ストリートスカムども   作:民根絶

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◇今回からまた長めの短編がスタートします。話数は未定です。よろしくお願いします。


【影の中の渦】/”ルーク”
巻き込まれ(#1)


マズった。

急ぎで一流の筋肉担当(マッスル)の護衛が必要になった。

偏位魔法使いに残った最後のプライド的には非覚醒者(マンデイン)のストリート・サムライが良かったが、私のようなヤツでは反射神経を強化したくらいでイキってる剃刀野郎(レイザーガイ)からしか選べなかったし、そもそも今はなりふり構ってはいられないくらいヤバイ状況になってた。

覚醒者の候補まで入れて良いと言うと、フィクサーの”D-D”は良くも悪くも私の出した額に相応しい筋肉担当を挙げた。

それは二流くらいの腕前がせいぜいなアデプトだった。

さっきまでの剃刀野郎なんかよりは確かに良い。

良いけど、今の私には一流の力を持ってるヤツが欲しかった。

 

「もっと良いヤツ出して。対価にアナルセックスを要求してくるヤツでも良いから」

『分かった。お前のようなエルフとできるならそれなりのヤツが雇えるかもだが……それでも一流のストリート・サムライは雇えないぞ』

「アデプトなら?」

『一応他にも一人いる。だがちょっと面倒な輩だ』

「そいつの詳細、出して。今すぐ」

 

D-Dはいつも通り余計な事を詮索せずそいつの詳細を出してくれた。

そいつは”シュガー”という男だった。

元ヤクザの殺し屋。カタナやシュリケンの扱いに長けたニンジャとも言うべき存在。何故砂糖(シュガー)を名乗っているのかは分からない。

このアデプトは私が望む力を持っていた。

けれどこんな男が私の出した額で雇えるのにはやはり理由がある。

この男はバーンアウトしていた。

バーンアウト、つまり覚醒者でありながら持前の魔力を削ってまでサイバネティクスをインプラントしたヤツら。

D-Dの情報によればヤクザの殺し屋時代にヘマをして、両腕を切断されたらしい。

その両腕をアルファウェアの偽装型サイバーリムで補っているという。

つまり”元”一流といったところだ。

だけど一流になれないような二流なんかよりは遥かにマシだと、今は思えた。

 

『何故そこまでして一流を雇おうとする?』

 

D-Dが遂に疑問を投げかけてきた。

私はこういう筋肉担当が必要なヤマは踏まないし、踏むようなヤツでもないから純粋な疑問なのだろう。

それでお互い、一応の信頼は築けてきていた。

だがそれも今日で終わりかもしれない。

 

「余計な詮索はしないタチでしょ?」

『そうだが、お前の今抱えてるだろうヤバイことが俺にも降りかかると面倒だ』

「トリプルAのカンパニーマンの一人に目を付けられた。だから護衛が欲しい。これで満足?」

『……分かった。今通話に使ってるコムリンクは捨てろ』

「勿論。このためにわざわざメタリンクを何個か手に入れたんだから」

『良し。仲介料は後日支払い保証済みクレッドスティックで。シュガーへの報酬はお前がコトが済んだ後直接渡せ。話は通しておく』

「ありがと」

『達者でな』

「絶対生きて帰るから」

 

私は通話を切って、送られてきたシュガーのデータをチップに移してからメタリンクをスタンバトンで念入りに処理した。

そしてデータを愛用のレンラク・センセイに移し、シュガーとのミーティングをセッティングする。

なるべく早く合流したかった。

いつ何時消されるか分からない。

幸いD-Dのヤツが直ぐにシュガーに話を通してくれたらしく、彼とは後1時間くらいで合流できそうだった。

今はギリギリまで身を潜めて、シュガーと合流して、逃げることだけを考える。

私に目を付けた連中……アズテクノロジーについては考えたくもなかった。

 

◇◇

 

コトの発端はフィクサー”アーキル”から回された娼婦失踪事件の調査だった。

アーキルはD-Dのようなプロフェッショナルではないが、半端者に相応しい仕事を与えてくれるフィクサーだ。

依頼主の娼館も勿論半端者。そして私も。

その娼館はタコマの地で何とか切り盛りしている小さいところだった。

だけどその娼館一番の美人”イザベラ”が失踪したものだから、オーナーはアーキルに調査を依頼したらしい。

別の大きい、ある程度の安全が保障される娼館に無断で移ったとかそういうコトも考えられたが、連れてこなくても少額のカネを払うというので私はこのヤマを踏むことにした。

 

今思えば当然受けなければ良かったと思うが、回避しようがないイレギュラーが絡んでいたから仕方ない。

ある意味死ぬ運命がやってきたとも言える案件だ。そう考えて平静を保つしかなかった。

ともかく、私は娼婦を見つけ出すことには成功した。

問題はイザベラの失踪の理由だ。

彼女は拉致されていた。

拉致の目的などの詳細は分かっていないのだが、トリプルAのアズテクの人員が絡んでいることだけは掴んだ。

掴んでしまった。

そしてそれを、アズテクのカンパニーマンに察知された。

正確にはアズテク傘下のペーパーカンパニーらしい企業に所属していることになってる社員なのだが、どちらにせよアズテクの工作員には違いない。

とにかく私のようなヤツが知って良い情報ではないことは確かだった。

もっと一流のシャドウランナーとかが掴むべき情報で、この事件もそういうヤツらが解決するようなレベルのものになっていた。

 

その後は急いでアーキルと娼館のオーナーに連絡したのだが、アーキルとは連絡がつかず、娼館のオーナーにはアズテクの名を出した途端切られた。

トリプルAが絡んでいるとなれば自分の命の方が惜しいのだろう。

私だって惜しい。

 

私はシュガーとの合流地点としてセッティングしたノーテル・モーテルまで来ていた。

ここなら余計な詮索はされないし、万が一アズテクの武装隊が襲い掛かってくるとしても予兆は察知しやすい。実際に逃げ切れるかは別だが。

合流地点とした部屋には、もう客が入っていた。

私は待ち伏せされている可能性を危惧して、千里眼の呪文を唱える。

 

偏位魔法使いは魔術、召霊術、呪符のいずれかのみ使える覚醒者なのだが、私は魔術のみが扱える偏位魔法使いだった。

一部のマンデインからは差別され、覚醒者達の中でも一番冷たい目で見られる偏位魔法使いになった当初は、勿論この世を恨んだ。

けれど選ばれた覚醒者になれたのは事実だったし、幸か不幸か私には《賢き戦士》の導師精霊が魔術を教えてくれたので、細々とした探偵紛いの稼業を務められるまでに成長できた。”ルーク”という名前をくれたのも彼だった。

特に霊視なら他のメイジやシャーマンにも引けを取らないと思う。

成長した私を賢き戦士の導師精霊は励ましてくれていたのだが、私があまりに汚い手口を使ったりし続けたせいか、今では彼の姿はもうほとんど見かけない。

 

透視した部屋の中には一人の男、というよりは少年がいた。

リムをインプラントしたついでにバイオ全身整形をしたと情報にあったが、これがその姿の果てなのだろうか?

私は呪文をやめて、扉をノックする。

 

少し時間が経って扉が開いた。

中にはやはり少年がいた。ボロボロの椅子に胡坐をかいて座っている。

そして少年はヤクザスーツを着込んでいて、カタナを帯刀していた。

その端正な顔の内からはひしひしと見た目相応ではない貫録を感じる。

情報には実年齢が書かれていなかったが、相当歳を食っているのだろう。

 

「来おったわ。エルフのルークじゃな?なかなかめんこいのう」

 

少年は高めの音色で快活としているもののどこか貫録を感じさせる声で言った。

 

「ええ。アナタは、シュガーで合ってる?」

「そうよ。色々話は聞いておるぞ」

 

シュガーはその端正な顔をニヤつかせて、立ち上がった。

 

「トリプルAのカンパニーマンに狙われとるんだってな?」

「ええ。アズテクのね」

「こりゃデカく出た。血が騒ぐわい」

 

見た目の割に物騒な事を言う。

中身はきっとおじさんかお爺さんだろうから、仕方ないのだけれど。

 

「とんでもないわよね。だから逃げるわ。もう聞いてると思うけど、アナタには護衛をお願いしたい」

「賢明な判断じゃな。わしはそいつをぶっ殺したかったんだがのう」

「本気で言ってるの?」

「本気よ。原因を絶った方が素早く片付くじゃろ」

 

元ヤクザの殺し屋だから私よりプロ意識が高いようなヤツだと思っていたけど、そうでもなかったらしい。

D-D曰く「面倒な輩」だし、私のようなヤツが出せる額で雇ったのだからしょうがない。

その面倒さが、依頼を真っ先にほっぽり捨てて私をファックするようなものじゃなくて良かったとも言える。

むしろ面倒事大歓迎な人員を取り扱ってるD-Dからの紹介とはいえ、よくこんなことに付き合ってくれるものだ。勿論タダではないのだが。

今はD-Dがこのシュガーを紹介してくれたことに感謝して、生き延びる事を考えよう。

 

「まあおぬしの言う事には80%くらい従うがの。逃亡先は考えとるんじゃろうな?」

「レドモンド・バーレーンよ」

「レドモンド?それ本気で言っとるのか?」

 

今度は私が本気を問い詰められた。

まあ、正直私でも逃げるところがレドモンドなんて馬鹿げていると思う。

あそこは治安最悪地帯だ。グールがウジャウジャしているどころではない地域とも聞いている。

本当なら高飛びしたいけれど、傭兵を雇ってなんとか息を潜める場所でじっとしているくらいしか私には策がなかった。

何より、高飛びできる程のカネがない。

 

「カネないし」

「カーッ!本気で逃げようと思っとるのか?もう諦めてるんじゃなかろうな?」

「本気よ。私なりのね」

「本当か~?」

 

シュガーは詰め寄ってきた。

160cmくらいだろうか?

エルフの私とは30cm以上背丈の差がある。

いざ近くで見下ろしてみると可愛くも見えた。

 

「トリプルAをナメておるな。まあ良い。逃がし屋やらのコネはあるんじゃろうな?」

「ある。一応は」

「良し。ならすぐそのコネに連絡しろ。わしのこともちゃんと言うのだぞ」

 

私は用意していたメタリンクを使ってコネに連絡しようとした。

その時、ふと愛用のレンラク・センセイに着信が来た。

 

「なんじゃ?もうつけられたか?」

「いや……わからない」

 

メタリンクをテーブルの上に置いて、レンラク・センセイを手に取る。

着信は知らないコードからだった。

もう誰からでも良い。

着信を承認して、通話を開始した。

 

『ルーク=サン?』

 

聞こえたのは全く知らない女の声だった。

まあ、当然か。

コードからして何も分からなかったのだから。

私は部屋の中でカタナを抜いて素振りし始めたシュガーにやめろとジェスチャーして、通話の相手に曖昧な返事をする。

 

「ええ、まあ。今ちょっと立て込んでいるのだけど……」

『娼婦の失踪事件について、何か情報を掴んだらしいな?』

 

心臓が止まるかと思った。

まさか、カンパニーマンがわざわざ連絡してきたの?

と思ったが、次に出たのは予想外の言葉だった。

 

『ワタシはシャドウランナーだ。お前さんの持ってる情報が欲しい』

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