・トレセン学園 レーストラック場
模擬レースでトレーナーからのスカウトを受けたドゥンケルストームは翌日、学園内のトラック場に呼び出されていた。あれからお互いに同意の上で契約手続が完了し、トレーナーとストームは正式にパートナーになったのだ。
「…終わったぞ」
「お、お疲れ様」
「…もの足りないな、もう1周走ってきてもいいか?」
そんな彼女の最初のトレーニングだがトレーナーから指定された様々なテストを受けていた。彼女の脚質、走行速度、適性、走り方や癖などを見極めるために行ったのだがストームの結果はトレーナーを驚愕させるものだった。
(す、すごい…!!芝、ダートどちらのバ場でも問題なく実力を発揮できる上に、短距離、マイル、中距離、長距離すべての距離適正でも高い成果を出している。それに加えて規格外のスタミナとスピード…!!なんて子だ!!)
彼女の得意とする先行と差しに加えて逃げと追込の戦法も可能という幅広い脚質に加え、距離適正も得意な中距離、長距離以外にもマイル、短距離でも十分実力を発揮できる素質がある。それ以上に驚いたのは彼女の走行速度とその持久力だ。
「…トレーナー、タイムはどうだ?」
「あ、ああ、文句なしの好記録だ」
「…そうか、次はどうする?」
特に直線におけるストームの加速と爆発力は凄まじいものだ。まるで引き絞られた弓矢が勢いよく放たれたかのような加速力もそうだが、その速度を長時間キープできるスタミナと集中力も目を見張るものがある。
(初めて彼女の走りを見た時から感じてはいたが…想像以上の可能性と素質を秘めているウマ娘かもしれない…!)
「…トレーナー?どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。さて、君の走りや適正についてこれまでテストしてきたけど、はっきり言って全ての結果が及第点だ」
「…そうなのか?地元ではそうやって実力を測ってくれる人がいなかったから分からなかったが…ふふ、そうか」
トレーナーから高評価を貰えたのが嬉しいのかストームの尻尾と耳がパタパタと動いていた。さらにストームの走りを見ていたトレーナーはあることに気がついていた。
「ストーム、君の走りを見ていたけど…まだ全力で走ってないよな?」
「…!」
計ったタイムを見れば手を抜いて走った記録には見えないのだが、トレーナーにはなんとなくストームが全身全霊の力で走っているように見えなかったのだ。
「…あんたはすごいな、そんなことまで分かるのか」
「いや、なんとなく思ったんだ。タイムは文句の付け所がない好記録なんだが、君の走りは何というか…力を抑えて走っているように見えたんだ」
図星を突かれてストームは驚いたような表情を見せた。するとストームがその理由を話し始めたのだ。
「…あんたの言うとおりだ。さっきの走りは本気の半分ぐらいだな」
「どうして全力で走らないか理由を聞いても?」
「…身体がもたないからだ」
「身体もたない?」
「…ああ、全力で走れば恐らく途轍もない力を発揮できると思うが、今の私の身体ではその負荷に耐えられない…」
「もしかして、"本格化" がまだ始まっていないってことか?」
ストームはトレーナーの問いに無言で頷く。つまり身体の本格化がまだ始まっていないため本来の力を発揮することができないのだ。ストームが全力で走るためにはその負担に耐えられる身体に成長する必要があるのだ。
(さっきの記録で本気じゃないのか…!?本気で走ったストームは一体どれくらい速いんだ…?)
「…今の私にはこれが限界だ。…すまん」
「謝らなくていい、レースにおいて最も大切なのは身体の健康だからね。デビュー前に無理をして身体を故障させるのはよくない。それに、今の君の実力なら他のライバルたちにも十二分に対抗できるはずだ!」
「…そうか、そうだな」
ウマ娘の本格化は未だに謎が多く本格化が始まる時期にはそれぞれ個体差があり、いつ変化が起こるのかは分からないのだ。ストームはまだ本格化が始まっていないが先ほどの記録を見れば彼女の走りはレースでも十分通用するだろうとトレーナーは考えていた。
「今日はここまでにしよう。今日のテストで計った君の記録や走り方を整理して、どんなトレーニングを実行するべきか考えてみる。明日も今日と同じ時間にここに来てくれるか?」
「…分かった、楽しみにしている」
軽く会釈するとストームはトラックを後にした。そんな彼女の後ろ姿を見ていたトレーナーはあることを考えていた。
(外見は不良みたいで口調も少し乱暴なところもあるけど真面目で礼儀正しい子だな…)
同世代のウマ娘たちの中でも並外れた実力を持つストームだが、実は他のトレーナーたちからの評価は微妙だったのだ。実力は確かだが、その不良のような外見から相当な気性難で指示を聞かないのでは?と思われており、声をかけるのを渋るトレーナーは多かったそうだ。
(でも、彼女には…ドゥンケルストームには間違いなくトゥインクル・シリーズで結果を残せる才能がある!俺が必ず彼女を頂点に立たせてみせるぞ!!)
ドゥンケルストームのために!、と強く意気込んだトレーナーは早速、明日のトレーニングメニューを考えるために自身のトレーナー室へと走った。
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・トレセン学園 食堂
トレーナーと別れたストームは学園の食堂に足を運んでいた。時刻は昼時で、食堂内は他の生徒たちでかなり混雑していた。バイキング形式になっており学園の料理長やコックたちが腕によりをかけて調理した豪勢な料理がこれでもかとテーブルに並べられている。
(…いつもながら、すごいご馳走だな)
故郷であまり贅沢な食事をしたことがないストームは見るのも嫌になるほどの料理の山に呆気に取られていた。数週間前からこの食堂を利用しているがここの料理はどれを食べても外れがないほど美味な物ばかりだ。
早速、料理を手に取ろうと列に並ぼうとするストームだったが…
「ひっ!!?」
「…ん?」
「す、すみませんっ!!お先にどうぞ!」
「…お、おい…!」
「あ、あたしは後でいいですから〜!!」
するとストームに気づいた他のウマ娘たちが怖がって我先に道を開ける。断ろうとしたが注目されているせいで断りきれず、ストームは開けられた列の中を進み適当に料理を取るとその場を後にした。
(…はぁ、飯を取ろうとしただけなんだがな)
食堂に来るといつもこんな調子であり列に並ぼうとすると先ほどのように大勢の生徒たちに怖がられてちょっとした騒ぎになってしまうのだ。食べる場所を探そうとキョロキョロと食堂を見渡すがどこも席が埋まっているようだ。
(…どこも満席だな、どうしようか)
「スト〜ム〜!こっちこっち!」
「…コスモス!」
声のする方を向くと数人の同級生とテーブルに座って手を振るマサキコスモスの姿があった。それを見たストームは嬉しそうに空いていたコスモスの隣の席へ腰を下ろした。
「…助かった、席がいっぱいで困っていたんだ」
「ええでええで、この時間はすぐに席がいっぱいになるしね。一緒に食べよ?」
「こ、コスモスちゃん…!ち、ちょっと…」
(やっぱり怖い…コスモスはよく声をかけられるなぁ…)
ストームのことを知らない同級生のウマ娘はまだ彼女を不良だと思っているのか恐がっているようだった。そんな友人の視線を察したコスモスはストームの肩を持ちながら笑顔で言葉を返した。
「心配しいひんで、ストームは怖い顔してるけどえらいええ子なんやさかい!」
「そ、そうなの…?」
「…すまん、よく顔が怖いと言われるんだ。仲良くしてくれると嬉しい」
「そ、そうだったんだ…」
その後、他の同級生からの誤解も解けた一同は気を取り直して談笑しながら食事をしていた。
「えっ!?ストームちゃん、もうトレーナーからスカウト受けたの!?」
「…ああ、とてもいい人だ。私もこんなに早くスカウトを受けられるとは思っていなかった」
「まあ、ストームの走りならトレーナーはん達も放っとかへんよなあ。あんたならデビューもきっと楽勝やろ?」
「そうそう、アタシもストームのレース見てたけどデビュー前であれだけ走れれば十分だと思うな」
コスモスも同級生二人も未だに選抜レースにも未出走でスカウトの声もかけられたことが無いため、選抜レースにも出走せずにスカウトを受けたストームのことがかなり羨ましいようだ。
「あ~あ、うちも早うスカウト受けたいなあ、早うレースに出たいで」
「そういえば、コスモスちゃんはダートが得意なんだっけ?」
「そや!うちはダートのレースで誰にも負けへんウマ娘になるのが夢やさかい!」
するとコスモスは自身がトレセン学園に来た理由を話し始めた。芝とダート両方において高いバ場適性を持っていたコスモスはどちらの適性でレースに望むのかを決めなければならなったのだが、コスモスは迷わずダードを選んだそうなのだ。
「なんでダートなの?ダートレースってG1のレースも少ないし、あんまり注目されないよね?」
「注目してもらうなら芝のレースに出たほうがいいんじゃない?」
「誰がなん言うても、うちはダートで走るんよ!父ちゃんと母ちゃんとの約束なんや!」
聞けば彼女の実家はそれなりに有名な資産家であり、生活にも不自由のない裕福な出自なのだ。ダートを選んだのも高いダート適性が注目され幼少期から今にかけてダートコースを走り続けていたからだ。両親から溢れんばかりの愛情を持って育てられた彼女だが、一つだけ父親から言われたある言葉を自身の強い信念としていた。
「"一つの技を極めろ、たとえ一つでも極限にまで極めたその技は百の技にも匹敵する"…うちの父ちゃんが教えてくれたことや」
「確かに…コスモスちゃん、レース最後の直線のスピードがめちゃくちゃ速いもんね」
「そうよ、うちの最高の武器なんやさかい!」
コスモスはレース終盤における直線での追込速度が極めて速いのだ。幼き頃から鍛えてきたこの末脚と得意なダートの経験、これらを武器にトゥインクル・シリーズのダートレースで名を残すような活躍を見せると両親に約束したのだ。
(…コスモス、すごく立派な夢じゃないか)
「ストーム!うちとあんた…どっちが先に名を上げるか勝負や!」
「…ああ、私も負けないぞ」
「そういえば、ストームさんはどうしてトレセン学園に来たの?コスモスちゃんみたいに大っきな目標があるの?」
「アタシも気なる!教えてよ」
「……」
しかし、ストームは口をつぐんでしまう。自身にはコスモスのような大きな目標は無い。潰れかけた故郷の牧場を建て直すために名を上げようとしているなど言えなかったのだ。
「…私にはコスモスみたいな大きい目標はない。とにかく有名なウマ娘になりたい…名を知らない人などいないぐらい有名にな」
「そ、そっか…」
「ふ〜ん…?まあ、お互い頑張ろ。すぐにあんたに追いついたるんやさかい!」
「…ああ」
故郷の牧場と両親のためにもこれからのレースで必ずを名を上げてみせると、ストームは改めて強く思うのだった。
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○名前
・マサキコスモス
イメージCV:松岡由貴さん
・バ場適正
芝:B ダート:S
・距離適性
短距離:A
中距離:D
マイル:B
長距離:G
・脚質適正
逃げ:G
差し:G
先行:G
追込:S
成長補正
パワー:15%
スピード:15%
○固有スキル
・一意専心の末脚
最終直線で速度と加速力がもの凄く上がる。
○固有二つ名
・砂の韋駄天
はんなりとした京都弁と糸目が特徴の芦毛のウマ娘。明るく気さくな性格で友人も多い。上品そうな外見とは裏腹にマイペースでやや行儀や口が悪い一面もある。レースには熱い想いを持ち、自身の信念である"一つを極める"という言葉を胸にレースに挑む。当初はストームを不良だと勘違いして怖がっていたが、誤解が解けてからは意気投合して互いに自身の目標のために切磋琢磨する親友になった。
○エピソード
元ネタは作者がPS4ソフト・ウイニングポスト8をプレイした時に名付けたオリジナル競走馬がモデル。デビューから高い能力と高いダート適性で数々のダート重賞を取って活躍してくれた。
次回からブライアンとストームの関係やURAファイナルズも絡めながら書いていきたいです!