新作、書けました!
模擬戦ではありますがドゥンケルストーム対BNWです!
○朝日杯FSまで二ヶ月 十月前半
デビュー戦で見事勝利を飾ったドゥンケルストームはトゥインクル・シリーズの第一歩を踏み出し、次に出走するG1レース"朝日杯FS"に向けてトレーナーと共にトレーニングに励む毎日を送っていた。ストームのメイクデビュー戦から数週間後、別の日に開催されたメイクデビュー戦においてナリタブライアンとヒシアマゾンもまた他のウマ娘たちを制してトゥインクル・シリーズの切符を勝ち取っていた。
後に"怪物"と"女傑"として恐れられる二人の強豪ウマ娘からの宣戦布告を受けたストームは正々堂々と受けて立つ心構えであり、二人とのレースを心待ちにしていた。
・トレセン学園 トレーナー室
メイクデビュー戦から数日後、二ヶ月後の朝日杯FSに向けて対策と作戦を話し合うべく二人はトレーナー室にいた。いきなりのG1レースとなるが彼女ほどの実力を持つウマ娘であればきっと対等に渡り合えるはずだとトレーナーは信じていた。
「さて、次回の朝日杯FSだけど…」
「…ああ、警戒すべき相手は二人、ブライアンとヒシアマさんだな?」
「どちらも強敵だよ、激しい戦いになるはずだ」
特に最近のナリタブライアンの成長には目を見張るものがある。ライバルであるストームが同じレースに出走することもあるのか、あれから激しいトレーニングを行っているそうだ。
「…他に警戒すべきはグレイトハウスとコードオブハートの二人だな。後はマークする必要はないだろう」
「…驚いたな、ひょっとして自分で調べたのか?」
「…ああ、敵情視察と情報収集は戦の基本だ。グレイトハウスはコーナーにおける立ち回りに優れ、直線における加速力もなかなかだが頭に血が登りやすい性格で掛かりやすい。コードオブハートは突出した能力こそ無いが慎重な性格で戦においても掛かることが少なく虎視眈々と隙を狙う戦法を取るだろう」
ストームはライバルたちの情報を掴み対策を思案しており、もちろん今回のレースにおける最大のライバルであるナリタブライアンとヒシアマゾンについてもしっかりと把握していた。
「…ブライアンは直線とコーナーにおける走行速度と加速力が脅威だ。何より戦における勝負感と意地は凄まじい…ヒシアマさんは力強い走りが最大の特徴だな、追込による最終直線の加速力と爆発力はブライアンにも劣らない」
「恐らく二人が今回のレースにおける最大の壁になってくるはずだね、しっかりと対策を練る必要があるな」
「…二人の対策についてだが、私に考えがある」
すでに作戦を思いついていたストームはトレーナーに自身の考えを説明する。あれほどの強敵が相手では小手先の戦術は通用しない…いったいどんな作戦なのかトレーナーは疑問を膨らませていたが彼女の作戦を聞いたトレーナーは驚いた表情をしていた。
「…どうだ?あの二人には一度しか通用しないとは思うが…最初のレースなら試してみる価値はある」
「もちろん上手くいけば有効だけど…出来るのか?」
「…ああ、任せろ。やってみせるさ…」
少し不安そうなトレーナーの問いにストームは力強く頷いて答える。提案された作戦は彼女の言うとおり初見の一度限りしか通用しない作戦である上、高度な技術と経験が必要とされるのだ。ストームの実力は未だに未知数であり素養の高さは理解しているが、そんな一か八かの賭けをするのはトレーナーとして簡単には承諾できなかったのだ。
「…話は分かったけど、まだデビューしたての君にそれだけ高度な技ができるのか疑問が残る。君が本当にそれができるのか一度テストさせてほしい」
「…分かった。なら、どうする?」
「明日、トラック場でちょっと特殊なトレーニングをしようと思うんだ。それで君の技量を見せてほしい」
「…ああ、私の力を見せてやる」
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・翌日 トレセン学園 レーストラック場
トレーナの提案によりストームのレースにおける立ち回りと技量を確認するために午前の昼前時にジャージ姿でストームがやって来た。
「…トレーナ、待たせたな」
「ストーム、待ってたよ。準備は出来てる、始めようか」
(…特殊なトレーニングと言っていたが、いったい何をする気だ?)
トレーナが合図するとその背後からジャージ姿の三人のウマ娘がやって来たのだが、その顔ぶれを見たストームは驚きを隠せなかった。
「三人とも、今日は急なトレーニングに付き合ってくれてありがとう」
「ふふ、気にすることはないよ。私もストーム君とは一度走ってみたいと思っていたからね」
「うんうん!あの時の模擬レースを見た時からキミとずーっと走りたいと思ってたんだ!喜んで協力するよ!ね?タイシン」
「…まあ、今回はチケットに同意。近いうちにアンタの担当とやり合うことになりそうだし、実力を見極めておこうってだけだから勘違いしないでよ」
現れたのはなんとBNWの異名で知られるビワハヤヒデ、ウイニングチケット、ナリタタイシンの三人組だった。三人ともストームの二つ上の先輩であり、オグリキャップやタマモクロスといった名だたる面々に劣らずレースで華々しい結果を残しその実力で知名度も鰻登りであり今年から注目されている実力者たちだ。
(…ハヤヒデ先輩にチケット先輩とタイシン先輩…まさか、トレーナーの特殊なトレーニングというのは…)
「ストーム、君にはこれから実戦形式で三人と走ってもらう。距離は芝1800m…その中でレース中における君の判断力と技量を見せてほしい」
昨日の夕方にトレーニングに協力してほしいとトレーナーから頼みを受けた三人は快く承諾してくれたのだ。かつてナリタブライアンとの模擬レースの際にストームの走りを見ていた三人はいずれ手強いライバルになると予想し、一度は彼女の走りと強さを見ておきたいと考えたからだ。
「いきなり私たちと走ると聞かされて戸惑っているだろう。だが、そう緊張することはないよ。勝敗に拘らず君の走りを私たちに見せてほしい」
「そうだよ!トレーニングなんだし楽しくやろーよ!!」
「…最初に言っとくけど、アタシは後輩が相手だからって手加減しないから。アンタの本気を見せてよね」
「た、タイシン〜いきなり本気でやるなんて可哀想だよ、ストームはまだ一年生だよ?」
「……いえ、先輩方と走れるとは光栄です。せっかくの貴重な機会…胸を借りさせて頂きます」
(…いずれライバルとして走ることになると思っていたが、これほど早く競う機会が巡ってくるとは…ふふ、いい戦ができそうだ…!)
するとストームはどこか嬉しそうに手拭いを頭に巻き、レーストラック場のスタートラインへと歩いていった。いきなり強豪ウマ娘とトレーニングをすることになって緊張しているのではと思っていた三人は少し驚いていた。
「ふふ、どうやら我々の考えは杞憂だったようだな」
「ストームやる気満々だね!よぉーーし!!あたしも頑張るぞォォーー!!」
「…うるさい、トレーニング前に騒ぐなっての」
ストームの後に続いて三人も同じくスタートラインへ歩き出す。トラック場の外にはスターターピストルを持って待機しているトレーナの姿があった。位置につき準備が整った四人は今か今かとスタート開始の合図を待っている。
(ストーム、君の走りを見させてもらう…!)
「準備はいいか?じゃあ、始めるぞ」
「ああ、大丈夫だ」
「よーし!!やるぞォォー!!」
「…いつでも」
「……」
それと同時に四人が構えを取る。そして、トレーナーの撃ったスターターピストルを合図に四人が一斉に走り出しレーストレーニングが始まった。四人とも見事なスタートダッシュを決め、ウイニングチケットを先頭にビワハヤヒデ、ドゥンケルストーム、ナリタタイシンの順位で最初の第一コーナーへと走る。
(さて…では、ここから手筈通りにいこうか。頼むぞ、二人とも)
(えーと…ハヤヒデの言ったとおりにするんだっけ?かわいそうだけど…後輩の為だと思ってやらなきゃ…!)
(チケットの奴、ミスしなきゃいいけど)
すると先頭を走っていたウイニングチケットとビワハヤヒデが走りながら位置取りを変え始めた。さらに最後尾を走っていたナリタタイシンも徐々に速度を上げ前にいるのストームとの距離を縮めていく。
(さあストーム、君は経験豊富なBNWのブロックをどう抜ける…?)
実はトレーニングを始める前にトレーナはストームに内緒で三人にある指示を出していた。
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トレーニングが始まる少し前の時こと、トレーナーからの指示を聞いた三人は驚いていた。
「何?本当にいいのか…?」
「ああ、構わない。遠慮なくやってくれ」
「で、でもでも!かわいそうだよッ!トレーニング中にアタシたちでストームをブロックして動けなくするなんて!」
「…別にいいけど、何が目的なワケ?」
「今回のトレーニングはストームの判断力、そしてレース中に動じない精神力と技量を試すのが目的だ。経験豊富な三人なら上手く彼女をブロックできると思う」
少なくともこの三人のブロックを抜け出す判断力と適応力がなければストームの提案した作戦を実行に移すことなど到底出来ない。それと同時に現役で活躍する有力なウマ娘との実力の差を身を持ってストームに体験してほしいというトレーナーの考えだったのだ。
「レースでは何が起こるか分からない…状況に合わせて臨機応変に対応することも必要になる。そのための訓練だ、三人ともよろしく頼むよ」
「…分かった、ならば私たちも心を鬼として望ませてもらおう」
「やるからには徹底的にやるから」
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トレーナーからレース中にストームをブロックするように秘密裏に指示を受けていた三人は手筈通りにじわじわとストームを囲むように距離を詰めてくる。その時、ビワハヤヒデから1バ身ほど離れて追走していたストームはすでに違和感に気づいていた。
(……?ハヤヒデ先輩が徐々に右へ逸れているな…なるほど、私を前に行かせないつもりか…)
前方にはウイニングチケット、右斜上にビワハヤヒデ、背後から2/1バ身ほどの距離からはナリタタイシンが徐々に迫って来ていた。このままではストームは完全に三人に包囲されゴールまでほぼ身動きが取れなくなってしまうだろう。
しかし、ストームはすでに行動を開始していた。
(…私をブロックするつもりのようだが、そう容易く術中に嵌ると思ってもらっては困るな)
するとストームは少し速度を上げつつ一瞬、減速すると右足で踏み込んだ瞬間、足首と身体を巧みに捻り進行方向を変え、大外へ向かって右斜に素早く脱出したのだ。あと少し判断が遅ければ右斜め上のハヤヒデに完全に包囲されてしまっていただろう。
(…ブロックされるぐらいなら大外に脱出だ…第二コーナーを通過したな…戦はまだまだこれからだ…!)
(…何!?抜けられた…!)
(へぇ…やるじゃん)
ストームの機転で大外に出ることでブロックされることは避けられたが、大外に出てしまえば内側を走るよりも距離が長くなりスタミナを激しく消耗してまうのだ。内と外では意外なほど距離に差があり内から約5m離れてしまえば1周数十mは延びると言われているのだ。
大外に出たストームだけまるで別のレースを走らされていると思うほど距離に差が出ていた。第二コーナーを過ぎ、第三コーナーまで残り200mまで地点に差しかかった時、レースが動いた。
(…さすがハヤヒデ先輩、外へは脱出できたが完全にブロックされて隙がない…内に入るのは無理だな…)
(ブロックされる前に抜け出したのは見事だったが、後先を考えていなかったようだな。まだ甘い…!)
(あの速度で走り続けてればスタミナが切れるのは時間の問題だね…勝ちは貰うよ!)
このままハヤヒデたちと同じ速度で大外を走り続けていてはスタミナを消耗し最悪、致命的な差を開かれてしまう危機的状況であるはずだがストームはまったく動じていない。
(…予測通り…作戦はここからだ…さあ、いくぞ…!)
すると大外を走っていたストームが思いもよらぬ行動に出た。第三コーナーまで約100mほどの地点でストームは一気に速度を上げ前へと躍り出たのだ。
その速度はラストの直線で発揮する最後の加速そのものであり、ストームのあまりにも速いラストスパートに三人は驚きを隠せなかった。
(何ッ!もうラストスパートをかけるつもりか!?)
(…アイツ、何考えてんの?そんな早くスパートをかけたら最後の直線でバテて終わりだっての!)
内側に入れないよう妨害していたハヤヒデを抜き去りストームは大外から先頭のウイニングチケットの隣まで一気に順位を上げてきた。そして、内側に入りながらチケットを抜きそのままの速度を維持しつつ第四コーナーに向かってストームは走り続ける。
(わわッ!?もうスパートをかけてきたの!?よぉーし!!アタシも負けないぞぉーー!!)
(待て!チケット!!ストーム君の走りに付き合ってやる必要はない…!!)
(あのバカ…!!何やってんだよ!!)
ストームがペースを上げたのを見たチケットは自身も負けじと同じくペースを上げストームを追走する。もちろん、チケットのこの判断の危険性をハヤヒデとタイシンは見抜いていたがもうチケットを止める術はない。
(…思いのほか容易く釣れたな…さて、次は…)
(想定外の事態だな…しかし、こうなってはしまっては仕方がない。ここからは互いの実力での勝負だ!)
最早、ストームをブロックすることは不可能と判断したハヤヒデは作戦を変更し、正攻法へと切り替え最後の直線でストームを差し切ろうとしていた。タイシンもまた追込作戦で温存していたスタミナを開放し徐々にペースと速度を上げ、三人との距離を縮めてくる。
(仕掛けるのは最後の直線…!アイツらのスタミナもそろそろ限界のはず、勝つのはアタシだ!)
第四コーナーを過ぎ、残りの距離は約400m。先頭ドゥンケルストーム、ビワハヤヒデ、ウイニングチケット、ナリタタイシンの順で直線に差し掛かる。
タイシンとハヤヒデの読みどおりストームに釣られて速度を上げたチケットは慣れないペースで走り続けた結果、スタミナを大きく消耗し明らかに速度が遅くなっていた。
「ぜぇ…!ぜぇ…!と、飛ばじずぎだぁぁ…」
「…フー…フー…」
同じくストームも消耗が激しいのか、徐々に速度が落ち始めている。好機と言わんばかりにハヤヒデとタイシンは最後の直線のために残していたスタミナをすべて開放し一気に速度を上げた。
(ここが仕掛けどころだ!いくぞ!)
(アタシが勝つ…!アンタには負けないよ!ハヤヒデ!)
ゴールラインまで残り300m…すでにストームとクビの距離まで差を詰めた二人はそのまま抜き去ろうとするが…
(…呼吸は整った…ここから仕切り直しだ…!)
なんと激しいスタミナ消耗で減速していたストームが突如として復活し二人と同じく速度を上げたのだ。実は減速していたのは呼吸とペースを整えることの他にある作戦のためだった。
(何ッ!?あの距離からスパートをかけてまだそれほどの余力を残していたのか!?)
ストームの凄まじいスタミナとタフネスにハヤヒデは驚きを隠せなかった。ほぼ同じタイミングでラストスパートをかけたチケットですらすでにまともに走れなくなっているにも拘らず未だに底力を残していたのだ。
(クソッ…!!邪魔だっての…!!)
(…タイシン先輩のブロックは成功だな…後は残りの100mで勝負を決める…!)
速度を上げたストームは左外側から激しく追い上げてくるタイシンの前を走り抜かせないよう巧みに左右に動きながらブロックしていた。最終直線におけるタイシンの加速と勢いを削ぐためのストームの作戦だったのだ。そして、ゴールラインまで約100m。ストームとハヤヒデの一騎打ちが始まると思われたが…
(私たちを相手にここまでの走りを見せるとは…!だが、速さは互角…!絶対に負けん!!)
(…いくぞ…!)
するとストームは一瞬身を屈め、力強く一歩を踏み込んだ。彼女が編み出した独特の走行フォーム…そう、自身の全力の走りを開放したのだ。100mであれば全力で走ってもぎりぎり脚が保つのはタマモクロスとオグリキャップとトレーニングを行った時に実証済みだ。
凄まじい加速力と爆発力によりあっという間にストームとハヤヒデの距離が1バ身の差まで広がった。
(な、何だと…!?)
そして、ストームは見事三人を抜き去り一着でゴールしたのだ。ドゥンケルストーム、ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケットの順位でレースは終了したが、四人は疲労でその場に座り込んでいた。
「ぜぇ〜…ぜぇ〜…負げだぁぁぁ!!!悔しいぉぉ!!」
「はぁ…!はぁ…、クソッ…!!」
「…はぁ…はぁ…」
三人は同時に少し離れた場所に大の字で倒れているストームを見ていた。
「…フー…フー…」
底なしのスタミナとタフネスを持つストームでもさすがに今回は消耗が激しかったのか呼吸が乱れ脚も震えていた。しかし、その表情は晴れやかでどこか笑顔に見えた。
(…ふふ、やっぱり強者との戦の駆け引きは面白い…また、走りたいな…!)
一部始終を見ていたトレーナーは驚きのあまりに言葉を失っていた。それと同時に凄まじい武者震いなのか小刻みに身体が震えていた。
(…とんでない子だ、ドゥンケルストーム…実戦慣れしているBNWの三人を相手にここまで戦えるなんて…!あの走りはデビューしたてのウマ娘の走り方じゃない、歴戦のウマ娘の走りだ…!ストーム、君はいったい…)
トレーナーと同じくBNWの三人もストームの走りに驚きを隠せなかった。ストームをブロックするどころか気がつけば自分たちが翻弄されていたのだから…
「…アイツ、何者なの?ホントにデビューしたての中等部のウマ娘…?」
「おっかしいなぁ…アタシ、絶対に勝つ自信あったんだけど、なんで負けちゃたんだろ?気合いが足りなかったのかなぁ?」
「…想像以上の強さだ。さすがはブライアンに勝つだけのことはある。いや…あの走りはそんなものではない…」
「え?ハヤヒデ?」
「…今一度、自身の走りを見直す必要があるな二人とも」
「…賛成、きっとアイツはすぐにアタシたちの場所まで登って来る…それどころかもっと先に行ってるかもしれない…」
「うん!よぉーーし!!次は負けないぞぉぉ!!」
こうしてBNWとの実戦トレーニングを終えたストームはトレーナーからの文句なしの評価を受け、次回の朝日杯FSでの作戦はストームの考案した作戦に決まったのだった。次のレースまで残り二ヶ月…初のG1レースに向けてトレーナーと共に激しいトレーニングに励むのであった。
次回は短めの日常パートを少し書きたいと思ってます!
他の同期や先輩のウマ娘たちとの交流も書きたいです!