黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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やっとここまで来ました……!

今回ついに、キリトが『本当の』キリトになります。
そしてカイも……?

では、どうぞ。




第十五話 《二刀流》と……

 

俺達は《軍》の連中を追ったが、途中でリザードマンの集団に遭遇してしまい、最上部に到着したのは安全地帯を出てから三十分経っていた。

道中、奴らに追いつくことはなかった。

 

 

そして。

 

 

「…………ぁぁぁああ」

 

「「「ッ!?」」」

 

 

明らかに、モンスターの物ではない、微かな悲鳴が聞こえた。

 

俺、キリト、シリカ、アスナの敏捷が高いメンバーがクライン達を引き離す形になったが、全員が駆け出した。

 

 

少しして、あの大扉が俺達の視界に入る。

それはすでに開け放たれていて、内部の炎に照らされて蠢く影、さらに金属音と悲鳴が認知できる。

 

 

「バカッ……!」

 

 

アスナが悲痛な叫びを上げて速度を増す。

俺達も負けじと追従する。

 

俺達は扉の手前で全力で減速し、入り口ギリギリで停止した。

 

 

「「おいっ、大丈夫か!?」」

 

 

俺とキリトの叫びが重なる。

中は―――さながら地獄絵図だった。

 

中央でこちらに背を向けて屹立しているのは、青い悪魔《ザ・グリームアイズ》。

禍々しい山羊の頭から荒々しく呼気を噴出しながら、右手の斬馬刀とでも言うべき巨大剣を縦横無尽に振り回している。HPバーはまだ三割も減ってない。

その向こうで逃げ惑う悪魔に比べてあまりにも小さな影――《軍》の連中だ。

動きがバラバラだ。ふと人数を確認するが、二人足りない。二人だけ脱出ってのもおかしいから―――死んだか。

 

状況を把握している間にも、一人が斬馬刀の餌食になって床に転がる。HPバーは危険域に入ってる。

奴らと唯一の出口の間に悪魔が陣取ってるせいで撤退も侭ならない。

キリトが倒れている奴に向かって大声を張り上げた。

 

 

「何してる!早く転移結晶を使え!」

 

 

だが叫ばれた男は、顔を恐怖で引き攣らせながら叫び返してきた。

 

 

「ダメだ………!く……クリスタルが使えない!!」

 

「なっ……!」

 

 

俺達は絶句した。

《結晶無効化空間》は今までもあったが、ボス部屋がそうなっていたことはなかった。

くそっ、ついにボス部屋も無効化になっちまったか!

 

 

「そんなっ……!?」

 

「なんてこと……!」

 

 

シリカとアスナも息を呑む。

これじゃあ、迂闊に助けに入ったらミイラ取りがミイラになる。

 

そのとき、逃げ惑うプレイヤーの一人が、剣を掲げて叫んだ。

 

 

「何を言うか!!我々解放軍に撤退の二文字はあり得ない!!戦え!!戦うんだ!!」

 

 

―――訂正する、喚き立てた。

ありえねぇのはてめぇの思考回路だろうが!?《結晶無効化空間》が猛威を振るってんのに何考えてんだあのオッサン!?

コーバッツの声に反応し、キリトが思わずと言った様子で怒鳴った。

 

 

「馬鹿野郎ッ……!」

 

 

俺も全くの同感だよ、キリト。

そのとき、クライン達が追いついてきた。

すかさず、手早く状況説明を行う。

 

 

「な、何とかできないのかよ……」

 

 

クラインが顔を歪めて唸る。

……俺だって、あのオッサンはムカつくが死んでほしいわけじゃねぇ。

だが、ここだと俺達が脱出できない可能性がある。

確かに俺達が連中の退路を作ることはできるかもしれない。

それでも俺は、例え何と言われようと仲間を守るためなら見知らぬ他人くらい切り捨てる……!

 

そのとき、俺達をさらに驚愕させる声が響いた。

 

 

「全員……突撃……!」

 

 

コーバッツは何とか陣形を立て直し、十人のうち動ける八人を四人ずつの横列に並べて同時攻撃を開始した。

 

 

「ちょ、嘘だろ!?」

 

「やめろっ……!」

 

 

しかし、俺とキリトの叫びは届かない。

 

同時攻撃なんて無謀なだけだ。

満足にソードスキルが使えずに混乱するだけ。

それよりも、防御主体でスイッチして徐々にダメージを与えていくしかねぇってのに……!

 

だが、悪魔は容赦せず攻撃態勢に移る。

仁王立ちになったと思ったら地響きと共に輝く噴気をまき散らす。

どうやらあの息にもダメージ判定があるようで、青白い輝きに包まれた八人の突撃の勢いが緩んだ。

それを見逃す悪魔ではない。

すかさず巨剣を突きつけ、一人の人間を跳ね上げる。

その人影は、悪魔の頭上を軽々飛び越えると、俺達の目の前の床に叩き付けられた。

 

――コーバッツだった。

 

HPバーが消滅している。

理解が浮かばない表情の中で、口が動いた。

―――有り得ない。

無音の呟きを最後に、コーバッツはつんざくような音を立ててポリゴン片になった。

その光景に、女性陣が小さく悲鳴を上げる。

 

《軍》はもう見ていられない。

リーダーを失ったことで狂乱し、逃げ惑うだけだ。

 

――と、そこで俺は、アスナの様子がおかしいことに気づいた。

この表情は―――マズい!

 

 

「だめ……だめよ……もう………」

 

「キリトっ!早くアスナを捕まえろ!!」

 

 

俺の言葉でキリトがハッとしてアスナを見て、アスナを摑もうと手を伸ばした――が。

 

 

「だめ―――ッ!」

 

 

絶叫と共に、アスナが疾風の如く走り出した。

ちっ、ちょっと遅かったか!

空中で抜いた細剣を構え、一筋の閃光となってグリームアイズに突っ込んでいく。

 

 

「アスナッ!」

 

「チッ、しゃあねぇ!シリカ、行くぞ!」

 

「はい!」

 

「どうとでもなりやがれ!」

 

 

キリトがやむなしと言った様子で飛び出していき、俺とシリカも後に続く。

クラインも、悪態を吐きながらついてきた。

 

 

アスナの攻撃は、不意を打つ形になって悪魔に直撃した。だが、奴のHPバーはほとんど減っていない。

返って怒らせてしまったようで、グリームアイズが怒号とともに振り返り、アスナに斬馬刀を振り下ろす。

アスナはステップで回避しようとするが完全には避けきれず、余波に足をとられて転んでしまう。

 

そこに悪魔の追撃が放たれた。

 

 

「アスナ―――ッ!」

 

 

キリトが絶叫しながら斬馬刀の前に躍り出て、一瞬、巨剣と拮抗する。

その隙に、俺が短剣で巨剣の横っ面を全力で突いた。

全力で打ち込んだおかげで、巨剣を弾き飛ばして難を逃れる。

 

 

「「下がれ!!」」

 

 

俺とキリトが同時に叫び、アスナを下がらせる。

俺とキリトはお互いのステップの邪魔にならない程度に距離を置き、奴の追撃に備える。

すかさず重そうな連撃が飛んできて、その猛威の前に、反撃を挟むことなどできそうもない。

しかも、両手剣の技に微妙にカスタムが入ってるせいで、俺の技量でも先読みがしづらい。

パリィとステップ回避に徹してる俺達でさえ、一撃の大きさのせいでじわじわとHPが削られる。

視界の端ではクライン達が《軍》の連中を運び出そうとしているが、中央に俺達がいるため中々進まない。

そうしているうちに、とうとう一撃が俺達の身体を捉える。一撃で、HPバーが大きく減少した。

 

―――これはもう、出し惜しみしてる暇なんてねぇ!!

 

俺はそう決意すると、すぐに行動に移る。キリトに合図するのも忘れない。

グリームアイズの巨剣が、振り上げられる。だが、慌てない。

 

 

「キリト、これは全力でやるしかねぇ!十秒稼いでやる、それで準備しろ!

その後スイッチして、お前が前衛、俺がサポート!やるぞ、急げ!」

 

 

俺の意図を察したのか、キリトが大きく飛び退る。

恐らく今は、しゃがんでメニュー画面を操作しているのだろう。

 

グリームアイズの巨剣が、振り下ろされる。

俺は、《ヴァイヴァンタル》を合わせに掲げる。

 

 

「なっ、カイ、無茶だ!」

 

 

悪魔の剣が俺に襲いかかる数瞬のうちに、クラインが叫ぶ。短剣程度では、あの攻撃を受けられないと思ったのだろう。なんせ、大上段からの一撃だ。

だが、大丈夫だ。なぜなら―――

 

 

「チェンジ!《ショート》・トゥー・《ボウス》!!」

 

 

そう()()()瞬間、俺の短剣が()()()()()()()()()()()()()()

 

俺の短剣の一撃が巨剣とぶつかり、弾く。

俺はニヤリと笑う。押し切れなくても、止められれば十分だ。

 

その直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「うおらぁぁああっ!!」

 

 

俺は裂帛の気合いと共に両手剣《ヴォルカニックデイズ》を振り抜く。

短剣に比べて重い、ほぼ同攻撃力の攻撃は、空中で止まっている巨剣を易々と吹き飛ばした。

 

 

「グォォオッ!?」

 

 

悪魔は驚愕の声を上げて、ノックバックする。

――チャンス!ここは、時間の稼ぎ時だ!出し惜しみはしねぇ!

 

 

「喰らえっ!」

 

 

俺は、両手剣スキル()()()《カラミティ・ディザスター》を使う。

今まで人前で見せたことはなかったが………死んだらどうしようもねぇからな!

 

 

「うおおおぉぉぉ!」

 

 

怒濤の六連撃が終わり、俺は少々長めの技後硬直に入る。

だが、それでもいい。奴は仰け反ってたから、俺の攻撃を堪えきれてなかった。

今反撃に移ったようだが――そろそろキリトの準備も終わっただろう。

 

 

「グルオォォォオオッ!」

 

 

巨剣が俺に迫る。

しかし、問題ない。《カラミティ・ディザスター》の効果で、今の俺には《物理バリア》が張ってある。

《物理バリア》は、一定時間、もしくは一定量を超えるまでダメージを受けないという素晴らしいサポートだ。

………つっても、俺はこれ以外に張る方法を知らない。両手剣スキルがカンストするのも大分かかったし……。そうそうお目にかかることはないだろう。

 

そういうわけで、俺はこの攻撃を受けきって……ぐっ!?

 

 

「さすがだ、このバリアを一撃で抜くとは………だが!」

 

「カイ、いいぞ!」

 

 

そらきた!

 

 

「待ってたぞ!つーわけで、チェンジ!《ボウス》・トゥー・《スピア》!」

 

 

再び、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

奴の巨大剣は、俺を攻撃した直後のことで目の前に留まっていた。

それを横に薙ぎ払ったので、奴の身体が剣に引っ張られて横を向く。

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、《デモニックスピア》を振り上げて、悪魔の腕を斬りつける。

だが、当たりが悪かったのか微々たるダメージしか与えられない。

 

 

「スイッチ!」

 

 

キリトの声を聞き、今度は俺が飛び退る。

 

俺の前に出たキリトは、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

大剣を引き戻す悪魔に向かって、キリトが二刀流スキル《エンド・リボルバー》を使う。

二刀流スキルの中では、手数が少ない技だ。

半円を描くように放たれた右手の剣がグリームアイズの剣を弾き、開いた胴体に向かって左手の剣が襲いかかる。

俺の奥義技とキリトのクリーンヒットで、グリームアイズのHPが目に見えて減少する。

 

負けじと奴も反撃してくるが、そこは俺の役目だ。

 

 

「グォォッ!」

 

「フッ!」

 

 

奴の剣に向かって、槍スキル《ソニック・チャージ》を使う。単発技だ。

だが、キリトが俺の前にいる状況で連続技なんて使ったら、キリトをズタズタにすることになる。それは勘弁。

それに、今の俺の役割は、奴の攻撃をキリトに届かせないこと。それさえ完璧にやれば、俺達の勝ちだ!

 

甲高い音を立てて、俺とグリームアイズの武器がお互いを弾く。

がら空きになったところを狙って、キリトの双剣が突き刺さる。

 

奴は苦悶の声を上げて、キリトに斬馬刀を振り下ろした。

 

 

「グゥォォォオオッ!?」

 

 

って、ちょっ!間に合わねぇんだけど!?

 

 

「キリト、間に合わん!対処頼む!」

 

「了解!」

 

 

キリトへの警告がギリギリ間に合って、キリトが頭上に振り下ろされる斬馬刀を両手の剣をクロスさせてしっかりと受けとめた。さらに、力強く押し返す。

 

 

―――ここは、俺が攻撃して削るところだ!

 

キリトの二刀流に比べると、手数の関係で時間当たりのダメージ量で負けるからな。

基本はキリトに任せるが、こういう状況なら仕方ねぇ!

 

 

「ハァァッ!」

 

 

俺は一歩前に出て、槍スキル四連撃《ヴェント・フォース》を発動する。

まあぶっちゃけ突きの四連撃なんだけど、こいつには追加効果がある。

――《回避ダウン付与》。地味だが、この場合かなり有効だ。

キリトの手数を相手に回避が下がるということは、その分合計ダメージが増える可能性が高くなるってことだ。

そもそもほとんど当たるとは思うが、念のためにな。

 

 

キリトの押し返しと俺の四連突きで、グリームアイズの体勢が大きく崩れる。

 

―――ここが勝負所だ!

 

 

「キリト、やれ!俺が相手の迎撃を捌く!」

 

「任せろ!―――《スターバースト・ストリーム》ッ!」

 

「いっけぇぇえええ!!」

 

「うおおぉぉぉおあああ!!!」

 

 

キリトの剣が美しい輝きを放ち、凄まじいラッシュがグリームアイズに襲いかかる。

キリトの攻撃速度が速すぎて、俺でも迂闊に差し込めない。

なので、キリトのHPバーを確認しながら、キリトのHPが持ちそうな攻撃なら止めない。

キリトには悪いが、打点が減る方が問題だ。体勢が崩れるような攻撃や、HPが危なくなるような攻撃以外は、通す!

――俺はキリトに追従しながら、キリトの攻撃を阻む軌道で飛んでくる悪魔の剣を弾き続けた。

キリトも俺の狙いがわかっているのか、俺を信じてただひたすらに攻撃を続ける。

 

 

―――そして、ついに。

キリトの怒濤の十六連撃が終わる。

二刀流スキル十六連撃《スターバースト・ストリーム》。

恐ろしいほどの手数で相手を追いつめる、強力なスキルだ。隙も攻撃回数の割にはない。

最後の一撃が、グリームアイズの胸を貫いた。

 

 

――くそっ、削りきれなかったか!

 

 

ギリギリで耐えきったグリームアイズが獰猛な笑みを浮かべ、大剣を振り上げた。キリトは技後硬直で動けない。

 

なら、俺が仕留める!

 

 

「チェンジ!《スピア》・トゥー・《ショート》ォッ!!」

 

 

一足飛びにキリトに並び、紺色の光を放つ槍を悪魔に突き入れる。

 

槍は悪魔の肉を穿った直後に消滅し、紺色の光を纏う透明な短剣が手に現れた。

よし、《ヴァイヴァンタル》を手にした!これで――――

 

 

「とどめだぁぁああああ!」

 

「ゴアアァァァアアアァ!」

 

 

俺の短剣が奴の身体に深々と刺さり、グリームアイズは一瞬硬直して、ポリゴン片になって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった………のか……?」

 

 

青い光の残滓を浴びながら、キリトが呟く。

 

 

「ああ、終わった。俺達は、勝った」

 

「そうか……勝ったか……。他の人達は……?」

 

「大丈夫だ。一応視界の端には留めてたが、あれ以上の犠牲者はない」

 

「そうか、よかった……」

 

「キリト君っ!」

 

「カイさん!」

 

 

俺がキリトに状況を伝えているとシリカとアスナが駆け寄ってきて、シリカが俺を、アスナがキリトを抱きしめた。

 

 

「カイさん、大丈夫ですか……!?」

 

「バカッ……無茶して……!」

 

 

キリトが目を白黒させているのが面白い。

それはそうと、シリカを安心させなきゃな。

 

 

「ああ、俺は大丈夫だ。キリトの方が攻撃を受けてたしな。

しかし、単位時間当たりのダメージ量が多いからって、キリトには悪いことしたな……」

 

 

キリトはポーションを無理矢理飲まされてから、俺の言葉に反応してきた。

 

 

「あの状況じゃしょうがない。あれが最善だったと思うぞ。

それに、あれ以上の被害は食い止められたんだから、よかった方だよ」

 

「キリトが気にしてねぇなら、いいんだけどよ」

 

 

理性で納得してても感情ではってこと、あるだろ?

まあ、いいか。

 

シリカがさらに抱きついてきて喜びを露にし、アスナがキリトの肩に顔を埋めたとき、俺達に寄ってくる足音を捉えた。クラインだ。

 

 

「生き残った《軍》の連中の回復は済ませたが、コーバッツとあと二人死んだ………」

 

「そうか……。ボス戦で犠牲者が出たのは……」

 

「六十七層以来だな」

 

「……これのどこが攻略だよ……コーバッツの馬鹿野郎が……。死んじまったら、意味ねぇだろうが……」

 

「……それは、もう言っても仕方ないだろ」

 

 

クラインが吐き捨てるように呟いた。

俺の言葉の意味は嫌というほど理解しているのか、頭を左右に振って、気分を切り替えるように訊いてきた。

 

 

「そりゃあそうと、オメエら何だよさっきの?」

 

 

…………まぁそうだよな。訊いてくるよな。

 

 

「……言わなきゃダメか?」

 

 

おーおー、キリトも言いにくそうにしてる。俺も全く同じ気持ちだけどな!

 

 

「ったりめぇだ!見たことねぇぞあんなの!」

 

「あー、俺も?」

 

「そうだよ!ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと吐いちまえよ!」

 

 

見ると、シリカとアスナ以外の全員が俺達の方を見てる……。すげぇ逃げ出したい。

 

 

「……エクストラスキルだよ。《二刀流》」

 

 

おおっ……というどよめきが、俺達四人以外の全員に流れ、次いで全員の視線が俺に固定される。

………………………はぁ。

 

 

「……俺のもエクストラスキルだ。《簡易変更》って名前だ」

 

 

再びどよめきが起こる。クラインが興味津々といった様子で訊いてきた。

 

 

「しゅ、出現条件は」

 

「解ってたら公開してるさ」

 

「同じく。多分、《ユニークスキル》とでも言うべきものだろうな」

 

 

クラインもそりゃそうだろうなぁ、といった様子だ。

一応、状況は理解してくれているのだろう。

 

 

「でもよ、キリトのはなんとなくわかる。ようは両手に片手剣を装備しても、ソードスキルが発動できるようになる特殊スキルだろ?

だが、カイのはわからねぇ。あれ、なんなんだ?」

 

 

俺は、ここで公開していいものかしばし考える。

 

 

「……まぁ、いいか。俺のスキル《簡易変更》は、音声認識で発動するスキルだ。

武器の種類を言うことで、変更できる。その時に、単発のソードスキルが発動するってだけだな。

もちろん、選択武器スキルも自動で変更される」

 

 

俺のスキルを知らなかった全員は、ほえ〜とでも言うように頷いていた。

言ってない弱点とか制限とかもあるが………そこまで情報を明かす気はない。

 

これで、《神聖剣》ヒースクリフ、《二刀流》キリト、《簡易変更》カイってなるんだろう。

俺達が二人目、三人目のユニークスキル使いとして知られるだろうな。

………チョット待て?名前、俺だけダサイのは気のせいか?なんかヘボくね?《紺の浮浪児》からだよな?

え、何?俺、名前の呪いでも受けてんの?ステータス的になんかある?まさかのデフォルト?そんなの嫌だよ?

 

一人でうんうん唸ってるうちに、話が進んでた。

……ヤバい、並列思考が使えないくらい精神的にキてる。

 

 

「お前たち、本部まで戻れるか?」

 

 

クラインが《軍》の生き残りに話しかけに行った。

十代だと思われる奴は、しきりに頷いていた。

 

 

「よし、なら帰って上に今回のことを伝えるんだ。二度と無謀な真似をしないようにな」

 

「は、はい……。あ、あの……ありがとうございました……」

 

「礼ならあいつらに言え」

 

 

そう言って、クラインは俺達に親指を向けてくる。

《軍》の連中はよろめきながら立ち上がると、座り込んでる俺達に向かって深々と頭を下げ、部屋から出て行く。

回廊に出たところで次々に結晶を使い、テレポートで帰っていった。

 

 

「俺達はこのまま七十五層の転移門をアクティベートしてくるけど、お前らはどうする?

今日の立役者だし、お前らがやるか?」

 

「いや、任せるよ。俺はもうヘトヘトだ」

 

「俺も。流石にあの緊張感は疲れた」

 

「そうか。……気を付けて帰れよ」

 

 

クラインは頷くと、仲間を連れて奥の扉から出て行った。

ボス部屋には、俺達のパーティーメンバー全員の四人だけが残った。

もうすでに、あの死闘の痕跡は残っていない。静かなもんだ。

 

 

「カイさん………」

 

 

厳しい戦闘を思い出しボーッとしていると、シリカがか細い声で話しかけてきた。

 

 

「なんだ?」

 

「心配……しました……。死んじゃうんじゃないかと思って……」

 

「……悪い。仕方がなかったとはいえ、心配かけたな。俺は無事だ」

 

「………はい。今抱きしめているので、わかります」

 

「それはよかった。……あー、つっても今回は本当に疲れた……」

 

 

つい愚痴っぽくなってしまうが、しょうがないだろう。俺でも本当にキツかったんだ。

HPが七割残ってるヘビー級のボスって、ダメージディーラーの二人で倒すボスじゃねぇよ。

そもそも、ボスを二人で倒すこと自体おかしい。

おい、第一層のとき一人で倒せたとか言ってただろ、などという苦情は受け付けない。アーアー、キコエナーイ。

 

 

「そうですね、本当に心配しました……。でも、かっこよかったです」

 

「お、そう言ってもらえるなら、やった甲斐があったってもんだ」

 

 

シリカの頭を撫でながら、少しの間のんびりする。

こういう、リラックスできる時間は大事だ。

 

 

 

――さて、キリトの方も、そろそろ話終わったな。

 

 

「シリカ、行くぞ」

 

「はい」

 

 

シリカを離して先に立ち上がり、シリカに手を差し出す。

シリカがそれを掴んで立ち上がり、手を繋いでキリトに近づいていく。

 

 

「キリト、話は終わったか?動いて大丈夫だよな?」

 

「おう、こっちは終わった。それも大丈夫だ。そっちは………もうよさそうだな」

 

「ああ、話そうと思えば家でも話せるしな。んで?どうするよ」

 

「今日の所は、もう帰ろうぜ。アスナがやることもあるし」

 

「やること?」

 

 

実は、話が(俺には)聞こえてたから、内容はわかるんだが。

 

 

「わたし、しばらくの間ギルドを休むことにしたの」

 

「へぇ、なんでまた?」

 

 

おっと、俺が言おうと思ってたんだが、シリカに言われちまったな。

 

 

「ほら、あなたたちとパーティーを組むって言ったじゃない?それよ」

 

「ああ、そうでしたね。これからもよろしくお願いします」

 

「こちらこそ。明日、どこかで会いましょう」

 

「了解だ。お前ら、どうやって帰る?」

 

「そうだな………。歩いて帰るよ」

 

 

キリトの言葉に、アスナがコクリと頷いた。

……もうこいつらできてるだろ……。

残念ながらできてねぇけどよ……。

 

 

「そうか。俺達は転移結晶で帰るわ。今日はここで解散だな」

 

「そうだな。じゃあな」

 

「おう」

 

 

そう言って、俺達はキリト達と同じ方向に歩き始めた。

 

 

「…………どうした?」

 

「いや、ここ《結晶無効化空間》だから。転移できねぇし」

 

「ああ、そう言えば」

 

「んじゃ、今度こそ。またな」

 

「おやすみなさい」

 

「おう、明日な」

 

「じゃあね」

 

「転移。フローリア」

 

 

キリトとアスナに手を振られながら、俺とシリカはホームのある四十七層に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅して。

 

 

「はぁ………明日からめんどくせぇことになるんだろうな……」

 

 

ため息がこぼれる。

こればっかりは割り切れねぇなぁ。

 

 

 

そういえば、状況に合わせて武器を自在に変更できるから、一見かなり強力そうな《簡易変更》スキルだが。弱点がある。

 

実はあのスキル、行き先が一度の戦闘で一回しか使えないんだ。

例えば、《〜》・トゥー・《スピア》って宣言したら、その戦闘では一瞬で槍に変えることはできなくなる。手動でやる分には問題ないが、時間がかかるからそこまで使えないだろう。

まぁ、どんなに長くても短くても一回は一回なので、わかりやすいっちゃあわかりやすい。時間じゃない分単純なんだ。

道中で何連発してても、どの戦闘でも絶対に一回は使えるってのも強みだしな。

 

そうそう、言い忘れていたが、この行き先や出発の発声内容はシステムに決められている。

ソードスキルの最初の構えの代わりが、発声ってことだな。

短剣が《ショート》。片手剣が《ロング》。両手剣が《ボウス》。細剣が《レイピア》。曲刀が《シミター》。刀はちょっと捻って《ブレード》。両手斧が《アックス》。槍が《スピア》。そして、片手棍が《メイス》。

 

さらに言うと、このスキルで選択できるのは変更する武器の種類だけだ。だから、短剣がどっちになるか困る――かというと、そうでもない。

実は、《クイック・チェンジ》って技能がある。これは手に持つ武器を落としたりしたときのためにあるシステムで、これに登録しておくと武器を装備するまでの手順を大幅にショートカットできる。一つの武器しか選択できないが、ここでは大きな意味がある。

これに選択していると、何故か《簡易変更》の対象にならねぇんだ。つまり、俺は《クイック・チェンジ》の対象に《キリング・デストロイ》を選択しているので、《簡易変更》で確実に《ヴァイヴァンタル》を引き当てられるというわけだ。

 

ま、トリガーが発声だから、どんな体勢からでもソードスキルを放てるってのは大きな強みだな。

しかも、決められたソードスキルの軌道もない。一発分なら、軌道まで自在に操れるんだ。

ユニークスキルだけあって、デメリットを上回るメリットがある。

 

 

少々長くなったが――閑話休題。

 

 

 

「そうだと思います……。力になれるかわかりませんけど、ずっとついてますから」

 

「ああ、頼むわ。助かるよ、ありがとうな」

 

 

ああ、癒される……。

俺は周りと助け合ってばっかりだな……。ま、それが大事なんだろうけどな。

 

 

「今日は疲れたな……。シリカも《軍》の連中運び出すの手伝ってたろ?お疲れ。今日はもう寝ちまおう」

 

「そうですね。おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

 

さてさて、明日からどうなることやら……。

つーか、今思ったが、俺が両手剣スキルまで使えることがバレ……って、槍もじゃねぇか。

こりゃ、そろそろ全部バレるな。これもめんどくさそうだなぁ……。

 

 

 

俺は明日からの自身を取り巻く環境の変化を憂いながら、眠りについた。

 

 

 





はい、というわけでカイもユニークスキル持ちでしたよ!
どうでしたか?作者的には、カイに非常に合ってるスキルだと思うのですが。

これからは原作通りか……カイがちょっと介入するぐらいなんだろうな……と思っていらっしゃるそこのアナタ!
ぐふふ。アインクラッド編には、もう一回大きな動きがあるのです。
こんなこと言って自らハードル上げて我ながら馬鹿だなとは思いますが、皆さんの期待があると信じて、その期待に応えられるように頑張っていく所存です。

カイのユニークスキルについて、感想をもらえると嬉しいです!

では、感想等ありましたら、お願いします。

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