ストリートスカムども   作:民根絶

12 / 12
追手(#2)

『その対価に情報相応の新円を渡すよ』

 

いきなり身元不明のシャドウランナー(しかも本当にシャドウランナーかどうかすら分からない)から、「情報相応の新円を渡すよ」なんて言われたら怪しむ他ない。

アズテクの例のカンパニーマンからの警告、あるいは誘い込むための罠とも取れる。

けれど、話し方やニッポン特有の”サン”の敬称からして、例のカンパニーマンだという可能性は少し減っているのも事実だった。

そして何より、私が”狙われている”ということに気が付いていないらしい。

その事実に気が付けば「身の安全を保障する」だとか、そういうことも条件として提示する筈だ。カンパニーマンならそうやって誘い込むだろう。

これ以上本命のコムリンクで会話するのは危険なのは承知だけれど、もう少し判断材料を聞き出したかった。

 

「どこでそんなことを知ったの?」

『レッグワークで得た内容と、ワタシのチームのデッカーがマトリックス検索した内容を照らし合わせた。連絡先は、お前さんが世話になってるフィクサーのアーキルという男の残した情報から色々と調べさせてもらったよ』

 

連絡つかずのアーキルの事もこの通話相手は調べたらしい。

残した情報と言っているから、彼は夜逃げしたか死んだかのどちらかだろう。

 

「何故アーキルを調べたの?」

『娼婦の失踪事件を調べているという情報を得たからだ。実は同じような娼婦の失踪事件がここ最近よく起こっているんだ』

「へえ……アナタ達もそういう依頼を?」

『ああ、受けたよ。まだそこまで手を付けていないのだが……”ホットライフ”という娼婦のオーナーから色々聞き出せてね。どうやらお前さんが”イザベラを見つけた””アズテク”といった単語を口にしたらしいから、こりゃ真相を知ってるかもと思って』

 

”ホットライフ”の娼婦のオーナーはアーキルが依頼主として挙げてた人物だ。

確かに私はアズテクという名前を出す前にも、娼婦のイザベラが見つかったとか、そういう話をした。

コムリンク越しに話してる女は、私と連絡を切ったオーナーと何とか接触して情報を聞き出したらしい。

オーナーにアズテクに追われているとまでは話していないから(彼はアズテクの名を出した途端切ってきた)、この女が私がアズテクのカンパニーマンに狙われているという情報までは知らなさそうのは尚更シャドウランナーだという事実に信憑性を付けている。

となれば、

 

「新円の他に、条件がある」

『ふむ?』

「私の身の安全も保障してほしい。私はアズテクのカンパニーマンに目を付けられてる。情報を渡して新円受け取ってハイサヨナラじゃ、私が納得しない」

『ふーむむ……狙われてるのねえ』

 

通話相手の女が、少し悩んだように唸った。

これ以上このコムリンクを使うのも躊躇われるから、私は急かす。

 

「場所が割れるとマズい。そろそろ切らないと」

『待て。分かったよ。お前さんを保護する。だけど、その代わり新円はちょい少なめ』

「命の方が大事だからオーケーよ」

『交渉成立、で良いのかな?』

「ええ、勿論。場所はノーテル・モーテル。座標はこれ」

『ハイハイ迎えいに行く。とりあえずその前におっ死なないことだね』

「大丈夫。護衛が一人いるから」

『そりゃ結構。ではマタネ』

 

通話終了。レンラク・センセイを仕舞う。

これで護衛がもっと増える、ってコトで良いだろうか。

けれど、身の安全を保障される代わりにレドモンドへの逃亡は中止ってことになるだろう。

でもレドモンドに逃亡してもいずれ見つかって死ぬだけだろうし、シャドウランナーと行動を共にできるならその方が生存率が高そうだ。

シュガーには無断で色々と決めてしまったが。

彼の方を見れば、窓のカーテンの隙間からしきりに外を見ていた。

 

「なんじゃ、やけに遅かったの。それで相手は何と言っておった?」

「私が情報提供する代わりに、身の安全を保障してくれるって」

「ほう?じゃあレドモンドへの逃亡はナシか?真っ向勝負か?」

「いや、まあ、そうなるかも。実行はシャドウランナーの人達がするけど」

「なんじゃシャドウランナーと交渉したのか。おそろしいのう」

「あれ、責めたりしないの?」

「せんわ。元よりおぬしが始めたことじゃ。わしはそれについていくだけよ。カネとスリルさえあればよい」

 

変わっている。

新円はともかく、スリルがありそうだからとこんな逃避行についてきてくれるなんて。

しかも彼には色々と無断で決めてしまった。

今思えばここで契約を切られてもおかしくはない。

確かにこの男はちゃんと依頼を回すなら面倒な相手だけれど、今日の私の状況と彼の行動理念はとても合っている気がする。

今なら少し、この少年のガワを被ったおじさんあるいはお爺さんが頼もしく思えた。

まだ彼の実際の腕前は見ていないのだけれど。

 

「もうじき一回目のスリルも味わえそうなことだしの」

「え?」

「明らかにカタギでない連中がこのモーテルに来とるわい」

「ちょ、なら先に言って!」

「言えばパニックになろう」

「突然言われてもパニックだわ!クソ!」

 

咄嗟に千里眼の呪文を唱える。

このノーテル・モーテルに現れただろう不審者を探すため。

千里眼の呪文を唱え終わった時、そいつらは簡単に見つかった。

シュガーの言っていたヤツらは、ゆっくりと、だけど真っすぐこの部屋に向かってきている。

 

私は千里眼をやめ、懐にあるヘビーピストルを取り出した。

サヴァレット・ガーディアン。

本当に高かったけれど、一流のシャドウランナーも使ってるというこの武器が手元にあるというだけでそれなりに自尊心を満たしてくれる。自尊心を満たすだけじゃ命は守れないけれど。

本当ならこんなものに新円を払わずに魔法で蹴散らしたりしたいところなんだけど、生憎私が持ってる戦闘呪文はせいぜい雷撃の呪文くらいで、しかも出力はそんなに高くない。

だから私にとってはこの高価なピストルがメインウェポンだった。

 

「おうおう、良い銃を持っとるのう」

「こっから、どうするの……!」

「そう急かすな。まずは窓を斬るじゃろ」

 

え、と私が言う前にシュガーは窓を斬り終えていた。

とても私の目ではその太刀筋を追えなかったけれど、綺麗に斬られた窓のガラスが彼が相当なタツジンだということを物語ってた。

一流が欲しいと求めたのは私だが、一流とはこんなにすごいものなのだろうか。

 

「そしておぬしを連れて行く。準備はできとるかの?」

「待って、シャドウランナーとの合流地点がここってことになっていたのだけど……」

「そりゃ、準備不足じゃーー」

 

シュガーが言い終わる前に、ノーテル・モーテルの外に車が停まった音が聞こえた。

 

「おっと、そいつら来たかもしれんの。ちょいと一緒に見に行くぞ」

「え、ちょ!?」

「わしの方が速いじゃろうからな」

 

シュガーのヤツは私を造作もなく持ち上げた。

結構な身長差があるというのに、私はいつの間にか少年に抱えられていた。お姫様抱っこだ。

切羽詰まった状況だけれど小恥ずかしいという感情が脳裏をよぎる。

でも自分の足で走るよりは確実にシュガーに持ってもらった方が良いのは事実だ。

なんせ私は反射神経も脚も特別強化してないし、その手の呪文を持っていない。

 

シュガーに抱えられて外に飛び出す。

まず飛び込んできたのはネオンに照らされた大きな路地と、そこに停まる装甲バン”GMC-ブルドッグ”。

絶対このバンから追手が出てくるんじゃないかと思ったけれど、バンの中から現れたのは千里眼で見たような追手でもなく、ビジネススーツを纏った工作員でもなかった。

防具の隙間から赤い肌が見え隠れする、ハンニャのお面を被ったオニだった。

 

「ルーク=サン!」

 

コムリンク越しにも聞こえた女の声が響いた。

彼女が私に話を持ち掛けてきたシャドウランナーらしい。いくら何でも早すぎる気がするが、シュガーは止まってくれなかった。

もうこうなっては頼るしかない。

シュガーが向かいの壁を蹴って更にジャンプし、地面に着地すると、真っ先にそちらへ走る。

今の思考と動きで脳がグチャグチャになって、少し酔いそうになった。

 

「お前さんは……!」

「ミス・ルークの護衛です!」

 

彼が少年そのものな声で叫んだ。

オニの顔はしっかり伺えなかったけれど、気付いたらバンの座席に放り込まれていたから一応無事らしい。

その後すぐに素早くシュガーが乗り込んできた。

その場から発進するバンの車内を見れば、ハンニャのオニの他にもヒョットコやオカメのお面を被ったヤツらが座ってた。

この状況からして驚くべき速さで現れたのは本当にシャドウランナーだったってことなのだろうが、メンバーがかなり威圧感がある。

 

「急いで離脱しろ!」

「待って、アナタ達シャドウランナーなの!?」

「シャドウランナーの”アカキ”!」

 

赤肌のオニが助手席でそう言った。

 

「ヒョットコのヤツは”ケイサンキ”!オカメは”カンヌシ”!」

「良い名前ですね」

 

シュガーが快い少年の声で言った。

よくわからない名前だが日本語から取られてる事は何となく分かる。

シュガーはさっきまで走っていたというのに、すごい良い姿勢で隣でニコニコとしている。

出会ったばかりだから仕方ないのだが、まだ彼の事が分からない。

 

「尾けられてるぞ!」

 

誰かが叫んだ。

と同時に、後ろから眩い光が照射される。

振り返って見てみても、眩しすぎてどんなヤツらが尾けてきているのか全く分からない。

 

「射撃戦の時間か!熱くなるな!」

 

アカキが叫んだと同時に、銃声。

射撃音から推測するに、おそらく彼女がアサルトライフルか何かを撃っている。

 

「シュガー!どんなヤツが後ろに!?」

「ええと、同じGMC-ブルドッグが一台来てますよ、ミス・ルーク」

「その演技は何なの……!?」

「やだなあ、これは演技じゃないですよ」

 

この期に及んでシュガーが見た目相応の少年ぶり始めた。

その間にも銃声は激しくなり、幾度の銃声が重なっている。

 

『サイレントモードの機器四つ。敵は四名。運転手はリガーではない』

 

外が騒がしい中、車内にアナウンスみたいな音声が流れる。

 

「ケイサンキさん?」

『そうだ』

 

シュガーがやけに冷静に問うと、アナウンスが返事をした。

どうやら車内のスピーカーを介して返事をしてるらしい。

その声の主のデッカーらしき男は中央の席で横たわっているのだが。

 

「このバンに武器マウントってあります?」

『ない』

「そうですか……」

「ぐっ!クソ、撃たれた!」

 

外に身を乗り出していたアカキが助手席に転がり込んだ。

この装甲バンもかなり銃弾を浴びてるのか装甲が悲鳴を上げている。

未だに追手の姿を見れていないのだが、相当ヤバイ連中に追い回されているらしい。

私は咄嗟に千里眼を唱えた。

今この場を切り抜けることが最優先だけれど、切り抜けた後に姿も知らないヤツらに追いかけ回されるのは御免だ。

 

試行錯誤して何とか追手のバンの中を様子を正面から捉える。

バンの中にはギャングらしきヤツらだけがいて、カンパニーマンの姿は見えなかった。

私は千里眼の呪文を中断しようとしたけれど、その前に奇妙な影がバンの中に入り込んだ。

影の正体は一目で分かった。シュガーだ。

私が千里眼を使っている間にバンから飛び出してあっちのバンに移ったらしい。

とてもそこに至るまでの動きを想像できないような芸当だけど、そう考えているうちにもシュガーは助手席にいたギャングの首をカタナで刎ねてた。

彼はそのまま流れるような動作で運転手にもカタナを突き刺す。

動き的に即死。

 

シュガーがそのまま後ろの席のやつらを始末しようとすると、ヤツらはもう銃器を彼に向けていた。

見た目的にイングラム・スマートガンX。それなりのシロモノ。

だけどシュガーは一切躊躇わなかったようで、そのまま狭い車内をその小さな体躯で駆け回った。

銃弾は彼が通った後の場所に着弾。

車内で巻き起こる銃弾の嵐が止んだかと思えば、残る二名のギャングの首がポロリと落ちる。

シュガーは首のない死体に囲まれながら、カタナの血を振り払って鞘に納めた。

音が聞こえればどれだけ派手で、どれだけ恐ろしかっただろうか。

 

私が千里眼の呪文を終えると、バンは追手のバンの近くに停車していた。

 

『追手撃破。上々』

 

そうアナウンスが聞こえた時、パキッと防弾ガラスの音が割れる嫌な音がした。

それと同時に、「がっ!」と誰かが叫んだ。

 

「伏せろ!」

 

アカキが私に飛び掛かって抑えつけてきた。

直後、幾度もガラスの割れる音が鳴る。

 

『カンヌシ死亡』

 

アナウンスが告げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。