次代の天災 作:名前が思いつかぬ
地獄のような朝が一週間続いたが、クラス代表決定戦の日になった。
現在、ピットで一夏と箒、澪ちゃんの四人で待っている。
「遅いな……」
「ああ……」
「遅い」
「遅いねぇ」
待っているのは、試合の開始ではなく、一夏の専用機だ。
一夏の専用機は、試合が始まろうとしている現在も来ていない。
流石に、これは予想外だった。
このままだと、初期化と最適化する時間もなさそうだなぁ。
「このままだと、一夏の前に澪ちゃんとオルコットさんの試合をやりそうだねぇ」
「かもなぁ」
私の呟きに一夏が答えると、ピットに山田先生と千冬さんが入ってきた。
「織斑君、織斑君、織斑君!来ました!織斑君の専用IS」
山田先生と千冬さんの後ろからISが運び込まれてきた。
「これが織斑君の専用IS『白式』です」
「アリーナを使える時間は限られている。初期化と最適化は戦闘中にやれ」
「織斑先生、先に澪ちゃんとオルコットさんの試合を行って、その間に初期化と最適化をすればいいのでは」
「ダメだ。姫宮と試合を行えば、オルコットが織斑と試合が出来ないほどに疲労する恐れがある」
「……分かりました。そういうことなら仕方ないですね」
「え!?仕方ないの!?」
一夏には悪いが、仕方ないのだ。
オルコットさんが一夏と戦闘出来ない程に披露した場合、後日クラス代表決定戦をやることになる。
一組の為にアリーナを何度も貸し切りにするわけにはいかないのだろう。
「一夏、頑張ってねぇ」
「ええぇ~」
「急いで装着しろ、時間がないんだぞ」
「はい」
一夏は千冬さんに怒られて白式を装着する。
その後は、千冬さんの指示に従ってアリーナに飛んでいく。
アリーナで待っていたセシリアと少し話した後に試合が始まった。
一夏は試合開始直後に、セシリアの銃撃を避け切れずに被弾する。
「やっぱり、厳しそうだねぇ」
「一夏は勝てるのか?」
ピットで私と一緒に試合の様子を見ている箒が心配そうに問いかけて来る。
「勝ち目がないわけじゃないよ。けど、私も一夏の専用機について何も知らないからねぇ。場合によっては勝てないかも」
「それはどういう場合だ?」
「……剣や剣の代わりになる武器が無い場合は勝ち目無いね」
「他の武器ではだめなのか?」
「ダメだね。素人同士ならいいけど、相手は格上の代表候補生だからね。武器もまともに使いこなせないと、勝ち目なんてないよ」
「なるほど」
私の説明に箒は納得したようで、アリーナの様子を映しているモニターに視線を向ける。
私達がモニターに視線を戻して少しすると、一夏が近接ブレードを取り出した。
一応、まともに使える武器があったようで、安心したよ。
銃器を取り出したら、見るに堪えない試合になっただろうからねぇ。
「防戦一方のようだが、大丈夫なのか?」
「操縦に慣れるのと、オルコットさんの弱点を見つけるまでは仕方ないよ」
一夏が攻勢に出るタイミングを間違えなければ、オルコットさんが相手でも勝ち目はある。
下手に一夏が調子に乗ると、負け確定かなぁ。
私がそんなことを考えていると、一夏がオルコットさんのBT兵器ブルー・ティアーズを一機撃墜した。
その後も順調に残りのブルー・ティアーズを撃墜していく。
漸く、オルコットさんの弱点が分かったようだ。
「すごいですねぇ、織斑君」
「確かに、オルコットさんの弱点は理解したみたいだけど……」
「ん?何か、まずいことでもあるのか?」
山田先生の呟きに対して私が、何とも言えない顔をすると箒が問いかけて来る。
箒に対して私が返す前に、千冬さんが私の言おうとしたことを先に言う。
「あの馬鹿者、浮かれているな」
「どうして分かるんですか?」
千冬さんに視線が集中した後、山田先生が理由を問いかける。
私は一夏が調子に乗っているかもしれない、と思っただけで確信は無かった。
それなのに、千冬さんは一夏が浮かれていると言い切るからには、何か理由があるのだろう。
「さっきから、左手を閉じたり開いたりしているだろう。あの癖が出る時は、大抵簡単なミスをする」
「はぁ、流石、ご姉弟ですね」
なるほど、一夏の癖を知っていたのか。
一夏とは長い付き合いだが、そんな癖があるなんて知らなかった。
しかし、一夏が調子に乗っていると分かった以上、勝ち目がさらに薄くなった。
私がモニターに視線を戻すと、一夏は残りのブルー・ティアーズを撃墜してブルー・ティアーズ本体にブレードが届く距離まで近づいていく。
ブルー・ティアーズを撃墜しきったと勘違いし、迂闊にオルコットさんに近づいた結果、一夏はオルコットさんが隠していたミサイルビットを避けれずに直撃する。
「一夏!?」
「あっ!」
「機体に救われたな、馬鹿者めが」
「ナイスタイミング」
「奇跡」
箒と山田先生は分かってないようだが、千冬さんと澪ちゃんは何が起きたか分かったようだ。
まあ、本当に奇跡的なタイミングだったけど。
ミサイルの爆発による黒煙が晴れえると、純白に変わった白式。
一次移行とミサイルの直撃のタイミングが一緒だったために、一夏は無事だった。
一夏のような奇跡を引き寄せる人間を主人公と言うのだろうか。
タイミングがずれていれば、一夏は今ので負けていただろう。
残る問題は、一夏がここから冷静に戦ってくれるかだが、あまり期待できないなぁ。
『まさか、一次移行!?貴方!今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの?』
『よく分からないが、これでやっと、この機体は俺専用になったらしいな』
まあ、オルコットさんが驚くのは分かるわぁ。
初期設定で戦ってたのはともかく、あのタイミングで一次移行するのは驚くよねぇ。
それと、一夏はISの基礎は覚えておこうよ。
『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』
これで千冬さんをからかったら殴られるんだろうなぁ。
怒られることは分かっているので、ニコニコしながらモニターを見ていると、千冬さんに出席簿で殴られた。
以前の一夏と同じように良い音を響かせる。
「何するんですか!?」
「いや、良からぬことを考えていそうだったからな」
「確信が無いなら叩かないでください!」
「確信はあった。顔に考えていると、書いてあったからな」
「……次からは気を付けます」
「考えるのをやめる気はないんだな」
千冬さんに呆れられてしまったが、そんなことは知ったことではない。
そもそも昔から千冬さんは、私の行動を呆れながらも放置している。
まるで、いくら注意しても改善されないと分かってるような対応だ。
千冬さんに叩かれた頭をさすりながら視線をモニターに戻す。
『でも、そろそろ、守られるだけの関係は終わりにしなくちゃな。これからは、俺も俺の家族を守る』
『貴方、何を言って……』
本当に一夏は何を言ってるんだろうねぇ。
完全に調子に乗ってますね。
これは、一夏の負けだねぇ。
『取り合えずは、千冬姉の名前を守るさ。弟が不出来じゃ、格好がつかないからな』
分かってるなら、冷静に状況を見極めて戦って欲しいものだね。
君は小学生じゃないんだよ。
そこから一夏は、オルコットさんが撃ったミサイルを斬り裂き、オルコットさんにブレードを振り下ろそうとしたタイミングで、試合終了のブザーが鳴った。
『勝者、セシリア・オルコット』
勝敗の結果に、一夏、オルコットさん、観客、箒、山田先生も理解出来ずに首を傾げる。
状況を理解しているだろう千冬さんに視線を向けて問いかける。
「あのブレードって、自分のシールドエネルギーを使用するんですか?」
「雪片のバリア無効化攻撃を使ったんだろう。あれは、自分のシールドエネルギーを攻撃に転化する能力だ」
「はあ。特性を理解せずに使ったわけですね」
「そういうことだ」
まあ、一夏が負けたのは仕方がないだろう。
「それで、次の試合は澪ちゃんとどっちが戦うんですか?」
「オルコットの予定だったのだが、先に織斑とだな」
「ブルー・ティアーズの整備ですか?」
「ああ、予備のパーツに切り替えるのに時間が掛かるだろうからな。その間に、姫宮と織斑の試合を行う」
なるほど、澪ちゃんと一夏の試合かぁ……。
「澪ちゃん、ほどほどにね。相手は一夏だから、やり過ぎないようにね」
「頑張る」
「あ、うん、頑張って……」
なんか、予想してた返事と違ったけど、大丈夫かな?
一夏、何かあったら骨くらいは拾ってあげるよ。