ちなみに主人公はコレが素です。
俺達は迷宮区に一番近い《トールバーナ》の町で飯を食うことにした。
会議までの時間つぶしだ。
アスナは三日間なにも食ってなかったらしい。そりゃ倒れるわ。
今キリトが飯を買いに行ってる。
俺達は待ってろと言われた。
何故この女と二人きりで待たされなきゃならないのか。キリトめ、後で覚えとけよ。
だが、何も話さないのも何かアレだし。
そう思い、俺はアスナに話しかける。
「なぁ、なんでお前あんなことしてたんだ?」
「……あんなことって?」
「死に急ぐようなことだよ。俺は強くなんのは悪いことじゃねえと思ってる。が、あそこまでリスキーにやる必要は無いはずだ。なんでだ?さっき言ってたこと以外にまだなんか理由あるだろ」
「……この世界で生きる意味を感じなかったから」
「なに?」
「だってそうでしょう!?わたしはここにいるのにそれは現実のわたしじゃない!唯のプログラムよ!なのに空腹感はある!ナーヴギアに作り出された空腹が!そしてそれは食糧を食べれば満たされる!唯のポリゴンデータの食糧を!食糧には味もある!味覚再生プログラムが再現した味が!全部偽物の虚構の世界!なのにこの世界で死んだら現実でも死ぬっていう!
……そんなの、耐えられないわよ……」
「…………それこそ生き残れよ」
自然と、言葉が口を突いて出た。
「……なんですって?」
「そんなにこの虚構の世界が嫌なら生き残ってみせろよ。こんなふざけた世界に俺達を叩き落とした茅場昌彦の世界をクリアしろよ。そして地べたを這い蹲ってでも現実を取り戻せよ。自分の力で道を切り開こうともしねぇで諦めてんじゃねぇよ。どーせ『このゲームはクリア不可能なんだわ』とか思ってんだろ。やってみてもいねぇくせによ。あー、やだやだ。いらつくんだよな、てめぇみたいな何もしねぇくせに口だけ達者なやつ」
「なによ!わたしだって最初は――」
「ちなみに!お前には素質がある。この世界をクリアして、現実を取り戻す力の素質が。自分で道を切り開くための力の素質が。誰もが持っているわけではない素質が。それをどうするかはてめぇ次第だ」
アスナの言葉を遮り、言いたいことを伝える。
そこでキリトが戻ってきた。
「なに?ケンカ?やめときなよ」
「そんなんじゃねぇよ」
「はい、アスナも」
「……どうも」
キリトが買ってきたのは黒パンだった。この町で一番安い飯だ。
「またこれかよ。ホントにこれ好きだよな、お前」
「おいしいだろ。え、カイこれおいしいと思ってなかったの?」
「いやうめぇと思うけどよ」
「ほらみろ」
「……あなたたち、これがおいしいとホントに思ってるの?」
「ん?ああ。思ってるよ。少し工夫するけどね。じゃ、いただきまーす」
俺とキリトはクリームを出して、パンに塗って食べる。
すると、アスナが興味深そうに見てくる。
「……なに?それ」
「あるクエストで手に入るアイテムだよ。塗って食べるとコレが意外とイケるんだ。いる?」
アスナはコクコクと頷くと、自分もクリームを塗って食べた。
慣れていないのか、使い方をキリトが指導したが。
「……おいしい……」
ガツガツ食い始めた。さっきまでの怒りが嘘のよう。
マジでなんだコイツ。
……いや、キリトの手腕がすごいってことにしとこう。
「……ありがとう」
「ん、どういたしまして」
アスナは礼を言うと、何か考え込み始めた。
その内容を予想して、聞く。
「で、どうだ?まだ死にたいとか思ってっか?」
「……いいえ。わたし、やるわ」
「そうか。キツいこと言って悪かったな」
「わたしこそ怒鳴って悪かったわ」
「ええ!?カイが謝った!?何したの!?」
「なんもねぇよ。それより、アスナ」
「なに?」
「お前をそこまで追い込んじまった責任は俺にもある。だからそれも謝っとく。悪いことをした」
「え?どういうこと?」
と、そこで鐘が鳴った。会議の時間だ。
「あー、おあずけだな。今度ちゃんと説明するわ。とりあえず行こうぜ」
俺達は広場に移動した。
広場に集まったプレイヤーは四五人。思ったより集まったな。
「はーい!それじゃ、五分遅れだけど始めさせてもらいます!」
中央にいるプレイヤーが手を叩いて呼びかける。
中々レベルがありそうだ。
「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人も何人かいると思うけど、改めて自己紹介しとこうと思う!俺は《ディアベル》、気持ち的に《
ハッ、騎士ねぇ。子供か。それに対して野次を飛ばす外野。ここは馬鹿の集まりか?
俺のこの会議への期待が一気に萎む。
「アハハ……。さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は――言わずもがなだと思う」
茶化していた奴らも黙り、話を聞く体勢だ。
ディアベルが堂々とした立ち振る舞いで続ける。
「今日、俺達のパーティーがボス部屋へと続く階段を発見した!」
その言葉に周りが沸く。
やっとか。予想より遅かったな。
まあ、安全マージンを慎重に確保した結果だろうが。
「一か月……ここまで辿り着くまで大分時間はかかった。だけど!俺達は示さなきゃならない!ボスを倒して第二層に到達して、このゲームをクリアできるんだってことを!はじまりの街で怯えてるみんなに!それがオレ達トッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」
非の打ち所がないってのは正にこのことって感じだな。立派立派。
周りのプレイヤーは立ち上がって拍手を送る。
そんな中――――
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
広場に男の声が響いた。
「そん前に、これだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」
唐突な登場だったが、ディアベルは顔色一つ変えずに、そいつを手招きした。
あいつ無駄にすげぇ。
「これって言うのは何かな?まあ何にしろ意見は大歓迎さ。でも、発言するなら名乗ってもらいたいかな」
「……フン」
そいつは鼻で笑って、中央の噴水に近づいていった。
頭がサボテンみたいだ。あだ名はサボテンに決定。
「わいはキバオウってもんや」
サボテンは名乗ったあと、集まったプレイヤーを見回した。
まるで睨みつけるかのように。腹立つなアレ。しかも一瞬だったが俺達を完璧に睨んだし。
んー……面識はねぇ。まあ、思い当たる節がないわけでもねぇけど。
「こん中に、五人か十人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるやろ」
「詫び?誰にだい?」
なんか決まってるポーズとりながら、ディアベルが軽く尋ねる。
様になってやがる。……イケメンも腹立つな。
「……ハッ、決まっとるやろ。今まで死んでいった二千人にや!奴らが――元ベータテスター共が何もかんも独り占めしたせいで、一か月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」
その言葉に、プレイヤー達が止まる。
サボテンはなお声を張り上げ糾弾を続ける。
「ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まった日にダッシュで消えよった。右も左もわからん九千何百人のビギナーを見捨てて、な。奴らは狩り場やらクエストやらを独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなってその後も知らんぷりや。……こん中にもおるはずや。ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略に加わろ思てる奴らが!そいつらに土下座さして、溜め込んだアイテムやら金やらをこん作戦のために軒並み出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預かれんし預けられん言うとるんや!」
サボテンが言い切り、もう一度プレイヤーを見回す。
……だが、誰も声をあげようとしない。声をあげることで元ベータテスターと同じ扱いを受けることを恐れているんだろう。当然の反応とも言えるな。
―――――――俺以外は。もうキレたぞ、俺は。
隣でキリトが気づいたのか、忠告してくる。
「カイ、やめとけ。今出てってもいいことがない」
「悪ぃなキリト、もうキレた。これ我慢とか無理だ。迷惑かけちまうかもしれねぇ、すまねぇ」
そう言い残し、俺は立ち上がって、こう言った。
「すげぇ面白ぇこと抜かしやがるなこのサボテン。てめぇの頭に脳味噌は入ってんのか?」
「な、何やと!?」
「耳まで腐ってやがるのかてめぇは。それとも理解する頭がなかったか?可哀想にな。面白ぇことを抜かすなって言ったんだ、俺は」
「……彼、いきなりどうしたの?」
「……キレたの」
アスナとキリトが話してるのを耳に入れながら歩き始める。
「今まで死んでいった二千人は、全てベータテスターのせい――まぁ、事実俺を含めベータテスターは我先にと飛び出していったからな、否定はできねぇよ」
広場の中央に辿り着く。
俺のベータテスター発言に驚きの声が漏れる。たった今糾弾されていたテスターだと名乗り出たんだ、無理もない。
が、それは無視して、文句を言おうとしているサボテンに言葉を叩きつける。
「だが、死んだ二千人のうちにテスターがいないとでも思ってんのか?だとしたら大層おめでたい脳味噌だな」
サボテンが押し黙る。それを一瞥して続ける。
「七百から八百――恐らくこれがこのゲームにログインしたテスターの数だ」
そして、指を三本立てる。
「二千中、約三百――それが死んだテスターの数だ。あの『鼠のアルゴ』に調べてもらったんだ。かなり正確だろうな」
『鼠のアルゴ』は恐らくこの世界初の情報屋だ。あいつは金になるものは何でも売る。自分のステータスだろうと売る。
その情報収集能力はかなり高い。信用できる。
その名を知っている者もいたらしい。小さくないどよめきが起こった。
「そ、それが何や!残りの千七百人はビギナーやろが!」
「はぁ、ここまで言ってわかんねぇとかマジで脳味噌入ってねぇんじゃねぇの?サボテンだし、中身は水か?」
「なにぃ!?」
俺は盛大なため息を吐き出してから続ける。
「これを割合に直せば、ビギナーの死亡率は約十八%。それに対してテスターは約四十%だ。これでもまだ言うか?」
周りの奴らが息を飲んだ気配がする。
キリトは知ってるはずだけどな。
「しかも、全員が全員、ビギナーを見捨てたわけじゃねぇ。――――誰かガイドブック持ってる奴いねぇか?」
「――こいつでいいか?」
なんかいい声した巨漢が歩み出てきた。
手にメモ帳サイズのアイテムを持っている。
「おう、そいつだ。さんきゅーな」
それを受け取り、
「……もしかして、あんたもなんか言いたかったか?」
「いや、大丈夫だ。俺の分も言ってやってくれ」
「あんたの分を超えて言っちまうかもなぁ?」
俺は笑いながらそいつと拳を合わせる。仲良くなれそうだ。
サボテンが訝しげに見てくるが無視。
「これは知っての通り、いろんな街で無料配布されてるやつだ」
気配を探ると、無料と聞いて動揺した気配がちらほら。
キリトだけじゃねぇな、金払ったの。御愁傷様だ。
事前にテスターから金が回収されるであろうことを予測していた俺は、、アルゴとの激しい交渉の末、無料でガイドブックを手に入れる権利を勝ち取っている。……一回切りだけど。
「貰たで。それが何やっちゅうんや!」
「はぁ……お前本当に頭スカスカなんだな。よく今日まで生きてたな。そこに感心するわ」
サボテンの頭に青筋が浮かぶ。それも無視。
「これに載ってる情報を提供したのはテスターだ。もちろん俺も提供した。ちなみにこれが無料で配布できてるのはテスターが金を払って購入してるからだ。それがなきゃ、こいつもタダとはいかなかったはずだ」
サボテンは言葉に詰まり、ナイトは後ろで得心がいったというように頷いている。
ざわめきが落ち着いてから、俺は続ける。
「つまり、アイテムや金はともかく、情報はあったわけだ。それなのに二千人も死んだのは、これは推測だが、その多くがベテランのMMOプレイヤーだったんだろ。恐らく、SAOを他のゲームと同じ扱いで挑んだんだ。引き際をわきまえず、な。確かに俺達テスターにも非はあるだろう。ねぇとは口が裂けても言えねぇ。だが、今その責任を追及する場合か?俺は今日、ここにいる奴らが俺達元テスターの扱いをどうするか決めるんだと思って来たんだがな」
俺の発言に周りが黙る。
まだ少しいらついてた俺は、サボテンに言い返すことにした。
「なぁサボテン。お前は、自分の経験のあるゲームが、始まったと思ったらいきなりデスゲームになって、自分が死ぬかもしれない状況で。見ず知らずのビギナーに気をかけてやるなんてことができんのか?当然できるんだよな?てめぇが糾弾したのはそんなことをした奴だもんな。自分ができねぇことを人様にやれなんて言うわけねぇもんなぁ?」
サボテンは何も言い返せず、顔を背けた。
「ハッ、結局自分が不利な状況からスタートしたから駄々こねてただけか。つまんねぇ奴」
俺の言葉にサボテンが感情に任せてなにか言い返そうとする。
俺は言わせずに、ここにきて爆弾を投下した。
「それと、一つだけ言っておく。そこのサボテンが最初、命は預かれねぇとか言ってたが……悪ぃな。
俺はてめぇみてぇな自分本位で頭も使えねぇ勘違い野郎に命預ける気はねぇんだわ。俺が命預けるのは俺が認めた奴だけだ。間違ってもてめぇには預けねぇから安心してくれや、残念サボテン」
全員が絶句している。全体をチラリと見渡すと、キリトだけ呆れた表情をしていた。
あとで謝んねぇとな。
「ついでに言っとく。元テスターとやっていけねぇって奴は邪魔だ。帰れ。死体が増えるのはさすがに俺でも気分が悪い」
トドメをさす俺の発言で爆発した会場を、ディアベルが必死になだめている。
圏内じゃなかったら斬りかかられてた可能性あるな、これ。
少しやりすぎたか。まぁ、反省する気はねぇが。
ディアベルが解散を宣言し、今日はお開きになった。
サボテンは真っ赤になって激怒している。新種のサボテンだな。
「なあ、あんた。ちょっといいか」
キリト達のところに戻ろうとしたら声をかけられた。
さっきガイドブックを貸してくれた奴だ。
「ああ、悪い。返すの忘れてた」
「いや、それはいいんだ。あんた何であそこまで言ったんだ?あそこまで言う必要はなかっただろう。それに、あんたは引き際を間違えるような奴には見えない」
この巨漢の意見は正論だ。
だが、人間正論だけではやっていけねぇもんだ。
「いらついたんだよ。端から俺達テスターが悪いと決めつけて、偉そうに見下して命令してくるあの態度に。『自分はこう感じてるがどうか』みたいな提案する態度だったら俺だってあそこまでケンカ腰にならねぇよ。でもまぁ、結局俺の我が儘だから何言われてもしょうがねぇが」
「そうか……。一応俺は言い過ぎだと思った、とは言っておく」
「おう、わかった。あんたの意見として受け取っとく」
「俺の名前はエギルだ。あんたは?」
「俺はニューカイ。カイって呼んでくれ。でもいいのか?俺と仲良くしてると、周りから反感買うかもしれないぜ」
「言い過ぎだとは思うが間違ったことを言ってるとは思わないからな。避ける必要がない」
その返しに、俺の顔に笑みが浮かぶ。
やっぱり、こいつとは仲良くなれそうだ。
「そうか。俺も間違ったことを言ったとは思ってねぇしな。あんた
「ああ、やるつもりだが。それがどうかしたか?」
「なら、あんたには命を預ける。頼んだぜ、エギル」
「……ほう。俺は認めてもらえたという認識でいいのか?」
「ああ、自分を強く持ってるみたいだからな。そういう奴は信頼するに値する」
「そうか。わかった。じゃあまた後日な」
「おう。そんときゃよろしく頼むぜ」
「任せとけ」
再びエギルと拳を打ち合わせ、キリト達のところに戻った。
二人とも俺のこと待っててくれたみたいだ。感謝。
「ただいまー」
「カイ、あれは言い過ぎだ」
「悪い。でも、間違ったことを言ったとは思わない。だから反省はしないぞ」
「いや、反省はしろよ。後悔はしなくていいけど」
へいへい。
「ところで、あの人と何を話してたの?」
「ん?ああ、さっきのことをちょっとな。アスナは俺に言いたいこととかねぇのか?文句とか」
「ないわよ。あなたのは正論だったもの」
「そうか。なら最後に一つ。俺と行動してると周りから反感買うと思うが……本当にいいのか?」
「何言ってんだよ。今更あの程度で俺がお前を見限ると思うか?これからも頼むぜ、相棒」
「正論を述べた人に対して理不尽に怒る人達なんてこっちから願い下げ。まあ、言い過ぎだとは思ったけどね」
「……そうか。二人ともこれからもよろしく頼む」
会議は(主に俺のせいで)散々な結果に終わったが、俺達は信頼を深めることができた。
なんと、主人公は頭もよかったのです。
考察でも活躍してくれるはずです。きっと。多分。