と言っても、少し前までに比べれば格段に早いですけどねー。
ま、そんなことは置いといて。
どうぞ。
……っと、そうだ。忘れてた。
「……何をしている?」
「ん?ああ、ちょっとな。別に攻撃してきてもいいぞ」
「……舐められたものだな」
俺はヒースクリフを視界に入れながら、メニューを操作する。えーっと……。
「ならば……行くぞっ!」
「だから宣言しなくてもいいって」
律儀に宣言してから突っ込んできたヒースクリフにそう告げて、奴の斬り下ろしを躱す。
続く斬り上げ、回転斬りも容易く回避。並列思考を使えば、メニューを操作しながらヒースクリフの動きを見るなんて容易いことだ。
……うし、終わった。
「むんっ!」
「――シッ!」
「何っ!?」
俺は
ヒースクリフは俺に弾き飛ばされ、結果的に距離を取ることになる。奴は驚愕の表情を浮かべていた。
「どうした?」
奴が驚愕している理由を理解していながら、敢えて訊く。
「どうしたもなにも……!君はわかってて言っているだろう……!何故だ!?何故君は
ま、そうだよな。それが原因だよな、わかってたさ。俺は茅場に感謝している部分もあるが、全体的に見ればやっぱりこいつのやったことは気に食わねぇ。僅かばかりの気晴らしだ、付き合ってくれよ。
「誰が教えるか。……と、言いたいところだが。まあいいや。ヒースクリフ、お前はさっき、こう言ったな。『《二刀流》スキルは全プレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられる』、と」
「あ、ああ。だからこそ、キリト君に与えられた。だが、それがどうした……?」
「お?察しが悪ぃな?結構動揺してんのか?わからないならヒントだ。――もし、キリトと同等の反応速度を持つ者がいたらどうなると思う?」
「な、まさか……いやしかし!全十種あるユニークスキルは一プレイヤーにつき一つしか与えられないはずだ!それに、キリト君が《二刀流》スキルを失ったわけでもない!」
ヒースクリフは動揺を露わにしたまま、叫び続ける。
「仮にカイ君がキリト君と同等の反応速度を有していたとしても、君が《二刀流》スキルを出現させることはできないはずだ!それに《二刀流》スキルは、片手剣を二本装備した状態でスキルを使えるというもの!何故短剣で同じことができている!?」
「同じことじゃねぇさ」
「何……?」
俺の呟きにヒースクリフが反応し、訝しげな声を上げる。
俺は親切丁寧に説明してやる。
「わからねぇようだから教えてやる。これはカーディナルシステムが自己判断で作り上げた、既存のスキルのどれにも当てはまらないスキル、《双短剣》スキルだ。効果は簡単、短剣と何かの装備状態なら、そのままスキルを使えるってだけだ。この簡潔かつ完璧な説明で理解できたろ?」
「な、何だと……!?《双短剣》スキル……?しかし、カーディナルシステムが独自に作り上げたなら私が知らないのも無理はない、か……。ふむ」
ヒースクリフはようやく落ち着きを取り戻したようだ。理屈で納得が行ったことと、効果がわかったから落ち着けたのだろう。
――――まあ、今言った効果で全部じゃねぇけどな。それはヒースクリフもわかってるだろうよ。
「納得はいったか?じゃあ、行くぜ?覚悟しろよヒースクリフ。お前に勝ち目はない」
「ふっ、そんなのやってみなければわからないだろう?それに、負けフラグという考え方もある。今、君は完璧なまでに負けフラグを建築していたね」
「そんなフラグ、俺が力技で叩き折ってやるよ」
俺達の間に静寂が訪れ――――次の瞬間、俺も奴も同時に飛び出す。
先に仕掛けたのはヒースクリフだった。
盾を斜め上に突き上げ、俺の顔面を打とうとしてくる。
俺は姿勢をさらに低くすることで走りながらそれを回避。しかし、ヒースクリフはその動きを読んでいた。盾に隠れるように十字剣を動かし、俺が切っ先に飛び込んでくるのを待っていたんだ。
だが俺も、その程度の戦略は予想済み。右手に持つ短剣を光らせ、ソードスキルを使う。
カカァン!!
と高い音が立て続けに響き、ヒースクリフの長剣が俺の身体の右側に流される。
短剣ソードスキル二連撃技《サイド・バイト》。このスキルは、使う手の側から身体の内側に向かう軌道で一回、そこから身体の外に斬り払うので二回の連撃だ。それにより、ヒースクリフの長剣は俺の右側に弾かれた。
さて、自身が右手に持つ物を、自分から見て左側に流されたらどうなるか?答えは簡単だ。――――右の脇腹ががら空きになる。
ヒースクリフの野郎は、俺が技後硬直で動けなくなるからその隙に体勢を戻せばいいと考えてるかもしれねぇが……お生憎様。
「チェンジレフト。《ショート》・トゥー・《フリー》」
「ぐっ、しまった!?」
今更思い出しても遅ぇよ。双短剣スキルが出現したおかげで、俺には変更時に左右の選択権を与えられた。
俺の左手に持つ短剣――さっきスカルリーパーを倒した時に入手したラストアタックボーナス品だ――が紺色に光り輝き、俺はそれを振り上げる。
ヒースクリフの右腕を軽く斬り裂いて、短剣が消失する。そして短剣の代わりと言わんばかりに眩く輝く拳を握りしめ、俺は裂帛の気合いと共に拳を打ち出す。
「はああああああっ!!」
「ぐっ!?」
俺の打ち出した拳は俺の狙い通りにヒースクリフの右脇の辺りを打ち抜き、奴の体勢をさらに崩した。
そして俺の体勢。左手を前に突き出し、右の短剣は腰だめに構えている。ここから繋げるのは――――とあるスキル。
「ぜりゃぁぁぁあああああ!!!!」
俺の雄叫びに背中を押されるように《ヴァイヴァンタル》が奔る。
最初は右下から左上に、続けてその軌道をなぞるように短剣が引き返す。
俺は右に一回転、どさくさに紛れて左の肘がエルボー気味にヒースクリフに突き刺さる。
続く攻撃は左下から右上に、斜めに斬り上げる一撃。そして先ほどの光景を鏡に映したかのような斬り下ろしがヒースクリフを傷つける。
今度は左に一回転。左の裏拳が体勢を立て直そうとしていたヒースクリフにその行為を許さない。
攻撃はまだまだ続く。システムアシストのまま頭上に振りかざした短剣を振り下ろし、瞬時に同じ軌道で真上に斬り上げた。
短剣が左に流れかけ、同時に右足が浮きかける。その寸前に右足で地面を軽く蹴り、左回転を促進。
そのまま左足一本で軽めの跳躍。空中で左足軸の回し蹴りを叩きこみ、右足で着地。
流れるような動きのまま左の後ろ回し蹴りがヒースクリフを襲い、増々体勢を崩させる。
ここまでやってもまだ終わらない。左回転によって右から勢いを持って現れた短剣が、ヒースクリフの身体を俺から見て右から左に駆け抜ける。
次いでシステムによって弾かれるように短剣が翻り、今来たばかりの道を戻る。
くるくると独楽のように回る俺は、システムに導かれるまま左足を前方に突き出す。勝手に身体が沈むのを自分の力でもアシストし、素早く身体を沈めた俺の水面蹴りがヒースクリフの足を掬い取った。
最後の回転を終えた俺は短剣を身体の左側にピタリと近づけ、ヒースクリフを見据える。今までの四本の軌跡が交わる一点、そこを目掛けて《ヴァイヴァンタル》で全力の突きを放つ。
俺の渾身の一撃を受けたヒースクリフは、受け身も取れずに吹っ飛んでいく。
短剣体術複合スキル重攻撃十四連撃技《イニラクタブル・インパクト》。
純粋な短剣スキルという枠組みでは一番強いスキルは《エターナル・サイクロン》で間違いないが、複合スキルも入れるなら話は別だ。確実に、この《イニラクタブル・インパクト》が一番強い。現に、今の一撃でヒースクリフのHPを二割半削ることに成功した。
――まあ、だからと言って油断するつもりは毛頭ないし、このまま追撃するけどな。
俺は硬直が解けるや否や走り出す。ヒースクリフも起き上がり、瞳に戦意を宿しながら向かってきた。
俺は走りながらメニューを操作し、《クイックチェンジ》で左手に短剣を装備する。シリカが先ほどまで装備していて、俺に託してくれた物だ。さっきまとめて設定しておいた。この短剣を握っていると、シリカの応援する声が聞こえる気がする。
「っしゃ行くぜオラァ!」
「……ッ!」
ヒースクリフは叫びはしなかったものの、気合いを入れて斬り結んできた。しかし、短剣二本で迎え撃っているとはいえ流石に俺が不利だ。ここは――。
ヒースクリフに気づかれないようにじりじりと体勢を変えてほんの少し半身になる。左足を前、右足を後ろに。
「――――むっ!?」
気づいたか!?だが、ちょっと遅かったな――――!!
「でりゃああああ!!」
「ぐうぅぅぅぅっ!?」
体術スキル単発技《烈脚》。《閃打》と同様に体術スキルの基本技だが、これは現実にもある武術に似ている。ブーストが面白いくらい掛けられるぜ―――!!
俺の右足の回し蹴りがヒースクリフの盾を強かに打ち、ヒースクリフがまたしても体勢を崩してしまう。狙い通りだ。
身体ごと奴の十字剣を押しやり、奴の懐に潜り込んだところでスキルを発動させる。
「これが、俺が新たに得た力だ。受け取れ――――ッ!!うおぉぉぉおおおおっ!」
両手に持つ二振りの短剣が光り輝く。そして、それぞれが爆発的な速度で動き始める。
身体を回転させながら、生き物のように動く短剣をコントロールする。
ヒースクリフの長剣と盾を外に弾き出し、鎧ごとヒースクリフを斬り裂くことを試みる。
が、奴の鎧の防御力は中々の物で、そこまでのダメージを与えられない。
それでも、連撃の中で時折発生する鎧の隙間を縫う攻撃がクリティカルヒットし、その度にヒースクリフのHPバーががくりと減少する。
双短剣スキル十二連撃技《デュアル・リズミカル》。
双短剣スキルの基本スキルの一つで、その中では一番多い攻撃数だ。もちろん、奥義まで含めればもっと攻撃数が多いスキルはある。
ヒースクリフのHPバーは、六割ってところか。普通の奴に使ったら五割くらいにはできるコンボなんだがな。
一方俺は、この戦いの中では一度も攻撃を喰らっていない。まあ、喰らったらほぼ確実に死んじまうし。
ちょっと疲れた。一息吐く。
「よお、どうだ?結構強くなっただろ、俺」
「……ああ、想像を遥かに超えている。だが、もう驚きはしない。君の独壇場はここまでだよ、カイ君」
「……さて、それはどうかな?」
「……何?」
なんせ俺は――――
「んじゃあ、続きと行くか!!」
「もう好きにはさせん!」
俺とヒースクリフは互いの距離を瞬時に潰し、武器を振りかぶる。
奴は通常攻撃。俺は武器にライトエフェクトの輝きを乗せる。
「むん――っ!」
「――ハッ!!」
いくら俺が様々な戦闘技術を培っているとはいえ、いかんせん武器の重量が違いすぎる。
確実に迎え撃つために、ソードスキルを使う――!
奴の横殴りに斬りつける攻撃に対し、俺が使うのは短剣スキル四連撃技《リターン・クロス》。
斬り上げと斬り下ろしが、勢いのついたヒースクリフの長剣を押し止め、弾き返す。
俺の横方向の二連撃は、奴の盾の強固な守りに阻まれた。
俺の攻撃を防いだヒースクリフはニヤリと笑い、十字剣を引き俺に止めを刺す体勢に入ろうとする。
――――学習しろよな、ヒースクリフ。これは忘れちゃいけねぇことだぜ。
俺の二本の短剣が、光を帯びる。
「武器スキルのカテゴリが違えば、連撃にできることを忘れたか?《ディファレント・エッジ》」
もし本当に忘れていたんだとしたら、俺の成長が余程堪えたのか。思考に精彩を欠き過ぎだろう。
俺の放った、双短剣スキル二連撃技《ディファレント・エッジ》。それぞれの短剣に、ランダムで状態異常を一つ付与するスキルだ。麻痺やスタンになることもあるし、マイナーである……おっと、出たな。
今ヒースクリフは、一瞬怯んでから床に倒れた。
恐らく、先に斬りつけた右の短剣には、《スタン発生》が。そして左の短剣には、《
それにしても、ヒースクリフの奴。どっちともあっさり喰らっちまったよ。ここから俺の攻撃が続くんだが……いいのかね。
――ま、遠慮なく行かせてもらうけどな。
並列思考を用いて、超短時間でそんなことを考えた俺は、一言告げる。
「チェンジレフト。《ショート》・トゥー・《メイス》」
俺は左の短剣を奴に叩きつけ、新たに現れたメイスでは軽く叩く程度にしておく。
叩きつけなかった理由は――――スムーズに次のスキルに繋げるためだ。
鎧に弾き返されて、メイスを左肩に担ぐような体勢になった俺は、普段は余り使わないソードスキルを使う。
「くっ……!」
転倒が解けたヒースクリフが呻き声を上げてその場から離脱しようとするが――逃がさねぇよ?
「フッ!」
俺は右肩からヒースクリフに体当たりし、奴の体勢を崩す。
さらに追撃と言わんばかりに放たれたメイスが、左上から右下に振り下ろされる。
勢いのまま両手を地面につき、側方倒立回転のごとく回転し、左足、右足の順に蹴りつける。
メイスの追撃で倒れなかったのが不思議なくらい体勢を崩されていたヒースクリフは、間隔の短い脚の二連撃で耐え切れずに遂に転倒。
そこに襲い掛かるのは、思いっきり振りかぶられたメイスによるフィニッシュの一撃。
強烈な叩き付けがヒースクリフの胸を強打し、ヒースクリフが堪え切れなかった様子で息を吐き出す。
棍体術複合スキル五連撃技《タイタニック・スマッシュ》。どこからタイタニックを取ってきたのかはわからない。
このスキルは、脚の二連撃で転倒させられなければ手痛いカウンターを喰らうこともある難しいスキルだ。今はヒースクリフが焦って行動していたから助かった。
今現在のヒースクリフの残りHPは、五割強。流石に堅いな。《イニラクタブル・インパクト》がどれだけ強いスキルなのかがよくわかる。
ただまあ、俺のラッシュはまだ半分もやってない。ここからが本番だ。
「チェンジレフト。《メイス》・トゥー・《レイピア》」
「くっ……!」
完全な硬直に陥る前に、小さく呟く。
苦悶の声を漏らすヒースクリフに容赦なく棍を叩き付け、掻き消えた棍の代わりに現れた細剣でヒースクリフを斬り裂く。
繋げる攻撃は……今のヒースクリフの様子から見るに、細剣スキル《スター・スプラッシュ》がいいかな。
左手に持った細剣が凄まじい速度で閃き、ヒースクリフを、打つ、打つ、打つ!
だが、流石はヒースクリフ。俺の使ったスキルを即座に看破すると、攻撃に軌道上に盾を細かく移動させる。
さて、次は短剣スキルに繋げるとしてだ。どうするかな……。
――――いや、待てよ?予定変更。
俺の《スター・スプラッシュ》を半分以上防ぎぎったヒースクリフが、俺の次なる攻撃に備える。盾を前面に押し出し剣を僅かに引いて、万全の防御体勢だ。
さっき思いついた案を実行するためには……これだな。
右手の《ヴァイヴァンタル》が光り輝き、襲い掛かる。――――ヒースクリフの剣と盾に。
「――ぬっ、これは!?」
「気づいたか!?その構えが仇になったな!!」
短剣が翻り、盾とぶつかって高い音を立てる。それが五回。
最後の突きの一撃がヒースクリフの盾を弾き、ヒースクリフの身体と剣を俺の前に晒す。
剣の横っ面を殴りつけるように短剣が奔り、ヒースクリフはそれに刃を合わせて食い止める。
最後の正面から横に斬りつける一撃も、ヒースクリフは剣を垂直に構えてしっかり受け止めた。
短剣スキル八連撃技《ブレイク・ダウン》。
このスキルの効果は……まあ、見てればわかるさ。
「チェンジ。《ショート》・トゥー・《ボウス》」
攻撃を緩めるとそれが命取りになるからなぁ……。
《ブレイク・ダウン》を使い終わって長剣に接していた短剣が輝きに包まれ、鋭い一閃が長剣を弾く。
そしてがら空きになった胴目掛けて、両手剣の重たい一撃が放たれる――――!
「ぬ……ぬおぉぉぉぉおおお!」
――ヒースクリフの眼に、迷いが生まれた。
しかし、それも一瞬。ヒースクリフが逡巡を振り切り、盾を眼前に構える。
俺は両手剣を振り抜き、ヒースクリフは大きく吹き飛ばされる。
ヒースクリフの靴が床をがっちり踏みしめ、少しの後、後退を抑えきる。
そして、その手に持っていた盾が――――
「くっ……あそこで《ブレイク・ダウン》を使ってくるとは」
ヒースクリフが悔しそうに呟く。
短剣スキル《ブレイク・ダウン》。その効果は、
長剣の方は上手く受け切られたから大して耐久値の減少はないだろうが、盾はまともに喰らってたからな。
そこに、両手剣の大振りの一発だ。重量級武器の振りかぶった一撃ともなれば、その衝撃が大きくなることは必至。かなり弱っていたヒースクリフの盾は、俺の両手剣の攻撃のダメージを相殺するだけで限界を迎えてしまったわけだ。
「まあなー。あそこは使うだろ」
「……その可能性を失念していた。……君には、尽くを狂わされているな」
「あんたから冷静な判断力を奪えてんなら、そりゃ気分がいいぜぇ?」
「本当に性格が悪いなっ、君は!!」
「それはお互い様だっ!!」
相手を罵り合い、すぐにお互いの得物を構えて同時に駆け出す。
奴は十字剣を右肩から突き出すようにして突進してくる。俺は左腰で両手剣を下段に構える―――――
そして、交錯の寸前――――!
「セリャッ!」
「くおぉぉっ!?」
流石にこれは意表を突けると思ってた!
俺が左指で抜き取ったのは、《フリンチャー》。そして撃ち出すのに使ったスキルは、《スタンシュート》。
その結果起こるのは、ヒースクリフの動きを止めるハイレベルなスタン。
そして俺はそれを活かして――――ヒースクリフを、潰す!!
今度こそ本当に左手でも剣の柄を握り、ソードスキルを発動させる。
両手剣の刀身から光が爆発的に溢れ出し、硬直して動けないヒースクリフ目掛けて剣の腹が襲い掛かる。
「ぐぬぅぅぅううう!?」
「くははっ、続けて行くぜぇ!!」
まだまだソードスキルは続いている。……ってかこの高笑い、俺が悪者みてぇだな。ま、いいか。
そのまま両手剣は、ヒースクリフの左肩からⅤ字の軌道を描いて右肩に抜ける。
両手剣スキル三連撃技《ディバイン・アーク》。
特にこれと言った効果はないが、スタンが効いている間に両手剣のソードスキルは終わらせたかった。そのために、三連撃っていう短いスキルにしたんだ。ちなみに、和訳したら神の箱舟って意味になる気がする。なんて大仰な。
「チェンジレフト。《ボウス》・トゥー・《ロング》」
両手剣を大上段に振りかぶり、ヒースクリフの脳天に叩き落とす。剣の腹で頭を殴られたヒースクリフは、無理矢理体勢を低くさせられた。
そのままヒースクリフの顔面を斬りつける軌道で片手剣《シュトリケイショナー》を振り上げる。
「……チッ」
《シュトリケイショナー》は刀身が一般的な片手剣に比べて僅かに短いんだが、それが災いした。やっとのことで硬直から解放されたヒースクリフが、頭を振ってギリギリで攻撃を躱しやがった。
ラッシュは一旦ここで終わりだ。《簡易変更》スキルの短い硬直に入る。
ヒースクリフはまだ攻撃してくると予想していたのか、完全に受けの体勢を取っていた。俺が硬直しているのに気づいて慌てて攻撃してくるも、それじゃあ遅いな。
「ダメだぜヒースクリフ?状況判断は正確にな」
「君は一々……ッ!本当に腹立たしいな!」
「ははっ、怒るな怒るな」
「怒らせているのは君だろう!!」
あー、ヒースクリフって煽り耐性低いなぁ……面白すぎる。
左手の片手剣一本でヒースクリフの長剣の攻撃を捌き続ける。俺は並列思考でメニューを操作。さっきわざわざ左手に片手剣を装備した理由はこれだ。メニューの操作は右手でしかできないし、いくら俺でも右手に剣を握って攻撃を捌きながらメニューを呼び出して操作するとか無理だから。
よし、これでボタンを押せば俺のやりたいことはできるな。――あとは、タイミング。
「むぅぅぅぅううううううん!!」
タイミングよく、ヒースクリフが裂帛の気合いとともに十字剣を振り下ろしてきた。
俺はヒースクリフの右手側に駆け抜けながら剣を合わせる――――――
「なあっ!?」
ヒースクリフが素っ頓狂な声を上げる。まあ、それもそうか。剣同士を打ち合わせるかと思いきやその衝撃が来なくて、
立ち位置を入れ替えた俺達は身体を反転させて向き直る。
ヒースクリフは呆然とした表情をしていた。
「今のは……何を……?」
「クイックチェンジ」
答える必要はないが、ヒースクリフに敗北感を植え付けるためにすぐに答えてやる。
ヒースクリフは俺の言ったことを理解したのか、見る見るうちに表情を驚愕に変えていく。
「まさか……あそこでクイックチェンジだと?……ということは、メニューを操作し始めた時から狙っていたということだろう?僅かにでもタイミングを誤れば、私の剣に斬り裂かれて死ぬだけだったというのに……何という度胸だ……!?」
「ヒースクリフ、お前が言ったんだぜ?『《簡易変更》スキルは最高の状況判断能力と対応力を兼ね備えた者に与えられる』ってな」
「それにしても……規格外すぎる……!!」
「さて、そろそろ終わらせるぞ?」
今、ヒースクリフのHPは四割強。一割ラインまで削ろうかな。
俺はダッシュしてヒースクリフに接近、左手の短剣を突き出す。
「……くっ!」
ヒースクリフもそれを迎え撃とうとし、長剣を突き出そうとしてきた―――狙い通り。
「それは罠だぜ。――チェンジライト。《フリー》・トゥー・《ショート》」
「しまっ!?」
短剣と長剣では、リーチが違いすぎる。俺が短剣で攻撃してきたら、ヒースクリフは長剣で迎え撃てばいい。それだけで、ヒースクリフの勝ちになる。本来ならな。
俺は光り輝く右拳をまんまと誘い出された十字剣の腹に叩き込む。スキルを使った一撃は、ただ握っているだけでは耐え切れなかったのか。ヒースクリフが十字剣を手放してしまい、剣は左方向に飛んでいく。
俺は次の行動をちょっと変更。最初は短剣で斬りつけるつもりだったが、殴るべきだな、これは。
右手に現れた《リーピング・ボーン》という名前の無骨な短剣を握りしめ、短い刀身の腹で目一杯殴りつける。ヒースクリフを長剣から遠ざけないとな。
この短剣が、さっきのLAボーナスだ。パラメータとかは見てないが、感覚的に《ヴァイヴァンタル》には劣る。
まあそんなことはどうでもよくて。
「覚悟しろよ、ヒースクリフ――――ッ!!」
「ッ!?」
俺は短い硬直が解けるや否やヒースクリフ目掛けて突進。
両手の短剣を光り輝かせ、連続して振るう。
最小の動きで、とても短い間隔で攻撃する。一つ前の攻撃の残像が残っている間には次の攻撃が終わっていて、その残像が消えるころにはさらに次の斬撃がヒースクリフを斬り裂こうとしている。
――恐るべき速度での連撃が終わったころには、ヒースクリフのHPは一割強ほどになっていた。
双短剣スキル奥義技《ルーナ・イクリプス》。三十四連撃のこの技は、恐らくカーディナルが対の意味を持たせようとしたんだろう。――キリトの二刀流スキル奥義技《ジ・イクリプス》と。まあ、厳密には対の意味じゃない気もするけど。
「チェンジレフト。《ショート》・トゥー・《ブレード》」
続けて行こう。硬直が俺を襲う前に、《簡易変更》スキルを発動。シリカ愛用の短剣《ハートピース》を紺色の輝きが包み、俺はそれを一閃。ヒースクリフの頬に一筋の切り傷のエフェクトが生まれる。同時に消えた両手の短剣の代わりに現れた刀《時雨》を振り下ろし、ヒースクリフに更なるダメージを与える。
連続で《簡易変更》スキルは使えないから……これかな。
《時雨》を全力で斬り上げ、ヒースクリフの身体を僅かながら宙に浮かせる。
カタナスキル単発技《浮舟》。
懐かしのコボルドロードも使っていたな。低威力だが、相手の行動を阻害するっていう意味ではとてつもなく重宝するスキルだ。
「チェンジライト。《ブレード》・トゥー・《
《双短剣》スキルを得たことによって、左右の変更を指定できるようになったのはさっき言ったよな?それの副次効果で、片手で装備できる行き先に限り、左右で一回ずつ使えるようになった。
つまり、俺がこのヒースクリフとの戦いでまだ使える行き先は、左が《ショート》《シミター》《フリー》。右が《ロング》《レイピア》《シミター》《フリー》。左右に関係ないのが《スピア》《アックス》だな。
行き先のメイスが二度出てきたことに驚いたのか、ヒースクリフが驚愕の表情を再び浮かべている。
それを無視して《浮舟》とほぼ同じ軌道でヒースクリフを再び斬り上げ、右手に収まった片手棍で宙に留まっているヒースクリフを打ち上げる。
「ぐっはぁっ!?」
ヒースクリフが苦しそうな声を上げる。が、目を開けて俺の構えに気づいたのか、慌てて両手を交差させてガードを固めた。
「《グランドオウル・インパクト》ッ!」
全長五メートルはあるかというゴーレム、《ギルゴレム》のパンチとギリギリとはいえ打ち合えたほどの高威力を誇る《グランドオウル・インパクト》。
その一撃は、両手を交差するくらいで堪え切れるものではない。
「ぐおぉぉぉおお!!」
あの冷静沈着な男にここまで苦しそうな声を上げさせていると思うと、何とも言えない感慨がある。俺達を苦しめてくれた礼、たっぷりさせてもらうぜ。ん、でも思ったよりダメージ与えられてねぇな。ちょっとミスったか。もし今ので《ギルゴレム》と打ち合ってたら負けてたな。
「デュアルチェンジ。ライト、《メイス》・トゥー・《フリー》。レフト、《フリー》・トゥー・《フリー》」
《簡易変更》スキルの最後の変更方法、両手同時変更。
噛まないように、できる限り早口で宣言する。《グランドオウル・インパクト》によって打ち上げられていたヒースクリフが落ちてくるのに合わせて、紺色の輝きに包まれる棍と拳を同時に叩き込む。
それにより、一瞬ヒースクリフを空中に留まらせる。そして、一瞬あれば十分だ。
その一瞬で右手の棍が掻き消え、両の拳が光り輝く。
一歩跳び退り、ヒースクリフの真下から移動する。落下してきたヒースクリフ目掛けて放つは、双打掌!
「ハッ!!」
「ぐっふぅ!!」
俺の双打掌がヒースクリフに突き刺さり、大きく吹き飛ばす。
奴が止まったのは、弾き飛ばされたあいつの十字剣の近く。これも狙い通りだ。最後は、剣を持ったあいつを捻じ伏せたいからな。
俺はヒースクリフが起き上がる間にメニューを操作し、右手に《ヴァイヴァンタル》を、左手に《ハートピース》を装備する。
俺の左右の腰に鞘が出現し、そこに収められている短剣の柄を握って待つ。
ヒースクリフはよろよろと起き上がり、地面に落ちている自身の長剣を摑んで正眼に構えた。
お互い、仕掛ける様子はない。しかしヒースクリフが口を開く様子もないので、俺から話しかける。
「……どうだった?俺の力は」
「……本当に、何から何まで予想以上で、想定外だったよ」
「そうか。――俺の熱意とか気持ちとかは、お前に伝わったかな?」
「――ああ。十分すぎるほどに伝わった。君に、多大な感謝を」
「やめろ。お前に感謝されても嬉しくねぇ」
憎まれ口を叩いちまったが、あいつが俺に感謝するのは筋違いだ。俺はあいつに少しの感謝はあるが、それはあいつの秘密をバラさなかったことでチャラ。あいつにこの世界の可能性を見せたくて、こんな風に頑張って強くはなったが、それは俺の自己満足のためだ。あいつに感謝される謂れはない。
(――――んじゃあ、行くぜ)
(――――うむ)
俺達は、最後は目で会話しあい、同時に走り出した。ここからは、あいつの一挙一動も見逃さねぇ。
俺は、ヒースクリフの挙動以外は見えなくなっていた。奴が剣を引き、左肩を前に出した。そのまま駆けて来る。俺もヒースクリフに倣うように、走りながら左肩を前に出して右肩を後ろに下げる。
さらにずっと見ていると、ヒースクリフが肩に力を入れたのがわかった。――あ、なんか俺、あいつの狙いがわかったかも。
俺は長年の直感を信じ、その対応の準備に入る。ヒースクリフに気づかれないために誤差と言える範囲で体勢を低くし、さらに体勢を低くできるように意識を切り替える。
俺達の距離が潰れる瞬間、ヒースクリフが俺の予想通りに、剣を横殴りに斬り払ってくる――――
ヒースクリフは躱されるとは思っていなかったのか、長剣を俺に当てようとして無理な体勢になっている。――ダメだな、ヒースクリフ。PvPの経験が足りないぜ?
俺は左手を地面について上体を支え、ヒースクリフの右足に自分の右足を引っ掛ける。
ただでさえ無理な体勢になっていたヒースクリフは、俺に足を取られ転倒。
俺はヒースクリフの足に引っ掛けたままの自分の右足を引き付けるように力を加え、体勢を引き起こす助けとする。左足で地面を蹴りつけ、完全に上体を起こしてヒースクリフに襲い掛かる。
「ハァァァアアアアアッ!!」
俺の右手に握られた《ヴァイヴァンタル》が、ヒースクリフの命を削りきらんと差し迫る――――!!
次回はなるべく早く上げます!
ヒースクリフに襲い掛かる《ヴァイヴァンタル》、その行く末は――――!?
感想とかお待ちしてます!
では、また次回!