俺はそういう相手の悪いところすら許すような寛容さをアッピールするためにウェスタンハットのつばをきゅっと撫でて、
「それは良い心掛けだな、ヤツら」
と言ってやった。
トロールのヤツが鼻を鳴らして笑ってやがったが、俺が子供に向けるように手を振るとヤツは黙り込んだ。
デカい図体をしてる癖にチョロいヤツだ。
俺達はセイヴと一緒に、廃倉庫の中へと入った。
廃倉庫の中には既にバンが停まってて、ドワーフらしき男が一人、ヒューマンの男が一人いた。
全員がUZIサブマシンガンを携帯してて、スマグラーっぽい風貌のヤツは一人もいなかった。
どっちがスマグラーなのかハッキリしてほしい。
セイヴのヤツがヒューマンとを話しを始めたので、そいつがスマグラーなんだろう。
俺はそれをずっとライト・ファイア70に手を掛けながらその話を退屈に聞いていなきゃいけないらしい。
と思ったが、セイヴのヤツがすぐに”やれ”とジェスチャーしたので俺は喜んでピストルをアレス・ライトファイア70を素早く抜いて、さっきまで喋ってたヒューマンのヤツの足に銃口を向けた。
BLAMN!
銃声が鳴った。
だが俺は引き金を引いていない。
そして銃声と同時に鋭い痛みを感じた。肩部に。
肩が撃ち抜かれていた。
だが目の前のヤツらは今UZIサブマシンガンを構え始めたので、撃ってはいないらしい。
俺は咄嗟に後ろに振りむいた。
セイヴのヤツがアレス・プレデターVを俺の方に向けていた。
「お前はやり過ぎたんだ。オートボーイ」
「は?ど、どういう事だよ……」
「ただ脅すだけっていう仕事に、銃を使いやがって」
「じ、銃を撃ってやれば人は話を聞くだろ……?」
何が起こっているのかサッパリだった。
セイヴのヤツはヒョロいオークの癖に、今じゃ恐ろしい雰囲気を出している。
俺は咄嗟に後退った。
「救えないヤツだ。終わりにしろ」
セイヴがそう言うと、屈強なヒューマンとトロールのヤツが俺に銃口を受けた。
後ろを振り返れば、スマグラーのヤツらはグリーンと金色のカラーのマークが特徴的なアーマージャケットが露わとなっていた。
スマグラーのヤツらも、カッターズのメンバーだったワケだ。
俺はライト・ファイア70を撃とうしたが、BRATATATATTT!って銃声がなってまず腕が使い物にならなくなった。
次には右足が、その次には左腕が銃でミンチにされた。
最後にトロールのヤツが目の前に現れて、俺をまた鼻で笑った。
「クソ……なんでこんなことに……!」
「ちゃんと口を使ってりゃこうはならなかっただろうな」
結局のところ、俺はタダのアホだったのだろうか。
ちょっと腕が立つというだけで、今の俺は目の前のヤツらにとってはやり過ぎただけのアホでしかない。
「お、大人同士話し合おう!」
「銃が口の代わりをしてたヤツが今更話だと?じゃあそうだな、答えはこうだ」
俺は銃で返事をされた。