「はぁぁ!!やっちまった!!あ〜あ!その内オレは暴力行為でわっぱかけられて、終わりだな。人生終了RTA世界一かな?」
この男、おバカである。絡まれてしまった年端もいかない少年少女を救おうという心掛けは、大変素晴らしいものであると感じるが、あれではただの通り魔である。大柄の男3人を、海に向けてホームランをかまし、吹き飛ばして解決したこの男の行為は、まるで褒められたものではないだろう。
助けられた?少年少女の驚愕とした顔に、冷静になったのか居た堪れなくなり、サッチーはそのまま海にダイブした。少年に待て!と大声で叫ばれて追跡されたが、30分以上海に潜ることでなんとか撒けた。その後、潜りながら泳ぎ続け、ホテルの近くに来た所で陸に上がったこの男は確実に不審者である。
そして、今現在。サッチーは宿泊中のホテルに戻ってきていた。自分の部屋の、なんともまぁ馴染みの無い高級なお風呂場を使用した後、ソファーに横たわっていた。
「ああ・・・オレはなんたる事を・・」
サッチーは天井を見ながらそう呟く。フードを取り、フレンドリーに話しかけに行けば、何か変わっていたかもしれない。
「どうする?本当に、ただのヤベェ奴じゃねえか。鉄パイプの通り魔じゃねぇか(今更)ちょ、マジでほんとに自首しようかな・・・」
ストン。
すると、突如として何かが地面に落ちた音がした。
少しここで補足をしなければならないだろう。鉄パイプの男。この噂が少しずつ有名になればなるほど、捜索しようとする人達も出てくる。それが行き過ぎればもっと大きな組織も動く可能性も十分にある。
そして、この世界にはサッチーが元いた世界では想像もできない様な常識が沢山ある。
まず、魔法が当たり前にあり、尚且つSFでしか見たことのない様な兵器が大量にあるこの世界。そんなとんでも技術が造れてしまうこの世界で、身元を隠すなんて不可能であり、鉄パイプで人を殴打すればすぐに身元なんてものは特定される。
何故、一切合切。鉄パイプの男が村山幸生であるという情報すら世に出回らないのか、それは先程地面に落ちた手紙を見ればすぐに分かることだろう。
「また来やがりましたよ。これで何回目だよ。本っ当に神様ってのはぁ!」
ソファーに横たわっていたサッチーは重い腰を上げ、先ほど落ちてきた手紙を拾う。封を開けて中に入っていた紙を取り出し、見てみると真ん中に文字が書かれていた。
mission 24. パーティー会場に行き、パーティーに参加せよ!念のため招待状も同封して置く。ファイトいっぱーつ!
「なーにが、ファイトいっぱーつ!なんだぁ!コラァ!!!オレに何をさせたいんだ!支離滅裂なこと言いやがってこんにゃろう!」
そう全ては神の悪戯(もはや悪戯では済まない)監視カメラが妨害されるのも全て此奴の仕業である。
可哀想かなこの男は、イタズラ好きな神様にある意味気に入られているのかもしれない。
だが何故、イタズラ好きな神様の一命令に、このサイコパス厨二病(辛辣)が従うのか。結論、それは命令をクリア?した後の報酬のためである。
サッチー自身も最初は気付く訳もなかったが、急に現れる身に覚えのない手紙が定期的に送られれば、嫌でも気づく。そして、手紙の内容を疑いながら実行してみれば、不思議な事に周りで幸運が起こり、どんどんと生活が良くなっていったのである。彼が沖縄旅行に来れたのは、その幸運の一つのおかげである。
ぶっちゃけてしまうと、細かいことはわからない。だが、幸運が訪れると約束されているのならばやらない手はない。普通の人ならばやらないかもしれないが、深く考えずに直感的に行動するサッチーだがらこそ。今の現状があるのかもしれない。
「ちょ、もう・・・訳分からんけど取り敢えず着替えよう。んで、パ、パーティー会場に行くんだっけか?んじゃあ。スーツとか必要だけど、オレ持って来るどころかスーツなんて買った覚えないぞ?」
何はともあれ、サッチーは着替える為にクローゼットを開けた。すると・・・・
「うーわ、クローゼットに見覚えのないスーツが沢山あるんやが・・・マジ怖い」
これまた大変なことになったと思ったサッチーだったが、「パーティーとなれば美味しいものが沢山食えるからええやろ!」と考える単純すぎる男であった。
?少年少女を助けた事?あれはサッチーの気まぐれである。勝手に首を突っ込み勝手に自分の首を絞める姿に神様もニッコリであろう。
──────────────
衝撃的な体験をした達也と深雪は、別荘に戻ってきていた。
「おかえりなさい!」
家族のような人でもあり、姉のような人でもある使用人。桜井穂波が笑顔で迎えてくれる。
しかし、浮かない表情を見られたのか。心配した顔で、駆け寄ってきてくれた。
「何かあったんですか?深雪さん」
「ちょっと、知らない男の人に絡まれてしまって・・・でも大丈夫です。彼が、兄が助けてくれましたから」
「そうなんですか。お手柄ですね。達也さん」
「いえ、これが使命ですから」
「自分の立場を弁えているのは結構なことよ。達也、今後も励みなさい」
深雪と達也の母であり、世界で唯一の『精神構造干渉魔法』の使い手で、世界最高の精神干渉系魔法師である司波深夜は、当然のことのように言い放つ。
「はい。善処いたします。・・・ただ、少し気掛かりなことが」
達也はそう言うと、鉄パイプを持った謎の男に遭遇した話をした。
その話をした瞬間、周りの空気がピリついた。
「・・・・・・」
「?」
達也は今まで見たことのない。母の表情に困惑した。
「・・・何故、今になって現れたの・・・不吉なことが起こるのかしら・・・いえ、或いは・・・」
「?え、えっと申し訳ありません。少し汗を流してきます」
深雪はこの空気に少し嫌気が差したのか、それとも自身の母の今まで見たことのない表情に驚いたのか、深雪自身でもわからないが、逃げる様にお風呂場に足を運んだ。
司波達也は、先程遭遇した鉄パイプを持った男のことを考えていた。
(ありえない。魔法で身体能力を強化してもいなければ、何か特別な格闘術を使ったわけでもない。ただ、単純な腕力とタフネスだけで相手を海の方へ吹き飛ばした。あれが今危険視されている鉄パイプの男・・・最初は与太話かとも思ったが、あんなのを見せられれば、悪魔だの地獄の番人だのと言われるのも納得がいく。そして、母上のあの表情、過去に、何かあったのだろうか・・・わからないことが多いが、正体不明の存在が今沖縄に居るのは事実。深雪に何かして来るのであれば、どんな手を使ってでも始末する)
司波達也は、より一層強く決意した。
──────────────
サッチーは今現在パーティー会場に向かっている。パーティーと言われてサッチーが思い付くのは、仲の良い友人と一緒に集まり、ゲームやら何やらで遊ぶものだと考えているが、今回のパーティーは少し・・いやまるで違う。
(ちょっと本当に、作法とかだいじょうぶかぁ?オレそんなに詳しくないぞ・・・)
メンタルがまあ強いこの男でもこうなるのは必然。パーティー会場に向かう途中でも、普通に生活していれば見ることのできない様なシャンデリアや、飾り物、高そうな工芸品の数々を目にしてきた。ここに来れるのはいろんな分野の成功者や、億万長者、権力の高い方々なのかもしれないとサッチーでも推測できた。
暫く歩いていると、豪華な両開きのドアが見えた。恐らくあれがパーティー会場の入り口だろう。
サッチーはドアに手を置いた所で考える。
(オイオイ、オレ死んだわ。もしここが関係者以外立ち入り禁止なパーティーやったらどうするんや?招待状一つでどうにかなるもんなのか?通報待ったなしやろ。はぁ、もう行くしかねぇか!)
しかし、建て付けが悪いのか。扉が開かない。
「ん?扉開かない・・・こんの!おりやぁ!」
バコン!!!!!!!!
力を入れすぎたのか、爆音と共に扉が開いてしまう。
「何事ですかぁ!?」
どデカい音を聞き付け、警備員さんがどこからともなく駆けつけてきた。
「いやあ!ちょっと扉が開かなくてですねぇ!すいません!なんでもありません!」
サッチーは一言そう言うと、スタスタと歩いて行った。
歩いて行った男を、警備員は疑いの目で見る。それもそのはず、この大きな両扉をたった1人の男が開けただけで、あの様な爆音が出るであろうか。そして、この男が今開けた扉は建て付けが悪く、元々今日は開ける予定の無かった両開きの扉だった。
元は注意を促す予定であったが、今すぐこの男から離れたいという気持ちが上回ったのか。警備員はすぐさまその男から離れて行った。
〜サッチー。パーティー会場探索中〜
(ウヒョー!!めっちゃ高そうなワインじゃん!)
サッチーは周りの目など気にもせず、新品のワインの蓋を開け、そのまま豪快に呑んだ(ヤベェ奴)
「ああ!!うめぇっす!これだよこれ!こういうのでいいんだよ!(少し酔い気味)」
────────────────
周りの人々は困惑した。少し前、ドデカい音と共に登場したこの男は、あろう事か周りを歩き回り、気に入った料理を見つけるや否や一瞬で平らげた後、一つコメントしては次の料理を探すという暴挙を繰り返している。一体全体この男が何故、紳士淑女が集まるこのパーティーに参加できたのか、この男は一体何者なのか。誰もが疑問に思っていた。
黒羽家の現当主。黒羽 貢は、先程から周りをウロチョロする異様な男が鼻についた。確実にあの様な失態は犯さないであろうが、念の為に、自慢の娘と息子に釘を刺しておく。
「文弥、亜夜子。あのような愚かな人間にはなってはいけないよ?」
どこの愚かな分家。いや、どこの愚かな数字落ちかは知らないが、あの様な失態を晒すような人間は早く出て行ってもらいたい。
「あ、はい!分かっております!お父さ・・・ま」
「嘘、どうやって・・・」
文弥と亜夜子が信じられない様な目で自身を見ている。
「どうしたんだい?」
理由を聞いても答えは返ってこない。しかし、2人の目をよく見ると、自身よりも後ろの方を見ていることに気が付いた。
「突然すんません!お手洗い場ってどこにあるかわかります?広くて迷ってしまってですね」
「!!」
暴飲暴食を繰り返し、先程からおかしな行動ばかりしていた愚かな男が、相当な距離が離れていたのにも関わらず、気配も無く背後に接近していた事に、とてつもない恐怖を感じた。