黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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皆さんどうも!
いつも読んでいただきありがとうございます!
この調子でちゃっちゃと書いてアインクラッド編を終わらせられるように頑張ります!

では、どうぞ!


第二十六話 ヒースクリフの秘密、カイの想い

 

「何人……やられた……?」

 

 

座り込んでいたクラインが顔を上げ、ポツリと呟く。

 

俺は走りながら右手を振ってメニューを出そうとし――やめた。キリトが出そうとしてる。なら俺はいいだろう。

 

キリトはマップ機能を呼び出し、緑色の光点を指差し数え始める。その動きが不意に止まり、代わりにキリトの唇が動く。

 

 

「――――九人、死んだ」

 

「……嘘だろ………」

 

 

エギルの声にも普段の張りがない。他のプレイヤー達の表情にも暗鬱としたものが立ち込める。

――何とか、一桁で抑えることはできたが………。仮に、これから先の二十四階層のボス戦で一階層毎に一人犠牲者を出してしまうとすると、この場にいる者で最上階に辿り着けるのは六人という計算になってしまう。犠牲者が出るという条件下では最小の数字でこれなんだ。気分が落ち込んじまうのもわからなくはねぇ。まぁ、実際はそんなことにはならねぇがな。

少なくとも、ボス戦では俺が絶対に死なせないと決めたプレイヤーが十四人。それに俺と、途中で死ぬわけがないヒースクリフを入れて十六人。これだけは確実に生き残る。俺が生き残らせてみせる。……気合い入れねぇとな。

 

 

俺はシリカに駆け寄って声をかける。

 

 

「シリカ!」

 

「カイさん!」

 

 

シリカはパッと顔を上げて俺を見る。その目には涙が滲んでいた。

 

 

「っ、どうした?」

 

「カイさん、カイさん……あたし、パリィを失敗しちゃって……それで、それで、逸らしきれなかった尾がプレイヤーの一人を………!」

 

「そうか……」

 

 

それは……どう言うべきかな……。

 

 

「……シリカ、無情なことを言うようだが、それはお前が悩むべきことじゃない。関係ないことまで背負うのは傲慢ってもんだ」

 

「カイ!あなた、なんてことを言うの……!?シリカちゃんが、心を痛めているのに……」

 

 

すぐ傍で俺達の話を聞いていたアスナが憤慨して俺に噛みついてくる。だが、アスナがこう言ってくるのはある意味予想通りだ。

 

 

「なら訊くが、アスナだったらそいつらの死に責任を感じて、その罪を背負うのか?

そいつらは、今回のボス攻略に参加したんだ。自分の意思でな。危険があることは重々承知だったはずだし、ヒースクリフは参加するか否かは個人の判断に任せていた。それでもそいつらは、皆のために命の危険を冒してまで今回の戦闘に参加した。そんな奴らの決意を、自分が罪悪感から逃れたいって感情で踏みにじるのか?」

 

 

シリカにも聞かせるようにしっかりと、かつどこか嘲るように述べる。

二人は俯いたまま、反論できなかった。

 

本当のところはわからない。死んだ奴に意思を確認するなんてこと、できないからな。参加理由は周りが参加するのに自分だけしないのは……という消極的なものだったかもしれないし、死ぬ瞬間、シリカのことを恨んでいたかもしれない。

だが、それを確認することは誰にもできない。なら、俺が悪役になろう。俺が嫌なことを、性格の悪いことを言って、皆の精神的負担を和らげよう。皆の悪感情の捌け口になろう。まぁ、付き合いの長い奴らには俺が考えていることがバレてるかもしれないけどな……。

 

その証拠に、エギルとかクラインとかには悲しげな目で見つめられてる。やめろ、そんな目で俺を見るなよ。

――――って、キリトが俺の様子に気づいてないってのも珍しいな?

 

 

そう思ってキリトを見やると、ヒースクリフを凝視して《エリュシデータ》に手を伸ばしていた。

 

 

――――そうか、バレたのか。

 

 

俺は胸中で嘆息すると、シリカの頭を撫でる。アスナの気をこちらに引いておこう。

アスナは、俺の狙い通りに複雑な表情で俺を見つめている。キリトがごくごく小さな動きで右足を引いていく。腰を僅かに下げ、低空ダッシュの準備姿勢を取る。

 

あの構えは……《レイジスパイク》か。

 

ヒースクリフはまだキリトの動きに気づいていない。キリトはヒースクリフの横顔を見据え続けている。あの、ギルド団員を慈しむような視線を携えるヒースクリフを。檻の中で遊ぶネズミの群れを見るようなあの眼差しをしている男を。

 

キリトはこちらをチラリと見やる。予想が外れた時のことを憂いたんだろう。瞳に謝罪の念が宿っているように見える。

アスナが視線に気づいたのか、キリトの方に顔を向け、何事か口を動かした。声は聞こえなかったが、キリトの名前を呼んだみたいだ。

……俺は、どんな顔をしているんだろうな。自分でもよくわからねぇや。キリトに訊いてみたい気もするが、もう行っちまった。

 

キリトはヒースクリフとの距離約十数メートルを床ギリギリの高さで一瞬で駆け抜け、右手の剣を捻りながら突き出す。

ヒースクリフは流石の反応速度で左から襲いくる剣尖に気づき、盾での防御を試みる。

しかしキリトは、デュエルの時に動きの癖を見て覚えていたのか、空中で僅かに剣の軌道を変えヒースクリフに突き立てる――――

 

 

寸前で、紫色の閃光を放ちながらキリトの剣が障壁に遮られる。

現れたのは、紫色のシステムウィンドウ。そこに刻まれている文字は、【Immortal Object】。ヒースクリフが、システム的に不死だということを示す物だった。

 

 

 

 

 

アスナがキリトの下に駆け寄っていくのを見届けながら、俺は立ち上がる。

 

 

「カイさん……?」

 

 

シリカが俺を見上げて問いかけてくる。

 

 

「ああ、シリカ。俺、ちょっと行ってこなきゃいけないからさ。少しの間、待っててくれ」

 

「はい、それはいいですけど……あれは……?」

 

「……すぐに説明してくれるさ」

 

 

視線を戻すと、ちょうどアスナがキリトに声をかけるところだった。

 

 

「キリト君、何を――――」

 

 

突然の暴挙に出たキリトに声をかけようとしていたアスナがメッセージを見て動きを止める。

キリトも、ヒースクリフも、他の誰のプレイヤーも動かない。俺はゆっくりとキリト達に歩み寄る。メッセージが音もなく消滅する。

 

キリトは剣を引き、跳び退ってヒースクリフから距離を取る。その隣にアスナが並び、困惑を孕んだ声でヒースクリフに問いかける。

 

 

「システム的不死……?……って……どういうことですか……団長……?」

 

 

ヒースクリフはその問いには答えない。

この場に状況を把握できているのは何人いるのか。恐らく、俺、キリト、ヒースクリフの三人だけだろう。

キリトが両手に剣を下げたまま口を開く。

 

 

「これが伝説の正体だ。この男のHPはどうあろうとイエローまで落ちないようにシステムに保護されているのさ。……不死属性を持つ可能性があるのは……NPCを除けば、このゲームにただ一人しか存在しないシステム管理者だけだ」

 

 

そこまで言って、キリトは一度言葉を切った。

上空をチラリと見やり、続ける。

 

 

「……この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった……。あいつは今、どこから俺達を観察しているんだろう、ってな。でも俺は単純な真理を忘れていたよ。どんな子供でも知ってることさ」

 

 

キリトは視線を戻すと、ヒースクリフを真っ直ぐに見据える。

 

 

「《他人のやってるRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない》。…………そうだろう、茅場晶彦」

 

 

静寂がボス部屋を包む。俺の足音が響き渡ってしまいそうだ。

ヒースクリフは、無表情のままキリトを見つめていた。

そして、最初に口を開いたのはヒースクリフだった。

 

 

「……何故気づいたのか、参考までに教えてもらえるかな……?」

 

「……最初におかしいと思ったのは例のデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも速過ぎたよ」

 

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君達の動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 

「君達……?」

 

 

キリトが訝しげな声で呟いた。ここで、俺もキリトの隣に並ぶ。

 

ヒースクリフは仄かな苦笑を浮かべ呟く。

 

 

「予定では攻略が九十五層に達するまでは明かさないつもりだったのだがな。本当にイレギュラーな事態が起こる。これだから……面白い」

 

 

そこまで言うと、奴は笑みを超然としたものに変えて堂々と宣言した。

 

 

「――――確かに私は茅場晶彦だ。加えて言えば、最上階で君達を待つはずだった最終ボスでもある」

 

 

ショックを受けてよろめいたアスナを、キリトが見ずに右手で支える。

シリカの方を見やると、両手を床について女の子座りをしている。あれなら大丈夫だろう。

 

 

「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスか」

 

「まあ、茅場の性格が悪いのは今に始まったことじゃねぇしな。有り勝ちな、でもやってほしくはないストーリーだよ」

 

「中々いいシナリオだろう?だが、まさかたかだか四分の三地点で看破されてしまうとはな。いやはや、君達はこの世界で最大の不確定因子だと思ってはいたが、ここまでとは」

 

 

笑みを浮かべながらそんなことをのたまうこいつは、本当にいい性格をしている。

薄い笑みを浮かべて肩をすくめながら、ヒースクリフは話を続ける。

 

 

「……最終的に私の前に立つのは君達だと予想していたよ、キリト君、カイ君。全十種存在するユニークスキルのうち、《二刀流》スキルは全プレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担い、《簡易変更》スキルは全プレイヤーの中で最高の状況判断能力とその状況への対応力を兼ね備えた者に与えられ、その者が勇者を補佐する参謀の役割を担うはずだった。勝つにせよ負けるにせよ。だが、君達は私の予想を超える力を見せた。二人の攻撃速度といい、キリト君の洞察力といい、カイ君の指揮力といい、な。まあ……これもネットワークRPGの醍醐味というべきかな……」

 

 

その時、ヒースクリフの背後にいたプレイヤーが幽鬼のように立ち上がる。血盟騎士団の幹部を務めている男だ。

温厚そうな細い目に、明確な殺意を宿らせている。

 

 

「貴様……貴様が……。俺達の忠誠――希望を……よくも……よくも……よくも―――――ッ!!」

 

 

巨大な斧槍(ハルバード)を握りしめ、絶叫しながら茅場に跳びかかる。大きく振りかぶった重武器を茅場へと叩きつけ――――

 

 

る前に、茅場が動く。()()を振り、出現したウィンドウを素早く操作する。男の身体は空中で停止し間髪入れずに落下する。無機質な鎧がなる音がした。男のHPバーが緑の枠に囲まれている。麻痺状態だ。茅場はそのままウィンドウを操り続け、この場にいるプレイヤーの大半を麻痺させた。

麻痺状態になっていないのは、俺、キリト、茅場の三人だけだ。

 

 

「……どうするつもりだ……。この場で全員殺して隠蔽する気か……?」

 

 

不自然な体勢で倒れてしまったアスナの手を握りながら、キリトが鋭く茅場を見据える。

 

 

「まさか。そんな理不尽なことはしないさ」

 

 

そうだ。この男は妙なところで律儀だ。そういう理不尽なことは今までしてこなかった。俺達をこのデスゲームに閉じ込めた時くらいじゃないか?

 

 

「こうなっては致し方ないからね。予定を早めて、私は最上階の《紅玉宮》にて君達の訪れを待つことにするよ。今まで育ててきた血盟騎士団と攻略組プレイヤー諸君をこんな形で放り出してしまうのは不本意だが……何、君達の力なら辿り着けるさ。だが……その前に……」

 

 

茅場は言葉を切ると、右手の十字剣を床の黒曜石に突き立て、キリトを見据える。

 

 

「キリト君、君に不死属性抜きの私と一対一で決闘するチャンスを与えよう…………と、言いたい所なのだが。

実は、カイ君が先に私の正体に気づいていてね。彼と先に戦う約束をしている。少々待っていてくれたまえ」

 

 

ヒースクリフはそう告げると、俺に向き直った。

 

 

「カイ君、待たせたね」

 

「どうってことねぇよ。ああ、念のためキリトも麻痺させといてくれ。乱入されたくはないんでね」

 

「ふむ、それもそうだな。わかった」

 

「なっ……!?おい、カイ!!おいってば!」

 

 

茅場がキリトを無視してウィンドウを操作する。俺はその間に、こいつとその約束を取り付けた時のことを思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達がヒースクリフとデュエルをした後の団長室での出来事だ。

 

 

「んじゃあ本題だが――――改めて自己紹介させてもらう。俺の名はニューカイ。メインウェポンは短剣だが、全種類の武器を扱える。よろしく頼むぜ――茅場晶彦」

 

「……ふう。やはり気づかれてしまったか。いつから気づいていたのだね?」

 

 

ヒースクリフ――いや、こう言おう――茅場はため息をついて、俺に質問をぶつけてくる。

もう隠し事をする必要もないし、正直に答える。こいつは、それで俺を消そうなんてするような奴じゃない。何となくわかる。

 

 

「疑ってたのは、圏内事件の時からだ。あんたの知識量は豊富すぎたよ。確信を持ったのはさっきの戦闘。きっと、HPが半分を割らないようにシステム的に保護してんだろ?」

 

「そこまで見破られているのか……確かに君の言う通り、それを露見させたくなくてシステムのオーバーアシストを使った。それにしても、随分早くから疑われていたものだな……私がこの世界にいることは予想済みだったのかな?」

 

「ああ。お前、最初の日にこう言ったろ――『私の目的はこの世界を作り出し、観賞することだ』ってな。あの瞬間からすでに違和感はあったんだよ。観賞するって言ったって、どこからだ?仮に外部から回線を用意して接続していた場合、そこは侵入経路にもなる。今のハッカーとかの技術はすごいからな。いくらSAO――アーガス社のプロテクトが堅くても、他からの接続経路があれば突破されてしまう可能性はあるだろう。そこが一番弱いところになるだろうしな。俺には、あんたがそんな愚を冒すようには思えなかったんだ」

 

 

俺は一息間を入れて続ける。

 

 

「それにあんたがSAOの行く末を見ないでいられるような人間には思えなかったし、加えて言うとSAOに閉じ込めた人間を無責任に殺して自分だけ生き延びて逃げようなんてことを考える奴じゃないだろ?お前はさ」

 

「……ふっ。君は私という人間を私以上に理解しているのかもしれないな」

 

「……あんまり嬉しくねぇな……」

 

「んっも~う!そんなこと言わないで~!寂しいよぅ~!」

 

「や め ろ 気 色 悪 い !!」

 

「ふむ。お気に召さなかったかな?」

 

「当たり前だ!!表情を変えずにそんなこと言われてもただただおぞましいだけだわ!まあ表情を変えればいいってもんでもねぇけどな!!」

 

 

表情をピクリともさせずに、声のキーだけ上げてあんなこと言われるとか鳥肌もんだぞ!?しかも茅場晶彦がやってると思うと余計に!!

 

 

「まあそれはいいとして。君は私の正体を看破したわけだが、何か要望はあるのかね?」

 

「んー、そもそもあんたはどうするつもりだったんだ?自分の正体を見破られた時。考えてないわけないよな?」

 

「えー、考えてなかったよぉ~?そんなこと期待されても困るっていうかぁ~」

 

「おふざけはいい。真面目に答えろ」

 

「おお、怖い怖い。そう睨まないでくれたまえ。それで、私の考えだが――」

 

 

そりゃ睨むだろ……真面目に質問してんのにおふざけで誤魔化されかけたんだぞ………。

 

 

「私の正体を看破した報酬として、不死属性を解除した状態の私と一対一で戦う権利を与えるつもりだった」

 

「そうか……それだと今の状況はお前的にはあまり好ましくないわけだな……。仮にここで俺とお前が戦って俺が勝てたとしても、周りは何が何だかわからないだろうしな。俺達プレイヤーにしてみればこの世界から脱出できるならそれでもいいわけだが、お前は嬉しくないだろう?」

 

「そうだな……というか、本当に君は私の心情を理解しているな…………もしかして、ストーカー?ないわー」

 

「だ か ら ふ ざ け る の を や め ろ !!じゃあ、そうだな……妥協案として、お前の正体を看破できた奴がいた時は、まず俺に先にお前と戦わせろ。それが一つ。それとお前は、これからも真面目に自分の役割を果たせ。絶対に手を抜くな。それが二つ。最後に、俺がお前との戦いで勝ったら、俺の言うことを何でも聞いてもらう。これでいいか?」

 

 

俺の案を聞いた茅場は――――。

 

 

「えっ、それってまさか、私を辱m――――」

 

「黙れぇぇえええええ―――――――ッ!!!!それ以上喋んじゃねぇぇええええ―――――!!」

 

「ちぇー」

 

「ちぇーじゃねぇよ。……それで、俺の妥協案はアリなのか、ナシなのか。どっちなんだ」

 

 

まったくこいつは……。精神的に激しく疲れるぜ……。

 

 

「ふぅむ………。…………アリだな、それで行こう」

 

「わかった、じゃあそういうことで。――――約束は違えるなよ。お前に約束を違えられても俺にできることはないが……俺が持てる力の全てを使ってお前に嫌がらせをしてやるから覚悟しとけ」

 

「……君の全力の嫌がらせか。笑えないな……。約束を違えることはないと、この世界に誓おう」

 

 

ヒースクリフが顔を引き攣らせて答える。それにしても、この世界に誓う、か。

 

 

「――それなら信用できるな」

 

 

ニヤリ、と笑いかけながら言ってやる。

こいつのこの世界への想いは、俺にも計り知ることができない。

茅場も俺に微笑を向けてきた。

 

 

「それは重畳だ。話は終わりかな?」

 

「ああ。じゃあまたな、ヒースクリフ」

 

「うむ。また会おう、カイ君」

 

 

俺はそう言って、団長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、カイ君。始めようか」

 

「カイ、カイ!!」

 

 

キリトを麻痺させ終えたヒースクリフが、俺と真正面から相対する。キリトが叫んでいる。仕方ない、反応してやるか。

 

 

「なんだよキリト、うるせぇな」

 

「うるせぇなじゃないだろ!!どういうつもりだ!?」

 

「どうもこうもねぇよ。こいつとは一度、本気で殺し合いをしてみたかった。それだけだ。お前は今はそこで見てろ」

 

「そんなこと……っ?」

 

 

キリトが、俺の発言の違和感に気づいたようだ。口を噤んでくれたのを幸いに、俺はヒースクリフに向き直る。

 

 

「ヒースクリフ、戦いを始める前に一つ。

勝負の方式は、俺のHPはこのままで、お前のHPは全回復。俺はお前をレッドゾーンに追い込んだら勝ち。お前は俺に強攻撃一発当てたら勝ちだ。これでいいか?」

 

 

俺のHPは、強攻撃一発で散らされる程度にはスカルリーパーに削られている。つまり、俺はヒースクリフを追い込めば勝ち。あいつは、俺を殺したら勝ちってことだ。さっきキリトには殺し合いと言ったが、俺にこいつを殺すつもりはない。

 

 

「私は別に構わないが。何故そのようなハンデを?」

 

「お前に教えてやりたいのさ。このゲームをクリアするって覚悟を持った一人のプレイヤーが、お前のゲームに真剣に打ち込んでお前の想像を絶する程強くなったってことを。―――お前が死ぬ前に、な」

 

「……ほう、面白い。ならばその力、見せてもらおう」

 

 

ヒースクリフが、自分の不死属性を解除するついでにHPを回復する。

俺達が示し合せたように武器を構えた瞬間、誰かの呟きが響いた。

 

 

「……ちょっと待てよ。…………おい!ちょっと待てよ!!」

 

 

否、叫び声が響く。

俺達は動きを止め、声のした方向を見やる。

倒れているプレイヤーの一人が声を張り上げていた。

 

 

「先に正体に気づいてたって、いつ気づいてたんだよ!?それって、確実にこのボス戦の前だろ!?なら、なんでその時に戦わなかったんだ!!戦ってれば、それでもし勝ててれば……このボス戦が発生することもなくて、あいつらが死ぬ必要もなかっただろ!?おい、どうなんだよ!?」

 

「……そ、そうだ………!その通りだ……!あいつらを殺したのは、お前だ!」

 

「お前、どうすんだよ!?責任取れんのかよ!?」

 

「今回のボス戦で死んだ奴だけじゃない!きっと、こいつが気づいたって日から今日まで死んだ奴は、下層も含めてたくさんいたはずだ!そいつらの分の責任も取れんのかよ!?」

 

「何考えてんだよてめえ!!この、人殺し!!」

 

「ふざけんな!あ、あいつらの代わりに……お前が死ねばよかったんだ!!」

 

「そうだそうだ!」

 

「死ね!死ねぇ!!」

 

「お前なんて死んじまえ!!」

 

「お、おい……なんてこと言ってんだ……!」

 

「やめなよ、そんなことを言うのは……!」

 

「お前ら、ふざけたこと言ってんじゃねぇよ……!」

 

「…………」

 

 

倒れている他のプレイヤーも、口々に俺への呪詛を吐き出し始める。

エギルやクライン、ケイタなど俺に近しい人が庇おうとしてくれるが、その声は大音量の呪詛に掻き消される。

親友は、黙して何も語らない。その目が、『俺はカイを信じてる。だから、やってくれ』、と。そう言ってる気がした。シリカも、祈るように俺を見つめていた。

唯一無二の親友と、最愛の恋人に信頼されている。それだけで、力が際限なく湧いてくるようだ。

 

 

こいつらの言い分は、まったくもってその通りだ。今日のボス戦で死んだ奴らは、俺が殺したも同然だろう。それだけじゃない。俺がヒースクリフとデュエルをしたあの日――もっと言えば、確証まではないもののほぼ確信を持っていたあの頃から今日までで死んだ奴らも、俺が殺したと言えるかもしれない。

俺が茅場晶彦の犯罪の手助けをした結果になっているのかもしれない。

 

……でも。でもな。俺は、どれだけ人殺しと罵られようと、犯罪者と蔑まれようと、この選択をしたことに後悔はない。

確かに、茅場晶彦は天下の大罪人だろう。それは間違いない。俺もあいつのしたことが善行だとは思っちゃいねぇさ。

だが、俺は奴が作り出したこの世界は素晴らしいものだと思っている。そこは褒められるべきなんだ、こいつは。現に、この事件が起きるまでは茅場は『いい人』『素晴らしい天才』として知られていた。まあここでやったことは最低の一言に尽きるけど。

 

こいつは、この世界の行く末を――そして、俺達を見たかっただけなんだ、きっと。生を求める、渇望する俺達の姿を眺めていたかっただけなんだ。

俺はこの世界で、シリカを初めとしてたくさんの素晴らしい友人たちに出会えた。きっと普通に暮らしているだけでは手に入れられなかった、素晴らしい仲間。俺をこんな人達と巡り合わせてくれたのはこのデスゲームだ。………それに、俺は神野とも再び相対することができた。今思い返しても殺意しか湧かねぇが、奴の生存を確認できたのはよかったことと言える。俺がこの手で殺せる可能性が出てきたんだからな。

このことに関して、俺は茅場に一方的な恩義を感じている。だから、奴の願いを手伝ってやろうと思った。俺以外にヒースクリフの正体に気づく者が現れるまで、俺が気づいたことは明かさない―――そうすると、決めた。

 

――だが、これは俺のエゴだ。こいつらには知ったこっちゃねぇだろうし、俺も言うつもりはない。

なら、俺はどうすればいいのか――?

こいつらの怒りの源は、『俺がさっさと明かさなかったせいで、たくさんのプレイヤーが死んだ()()()』という曖昧なものだ。今日死んだプレイヤー達の死の責任を、俺に負わせられるということを無意識下で考えている奴もいるだろうな。

こいつらが怒っていられるのは、俺がどういう奴なのか明確になっていないから。俺が酷い人間()()()と推察されるからこそ、こいつらは俺に怒りをぶつけられている。だが、目の前にいる本当の狂人に怒りをぶつけられる奴は少ない。何をされるかわかったもんじゃないからな。それも、身動きが取れない状況では尚更。

 

 

――――なら、俺は狂人を演じてしまえばいい。

 

 

「くっ、くくく……」

 

 

俺は肩を震わせて笑い始める。俺の様子に気づいたプレイヤーが一人、また一人と俺を訝しむ様子で口を噤んでいく。

 

 

「くくく……きっははははははは!!」

 

 

俺が声を上げて狂ったように笑うと、誰もが言葉を失った。

 

 

「くくっ……俺があいつらを殺したって……?……そうだな、その通りだ。それは正しい認識だろう。――だが、それがどうした?」

 

 

俺はプレイヤー達を見渡し、嘲りを多分に含んだ言葉を投げかける。俺の意図を読み取れない奴ら全員が唖然としていた。親しい奴には、俺の意図がバレてるっぽい。なんか恥ずかしい。

 

 

「俺はそいつらには興味もねぇし……俺にとって大事な連中を守れるくらいの力は俺にはあるしな。俺はそいつらを守れれば十分だ。俺はこのゲームを長く楽しんでいたかったんだよ。だって最高だろ?いつも死と隣合わせで戦えるなんて、そうそうないぜ?」

 

 

イメージは、神野猛。奴の性格を俺風にアレンジしたら、多分こうなる。

悪者を演じろ。どうしようもないクズ野郎を演じろ。行き過ぎた狂人を演じろ。

 

 

「な、なんだこいつ……」

 

「狂ってる、狂ってるよ……」

 

 

先ほどまで俺に怒りをぶつけていたプレイヤー達は、今は恐怖の眼差しを向けている。

 

 

「くく、お褒めに預かり光栄だ……。そんな楽しいデスゲームで、こいつと一対一で戦える状況だぜ?自分が強くなってからの方がより楽しいじゃねぇか。――さて、さっき俺が死ねばいいとか言った奴は……最初は、お前だったな」

 

「ヒッ!?」

 

 

俺は、一人のプレイヤーの前に全力で移動する。俺が死ねばよかったんだと口火を切った奴だ。

静かにしていてほしい。だからちょっと、脅かしておこう。

 

 

「オラアッ!!」

 

「ヒイィッ!?」

 

 

俺は、アイテムストレージからシリカが予備に持っていたものの使ったことのなかった短剣を取り出し、そいつの目の前の床に突き立てる。短剣が床に突き刺さり、硬質な音が響く。

 

 

「俺は、集中してあいつと殺り合いたいんだよ……。――――――今度騒いだら、騒いだ奴から順番に首を落としていくからな。騒いでない奴らも同様にだ」

 

 

俺が睨みつけながらそう脅すと、プレイヤー達は目を逸らして縮こまる。

……よし、これでいい。

 

俺はヒースクリフに向き直る。

 

 

「やっと静かになったな」

 

「そうだな、感謝する。ではやろうか?」

 

 

ヒースクリフが剣と盾を構えようとするが、それを俺は遮る。

 

 

「あ、ちょっと待ってくれ。やることがあるのを忘れてた。お前にもちょっと手伝ってもらいたいんだけど」

 

「ん?何かな?」

 

「シリカの麻痺を一時的に解除してくれ。シリカにウィンドウを操作してもらう必要があるからさ」

 

 

ヒースクリフは一瞬思案し、頷く。

 

 

「……よかろう。シリカ君の麻痺を解除する」

 

「助かる」

 

 

言って、ヒースクリフがメニューを操作する。俺もメニューの操作を始め、ある条件でのある行為をシリカに送り付ける。それは――――。

 

 

「なっ……!?カイ、どういうこと!?シリカちゃんと()()しようだなんて!!」

 

 

アスナが叫ぶ。そうか、シリカの前に表示されたウィンドウの文字、あそこから読めちゃったのか。

 

――今アスナが言ったように、俺がシリカに送り付けたのは離婚申請だ。事前に、シリカには伝えてある。

 

…………伝えてあるとはいえ、すげぇ辛いな、これ……。身が引き裂かれそうだ。この後、心にもないことをシリカに言わなきゃいけないし……マジで心折れそう。

 

 

「ハッ、だからなんだってんだ?所詮ただのデータだろ」

 

 

――――――うわぁぁぁぁぁああああああ!!ごめん!!ごめんよシリカ!!あああ伝えてあったけどすんごい悲しそうな顔させてるぅぅぅぅうううううう!!!!いや本当にごめん!!謝って済む問題じゃないけどホントごめんなさい!!俺は感情を表情に出すわけにはいかないから無表情を貫いてるのが余計心苦しい!!本っ当にごめんなシリカ!!

 

アスナだけじゃなく、この場にいる――俺とシリカを除いた――全員が絶句する中、シリカが泣きそうな顔でウィンドウにタッチする。OKボタンを。

 

離婚が成立し、俺のアイテムストレージは俺が望んだ状態になった。――この瞬間、シリカの状態が変わったことに気づいた人間はいるかな?

 

――――ってああああシリカちょっと泣いてる!!いやホントごめん!!後で埋め合わせは死ぬほどするから!!今はホントごめん!!言葉にすらできない俺を許してくれ!!

 

 

「さて、殺ろうか?」

 

 

必死に平静を装い、ヒースクリフに話しかける。

 

 

「………驚いたな。君が離婚するとは」

 

 

さしものヒースクリフも、結構本気で驚いているようだ。別に驚かせたかったわけじゃねぇよ。

 

 

「まあいい。では始めよう」

 

「……ああ」

 

 

俺達は、それぞれの武器を構える。

 

――さあ、ここからは、()()()()()()()()で行くぜ!

 

 

 

 





いかがでしたでしょうか?

カイもあれで色々考えているんです。

次回、激闘の予感!
と、自分で煽ってみる。

戦いが盛り上がるように頑張ります。

では、また次回。
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