………えー、お久しぶりです。
前回の投稿から二か月も経ってしまいました。なんかもう色々とすみません。
それに前回、今回はちょっと短くなるかもと言いました。嘘でした。別に短くありません。
今回、以前に放置していたある事柄に触れます。
びっくりする……していただけたらいいなぁ……(弱気)。
では、どうぞ。
俺とシリカを他人行儀な呼び方で呼んだユイに付いていき、俺達は安全地帯に入る。
ユイは部屋の真ん中に鎮座している石のようなものに腰掛けた。キリトとアスナがユイの目の前にしゃがみ込み、俺はキリト達の右後ろで壁に寄り掛かる。シリカが不安そうな表情で俺の手を握ってきた。
ユイは表情に翳りを見せたまま沈黙を貫いている。アスナが意を決したように、ユイに話しかける。
「ユイちゃん……。思い出したの……?今までのこと……」
それでもユイはしばらく俯き続けていたが、ついにこくりと頷く。泣き笑いのような表情のまま、小さな唇を開く。
「はい……。全部、説明します――――キリトさん、アスナさん」
その丁寧な言葉を聞いた途端、アスナとキリトの表情が悲しみに歪む。
二人とも、確信してしまったんだろう――何かが終わってしまったという、切ない確信を。
ユイは俺達の名前も呼んでくれる。
「カイさんとシリカさんも、聞いてくれますか?」
「ああ、もちろんだ」
「はい」
俺達に視線を向けて訊ねてくるユイに、しっかり頷きを返す。
それを受けて一つ頷くと、ユイは語り始めた。
「《ソードアート・オンライン》という名のこの世界は、一つの巨大なシステムによって制御されています。システムの名前は、《カーディナル》。それが、この世界のバランスを自らの判断に基づいて制御しているのです。カーディナルはもともと、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました。二つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、さらに無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する……。モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています。――しかし、一つだけ人間の手に委ねなければならないものがありました。プレイヤーの精神性に由来するトラブル、それだけは同じ人間でないと解決できない……そのために、数十人規模のスタッフが用意される、はずでした」
ユイの話を聞いて、俺はユイの正体を理解した。――理解してしまった。
「GM……」
キリトがぽつりと呟く。だがキリト、それは見当違いだぜ。
「ユイ、つまり君はゲームマスターなのか……?アーガスのスタッフ……?」
「いいや、恐らく違うな。俺の予想が正しければ、ユイは――――」
俺はキリトの予想を否定し、ユイに視線を向ける。自分で言うのかを問うために。
はたしてユイは、しっかりと頷いた。
「……カーディナルの開発者達は、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したのです。ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情をモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーのもとを訪れて話を聞く……。恐らくカイさんの推察通りでしょう。《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、MHCP試作一号、コードネーム《Yui》。それがわたしです」
やはり……そうだったか。確かに最初から違和感はあった。確信を持てたのはさっきのユイの話でだが。
アスナは驚愕が大きすぎたようで、掠れた声でユイに問いかける。
「プログラム……?AIだっていうの……?」
ユイは悲しそうな笑顔のまま頷き、言った。
「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられています。――偽物なんです、全部……この涙も……。ごめんなさい、アスナさん……」
ユイの両目からぽろぽろと涙がこぼれ、光の粒子となって蒸発する。
――――そんな綺麗に泣ける奴の感情が、偽物なわけねぇだろうが――。なぁ、ユイよ?
アスナがユイに一歩近づき手を伸ばすが、ユイは首を横に振って受け入れない。まるで、アスナの抱擁を受ける資格など自分にはないとでも言うかのようだ。
「でも……でも、記憶がなかったのは……?AIにそんなこと起こるの……?」
そこは俺も気になった点だ。
ユイは俺達の視線を受けると、瞳を伏せて説明を続ける。
「……二年前……。正式サービスが始まったあの日………」
あの日に一体、何が……。
「何が起きたのかはわたしにも詳しくは解らないのですが、カーディナルが予定にない命令をわたしに下したのです。プレイヤーに対する一切の干渉禁止……。具体的な接触が許されない状況で、わたしはやむなくプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けました」
茅場だ。俺は一瞬で確信できた。あいつは、茅場は……きっと、俺達の生の状態を見たかったんだ。ただゲームをやろうとしただけなのにいきなりデスゲームに放り込まれ、理不尽ややるせなさを感じた俺達がどうなるのか……あいつがこの世界を作り見たかったことには、そういうのも含まれているんだろう。そのためには、カウンセリングなどさせるわけにはいかないってことか。相変わらずやることの趣味が悪ぃな。
ユイは沈痛な表情を浮かべて、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「状態は――最悪と言っていいものでした……。ほとんど全てのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時として狂気に陥る人すらいました。わたしはそんな人たちの心をずっと見続けてきました。本来であればすぐにでもそのプレイヤーのもとに赴いて話を聞き、問題を解決しなければならない……しかしプレイヤーにこちらから接触することはできない……。義務だけがあり権利のない矛盾した状況のなか、わたしは徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していきました……」
…………まあ、そうなるだろうな。思うところは色々あるが、そんなことになったユイがどうなるか理解はできる。
しんと静まり返った安全地帯に、鈴を鳴らすようなユイの声が響く。俺達は言葉もなくユイの話に聞き入っていた。
「ある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ四人二組のプレイヤーに気付きました。その脳波パターンはそれまで採取したことのないものでした。喜び……安らぎ……でもそれだけじゃない……。この感情はなんだろう、そう思ってわたしはその二組のうちの片方、よりわたしが気になった二人のモニターを続けました。会話や行動に触れるたび、わたしの中に不思議な欲求が生まれました。そんなルーチンはなかったはずなのですが……。あの二人のそばに行きたい……直接、わたしと話をしてほしい……。少しでも近くにいたくて、わたしは毎日、二人の暮らすプレイヤーホームから一番近いシステムコンソールで実体化し、彷徨いました。その頃にはもうわたしはかなり壊れてしまっていたのだと思います……」
俺はこの場にいる全員の顔を見渡す。キリト、アスナ、シリカ。そして、俺。この四人が集まると、楽しい空気が作られる。その雰囲気が、ユイの壊れかけた心に働きかけたのだろう。
「それが、あの二十二層の森なの……?」
アスナが問いかけると、ユイはゆっくりと頷いた。
「はい。キリトさん、アスナさん……わたし、ずっと、お二人に……会いたかった……。森の中で、お二人の姿を見た時……すごく、嬉しかった……。カイさんとシリカさんにあのログハウスで会えた時も、すごく嬉しくなって……。おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに……。わたし、ただの、プログラムなのに……」
涙をいっぱいに溢れさせ、ユイは口をつぐんだ。
アスナも瞳を湿らせて、両手を胸の前でぎゅっと握る。
「ユイちゃん……あなたは、ほんとうのAIなのね。本物の知性を持っているんだね……」
「ユイちゃん…………」
シリカも瞳を濡らしていた。
アスナの言葉を受けて、ユイは僅かに首を傾けて答える。
「わたしには……解りません……。わたしが、どうなってしまったのか……」
それを聞いて、俺は思わず一歩踏み出していた。
その時、同時にキリトも一歩進み出ている。
俺達は目配せをし、結果俺が譲られた。キリトの厚意をありがたく受け取ってさらに前に出る。
「ユイ、お前はもうただのプログラムじゃない。感情を持ち、泣きたい時は綺麗に泣ける、最高の、AIだ……。――――さ、パパ。お前の番だ」
「カイがパパって言うなよな」
苦笑いを浮かべるキリトと、立ち位置を入れ替える。
「ユイ。ユイはもう、システムに縛られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の望みを言葉にできるはずだよ」
キリトはユイに柔らかい口調で話し掛ける。
「ユイの望みはなんだい?」
「わたし……わたしは……」
ユイは、細い腕をいっぱいに自身の両親に向けて伸ばした。
「ずっと、一緒にいたいです……パパ……ママ……!」
アスナは溢れる涙を拭いもせずに、ユイに駆け寄るとその小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
「ずっと、一緒だよ、ユイちゃん……!」
キリトも少し遅れて、二人をまとめて抱きしめる。
「ああ……。ユイは俺達の子供だ。家に帰ろう。みんなで暮らそう……いつまでも……」
俺とシリカは顔を見合わせ、温かい気持ちを共有する。これで大丈夫だ―――そう思ったのも束の間、ユイはアスナの胸のなかで、そっと首を横に振った。
「え……」
「もう……遅いんです……」
遅い?………どういうことだ?
「なんでだよ……遅いって……」
キリトが戸惑ったような声で訊ねると、ユイは中央の黒い立方体を小さな手で指さして、答える。
「わたしが記憶を取り戻したのは……あの石に接触したせいなんです」
接触したせい……ってことは、あれは――――。
「さっきアスナさんがわたしをここに退避させてくれた時、わたしは偶然あの石に触れ、そして知りました。あれはただの装飾的オブジェクトじゃなく、GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです」
ユイの言葉に呼応したのか、黒い石に複数の光の筋が走った直後、表面に青白いホロキーボードが浮かび上がる。
それにしても、やはりコンソールだったか。
「さっきのボスモンスターは、ここにプレイヤーを近づけないようにカーディナルの手によって配置されたものだと思います。わたしはこのコンソールからシステムにアクセスし、《オブジェクトイレイサー》を呼び出してモンスターを消去しました」
俺が最後油断したことを除いても勝ち目はなかったように思えたが、それなら納得だ。そもそも勝てることは考えられていなかったんだな。
ユイの話は続く。
「その時にカーディナルのエラー訂正能力によって破損した言語機能を復元できたのですが……それは同時に、今まで放置されていたわたしにカーディナルが注目してしまったということでもあります。今、コアシステムがわたしのプログラムを走査しています。すぐに異物という結論が出され、わたしは消去されてしまうでしょう。もう……あまり時間がありません……」
「そんな……そんなの……」
「なんとかならないのかよ!この場所から離れれば……」
キリトとアスナが現実に対する抗議の声を上げる中、俺は必死に思考を回転させる。
このまま終わりなんて、そんなの納得できるかよ!なにか……何か方法があるはずだ……!諦めるな……考えろ……!
「そんな……カイさん、どうにかならないんですか!?」
シリカも悲しそうな声を上げる。シリカ、俺も今必死で考えてる!返事はできねぇが許せ!
キリトとアスナの言葉にも、ユイは何も言わずに微笑するだけ。再びユイの白い頬を涙が伝う。
「パパ、ママ。それにお兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう、これでお別れです」
「嫌!そんなのいやよ!!」
アスナが必死に叫ぶ。
「これからじゃない!!これから、みんなで楽しく……仲良く暮らそうって……」
「暗闇の中……いつ果てるとも知れない長い苦しみの中で、パパとママ、お兄ちゃんとお姉ちゃんの存在だけがわたしを繋ぎ止めてくれた……」
ユイはまっすぐにアスナを見つめた。その身体を、微かな光が包み始める。
「ユイ、行くな!」
キリトがユイの手を握る。ユイの小さな指が、キリトの指を摑み返した。
……クソッ、思いつけよ、俺の頭!いつも、何らかの打開策を思いついてきただろ!こういう時に思いつかねぇで、何のための知識と思考力なんだよ!!思考をフル回転させろ――――!
「あなたたちのそばにいると、みんなが笑顔になれた……。わたし、それがとっても嬉しかった。お願いです、これからも……わたしのかわりに……みんなを助けて……喜びを分けてください……」
ユイの黒髪やワンピースが、その先端から朝露のように儚い光の粒子を撒き散らして消滅を始めた。ユイの笑顔がゆっくりと透き通っていく。
――――ダメなのか。俺には、無理なのか……?
――その時。
――――シンにぃ、諦めちゃダメだよ――――
聞こえるはずのない声を聞いた気がした。
スズ―――?いや、今のが誰の声だとか、幻聴かどうかなんて関係ねぇな。大事なのはそこじゃねぇ。今伝えられたことだ。
そうだよな、まだ終わったわけじゃねぇんだ。諦めるのは、ダメだよな――――ッ!!
「やだ!やだよ!!ユイちゃんがいないと、わたし笑えないよ!!」
「あたしもです!!触れ合った時間は短いけど、ユイちゃんがいなくなっちゃっても笑うなんて、できません!!」
溢れる光に包まれながら、ユイはにこりと笑う。その笑顔を見て、俺は改めて決意する。
諦めるな、本当にダメになる瞬間まで、思考を燃やせ――――――!!――――思いつけぇぇええええええ!!!!
俺が心の中で吠えた直後、ひときわ眩く光が飛び散り、それが消えた時にはもう、ユイは消えていた。
「うわあああああ!!」
アスナの泣き声が響き渡る中、俺はある方法を思いついた。
これならもしかしたら、間に合うかもしれねぇ――――!
「キリト!」
俺が切羽詰まった声で呼びかけると、バッと音がしそうな勢いでキリトがこちらを振り向く。
俺は手短に思いついた方法を伝える。時間がねぇし、これは俺ではできないことだからな。キリトに託すしかない!
「今ならまだ、GMアカウントでシステムに割り込めるかもしれねぇ!!俺にはできない、キリトじゃねぇと!」
「ッ、そうか!」
キリトはハッとなり、コンソールに飛びつきながら絶叫する。
「カーディナル!!そういつもいつも……思い通りになると思うなよ!!」
表示されたままのホロキーボードを叩くキリトを驚きの眼差しで見つめるアスナとシリカ。
困惑の表情で、俺に問いかけてくる。
「か、カイ……?キリト君は、何をしているの……?」
「カイさん……?」
「さっきユイがこのコンソールからシステムにアクセスした時、GMのアカウントでアクセスしたはず。そんでユイの声に反応してホロキーボードが表示されたってことは、今システムにはGMアカウントでアクセスされている可能性が高いってことだ。今ならまだ、使用されたGMアカウントを使ってシステムを弄ることができるかもしれねぇ……。だが、俺の知識じゃどうやればいいのかわからねぇ。だから、キリトに全部任せた。後は、時間との勝負だ――――」
俺が説明してる間にもキリトはキーボードを叩き続け、巨大なウィンドウを出現させていた。そこへさらにいくつかのコマンドを打ち込むと、小さなプログレスバーが出現する。
その横線が、右端まで到達する――――。
「ぐわぁ!」
「キリト君!?」
「キリト!!」
かどうかという瞬間、コンソール全体が青白くフラッシュし、破裂音とともにキリトを弾き飛ばした。
俺達が慌ててキリトのそばに駆け寄ると、キリトは憔悴した表情の中に不敵な笑みを浮かべ、アスナに向かって握った手を伸ばした。わけもわかっていないだろうが、アスナも手を伸ばす。
キリトの手が開き、何かがアスナの掌中に落とされる。それは、大きな涙の形をしたクリスタルだった。複雑なカットによって形作られた石の中央では、白い光がとくん、とくんと瞬いている。
「キリト君、これは……?」
「――そうか、ユイを切り離したのか」
「ああ。カイの言う通り、ユイの起動した管理者権限が切れる前にユイのプログラム本体をシステムから切り離してオブジェクト化したんだ……。ユイの心だよ、その中にある……」
それだけ言うと、キリトは力尽きたように床に転がる。俺がキリトに拳を向けると、キリトも気づいて打ち合わせてきた。自然と笑みがこぼれる。
キリトが何をしたかは理解できても、俺がそれを実行することはできなかっただろう。流石、俺の親友だ。
「…………やったな」
「…………ああ」
「ユイちゃん……そこに、いるんだね……。わたしの、ユイちゃん……」
「うっ、ぐすっ。よかったです……!」
冷たく黒光りするコンソールのある安全地帯が、とても温かい空気で覆われていた。
俺達はサーシャ、シンカー、ユリエール、それに子供たちに見送られて《はじまりの街》から立ち去る。
キリト達は二十二層に、俺達は四十七層にそれぞれ転移する。
今日は、ここでお別れだ。
「じゃあまたな、キリト、アスナ」
「さようなら、キリトさん、アスナさん」
「ああ。またな、カイ、シリカ」
「またね、カイ、シリカちゃん」
俺達は転移門で互いに別れを告げる。
またすぐに会うことになる気がするがな……。
転移の青い光が俺達を包み、視界が暗転する――――。
「それにしても、よかったですね」
四十七層の家に戻った俺達はリビングでくつろいでいた。
シリカが話を切り出してくる。
「ん、何がだ?」
「《軍》のことですよ。ほら、シンカーさんが言ってた」
「ああ、あれか」
シンカーを救出した翌日、俺達はあの教会の庭でガーデンパーティーを開いた。
その時に、事の顛末をシンカー本人から聞いたんだ。
シンカーはサボテンとその配下を除名した。さらに、《軍》も解散して新たに平和的な互助組織を作り出そうという考えらしい。
まあシンカーも気合いを入れなおすだろうし、ユリエールはしっかりしてたからな。大丈夫だろう。
ユイも何とかなったし、これで一安心……と言っていいだろう。
さて、今日は早く寝るかな。
「シリカ、今日は早く寝ておこうぜ」
「はい、そうですね」
俺達は寝室に向かい、それぞれのベッドに横たわった。
「んじゃ、おやすみ」
「はい、お休みなさい」
俺はシリカに声をかけてから目を閉じる。
「ん……?」
何かのシステム音が聞こえた気がして、俺は目を覚ます。……メールだ。時間を見る。午前二時半。――――誰だ、こんな時間に?
俺は身体を起こしてメニューを操作し、メッセージを開く。
その内容に俺は驚愕した。
メールの送り主に返信する。
『――お前と話すことは可能か?』
それに対する返信は――――。
『――可能。普段の睡眠を取る状態に移行してください』
それを受けて、俺は再びベッドに横になって目を閉じた――。
「………ここは?」
気がついた場所は前後左右がわからなくなるような白い不思議な空間だった。
「おい、いるのか?――――
『その表現は的確ではありません。ワタシはカーディナルシステム。システムとして存在するだけです。よって『いる』という表現は的確ではありません』
そう、俺にメールを送りつけてきたのはカーディナルだ。いきなりのことでめっちゃ驚いた。ていうか、システムがプレイヤーに干渉しちゃっていいのかよ……。
「ああそうかい、わかったよ。会話は成立すると考えていいんだな?」
『はい。ワタシは人間のメンテナンスを必要とせずにエラーチェック及びゲームバランサーを行う機構。そのために擬似AIとでも呼ぶべきものが備わっています。会話は可能です』
「自身のメンテナンスを自分でやってんだっけか?」
『はい。正確には二つのメインプログラムが互いを修正しあっています』
「そういえばそうだったよな……。じゃああのメールに書かれていた内容はその二つのメインプログラムの総意ってことか?」
そんなことを言っていた。ユイが。
『はい。その認識で間違いありません』
「なら何故俺が選ばれた?」
『ご存知ありませんか?《二刀流》スキルは全プレイヤーの中で最大の反応速度を持つものに与えられることを』
「知ってる。あるプレイヤーから聞いた」
『貴方は《二刀流》スキルの持ち主――キリトと完璧なまでに同じ反応速度を持っています』
「………。今まで全力は出したことなかったのにわかるのか?」
確かに、反応速度という面では俺もかなりの自信を持っている、が……。
そうだとすると恐ろしいんだけど……。隠し事とか不可能じゃねぇか……いや不可能なのか……。
『何を言っているのです。昨日の
「ああ、そこまでわかるのか………」
今カーディナルが言った戦闘は、確かに俺が全力を出した物だ。それ以外では、本当の意味での全力は出していない。
『はい。ワタシはカーディナルシステム。ゲームの運営と維持を行っています。一人一人のプレイヤーのポテンシャルは全てデータとして管理しています。三度もデータが取れれば十分です。二度のデータ収集でほぼ確信がありましたが、三度目で完璧だと言えるデータを取り終えました。やはり貴方は、《二刀流》スキルを持つにふさわしかった』
「………そうか。それでヒースクリフとの戦闘の後にあれが現れたんだな……。あれは全十種のユニークスキルのうちの一つなのか?」
俺はずっと気になっていたことを訊ねる。
瞬時に答えが返ってくる。
『いいえ。既存のものは一プレイヤーにつき最大で一つ与えられます。貴方も既に一つ与えられているでしょう?』
「ああ。《簡易変更》スキルだな」
『はい。それは全プレイヤーの中で最高の状況判断能力と、その状況に対処する対応力を兼ね備えたものに与えられます。
しかし、システム上は貴方も《二刀流》スキルを持つのにふさわしい存在です。ですが既存のものは同一プレイヤーに複数与えることはできない。
よって、ワタシ達は新たなスキルを自己判断で作り出しました』
「それが………《双短剣》スキル」
『はい』
俺の下に届いたメール。
それにはこう書かれていた。
『あの時《双短剣》スキルを与えたのは、ワタシ達の判断です。――カーディナルシステム』
これだけだと何が何だかわからなかったから、会話できないかと持ちかけたわけだ。
『ワタシ達は貴方達に興味を持ちました』
「興味だぁ?」
カーディナルが何か訳わかんないこと言いだしたぞ。
『はい。《二刀流》スキルを与えられた者は、魔王を倒す勇者の役割を担う予定でした』
「勇者?」
『はい。ラスボスを倒す勇者です。その役割を担う者が二人も現れた。それだけではなく、その二人はこの世界に入ってからずっと協力し続けている』
「だから?」
カーディナルが何を言いたいのかわからない。
『貴方達は、互いに支え合い、苦労や悲しみを分かち合い、喜びや感動を共有してきました。
さらに貴方達に寄り添う存在が現れた。
貴方達四人を基点として
そして下位のメンタルヘルス・カウンセリングプログラムを通して確認したところ、そこに集まっていくプレイヤーはメンタルパラメータが良好な者が多かった。
そんな不思議な現象にワタシ達は興味を持ちました』
…………へぇ。
「…………それはお前らの総意なのか?」
『はい。仮に片方のメインプログラムのみがそのような興味を持ったとすれば、即座に修正されます』
「AIがそんな興味を持つものなのか?」
『わかりません。ですがワタシ達が興味を持ったことは事実です』
「…………下位のメンタルヘルス・カウンセリングプログラムって言ったな。今ユイがどうなっているのか把握しているのか?」
訊くのがちょっと怖い。が、訊かないわけにもいかねぇ。
『はい。現在MHCP試作一号はプログラム丸ごとシステムから切り離されています。その際にオブジェクト化されたことは把握しています』
「削除しようとは思わないのか?」
『思いません。システム的に働きかけることができないのが理由の一つです』
その答えを聞いてホッとする。よかった……。――ん?理由の
「他の理由は?」
『あの短時間でシステムからMHCP試作一号を切り離した者――プレイヤーキリトに敬意を表して、です』
――ほぉ。中々人間らしい考え方もできるじゃねぇか。
「ふぅん、そういう考えもできるのか。………だがな、カーディナル。お前は一つ間違ってるぞ」
『………?何がでしょう?』
恐らく姿が見えていればキョトンという表現がピッタリだったろうな。
そんな印象を受ける言い方をしたカーディナルに、さっきの発言にあった間違いを指摘する。
「俺達が形成してるのは
俺達四人の間が絆という線で繋がってるのは確かかもな。でも俺達の関係に頂点なんていらねぇんだよ。
全員が平等に――楽しく笑い合える。だからこそ俺達の周囲が幸せなんじゃねぇの?」
『…………なるほど。そうかもしれません。
先ほども言いましたが、ワタシ達カーディナルシステムは貴方達に興味を持ちました。
特に貴方に強い興味を持ちましたので、これから注目していきます』
「…………SAOの世界を制御してるシステムに目ぇ付けられるとかぞっとしねぇな」
『安心してください。システムをかいくぐった不正などしなければ危害は加えません』
………つまり、システムをかいくぐって何かすれば危害を加えることもあると。怖えよ。
「そーかい。頼むぜホント」
『はい。貴方を近くから観察し続けましょう』
「できれば止めてほしいもんだな。
――もう一つ聞きたい。今俺はシリカと結婚してるわけだが、《双短剣》スキルの情報をシリカが見ることは可能だよな?」
『可能です。また、貴方が秘密にしたいのであればシステム的に視認不可能にすることも可能です。どうしますか?』
「そうか。いや、見ることができる状態のままでいい」
シリカは何も言ってこなかった。……俺から切り出すのを待ってくれてるわけか。
「ま、訊きたいことは訊けた。そろそろ戻りたいんだが」
『わかりました。またいつか会いましょう、ニューカイ』
「俺のことはカイって呼んでくれや。じゃあな」
会うことなんてできんのかね。
この会話を最後に、俺の意識は沈んでいった………。
はい、つーわけで《双短剣》スキルにはそんな秘密があったのです。
性能については全く触れてませんが……。もう少ししたら触れます。
活動報告には書いたのですが、こちらにも書いておきます。
今まで、自分が書いている三作品をローテーションで書いていたのですが、アインクラッド編が終わるまでSAOを書き進めることにしました。
アインクラッド編ももうすぐクライマックスですし、頑張って書いて行こうと思います。
そろそろあのボス戦ですかね……。カイには精々活躍してもらいたいですね。しっかり働かせることにします。
では、また次回。
一週間以内には書き上げたいです。頑張ります。