黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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ご無沙汰してます、gobrinです。

最近めっちゃ忙しくてハーメルンのサイトを開く事すら出来てませんでした。

やっと投稿できました。

今回は、皆大っ嫌いなクソ野郎が出てきます。
カイがどう対応するのか、お楽しみに。

では、どうぞ。


第十七話 KoBでの活動と因縁

二日間の準備期間の二日目。

 

俺とキリトは、エギルの店の二階で衣替えをしていた。したくなかったけどな。

 

 

「なんじゃこりゃあ!?」

 

「うへぇ………何この自己主張激しい服……」

 

「何って、見た通りよ、キリト君!あとカイ、文句言わない!さ、立って!」

 

 

俺達は、アスナに無理矢理着させられていた。言うまでもなく、KoBの制服だ。

白の生地に、両襟に小さく背中には大きな真紅の十字模様が存在している。

ものすっごい脱ぎたい。今すぐ脱ぎたい。これを着ていたくない。俺は落ち着いた色っつーか紺色が好きなんだよ!

 

 

「……俺、地味目な奴って頼まなかったっけ……」

 

「……俺もそう伝えたはずなんだが」

 

「これでも十分地味な方よ。うん、似合う似合う!」

 

 

俺とキリトの苦情を一蹴し、(キリトを)褒めるアスナ。

………俺、帰っていいっすか?

 

しばしの間、キリトが椅子に腰掛けアスナがその肘掛けに座って微かな桃色空間を作っていたが、アスナが何かを思いついたかのように手を叩いた。

 

 

「あ、そういえばキチンと挨拶してなかったね。これからギルドメンバーとしてよろしくお願いします」

 

「おー、よろしく、副団長様」

 

 

キリトが背筋を伸ばしている隙に軽く挨拶を済ませる。

俺とアスナの関係だったらこんなもんだろ。

 

俺の後にキリトも続いた。

 

 

「よ、よろしく。……と言っても、俺はヒラでアスナは副団長様だからなぁ」

 

 

キリトはわざとらしく何か言いだし、

 

 

「こんなこともできなくなっちゃったよなぁー」

 

「ひやあ!」

 

 

アスナの背中を人差し指で撫でた。

アスナは飛び上がり、キリトの頭をポカリと叩く。

 

 

「………俺もいるのにいちゃつくなよ。今日の用は済んだろ?俺は帰るな」

 

「あ、うん。明日からよろしくね」

 

「カイ、サボるなよ」

 

「キリトは俺のことを何だと思ってんだ?まあいい。

明日行く時間をメッセで教えてくれ。一緒に行こうぜ」

 

「うん、そうしましょう。じゃあね」

 

「おう」

 

 

俺はエギルの店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。

 

あの目立つコートを羽織り、キリト、アスナと合流してグランザムに向かった。

今日から攻略と言っても、ヒースクリフに約束させたため俺達のパーティーは決まっている。そこまで気負うことはない。

 

 

―――と、思っていたのだが。

 

 

 

 

 

 

「はぁ?訓練?」

 

「そうだ。私を含む団員五人のパーティーを組み、ここの迷宮区を突破して五十六層の主街区まで到達してもらう」

 

 

ギルド本部に着いた俺達を待っていたのはそんな言葉だった。

 

 

俺達に話しかけてるのは髭もじゃのおっさん。前ヒースクリフと会った時にいた四人の内の一人だ。

ゴドフリーという名前の斧戦士らしい。

 

アスナが食って掛かろうとしたのを止めて、訊く。

結構ご立腹みたいだからな。落ち着けっての。

 

 

「なんでまた?」

 

「実際時の攻略パーティーについてはいいが、一度はフォワードの指揮を預かるこの私に実力を見せてもらわねば。

たとえユニーク使いと言えども、使えるかどうかは別だからな」

 

「………なあ、あんた、ゴドフリーだったよな?」

 

「………言葉遣いがなってないが、それはまあいいとしよう。なんだ?」

 

「俺達とヒースクリフの決闘見てないのか?あれを見ててそんなこと言ってんだったら神経疑うが」

 

「………私は、あのような見世物は好かん。故に、見ておらん」

 

「ふーん、そうか。なら、デュエルじゃダメなのか?」

 

 

まあ、ダメって言うだろうがな。

 

 

「私が見たいのは実力だけではない。攻略に使えるかどうかも見たいのだ。そんなこともわからないのか?」

 

 

…………いや、わかってますよ?なんだこの髭達磨。腹立つな。

 

 

「そーかい、よくわかったよ。ただ、こんなゴミみたいな階層で俺達の力を正しく測れるとも思えないけどな。

キリト、行こうぜ。こういう手合いには何言っても無駄だ。早く行って早く終わらせる方が賢い」

 

「ああ、そうだな。一気に突破するけど構わないよな?」

 

 

俺達がそう言うと、ゴドフリーは鼻を鳴らして部屋を出て行った。

 

 

後ろでアスナがキレてるのをキリトが宥めているのをBGMにしながら、シリカにメッセージを送る。

 

 

『シリカ、悪い。なんか訓練するとか言われた。強制的になもんで行くしかない。

迷宮攻略はすぐには無理だ。どうにかして時間潰しててくれ。埋め合わせは今度するよ』

 

 

返信はすぐだった。

 

 

『わかりました。強制じゃ仕方ありません。ちょっと下の層でピナと遊んでますね。

埋め合わせ、楽しみにしてます!最近時間があまり取れてないから、デートがいいです!ご検討、よろしくお願いします!

訓練頑張ってくださいね。シリカより』

 

 

ふむ、埋め合わせをどうするか考えながらやってりゃ訓練なんてすぐ終わるか?

 

 

 

そして、集合場所に指定されたグランザム西門で俺達はさらなる驚愕に襲われた。

ゴドフリーの隣に、ストーカーの野郎が立っていたんだ。………こいつの名前、なんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、髭。これはどういうことだ」

 

 

呆然としているキリトより先に回復した俺は、ゴドフリーを問いつめた。

 

 

「うむ、君らの間の事情は理解している。だが、これからは同じギルドの仲間。

ここらで過去の争いは水に流してはどうかと思ってな!」

 

 

………こいつは馬鹿なのか?人間関係のいざこざなんて、そう簡単に解消されるわけがないだろう。

たとえ今謝ったとしても、腹の中で何考えてるのかわかったもんじゃねぇぞ?

 

そんなことを考えていると、ストーカーがトロい動作で進み出てきた。

そして、身構える俺達を前に突然頭を下げた。

 

 

「………先日は……ご迷惑をおかけしまして……」

 

 

聞き取りづらい声でボソボソと謝辞を連ねる。

誠意が欠片も感じられねぇ。ここまで来るとすげぇな。

 

 

「……二度とあのような真似はしませんので……許していただきたい……」

 

「あ……ああ……」

 

 

唖然としたキリトが頷いた。

どう見ても状況に押されたとしか思えない。

 

 

ゴドフリーが、俺にも何か言えと言うように目を向けてくる。

 

 

「俺は、KoBの連中と―――特に、てめぇと馴れ合うつもりはない。

てめぇに頭下げられたところで何も感じないし、興味もない。

心のこもってない謝罪をするのは勝手だが、俺に反応を求めるな」

 

 

俺は、俺の思うままを言った。

どうせ、はなからKoBの連中を頼るつもりはない。

こいつらにどう思われようと知ったことか。

それに、こいつが何か企んでた場合、その対象をできるだけ俺に向けておく必要がある。

こいつをボコボコにしたのは俺だから恐らく大丈夫だとは思うが、ヘイト値を溜めておくに越したことはない。

本当に改心してたならその時はその時だ。俺がこいつに嫌われるだけ。何の問題もない。

 

 

「な、き、貴様!謝っている相手に向かって何という態度だ!クラディールに謝罪せい!」

 

 

ああ、こいつの名前クラディールだ。どうでもいい奴の名前を思い出しちまった。脳の容量の無駄遣いだな。

 

 

「うるせぇよ、脳筋髭達磨。人間ってのはそう簡単に割り切れるもんじゃねぇんだよ。

お前らが俺のことをどう思おうと好きにしろ。その代わり、俺に強制するな。

この訓練は参加してやる。だが、俺自身のことに関してお前らの考えを押し付けんじゃねぇ」

 

 

ゴドフリーに向かって吐き捨てる。

 

俺は、こっちに自分の考えを押し付けてくる奴は嫌いなんだ。そういう人間には碌な奴がいねぇからな。

 

ゴドフリーが憤慨している時に、もう一人のメンバーがやってきた。

 

 

メンバーが揃ったところでキリトが歩き出そうとするが、ゴドフリーが止めた。

 

 

「待て。今日の訓練は実戦に近い形で行う。危機対処能力も見たいので、結晶アイテムを預かる」

 

「………転移結晶もか?」

 

 

キリトが心底嫌そうに答える。

俺も全くの同感だった。結晶アイテムが手に入るようになってからは、それらが生命線だったからな。

 

 

「なに言ってんだ?実戦形式だっつーんなら、余計に結晶アイテム持ってなきゃダメだろ。

どういうタイミングで結晶を使うのか、正しい判断するのも実戦のうちだろ?」

 

 

俺の反論に、ゴドフリー――いや、髭達磨は舌打ちで答えた。

 

 

「チッ……。これだから実戦を知らない若造は……。結晶なんかに頼っとるから、いざと言う時アクシデントに対処できんのだ。

それに、今は私がリーダーだ。私の言うことに従ってもらおう」

 

 

………は?何言ってんだこの髭?お前の十倍は実戦経験積んでるってーの。

しかも自分がリーダーだから従えって……理論的な返しですらねぇし。

これは、一度従ったフリして補充しなおすのが正解かな。

 

 

「ケッ、わーったよ。渡しゃいーんだろ渡しゃあ。ホラよ。ポーチにも入ってねぇよ」

 

「ふん、最初から素直に渡しておればよいのだ。さあ、残りのお前達も早く」

 

 

偉そうに鼻を鳴らした髭は、他の三人にも催促する。

キリトは少し渋っていたが、ストーカーが渡しているのを見て、渋々渡していた。

 

 

「うむ、うむ。では行こう。出発だ!」

 

 

髭は満足そうに頷いて、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

迷宮区までの道のりは、キリトが速攻で敵を倒していた。

 

俺は、機を伺っていた。三人とも、戦闘中はキリトに気を取られて俺の行動に気づいていない。

ついてきているのがわかっているからいいようで、俺が変な動きをしてもこちらを気にしないのは確認済みだ。

 

 

 

――そして、迷宮区までの道のりを四分の三程来たところで。

 

……よし、きたぞ。敵がそこそこ多い。キリトなら瞬殺だが、それでも十数秒かかるだろう。

だが、援軍を求めるほどでもない。これなら、戦闘終了まで少々時間がかかりつつ、誰も俺のことを気にしない時間が長めに取れる。

この隙に――!!

 

俺は素早くメニューウィンドウを操作し、アイテムストレージを開いた。操作音も戦闘音に掻き消されている。

常日頃から、結晶アイテムをストレージの一番上に持ってきていたのが幸いした。

一瞬で解毒結晶、回復結晶、転移結晶を二つずつオブジェクト化して、ポーチにしまう。誰にも見られてない。これでひとまずは安心だ。

 

キリトが戦闘を終えて戻ってくる。ハイタッチを交わし、健闘を称える。

 

 

「お疲れキリト」

 

「この程度じゃ、全然疲れないけどな。早く終わらせたいよ、まったく」

 

 

キリトも、アスナとの攻略を邪魔されたとか、結晶を取られたとかで色々気が立っているみてぇだ。

いつもに比べて、発言に棘がある。

 

 

「……うむ。そろそろ迷宮区の入り口だ!そこで昼休憩とする!もう少し頑張るように!」

 

 

俺達の嫌味を完全に無視し、髭達磨が声を張った。

……頑張るほどじゃない、っていうのは言ってもいいことだろうか?ま、空気読んで止めとくけど。

 

 

 

髭が言っていた場所に着くと、皆思い思いの場所に座った。髭が昼食を投げ渡してくる。

喉が渇いていたのか、俺とストーカー以外の三人が水を飲んだ。

俺は、シリカの飯が食べれなかった苛立ちが半分と、ストーカーへの警戒心が半分で様子を見ていた。

キリトが水を口にしたのを見て、ストーカーの口の端が吊り上がる。

 

―――やっぱりか!

キリトが慌てて水を吐き出そうとする。

だが、一瞬遅く、三人が水の入った容器を地面に落とす。

俺は予想していたとは言え、その音に一瞬気を取られてストーカーから目を離してしまった。

 

 

「ヒィヤッハァッ!」

 

「なっ!?」

 

 

その隙を突かれて、俺は奴の攻撃を受けてしまった。腕にピックが刺さっている。

身体が動かなくなる――麻痺毒か!

HPバーを見ると、麻痺状態を示す緑色の枠に囲まれていた。

 

くそっ、しくじった!奴は、念のために麻痺毒を塗ったピックも用意していたのか!

しかも、これ―――!

 

 

「くく、気づいたか?」

 

 

俺が驚愕に目を見開いたのがわかったのか、奴が満面の笑みを浮かべる。

 

 

「ああ、聞いたことがある。―――これは、持続型麻痺毒だな?」

 

「はっ、物知りだなぁ!そうだ!そいつはピックに塗られた毒がなくなるか、ピックが抜けるまで麻痺を与え続ける毒さ!

しかも、ピックが抜けても毒は普通に続く!これで、一番厄介な奴は封じた!」

 

「お前、それどこで手に入れた?まさか、ラフコフか?」

 

「お、鋭いな……。そうさ、この麻痺テクと貴様に使用した毒は、そこで手に入れたモンだ……。

ま、首洗って待ってろよ。しっかり殺してやる」

 

 

俺に嬉しそうに講釈を垂れた後、意気揚々といった様子でゴドフリーの下へ歩いていく。

――って、あの髭、俺が時間稼いでやったのに解毒結晶使ってねぇのかよ!どこまで脳筋なんだ!

 

 

「ゴドフリー、何してる!速く解毒結晶を使え!」

 

 

キリトが叫ぶが、もう間に合わねぇだろう。……今ストーカーが、髭が取り出した結晶を蹴り飛ばし、ポーチに入っていた結晶も懐に入れた。

くそっ、あんな奴でも死なせたいわけじゃねぇってのに!身体が、動きづれぇ。

 

 

「んぐぐぐぐ……」

 

 

俺が必死にピックを取ろうとしている中、ストーカーはゴドフリーに両手剣を突き刺す。

 

 

「よぉゴドフリーさんよぉ!!アクシデントには対応できたかァ!?」

 

「やめろ、クラディール……一体どうしたんだ!?」

 

「ハッ、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが筋金入りだなぁオッサン!!この状況で理解できねーんならそのまま死ねぇ!!」

 

 

ストーカーが、剣を抜いて、刺す。

 

 

 

「ヒャハハハァッ!シナリオはこうだ!

俺達のパーティーは荒野で犯罪者プレイヤーに襲われぇ!」

 

「ぐわぁああ!」

 

 

引き抜いて、もう一度。

 

 

「応戦するも奮闘虚しく四人が死亡ぉ!」

 

「うぉぉおおおお!」

 

「ゴドフリー!」

 

 

キリトが叫ぶ。

今の一撃がクリティカルだったのか、今までより大きくHPバーが削れ、一ドットも残さずに消滅した。

ゴドフリーが、殺された。もう奴は戻ってこない。

くそが、ピックが腕に刺さってるせいで抜くのが至難の業だよこの野郎!

 

 

「俺一人になったものの見事犯罪者を撃退して生還しましたぁ!」

 

「うわぁぁあああ、やめてくれぇ!」

 

 

もう一人のKoBの奴が刺された。俺の動き的に助けられそうにねぇ。

 

 

「ちっくしょ、さっさと動け俺の左手」

 

 

だが、俺の足掻きも虚しく、そいつもそのまま殺された。

間に合わなかった。

ストーカーが俺の方を向く。俺の左手が右腕に刺さるピックに近づいているが、気にする様子はない。どうせ無駄だと高をくくっているのだろう。

 

 

「よお、あん時は世話になったなぁ。この瞬間を楽しみにしてたぜぇ?」

 

「へっ、無様に負けといて口だけは達者だな」

 

「き、貴様ぁ……!」

 

 

結局間に合いそうにねぇな。この毒無駄に強力だった。俺にできるのは目一杯の挑発かな。

 

と、その時、ストーカーの頬をピックが掠った。

―――キリト………!

 

 

「くそっ、外した……!」

 

「……あぁん?黒の剣士様は先に死ぬことをご所望なのかぁ?なら、先に殺してやるよ」

 

 

――キリトが作ってくれたこのチャンス!無駄にはしねぇ!

 

ピックを抜くことに全身全霊をかける。右手はすでにポーチの中の結晶を触ってる。

ピックさえ抜ければ俺の、いや、俺達の勝ちだ!

 

 

「ぐぅっ!」

 

「キリトぉ!」

 

 

こうして声に出して心配しておけば、奴はいい気になって俺のことを気にしないはずだ。

いや、心配なのは本当なんだが。

 

案の定、奴は高笑いしながらキリトに大剣を深く突き刺そうとする。

キリトも抵抗しているが、麻痺のせいで上手く身体が動かず、全体重をかける奴に少しずつ押し込まれていく。

 

 

――――だが、それもここまでだ!

 

俺の左手が刺さっていたピックを抜き去り、それと同時に、俺は触れるだけだった解毒結晶を右手で握りしめる。

キリトのHPバーが三割程に減っている。あいつ、思ったよりも攻撃力が高かったみたいだ。

俺は先ほどの自身の間抜けさを噛み締めつつ、高らかに叫ぶ。

 

 

「キュアー!」

 

「何ッ!?」

 

「遅ぇッ!!」

 

「ぐわぁッ!?」

 

 

俺の解毒結晶使用コマンドを聞きつけ、クラディールが振り返るが、もう遅い。

麻痺から回復した俺は一足で奴との距離を潰すと、お得意の《アーマーピアス》で大剣ごと吹き飛ばした。

 

さっさと殺してやりたいところだが、今はキリトの回復が先だ。

 

俺はポーチから回復結晶を取り出し、キリトの胸に押し当てて叫んだ。

 

 

「ヒール!」

 

 

回復結晶が砕け散り、キリトのHPが見る見るうちに回復する。

 

さてと……あのアホをぶちのめして――――ッ!?

 

 

俺は寒気を感じ、本能に従って振り返りながら《ヴァイヴァンタル》を横に構えて防御体勢を取る。

 

 

「ぐっ!?」

 

「はぁぁっ!!」

 

 

それは、恐ろしく重い一撃だった。

俺達が来た道から一迅の風が吹いたと思ったら、俺は弾き飛ばされていた。

こんなことできる奴、思い当たるのが数名しかいねえ。

 

 

「待てアスナ!俺だ!カイだ!」

 

「え?カイ?」

 

 

俺に攻撃をかまそうとした奴――アスナは、素っ頓狂な声を上げた。

 

何故アスナがこんな行動を取ったのか予想はつく。

今の俺はKoBの制服を着ている。

ストーカーが着ているものとはデザインが大分違うが、遠目ではそこまでわからないだろう。

さらに、俺はキリトの胸に手を近づけていた。

これも遠目に見たら、攻撃しているように見えるかもしれない。

まあそういうわけで、アスナが間違って攻撃してきてもおかしくはないが――。

 

 

「おう、俺だ。つーか、一撃が重過ぎる。死ぬかと思ったわ」

 

「あ、ご、ごめんなさい。てっきりキリト君を攻撃してる悪い奴かと思って」

 

「ま、誤解なのはわかってるからいいけどな。キリトは回復した。もう大丈夫だ。だが、今は―――」

 

 

俺は、こそこそ逃げようとしているストーカーを睨みつける。

アスナも俺の視線を追って気づいたのか、表情が一気に険しくなる。

 

 

「………カイ。わたしに、やらせて」

 

 

……この一言に、どれだけの感情が込められていたのか、俺には判断できなかった。

アスナの中で激情が渦巻いているのを感じ、ここはアスナに譲ることにする。

 

 

「わかった。……油断するなよ」

 

「何言ってるの?今のわたしが、そんなものするわけない」

 

 

怒りを湛えた静かな声が、この空間に響き渡る。

俺でさえ、一歩後退りそうになった。

 

 

 

 

ストーカーが何やら喚いていたが、アスナは聞く耳を持たなかった。

恐ろしい程に鋭い剣尖がストーカーに襲いかかった。

奴も両手剣で応戦するも、全く捉えきれていない。

アスナの攻撃は奴の身体に次々に傷を作り、奴はついに大剣を投げ捨てて喚いた。

 

 

「わ、わかった!!わかったよ!!俺が悪かった!!」

 

 

そのまま地面に這いつくばった。所謂、土下座だ。

 

 

「も、もうギルドも辞める!あんたらの前にも二度と現れねえよ!!だから――」

 

 

その聞く者を不快にさせる声を無表情で聞いていたアスナは、細剣を逆手に持ち替え、奴の背中目掛けて一気に振り下ろした。

その瞬間、ストーカーが一際甲高く喚いた。

 

 

「ひぃぃぃ!!死にたくねぇ―――!!!」

 

 

それを聞き、アスナの腕の振り下ろしが細剣が奴に刺さる寸でのところで止まる。

アスナの身体が、音が聞こえるんじゃないかってくらいぶるぶると激しく震えた。

今、アスナを大きな葛藤が襲っているのがまざまざと感じ取れた。

 

俺の記憶が確かなら、アスナはまだ殺しをしていない。

ラフコフ討伐作戦のときも、誰一人殺さずに無力化していたはずだ。

 

恐らくアスナは、あいつを殺してやりたいくらいの怒りと、あんなゴミでも人を殺す恐怖を同時に感じているはずだ。

それは、人間としては正しい反応だが―――今は、ダメだ。

今はその葛藤が、命取りになる。

 

 

俺が踏み出そうと身構える寸前、ストーカーの野郎が叫んだ。

 

 

「ヒャァァアアアアァァアア!!!!」

 

 

奴はいつの間にか握りなおしていた大剣を、いきなり振り上げる。

不意を突かれたアスナは対応できず、細剣を弾き飛ばされる。

 

体勢を崩したアスナの頭上で、奴の大剣が鈍く光った。

 

 

「アアアア甘え――――んだよ副団長様アアアアァァアア!!」

 

 

どす黒いライトエフェクトをまき散らしながら、大剣が振り下ろされる。

 

 

その時、驚くべき事態が起きた。

 

俺はすでに駆け出していた。

このままで確実に間に合って、アスナを助けて奴を殺せる。

そう考えていた俺の横を、キリトが追い抜いていった。

俺はキリトに解毒結晶は使っていない。使うタイミングがなかったからな。

つまりたった今、麻痺が解けたのだろうが、すでに走り出していた俺をキリトはどうやって抜いたのか。

そもそも、レベルの関係から俺の方がAGIが高いはずだ。

 

愛の力だろうか?本当に、不思議なことが起こるもんだ。

 

 

 

キリトは右手でアスナを突き飛ばし、左腕を頭上に掲げた。

 

――あいつ、左腕を盾にして奴を殺す気だな。

 

俺はさらにスピードを上げてキリトの下まで行くとキリトの襟を掴んで後ろに引き倒し、愛剣《ヴァイヴァンタル》を閃かせた。

 

―――こんなゴミを殺すために、キリトやアスナが手を汚す必要はねぇ。

―――こいつを殺すのは、すでに手が血に濡れている、この俺で十分だ。

 

深紅のライトエフェクトが《ヴァイヴァンタル》を包み、《ヴァイヴァンタル》が五本の紅い線を空中に描く。

 

短剣スキル五連撃技《ダンシング・ドール》。

強力な切断属性を備えた五連撃が、対象の右肩、左肩、右脚付け根、左脚付け根を胴体から切り離し、最後に胴体を上下に両断する。

 

これは本来、人型Mobを相手にした時に部位欠損を狙うスキルだ。

リザードマンとかだと、一撃で切り離せないこともよくあるからな。

 

それがまさか、人に使うときが来るとはな……。

 

 

俺の攻撃が奴の身体を軽々切断し、HPを削り切る。

最後に、奴が俺に向かってある言葉を呟いたが、そんなことは言われなくてもわかってる。

――俺は、立派な人殺しだよ。

 

 

 

 

 

 

クラディールが死んだ後、この場を重い空気が包んでいた。

 

アスナがよろよろとキリトに近づき、側にしゃがみ込む。

 

 

―――これ以上、ここにいるのは無粋だな。

 

 

「キリト、アスナ。俺は、本部に戻って今回のことを報告してくる。

ヒースクリフの野郎にも文句言っとくから、落ち着いたら来てくれ。

俺達の、一時脱退を認めさせよう」

 

 

二人が小さく頷いたのを確認し、俺は転移結晶を使う。

 

 

「転移。グランザム」

 

 

瞬間、俺の姿は掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒースクリフ、開けるぞ」

 

「…………君は、ノックという文化を知っているかね?」

 

 

扉を開け放って部屋の中に侵入してからそう宣った俺に、ヒースクリフがこめかみを引くつかせながら尋ねてきた。

でもなあ……。

 

 

「お前に払う礼儀なんてねぇだろ?」

 

「むぅ。そーゆーのはぁ、よくないんだぞぅ!」

 

 

………出たよ。豹変したヒースクリフ。

 

 

「……………お前さあ、どういう基準で態度変えてんの?」

 

「基本的に、ツッコミがいる時に変えているな。後は気分だ」

 

「迷惑っ!!すげぇ迷惑!!それって、俺への負担が大きいよな!?」

 

「気にしたら〜負けなのよぉ〜。ルルラララ〜」

 

「もはや誰だよ!?さっさと本題に入らせろ!」

 

「ふむ、了解した。カイ君、キリト君、アスナ君の一時脱退を認めよう」

 

 

その言葉で、俺の中の何かが切れた。

 

 

「………そこまで理解してんだったら最初から言えよ!

だいたいお前は皆に迷惑かけて―――――」

 

 

 

 

 

俺のシャウトが続くこと一時間。色々ヤバいことも言った気がするが気にしない。

精神的に喉が痛くなってきたところで、キリトとアスナがやってきたようだ。扉がノックされた。

 

 

「……ヒースクリフ。カイもいるかな?話がある」

 

「ほら、カイ君。見たまえ。キリト君はキチンとノックをしたぞ?

君と彼は幼馴染だそうじゃないか。どうして君だけがあんな風になってしまったんだい?」

 

「………いや、まずはキリトの応対しろよ。おう、入っていいぞ」

 

「なんで僕の代わりに君が返事してるのさ!ここは僕の部屋だよ!」

 

「せめて今くらいはキャラ保てよ!?一人称まで変わってんじゃねぇか!」

 

 

―――ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、結局俺達三人の一時脱退は認められた。

 

 

 

 

 

 

俺はキリト達と別れ、ホームに向かっていた。

あいつらも、いい雰囲気を醸し出していた。そろそろゴールインしてほしいんだが。

 

 

「ただいまー」

 

「あ、おかえりなさい」

 

 

帰宅した俺が玄関の扉を開けると、ちょうどシリカが廊下にいた。

装備も整ってるし……クエか何かか?

 

 

「どうした?これからクエストか?」

 

 

確かに時間的には、軽いクエストならこなせそうだが……。

 

 

「あ、いえ。そういうわけではないんですけど……」

 

 

そう前置きして、シリカは俺に説明を始めた。

その説明が終わった後、俺もシリカに事の顛末を説明したのだが……それはまあいい。

 

 

なんでもシリカは黒猫団から連絡をもらって、これから一緒に迷宮区に潜る事にしたらしい。

迷宮区で一日泊まりにするそうだ。

 

シリカと黒猫団は、俺経由でかなり仲が良くなっている。

特に、紅一点のサチと仲がいいな。数が少ない女性プレイヤーの仲がいいのは喜ばしいことだ。

 

だが、そうか。そういうことなら――。

 

 

「シリカ、俺も行っていいか?」

 

「はい、大歓迎です!ちょっと待ってください。今、連絡を――」

 

「いや、サプライズにしよう。あいつらも、俺がいきなり参加すると知ったら驚くだろうしな。

――あと、ダッカーを逃がさないためにも、俺が行くことは知らせない方がいい」

 

 

ダッカーは、相変わらず調子に乗っているらしい。

……いや、調子に乗っているというのは不適切な表現かもしれないな。

でも要所要所で気を抜くというか、詰めが甘いというか。

とにかく、奴には緊張感が足りない。

今回は、スパルタにしてやる。

 

 

「あ、あはは……。ダッカーさん、御愁傷様です……」

 

 

シリカが、ここにはいないダッカーに黙祷を捧げる。

………いや、シリカ?俺は別に、アイツを殺しに行くわけじゃないからな?

ま、いいけど。

 

 

「そうと決まれば、早速行こうぜ。待ち合わせはどこだ?」

 

「あ、七十五層の転移門前です」

 

「了解。なら、行こうか」

 

「はい」

 

「それと、これは埋め合わせにカウントしないから。

また後日、二人っきりでどこかに行こう」

 

「………はい。楽しみにしてますね?」

 

「おう。期待に添えるように頑張るよ」

 

 

俺とシリカは、桃色空間を形成しながら、手を繋いで転移門に向かって歩いて行った。

 

 

 

 

――待ってろよ、ダッカー。今日がお前の命日だ!

………いやまあ、冗談だけどな?




こんな感じになりました。

そして次回はオリジナルストーリー。
久々に黒猫団が登場します。
迷宮区でカイと黒猫団の愉快な掛け合いが始まる!
と、自分で煽ってみる。

その頃、キリト君とアスナさんはいい雰囲気を作ってるんでしょう。
そちらの描写は一切ありません。

というより、ここからしばらくキリト出てこないんじゃないかな……?
オリジナルストーリーが続くと思います。

確実にキリトが出てくると言えるのは、迷い子のところです。
あの話は、キリトとアスナの夫婦がいないと始まりませんからね。

では、感想などありましたらお願いします。
ありましたらっていうよりむしろ、積極的に書いて頂けると嬉しい限りです。
これからも楽しんでくださるよう頑張ります。応援、よろしくお願いします。
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