受け継がれし絶脚   作:戦国のえいりあん

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オグリキャップとタマモクロス登場です!


第五話 強敵

 

○デビュー前 八月 後半

 

メイクデビュー戦まで残り一ヶ月、初陣に向けてトレーニングを重ねていたストームは日増しにその実力を高めていた。トレーナーの指導により問題点も少しずつ改善され走りにも安定感ができている。残りの二ヶ月で基礎トレーニングに加えて、ストームの最大の長所である直線での爆発力と加速力に磨きをかけるという方針になっていた。

 

そんな熱心に自主トレーニングに励んでいたある日のことだ。

 

「…ふぅ…30本目」

 

芝、距離2000mのレーストラックを汗だくで黙々と走っていたのはストームだ。するとトラック外から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「おー!ストーム、頑張っとるなあ」

 

「…コスモスか、授業は済んだのか?」

 

「うん、やっと授業終わったで。…えらい眠かったわ」

 

「…授業はちゃんと聞けよ、また赤点を取っても知らないぞ?」

 

「あの~実はストームせんせにお願いがあるんやけど…すんまへん!また勉強教えとぉくれやす!」

 

「…はぁ…仕方がないな。トレーニングが終わるまで待ってろ」

 

「いよっ!神様仏様ストーム様ッ!恩に着るわ!おおきにね!」

 

涙目で大喜びするコスモスに思わずストームはやれやれと苦笑いしながら言葉を返す。あれからすっかり仲良くなった同室のマサキコスモスとの関係は良好であり、今ではお互い遠慮なく本音を言い合える仲だ。ちなみにコスモスは勉強が苦手でテストが近づくとストームに教えてもらうのが定番になっていた。

 

「ストームさん、張り切ってるなぁ」

 

「うん、あのブライアンさんと張り合えるぐらい速いんだもんね」

 

「どっちが強いんだろ…あたしも模擬レース見てたけど、やっぱりストームさんの方が強いのかな?」

 

そんなトレーニング中のストームの姿を見ていたウマ娘たちが話をしていた。数ヶ月前に行われた模擬レースの噂が広まりトレセン学園内ではブライアンとストームのデビュー戦について期待が大いに高まり話題になっているのだ。

 

「…ひょっとして、私について話しているのか?」

 

「今、あんたとブライアンはんどっちがトゥインクル・シリーズで活躍するかトレセン学園内で話題になってんねん。知らへんの?」

 

「…まったく知らなかった。てっきりブライアンのことしか興味無いかと思っていたが…」

 

「ええなぁ…うちもあないなふうに噂の中心になってみたいなあ。まあ、うちはトレーナーを探すのが先やけど」

 

そんな時、トラック場の外から二人のウマ娘がストームたちに近づいてくる。同じくトレーニングをするために来たのか服装はジャージ姿だ。

 

「今日のトンカツはとても美味しかったな…あれ一口でご飯が三杯ぐらい食べられる」

 

「はぁ〜…あんだけ食っといてまだ足りんとかアンタの胃袋はホンマにどないなっとんねん!」

 

「食べないと力が出ないんだ。タマももっと食べないと背が伸びないぞ?」

 

「余計なお世話や!アンタみたいに食べれたら苦労せぇへんわ!」

 

トラック場にやって来たのはオグリキャップとタマモクロスだった。二年前から数多のG1レースに出場し数々の成績と逸話は叩き出し現在も選手として活躍している有名ウマ娘の二人だ。今年から高等部になった二人は後輩を導く立場として意気込んでいる。

 

「わっ!オグリ先輩とタマモ先輩や!ごきげんよう」

 

「おう!アンタらトレーニング中か?張り切っとるなぁ」

 

「…はい、お疲れ様です」

 

「キミは確か…ドゥンケルストームか?こうして話すは初めてだな」

 

「…はい、オグリ先輩。先輩方の活躍はかねてよりお聞きしています。こうして直接お会いできて光栄です」

 

(コイツ…おっかない顔しとんのに、メッチャ礼儀正しいやん!)

 

知らぬ者などいないほど偉大な先輩を前にストームとコスモスは感銘を受けていた。聞けば次のレースに向けてコンディションを仕上げるために二人で自主トレーニングを行おうとしていたそうだ。二人の次のレースは二ヶ月後の十月下旬に開催されるG1レース"菊花賞"だ。

 

「…言っとくけど、今度はウチが勝つで?オグリ」

 

「望むところだ、タマ。私も負けないぞ!」

 

他にもスーパークリーク、イナリワン、BNWと称されるビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケットなどの様々な強豪たちも出走するそうだ。

 

「ほぇ~…すごい威圧感や…やっぱし日本を代表する伝説のウマ娘は全然ちゃうなぁ」

 

「ほな、早速やろか?」

 

「……」

 

そんな二人をストームは何やらソワソワしながら見ていた。先ほどまでのトレーニングの疲労も忘れ、自身の胸の内が高まっているのを感じる。

 

世界に名を轟かせる伝説のウマ娘である二人と一緒に走ってみたい…と居ても立っても居られなくなったストームは二人に声をかけた。

 

「…あの、もしお邪魔でなければ私も参加させて頂けませんか?」

 

「ち、ちょい…!ストーム!?」

 

「ん?キミもか?」

 

「ふ〜ん…ええで!実はウチもアンタとは一度走ってみたいと思ってたんや!それにいろんな奴と走ったほうが学べることも多いしな」

 

「分かった、一緒にやろうストーム」

 

「…!!はい!先輩方、よろしくお願いします」

 

「へへっ、最初に言っとくけど中等部やからって手加減せえへんで!しっかり付いてきいや!」

 

快く承諾してくれた二人と共に併走トレーニングを行うことになり、三人は早速レーストラック場の開始線に立つ。いくらなんでもあの百戦錬磨の二人に挑むなど無茶だ、とストームを心配していたコスモスは外からスタータピストルを持って不安そうに見守っている。そんな気が気でないコスモスをよそにストームはいつものように黒い手拭いを頭に巻いて意気込んでいる。

 

(あの二人といきなり走るなんて無茶やで…!ストーム…いけるかなぁ…)

 

「ほな、合図は頼むで!」

 

「は、はい!分かりました!」

 

「よっしゃ、いくで?二人とも準備はええな」

 

「…ああ、いつでもいいぞ」

 

「……」

 

そしてコスモスの放ったピストルの合図と共に三人は抜群のスタートダッシュを決め、勢いよく同時に走り出した。オグリキャップとタマモクロスの速さはこの時点で並のウマ娘では追いつけないほどの速度なのだが、ストームはしっかりと食らいついていた。第2コーナ付近まではほぼ同じ速度だったが第3コーナに差しかかった時、タマモクロスが動いた。

 

(へぇ…入りたての中等部でここまでウチらに付いてこれるとは大したもんやな、…でも、これならどないや!)

 

(仕掛ける気だなタマ…よし、私もいくぞ!)

 

同じ速さで併走していたタマモクロスとオグリキャップが速度を上げた。その凄まじい加速と速度に二人とストームの距離が瞬く間に離されていく。

 

「わわっ!?なんなのあの速さ…!あんなんに追い付くなんて絶対、無理かて…」

 

(…さすがは歴戦のウマ娘…これが先輩の実力か…)

 

二人とストームの距離は3バ身ほど離されており、すでに第四コーナーを通り過ぎていた。最後の直線400mに差しかかり二人はさらに速度を上げる。

 

(オグリ…!また速くなったな!せやけど…負けへんで!!これが浪速のド根性やァァァ!!)

 

(やっぱりタマはすごいな…!だが…私も負けないぞ!いくぞ!全力だッ!!)

 

二人による激しい直線での一騎打ちが始まった。最早、ストームは追い付けないと判断したのか、二人の意識はストームから離れていた。レースを観戦していたコスモスもストームに勝機はすでにないと思っていたが…

 

「え…?ええ…!!?う、嘘やん!?」

 

(…!?)

 

(な、なんやと…!?)

 

思わずコスモスや二人が狼狽するほどの出来事が起こっていた。先ほどまで3バ身ほどの差をつけられていたストームがすでに二人の1バ身の距離まで追いついていたのだ。頭に巻かれた手拭いによって隠された目元から凄まじい眼光を発しながらどんどん加速する。

 

(…ああ…この感じ、なんだか懐かしい…最高だ…!速く…もっと速く…!)

 

第四コーナーに差しかかるまでストームは二人を観察するように走っていたがコーナーを通り過ぎた瞬間、まるで引き絞られた弓矢が放たれたかのように加速し二人との距離を瞬く間に縮めてしまったのだ。

 

(速い…!ドゥンケルストーム…これほどまでとは…!)

 

(コイツ…!ホンマに入りたての中等部か…!?)

 

「い、いけー!!勝てー!ストーーム!!」

 

二人の1/2バ身まで差をつめたところでストームはゴールラインに向かってなお走り続ける。しかし、オグリキャップとタマモクロスも負けていない。むしろ最後の直線による凄まじい末脚こそが二人の真骨頂でありここから本当の勝負だ。

 

「やるなぁ…!!せやけど、先頭は譲らんで…!"白い稲妻"の力、見せたるわァ!!」

 

「ふふ、すごいなキミは…!だが、勝つのは私だ!!」

 

「……!」

 

(そないな…!先輩、まだあないに速う走れるのッ!?)

 

掛け声と共に二人がまたしても速度を上げた。この並外れた末脚と速さでお互いに幾度も競い合い、多くのレースを制して来たこのだ。この二人を追い抜くにはそれを上回る末脚と速度が必要だ。

 

しかし…

 

(…残り100mか…試してみるか…)

 

すると一息入れたストームは一瞬だけ身を屈める。そして踏み込んだと同時に二人と同じくさらに加速したのだ。トレーナーから教わった脚への負担を軽減する走り方と自身の走法を織り交ぜた独特のフォームであり、しかもその速度は二人の末脚と互角どころか僅かに上回っていた。

 

(くッ…速いッ…!!)

 

(抜き返せれへん…!!こないなことが…!!)

 

「す、すごい!すごい!!行けーー!!」

 

(…ッ…!?)

 

その時、ゴールラインまで残り30mの地点で二人を追い抜いて走っていたストームが何故か減速してしまったのだ。その後、併走トレーニング戦は一着にオグリキャップ、その次にタマモクロス、ストームは三着という結果に終わったのだった。

 

息切れする三人の元にスポーツドリンクの入ったケースを持ってコスモスが駆け寄る。

 

「お、お疲れやす。やっぱしオグリ先輩とタマモ先輩は速いどすなぁ、さすがは伝説のウマ娘どす!」

 

「……」

 

「……」

 

しかし、二人は不思議そうな顔でストームを見つめている。一方のストームは息切らしながら自身の片脚をぷらぷらと動かしていた。そんな彼女にタマモクロスが真剣な表情で声をかけた。

 

「…アンタ、最後になんで減速したんや?あのままやったらアンタが勝っとったやろ」

 

「…すみません、あれ以上あの速度で走っていたら私の脚が壊れていました」

 

「もしかして、怪我をしたのか!?大怪我になっては大変だ、すぐに保健室に行こう!」

 

「…いえ、平気です。お気遣いありがとうございます、オグリ先輩」

 

その後、ストームの脚を心配した二人はストームに寮に戻るように諭しストームもそれを了承した。トラック場から出る際、ストームとコスモスは二人に向かって礼儀正しくお辞儀をした。

 

「…オグリ先輩、タマモ先輩、本日はありがとうございました。とても勉強なりました」

 

「あはは、ええで!ウチもアンタと走れて楽しかったで、また一緒に走ろうや!」

 

「ああ、また一緒に走ろうストーム、約束だ!」

 

「次はアンタも一緒にどや?コスモス?」

 

「あ、あはは…うちはちょい、遠慮させとぉくれやす…」

 

(無理無理ッ!あないな速い人たちと走るなんて無理やで!)

 

そしてトラック場から去っていくストームの背中を見つめながらタマモクロスかふと呟くように声を出した。

 

「…今年もとんでもない新入生が入ってきたなぁ」

 

「…ああ、私たちも負けていられないぞ」

 

「はぁ〜併走トレーニングで本気になるなんて久しぶりやで。あのストームって奴、一体何者やねん…明らかに中等部の走り方やなかったで」

 

「なんと言うか、私やタマのようにレースに慣れていたような感じだったな」

 

「…うかうかしとれんなぁ。よっしゃ!オグリもう一本行くで!」

 

「ああ!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、トラック場から寮に戻ろうと学園の中庭を歩いていたストームはコスモスに目を輝かせながら迫られていた。

 

「すごいなぁストーム!!あのオグリ先輩とタマモ先輩相手にあそこまで走れるなんてほんまにすごいで!」

 

「…ああ」

 

「えっと…まあ、落ち込まんといて。二人とあそこまで競えただけでも十分かて!」

 

「…いや、そうじゃない」

 

「え?」

 

(…やはり今の脚ではあの距離が限界か…まあ、焦る必要はない。"鳴くまで待とう時鳥"…だな)

 

僅かな時間だけ自身の出せる最高速度…すなわち本来の実力を一瞬だけ解放したが、やはり本格化が始まっていない現在の脚ではその負荷に耐えられないようだ。歯痒い思いだが、それで脚を壊してしまっては本末転倒であり今は雌伏の時であるとストームは自身にそう言い聞かせた。

 

「…さて、いいトレーニングも出来たことだ。後は…」

 

「あ、あの〜ストーム?疲れてるとこ悪いんやけど…さっきの約束覚えとる?」

 

「…もちろん覚えてる。普段から授業を聞いてないあんたの事だ、基礎からしっかりと頭に叩き込んでやる」

 

「ち、ちょい…!目ぇ怖いんやけど!?レースするんちゃうんやで!」

 

「…期末テストは明後日だぞ。死ぬ気で覚えるか、赤点を取るか…答えは言うまでもないな?」

 

「うう…ストームのいけず!」

 

「…嫌なら自分でやれ。三日三晩、徹夜で頑張ればなんとかなるだろう」

 

「無理どす。お願い!見捨てんといてやぁ〜…!」

 

その後、ストームの指導によってコスモスはなんとか期末テストの赤点を回避できたのだった。メイクデビュー戦まで残り一ヶ月…逸る気持ちを抑えながらストームはトレーニングの日々を送った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

○おまけ

 

※ドゥンケルストームがスマホゲーム版のホーム画面で喋ったらどんな台詞を言うのか書いてみました!

 

 

・ホーム画面会話 ドゥンケルストーム✕マサキコスモス

 

 

ストーム「……」

 

コスモス「どないしたん?浮かへん顔して。あ!ひょっとしてテストの点数でも悪かったんか?」

 

ストーム「…違う。…はぁ〜…」

 

ストーム(…また同級生に怖がられてしまった。どうすれば気軽に接してもらえるんだ?やはり笑顔なのか…?)

 

コスモス(どないしたんやろ?ハッ…!そっか、分かったで!あの表情…間違いないわ!)

 

コスモス「な〜んも言わんでええわ、うちには全部分かってるさかい!」

 

ストーム「…コスモスは何でもお見通しか、実は…」

 

コスモス「ずばり!トイレを我慢してるんやろ!その苦虫を潰したような表情…つまりおっきい方やんな!」

 

ストーム「……」

 

コスモス「あれ?ちゃうの?…ていうか怖っ!?睨まんといて〜!!」

 

 

・ドゥンケルストーム✕ナリタブライアン

 

 

ブライアン「…それは本当か?」

 

ストーム「…ああ、本当だ。まさに天にも登るような気分だったぞ」

 

ブライアン「アンタがそこまで言うとはな。興味が湧いた、私にも貸せ」

 

ストーム「…今から取ってこよう。あの『ウルトラふかふか安眠まくら』の寝心地は癖になるぞ?…試してみるといい」

 

ブライアン「最近、寝付きが悪くて困っていた。今晩はソイツを使って寝てみるとしよう」

 

ストーム「…しかし、以外だな。こういうのには興味がないと思っていたが…」

 

ブライアン「…子供の頃、姉貴の髪に包まれて寝た時、ふかふかでなかなか寝心地がよかったのを思い出しただけだ。…朝起きたら窒息で死にかけたがな」

 

ストーム「…あ〜…なるほどな」

 

 

・ドゥンケルストーム 一人台詞

 

 

ストーム「…トレーナーか」

 

ストーム「…実は物語を読んでいた。『三國志』…子供の頃からよく読んでいてな」

 

ストーム「…数多の英雄達による生き様と三国の軍師たちによる深い駆け引き…読んでいると熱く滾ってくるんだ…!」

 

ストーム「…私は魏の曹操が好きだ。なぜかは分からないが…この英雄の生き様、そして多くの民と臣下を導くその背中に惹かれるんだ…!」

 

 

 

 




次回はついにデビュー戦です! 
本格的にブライアンとの関係を描いていきます!実はもう一人のライバルとして史実ではブライアンと同期のヒシアマ姉さんことヒシアマゾンも絡ませて行きたいと思っています!
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