受け継がれし絶脚   作:戦国のえいりあん

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ジュニア級は次回で終了予定です!
今回はおまけストーリーを作ってみましたよ!


第九話 三冠路線へ

 

◯12月前半

 

 先月の朝日杯FSで見事に一着という好成績を残したドゥンケルストームは次のレースに向けてトレーナーと共にトレーニングに励んでいた。季節は12月、寒さが一層厳しくなりトレセン学園には雪が降り積もり始め学園の中庭やレーストラック場も白くなっている。

 

 そんな12月上旬頃のこと、ストームはトレーナーに呼ばれてトレーナー室へと向かっていた。呼び出された理由は今後の出走路線について改めて相談したいということだった。

 

・ストームのトレーナー室

 

「…トレーナー、来たぞ」

 

「待ってたよ。コーヒーを淹れてるけど君も飲むか?」

 

「…いいのか?なら、ありがたく頂こう」

 

 トレーナーから熱々のコーヒーカップを渡されたストームは音が出ないようコーヒーを啜る。その後、お互いに向かい合うようにデスクに座ると本題に入るためにトレーナーが先に口を出した。

 

「ストーム、今後の路線についでだけど…」

 

「…ああ、"クラシック三冠路線"か"トリプルティアラ路線"か…どちらかを決めるんだったな」

 

「はっきり言って、どちらの路線を進んでも君なら間違いなく好成績を残せると俺は思う。最初のG1である朝日杯FSをあれだけ見事に走ったんだからね」

 

 トレーナー室の棚の一角には朝日杯FSの一着で完走した証である銀のトロフィーが飾られてありストームとトレーナーの記念すべき最初のG1トロフィーだ。

 

「ストーム、君はどちらに進みたい?」

 

「…あんたはどっちがいいと思う?トレーナー」

 

「俺は…クラシック三冠路線を君と一緒に進みたいと思う。もちろん厳しい戦いなるだろうけど俺が君を必ず導いてみせる!」

 

 クラシック三冠路線は皐月賞、日本ダービー、菊花賞の三レースを指し、この3つのレースの勝者が三冠ウマ娘なのだ。トレセン学園内で名を残したウマ娘は数多いもののこの偉業を成し遂げたウマ娘は現在、"シンボリルドルフ"と"ミスターシービー"の二人しかいないのだ。

 

 トレーナーの強い意志が込められた言葉に応えるようにストームは答えを伝えた。

 

「…なら決まりだ、クラシック三冠路線でいこう」

 

「本当にいいのか?トリプルティアラ路線も十分視野に入れてもいいけど…」

 

「…いや、私は三冠路線がいい。あんたは私を三冠ウマ娘に導いてくれるんだろう?トレーナー」

  

(…三冠ウマ娘になれば名声も高まる、名を挙げるなら一番確実だな)

 

 こうして今後のドゥンケルストームの出走路線はクラシック三冠路線に決定し、次走のレースは4月上旬に開催される最初の1冠目のレースである皐月賞に決まったのだ。

 

「次のレースは皐月賞に決まりだね。さて、次の目標も決まったことだし…」

 

「…ふっ、さすがは私のトレーナーだ。早速、今後の作戦会議といこうじゃないか」

 

「よし、まずは前の朝日杯FSのおさらいからだ」

 

 朝日杯でのブライアンを掛からせペースを乱す作戦はストームが考案したものであり、彼女の強すぎる闘争心を見抜いていたストームはこの作戦を提案したのだ。しかし、ストーム自身もデビューしたばかりだったこともあってトレーナーも本当にそれが実践できるのか不安だったがストームは見事にやってのけたのだ。

 

「それに君がマークしてたコードオブハートとグレイトハウスの二人もしっかり上位に食い込んできたしね」

 

「…コードオブハートがヒシアマさんを抑えてくれたおかげでかなり余裕を持って動くことができた」

 

「見事だったよ、次の皐月賞に向けて今回もしっかり対策を考えないとな」

 

「…ああ、次の皐月賞…楽しみだ」

 

 ストームはどんな作戦で戦場を操るのか思案を巡らせながらさらなる強敵が現れることを期待していた。

 

ーーーーーーーー

 

・ブライアンのトレーナー室

 

「……」

 

「今回はドゥンケルストームにしてやられたわね。デビューして間もないのにあのレースでの立ち回り…見事としか言えないわ」

 

「…チッ!不甲斐ない…!あんな手に引っかかるとは!」

 

 同じくトレーナー室でナリタブライアンとそのトレーナーが先月の朝日杯FSについて再分析していた。ストームばかりを目の敵にしていたこともあって他の相手に集中できていなかった点や自身の闘争心を抑えきれず慣れないペースで走ってしまったことも敗因の一つだ。

 

「でも、初のG1レースであそこまで走れたなら十分よ。それにこれから改善すべき問題点が分かったのも収穫だわ」

 

「…その改善すべき点を詳しく教えろ、トレーナー」

 

「ええ、まず一つはあなたの強すぎる闘争心をコントロールできるようにすること。もう一つはむやみに相手の誘いに乗らないことと視野を広く持つこと…この二つよ」

 

「誘いに乗るな…だと?敵が挑んで来た勝負から逃げろというのか?…気に入らん」

 

「そういうところよ、目の前の相手の挑発にいちいち乗っていたらあなた本来の走りができない。今回の敗因はまさにそれだわ。気に入らないかもしれないけど…ストームのレースを思い出してみて?彼女の走りから学べることはたくさんある」

 

「……」

 

 これを聞いたブライアンは苛立ちながらもストームから言われた言葉を思い出す。さらにあの時、自分の走り方とストームの走りを比べてみる。

 

"今のあんたは自分を制御できていない。だからあんな手に引っかかるんだ"

 

"…あの時、私なんかに構わず自分のペースで走ればよかったんだ。あんた、今回のレース…私に勝つことしか頭になかっただろ"

 

(今のままではアイツに…ストームには勝てん…あの化け物に勝つには私が変わるしかない…!)

 

「……分かった。改善できるようやってみる」

 

「…へぇ、ちょっと意外だわ、あなたは今まで自分の走りのスタイルを変えようとしなかったのに」

 

「…アンタの言う通り、今の私の走りではドゥンケルストームに太刀打ちできん。気に入らんがアイツの走りも参考させてもらう」

 

(あのブライアンがプライドを捨ててまで…!)

 

 今回の敗北でブライアンの心情にも変化があったのかこれまで頑なに変えようとしなかった自身の走行スタイルを変えようと言うのだ。

 

「…この際、くだらんプライドは捨てる。トレーナー、明日からのトレーニングメニューを考え直すぞ」

 

「もちろん!そうと決まれば新しいトレーニングを考えないといけないね。ブライアン…二人で必ずドゥンケルストームを超えるわよ!」

 

「…ああ、頼りにしてるトレーナー」

 

「恐らくドゥンケルストームはクラシック三冠を狙ってくるわ、私たちもクラシック三冠路線で方針を進めていくけど問題はない?」

 

「アンタに任せる、ドゥンケルストームと戦えるならどの路線でも構わん」

 

(見ていろ…!必ずオマエをブッ倒す!!)

 

 こうしてナリタブライアンもまたクラシック三冠路線に向けて方針を決定しストームと同じく皐月賞を次のレースに決め打倒ドゥンケルストームを目指して激しいトレーニングを開始したのであった。

 

ーーーーーーーー

 

・ヒシアマゾンのトレーナー室

 

 同じ頃、三強の一人と評され朝日杯に出走したヒシアマゾンとそのトレーナーもまた前回のレースを振り返っていた。

 

「くっそぉぉ!!このヒシアマ姉さんともあろう者が情けないよ!!初のG1レースだってのに六着なんて…!」

 

「まさかあそこでコードオブハートが障害になるとは予想外だったな…」

 

「ストームとブライアンの奴はしっかりマークしてたってのに…!あの時、前に出られたせいで勢いを挫かれちまったよ」

 

 自身の得意とする追込の戦法で一気に逆転する作戦が予想外の伏兵であるコードオブハートによって前を塞がれたしまったことが原因で最後に差し切ることができなかったのだ。

 

「それにしても、あのブライアンすらも四位とはなあ…今回はドゥンケルストームに一本取られちまったな」

 

「それにしても…アイツら途中で何やってたんだろうねぇ。ストームの奴がブライアンにちょっかいかけてたように見えたけど」

 

「ああ、あれもドゥンケルストームの作戦だろうよ。ナリタブライアンは競争心がズバ抜けて強い、揺さぶるような走りをしてたのはブライアンのペースを乱す為だろうな。そして…ブライアンはそれに見事に乗せられたってワケさ」

 

「レースの最中にそんなことができるなんて、アイツ…どんだけ器用なんだぁ…?」

 

「…俺から言えば器用どころか余裕すら感じられるほどの走りだったぜ」

 

 ヒシアマゾンのトレーナーはストームの走りをしっかりと観察しており今回の朝日杯で彼女がほとんど実力を出さずに勝利したことに薄々勘づいていた。

 

「ドゥンケルストーム…想像以上の強敵かもしれねぇな」

 

「へッ!だからこそ倒し甲斐があるってもんさ!次は負けないよ!今度はブライアンにもストームにも勝ってやる!」

 

「よーし!その意気だヒシアマ!それじゃ次のレースに向けて作戦会議…といきたいところだが、お前に相談がある」

 

「相談?なんだい改まって」

 

「…ヒシアマのこれからの路線についてだ」

 

「…!」

 

 彼女もまた今後の出走路線について方針を選択しなければならないのだ。ヒシアマゾンもクラシック三冠とトリプルティアラ…どちらも狙える素質を秘めており長距離適正にやや不安が残るものの十分に渡り合える実力を持っている。

 

(今回の朝日杯でよく分かった、今のアタシじゃストームやブライアンには敵わない…今年のクラシック三冠はあの二人の独壇場になるな。だったらアタシが取るべき方針は…)

 

「…決めたよトレ公、アタシはトリプルティアラを目指す!」

 

「トリプルティアラか、マイル路線ならヒシアマの適正にも合ってるし十分に狙えるが…いいのか?多分だが、ドゥンケルストームとナリタブライアンとは別の路線になるぜ?」

 

「ああ、今のアタシじゃあの二人には太刀打ちできない。だからアタシはもっと強くなるよ!トリプルティアラを取って改めて今回の負けをリベンジしてやるさ!」

 

「決まりだな!よっしゃ!それじゃ俺達はトリプルティアラを目指していくぜ!明日からのトレーニングメニューを練り直さねぇとな」

 

「おう!頼んだよトレ公!」

 

 こうしてヒシアマゾンはストームとブライアンとは異なりトリプルティアラ路線に方針を決め、改めてトレーニングに励むのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

◯おまけ

 

◯迷子の田舎娘

 

 ストームがメイクデビューで初勝利を飾ってから一ヶ月ほどが過ぎた十月上旬の頃。トレセン学園の近くには巨大なショッピングモールがあり生徒たちも休日にはよく足を運んでいる場所だ。そんなショッピングモールに手提げ袋を片手にドゥンケルストームがやって来ていた。

 

・ ショッピングモール 一階中央ホール

 

「……」

 

(…まいったな、完全に迷った)

 

 中央ホールで困った表情で立ち尽くしていたのは目的地の場所が分からず途方にくれていたストームだった。広大な上に階数は十階を越え建物は数ブロックに分かれており、地下フロアもあるこのショッピングモールは初めて訪れる人は間違いなく迷子になってしまうだろう。

 

(…いつも思うが、ここはまるで迷路だな。今ほど地元のスーパーのほうがよかったと思ったことはないな…)

 

「…はぁ~…都会にはまだ慣れない」

 

「ん?アンタ、ドゥンケルストームか?」

 

「…!た、タマモ先輩!」

 

 なんとそこに現れたのは少し前にトラック場で知り合ったタマモクロスだった。彼女も買い出しに来ていたのか両手には食材がたくさん詰められた買い物袋を手に持っている。

 

「そんなトコでなに突っ立っとんのや?ひょっとして迷子になつたんか?」

 

「…お恥ずかしながら、そのとおりです。さっきから同じような場所をぐるぐると回っていて」

 

「あ~…分かるわ、このショッピングモール広すぎて迷路みたいやからな。よっしゃ、ほなウチが案内したるわ」

 

「…いいのですか?ご迷惑ではありませんか」

 

「任せときいや!ほんで何処に行きたいんや?」

 

「…ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

(なんか…前にもこんなことあったなあ…ウチとトレーナーが契約結んですぐの時やったかなあ)

 

 こうしてタマモクロスに案内してもらえることになりストームは無事に目的地にたどり着くことができたのだった。そんなストームが行きたかった場所はというと…

 

「…なあ、アンタが行きたかった店ってホンマにここなん?」

 

「…はい」

 

「こんな店あったんやな、ウチも初めて来たで」

 

 タマモクロスとストームがやって来たのはショッピングモールの地下2階のフロアの隅っこ部分にある小さな店だった。そこはお茶葉を専門に取り扱った専門店であり、小さな店の棚には所狭しと様々な色と種類のお茶葉が売られていた。

 

「アンタ、お茶入れんのが趣味なんか?ホンマにシブいなあ」

 

「…いえ、私のルームメイトの趣味です」

 

「ルームメイト?アンタの同室って確か…こないだ一緒におったマサキコスモスやったっけ?」

 

 実はストームは自分の買い物のついでにコスモスから頼まれた趣味のお茶葉を買いに来ていたのだ。自身の買い物はとっくに済ませたのだが、頼まれたお茶葉の店が分からずに困っていたそうなのだ。

 

「…この店はコスモスの行きつけらしいのですが、まさかこんな分かりにくいところにあるとは」

 

「ほお、コスモスの趣味なんやな。それにしてもお茶葉って言うても…どれも似たようなモンばっかりに見えるけどなあ」

 

「…彼女は妙にお茶にこだわりを持っているんです。"このお茶葉のお茶意外は絶対に飲まへん!"って気合いの入りようで…」

 

「ふーん…」

 

「…正直、お茶なんか飲めれば何でもいいと思いますが」

 

「…ウチも同感やな。まあ、早う買ってきいや」

 

「…はい。ええっと…確か"宇治玉露『紫』"…これか」

 

 メモを頼りにストームは小さな金色箱に入ったお茶葉を手に取ったのだが、その金額を見た二人は驚きのあまり固まっていた。

 

「…う、ウソやろ…!こんなちいっこいお茶葉が…さ、三万円もするんか!!?」

 

「…三万円…た、高いな」

 

 手にしていたのは高級玉露であり富裕層にしか買えないような超高級品だったのだ。二人とも田舎出身のためか数万円もするお茶葉に驚きを隠せなかった。

 

「三万円って…そんな大金持っとるんか?」

 

「…まあ、コスモスから受け取った資金がここに」

 

「アイツ…ひょっとしてええトコのお嬢様かなんかか?」

 

「…両親が有名な資産家らしいです」

 

 こうしてコスモスのお茶葉を手に入れたストームはタマモクロスと共に帰路についていた。二人は雑談しながらトレセン学園の寮へと戻っていた。

 

「…それにしても、すごい食材の量ですね。タマモ先輩はよく食べるのですか」

 

「いいや、ウチは食が細くてあんまり食べられへんねん。でもな…ウチの同室の…オグリキャップの奴がとんでもない大食いでな」

 

「…オグリ先輩が?」

 

「そうなんや!あの身体のどこにその量が入るねん!ってぐらい食べるんや!帰ったらまたなんか作ってあげな…アイツの腹の音で夜中に起こされるのは勘弁やしな」

 

「…なんというか、タマモ先輩も苦労されてるのですね。…実は私も帰ったらコスモスに勉強を教えないといけないんです。普段から授業を聞いてないせいで基礎が壊滅的なので教えるのも一苦労で…」 

 

「…アンタも苦労しとるんやな、ストーム」

 

 こうして互いにルームメイトについて愚痴や悩みを語りながら二人はトレセン学園へと戻ったのであった。

 

 

 




同じ地方出身同士ストームとタマモクロスは色々と話が合いそうですね!
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