黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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…………遅くなってしまって、本っ当に申し訳ございません!
精神的に全力で土下座してます。

今回の話も暗いです。
暗いっつーかおかしい奴もいます。
中々に不愉快な感じがします。
物騒な言葉も何回も飛び出します。
でも、この話は絶対に必要でした。
批判来るかもですがそれはしょうがないと思ってます。

では、どうぞ。




第十三話 VSラフコフ、そして……

 

 

 

「では、作戦は明日の午前三時開始です。遅くても十五分前には集合場所にいてください」

 

「ああ、わかった」

 

「失礼します」

 

「ごくろうさん」

 

 

……ついに、ついにこの時が来た。

リズに短剣を作ってもらってから約二か月が経過した。

 

今の奴は《聖竜連合》のメンバーだ。

作戦の決行日時を伝えてきた。

 

作戦とは――《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》討伐作戦。

 

犯罪者(レッド)ギルドとして名乗りを上げた奴らの犯行は結成以後どんどんエスカレートしていき、攻略組の奴らも何人もやられている。

見過ごせなくなった俺達攻略組は、たくさんの情報屋に依頼しラフコフのアジトを探した。

 

それが見つかったのがつい最近。

俺は恐らく犯罪に耐えられなくなった気の弱い奴が密告してきたんだと思う。もしくは、罠か。密告:罠=6:4くらいかな、個人的には。

だってアジトの場所が下層のダンジョンの安全地帯だぞ?

しかも攻略やクエストにも全く関係ないダンジョンの、だ。

そら見つかんねぇわな。

 

そして今作戦決行時間が伝えられた。

今回の作戦は攻略組を五十人以上動員したとても大きな作戦だ。

《聖竜連合》の幹部がリーダーとなる。

 

 

………明日の、午前三時、か。あと二十四時間ねぇな。

つかいま昼だからあと十二時間ちょいか。

 

 

「んで……シリカ。考えは変わらないのか?」

 

「はい」

 

「………………はぁ」

 

「何度言われてもあたしの考えは変わりません。あたしも行きます」

 

 

……そう。シリカも作戦に参加すると言ってきたのだ。

 

確かに、シリカは強くなった。

俺は指導したからわかるが、色眼鏡なしにシリカは強い。

そりゃ俺とかキリトとかに比べたら弱いが、その比較は違うだろう。

俺達共通の友人の協力もあって、パーティー戦闘にも慣れた。

もう一度言おう。確かにシリカは強くなった。

 

………でも、でもさぁ!

 

 

「………俺としてはそんな危険なところにシリカを連れていきたくないんだが」

 

「あたしだってカイさんをそんなところに行かせて家でじっとしてるのはごめんです」

 

「………このやり取り何回目だ?」

 

「………わかりません。ずっと平行線ですね」

 

「……はぁ。シリカは絶対に折れる気はないんだな?」

 

「はい。ありません」

 

「……わかったよ。俺が折れる。一緒に行こう」

 

「はい!」

 

「……そんな嬉しそうにしなくても」

 

「えへへ……。でも、明日の朝ですか。急ですね」

 

「恐らく情報漏洩を防ぎたいんだろうな。決定から決行までを短くすれば短くするほど漏洩の危険性は下がる。

口頭で伝えにきてるのもその一環だろうし。シリカはポーションとかの準備は大丈夫か?」

 

「はい。バッチリです」

 

「そうか。じゃあ時間までどうするか……。一回寝とくのは必須だな」

 

「あ、カイさん……」

 

「ん?どうした?」

 

 

シリカがおずおずといった感じで話しかけてきた。

何をそんなに慎重になってるのか。

 

 

「聞いてみたいことがあったんですけど……いいですか?」

 

「ああ、いいぞ?てか、そんな畏まんなくてもいいだろうに」

 

「えっと、ちょっと聞きづらくて……」

 

「聞きづらい?」

 

 

何故に?何を聞こうとしてるんだシリカは。

 

 

「というよりも聞いていいことなのかわからないんですけど……。

カイさんって、なんであんなに武術得意なんですか?」

 

 

その質問に。

ただの問いかけに。

何の変哲もない疑問に。

俺の思考が止められた。

――俺にそうさせるきっかけとなった存在を頭に思い浮かべてしまったから。

 

 

「カイさん、朝に鍛錬みたいなことしてるときに演舞みたいなのやってるじゃないですか。

あたし素人だからよくはわからないんですけど、しっかりした型みたいだし。

それに素手でだけじゃなくて、槍をオブジェクト化して、槍術?って言うんですか?みたいなのもやってるし。

あたしとそこまで歳も離れてないのに凄いなって思って、ちょっと気になって」

 

 

確かに俺は朝、自己鍛錬を怠っていない。

空手の基本の動きもやっていれば、教えられた槍術の型も欠かさずやっている。他にも色々やってる。

その後に自己流の動き方で動いてもいる。

演舞みたいな流れるような動きの奴もある。

同じ家に住むようになって見る機会も増えたのか。

 

…………言われてみれば疑問に思うのも当然か。

俺とシリカは二歳差。

それしか違わないのに、慣れた様子で色々やってたら気にもなるか。

まぁ、教えるのは全然構わないんだが………。

つーかダメだな。これくらい自制できないと……。

 

 

「あー、教えるのは構わないんだけどよ。

そんな楽しい話でもねぇぞ?俺の昔話だしな」

 

「え?……あ!ご、ごめんなさい!あたし、無神経に……!」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。気にしてねぇから。

でも、聞いても楽しくはねぇと思う。どうする?」

 

「……教えてください。あたしは、カイさんが嫌がらない範囲で、カイさんのことを知りたいから」

 

「わかった。でも紅茶でも飲みながらな。用意してくるからリビングで待っててくれ」

 

「あ、だったらあたしが……」

 

「俺がやるからいいって。あと肩の力抜いとけ。今から力んでたら疲れちまうぞ」

 

「あ、はい……」

 

 

俺が苦笑しながら言うと、シリカも引き下がった。

 

それにしても、俺のことを知りたいから、か。嬉しいこと言ってくれるね。

 

 

 

 

 

 

「ほい。いつものようにやっといたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

シリカの分は、普段シリカが紅茶を飲む時と同じ量の砂糖もどきを入れてきた。

 

 

「んじゃ話すか。前に俺の家族が殺されたことは言ったよな?

事件の後、殺した奴を唆した奴が俺の前からいなくなったことと、そいつが今ラフコフにいることも」

 

「はい」

 

「そのとき俺は小学五年だったんだが………その続きみたいなもんなんだけどな。

ウチは環境が大きく変わった。

まず道場は閉めた。

あんなことがあったんだ、当たり前だな。

次に収入。

仕事してウチに金を入れて俺とスズを養ってくれてた人達が全員亡くなったわけだ。

ほんの少しだけ道場の月謝って形でもらってたお礼もなくなったし。

当時俺はまだバイトできる歳じゃなかったんだが、ガタイが良かったからかもな。

年齢偽造して新聞配達のバイトをする事ができた。自分の分の食費をギリギリ出せるようにした。

皆の保険金と今まで稼いでくれた分があったから、じいちゃんとスズの分の食費と水道代その他諸々はそこから出してさ。

後は家事か。

じいちゃんが結構古い考え方の人だったからなぁ。家事は女がやるもんだって言って聞かねぇんだ。

つっても当時来年小学一年になるスズにやらせるわけにもいかねぇ。

てなわけで家事が俺の仕事になった」

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

 

シリカが唐突に遮ってきた。

 

 

「どうした?」

 

「いえ、あの、それって……カイさんのやること多すぎませんか?」

 

「ああ、多いな。俺もよくやったと思うよ」

 

「………」

 

 

シリカが絶句している。

 

 

「続けるぞ。

今言ったことだけがやることならよかったんだが。

あの時の俺の実力じゃあ神野をどうにかするなんて不可能だった。

だから俺は鍛錬することに決めた。

小学校は不登校で通すことにしてな。

家族がほとんど殺されたんだ。そうなる可能性も否定できねぇだろ?

まぁ、スズの送り迎えだけは欠かさずやってたけど。

そんなこんなで時間を作った俺が試行錯誤しながら日本刀を振ってたら、じいちゃんに声をかけられた。

『新、お前、あのクソガキを殺す気か』

ってな。即座に頷いた俺にじいちゃんは続けてこう言ったんだ。

『ならそんなものに頼るな。持ち歩けるわけがないだろう。付いてこい、色々教えてやる』

言われて俺は気がついた。

確かに日本じゃ銃刀法違反だよな。

なんで警察に押収されなかったのかはわからねぇけど。

てなわけでじいちゃんに色々教えてもらったんだ」

 

 

長々と喋っちまったな。紅茶で喉を潤す。

 

 

「えっと……おじいさんに、全部教えてもらったんですか?」

 

「ああ。かなりスパルタで叩き込まれてな。ちゃんとした武道の型から人の急所を突く技まで。

おかげで全力でやれば無手で――あっと、武器なしで人を殺せるようになっちまったよ」

 

 

苦笑しながら告げると、シリカは少し悲しそうな顔をしたあと俺に質問を重ねた。

 

 

「おじいさん、なにしてる人だったんですか………?」

 

「それが知らねぇんだ。俺が聞きたいくらいなんだよな。

ああ、そうそう。それに勉強もしてたんだった」

 

「……まだあるんですか?」

 

「あるんだなぁこれが。小学校は行かなくなったけどとにかく知識が欲しかった。

特に人体の構造に関する知識だな、主に人の急所とかの。じいちゃんの教えの復習も兼ねて新しい技を開発できないかと思ってさ。

独学で勉強しまくった結果、かなり頭はよくなったぜ。一応普通の勉強もしたからな」

 

「………こんなこと聞くのは失礼かもしれませんけど、辛くなかったんですか?」

 

「辛かったさ。辛くないわけないだろ。泣くことも許されなかったしな」

 

「……泣くこと?」

 

「葬式の時に、悲しくて泣いちまったんだが………。

後でじいちゃんにぶん殴られた上に『泣くな馬鹿もんが!みっともない!これから金輪際泣くことは許さん!!』って言われてな。

それ以来、苦しいとか辛いとかの類の感情で泣いたことはないかな。

そんな状況で俺が壊れなかったのはスズとキリトのおかげだよ」

 

「スズちゃんとキリトさん……ですか?」

 

「ああ。スズは守ってやらなきゃって想ってたから。

キリトは俺の心の支えだよ。

俺の心が折れそうになったとき、ちゃんと話を聞いてくれた。

『手伝えることがあったら何でも言ってくれ。俺は新に助けられたんだから。今度は俺の番だ』って笑って言ってくれたよ」

 

「へえ。カイさん、どんなことしたんですか?」

 

 

少し救いのありそうな話題が出たからか、シリカが少しだけ嬉しそうになったな。

ここまで暗い話だったからなぁ………。

 

 

―――あれは俺達が小四だったときかな?

ある時一緒に遊んでたら、明らかにキリトの動きが悪かったんだよ。その頃ずっとだったんだけどな。

んで、何かあったのか?って聞いたら、今から家行っていいかって言われてな。

断る理由もなかったしキリトを家に呼んだんだ。

話を聞いてみたら、結構難しい問題でさ。

あいつ、妹がいるんだが、実は従妹なんだよな。

――そ、キリトはもらわれっ子って言えばいいのか?

あいつが一歳にも満たない時に両親共々事故にあって両親が亡くなったんだそうだ。

その時に大怪我を負いつつも何とか一命を取り留めたあいつを翠さん――あいつの叔母さんな――が引き取って育ててた。

十歳のあいつは、既にかなりのコンピューターの腕前を持ってた。

自分一人で住基ネットの抹消記録に気づいて、唐突に翠さんに言ったらしい。

『本当の両親のことを教えてくれ』ってな。

それで聞き出したはいいけど、あいつ、妹との接し方というか距離感がわからなくなったみたいでな。

こっちは実の妹じゃないことを知ってるけど向こうは知らなくて実の兄だと思って接してくる。

俺にはわからない感覚だったが。

それまでもキリトが習ってた剣道やめた時からあいつらの間に溝はあったんだけどな。

俺が間に入ってなんとかしてたんだが、その事実で決定的になったらしい―――

 

 

「そんで、『俺、どうしたらいいんだろうな……』って言ってきたから俺なりの考えを伝えたんだ」

 

「なんて言ったんですか?」

 

 

……こうして話してみると、結構長いなこの話。

ま、これで終わりだ。

 

 

「『お前がどれだけショックだったのかわからないからこんなこと言うのは無責任かもしれねぇけど。話を聞いた限りじゃ特に何も変わってないと思うんだが?』って言った。キリトにはめちゃくちゃ驚かれたけどな」

 

「え!?ど、どうして!?」

 

「ははっ!その反応、あの時のキリトの反応と全く一緒だ。

ま、簡単なことだよ。キリトが血の繋がった家族じゃなくても、しっかり愛情込めて育ててくれたことには変わりねぇだろ?

翠さんはあいつの母親だし、峰嵩さんはあいつの父親だし、あいつらは兄妹だ。

しかもあの夫婦はキリトが自分の甥だってこと知ってるんだぜ?今更こっちが知った所でそれがどうした。

あの人達の愛情は偽物だったのか?いや違う。俺もあの人達の優しさに触れたからわかる。

あの人達の愛情は本物だった。しっかり愛を持ってキリトに接してた。

例え血が繋がっていなくても、あの家族の関係は変わらない。あれは本物の家族だ。

血の繋がりなんて関係ねぇ、素晴らしい家族だ。

…………これはあの時に言ったことだけどな」

 

 

……いけない、いけない。あの時の感情が蘇って力説しちまった。

 

 

「へえ……。カイさん、いいこと言いますね!」

 

「そ、そうか?まあ、キリトにも言いたいことは伝わったみたいでさ。

『元の関係に戻るには時間がかかるだろうけど……心が軽くなった。ありがとう、助かったよ』って言われたから『大したことはしてねぇよ』って返したんだ。

そしたら『いつかお前に恩を返すぜ』ってニヤリとしながら言われて、そんときは照れくさくて流しちまったが、本当によかったと思ってるよ」

 

 

ま、キリト達はそう簡単には修復できなかったみたいなんだが……。俺は時間が解決してくれると思ってる。

 

 

「そういえば一回俺の身体に限界がきてな。中一の時にキリトとMMOで遊んでた時にぶっ倒れた」

 

「ええっ!?大変じゃないですか!!」

 

「無理が祟ったんだろうなぁ。その直後に乗り込んできたキリトにぶん殴られた。しかもスズにはワンワン泣かれたし……」

 

「それはカイさんが悪いですね」

 

「そうだな。あれは俺が全面的に悪かった。つっても一眠りした後すぐに家事に戻ったけどな」

 

「もっと身体を労ってください……」

 

 

とても悲しそうな顔で言われた。

俺はたじたじになってしまう。

 

 

「お、おう。今度から気をつける。とまあ、昔話はこれくらいだ。つまんなかっただろ?じいちゃんに仕込まれた技術を反復してるだけってわけさ。

……今夜は厳しい戦いになると思う。確実に体力を回復するためにもう寝ておこう」

 

「いいえ、まったく。そうですね。じゃあ、おやすみなさい」

 

「おう。……絶対に無茶はするなよ」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししますね」

 

 

ニコッ、とどこか寒気のする笑顔で言われて、俺は何も言い返せなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に来ました狩りの時間。

 

……なんてふざけてないとやってられないくらい殺意を抑えるのに苦労している。

あいつをこの手で殺れる日が来たと思うと、な……。

 

 

今回この作戦に参加している俺の知り合いは、キリト、アスナ、シリカ、クライン達《風林火山》、《月夜の黒猫団》ってところか。

 

俺としては、正直クライン達以外には参加してほしくなかった。

こいつらが殺しを覚悟できているとは到底思えない。

殺られそうになって防衛のために攻撃して殺しちまって後で思い悩むタイプの人間だと思う。

全員心優しいからな。

クライン達は意外としっかりしてるから、仕方がないことだと割り切れるとは思うが。

 

あ、俺自身については全然心配してない。

元からああいう快楽殺人者どもは死んで当然、むしろこの手で殺してやるってレベルだし。

 

 

今俺達は、奴らのアジトのすぐ近くまで来ている。

あと五分も歩けば着くだろうな。

 

先頭を歩いていた《聖竜連合》の奴がこちらに向き直った。

 

 

「諸君、ここで最後に確認しておく。

我々の目的は、ラフコフを壊滅させること。

HPギリギリまで攻撃し、投降を呼びかける。

それに応じなければ殺してしまって構わん。

まあ、奴らに歯向かう度胸があるかは疑問だがな」

 

 

その台詞に軽く笑い声が起こる。

 

 

…………言葉が軽い。

…………態度が軽い。

…………決意が軽い。

少なくとも、今笑った奴らのうち何人かは死ぬだろう。

軽々しく殺すなんて口にできている時点で、何も考えてないかガチガチに殺意を固めてしまっているかだ。

そしてこいつらは確実に前者だろう。

そんな奴らがいる状況で、イカれた思想を持ってる奴らとの集団戦闘……確実に他の人間に危害が及ぶだろうな。

まあ、俺の知り合いはなんとしてでも守り抜く。他の人間は知らん。積極的に見捨てたりはしないからそれで我慢してくれ。

 

この空気からもわかるように、攻略組の多くはラフコフの連中を甘く――というか、下に見ている。

仲間を殺された怒りが蔑みに変わっているから、というのもあるだろうが……。

 

攻略組がラフコフの奴らに殺された状況は、全て不意打ちだと言われている。

俺達と奴らには明確なレベル差があり、真正面から戦ってやられるのは幹部クラスが相手だった時だけ。不意打ちしかできないから、ラフコフの奴らは卑怯で弱い、下の存在だ――全員そんな認識だ。

この認識は正しいが、間違っている。

 

レベル差云々の認識は正しいだろう。俺もそう考えてるしな。奴らより、俺達のがレベルは高えさ。レベルはな。

 

――――だがな。不意打ちしかできないから弱い?俺達より下の存在だ?何寝ぼけたこと言ってんだ?

不意打ちで格上を確実に葬れる技術と度胸。これを持ってる連中が弱いわけねえだろうが。

人間、他人に不意打ちする時は多少なりとも腕が(にぶ)る。これは、後ろめたさが原因なわけだが――連中はそうなっていない。そんな後ろめたさ、抱えてねえからだ。こういう奴らとの戦闘は、命がけになる。恐ろしいもんなんだ。

 

――――これを事前の作戦会議の時に提言したんだが、真面目に聞き入れたのは俺の知り合いくらいのもんだった。その時点で、俺は知り合い以外を守る気が失せた。危機感がねえ奴に、警戒を促しても意味がねえんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、奴らのアジトに着く前の広場で、俺は異変に気づいた。

 

 

「おい、止まれ」

 

「あん?何だ、ここまで来て怖じ気づいたのか?」

 

 

その言葉を受けて、数人が俺を嘲笑する。

こいつらがどうなろうと知ったこっちゃねぇが、俺は仲間を守る。

《ヴァイヴァンタル》を抜き放ち、言ってやった。

 

 

「俺を笑おうが別にいいけどな。囲まれてるぞ」

 

 

かなりの《隠蔽》スキルだ。普通にわからなかった。

 

俺の言葉を聞きとがめたか、躍り出てきた一人の相手をする。

 

 

「ヒぃヤぁッハー!」

 

「黙れ気色悪い!」

 

 

ソードスキルを使う隙はない。技後硬直も怖いしな。

相手の片手剣と俺の短剣がぶつかり火花を散らす。

 

――ふむ。ソードスキルを使うつもりはなかったが、このレベルの奴はさっさと処理して他の奴の相手しにいくか。

 

ちなみに並列思考を使って戦況を把握した所、キリトやアスナといった実力者は一人で相手をし、ちょっと厳しい奴らは二人でやっている。

人数的にはこっちの方が多いからこそ取れる方法だな。

 

――さて、殺るか。

 

 

「ヒャッハー……ァァァッ!?」

 

「死ね」

 

 

相手が素っ頓狂な声を上げてるが、知ったことか。

恐らく俺がソードスキルを発動させたから驚いてんだろうが、こいつレベルなら大した隙にはならない。

短剣ソードスキル二連撃技《サイド・バイト》で、敵の剣を弾いて胴体に直接《ヴァイヴァンタル》を叩き込む。

 

 

「ぎゃぁぁああ!」

 

「うるせぇな。死にたくなかったら投降しろ」

 

 

俺は淡々と告げる。

こんな奴に湧く感情は殺意くらいのもんだ。

 

 

「わ、わかった。投降する」

 

「そうか」

 

 

俺は振り返って他の奴の相手をしに行こうとした。

 

 

「ヒィャハハ!馬鹿め!!」

 

「馬鹿はお前だ」

 

「ぎゃ!」

 

 

すると、まあ案の定襲いかかってきたので返り討ちにした。

こいつらがあんなに従順なわけがない。

俺の言葉をハッタリか何かだと思ったんだろうが……。

悪ぃな。俺はその辺の葛藤はすでにやってんだ。

 

俺に襲いかかってきた奴はポリゴン片になって消えた。

本当にギリギリまで削ってたからな。

 

さて、次は……。

 

 

「武器を捨てて投降しろ!」

 

 

お、他の所でも相手を追いつめ始めたか。

相手が破れかぶれにならなきゃいいがな。

 

 

「お、おい!これ以上やったら本当に死ぬぞ!?武器を捨てて投降しろ!!」

 

 

半ば悲鳴のような感じで警告しているが、こっちが怖じ気づいてるのを理解したのか相手に退く気は全くなさそうだ。

間に合うかは微妙だが………ま、最悪死んだら覚悟が決まってなかった自業自得ってことで。

 

 

「お、おい、待て!ぎゃあああ!!」

 

「や、やめ、うわああぁああ!」

 

「ひ、ひぃいいぃぃ!」

 

 

チッ、三人もやられた!

知り合い以外はぶっちゃけどうでもいいが、壁がいなくなるのは困る!

 

 

「オラァッ!」

 

 

幸い相手のHPは少なかったので、通常攻撃一発で殺せた。

 

 

「おい、殺す覚悟がねぇんだったら徹底して防御か回避に専念しろ!とどめは俺がやってやる!」

 

 

だが、俺の声で全員が冷静になれるわけがない。

数人はパニックを起こし殺され、まだまともな奴らも相手が投降しないのを見て焦り、またある奴らは仲間が殺されたことに怒りを覚えて敵を殺す。

キリトも破れかぶれになった相手を斬り伏せた。今のは仕方なかったが……キリトに耐えきれるか……?

シリカやアスナは冷静に対処している。クライン達や黒猫団もだ。

しかしひどい乱戦になってきている。

 

―――というか幹部クラスはどこだ?今のところ、見つけられていない。

…………もしかして場が荒れるのを待っていたのか?

だとすると、強襲する最適なタイミングは、今――!!

気配を探れ。場を把握しろ。あいつらの殺気を見逃すな。この一瞬の判断がこの戦いの勝敗を分ける。

俺はピックを左手で持てるだけ取り出し、攻撃してくる奴らを《ヴァイヴァンタル》でいなしながらいつでも動けるように油断無く構えた。

 

 

―――――――――――――来た!

 

 

俺は現れた小さな気配と特徴的な殺気を捉え、相対している敵を無視して俺に出せる最高速度で射線に仲間が存在しない位置に移動し、牽制に投剣スキルを使用する。

現れた二人――ジョニー・ブラックと赤眼のザザは、俺の投げたピックを躱し、気配を露わにした。

 

 

「幹部二人が現れたぞ!全員今まで以上に気を張れ!」

 

 

俺は声を張り上げ、全員に呼びかけた。俺は司令塔ではないが、そんなことはもういいだろう。

呼びかけるだけにした理由は簡単だ。ここからは、周りを気にする余裕はあまりないからな。

 

 

「さてと。のこのこ出てきたってことは、俺に殺されに来たんだよな?」

 

「あはは。何言ってるの?俺が君を殺すんだよ」

 

 

振り返ると、憎き仇敵が目の前でニコニコしながら刀を構えて立っていた。

 

 

「抜かせ。んで、PoHは?気配が感じられないんだが。すぐ近くにいる人間はここにいるので全員だろ?」

 

「へぇ、中々に正確な把握だね。索敵スキルは使ってるのかい?」

 

 

俺の全力の殺気に怯む様子は皆無だ。まあ、こんなのが効くような甘い奴ではない。

周りにいた奴らは俺の殺気を感じ取ったのか、他の奴らのところに行った。悪いが気にしている暇はないな。

 

 

「いや、この密度と動き方だとそっちにかなり集中しないと二、三人増えた所で気づかない可能性の方が高いからな。

意識を割かれるのも面倒だから今は切ってる。んで、どうなんだよ?」

 

「ふぅん。教える義理はないけど、君の実力に敬意を表して教えよう。

―――彼はもう少ししたら来るよ。彼が来たらどうなるだろうね?」

 

 

リッパーはにこにこしながら楽しそうに話しているが、それを聞いてぞっとした。

この状況にPoHが加わったら大変ってレベルじゃねぇだろ。くそっ、こいつらを早々に片付けるしかないか。

 

 

「そうか。ならチンタラするわけにはいかなくなった。悪ぃが速攻で終わらせてもらうぞ」

 

「いいよ。できるものならね?」

 

 

軽くイラッときたが、こいつ相手にこの程度でいちいちキレてたら血管が保たない。

 

遠くまで見ても射線上には敵しかいないので、中位の投剣スキル《クイックシュート》を躊躇いなく一瞬で放つ。

 

 

「んー、そんなの当たらないよ?」

 

「知ってるよ!」

 

 

《クイックシュート》はその名の通り、速度重視のスキルだ。

他の中位の投剣スキルに比べたら威力は三分の二程だが、速度は三倍以上。

当たれば一瞬のスタンと、短時間の出血を与える。

 

だが、俺の狙いは当てることじゃない。

あいつが避けるときにできる、この隙を待っていたんだ!

 

俺は何度も練習した動作を行う。

右手でメニューウィンドウを操作し、俺のもう一つの相棒、《キリング・デストロイ》をオブジェクト化して、左手に持つ。

 

―――間に合った。

奴は《クイックシュート》を躱して再び構えたが、俺の準備も整った。

 

 

「……?新――じゃなかった、カイ。何してるの?それ、()()()()()()()()()()だよね?」

 

 

――そう。今の俺はイレギュラー装備状態。

本来、俺達プレイヤーは武器を一つまでしか装備できない。

片手持ちの武器を装備した状態で逆の手に武器を持つと、イレギュラー装備状態と見なされ、ソードスキルの発動ができなくなる。

―――でもな。

 

 

「確かに今の俺はイレギュラー装備状態だ。ソードスキルは使えねぇ」

 

「……なら、どうしてだい?」

 

「だがな、それだけなんだよ」

 

「………?どういう意味かな?」

 

「俺はお前のことを過小評価していない。リアルでお前は俺よりも強かった。

この世界では俺の方がレベルは上だろうが、それで元々の差が覆せるとは思ってない」

 

「へぇ、かなり評価してくれてるんだ」

 

「そんなお前に、ソードスキルを使う機会はこない。そんな隙を作る程お前は弱くない。

それに、だ。お前、俺が一番得意な格闘技、なんなのか知ってるか?」

 

「え?格闘技って言うと微妙なところだけど、合気道でしょ?あの道場で習ってたんだし」

 

「…………残念、バリツだよ」

 

「……バリツ、だって?それって、あのバーリ・トゥード(なんでもあり)のことかい?」

 

「そうだ。今の俺は、ほとんどの格闘技の技術を扱える。その中で一番慣れてるスタイルが、なんでもありのバリツだ。

あの動きを活かすのに、ソードスキルなんかいらねぇ。むしろ邪魔だ。

本来のバリツに得物はないが……俺流カスタムだ、両手に短剣持ってる方がやりやすい。

―――覚悟しろよ、リッパー。今日こそ、お前を、殺す!!」

 

 

会話している間ずっと測っていた間合いを一気に詰める。

それに反応してリッパーが刀を突いてくるが、きちんと装備されている《ヴァイヴァンタル》で横に流す。

その動作で身体が流れたリッパーに向けて《キリング・デストロイ》を突き出す。1発、もらった!

 

――しかし奴はそれに反応してみせた。チッ、中々の敏捷だ。無理矢理跳んで避けやがった。

体勢が崩れたところを狙おうにも、隙のように見せているがあれは奴の刀の領域だ。迂闊に飛び込むことはできない。

 

 

「あらら、飛び込んでこなかったか。戦い、相当上手くなったんだね。

それにしても驚いた。本当に慣れている動きだ」

 

「完全に誘っといて何言ってやがる。俺がどんだけ厳しい環境下で鍛えてきたと思ってんだ。

その程度の誘いは経験済みだ。……しかしお前も隙がねぇな」

 

「ふふ、そこまで戦える君に褒めてもらえて光栄だよ。

さて、さっきはちょっと油断して危なくなったけど、もう油断はしない。本気で行くよ」

 

 

奴がそう言うと、途端にプレッシャーが重くなった。

確かにさっきまでとは全然違ぇ。さっきまではかろうじて突けそうな隙はあったが、もうそれすらない。

……だがそれなら、無理矢理こじ開けるまでだ!

 

 

《キリング・デストロイ》から一瞬手を離し、素早くピックを取り出して《クイックシュート》を放つ。

奴がそれにコンマ一秒以下の時間気を取られた隙に、《キリング・デストロイ》を掴んで地を這うように飛び出す。

リッパーは刀の先を一瞬動かしてピックを弾くと、俺が突進を止めて下がらなければいけなくなるような位置に刀を置きにきた。

俺は咄嗟にクロスさせた二本の短剣で刀を挟み、捻って奪おうとする。

だが奴は、俺の狙いを即座に看破。俺の力に逆らわないように身体を沈め、斜めに駆け抜けながら思いきり刀を振り上げて俺を斬ろうとした。

その意図を理解した俺は、頭を左に倒しつつ《ヴァイヴァンタル》で刀をそのまま押し流す。

ついでに奴の左脚目掛けて《キリング・デストロイ》で攻撃しながら、奴が抜けようとしている方向と正反対の方向に走り抜ける。

リッパーはそれを器用に左脚だけ上げて回避して、飛び退って体勢を整えた。

 

…………俺の頬が斬られている。躱しきれていなかったのか。

 

 

「……くそ、これでもダメか」

 

「………カイ、本当にやるようになったね。正直殺意だけかと思ってたよ」

 

「それはそれは、お褒めに与り光栄ですねぇ」

 

 

今俺は、全力で刀を奪いにいった。一切の加減なく取りに行った。しかも成り行きでだ。初めから狙ってたわけじゃねぇ。

そうするのが最適の状況になったから、完全なアドリブでやった。こいつはそれを理解してるんだろう。だからこそ驚いてる。

だが、驚いてるのは俺も同じだ。

驚いてるというよりは苛ついてるの方がより正確だが。

 

――天才、神野猛。あいつはそう呼ばれていた。

何をやっても完璧にこなす。学力も高く、勉強はできるけどバカ、ということもなかった。

運動技能ももちろん高かった。すぐに修得し、やり遂げる。あいつは俺より遅く剣道をやり始めたんだが、すぐに抜かれた。

まあ、俺は別にそれをコンプレックスに感じてなかったから今まではどうでもよかったんだが。

 

奴が殺したい対象になった今、それがすっげぇ邪魔。今のアドリブに合わせて反撃までしてきやがった。恐らく、ほとんど感覚で。

………これが、天才か。やっかいだな。

 

 

「天才ってのは、こうもやっかいなんだな」

 

「………カイも、そんなこと言うんだね」

 

「あ?」

 

 

リッパーの表情が、曇った。

 

 

「いやなに、俺と関わった人間全てが、その言葉を吐いてきてたから。――カイ以外は。

俺はカイがそれを言ってこなかったことが嬉しかったんだけど……とうとう言われちゃったか」

 

「あっそうかよ。お前がそのことで俺に好感を持ってたところで何も関係ない。

お前が俺の家族を殺すように仕向けた時点で、お前は永久に俺の敵だ」

 

「はは、そうだね。ほら、どうしたの?俺を早く殺さないと、PoHが来ちゃうよ?」

 

「うるせぇ黙ってろ。んなこと言うなら俺にその首差し出せ」

 

「ふふ、嫌だよ。俺が完璧にできなかった唯一のこと。殺人。

あの事件、本当は誰にも見つからずに終わらせるつもりだったんだ。完全犯罪ってやつだね。

でも、君がそれを潰した。あの日君は、あの時間に帰ってきた。想定通りならもう少し遅くなるはずだったのに。まあ、誠がちょっと狂っちゃったのも原因の一つではあるけど。

それはともかく、俺はやっててわくわくできることを見つけたんだ。あの事件で確信した。何でも簡単にできちゃう俺が。何をやってもつまらなかった俺が。

殺人だけは俺に潤いを与えてくれる。俺の最初の殺しはあの事件の三年前。俺を虐待してた両親を殺した。俺は一切傷つかずやる予定だったのに、思わぬ反撃を食らってね。その時、驚愕したよ。

殺人だけは、俺の思い通りにならない。その俺の思い通りにならない殺人を、俺の思い通りにする。それこそが、俺の生きがい。

そして、俺のことを天才のレッテルで見ることのなかった新を苦しめることが俺の楽しみ。今の君には大事な人は何人いるのかな?俺にそれを壊せる機会は来るのかな?」

 

「てめぇ黙ってろ、耳障りだ!!!ぶっ殺す!!!」

 

 

怒りが沸点を超えた俺は、次々に斬撃を繰り出す。心は怒り、されど思考は冷静に。受けにくくなるような連撃を考えながら放ち続ける。

しかし、奴はそれを完璧に迎撃してきた。差し込まれる反撃を、俺も間髪入れずに弾く。

お互いに一切ダメージを与えられないまま、短剣と刀がぶつかる音だけを響かせながら、時間だけが過ぎて行く――。

 

 

 

その時、ある気配を捉えた。

――これ、PoHか?

 

 

「あは、彼が来ちゃったね。どうする?」

 

「お前を片付けてから殺しに行く」

 

「あら〜、そっか。じゃあ、あの小さな女の子はPoHに殺されちゃうね。あの程度じゃあ彼を止めることはできない」

 

「んなっ!?」

 

 

俺はリッパーの言葉に振り返らざるを得なかった。まさか―――。

 

 

「隙ありぃ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

振り返った所を当然のように斬りつけられたが、んなこと死ななけりゃどうでもいい!

 

 

「シリカッ!?」

 

 

予想通り、攻撃されていたのはシリカだった。こいつは嘘だけはつかねぇからな。

俺はすぐに俺のHPバーの下にあるシリカのHPバーを確認する。くそっ、リッパーに集中しすぎてて気づかなかった!

今すぐどうこうってわけじゃなさそうだが、ダメージは受けている。早く行かないと!

しかし、駆け出そうとした俺の前に奴が立ちふさがる。

 

 

「もしかしたらと思ったけど、あの子がそんなに大事?それなら尚更行かせられないな。その方が楽しいからね」

 

 

この腐った天才は、能力だけじゃなく勘までもが天才的だ。どうせ今のも伝えたら俺が反応すると察したんだろ。

だがな―――!

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。《()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なっ!?それはどう見てもスローイングダガーじゃない――ッ!」

 

 

これには流石のこいつも動揺し、《キリング・デストロイ》の一撃を食らった。

当てたのは《パラライズシュート》。これでこいつは麻痺状態になって少しの間動きが止まる!

 

今はこいつは後回しだ!早くシリカを―――!

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあ!」

 

 

シリカがダメージを受けて、悲鳴を上げる。

PoH相手じゃもう全然余裕がない!

 

 

「シリカに、手を出すなぁぁぁあああ!!!」

 

 

俺は全身から殺気を迸らせながら、PoHに躍りかかる。

今までで一番使ってる技――短剣ソードスキル単発技《アーマーピアス》!

 

俺の全身の動きを最大限利用し、過去最高の《アーマーピアス》をPoHに向けて撃つ!

PoHには躱されたが、シリカと距離を取らせることはできた。

 

 

「チッ、《紺の浮浪児》か。リッパーはどうした?」

 

「あっちで麻痺ってるよ。シリカ、大丈夫か?」

 

「は、はい……!カイさん、ありがとうございます!」

 

「シリカが危なくなったら助けるのは当たり前だ。それより、早く回復結晶を」

 

「はい」

 

 

シリカが俺の後ろで回復結晶を取り出して使おうとする。

この間、無防備になってしまうシリカを守るため、PoHの一瞬の動作も見逃さない。

俺も念のため、すぐに使用できるポーションを使う。

 

PoHが後ろを振り向き、驚愕も露わに叫んだ。

 

 

「あのリッパーを麻痺させた、だと……!?貴様、何をした?」

 

「答えるわけねーだろ。シリカを痛めつけてくれたお礼、しっかりしてやらぁ」

 

 

俺がさっきリッパーを麻痺させた手品のタネは、投剣スキルにある。

自身がシステム的に使える武器の熟練度を上げまくってる俺は、投剣スキルもカンストしてる。

他のカンストスキルは短剣と片手剣、細剣だな。カンストまでもう少しなのがほとんど……って、これは今はどうでもいい。

《ジャミングシュート》は投剣スキルで最後に覚えたソードスキルなわけだが……。

投剣スキルを上げまくった結果、面白い常時発動型(パッシブ)スキルを手に入れた。

 

 

それが、パッシブスキル《スローイングテクニック》。

これは、『俺が手に持っている短剣をスローイングダガーと同じように扱い、ソードスキルを発動できるようになる』というもの。

つまり、俺はやろうと思えば《ヴァイヴァンタル》でも投剣スキルを発動できる。

これのメリットは、投擲用の武器と比べて攻撃力が桁違いにあるということ。威力が全然違う。

あと一応、対人戦のときに相手の意表をつける。さっきみたいにな。

デメリットは、もちろん武器を手放してしまうことだ。まあ、俺は一応カバーできるからいいが……通常であれば中々に苦しいデメリットだろう。

ま、こいつ相手には使うつもりはないから、今はこの話はいいか。

 

 

「………流石はPoH。無駄に強いな」

 

「おお、かの《紺の浮浪児》様にお褒めいただけるとは」

 

「死ね」

 

「貴様がな」

 

 

俺達は無駄口を叩きつつも剣を交わしあう。

こいつも無駄につえー。突破口が全然ねぇんだが。早く死んでくれないとあいつ殺しに行けないだろうが。

 

 

「カイさん!危ない!!」

 

「なに?ッぶねぇ!!」

 

 

シリカの声を受けて回避した俺がいた場所に、リッパーの刀が突き刺さる。

くっそ、戻ってきやがった……。

 

 

「あれ、躱されちゃったか。あの子目障りだな。殺そっかな」

 

 

リッパぁー……!

 

 

「んなことしてみろ、殺すぞ。まあんなことさせねぇし、てめぇはどの道殺すが」

 

「ん〜、俺はそう簡単には殺されないよ。

………でも、かなり不利になってきたね。PoH、どうする?流石にこの数が相手だと厳しくない?

カイが周りの奴ら壁にしたら俺達多分勝てないよ?」

 

「……こいつがそんなことするか?」

 

「カイなら平気でやるんじゃないかな……。俺を殺すためなら手段なんて選ばないと思うし」

 

 

こいつら………!?俺の全力の攻撃を完璧に防ぎながら会話とか……!マジで死ねよ。

手数と威力、共に足りていない……。

 

 

「……チッ。撤退した方がよさそうだな」

 

「逃がすかよ!」

 

「ごめんね、カイ。俺達はこんなところで死ぬつもりはないんだ。

ってなわけで、またね」

 

 

そう言って奴らは大きく飛び退り、俺に背を向けて全力で逃走を開始した。

恐らく距離を取って、転移結晶で強引に逃げるんだろう。

させるかよ!

 

 

「逃がさねぇって…………言ってんだろ!」

 

 

やるつもりはなかったがやるっきゃねぇ!

俺は走りながら《ヴァイヴァンタル》と二本のスローイングダガーで《ジャミングシュート》を発動させ、逃げる奴らに向かって投げる。

 

だが―――。

 

 

「残念だけど、同じ手は食らわない」

 

 

俺の攻撃は、迎撃されて届かない。

最初のアドバンテージのせいで、俺の敏捷でも奴らとの差を縮めきれない。

 

 

「待て、待てぇぇぇえええええええ!!!!」

 

「じゃあね」

 

 

PoHは―――そして俺の仇敵、リッパーは―――俺の目の前で、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………逃げ、られ、た。

 

 

「捕らえたのは何人だ?」

 

「十二人だな」

 

 

………リッパーに……神野猛に……

 

 

「向こうの死人は?」

 

「………二十一人だな」

 

 

………あいつを、殺せなかった……

 

 

「………こっちは、何人死んだ?」

 

「………十一人、だ」

 

「ちくしょうっ……!」

 

 

………比較的落ち着いてる奴らが状況の確認をしている。

俺は………それどころじゃ……ねぇよ……

 

 

「あの………カイさん……?」

 

 

………。

 

 

「カ、カイさん?」

 

 

……。

 

 

「カイさん、カイさん!」

 

 

………ん?

 

 

「……シリカ?」

 

「はい。カイさん、大丈夫ですか?呼びかけても全然反応がなかったので……」

 

「ああ、何の問題もねぇぞ?」

 

 

両腕を広げ、問題ないことを見せる。

 

 

「………カイさん」

 

「ん、どうした?あ、そういえばダメージとか大丈夫か?」

 

 

PoHに攻め立てられていたからな。精神的なダメージも心配だ。

 

 

「……カイさん」

 

「もう作戦も終わったし、帰るか?」

 

 

まあでも、疲れたしゆっくり休むのが最優先────────。

 

 

「カイさん!」

 

「………なんだ?」

 

「………悔しかったら、泣いていいんですよ」

 

 

シリカが、泣きそうな表情で、そう訴えてくる。

 

 

「……何言ってるんだ、シリカ?」

 

「家族の仇に逃げられちゃって悔しいなら、泣いていいんです。

カイさんだって、まだ十五歳じゃないですか。それぐらい、いいじゃないですか」

 

 

そう言われ、俺の視界が滲む。歪む。

ダメだ、堪えろ。

だって、俺は。

 

 

「……でも、俺は……泣くわけにはいかないんだよ………!」

 

「カイさんは、あたしが支えます。

カイさんが泣くときは、あたしが守ります。

周りを自分が守るしかないから泣くことができないと言うなら、あたしが泣く場所になります。

だから、無理しないで……。

あたしを、頼ってください………!」

 

「くっ………!」

 

 

………ああ、ダメだ。

これはもう、堪えられねぇよ。

 

 

「………悪ぃ、シリカ。ちょっと頭抱きかかえてもらっていいか?」

 

「悪いだなんて、そんな。どうぞ」

 

 

シリカが地面に座り込んで、両手を伸ばしてきた。

もう他のプレイヤーはほとんどいない。見られる可能性は少ないだろ。

俺は膝立ちになって、シリカの肩に頭を預ける。

 

 

「………ああ……悔しい……悔しいよ、シリカ……!

あいつは……家族の……皆の、仇だったのに!……ちくしょう………!」

 

 

涙が、溢れてくる。

悔しい、悔しい。

こんなに悔しかったのは、家族が目の前で殺されてしまった時以来だ!!

 

 

「カイさん………あたしにできることはこんなことしかないかもしれないけど……

何ができるのかもわからないけど、頑張りますから……!」

 

「……こんなことだなんて、言わないでくれ。シリカ、ありがとう。救われた。もう大丈夫だ、切り替えた。さ、帰ろう」

 

「……カイさん……はい!」

 

 

シリカは目尻に涙を浮かべながらも笑いかけてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、帰ってきたわけだが」

 

「はい」

 

「シリカ、本当にありがとう。マジで助かった」

 

「いえ、あたしにできるのはこれくらいのことしかありませんから」

 

「そのことなんだが。シリカさえよかったら、これからも俺のことを支えてほしい」

 

「それはもちろんです。あたしでよければ」

 

 

次の発言は否定されても仕方ないが……できれば受けてくれると嬉しいかな。

 

 

「そう思ってくれているなら、俺と結婚してほしい。

シリカは俺が守る。絶対に守る。何が何でも守る。必ず助ける。だから、シリカも俺を支えて、守ってほしい。

…………どうだ?」

 

「……はい。あたしでよければ、喜んで」

 

「本当に、いいのか?こんな俺で?」

 

「そんなこと言うなら、あたしなんかでいいんですか?」

 

 

………本当にいい子だな、シリカは。

―――俺にとっては、とてもありがたい。

 

 

「そんなこと言わないでくれ。俺はシリカじゃなきゃダメだ。

――――多分だけどな」

 

「――ふふ、多分だなんてひどいですね。

でも、あたしもそうですね。多分、あたしもカイさんじゃなきゃダメです」

 

「なら、もう一度正式に言う。

―――俺と結婚してくれ」

 

「――はい。結婚しましょう」

 

 

俺とシリカは結婚した。まあ、システム的にだが、そんなことは関係ない。

こういうのは、気持ちの問題だ。特に俺にとっては。

 

 

「これからも、よろしく頼む」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――目標が、増えたな。

 

一つは言うまでもなく、神野猛をこの手で殺すこと。

もう一つは、このデスゲームから、シリカを助け出すこと。

 

――――必ず、成し遂げる。

 

 

 

 

二〇二四年、八月。

俺はこれから、確固たる決意を持ってゲームに挑む。

俺がゲームをクリアしてやるよ、茅場。

 

 

 






というわけで、カイに関する色々でした。

最後のは賛否両論あるのかな?
色々感想くれると嬉しいです。

次回、やっとのことで原作一巻に入ります。

意見とかありましたらお願いします。




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