次代の天災 作:名前が思いつかぬ
入学二日目の朝、寮の食堂で澪ちゃん、一夏、箒の三人と一緒に朝食を食べている。
しかし、どうにも箒が不機嫌だ。
「なあ、なあって、いつまで怒ってるんだよ」
「怒ってなどいない」
「顔が不機嫌そうじゃん」
「生まれつきだ」
いや、どう考えても不機嫌でしょう。
「昨日の夜、何かあったの?」
「何も無かった」
ふむ、昨日の夜、一夏と何かあったわけね。
「これ美味いな」
「うん、確かに美味しい」
「蓮華は……朝食それで大丈夫なのか?」
「いつも通りの朝食」
ホットケーキ四段に大量のはちみつを掛けた、私の朝食。
「見てるだけで胸焼けしそうだ」
「もう少し、まともなものを食べたらどうだ?」
「朝は、これ食べないと、起きたって気がしないのよ」
「健康的にも悪そうだ……」
「何年も食べてるから、大丈夫大丈夫」
はちみつを大量に染み込ませたホットケーキの味が最高なのよ。
「織斑君、隣良いかな?」
「え?別にいいけど」
一夏に声を掛けた女子三人を見ると、一人だけきつねのパジャマを着た子がいた。
今パジャマを着ていて間に合うのだろうか?
「織斑君って、朝すっごい食べるんだ」
「男の子だね」
「ていうか、女子って、朝それだけしか食べないで平気なのか?」
それは人によると思うけど……。
澪ちゃんは一夏と同じくらい食べるし、私もカロリーなら結構取ってる。
女子二人は何とも言えない顔で苦笑しているし、ダイエットとかいろいろあるんでしょう。
「私達は、ね」
「うん、平気かな」
「お菓子、よく食べるし」
きつねの子だけ理由が明かに違う気がする。
「私は先に行くぞ」
「ああ、またあとでな」
「またね」
箒は一人だけさっさと食べて行ってしまった。
「織斑君って、篠ノ之さんと仲良いの?」
「同じ部屋だって聞いたけど」
「ああ、まあ、幼馴染だし」
「「「幼馴染!?」」」
「私と澪ちゃんも二人と幼馴染だよ」
「「「え!?そうなの!?」」」
驚いている三人に私が付け加えると、三人とも私を見て目を丸くする。
三人の反応を見て微笑みながら、ホットケーキにはちみつを掛ける。
「蓮見さん……そんなにはちみつかけて大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、これくらい掛けた方が甘くて美味しいよ」
「いくらなんでも掛け過ぎだと思うけど……」
「そうかな?」
一夏の隣に座る女子の言葉に首を傾げながら、最後の一切れを口に入れる。
「いつまで食べている。食事は、迅速に効率よくとれ。私は一年の寮長だ。遅刻したら、グラウンド十週させるぞ」
グラウンド十週くらいなら、別にしてもいいけど、千冬さんに怒られるのは怖いから、さっさと行こっと。
「澪ちゃん食べた?」
澪ちゃんに視線を向けて確認すると、頷いて返してくれる。
「じゃあ、行こうか。一夏、お先」
「おう、俺もすぐに行くよ」
澪ちゃんと二人で一夏をおいて先に行く。
ホームルームの時間、千冬さんが教卓に立って話し始めた。
「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表者とは、対抗戦だけではなく、生徒会の会議や委員会への出席など、まあ、クラス長と考えて貰っていい。自薦他薦は問わない誰かいないか?」
「はい、織斑君を推薦します」
千冬さんの問いに、真っ先に一人の生徒が手を上げて一夏を推薦する。
その意見にクラスの女子達が次々に賛成していく。
「他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」
「ちょ、ちょっと待った。俺はそんなの嫌だぞ」
「納得がいきませんわ!」
一夏の言葉にかぶせるように、オルコットさんが声を上げる。
「そのような選出は認められません。男がクラス代表だなんて良い恥さらしですわ。このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか?」
そもそも前例が無さ過ぎて恥も何もないと思う。
というか、駄々をこねるなら自推すればいいんじゃないのかな?
「だいたい、文化としても後進的な国に暮らさなくてはいけないこと事態、私にとっては耐えがたい苦痛で」
「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で、何年覇者だよ」
「美味しい料理はたくさんありますわ。あなた私の祖国を侮辱しますの!」
いえ、国際問題になりそうなことを言い出したのは、あなたの方です。
というか、代表候補生にISの訓練させる前に、精神的な訓練を施すべきじゃないかな?
場所が場所なら、国際問題確定だけど。
「決闘ですわ」
「いいぜ、四の五の言うより、分かりやすい」
「わざと負けたりしたら、私の小間使い。いえ、奴隷にしますわよ」
あなたの考え方もかなり後進的な気がするけど、大丈夫?
イギリスの奴隷制度は、かなり昔に廃止されたはずだけど。
「ハンデは、どのくらいつける?」
「あら?さっそくお願いかしら?」
一夏の発言にオルコットさんは呆れ、クラスの女子達は笑い出す。
まあ、代表候補生相手に素人がハンデをつけるなんて、馬鹿以外言わないものね。
男女関係なく、玄人相手に素人がハンデつける方がおかしい。
クラスの女子達は、一夏が男だから笑っているようだけどねぇ。
「むしろ、私がハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。日本の男子は冗句センスがあるのねぇ」
「織斑君、今からでも遅くないよ。ハンデつけて貰ったら」
「男が一度言ったことを覆せるか、無くていい」
「話はまとまったな」
「私も、やる」
千冬さんが話をまとめようとすると、澪ちゃんが手を上げて宣言した。
「澪ちゃん!本気!?」
澪ちゃんに確認するが、頷いて返すだけで何も言わない。
相変わらず、何を考えているのか分からない無表情なんだから、少しくらい理由を話して欲しい。
「姫宮も参加するんだな。蓮見もするのか?」
「私はしませんよ。クラス代表何て面倒そうですし」
「そうか。それでは、勝負は次の月曜、第三アリーナで行う」
一週間で一夏が勝てるようになるとは思えないけどねぇ。
まあ、澪ちゃんの圧勝で終わりそうかな。
「織斑、オルコット、姫宮はそれぞれ準備をしておくように」
千冬さんはそれだけ言うと、ホームルームを終わらせた。
一限目までの休み時間に澪ちゃんのところに行く。
「澪ちゃん、どういうつもりなの?」
「なんとなく」
「……もっと、分かりやすい説明が欲しいんだけど」
何年たっても澪ちゃんの思考だけは読めない。
そもそもお面をつけていると言われた方がしっくりくるほど、澪ちゃんの表情は変わらない。
小学校の時から澪ちゃんを観察し続けた私でも、表情が変化したところを見たことが無い。
だから、澪ちゃんの考えてることは行動やわずかな発言から考えるしかない。
それなのに、行動も発言も意味が分からないと、考えようがない。
「澪ちゃんの考えを否定はしないけど、そんなにクラス代表になりたかったの?」
首を横に振る澪ちゃんを見て、私は頭を抱えるしかない。
「じゃあ、何がしたいの?」
「……?」
言葉に出来ないのは分かった。
そして、澪ちゃんもよく分かってないのも分かった。
つまり、私がいくら考えても分からない。
「今度からは少し考えて行動しなよ」
「ん」
本当に分かっているのか、いないのか。
まあ、澪ちゃんがISを動かしてるところを見れるだけでいいか。
澪ちゃんの考えを知ることを諦めて席に戻る。
私が席について少しして千冬さんが戻ってくる。
「織斑、お前のISだが、準備まで時間が掛かるぞ」
「え?」
「予備の機体がない。だから、学園で専用機を用意するそうだ」
千冬さんの言葉に女子達がざわめき始める。
まあ、専用機なんて簡単に手に入るものではないから、仕方ないかな。
「専用機があるって、そんなにすごいことなのか?」
どうやら一夏は何も分かってないようだ。
まあ、オルコットさんが一夏の傍に行ったから説明するでしょう。
「それを聞いて安心しましたわ。クラス代表決定戦、私とあなたでは勝負は見えていますけど、流石に私が専用機、あなたが訓練機では、フェアではありませんものね」
「お前も専用機ってのを持ってるのか?」
「ご存知ないの?よろしいですわ。庶民のあなたに教えて差し上げましょう。この私、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生。つまり、現時点ですでに、専用機を持っていますの。世界にISは、僅か467機。その中でも、専用機を持つ者は全人類60億の中でも、エリート中のエリートなのですわ」
事実だろうけど、自分で言うことではない。
「本来なら、IS専用機は国家、あるいは企業に所属する者にしか与えられない。が、お前の場合は、状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が与えられる。理解できたか?」
「な、なんとなく。企業ってことは、蓮華も持ってるのか?」
「持ってるよ。これが、そう」
一夏が私の方を向いて聞いて来るので、長い髪の一部をまとめて団子にしている簪を指差しながら返す。
「後、澪ちゃんも専用機持ってるよ。だから、クラス代表決定戦は、私以外の専用機持ちの戦いだね」
「へぇ、澪も持ってたのか」
一夏の視線に澪ちゃんは、指輪状の専用機の待機形態を見せながら頷く。
「山田先生、授業を」
「あ、はい。それでは、授業を始めます」
また、退屈な授業が始まり、ため息をついて授業を受けている振りをする。
そういえば、澪ちゃんの専用機も初めて見れるんだ。
どんな専用機なんだろう。
澪ちゃん以外まともに扱えない欠陥機らしいし、見るの楽しみだなぁ。