次代の天災   作:名前が思いつかぬ

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入学初日

 入学初日、教室にいる女子生徒の視線は一人の男子生徒に集中していた。

 その男子生徒、一夏は教卓の目の前の席に座って居心地が悪そうだ。

 当然と言えば、当然だ。

 このIS学園に一夏以外の男子生徒は一人もいないのだから。

 

「まあ、一夏なら大丈夫でしょう」

 

 一夏に視線を向けている理由は色々あるだろう。

 澪ちゃんや箒は、幼馴染として心配だから。

 他は、ISを動かした男子に対する興味とか、そんな感じの物だろう。

 私としても一夏がどうしてISを動かせたのか興味がある。

 

 まあ、流石に幼馴染を解剖して調べるつもりはないが、DNA検査くらいはしてみたい。

 

「皆さん、入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です」

 

 教室に入って来た山田先生に視線を向ける。

 身長は私と同じくらいだろうが、異常に胸が大きい。

 私もスタイルに自信はあるし、胸は大きい方だ。

 けど、あそこまで大きくない。

 まあ、ほどほどに大きい程度で十分かな。

 

 自分の胸と山田先生の胸の大きさを比べていると、自己紹介が始まった。

 関わるかも分からない相手に興味ないので聞き流していたが、自己紹介はすぐに止まった。

 止めたのは一夏だ。

 この状況に現実逃避をしていたせいで、自己紹介の順番が回ってきたことに気づかなかったみたい。

 

「織斑君、織斑一夏君」

「は、はい」

「あの……大声出しちゃって、ごめんなさい。でも、『あ』から始まって、今『お』なんだよね。自己紹介してくれるかな?だめかな?」

「いや、あの、その、そんなに謝らなくても……」

 

 副担任とは言え、教師が生徒にあんなに下手に出て大丈夫なのかな。

 

「えー、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 それだけ言って一夏は黙ってしまう。

 クラスの女子達は続きを待っているが、一夏は困った顔で何も言わない。

 それにしても一夏、それは澪ちゃんと同レベルの短さだよ。

 まあ、一夏も何を言っていいのか分からないのだろうけど、いくら何でも短すぎない?

 

 そんなことを考えていると、一夏が大きく息を吸い込む。

 何か言う決心がついたようだ。

 

「以上です!」

 

 ダメだったみたい。

 そんな一夏は頭を出席簿で叩かれ、良い音を教室に響かた。

 叩いたのは一夏の実の姉、千冬さんだ。

 

「げっ!千冬姉!」

 

 また、千冬さんに出席簿で叩かれて、良い音を教室に響かせる。

 そもそも実の姉に対して、その反応はどうなのだろう。

 

「学校では織斑先生だ」

「先生、もう会議は終わられたんですか?」

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けて済まなかったな」

 

 会議があったから、副担任の山田先生が挨拶をしてたのか。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物にするのが仕事だ」

 

 千冬さんが挨拶すると、クラスの女子達が騒ぎ出した。

 あまりにもうるさかったので、耳を塞ぐ。

 

「毎年よくも、これだけ馬鹿者が集まるのもだ。私のクラスにだけ集中させてるのか?」

 

 毎年、こんななの?

 この学園は馬鹿しかいないの?

 千冬さん、苦労してたんだなぁ。

 

「で、挨拶も満足に出来んのか?お前は」

「いや、千冬姉。俺は……」

「織斑先生と呼べ」

「……はい、織斑先生」

 

 千冬さん、一夏の自己紹介がだめなら、澪ちゃんもダメになります。

 一番長くしゃべる自己紹介でも、三単語の澪ちゃんが可哀想です。

 

「静かに!」

 

 一夏と千冬さんを見て、クラスがざわめきだしたのを一言で黙らせた。

 

「諸君らには、これからISの基礎知識を半年で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ、いいか?良いなら返事をしろ、良くなくても返事をしろ」

「「「はい!」」」

 

 千冬さん、基礎知識も基本動作も完璧です。

 その後、自己紹介は打ち切られてホームルームが終わった。

 ホームルームが終わると、今度は教室だけでなく、廊下から他のクラスの女子まで一夏を見に来ている。

 そんなことを思っていると、箒が一夏に声を掛けた。

 

「ちょっといいか」

「え?」

 

 おや、箒と一夏が廊下に行こうとするのを、澪ちゃんが箒の制服の袖を掴んで引き留める。

 

「私も」

「まあ、いいだろう」

「澪ちゃんが行くなら、私も行く」

「はあ、相変わらず、お前達は仲が良いな」

「当然」

 

 澪ちゃんに後ろから抱き着きながら言うと、箒にため息をつかれた。

 そのまま一夏と箒について屋上まで行く。

 

「六年ぶりに会ったんだ。なんか話があるんだろ?」

 

 一夏が箒に話しかけるが、箒は照れて何も話さない。

 箒、頑張らないと、一夏を誰かに取られちゃうよ?

 

「そういえば」

「な、なんだ?」

「去年、剣道の全国大会優勝したってな。おめでとう」

「なんで、そんなことを知ってるんだ?」

「なんでって、新聞で見たいし」

「なんで、新聞なんて見てるんだ」

 

 久しぶりに会って話す内容だろうか?

 まあ、箒がいいなら、私はいいのだけど。

 

「そもそも、私が優勝できたのは、澪が出場して無かったからだ。澪、どうして出場しなかった」

「まあ、去年は澪ちゃん、剣道やってなかったから仕方ないよ」

 

 澪ちゃんは答えないだろうから、私が代わりに答える。

 

「どういうことだ?」

「養成所、行ってた」

「ISパイロットの養成所ね。千冬さんの紹介で通ってたの」

「へぇ、そうだったのか」

「なんで、一夏が知らないの?」

「いや、千冬姉から何も聞いてなかったし」

 

 まさか、実の弟に何も話してないとは驚きだ。

 

「なるほどな。蓮華も通っていたのか?」

「私は通ってないよ。うちの会社のテストパイロットになったから、ISは好きな時に動かせたし」

「そういえば、蓮華の会社ってIS関連の企業だったな」

「ISだけじゃないけどねぇ」

 

 そんな話をしていると、チャイムが鳴った。

 

「教室に戻ろうぜ」

「ああ、分かっている」

 

 授業が始まる前に教室に戻り、席に着く。

 正直、授業で習うような内容は余裕で分かる。

 しかし、千冬さんの前で下手にさぼれば、確実に痛い目に合うので真面目に授業を受けている振りだけはしておく。

 適当にクラスの様子を見ていると、一夏の様子がおかしい。

 まあ、一夏のことだから、ISの専門用語が分からなくて苦労しているのだろう。

 

「織斑君、何かありますか?」

「あっ、えっと……」

「質問があったら聞いてくださいね。なにせ、私は先生ですから」

「先生……ほとんど全部分かりません」

「え?全部ですか?今の段階で分からないって人はどのくらいいますか?」

 

 一夏の言葉に山田先生が心配になり全員に確認するが、誰も手を上げない。

 まあ、IS学園に入ろうと勉強して来た彼女達なら、普通に理解できるだろう。

 一夏のように仕方なく入学したわけではないのだから。

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

「えー、あの分厚い奴ですか?」

「そうだ。必読と書いてあっただろ」

「電話帳と間違えて捨てました」

 

 本日三度目の良い音が響く。

 あんなに頭を叩いたら、余計に頭が悪くなりそうだ。

 というより、そんな参考書あったかな?

 読んだ記憶がないのだけど……まあ、理解出来てるからいいかな。

 

「再発行してやるから、一週間で覚えろ」

「いや、一週間であの厚さはちょっと」

「やれと言っている」

 

 これに関しては一夏の自業自得だね。

 心の隅で応援しておくよ。

 

 授業が終わり休み時間になると、一夏に一人の女子が近づいて行った。

 面白そうだから、黙って見ていると女子が一夏に声を掛ける。

 

「ちょっとよろしくて」

「ん?」

「まあ、なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度と言うものがあるのではないですか?」

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

「私を知らない!セシリア・オルコットを!イギリスの代表候補生にして入試首席のこの私を!」

 

 私も知らないけど。

 というか、入試の首席彼女なんだ。

 てっきり、澪ちゃんかと思ってたけど、違うんだ。

 ああ、澪ちゃんは、座学の方があんまり得意じゃなかったか。

 

「質問いいか?」

「下々の者の要求に答えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

 面倒な貴族に絡まれてるなぁ。

 

「代表候補生って、何?」

 

 教室の女子達がギャク漫画のようなこけ方したぞ。

 流石一夏、想像の斜め上を行く馬鹿さだ。

 誇っていい、君を超える馬鹿はそうそう現れないよ。

 

「あ、ああ……」

「あ?」

「信じられませんわ。日本の男性と言うのは、皆、これほど知識が乏しいものなのかしら、常識ですわよ、常識」

 

 日本で代表候補生を知らない男性を探す方が難しいと思うよ。

 というか、一夏が代表候補生を知らなかったことに驚きだよね。

 千冬さんが国家代表なのに、候補生を知らないってどうなの?

 

「国家代表IS操縦者の候補生として選出されるエリートのことですわ。単語から想像したら分かるでしょう」

「そう言われれば、そうだ」

「そう、エリートなのですわ。本来ならば、私のような選ばれた人間と、クラスを同じくするだけでも奇跡、幸運なのよ。その現実を、もう少し理解していただける」

「そうか。それはラッキーだ」

「馬鹿にしていますの?」

「お前が幸運だって言ったんじゃないか」

 

 本当に面倒なのに絡まれたね、一夏。

 それに、よくも自分のことをあそこまで誇れるわね。

 澪ちゃんなんて、代表候補生になった時の報告は無表情のまま「候補生、なった」だけですよ。

 自己紹介より短い報告に、流石の私もどう返せばいいか困ったというのに……

 澪ちゃんには、彼女を見習ってもう少し誇って欲しいよ。

 

 まあ、あそこまで面倒くさい人にはなって欲しくないけど……

 

「私も」

 

 ん?あれ?澪ちゃんが、話に参加してる。

 同じ代表候補生だから参加しに行ったのかな?

 

「は?」

「澪、どうしたんだ?」

「倒した」

「澪も教官を倒したってことか?」

 

 一夏の確認に澪ちゃんが頷いて返す。

 思い出に浸っている間に、話が少し変わったみたい。

 

「私だけと聞きましたが……」

「?」

 

 オルコットさんの方は知らないけど、澪ちゃん、無表情で首傾げても何も伝わらないよ。

 

「聞き間違いって落ちじゃないのか?俺も倒したし」

「あなた!あなたも教官を倒したって言うの!」

「えっと、落ち着けよ、な」

「これが落ち着いていられっ」

 

 何とも微妙なところでチャイムが鳴ったな。

 まあ、一夏的には助かったわけだし、良かったね。

 そして、澪ちゃんは何しに行ったの?

 

「話の続きは、また改めて。よろしいですわね!」

 

 一夏は、「よろしくない」て顔してますよ。

 

 入学初日は、それ以上問題は起こらずに終わった。

 寮に戻った後、寝間着の浴衣に着替えて澪ちゃんに抱き着いていると、廊下から一夏の悲鳴が聞こえたが、問題はないでしょう。

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