黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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お久しぶりです。
リアルが忙しかったです!某試験とかで。

というわけで、お待たせしました。
どうぞ。


第二十二話 森の迷子①

 

攻略から離れて七日目の午前中、キリトから妙なメッセージが届いた。

 

 

『相談したいことがある。可能な限り早く俺とアスナの家に来てくれ』

 

 

…………何かあったのか?一応シリカの意見も聞いてみるか。

 

 

「シリカ、どう思う?」

 

「そうですね……キリトさんが冗談でこういう文面を書くとは思えませんし、行くべきだと思います」

 

「やっぱりそう思うか。念のため、シリカが一緒でもいいか訊いておこう」

 

 

『シリカも一緒でいいのか?』

 

『ああ、そうしてくれ』

 

 

すぐに返事が返ってきた。

 

 

『わかった。今から向かう』

 

『助かる。走ったりする必要はないから』

 

『あいよ』

 

 

ウィンドウをシリカにも内容が見えるようにしておいたから、いちいち言葉にして伝える必要はない。

 

 

「んじゃま、朝飯も終わってることだし、行きますか」

 

「そうですね」

 

 

俺とシリカは連れ立って家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、どんな用なんでしょうね?」

 

「さあな。見当もつかねぇや」

 

 

二十二層の転移門からキリトの家を目指して歩く。

さっぱり見当がつかないが、まあ行けばわかるだろ。

 

 

 

 

 

キリト達の家の呼び鈴を鳴らす。

鳴らすと言っても、中にいる住人に音とウィンドウで知らせるだけだ。家に呼び鈴の音が響き渡るわけじゃない。

 

 

「よく来たな、カイ、シリカ。入ってくれ」

 

「おっす、キリト。上がらせてもらうぜ」

 

「お邪魔します」

 

 

呼び鈴を鳴らした数秒後、キリトが俺達を出迎えた。

俺はこの家に来るのは初めてだな。場所は教えてもらってたけど。シリカはつい先日アスナに調味料の作り方を教わるときに来てるはずだ。

内装は住人のセンスの良さが出てるな。アスナのだと断言できるが。

 

 

 

 

俺達をリビングに招き入れると、キリトがこっちに振り返った。

 

 

「んで?何の用だよ?」

 

「それなんだが……こっちに来てくれ」

 

「「?」」

 

 

キリトに尋ねると、少しだけ言いにくそうにしながらも俺達を一つの部屋に誘導する。

俺達は疑問に感じながらも、キリトの後についていく。

 

ここは……?

 

 

「えっと……少し驚くかもしれないけど、声は出さないようにしてくれ。この後全部話すから」

 

「よくわかんねぇが……わかった」

 

「わかりました」

 

 

釈然としない言い方だが、キリトが意味もなくこんなことを言うわけがないからな。

俺達が頷くのを見ると、キリトはその部屋の扉を開けた。

 

そこは寝室で、二つのベッドが扉に対して横向きに並んでいる。

 

そのうちの一つ―――手前側に少女が寝ていた。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

俺達は驚愕するが、先ほどキリトに言われたことを思い出し声は出さない。

しかし……掛け布団の膨らみから判断するにあの子、十歳いってるかどうかって年齢だぞ?そんな子を、どうしてキリト達が……?

と、まあいい。この後話してもらえるって言ってたからな。

 

キリトは扉を閉めると、俺達をリビングのソファーに座るよう促した。

 

 

「じゃあ、話してくれるか?」

 

「もちろんだ。実は――」

 

 

 

 

 

「――というわけだ」

 

「今の話をまとめると……あの子の名前はユイ。昨日キリト達が散歩していた時に、あの子が倒れるのを見てひとまずこの家に連れてきた。記憶障害が出ているのか、自分の名前以外は思い出せていない。また、精神にダメージを受けたのか、退行が起きている様子もある。ユイはキリトのことをパパ、アスナのことをママと呼んでいると」

 

「そうだな」

 

「んで、キリト達はこの後ユイを連れてはじまりの街で情報とかを探すつもりだったってわけだな」

 

「ああ」

 

 

取り敢えず情報はまとめ終わったかな。あと気になるのは……。

 

 

「ユイに()()()()()()()()()()()ってのは本当か?」

 

「……ああ、本当だ」

 

「……バグか?」

 

「……わからない」

 

「ま、だろうな」

 

 

カーソルが出ない。そんな現象、俺は知らない。

このSAOでは動的オブジェクトはターゲットした瞬間に必ずカーソルが表示される。

それが出ないということは、何らかのバグが発生したということだろう。

 

 

「なるほど、話はわかった。それで、俺達に何をしてほしかったんだ?」

 

 

キリトが俺達を呼んだのは、話を聞かせたかったからじゃないはずだ。

 

 

「まず、意見がほしい。これからの行動に関して。それと、こっちはできればなんだが……ユイの親探しを協力してくれないか?カイがいてくれると心強いんだけど……」

 

「期待は嬉しいが……行動に関しては特に言うことはねぇな。俺もそれが最善だと思う。協力に関しては俺はいいぞ。俺達も攻略を休んでて時間はあるしな。シリカは?」

 

「あたしもいいですよ。あの子のことも心配ですし……」

 

「なら、俺達は協力できるな。それでいいか?」

 

 

キリトに確認すると、キリトは頷いた。

 

 

「ああ、助かるよ。昼飯は食べてってくれ。アスナ、大丈夫だよな?」

 

「うんー、大丈夫だよー」

 

 

キリトが昼食の準備をしているアスナに確認すると、多少間延びした返事が返ってきた。

 

アスナは何かのウィンドウを操作していた。あれは多分、料理を作るためにタイマーを作動させたんだろう。

それで準備を終えたのか、アスナがこっちに来てキリトの隣に座った。

 

 

 

 

その後俺達が近況を話してあっていると、不意に寝室のドアが開いた。

 

 

「パパ……ママ……?」

 

「あっ、ユイちゃん!」

 

 

寝ぼけ眼を擦り、寝室から出てきたユイにアスナが駆け寄る。

アスナを見上げたユイの顔が、俺を視界に捉えた途端軽く強張った。

アスナの服をしっかり掴み、背後に隠れて顔を半分だけ出して俺達の様子を伺うようにする。

 

 

「ママ……そのひとたち、だれ?」

 

 

どこか覚束ない口調で、ユイは困惑した声をあげる。確かに、幼児退行が起こっているような話し方だな。

 

 

「この人達は、ママとパパのお友達なのよ」

 

「おともだちって……なに?」

 

 

その発言に、少し疑問を覚える。

普通、精神的なショックによる記憶障害などでは、自己に関する記憶を失うことはあっても自分の蓄えてきた知識もまとめて忘却することは少ないはずだ。

まあ、俺の医学知識なんてにわかだから断言はできないが……。

 

 

取り敢えず今はこっちだな。

 

 

「友達ってのは、お互いに助け合える素晴らしい関係のことだ。ま、俺達以外の全員にも当てはまるとは言えないかもしれねぇけどな」

 

 

俺が答えると、ユイがビクリと震えた。

あ、ヤベ。

 

 

「怖がらせちまったか?ごめんな。そっちに行っていいか?」

 

 

刺激しないように穏やかな声音でユイに話しかけると、ユイは恐る恐る頷いた。

俺はソファから立ち上がりユイの目の前に行くと、目線をユイに合わせる。

 

 

「俺の名前はニューカイ。パパとママのお友達だ。呼びやすい呼び方でいいからな。よろしく」

 

 

手を差し出すと、ユイは俺の顔と手を交互に見てから、俺の手を握ってくれた。

 

 

「君の名前を教えてもらっていいか?」

 

「……ユイ」

 

「そうか、ユイか」

 

 

もちろん名前はすでに知っているが、これはコミュニケーションの一環だ。こういうやり取りから大事にしていかないとな。

 

 

「ユイ、もう一人紹介するよ。シリカ」

 

「はい」

 

 

シリカもこちらに歩み寄ってきて、ユイの前でしゃがんだ。

 

 

「シリカです。あたしもママとパパのお友達。よろしくね」

 

「にゅあい、しい、か」

 

「難しかったかな?何でも、好きなように呼んで?」

 

「そうだな………お兄ちゃん、お姉ちゃんとかでもいいぞ?」

 

「……にいちゃ?」

 

「ん?おう、それでいいぞ」

 

「ねえちゃ……」

 

「うん、ねえちゃだよ」

 

「――にいちゃ、ねえちゃ!」

 

 

ユイの顔に笑顔が戻った。さっきから強張ったままだったからな。よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を終えた俺達は、はじまりの街に転移してきていた。

昼飯の時に、ユイが俺とキリトが食っていた激辛サンドイッチに興味を示したりっていう面白いことがあったけど、割愛な。

 

問題は、その後だ。

ユイを着替えさせるため、ユイにメインメニューを出してもらおうとしたんだが……。

普通、右手を下に振るとメニューが出る。が、ユイは左手を下に振って出した。

しかも、メニューにあるはずのHPバーもEXPバーも存在しなかった。

 

いくらなんでもバグが多過ぎる。これは、本当にバグなのか?そんなことを思ったが、確認する術はない。

取り敢えず今は、ユイのために頑張ろう。

 

 

 

 

 

俺達ははじまりの街に来ていた。

 

はじまりの街は軍のテリトリーだ。俺達はすぐに武装できる準備をしている。

 

 

「ユイちゃん、見覚えのある建物とか、ある?」

 

「うー……」

 

 

アスナが、キリトが抱きかかえてるユイに尋ねていた。

もしかしたら記憶が戻るきっかけになるかもしれないしな。

 

しかし、ユイは首を横に振った。

 

 

「まあ、はじまりの街は恐ろしく広いからな。取り敢えず、中央市場に行ってみようぜ」

 

「そうだね」

 

「おう」

 

「はい」

 

 

俺達は頷き合って、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ここって今何人くらいのプレイヤーがいるんだっけ」

 

 

アスナが不意に疑問を呈した。

 

 

「生き残ってるプレイヤーが約六千で、そのうちの三割ほどがここにいるらしいから……二千弱ってところじゃないか?」

 

「俺もキリトの意見が正しいと思うが……にしては人が少ねぇな?」

 

「そう言われるとそうですね……マーケットに集まってるんでしょうか?」

 

 

まあそれはそうと……誰かに訊くか。

 

 

「なあ、オッサン」

 

 

通りの中央にある大きな木を真剣な顔で睨みつけている男に、近よって声をかけてみる。

 

 

「なんだよ」

 

 

無愛想な声が返ってきた。

 

 

「この辺に、訊ね人の窓口になってるような場所に心当たりねぇか?」

 

「あ?あんたら、よそ者か」

 

「ああ。その子の保護者を探してんだ」

 

 

俺達をジロジロと眺め回してそう結論づけた男に、ユイを指し示しながら訊く。

 

男はチラリとユイを見やり、一瞬目を見開いた後にすぐに視線を梢に戻した。

 

 

「迷子かよ、珍しいな。……東七区の川べりの教会にガキのプレイヤーがいっぱい集まって住んでるから、行ってみな」

 

「お、有益そうな情報サンキュー。こいつは情報料だ。受け取ってくれ」

 

 

俺は五百コルを男に渡した。

男は目を見開き、動揺しながらも受け取った。

 

 

「お、おう……ありがとよ」

 

「んじゃ」

 

「お、おう」

 

 

俺は男に軽く手をあげると、五人の下に戻った。

 

 

「ってことらしいから、早速行こうぜ」

 

「あ、ああ」

 

「カイ、あの声の掛け方何なの?」

 

「あ?いいじゃねぇか、結果情報手に入ったんだし」

 

「いや、それはまあ結果オーライな感じはしますけど……」

 

 

三人から微妙な顔をされた。そんな酷かったか俺?いや、今回俺は悪くないと思う。そう思おう。

 

 

「あっとそうだ。オッサン、人がいない理由も知ってるか?」

 

「それならいないわけじゃないぜ。皆宿屋に引き蘢ってんのさ。昼間出歩くと軍の徴税部隊という名のカツアゲ隊に出くわすかもしれないからな」

 

「そういうことか。あいつら好き勝手やってんだな。情報料追加だ。ほい」

 

 

俺は三百コルをオブジェクト化して、男に放り投げた。

 

 

「ありがとよ。これで大分食いつなげるぜ」

 

「おう。それじゃあな。情報助かった」

 

 

 

 

 

 

 

俺達はマップに従い東七区を目指して歩いてきて、ここが東七区のはずだが……。

 

 

「教会ってどこだ?」

 

「あ、あそこじゃない?」

 

 

今はユイを抱きかかえているアスナが視線で示した先には、十字に円を組み合わせたアンクが輝いていた。

あれはビンゴだな。

 

 

「お、あれだな」

 

「そうですね」

 

 

教会に向かって歩き出した俺達を――正確にはキリトを、アスナが呼び止めた。

 

 

「ち、ちょっと待って」

 

「ん?どうしたの?」

 

 

キリトが振り返ってアスナに訊き返す。

俺とシリカは軽く頭を後ろに向けて二人を見ていた。

 

 

「あ、その……もしあそこでユイちゃんの保護者が見つかったら、ユイちゃんを……置いてくるんだよね……」

 

 

俺はその言葉を聞いて、何となく感づいていたことを確信した。

やはりアスナは、ユイの記憶が戻るまでずっと面倒を見たいと思っていたんだろう。

しかし、それをするとユイが解放されるのも遅くなる……ジレンマってやつか。

 

 

キリトが慰めてるし、ここは俺が関与するところじゃないだろう。

 

 

 

 

 

俺達は、教会の前まで来ていた。

この教会は小さめだな。二階建てだ。まあここには教会がいくつかあるし、こんなもんなのかね。

 

アスナが扉を少し開いて中の様子を覗いているが……少なくとも見える範囲にはいねぇ。

 

 

「あのー、どなたかいらっしゃいませんかー?」

 

 

アスナの呼びかけにも応える姿はない。

誰もいねぇのか……?

 

 

「誰もいないのかな……?」

 

 

アスナも同様の疑問を感じたらしい。

だが、キリトが否定した。

 

 

「いや、人がいるよ。右の部屋に三人、左に四人。二階にも何人か……」

 

「……索敵スキルって、壁の向こうの人数までわかるの?」

 

「俺も初耳だ……」

 

「え、カイさんもですか……?」

 

「熟練度九八〇からだけどな。便利だから皆もあげろよ」

 

「あ、俺もう少しだ。確か今九七六だったはずだし」

 

「二人ともおかしいわよ……あんな地味な修行、発狂しちゃう」

 

「同感です……」

 

 

確かに索敵スキルの修行は地味の極致って感じだ。俺も苦労した。ぶっちゃけもうやりたくない。しかしコンプしたい。ジレンマ。

 

 

「それにしても、何で隠れてるのかな……」

 

 

アスナが教会内部に静かに足を踏み入れた。そして、さっきよりも大きな声で呼びかける。

 

 

「あの、すみません!人を探してるんですが!」

 

「……《軍》の人じゃ、ないんですか?」

 

 

すると右側の扉が僅かに開き、その向こうから女性の声が響いてきた。

 

 

「違いますよ、上の層から来たんです」

 

 

俺達は、戦闘用装備は何も着けていない。軍の連中はユニフォームとして重装備の鎧を着込んでるから、違うとわかってくれるだろう。

 

ドアがさらに開き、奥から暗い色の髪をした女性が出てきた。

黒縁の眼鏡をかけ、手には鞘に収められた短剣を持っていた。

 

 

「えっと……では、奥にどうぞ……」

 

「あ、はい。お邪魔します」

 

 

 

 

 

「それで……人を探してらっしゃるということでしたけど……?」

 

 

礼拝堂の右にある部屋に案内された俺達は、出されたお茶を一口飲んでから切り出した。

 

 

「あ、はい。わたしはアスナ、この人はキリトといいます」

 

「俺はニューカイ。カイって呼んでくれ」

 

「あたしはシリカです」

 

「あ、ごめんなさい、名前も言わずに。私はサーシャです」

 

「で、この子がユイです」

 

 

アスナが膝の上で眠るユイの頭を撫でながら紹介した。

 

 

「この子、二十二層の森で迷子になってたんです。記憶を……なくしてるみたいで……」

 

「まあ……」

 

 

サーシャが眼鏡の奥で目を見開いた。

 

 

「装備も服だけで、上層で暮らしてたとはとても思えなくて……。それで、はじまりの街に保護者とか……この子のことを知ってる人がいるんじゃないかと思って、探しに来たんです。で、こちらの教会で、子供たちが集まって暮らしていると聞いたものですから……」

 

 

アスナのわかりやすい説明を受けて、サーシャは机に視線を落として、思考をまとめながら話し始めた。

 

 

「私たち、二年間ずっと、毎日一エリアずつ全ての建物を見て回って困っている子供がいないか調べてるんです。ですから残念ですけど……はじまりの街で暮らしてた子じゃないと思います」

 

 

と、その時。部屋の扉が勢いよく開き、数人の子供たちが雪崩れ込んできた。

 

 

「サーシャ先生!大変だ!」

 

 

ただならぬ様子だ。

 

 

「こら、お客様に失礼でしょ!」

 

「それどころじゃないんだ!ギン兄ィたちが、軍の奴らに捕まっちゃったよ!」

 

「なんですって!?」

 

 

これは……カツアゲ隊のことか!

この人達の中には、サーシャを初めとしてこの辺のフィールドなら問題なく稼げる人もちらほらいるようだし、はじまりの街にいる他の連中よりも稼いでるんだろう。

格好の獲物ってわけか。

 

 

「場所は!?」

 

「東五区の道具屋裏の空き地。軍が十人くらいで通路をブロックしてる」

 

「わかった、すぐ行くわ――すみませんが……」

 

「俺達も同行するぜ。力になれるはずだ」

 

 

俺の提案に、サーシャはわずかに逡巡したものの頷いた。

 

 

「――ありがとう、お気持ちに甘えさせていただきます」

 

 

サーシャは深く頷いて、眼鏡を押し上げて言った。

 

 

「では、すみませんけど走ります!」

 

 

教会から飛び出したサーシャを追って、俺達も走りだす。

大勢の子供たちも付いてきていた。

 

 

 

 

 

 

件の路地を塞ぐようにして、軍のプレイヤーが少なくとも十人は立っていた。

サーシャは躊躇せずに路地に駆け込み軍の連中の手前で足を止め、連中を睨みつける。

軍のプレイヤー達が振り向き、にやにや笑った。

 

 

「お、保母さんの登場だぜ」

 

「……子供たちを返してください」

 

「人聞きの悪いこと言うなって。すぐに返してやるよ。社会常識ってもんを教えてやったらな」

 

「そうそう。市民には納税の義務があるからな」

 

 

連中が、ガハハハハ、と耳障りな笑い声を上げる。

サーシャの拳が怒りでブルブルと震えた。

 

 

「ギン!ケイン!ミナ!そこにいるの!?」

 

「先生!先生……助けて!」

 

 

サーシャが路地の奥に呼びかけると、怯えた少女の声が返ってきた。

 

これは……見過ごせねぇなぁ……声から察するに、小学校高学年ってとこか?

いやはや、軍の連中は胸糞悪ぃことしてくれんねぇ……。

 

 

「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

 

「先生……お金だけじゃダメなんだ……!」

 

 

……もしかして、装備も剥ぎ取ろうとしてんのか?幼いと言っていい女の子もいるのに?

ほぉほぉほぉ……こいつら俺の神経を逆撫でするの上手いなぁ……。

 

 

「そこをどきなさい!さもないと……」

 

「さもないと何だい?あんたが代わりに税金を払うかい?」

 

 

圏内では、犯罪防止コードの働きのためにプレイヤーを無理矢理動かすことはできない。

その性質を利用して、通路を塞いで閉じ込める《ブロック》や複数人で直接取り囲む《ボックス》などの悪質なハラスメントが存在することになっている。

 

……まあ、そんなもんは地面を移動する時の話だがな。

 

 

「キリト、行ってこい」

 

「アスナさん」

 

「うん。行こう、キリト君」

 

「ああ」

 

 

二人は力強く頷き、無造作に地面を蹴った。

 

高いステータスを存分に活かした二人は軽々と男達の頭上を飛び越え、向こう側に降り立った。

これであっちは大丈夫だろう。様子は見えねえけど。

 

さて、こっちだな。

 

 

「……シリカ、ちょっといいか?」

 

「はい、なんですか?」

 

 

小声でシリカに話しかける。奴らはキリト達に気を取られているから気づかれることはないはずだ。

 

 

「ちょっとキレちゃったから、協力してくれね?」

 

「……何をするのかは大体予想が付きますけど。一応聞かせてもらっていいですか?」

 

「俺達二人で通路を塞ぐようにして立って、逃げ出してくる奴をボコる」

 

「はい、わかりました。まああたしも、あの人達がやってることには怒りが湧きますし……いいですよ」

 

「助かる。サーシャ、下がっててくれ。多分そろそろ……」

 

 

うわぁぁああああ!!という悲鳴が聞こえてきた。

やっぱり向こう側の奴が怒らせたか……あの攻撃感覚の短さは、アスナだな。

 

 

何度か言ったと思うが、圏内で攻撃されてもダメージは通らない。が、衝撃は通る。

しかも、その衝撃はプレイヤーのパラメータとスキルの上昇度によって大きくなっていく。

アスナほどのプレイヤーの攻撃なら相当だろうな。

 

 

「う……うわあああああ!!」

 

「おっと、どこに行くつもりだ?」

 

「ッ!?」

 

 

向こうで男の一人が何か叫んでたようだから、抵抗するように言ったんだろう。

こいつらは、恐れをなして逃げ出そうとしたんだろうが……そうは行かねぇぞ?

 

 

「オイオイ、逃げられると思ったか?あんなことしようとした奴らを、みすみす逃がすわけねぇだろうが」

 

「な、何……!?」

 

「ここを通りたければ、俺達を倒して行けってな」

 

 

二人で完全に塞げるほど通路は狭くないが、こいつらの重装備で抜けるのは困難ってくらいには塞げる。

俺とシリカは短剣を構えて、相手の動きを待った。

 

ついでに俺は挑発もしておく。

 

 

「おいおいまさか、軍のプレイヤーともあろう奴らがそんな重装備で、短剣しか持ってない子供二人に怖じ気づいてんのか?」

 

 

嘲笑ってやると、奴らは顔を真っ赤にして武器を構えた。

 

 

「く、くそおおおおお!!」

 

「もっとちゃんと狙えって。おらぁぁああああ!!」

 

 

抑えていた怒りを爆発させ、《アーマーピアス》を撃つと同時に一気に解放した。

子供たちが味わった恐怖の、一割でも味わいやがれ!

 

 

「はああああ!!」

 

「ぐわあああ!」

 

 

シリカも向かってきた相手を吹き飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 

数分後。

軍の連中は全員地に倒れ伏していた。

 

大活躍したアスナに子供たちが群がっている。

ま、かっこよかっただろうしな。

 

 

「みんなの……みんなの、こころが」

 

 

その時突然、目を覚ましたユイが宙に視線を向け右手を伸ばした。

 

 

「みんなのこころ……が……」

 

「ユイ!どうしたんだ、ユイ!」

 

 

ユイの手を伸ばす先を見据えるが、そこには何もない。ユイは、何を見ているんだ!?

 

 

「ユイちゃん……何か、思い出したの!?」

 

 

アスナがユイに駆け寄り手を握って問いかける。

 

 

「……あたし……あたし……ここには、いなかった……。ずっと、ひとりで、くらいとこに……」

 

 

ユイは眉根を寄せ顔を顰め、何かを思い出そうとするかのようにしている。

と――。

 

 

「うあ……あ……あああああ!!」

 

 

突然、ユイの口から苦しそうな悲鳴が迸った。

 

 

「ぐっ……!?」

 

「何……これ……!?」

 

 

それと同時に、耳障りなノイズじみた音が響く。

俺は思わず耳を塞ぎ、それでもユイの様子を確認しようと目を向ける。

ユイの身体は、壊れそうな勢いで激しく振動していた。

 

 

「ゆ……ユイちゃん……!」

 

「ママ……怖い……ママ……!!」

 

 

アスナはキリトの腕からユイを抱き上げ、胸に抱えた。

 

 

数秒後、その現象は収まり、ユイの身体から力が抜けた。

 

 

「何だよ……今の……」

 

「くそっ、なんだってんだ……」

 

 

俺とキリトの小さな呟きが、空き地に嫌に大きく響いた。

 

 





どうでしたか?
あまりオリジナル要素入れられませんでした……。
次の話は少しは入れられると思います。

感想などありましたら、どしどしお願いします(ぶっちゃけなくても捻りだして頂けると嬉しいですw)

では、また次回。
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