次代の天災 作:名前が思いつかぬ
午前の授業が終わり、昼休みになると一夏が箒を引っ張って近づいて来た。
「蓮華、飯食いに行こうぜ」
「ん?いいよ。澪ちゃん、行こ」
一夏に誘われたので、澪ちゃんを誘って四人で食堂に向かう。
食堂に着くと、適当に選んで料理が出来るのを待つ間、一夏と箒が言い争いをしていた。
二人の言い争いは、昔もよくあったなぁ、なんて思っている間に頼んだ料理が出て来る。
料理を受け取って四人で席を探して座り、食べ始める。
「なあ、ISのこと教えてくれないか?このままじゃ、何も出来ずにセシリアに負けそうだ」
「下らない挑発に乗るからだ」
「それで、よくハンデをつけるなんて言えたね」
「返す言葉もありません」
今朝の自信は何だったのかと、言いたくなるほど自信が無い顔で言う一夏。
容赦のない私と箒の言葉に肩を落としてしまう。
まあ、自業自得だ。
「一度痛い目見た方がいいんじゃない、今後の為にも」
「そこを何とか、頼む」
頭を下げてお願いしてくる一夏に、何かを言う前に一夏の背後から声が掛けられた。
「ねぇ、君って噂の子でしょう。代表候補生の子と勝負するって聞いただけど、君素人だよね。私が教えてあげようか?」
「結構です。私が教えることになっていますので」
「え?」
はあ、女子を近づけたくはないのね。
それならもっと素直になればいいのに。
「あなたも一年でしょう。私、三年生。私の方が上手く教えられると思うなぁ」
「お気になさらず、こちらには代表候補生もいますので」
「そ、そう。それなら仕方ないわね」
私の言葉に先輩は悔しそうな顔をして戻っていった。
「教えて、くれるのか?」
不思議そうな顔をした一夏の問いに対して、澪ちゃんは黙ったまま頷いて返す。
それを見て一夏が嬉しそうな顔をするが、私は首を横に振って返す。
「私と澪ちゃんは、今回は何も教えないよ」
「え!?」
「なに!?」
「……」
私の発言に二人とも驚いているが、変な誤解をされそうなので話を続ける。
澪ちゃんも視線を向けて来るってことは、驚いているのかな?
「ISの練習をしようにも、一夏の専用機は無いし、訓練機も一週間じゃ一回も借りれないから無理」
一夏には悪いが、本当に私達がISのことを教えてもセシリアに勝てるようにはならない。
「けど、知識とか基本的なこととかあるだろ?」
「一夏に知識で教えて強くなるわけないでしょ。基本的な動作は試合の前半で逃げながら覚えれば十分よ」
「じゃあ、一週間何すればいいんだよ……」
一夏も私の言ったことを否定できずに、また落ち込んでしまう。
澪ちゃんと箒が避難の目を向けて来るので、一夏に解決策を伝える。
「言ったでしょ、私と澪ちゃんは、何も教えないって」
「ん?じゃあ、箒が教えてくれるのか?」
「なぜ、私なのだ?」
三人は、未だに理解できてないみたいね。
「一夏、中学でバイトばかりしてたから、箒に剣術を鍛え直してもらえってことよ」
「なるほどな。だが、それなら澪も出来るのではないか」
「澪ちゃんはねぇ」
箒の言葉に出来ると言いたげな顔で頷く、澪ちゃんを見ながら何というべきか考える。
正直、澪ちゃんと一夏では、スペックが違い過ぎるし。
スペックが違うだけなら、まだ良いけど……。
そもそも澪ちゃんは、人に何かを教えるのが得意じゃないしなぁ。
「今の一夏と澪ちゃんだと、練習にならないんだよ。時間がある時ならいいけど、今回は箒に任せた方が良いと思うんだよね」
「蓮華が言うなら、そうなのだろうな」
「まあ、俺達の中だと一番頭良いしな」
「……」
箒と一夏は納得したようだ。
澪ちゃんも一応納得してるようだ。
「そういうことだから、一夏は箒にしごかれてきなさい」
「そうすれば、勝てるようになるんだよな?」
「勝てる可能性が上がるだけで、不利なのは変わらないよ」
「そんなに甘くはないか」
操縦技術の差もあるけど、専用機の性能の理解度も響いて来るからなぁ。
専用機の得手不得手を理解してるか、してないかの差は大きいよねぇ。
「一夏は試合の前半で逃げながらやることは、相手の専用機の長所と短所を探すこと、自分の専用機の長所と短所を把握すること、剣術を活かせるくらい操縦の感覚を掴むこと、かな」
「うっ、やること多いなぁ……」
実際は、これくらい考えて戦うのが普通なんだけどねぇ。
人によっては感覚的にやってて意識してないだけってこともあるしねぇ。
まあ、一夏は感覚派だから、あんまり気にさせるべきじゃないか。
「取り合えず、重要なのは操縦の感覚を掴むことだね。他は、余裕があればで良いよ」
「分かった。余裕があれば、やってみるよ」
「うん、応援してるね」
「頑張って」
相変わらず抑揚のない声で、応援する澪ちゃんを見て微笑む。
やっぱり、澪ちゃんは可愛いなぁ。
放課後、授業が終わり寮に帰ろうとしていると、千冬さんに声を掛けられた。
「蓮見、少しいいか?」
「はい、大丈夫です」
「ついてこい」
「分かりました」
周りに生徒がいる状況では話せ以内ことなのだろうか?
千冬さんの用件が分からず、首を傾げて考えながらついて行く。
千冬さんについて行くと、職員室の近くの部屋に入るように促された。
部屋に入り、千冬さんに言われるがままに椅子に座って、用件を尋ねる。
「どうして私を呼んだんですか?」
「お前に少し聞きたいことがあってな」
「聞きたいことですか?」
入試で手を抜いたことだろうか?
「お前は織斑を鍛えるつもりはないのか?」
「一夏のことですか?まあ、私は鍛える気はありませんよ」
私が鍛えないというと、千冬さんは少し不思議そうな顔をして問いかけて来る。
「なぜだ?お前のことだから、オルコットに負けないように鍛えると思っていたのだが」
「無茶言わないでくださいよ。一夏を一週間で代表候補生に勝てるようにするなんて、簡単に出来るわけないじゃないですか」
「ほう、無理だとは言わないのだな」
「……」
何も考えずに話すとぼろが出そうだなぁ。
ここからは少し気を付けて話さないと、危ないかも。
「条件によりますよ。例えば、一夏の専用機がすでに用意されているとか」
「確かに、その条件は満たせないな。だが、私が気になるのは、なぜ鍛えないんだ?」
「私が鍛えなくても、一夏を鍛えようとしている子がいますから」
「姫宮か……」
ん?箒の名前が出て来ると思ってたんだけど、澪ちゃん?
「どうして、澪ちゃんだと?」
「なんだ、気づいてなかったのか?姫宮は、昔から一夏のことを鍛えて来たんだぞ」
「剣術をやっていた頃ですか?」
「ああ、あいつは何も言わないし、表情にも出さないが、一夏を積極的に鍛えていた」
そんな話は初めて聞いた。
いや、そもそも私は箒の家の剣術道場に行ったことが無いのだけど。
澪ちゃんは、どうして一夏を鍛えようとしてたんだろう?
「まあ、姫宮が鍛えるなら織斑は大丈夫だろう」
「いえ、この一週間は一夏を鍛えるのは箒ですよ」
「篠ノ之がか?」
「一夏は中学時代はバイトばかりで、剣術はなまっているでしょうから、箒に鍛え直させてるんですよ」
「それなら姫宮でもいいと思うが、ダメな理由があるのか?」
「澪ちゃんは何かを教えることに向いてませんから……」
「……なるほどな」
千冬さんも何か思い当たることがあるのだろう。
私の言葉に、納得したように頷いて黙る。
澪ちゃんが強いのは事実だけど、教えることには向いていない。
「織斑のことは分かった。次は、お前のことだ」
「私、何かしましたか?」
「私が気づかないとでも思っているのか?お前が入試で手を抜いたことは、分かっている」
「合格範囲には入ってるんだから良いじゃないですか」
やっぱり、バレていたかぁ。
「本気を出せば首席を取れただろうに、なぜ本気を出さなかった」
「別に首席の座とか興味無かったですし、手を抜いても合格出来ると分かってたので、やる気が無かっただけですよ」
「まあ、そういうことにしておこう。最後に、あのふざけた専用機だが、あれはなんだ?」
「失礼な!一切ふざけてません!私が作り上げた最高傑作ですよ!」
私が全力で不機嫌ですと、アピールしながら返すとため息をつかれた。
酷くないですか、千冬さん!
私にとってかけがえのないものなんですよ!
「私が聞いているのは、あれのスペックについてだ」
「何か問題がありましたか?」
「問題大ありだ。現行のISを大幅に超えるあのスペックはなんだ?」
「いくら織斑先生でも、社運の掛かっている機密情報は教えられませんよ」
「……」
流石の千冬さんでも企業の機密情報を無理矢理話させることはできない。
私のISに使われている技術は、全て私が十年近く研究して開発した技術だ。
例え、澪ちゃんが頼み込んで来ても簡単には教えるわけにはいかない。
「けど、一つだけ言っておきますね。私の専用機は、私の最高傑作で、私の為のISです」
「……分かった。もう帰っていいぞ」
「失礼しました」
千冬さんに一礼してから部屋を出る。
部屋を出た後は寮の自室に戻り、部屋着の浴衣を持って大浴場に行く。
大浴場でゆっくりした後、日課のトレーニングから戻ってシャワーを浴びた澪ちゃんと一緒に食堂に向かう。
その後は、眠くなるまで時間を適当に潰して寝る。
朝、布団を剥がされ、体を強く揺さぶられた。
重たい瞼を開けて、体を揺すっている澪ちゃんに手で止めるように促す。
澪ちゃんが、揺するのをやめたのを確認して時計で時間を確認する。
「ん?……まだ、五時前じゃん」
目をこすりながら呟くと、澪ちゃんに無理矢理起こされる。
「自主練、付き合って」
「……もしかして、一夏のことで怒ってる?」
「………………」
「……怒ってるんですね」
言葉や仕草で否定しないで、黙ったまま見つめて来る澪ちゃんに、肩を落として呟く。
澪ちゃんは、早く準備しろとでも言いたいかのように、何も言わずに黙って見つめて来る。
「準備するから少し待ってて」
「一分」
「わかりました」
言われるがままに一分で準備を済ませ、自主練の為にグラウンドまで連れていかれた。
何かを食べる時間も貰えず、空腹のまま約二時間の間、澪ちゃん基準のトレーニングに付き合わされる地獄の朝が始まった。
そんな朝は、クラス代表決定戦が行われる日まで続いた。