次代の天災 作:名前が思いつかぬ
澪side
一夏の自爆により試合が終了した。
最初は何が起きてるか分からなかったけど、蓮華の質問で何が起きたのか理解出来た。
あの状況ですぐに千冬さんに質問できたってことは、蓮華はこうなることを予想してたのかもしれない。
「それで、次の試合は澪ちゃんとどっちが戦うんですか?」
「オルコットの予定だったのだが、先に織斑とだな」
「ブルー・ティアーズの整備ですか?」
「ああ、予備のパーツに切り替えるのに時間が掛かるだろうからな。その間に、姫宮と織斑の試合を行う」
次は私が一夏と戦う番か。
「澪ちゃん、ほどほどにね。相手は一夏だから、やり過ぎないようにね」
「頑張る」
「あ、うん、頑張って……」
蓮華がよく分からないような顔をして曖昧な返事をしてくる。
私は何か変なことを言ったかな。
まあ、考えても分からないか。
それよりも私は、自分を抑えることに集中しないと。
「姫宮、先にアリーナに出ていろ。織斑のISにエネルギーの補給が終わり次第、試合を開始する」
千冬さんの言葉に頷いて返し、私の専用機『夜叉姫』を展開する。
紺色の装甲、背中に大型のウィングスラスターを持つIS。
ウィングスラスターを少し吹かせてアリーナに飛んでいく。
少し吹かせただけで、かなりの速度が出る高機動型の機体である夜叉姫は、まともに扱える人がいなかったそうだ。
そのため、開発はされてから欠陥機として長い間放置されていた。
それを代表候補生になった時に私がもらった。
欠陥機と呼ばれるだけあって操縦するのはかなり大変だけど、私は夜叉姫を気に入っている。
私が夜叉姫を気に入っているのは、夜叉姫と自分を重ねているのが大きい。
だから、私は扱い安さを捨ててでも夜叉姫を選んだ。
夜叉姫を受け取った時のことを思い返していると、一夏の準備が終わったようでアリーナに出て来た。
『待たせたな』
『大丈夫』
一夏に返事を返して私は、夜叉姫の武装である近接ブレード『夜刀』を展開する。
私があまり話せないことを知っているため、一夏は特に話しかけて来ること無く雪片二型を展開する。
『ごめんね』
『え?』
試合開始を告げるブザーがなった瞬間に、ウィングスラスターを最大出力で吹かせて一気に加速する。
瞬きの間に距離を詰めたことで、一夏は私に反応できずに夜刀による連撃を受けて落ちていく。
落ちていく一夏が体制を立て直す前に、追撃していく。
一夏がやっとのことで体制を立て直しても、圧倒的な速度で一夏の攻撃を回避して夜刀で斬りつける。
私の速度に対応出来なかった一夏は、瞬く間にシールドエネルギーを削られ、試合はすぐに終了する。
『勝者、姫宮澪』
理不尽すぎる力の差に、観客も一夏も呆けた顔をして固まっている。
私は一夏の前でピットを指差して、先に一人でピットに戻る。
ピットに戻り夜叉姫を解除すると、蓮華に抱き着かれた。
「いやぁ、すごかったよ。澪ちゃん!」
「……」
一方的に一夏を蹂躙して帰ってきた私に、蓮華はいつも通りに接してくる。
私は蓮華に対してどう接していいか分からずに、取り合えず、蓮華を引きはがす。
「姫宮。悪いが、セシリアの準備にもう少しかかりそうだ。少しの間、待っていてくれ」
千冬さんも蓮華と同じように、いつも通りに話しかけてくれる。
正直、手加減したとは言え、やり過ぎたと思っていたが、そうでもなかったようだ。
少しすると、一夏もピットに戻ってくる。
一夏も白式を解除して苦笑しながら近づいて来る。
「やっぱり、代表候補生って強いんだなぁ」
「代表候補生ってより、澪ちゃんが強いんだよ。それに、一夏は専用機を持っているとは言え、素人なんだから気にしなくていいと思うよ」
「流石に、ここまで一方的にやられて気にするなってのはなぁ。俺も頑張って強くならないとなぁ」
「じゃあ、ISの勉強とか頑張らないとねぇ」
「うっ、お、おう」
蓮華の言葉に一夏は苦虫をかみつぶしたような顔で肩を落とした。
確かに、ISの勉強は私も苦手だからやりたくはない。
そんな話をしていると、セシリアの方の準備が整ったようだ。
私はもう一度、夜叉姫を展開してアリーナに飛んでいく。
『お待たせしました』
『大丈夫』
もともと、一夏がブルー・ティアーズを全て撃墜したのが原因だ。
セシリアがわざと遅れてきたわけではない。
先ほどと同じように、夜刀を展開して開始のブザーを待つ。
『ごめんなさい』
『先ほども言っていましたわね。どういう意味ですの?』
『そのまま』
私の言葉の意味がよく分かっていないようだが、本当に言葉のままの意味だ。
一夏は素人で実力が低かったから手加減できたが、今回はそうはいかないと思うからしっかりと謝る。
それが、私が対戦相手に出来る唯一のことだから。
その後、すぐに試合が始まる。
セシリアは私が近づけないように、ブルー・ティアーズによる射撃で私の動きを牽制してくる。
先ほどの一夏との試合は、油断していて本来の実力ではなかったみたい。
代表候補生に選ばれるだけあって、簡単には近づかせてくれない。
しばらく様子を見ていたが、先ほどの試合で一夏が見つけた弱点は変わってない。
流石に、簡単に克服できるような弱点ではないみたい。
『逃げてばかりでは勝てませんわよ』
セシリアが私を挑発するようなことを言ってくる。
挑発に乗るのはあれだが、今回はいいかもしれない。
先ほどまでの蓮華達に私の本性を見られる恐怖は消えて、本気を出せることに対する喜びが心を満たす。
そろそろ攻めようかな。
私はブルー・ティアーズの弾幕を夜叉姫の最高速度で躱しながらセシリアに突っ込んでいく。
躱しきれないビームは全て夜刀で斬り捨てて、セシリアとの距離を詰める。
セシリアは私の迎撃を諦めて回避行動をとり始めた。
それを確認して、狙いをセシリアから一番近いブルー・ティアーズに変えて、撃墜する。
ブルー・ティアーズを撃墜していくと、セシリアが放ったミサイルが追いかけて来る。
ミサイルの速度が遅いわけではないが、夜叉姫の飛行速度が速すぎて追いつけそうにない。
『なんて馬鹿げたスピード……』
圧倒的な速度で飛び回り、ビーム弾を斬り裂きながらブルー・ティアーズを全機撃墜する。
ブルー・ティアーズの撃墜が終わった後、機体を反転して加速しながらミサイルの横を通り過ぎて斬り裂く。
ミサイルが爆発する前に、爆発範囲から離れる。
その後も飛んでくるミサイルを同じように撃墜しながら、夜叉姫の第三世代兵器『金剛杵』を確認する。
充填エネルギー量は、まだ少ないけどブルー・ティアーズのシールドエネルギーを削り切るくらいは出来るかな。
金剛杵の充填エネルギーを確認し、使用準備を始める。
左腕の装甲が変形し、肘や腕、指間接に小型のスラスターが出現する。
そして左手の掌に砲口が出現し、エネルギーを収束し始める。
セシリアも金剛杵に収束するエネルギーを感知して警戒するが、無駄なことだ。
最高速度のままセシリアに追いつき、左手でブルー・ティアーズをしっかりと掴む。
『インタ……』
セシリアが何かしようとする前に、金剛杵を作動させる。
強力な砲撃の反動を左腕に出現した小型のスラスターを最大出力で吹かせて抑える。
反動を抑える準備が整うと同時に、掌の砲口から充填された膨大なエネルギーを放出する。
セシリアはブルー・ティアーズと共に巨大なエネルギー砲に飲み込まれ、シールドエネルギーを一瞬で全損する。
私が空中で茫然と佇み、セシリアがボロボロのブルー・ティアーズを纏って地面に倒れる中で、試合終了のブザーが鳴り響いた。
蓮華side
オルコットさんと澪ちゃんの試合中に、私は初めて澪ちゃんの笑顔を見た。
獲物を追い詰めることを楽しんでいるかのような、狂気的な笑顔。
今まで、私が何をしても変わらなかった表情が、私が予想のしなかった形で、私の予想してなかった表情。
「あれが、澪の隠していた感情だ」
あの澪ちゃんを知っている千冬さんが、モニターを見ながら話し始める。
「澪が話さないのも、表情が変わらないのも、精神的なものらしい」
「精神的なもの?」
「澪は感情に流されて力を制御出来ずに、大切なものを傷つけた経験があるそうだ。それ以来、力と感情を無意識に抑えるようになったのではないかとのことだ」
「初めて聞きました」
「それはそうだろう。澪は、お前達に知られるのを嫌がっていたからな」
澪ちゃんなりに、何か思うところがあったのかな。
私達に知られるのが、怖かったのかもしれない。
澪ちゃんの力が強いのは、私達はよく知っている。
それが自分に向けられるかもしれない、と思われるのが嫌だったのかも。
私達と友達でいられなくなるのが、怖かったんだ。
「なら、どうして澪は今笑ってるんだ」
「澪にとって唯一本気を出せるのが、ISだからだ。子供の頃から力を抑え、感情を押し殺し続けた澪にとっては、本気を出せることが嬉しいのだろう」
「私じゃあ、ダメだったんですね」
澪ちゃんの本気を受け止められるのは、私か千冬さんくらいだ。
私は澪ちゃんの親友なのに、澪ちゃんの感情を受け止めてあげられないのかな。
「お前が大切だからこそ、澪は必死に感情を押し殺していたんだ。お前達を傷つけることが、澪にとっては何よりも怖いことだからな」
「……そうかもしれませんね」
澪ちゃんは、優しいんじゃなかったんだね。
大切なものを失うのが怖くて、必死に守ってきたから優しく見えただけなんだ。
私も守らないといけないと思われてるのは悲しいけど、ISでなら澪ちゃんと本気でぶつかれるって分かったのは良かったかな。
いつか分からせてやる、私が守らないといけない相手じゃないってことを。