黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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ふひぃ……。前ほどは間が空かなくて済みました。

途中に一カ所、用語の使い方が完全におかしいところがありますが、わざとです。

では、どうぞ。


第十四話 青い悪魔

ゲーム開始から、早いもので約二年。

 

残るフロアは二十六。

生存者は約六千。

 

この七十四層も、そろそろボス部屋が見つかる頃だろう。

 

 

今俺の左隣には相棒キリトがいて、右隣には恋人のシリカがいる。

アスナはKoBの仕事で忙しいために最近は疎遠になりがちだ。しょうがないことだが。

 

 

ところで、いま俺達は息を殺している。

何をしているかというと―――

 

 

「カイ、しくじるなよ」

 

「カイさん、頑張ってください」

 

 

両隣の二人から小声で話しかけられる。

俺はその声に頷くだけにとどめ、ポケットからピックを取り出した。

 

投剣スキル《クイックシュート》を使う。

俺の投剣スキルの熟練度と敏捷パラメーターなら確実に当てられるだろうが、念には念を、だ。

 

―――いくぞ。

 

ピックを投げる。

 

 

――ヒュッ!ザシュッ!キュー!

 

 

 

「よっしゃああ!《ラグー・ラビットの肉》ゲットォォオオ!」

 

「やったぁ♪カイさんさすがです!」

 

「さすがだカイ!いやぁラッキーだったな!まさかラグー・ラビットに出くわすなんてな!」

 

 

ラグー・ラビットはそもそも出現率が低いのだが、そのドロップアイテムである《ラグー・ラビットの肉》はS級食材に設定されている。

つまりめちゃくちゃうまい。はずだ。

食ったことないからわからん。

まあ、そんな理由でこいつは高額で取引されている。

 

 

「そうだな!

……さて、これどうするよ?売るか?」

 

「そうだなぁ……

カイ、お前装備は?」

 

「俺は問題ねぇ。全部揃ってる。シリカも大丈夫だよな?」

 

「はい!ちゃんと予備も含めてあります」

 

 

シリカは俺の指示で、予備の装備を持っている。

本当に念のためだがな。

 

 

「そうか……。俺も装備は大丈夫なんだよな。

………食べるか?」

 

「だが、どうやって?シリカ、S級食材は………?」

 

「………ごめんなさい。さすがにそこまでは………」

 

「ああ、怒ってるわけじゃないから安心してくれ」

 

 

この世界の料理が成功するか否かは料理スキルの熟練度で決まる。

シリカも大体のものは調理できるようになったはずだが、さすがにS級食材は無理だろう。

 

 

「………ん?ああ、なるほど。いたな、俺らの知り合いに化け物じみた料理スキルを持ってるやつ」

 

 

俺の言葉にキリトはニヤリ、と笑みを浮かべて言った。

 

 

「ああ、アスナに頼もうぜ。俺はメッセージ送ってみるよ」

 

「頼んだ。俺はエギルとかに自慢のメッセージ送っとくか……?いや、やっぱやめるか。めんどい」

 

「アスナから返信だ。『わたしにも四分の一くれるならやってあげるわ』だってさ」

 

「しゃあねぇ、それで妥協しよう。四分の一で済んでよかった」

 

「じゃあメッセージ送るぞ……。

返信早っ!『あいつの店』で合流しようって」

 

「わかった。俺の転移結晶で行くぞ。

転移!アルゲード!」

 

 

 

 

第五十層にある街の一つ、《アルゲード》。

基本的にはどこでも使える安心設計の転移結晶を使い、俺達は一瞬で《アルゲード》の街に来ていた。

だってラグー・ラビットだぞ!?そりゃ緊急用の転移結晶も使いたくなるわ!

 

俺達は迷宮区で手に入れた素材アイテムの売却のため、ある店に向かっていた。

そう。さっきラグー・ラビットに出くわしたのは迷宮区の帰りだったのだ。マジで運が良すぎる。

 

数分歩くと、目的の店に着いた。あるプレイヤーが経営している店だ。

――中に入ると、酷い言葉が聞こえてきた。

 

 

「まいど!《ダスクリザードの革》、二十枚で五百コル!」

 

 

―――安い、安すぎる!それは流石に相手が可哀想!

《ダスクリザードの革》は、比較的優秀な素材なのに。

 

豪快に笑う買取人――エギルがこちらに気づいた。

可哀想なプレイヤーが店を去ってから、エギルに話しかける。

 

 

「うっす。相変わらず阿漕な商売してるな」

 

「ホントだぜ。あれは流石に可哀想だ。つっても俺には関係ないからぶっちゃけどうでもいいんだが」

 

「あはは……。エギルさん、こんにちは」

 

「よぉ、キリトにカイ、それにシリカか。安く仕入れて安く提供がうちのモットーなんでな。

あとカイ、お前の発言も大概だぞ?」

 

「「嘘くせぇ」」

 

「でも、カイさんのことは否定しないんですね……」

 

 

エギルの発言に対し、俺とキリトの返しが完璧にハモる。

シリカの発言にはノーコメントとさせてもらおう。

 

 

「相変わらず息合ってんな……」

 

「当然。買取頼むぜ。

《ダスクリザードの革》、四十と二つだ」

 

「俺は三十と七つだ。……またカイに負けたのか。………エギル、値切るなよ?」

 

「あたしは三十ちょうどです。お願いします」

 

「お前らはお得意様だから、あくどい真似はしないから安心しろ」

 

 

エギルはニカッと笑いながら、俺達からアイテムを買い取った。

 

 

 

そうして、俺達のアイテムを買い取ってもらった頃。

 

 

「カイ、キリト君、シリカちゃん」

 

「なあ、アスナ。なんで俺だけ呼び捨てなんだ?この頃毎回言ってるが」

 

「そうね。こっちも毎回言ってるけど、あなたに君付けは合わないからよ」

 

 

アスナが店に入ってきた。

相変わらずもの凄い綺麗だ。まあ、俺の主観では、可愛さという面ならシリカの方に軍配が上がるが。

所属ギルドの血盟騎士団の制服もよく似合っている。

…………んで、後ろの殺気出してる奴はなんだ?護衛か?

 

 

「で、カイ、キリト君。《ラグー・ラビットの肉》を手に入れたってホントなの?」

 

「な、なに!?《ラグー・ラビットの肉》だと!?」

 

 

後ろでエギルが騒いでいる。ま、珍しいからな。その動揺もわからなくもない。

 

 

「さすがにこんな嘘ついてまでアスナに会おうとはしねぇよ。少なくとも俺は。

――あいつはどうかわかんねぇけどな?」

 

 

後ろでエギルと何かやってる相棒を横目にそう言う。

アスナが照れた。いい加減くっつけよこいつら。

 

そして、俺とキリトの家(アルゲードにあるホームだ)には調理器具がなく、アスナが調理するのでせっかくだからと、アスナの家でごちそうしてもらうことになった。

マジか。これはさすがに予想してなかったわ。

―――だが。

 

 

「今日はこのまま《セルムブルグ》まで転移します。護衛はもういいです。お疲れさま」

 

「あ、アスナ様!こんなスラムに足をお運びになるだけに留まらず、素性の知れぬ奴らを自宅に伴うなど、と、とんでもないことです!」

 

 

うわ出た崇拝者。様付けとか確定だな。俺はたまにからかって付けたりするが。

後ろで自分の住処のある場所をスラム呼ばわりされたエギルがこめかみをヒクつかせている。そりゃそうだ。

さて、ここは言い返させてもらおう。

 

 

「おい、おま――」

 

「カイ、やめて」

 

 

あら、止められちゃった。

 

 

「この三人はわたしの友人です。あなたにとやかく言われる筋合いはありません」

 

 

流石はKoBの副団長様。ズバッと言い切った。かっけぇ。

それでもなお食い下がろうとするストーカータイプの護衛は、俺とキリトのことをじっと睨みつけてきた。

なんでストーカータイプだと思ったかって?ただの勘。

 

そして、護衛が何かに気づいたかのように目を見開いた。

 

 

「そ、その格好……ま、まさか!」

 

「………周りからは《ビーター》、なんて呼ばれてるよ」

 

 

キリトが少し悲しそうに言った。

………このストーカー、キリトにこんな顔させるとは、いい度胸じゃねぇか。

 

 

「なら、貴様は《浮浪児》か!」

 

 

ま、わかるだろうな。俺は紺一色の装備を貫いてるし、俺とキリトが基本一緒にいることはかなり有名な話だ。《ビーター》同士がつるんでる、ってな。

その程度には有名になった俺達だが、俺が全武器を扱えることは未だに広まっていない。俺と仲のいい奴しか知らないんだよなこれが。

俺はそっぽを向くことで返答としておく。

 

 

「あ、アスナ様!そこの小娘が誰かは知りませんが、こんな奴らと行動を共にしている時点で、どうせろくでもない奴でしょう!

こんな奴らと関わっても良いことなどありません!」

 

 

その言葉に、俺の怒りが一瞬で最高潮に達する。

こいつ………キリトだけでなく、シリカをも侮辱するか……?俺の大切な相棒と大切なパートナーに何言ってくれちゃってんの……?

 

俺から怒気を感じ取ったのか、アスナが少々慌てて言った。

 

 

「良いか悪いかはわたしが決めます。とにかく、護衛お疲れ様でした。それでは」

 

 

アスナは俺とキリトの袖口を掴むと、大股で歩いて行く。アスナに掴まれてるのとは逆の手をシリカと繋いでいるため、『微妙な両手に花』状態の俺。

俺達はアスナに引きずられるようにしてついて行った。

 

 

「じゃーな、負け犬」

 

 

俺は大切な人達を侮辱されたお返しとして、憎々しげな顔をしていた護衛に台詞を置いていってやった。

するとすごい顔で睨んできた。ただただキモかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナのホームがある《セルムブルグ》は、六十一層にある湖が美しい城塞都市だ。

流石はアスナ、いいセンスをしている。

 

 

 

この世界の料理は簡単だ。調理したい食材を選び、調理方法を選んで、時間を設定するだけ。あとはスキル熟練度が高ければ誰でもできる。

まあ、S級食材である《ラグー・ラビットの肉》を調理するには、かなりの熟練度が必要なのだが。アスナは完全習得(コンプリート)したと言っていた。

 

《ラグー・ラビットの肉》に舌鼓を打っていると、アスナが話があると言ってきた。

 

 

「三人とも、明日は暇?」

 

「狩りに行く予定だな」

 

 

代表してキリトが答えた。

 

 

「三人で?」

 

「ああ、そうなるな。どした?」

 

 

再びアスナが問いかけてきたので、今度は俺が答える。

 

 

「もしよければ、わたしも一緒に行きたいんだけど……どうかな?」

 

「どーした?熱でもあんのか?」

 

 

茶化すように笑いながら聞き返す。

 

 

「いや、そうじゃなくて………明日探索に出るから、ついてきてくれないかなぁって思って……」

 

「俺はいいよ」

 

 

キリトが先に答えた。先にっつーかほぼ即答だった。

 

 

「キリトがいいって言うんなら異論はねぇよ。シリカもいいか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「つーか、俺達がいてもいいのか?」

 

 

シリカの了承もとれたところで、ものすごくニヤニヤしながら提案する。

 

 

「い、いいい、いいわよ!じゃ、じゃあ、明日の朝九時に七十四層の転移門前に集合ね」

 

「わかった」

 

「おうよ」

 

「わかりました」

 

 

そうして、俺達はアスナの家を後にした。

 

 

 

 

 

次の日。

俺達は転移門前で、アスナを待っていた。

 

 

「遅ぇな。寝坊か?この中じゃあ、ありえねーけど」

 

「ですね。そもそもそういうイメージが全く湧きません」

 

「同感だな」

 

「そうだな………どうしたんだろうアスナ」

 

 

俺とシリカが話していると、キリトが真面目な声音で呟いた。

 

 

「お?心配か?ひゅーひゅー。もう告っちまえよお前」

 

「な!?そういうのじゃないって!カイはどうなんだよ!心配じゃないのか!?」

 

「いや、遅いのは気になるがそこまで心配はしてねぇよ。

どうせキリトが心配するだろうし。アスナはキリトのだし」

 

「な、なに言ってんだ!別に俺のじゃない!」

 

「あ〜はいはい。もういいよ。……ったく、マジで鈍いんだから」

 

 

こいつら、端から見たら完全に相思相愛なんだが。お互い鈍くて困る。

 

 

「え?なにか言ったか?」

 

「何でもねぇよ。………ん?また誰か転移してくるな」

 

 

九時を過ぎてから、すでに何人も転移してきている。だからまたはずれかと思ったんだが―――。

 

 

「あ、ホン――」

 

「きゃぁああ!どいてぇぇえええ!!」

 

 

アスナが転移してきてこっちに向かって飛んできた。文字通り飛んできた。かなりの勢いで転移門に飛び込んだらしい。

俺は反応できていないシリカをお姫様抱っこで抱きかかえて避けた。アスナもどいてって言ったしな。

ちなみにその射線上にはキリト。

 

 

「ぐはっ!」

 

「きゃっ!」

 

 

アスナはキリトに向かってダイブ。キリトは反射的にアスナを受けとめて地面に倒れ込んだ。アスナがキリトを押し倒した形になる。

 

 

「おー、熱いねぇお二人さん。朝っぱらから広場で抱き合うとは」

 

 

シリカを降ろしつつ、ニヤニヤしながら言ってやると、二人はもの凄い勢いで離れた。バッ、って音がしそうなくらい。

シリカは恥ずかしいやら残念やら、そんな複雑な表情を浮かべていた。

 

 

「ご、ごごごごごめん!!」

 

「い、いえ、こちらこそ!いきなり飛び込んじゃってごめんなさい!」

 

 

テンパってお互いに頭を下げ合うという不毛なことをしている二人を止めるため、俺はアスナに問いかけた。

 

 

「ところでアスナ。何だってあんなに慌てて飛び出してきたんだ?」

 

「あ、そ、それが…………」

 

 

アスナが何か言いかけたそのとき、再び転移門が光を放つ。

それを見たアスナが、即座に動いてキリトの背後に回った。キリトを盾にしているようにしか見えない。

嫌な予感しかしないんだが?

 

 

「え、ど、どうしたんだ?」

 

 

キリトがめちゃくちゃ動揺しながらもアスナに問う。

そして、転移門から出てきた奴を見て、俺はアスナの行動に納得がいった。理由もなんとなくだが予想できる。

 

 

「アスナ様!勝手なことをされては困ります!」

 

「あぁ?ストーカーじゃねぇか。どうしたんだ、アレ?」

 

 

そう。転移門から吐き出されたのはストーカー改め昨日の護衛だった。確かアスナが昨日名前言ってたな。クラディールだったか。

一応アスナに聞いてみる。

 

 

「朝出掛けようとしたら、家の前に張り込んでたみたいで色々言われちゃって」

 

 

その言葉を聞いて、シリカの表情が不快気に歪む。そしてボソッと呟いた。

 

 

「気持ち悪い」

 

「同感だ。マジでストーカーじゃねぇか。手の施しようがねぇ」

 

「な、なんだと!《浮浪児》のくせに!」

 

 

側まで歩いてきた護衛兼クラディール改めストーカーが意味不明なことを言ってくる。

《浮浪児》のくせにって、理由として破綻しているのがわからないのだろうか?

 

 

「護衛のくせに弱くてストーカーなお前にとやかく言われる筋合いはない。少なくとも俺達全員、お前よりはまともに護衛が務まるぞ」

 

「な、わ、私が弱いだと!?侮辱するのもいい加減にしろ!」

 

 

その言葉に俺の表情が引き攣る。―――主に怒りで。

 

 

「あ?てめぇがいい加減にしろ。事実を述べて何が悪い。てめぇの行動が、てめぇの大好きなアスナ様を困らせてるってわからねぇのか?

そろそろ自重しないとしばくぞ」

 

「ち、調子に乗るなよ貴様ぁ!」

 

 

デュエル申請だ。初撃決着モードか。

 

 

「なあアスナ、やっていいのか?」

 

「ええ。団長にはわたしから報告する」

 

 

ストーカーには聞こえないようにアスナに確認を取る。言質は取った。

ついでだ。昨日の分の怒りも返しとこうか。

 

 

――――俺は申請を受諾しなかった。

 

 

「は、ははっ!断ったな!栄えある血盟騎士団の名に恐れを成したか!

デュエル申請されて怖気づいたんじゃないか!大口叩いて負けるのが怖いのか!?」

 

「なわけねぇだろ。ちょっくら格の違いを思い知らせてやろうと思ってな」

 

 

俺は半減決着モードでデュエル申請する。

奴はギョッとした顔をしてから、勝ち誇ったような顔になった。

 

 

「何が格の違いだ!いいだろう、受けてやる!私の前にひれ伏すがいい!

ご覧くださいアスナ様!私以外に護衛が務まる者などいないことを証明します!」

 

 

奴は俺のデュエル申請を受けた。

すると、六十秒のタイマーが作動する。これが零になった瞬間、デュエル開始だ。

 

 

「おい、カイ。マジでやるのかお前。てか、なんで半減決着にしたんだ?時間の無駄だろ」

 

「俺にとっては変わらねぇよ。どの道一発だ」

 

「そうか。そうだな。まあ、やりすぎんなよ」

 

「保証しかねるな」

 

 

キリトに笑いかける。

次はシリカが話しかけてきた。

 

 

「カイさん、無茶はしないでくださいね?」

 

「わかってる。ってーか、あの程度の奴が相手じゃ、無茶したくてもできねぇよ。相手が弱すぎるから」

 

「あ、あはは……。カイさん、怒ってます?」

 

 

あ、シリカに気づかれた。

まあ、俺と長く行動をともにしてるこの三人なら、気づいても不思議ではないか。

 

 

「ああ、普通にキレてる。あいつ昨日、キリトとシリカを侮辱したからな」

 

「えっと……やりすぎないでくださいね?」

 

「ああ、無理だ」

 

 

満面の笑みで即答する。

それくらいには俺は頭にキてる。

 

最後に、本当に念のためアスナに確認する。

 

 

「アスナ、本当にやっていいんだな?」

 

「ええ。やっちゃって」

 

 

素っ気なく答えられた。あのストーカー、かなり嫌われてるな。当然か。

 

 

全員と話してから、俺は奴に向き直った。

今までの会話は、全て相手に聞こえるような声量で話していたため、バッチリ聞いてくれたようだ。

相手は怒りでプルプル震えながら、ソードスキルの構えを取っていた。

 

相手は装飾過多な両手剣を持ち、構えていた。

そもそも、デュエル開始前からソードスキルの構えをとり続けるなんて下策中の下策だ。

対策してくださいと言ってるようなものだからな。

 

そして、両手剣の熟練度も既にカンストしている俺には、奴が何をしてくるのか手に取るようにわかる。

奴が使おうとしているのは、両手剣スキル、突進技《アバランシュ》だ。

これは、攻撃が重いため相手は受けづらく、突進による移動距離も稼げるので回避されても反撃されづらい優秀な技だ。使い手にもよるが。

だがこれは、対人戦で使用する技じゃない。両手剣なら、対人においてもっと有効な技はある。

 

さらに、あの武器もダメだ。

装飾過多な武器は、総じて耐久値が低い。

俺とキリト、そしてシリカは、システム外スキル《武器破壊》を使える。

武器と武器がぶつかった時、基本的には重い技が優先され、軽い技を使った方は相手にほぼダメージを与えられずに大ダメージを被る。

だが、それにも例外はある。

技の出始めか出終わりの、攻撃判定の存在しない状態に、構造上弱い位置・方向から強烈な打撃を加えると、相手の武器が折れる可能性がある。

俺達はそれを起こせるのだ。もちろん狙ってる。俺とキリトはほぼ百パーの成功率だ。

 

それを使って武器を破壊すれば、デュエルは恐らく終わるだろう。

だが俺はそれだけでは終わらせない。こいつには必ず一撃は入れる。

 

 

野次馬が集まって騒いでいる。集中してるから別にどうでもいいが。

デュエル開始まであと三秒。

ここで俺は短剣を取り出して軽く構える。

野次馬にどよめきが起こる。

両手剣相手に短剣を取り出したからだろう。

俺が片手剣と曲刀も使えることまではこいつらも知っているはずだしな。

それに、こいつ程度には、《ヴァイヴァンタル》を使うまでもない。

というわけで俺は、《キリング・デストロイ》を取り出している。

 

二、一、―――――零。

 

ドンッ!と地面を蹴りつけ、奴が迫ってくる。顔がキモイ。

予想通り、相手は《アバランシュ》。

俺は短剣スキル二連撃技《クロス・エッジ》を使う。

相手の突進に合わせて前に出て、短剣を閃かせる。

 

一撃目で相手の武器を叩き折り、二撃目は返す刃を相手の身体に叩き込む。鎧で覆われていない隙間を狙った。これも個人的にはシステム外スキルの一種だな。

相手の突進力を利用して、その一撃で奴を吹っ飛ばす。

俺の視界には『You Win!!』の文字が。やっぱ一撃かよ。つまんね。

 

俺は、向こうで地に伏しているストーカーの近くに歩いていく。

 

 

「よお、俺の勝ちだな。雑魚はさっさと帰れ。てめぇはアスナに不要だ」

 

「な、な……き、貴様…な、何をした……」

 

「あ?いや何、普通にソードスキル叩き込んだだけだぞ?」

 

「な……?う、嘘だ!そんなわけがあるか!わ、私のHPが一撃で、は、半分以上削られるなど……!」

 

「ごちゃごちゃうるせぇな。レッドゾーンはいかねぇようにしてやったんだ。感謝しろ」

 

「な、なに……?」

 

 

俺は、ちょっと偉そうかな?と思いながらも、あえてこういう言い方をした。

プライドを叩き折っておこうかな、と思ったからだ。逆効果かもしれねぇが……。苛ついてるってのもある。

ちなみに、手加減したのは事実だ。やろうと思えばもっと威力のある攻撃はできたしな。

これも伝えて、ちょっと脅しとくか。

 

 

「やろうと思えば殺せたって言ってんだ」

 

「……!な、なんだ、と……!」

 

「わかったらもう俺達に関わるな」

 

 

俺が警告したのと同時に、三人が俺の側に到着し、アスナが口を開く。

 

 

「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日をもって貴方を護衛役から解任。別命があるまで本部で待機。以上」

 

 

そう言われ、奴は俺達を呪いそうな視線で睨み、呟いた。

 

 

「殺す………貴様ら、絶対に殺してやるぞ………!」

 

 

そして、転移結晶を使って帰っていった。

キッモいなー、マジで。

 

 

「………ごめんなさい。嫌なことに巻き込んで」

 

 

野次馬がいなくなって静かになると、アスナが俺達に頭を下げてきた。

慰めるのはキリトに任せよう。

 

 

「いや、アスナが悪いんじゃない。悪いのはあのクラディールだ」

 

「キリト君………」

 

 

二人が見つめ合ってしまったため、シリカが声をかけるのを躊躇う。

俺はそれを見て苦笑を浮かべると、わざとらしい咳払いで二人の注意を引いた。

 

 

「えー。ゴホン。あのー、俺達もいるんで、二人で見つめ合うのは今度にしてもらっていいですかね」

 

 

そう言うと、二人はバッと離れる。

たまにこの中のシリカを除く三人で探索に出掛けたりすることもあるんだが、そういう時、こいつらは高確率で俺の存在を忘れて二人の空間を作る。

俺とシリカだって、キリト達がいるときはいちゃつくの遠慮してるってのに……。………まあいいか。

 

 

そして俺達は探索に出掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

探索の道中、キリトが少し離れた隙に、キリトに気づかれないようにアスナに近よって話しかける。

 

 

「な、アスナ。よかったな、キリトが慰めてくれて」

 

「ングッ、ゴホッ、ゴホッ。い、いきなり何よ……!」

 

 

突如むせたぞ。テンパりすぎだろ。

 

 

「お前さっさと告白とかしろよ。見ててイライラする」

 

「な、な、な………」

 

「日本語になってないぞ。お前がキリトに好意を抱いてるのは見てりゃわかる。

まあ、長いこと一緒にいる俺達だからかもしれんが」

 

 

ニヤニヤしながらアスナをからかう俺を、シリカが苦笑しながら見つめている。

だがその直後、俺は表情を引き締めた。

 

 

「キリト、コレどう思う?」

 

 

俺は同じことに気づいたであろうキリトに問いかける。

 

 

「わからない。でもこの隊列と人数、規則正しい動き………。ちょっと様子を見たいな」

 

 

俺達の索敵スキルにプレイヤーの存在が引っかかった。

動きがあまりにも規則正しいため、違和感がすごい。ここは大したモンスターはいないフィールドなのだ。

にも関わらず、整然とした二列縦隊で行進している。

 

 

「俺も同感だ。どこに隠れる?あの辺か?」

 

「えっ、なにこれ」

 

 

今、アスナの索敵範囲にも入ったようだ。

 

 

「アスナも気づいたか。そうだな、あそこでいいだろう」

 

 

俺が指差した場所に四人で向かい、隠れて様子を伺うことにした。

背丈程の高さに密集した灌木の陰だ。道を見下ろせる位置である。

 

 

「あっ、しまった……。わたし着替え持ってきてない…」

 

 

そこで、アスナが自身の失敗に気がついた。隠蔽用の暗い色の装備を持ってくるのを忘れたらしい。

これは持ってる奴と持ってない奴がいるが、俺達は全員前者である。世の中色々あるんだよ、色々。

今のアスナはKoBの制服を着ている。白と赤を基調とした服のため、隠れても目立ってしょうがない。

 

 

「あっ、そういえばあたしも……」

 

 

シリカもだったようだ。彼女の装備も明るめの赤が基調になっている。

アスナ程ではないだろうが、それなりに目立つことは想像に難くない。

 

 

「なら、俺のコートの中に入れよ」

 

 

俺はコートの前を開いて、シリカを招き入れる。

 

俺は隠蔽スキルはスキルスロット数的に持っていないが、俺の紺色の装備である《アサシネイトコート》は、高い隠蔽ボーナスを有している。

まあ、さすがにスキル熟練度が高いプレイヤーには到底及ばないが、アイテムとしてはかなりの性能をほこる。

 

 

「キリトもアスナをコートの中に入れちまえ。背に腹は代えられねぇだろ」

 

「う、そ、それは……」

 

「え、えっと、その……」

 

 

二人はモジモジして行動を起こさない。

軽くイラッとする。

 

 

「さっさとやれよ。そろそろ見えてくるぞ」

 

「う……。……アスナ、ごめん!」

 

 

俺が叱咤すると、キリトは覚悟を決めたのかアスナをコートで覆い、抱き寄せた。

キリトは隠蔽スキルを持っていて、熟練度も中々に高い。

キリトの黒い装備も高い隠蔽ボーナスがあるし、これならキリトとアスナは見つからないだろう。

少々心配なのが俺達だが、俺は自分の装備を信じる。

ちなみに、キリトとアスナは恥ずかしいのか、顔を赤くしている。何とも初々しい。

 

しばしの間じっとしていると、視界を同じ金属鎧を着てヘルメットのバイザーを下ろした人間十二人が、隊列を組んで歩いていった。

―――あれ、《軍》か。でもどうしてこんなところに?

 

俺が疑問を抱いたところで、アスナがボソリと呟いた。

 

 

「あの噂、本当だったんだ……」

 

「「「噂?」」」

 

 

アスナを除く俺達三人の声が重なった。

 

 

「ええ。ギルドの例会で聞いたのよ。《軍》が方針を変えて攻略を再開するって」

 

「んだよ、あいつら。二十五層で大打撃を受けたのに懲りてねぇのか」

 

 

俺の言う二十五層での話とは、そこで起きた事件である。

詳しいことは割愛するが、二十五層、五十層はクォーターポイントと呼ばれ、ボスの強さが他の層とは一味違う。

そのボス戦で、《軍》は壊滅的な被害を受けたのである。

ちなみに、《軍》とは部外者が揶揄的に付けた名前だ。

 

 

「ま、俺達にゃ関係ねぇだろ。あいつらだってあの人数でボス戦する程馬鹿じゃねぇだろうし。

んなことより、探索再開しようぜ」

 

 

俺の言葉に三人とも頷き、そのまま道路に飛び降りて、先を急いだ。

 

 

 

 

 

七十四層迷宮区の最上階付近の回廊にいる俺達は、今戦闘をしている。

 

相手は《デモニッシュ・サーバント》という名前の骸骨剣士×2だ。

骨だけのくせに中々の筋力パラメーターをほこる厄介な奴だ。………普通の奴にしてみれば。

 

 

「はぁぁあああ!」

 

 

俺達は、二組に別れてそれぞれ相手をしている。

今は、俺・シリカペアと、キリト・アスナペアだ。

 

そして、アスナが《デモニッシュ・サーバント》を圧倒していた。

まず、相手の攻撃が当たらない。

骸骨は片手剣を持っていて、片手剣スキル四連撃技《バーチカル・スクエア》を使うが、アスナはそれをステップのみで回避する。

そして、技後硬直に入った骸骨の骨目掛けて、細剣スキル八連撃技《スター・スプラッシュ》を叩き込む。

骨系モンスターに相性の悪い細剣で、一発のミスもなく攻撃する技量は流石と言える。

 

 

「キリト君、スイッチ!」

 

 

説明してなかった気がするが、《スイッチ》とは相手に強攻撃を叩き込む・相手の強攻撃を防ぐ等して、強制的にノックバックを起こし、その隙にパートナーが仲間と相手の間に割り込み攻撃する手法だ。これをやるのとやらないのでは、同じ人数でもプレイヤーへの負担が段違いになる。当然、スイッチする方が負担が軽く済む。

 

 

「カイさん、スイッチお願いします!」

 

 

シリカの声に、俺はこっちの意識を強くする。並列思考とは本当に便利だ。

ちなみに今の俺は、曲刀を装備している。

俺以外のパーティーメンバーの装備が、片手剣・細剣・短剣。

これらとかぶらないもので、俺が扱うことが一般に知れ渡っているもの。それが曲刀だ。

俺はできるかぎり手の内は隠したい。しかも曲刀はカンストまでは至っていない。そういう意味でもちょうどよかったと言える。

 

 

「了解!」

 

 

シリカが短剣スキル《インフィニット》を使って大きなダメージを与えた後、相手が持っている金属盾に向けて《アーマーピアス》を撃つ。

 

そして、俺はシリカの前に割り込む!

シリカは俺が割り込んだのを見て、後ろに下がる。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

俺は体力が少なくなった骸骨に向かって、曲刀スキル、範囲重攻撃四連撃技《ベア・ノック》を使う。

このスキルは、曲刀スキルの中で唯一、打撃系攻撃の性質を有しているスキルだ。骸骨系には、打撃系が一番有効なんだ。

この技は見た目が荒い。体術も交えて曲刀を斬るためでなく殴るために利用するのだから当然っちゃあ当然かもしれないが。

だから極力俺は使いたくないんだが……ま、どうでもいいか。

 

俺の目の前の《デモニッシュ・サーバント》がポリゴン片になって爆散するのと同時に、キリト達が担当していた奴も消えた。

 

 

 

 

 

 

そのまま回廊を進んでいると、俺達の目の前に荘厳な扉が現れた。

ちなみに装備は短剣に戻してある。理由はなんとなくだ。

 

 

「えーっと、見るからにボス部屋だよな?これ」

 

「多分な」

 

「でしょうね」

 

「間違いないと思います」

 

 

俺の問いかけに、三者三様の答えが返ってきた。内容は一緒だったが。

 

 

「どうする?覗くか?」

 

「うーん、顔見るだけなら大丈夫じゃない?ボスはボス部屋からは出て来れないんだし」

 

「あたしはどちらでも」

 

「一応、転移結晶を用意しておこう」

 

 

ボスの顔を拝むことにした俺達。キリトの提案に従い、念のため転移結晶を取り出し、いつでも使えるように準備する。

 

 

「よし、じゃあ、開けるぞ……」

 

 

キリトが俺達に最後の確認をとる。

俺達が神妙な表情で頷くと、キリトが前を向いた。

扉を開けるのは俺とキリトだ。こういうのは一応男の仕事だろう。

システム的に重量などあってないようなものだが。

 

 

「うし、せーの……!」

 

 

俺とキリトは力を合わせて扉を押していく。

扉は徐々に開いていき、完全に開ききった。

―――だが、何も反応がない。ボス部屋の内部は暗闇に包まれている。

 

俺が訝しみ、部屋の中に踏み出そうとしたとき、部屋に炎による明かりが灯った。

緊張に耐えかねたか、アスナがキリトの右腕にしがみつく中、その明かりはボス部屋にいる存在を照らす。

 

……でかい!

部屋の中央にいる奴までそこそこの距離があるのに、見上げる必要がある。

その身体は引き締まった筋肉に包まれており、肌は青く、頭は山羊のそれだった。

わかりやすく言うと、簡単にイメージできる悪魔をそのまま立体にしたものだ。

創作物にはよく登場するが、実際に対面すると怖気が走る。

名前は――《The Gleameyes(ザ・グリームアイズ)》――輝く目、だな。

 

と、そこまで観察が進んだ時、悪魔は雄叫びを上げつつ大剣を構え、こちらに向かって走ってきた。

 

 

「げぇぇぇえええ!」

 

「うわぁぁあああ!」

 

「きゃぁぁあああ!」

 

「ひゃぁぁあああ!」

 

 

俺達は同時に悲鳴を上げ、振り返って全力で逃走を開始した。

奴らがボス部屋から出ないと頭ではわかっててもなぁ……。アレは怖い。

 

 

 

 

 

 

俺達は、途中でモンスターをタゲりながらも安全地帯まで駆け抜け、壁際に座り込んだ。

 

そして、全員で顔を見合わせ、誰ともなく笑い出す。

 

 

「いやぁ、逃げたな」

 

「そうですね」

 

「こんなに走ったの久しぶりだよー。まぁ、キリト君が一番すごかったけどね!」

 

「……否定できない」

 

 

俺達三人でキリトを一頻りからかい終わると、皆表情を引き締めた。

 

 

「……あれは苦労しそうだね……」

 

「そうだな。パッと見、武装は大型剣一つだけだけど、特殊攻撃アリだろうな」

 

「アレは前衛に堅い奴ら集めて代わる代わるスイッチ、しかないか?」

 

「だと思います。盾装備の人が十人は欲しいですよね……」

 

「盾装備と言えばさ」

 

「どうした?」

 

 

アスナがおもむろに話題を変えた。

 

 

「キリト君、何か隠してるよね」

 

 

………まぁ、最近は減ったとはいえ、あんだけ一緒に探索してりゃ気づくよなぁ。

 

 

「な、なにが?」

 

 

オイオイ、動揺してるぞキリトよ。

 

 

「だっておかしいじゃない。片手剣の最大のメリットって、盾を持てることでしょ?

なのに、キリト君が盾持ってるの見たことない。

わたしは動きが遅くなるからだし、シリカちゃんもそうでしょ?カイは例外として。

それに、キリト君はスタイル優先ってわけでもないだろうし……。……あやしい」

 

 

はい、おっしゃる通りでございます。

俺達には秘密があるが、それを知る者はほとんどいない。

キリトの秘密を知ってるのは俺だけだし、俺の秘密を知ってるのはキリトとシリカだけだ。

シリカにも言いふらさないでくれって言ってあるから広まってないし。

でもまぁ、そろそろこのメンバーは知ってもいいかもしれねぇな。

 

 

「ま、いいわ。スキルの詮索はマナー違反だもんね」

 

 

っと、アスナに先に言われてしまった。困ったな。言う空気じゃなくなった。

………まぁ、いいか。

 

そして、アスナが時計を確認し、目を丸くした。

 

 

「わ、もう三時だ。遅くなったけど、お昼にしない?」

 

「お、いいね」

 

「なにっ」

 

 

キリトが突如色めき立った。

アスナの飯は美味いからなぁ。わからんでもない。

 

 

「アスナ、今日は何持ってきたんだ?」

 

「わたしはサンドイッチ。でも、ごめん……。食材がアレで、二つしか作れなかったの」

 

「あー、そうなのか。なら、キリトにやってくれ。俺達は俺達で食べるから」

 

「うん、ありがと。ごめんね」

 

「いいってことよ。あ、一口もらってもいいか?」

 

 

アスナの料理は食ったら何かステータスにいい影響を齎すような気がする。

 

 

「ええ、いいわよ。わたしも、シリカちゃんの一口もらえるかしら?」

 

「あ、はい。いいですよ」

 

 

俺達は、ハイレベルな少し遅めの昼飯を食べた。

アスナのサンドイッチも、シリカの弁当も美味かった。

 

 

「つーか、アスナ。お前、この味どうやって作ったんだ?」

 

 

食べ終わった後に出た俺の質問。キリトとシリカも頷いている。

なんと、アスナのサンドイッチは、日本風ファーストフードの味をかなりの再現度で再現していたのだ。

 

 

「約一年の努力の成果ね。

アインクラッドに存在する全ての調味料が味覚エンジンに与えるパラメータをぜ〜〜んぶ解析してこれを作ったの」

 

 

そう言うと、アスナはサンドイッチを入れていたバスケットから二つの小瓶を取り出して、片方の瓶に指を突っ込んだ。

 

 

「三人とも、口開けて」

 

 

何が何やらよくわからないまま俺達が口を開けると、アスナは指に付けた紫色の物体を弾いて俺達の口にシュートした。

そして、その味を確認した俺達は驚愕する。

 

 

「「「マヨネーズ!!!」」」

 

「そして、これ」

 

 

もう一つの方でも同じことをされたとき、俺達をさらなる衝撃が貫いた。

 

 

「「「醤油!!!」」」

 

「さっきのソースは、これを組み合わせて作ったのよ」

 

 

………アスナの料理スキル――というか努力か――には、驚嘆する他ないな。

 

 

「すげぇな、これ。なぁ、アスナ。お前が研究した調味料の作り方、シリカに教えてやってくれねぇか?」

 

「あたしからもお願いします!」

 

「ええ、いいわよ。今度時間を作りましょう」

 

「はい!」

 

 

やべぇ、アスナが女神かなにかに見える。

これでシリカの料理のバリエーションがさらに増えるな。

 

俺が内心かなり喜んでいると、下層側の入り口からプレイヤーの一団が入ってきた。

 

 

「おお、カイ、キリト!しばらくだな」

 

 

クラインだった。

えーっと、こいつらとアスナって、直接面識あったっけ?

ボス戦で、顔ぐらいは知ってると思うが………。

 

 

「よお、しばらく」

 

「まだ生きてたか、クライン」

 

 

あれ?なんかキリトが辛辣……。

確かシリカは、俺を通して間接的に面識があったよな。

 

 

「相変わらずキリトは愛想がねぇなあ。

お?今日は四人なの、か………」

 

 

クラインが、荷物を片付けて立ち上がったアスナを見て、目を丸くする。

あー、やっぱちゃんと話すのは初めてか。

固まってるクラインを余所に、キリトが互いを紹介し始めた。

 

 

「ボス戦で顔を合わせてはいるだろうけど、一応紹介するよ。

こいつはギルド《風林火山》のリーダー、クライン。こっちは《血盟騎士団》のアスナ」

 

 

キリトの紹介で、アスナは小さく頭を下げたが、クラインは目だけでなく、アホみたいに口まで開いてポカンとしていた。

 

キリトが肘で脇腹をつつくとフリーズから復活し、クラインが改めて自己紹介をした。

その後、他のメンバーも我先にと自己紹介を始め、さらにキリトが余計なことを言ってクラインに足を踏まれるなど微笑ましい空気だったのだが、アスナが放った一言でそれは一変する。

 

 

「しばらくこの人達とパーティーを組むことになったので、よろしく」

 

 

その瞬間、《風林火山》のメンバーと、キリトの背景に、雷が見えた。

《風林火山》は、『な…なんだ、と………』といったところだろうか。

キリトは、『え、今日だけじゃなかったの!?』ってところだろう。

 

クラインが殺気の篭った眼を俺とキリトに向けてくるが、そんなの知ったことじゃない。

俺は知らん。恨み言はキリトに言え。とクラインに向けて眼で伝える。

果たしてクラインは、キリトの肩を掴んで、唸った。

 

 

「キリト、てンめぇ………」

 

 

キリト、御愁傷様。とかなり人事のように考えていた俺の耳を、再び鎧の音が叩いた。

この規則正しい足音―――《軍》か!

 

 

「皆、《軍》よ!」

 

 

アスナも同じ判断を下したようだ。

俺達は一気に表情を引き締める。

クラインも片手を上げて、五人の仲間を壁際に下がらせた。

 

現れた集団は確かに二列縦隊の部隊だったが、森で見かけたときと比べてかなり疲弊しているようだった。

 

 

彼らは俺達と反対の壁際で停止し、先頭の奴の『休め』という言葉でその場に崩れ落ちた。

『休め』と言った奴は他の十一人には目もくれず、俺達の方に歩いてきた。

こちらはすでに、俺とキリトが少し前に出ている。

 

そいつは、俺達の目の前まで来ると、ヘルメットを外した。

三十前半って感じのオッサンだな。

奴は俺達を睥睨しながら、先頭に出ていた俺達に声をかけてきた。

 

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

 

 

ぶふっ……!

俺は噴き出すのを堪えるのに必死だった。

《軍》が、いつの間にか正式名称になってた。しかも中佐て。

……こうやって心の中でふざけてないと、辟易とした態度が面に出ちまうだろうしな。

 

 

「キリトだ」

 

「俺はカイ」

 

 

キリトも辟易とした様子で答えていた。

 

オッサンは俺達の言葉に頷くと、横柄な口調で尋ねてきた。

 

 

「君らはもうこの先も攻略しているのか?」

 

「……ああ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある」

 

「うむ。ではそのマップデータを提供してもらいたい」

 

 

………あ?なんだこのオッサンのさも当然だって態度は。

 

俺がキレる寸前、クラインが先にキレた。

 

 

「な……提供しろだと!?テメェ、マッピングする苦労がわかって言ってんのか!?」

 

 

全く同感だ。マップデータは貴重だ。

売ろうと思えば高値で売れる。

 

オッサンは、クラインの言葉を聞いて眉をピクリと震わせると、堂々と言い放った。

 

 

「我々は君ら一般プレイヤーの為に戦っている!」

 

 

さらに大声で続ける。

 

 

「諸君が協力するのは当然の義務である!」

 

 

………イラッ。

えーと、殴っていい?ねえ、こいつ、殴っていい?

ここ安全地帯だよね?ダメージないよね?いいよね?

やっちゃうよ?俺、やっちゃうよ?

 

後ろでアスナとクラインが声を上げようとして、キリトに遮られていた。

だが、キリトが返事をする前に、俺はオッサンを殴りつける。

 

 

「ぐはっ!」

 

 

ガシャン、と重厚な音を響かせてオッサンが倒れ込む。

俺は、寝ているオッサンに声をかけた。

 

 

「おいオッサン。なに偉そうなこと言ってんだ?

傲岸不遜もいいとこだ。あんたら最近全く攻略に参加してなかっただろ?

にも関わらず『一般プレイヤーの為』とは恐れ入る。

それにだ。俺達はただのプレイヤーじゃない。攻略組だぞ?

俺達があんたらに協力しなくとも問題なくゲームはクリア出来る。現にここまで攻略してきた。そこんとこ間違えんな」

 

 

声をかけたというよりは吐き捨てたという方が適切かもしれねぇ。

………はぁ。俺、攻略組っつって威張るの好きじゃないんだけどなぁ。

今回は仕方なかったけどさぁ。

 

 

「――まぁ、今回は恵んでやるよ。キリトがそうするつもりだったみてぇだしな。

だが、これは覚えとけ。お前らは偉くもなんともない。自分の立場を履き違えるな」

 

トレードウィンドウを開き、コーバッツに送りつける。

奴は顔面を屈辱に歪ませながらそれを受け取ると、ふん!とだけ言って立ち去ろうとする。

俺はついでとばかりにその背中に声をかける。

 

 

「一応言っておくが、ボスにちょっかい出すなら止めておけ。

さっきボス部屋を覗いたが、アレは生半可な人数でどうこう出来るような相手じゃねぇ」

 

「それは私が判断する!」

 

 

俺の言葉にそれだけ吐き捨てると、奴は他のメンバーを立たせて進軍していった。明らかに隊員は消耗していたが。

………まさかボスに仕掛けるつもりじゃねぇだろうな。

 

 

「大丈夫かよあの連中……」

 

 

クラインが俺の気持ちを代弁するかのようなことを言った。

恐らくこの場にいる全員がそう思っているだろう。

 

 

「さすがにぶっつけ本番でボスに挑んだりはしないと思うけど……」

 

「そうですね……」

 

 

アスナもシリカも不安そうだ。

 

 

「なあ、一応様子を見に行くか?」

 

「そうだな……その方がいいかもしれない」

 

 

俺の提案に、キリトだけでなく全員が頷いた。

俺達は、不安を抱えながら《軍》の後を追うことにした。

 

 

 




いかかでしたか?
このままグリームアイズ戦まで書くと、文字数が大変なことになるので切りました。
区切りはあまりよくありませんがご了承ください。

前書きで言った『わざと』というのは、『護衛兼クラディール改め』のところです。
普通は『兼』っていう言葉はこういう風には使いませんよね。

原作では、デュエルは
相手に申請→相手がモードを選択→自分がそれを受諾する
という流れになっていますが、この作品では変えることにしました。
言うまでもなく、カイにあのシーンやらせたかったからです。

あと、この作品では安全地帯は、『直接攻撃によるダメージは発生しない』という設定です。
毒とか出血とかのダメージは発生します。
原作ではどうだったかよく覚えてませんが……。

次回はボス戦です。
やっと、キリトのアレが書ける!
そして、カイも……?
お待ちいただければ。

では、感想等お待ちしております。
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