次代の天災 作:名前が思いつかぬ
一夏と鈴が喧嘩してから数日、クラス対抗戦が始まった。
一試合目から一夏対鈴の勝負。
そして今、私は千冬さんと澪ちゃん、箒、セシリアと一緒に管制室のモニターで試合の様子を見ている。
正直、モニターで見ると言うことにしてサボる気満々だったのだが、千冬さんと澪ちゃんにはお見通しだったようだ。
試合は一夏が不利な状況で、先ほどから押されている。
「一夏、大変そうですね」
「そういう割には、一夏のことを鍛えてなかったようだが」
「私が鍛える必要ありますか?代表候補生が二人もついてるうえに、織斑先生も教えていたじゃないですか」
「まあ、今はそういうことにしておこう」
今はって……そもそも澪ちゃんとセシリアならともかく、千冬さん以上に教えるのに最適な人はいないでしょうに。
忙しいのは分かりますけど、私に任せるなんてしないで欲しいんですけど。
「鈴の甲龍がパワータイプなのは分かったけど、第三世代兵器を未だに使ってないのは気になるかなぁ」
「確かに、未だに使っていませんわね」
「どんな兵器を持っているんだ?」
「私が知ってるわけないでしょう」
まるで私が知っているかのように問いかけて来る箒に、肩を竦めて返す。
クラス対抗戦の結果も、一夏と鈴の喧嘩の終わりも、私にとってはどうでもいい。
そんなことの為に、わざわざ鈴の機体を調べたりする気はない。
私が話題に出してすぐに、一夏は鈴の第三世代兵器によって吹き飛ばされた。
鈴から距離を取った一夏に対して、見えない何かを飛ばして鈴が攻撃したみたいね。
何かを撃ちだす素振りも、投げるような動作も見えなかった。
となると、あれは……
「衝撃砲ね」
「衝撃砲とはなんだ?」
「空間に圧力をかけて砲身を生成して、余剰で生じる衝撃を砲弾として撃ちだす兵器よ。見ての通り、肉眼だと見えないし、斜角もほとんど制限が無いみたいね」
「つまり、死角がないということですの?」
「そういうこと」
さて、一夏はこの不利な状況を、どうやって覆すのかなぁ。
お願いだから、退屈な試合にはしないでよねぇ。
モニターには、鈴と何か話す一夏の姿が映っている。
「織斑君、何かするつもりですね」
「瞬時加速だろう。私が教えた」
「瞬時加速?」
「一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃だ。出しどころさえ間違えなければ、あいつでも代表候補生と渡り合える。しかし、通用するのは一回だけだ」
「まあ、一夏の場合は一回成功すればいいですしねぇ」
その一回が成功しなければ、一夏は鈴に勝てないだろうけど。
それ以外の勝ち方もないし、仕方ないよねぇ。
それでも一夏は、瞬時加速の出しどころを間違えず、鈴の隙をしっかりとついてバリア無効化攻撃で攻撃に移る。
誰もが一夏の勝利を確信した中で、アリーナの遮断シールドを何かが破る。
遮断シールドを破った攻撃は、アリーナの地面に直撃してアリーナ全体を揺らす。
管制室でも警報が鳴り、山田先生が侵入者の情報を告げる。
「試合中止!織斑、鳳、直ちに退避しろ!」
千冬さんが退避するように命令を出すが、一夏と鈴は逃げる気配がない。
どうやら避難までの時間を稼ぐつもりみたいだね。
侵入してきたISは、かなり強力なビーム兵器を使うみたいね。
威力は高いけど、範囲が限定されてる。
それに狙いも悪いみたいだし、対して強くないね。
「もしもし、織斑君、織斑君、聞いてます?鳳さんも、聞いてます?」
「本人達がやると言っているのだ。やらせてみてもいいだろう」
「お、織斑先生、何をのんきなこと言ってるんですか」
「落ち着け、コーヒーでも飲め」
かなり焦っている山田先生に対して、千冬さんは傍からは落ち着いているように見える。
「糖分が足りないからイライラする」
「織斑先生。それは塩ですから、入れない方が良いですよ」
「……間違えただけだ」
今、かなり間がありましたよ。
この場で落ち着いているのは私だけかな。
澪ちゃんも、感情が表に出ないだけで一夏のことが心配だろうし。
「先生!私にISの使用許可を、すぐに出撃出来ます!」
「私も」
「そうしたいところだが、これを見ろ」
セシリアと澪ちゃんの言葉に、千冬さんはモニターに視線を向けるように促す。
モニターに表示されている内容によると、アリーナの遮断シールドがレベル4に設定されているらしい。
「遮断シールドが、レベル4に設定……」
「しかも、扉が全てロックされて……あのISの仕業」
「そのようだ。これでは、避難することも、救援に向かうことも出来ない」
「それは大変そうですねぇ」
これだと、私達は何も出来ないですね。
一夏と鈴が、あのISを倒すことを祈るばかりです。
「でしたら、緊急事態として政府に救援を」
「やっている。現在、三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドが解除出来れば、すぐに部隊を突入させる」
「はあ、結局待っていることしか出来ないのですね」
「何、どちらにしても、お前は突入隊には入れないから安心しろ」
「な、なんですってぇ!」
そんなに突入隊に入りたいのだろうか?
私としては、ここでお茶でも飲みながらゆっくりと事件が解決するのを待ちたいのだけど。
突入隊に入っても何のメリットもないのに、入る意味があるのかな。
「お前のブルー・ティアーズの装備は一対複数向きだ。お前が複数の側に入ると、むしろ邪魔になる」
「そんなことありませんわ!この私が邪魔などと」
「では、連携訓練はしたか?その時のお前の役割は?味方の構成は?敵はどのレベルを想定してある?連続稼働時間は?」
「分かりました。もう結構です」
「分かればいい」
純粋な質問攻めって怖いなぁ。
まあ、セシリアには千冬さんの意見に反論することは無理だろね。
それにしても、あのISの動き、何か違和感があるんだよねぇ。
ん~、人間味がないのか。
となると、あのISは…………
なるほど、犯人分かっちゃった。
犯人が誰か分かり、口元が緩むと同時に制服の袖を引っ張られた。
「蓮華」
「?澪ちゃん、どうしたの?」
「やって」
澪ちゃんは、先ほど千冬さんが見るように促したモニターを指差しながら簡潔に言ってくる。
正直、何をやって欲しいのか何となく分かるが、考えたくない。
まさに今、犯人が誰か分かってしまったのだ。
やりたくない理由ならいくらでも上げられる。
「澪ちゃん、いくらなんでもーー」
「お菓子、一年分」
「……子供じゃないんだよ。お菓子くらい自分で買えるんだけど……」
「私の、手作り」
「全く仕方がないなぁ、澪ちゃんは。三分でやるよ」
澪ちゃんの手作りお菓子を一年分、やらない理由はどこにもないね。
システムを奪い返すのが難しくても、遮断シールドを一時的に開けるくらいなら余裕余裕。
「山田先生、そこ代わってください」
「え?で、でも」
「蓮見、遮断シールドを解除出来るんだな?」
「解除は無理ですよ。けど、少しの間開けるくらいなら出来ますよ」
「よし、山田先生、蓮見に代わってください」
「わ、わかりました」
山田先生に席を代わって貰い、システムクラックを始める。
「澪ちゃん、三分後に開けるから急いで向かわないと間に合わないよ」
「ありがとう」
さあ、どんな目的があるか知らないけど、今回は邪魔させてもらいますよ。
システムはすでに乗っ取られてる以上、こちらが不利なのは間違いない。
私が本気を出せる環境でもない。
だから、システムを奪い返せるのは、油断している一瞬の間に一気に攻撃を仕掛けて奪うしかない。
奪い返せる時間は短いけど、アリーナに援軍を送りこめれば、こちらの勝ち。
さて、そろそろ仕掛けますかね。
『一夏!男なら、男なら、そのくらいの敵に勝てなくて何とする!』
あら、箒はいつの間にあんなところに?
まあ、好都合だから良いかな。
あのISの狙いが箒に向いたことで、反撃の手も緩むでしょう。
私の仕事が楽にしてくれてありがとうね、箒。
遮断シールドのシステムを奪い返して、遮断シールドを解除。
『澪ちゃん、開けたよ』
遮断シールドが解除されたことで、澪ちゃんがアリーナの中に飛び込んでいく。
アリーナに飛び込んだ澪ちゃんより先に、一夏が瞬時加速でISとの距離を詰めて片腕を零落白夜で斬り飛ばす。
その後、澪ちゃんが夜刀で連撃を叩き込み、ISを吹き飛ばす。
吹き飛んでISにセシリアがブルー・ティアーズで銃撃を叩きこむ。
見事な連携に感心して小さく拍手しておく。
そこからは澪ちゃん達と一緒に突入した援軍により、ISは制圧された。
遮断シールドを破って侵入し、システムが乗っ取られる事件は怪我人を一人も出さず、無事に終わった。