黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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お久しぶりです、gobrinです。

…………いや本当にお久しぶりです。実に3年半振りの更新になります。

色々と話すことはありますが、それは後書きで。

アインクラッドから脱出したカイ達の話が始まります。
では、どうぞ。


フェアリィ・ダンス編
第二十九話 新たな戦い


「――――――フッ!――――ハッ!!――ャアッ!!!」

 

 

――――短く息を吐き出しながら、自分の慣れ親しんだ動きを繰り返す。

 

今この瞬間だけは、頭の中を無にして――――。

 

 

 

 

 

「――――はあっ……」

 

 

息を吐き出し、構えを解く。

あのデスゲームから俺達が脱出してから、二ヶ月が経った。

 

 

 

俺達が目覚めたあの日、病院内にいるであろう和人を探しに行こうとした俺だったが、まあ当たり前のように看護師に見つかって病室に叩き戻された。

……うん、まあ、当然っちゃあ当然だわな。

そんで病室に拘束されること数十分、俺のところにスーツ着こんだ汗だくの男が駆け込んできた。

そいつは《総務省SAO事件対策本部》の平田と名乗った。

 

《総務省SAO事件対策本部》。何ともまあ大層な名前だが、実際はできたことはほとんどなかったらしい。

できたことと言えば、俺達被害者の病院の受け入れ態勢を整えたことと、数人のプレイヤーデータのモニタリングをしたことだな。

……いや、十分すげえんだけどな、それ。特に前者。

まあそんなこんなで、俺のこともモニタリングしていた対策本部の連中は、俺の大まかな実力を把握してたそうだ。

色々な話を聞きたくて、俺の病室を訪れたとのことだった。

 

俺は自分の知っていることを教えるのと引き換えに、俺が知りたい情報の提示をそいつに求めた。

 

――――――あの時のあいつの言葉を、俺は忘れないだろう――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ごめんねぇ。私の立場ではそのレベルのことは決められないんだ。もう少し待ってもらっていいかな?もうすぐ上司が来るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふっざけんなぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!

ちょっとドヤ顔でさっきの発言した俺の気持ちはぁぁぁぁああああああああ!!!!メンタルはぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁあああああ!!!!うがぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁあぁぁあああああ!!!!

 

 

……ってなった俺の気持ちを誰かわかってくれ……。

後に俺の病室に現れた平田の上司、菊岡には全力の不機嫌な顔で同じ提案を持ちかけた。ちなみに俺のこいつらに対する態度はここから悪くなった。……あん?八つ当たりだって?ハッ、知ったこっちゃねぇな!

そんで、和人も同じことを――――いや、アスナの居場所だけを訊いたようだった。

――俺は強欲なんでな。シリカの場所はもちろん、本名は知らないエギルやクライン、黒猫団のメンバーなどの居場所までも要求した。菊岡は盛大に顔を引き攣らせながらも了承し、翌日にまた来ると言ってその日は去って行った。

 

そして、翌日――――俺は、未だに目覚めない約三百人のプレイヤーのことと、シリカがその中に含まれていることを知った。

 

 

 

 

 

 

俺はタオルで汗を拭き、シャワーを浴びるために風呂場に向かうことにした。もちろん、道場の掃除は終えている。

 

家族皆で一緒に風呂に入れるように――そんな考えの下作られたうちの風呂は、でかい。端的に言ってでかい。まあ、全員で入ったのなんて俺の記憶にある限りでも片手で数えられるほどだが。

何が言いたいのかと言うと……でかいんで、中の気配が探りづらいんだよなぁ、これが……。

さすがにシャワーを浴びている最中なら外からでもわかるが、湯船に浸かっている時や、脱衣所に出てきている時は大変気づきにくい。

そのことを、俺は脱衣所の扉を開けてから思い出した。

 

 

「……あ」

 

「……え?」

 

 

風呂上がりなんだろう、中にいた人物は首を傾けるようにして自身の長い髪をバスタオルで挟みながら、闖入者である俺と見つめ合う。

ちょうどこっちの扉に右半身を向けて立っていた彼女の身体は丸見えになっていた。左肩で髪を纏めてバスタオルで拭いているのだから無理もない。何をとは言わないが全て見えてしまっていた。

漫画とかでよくあるような謎の光線とか湯気とか、髪の毛がちょうどいい感じで覆い隠すなんてことは現実ではやっぱり起こりえなかった。

表面に少しばかりの水滴を浮かべ僅かに桜色に色づいていた肌が、赤く染まる。彼女は髪を拭っていたバスタオルを、大事な所を隠すために使用した。

 

 

「…………し、シンにぃ……。と、扉閉めて……?恥ずかしいよ……」

 

「あ、悪い」

 

 

ここで取り乱したら余計相手に恥ずかしいという気持ちを与えてしまうだろう。そう考えた俺は動揺を一切表には出さず扉を閉める。

……その直後、バスタオルを全力で顔に押し付けながら叫んだような細い悲鳴が俺の耳に聞こえた。

……うん、すまん。

 

 

 

 

俺もシャワーで汗を流した後。

 

 

「……うぅ、シンにぃに見られたぁ……」

 

「……悪かったな、スズ」

 

「………もっとちゃんと育ってから見て欲しかったのに………」

 

「……………」

 

 

スズが小声で何か言ったような気もするが、俺は聞いてない。聞いてないったら聞いてない。

 

海原鈴音(すずね)。小学六年生。俺の兄貴の娘、つまり姪だ。俺には下の兄弟がいなかったから、昔からそれはもう可愛がっている。……そのためか、スズから特別な感情を向けられている気がしないでもない。俺の自惚れ且つ勘違いで全く問題ないんだが、どうにも違うっぽいんだよなぁ……。

 

 

「さっきのお詫びも兼ねて、今日の朝飯は俺が作るよ」

 

「あ、なら一緒に作ろう?シンにぃとご飯作りたかったんだー」

 

 

俺がSAOに囚われている間、この家の家事の一切はスズが担っていたらしい。

ま、じいちゃんは古い考え方の人だからな。家のことは女がやるものと疑っていない。

二年間で料理が上手くなったのは言うまでもなく、効率よく掃除洗濯をするスキルまで身に着けてしまっていた。

もうどこへ嫁に出しても恥ずかしくな……スズが嫁に行くって考えると、なんか、こう………………いや、ドツボに嵌りそうだから考えるのはやめておこう。

とにかく、小学生とは思えないほどしっかりした素晴らしい女性へと成長した。

 

スズの料理の工程を見ていると、俺とはやり方に違いがあるようだから一緒にやると色々不便かなと思って誘わなかったんだが。スズの望みなら吝かじゃない。

 

 

「おう、いいぞ。じゃあ今日は一緒に作ろうか」

 

「うん!」

 

 

スズの愛らしい笑顔を見て、俺も自然と頬が緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきまーす!」

 

「いただきます」

 

「……今日はどっちが作った?」

 

「ああ、今日は――」

 

「二人で作ったんだ!」

 

 

じいちゃんに説明しようとした瞬間、スズが元気に声を上げた。これで行儀悪くなってないから俺の姪はすげぇなぁ!!

 

 

「なるほどな。まだ女々しいことをしているのか新は」

 

「昔は俺がやってたからな。やらねぇと落ち着かないんだよ」

 

「ふん……」

 

 

じいちゃんは、俺が家事をやってたことが昔から気に入らなかったらしい。今でもこうしてたまに突っかかってくる。

 

 

「ま、まあまあ!二人とも今日はどうするの!?」

 

「俺は病院」

 

「儂はいつも通りだ」

 

「わかったよー」

 

 

病院。俺は自分のリハビリが終わってこの家に帰ってきてからも定期的に病院に通っている。

目的は――――――見舞いだ。

 

 

 

 

 

 

チャリをキコキコ漕いで、病院へと到着した。

広い駐車場の一角にある駐輪場に自転車を置いて、病院の一階受付を目指す。

そこで通行パスを発行してもらい、俺はエレベーターで最上階を目指した。

 

長期入院者が多いこのフロアでは、人が歩いていることが少ない。今回も、通路を歩いているのは俺だけだった。

人気のない長い廊下を進み、途中にある一室の前で立ち止まる。

柔らかな色合いの扉の横に掲げられているのは、綾野珪子の名前。俺の愛するシリカ――珪子の病室だった。

 

ネームプレートの下にあるスリットにパスを滑らせると、小さな電子音とともに扉がスライドした。

室内に入る前に「失礼します」と声を掛ける。

中にいる彼女が目覚めていて俺の声に反応してくれたらという淡い希望と、最低限の礼儀として俺はこの挨拶を欠かさないようにしている。

 

今回は、俺の挨拶に応える声があった。

 

 

「あら、海原君。お見舞いありがとうね」

 

「いえ、俺にできるのはこれくらいですから。あ、こんにちは」

 

「ええ、こんにちは。顔、見てあげてくれるかしら?」

 

「はい、もちろん」

 

 

綾野幸恵(ゆきえ)さん。シリカのお母さんだ。何度目かの訪問の際、この病室でばったりあって、俺とシリカの関係を明かした。ゲーム内での関係なんて、とか、一時的な気持ちなんだろう、という風に拒絶されてしまうかと思いきや、全くそんなことはなかった。それどころか、「珪子を守ってくれてありがとう」と、旦那さん――シリカのお父さんと共にお礼を言われてしまった。シリカと生涯を共にする決意だったのがよかったのかもしれないが、それにしても拍子抜けした。もっと反対されるものかと思っていたからな。

 

 

「今日は、誠司(せいじ)さんは?お仕事ですか?」

 

 

誠司さんは、シリカのお父さんだ。ルポライターをしているそうだ。

 

 

「ええ、そうなの。本当は毎日来たいみたいなんだけど、お仕事をほっぽりだしてくるわけにもいかないでしょう?」

 

「そうですね。でも、珪子を心配する気持ちは、俺も少しはわかります。全部わかりますなんておこがましいことは言えないんですが」

 

 

親が子供を心配するのと、ガキが恋人を心配するのでは大違いだ。

どちらも本心から心配しているのは同じだが、その質が全然違う。

 

 

「そんな、謙遜しなくていいのよ。貴方だって本気で心配してくれてるじゃない」

 

「それは……はい。俺は、珪子の、恋人ですから」

 

 

少し悲しくなってしまったが、それを表情には出さずに仕切りのカーテンを開ける。

 

 

――――そこにあるベッドには、少女が横たわっていた。

 

ただでさえ小さい身体が、痩せているために増々小さく見える。

その小さい身体には不釣り合いにも思える、大きく無骨なナーヴギア。

これを引っぺがすことでシリカが目覚めるなら、俺は持てる力の全てを使ってそうしただろう。だが、そんなことはない。シリカは今も電脳世界に囚われ続けている。理由は――わからない。

ナーヴギアのインジケータLEDが三つ、青い光を放っている。これはこいつが正常に動いている証だ。

この光が突如消えたらと思うと、猛烈な不安に襲われる。

だが、それを人前で見せるわけにはいかない。とりわけ――――この人達の前では。

 

 

「珪子、今日も海原君が来てくれたわよ。よかったわねえ……」

 

「……シリカ――いや、珪子。二日ぶり、かな?昨日は来れなくてごめんな。色々忙しくてさ。って言うのも――――」

 

 

それから俺は、前回の見舞いからあったことを面白おかしく伝えた。

シリカが俺の話に反応することは、もちろんなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ正午になるという頃。

俺は立ち上がって幸恵さんに会釈した。

 

 

「じゃあ、今日は帰ります」

 

「今日はありがとう。もしよかったらまた来てあげてね」

 

「はい、もちろん。さようなら」

 

「ええ、さようなら」

 

 

俺が扉の前に立つと、扉は自動でスライドする。

病室の前を横切ってさらに奥に行く男二人組がチラリと視界に入った。

 

俺は病室に向き直ると、再び会釈する。会釈が返ってくるのを視界の端に収めながら、エレベーターホールに向かって歩き出――

 

 

「おお、来ていたのか桐ケ谷君。たびたびすまんね」

 

 

――そうとした俺の足が止まった。

そういえば突き当たりの病室はアスナのだったか。和人が来てるなら待って一緒に帰ることにしよう。

 

俺は逆方向に歩き出し、アスナのネームプレートが掛かった壁に寄り掛かった。

 

 

 

少しすると、恰幅のいい男性が出てきた。

初老のようだが、疲れのようなものは特に感じられない。アスナの父親か何かだろうか。精神的には多少疲れているのかもしれないが、それを表に出さない術を身に付けているように見える。

 

その男性は、俺に気づくことなくそのまま立ち去って行った。

 

やっぱ、アスナの親父さんってとこかな。この距離で俺に気づかないってのは視野が狭くなってる証拠だ。結構参ってんだろうな。

 

 

さらに和人を待っていると、病室から話し声が薄っすらと聞こえてきた。

内容を聞き取れるほどの大声ではないが……あ、和人が「やめろ!」って言ったのは聞こえた。

 

これは……怒ってる?

 

中で何が起こっているのか気にならないと言えば嘘になるが、生憎と病室に入る術を持っていない俺としてはここで大人しく待つしかない。

 

 

その少し後、ダークグレーのスーツに身を包み眼鏡を掛けた男が病室から出てきた。

俺が一瞬見かけた二人の片方なんだろうが……俺は()()()に対して一気に警戒心を抱いた。

なんせ、こいつは――――嗤っていた。爽やかな笑みではない。嫌らしさや陰湿さ、狡猾さを湛えた気持ちの悪い笑みだった。

そいつは俺に気づくとその嗤いを消し、会釈して去っていく。だが、俺の脳裏には先程の気色悪い笑顔が焼き付いて離れなかった。

 

 

俺は扉が閉まる前に足を挟み込んで中に声を掛ける。

 

 

「和人、いるんだろ?どうせなら一緒に――」

 

 

帰ろうぜ、と言おうとして俺は口を閉ざさざるを得なかった。

和人が呆然と立ち竦んでいたからだ。

 

俺はアスナに心の中で謝りつつ、病室に足を踏み入れた。

何だか、今の和人は放っておけなかったんだ。

 

 

「おい、どうした和人」

 

「あ……(しん)……」

 

 

俺が声を掛けると、和人は鈍いながらも反応を示した。

しかし、なんでこんな状態に……?

 

 

「和人、何があったんだ。さっきの奴に何かされたのか?」

 

「アスナ……アスナが…………」

 

「アスナ?アスナがどうにかなっちまったのか?」

 

 

だが、和人は俺の質問に答えることはなく、唇を震わせて俯いてしまった。

 

話を聞きだせそうにないと判断した俺は、和人を促して病室を後にした。

 

 

 

 

帰りの道すがら、和人はずっと上の空だった。

ハラハラしながら見てたんだが、信号とかは守っていたんで理性を失うほどではなかったらしい。まあ、よかったとは口が裂けても言えねえけど。

和人のことは心配だったが、家の前で別れた。俺にもやることがあるんだ。付きっ切りでいるわけにもいかない。

 

 

「さて、と……。今日は何か進展あるか?」

 

 

俺の()()()()。それは、情報収集だ。

最終的にはシリカ達を目覚めさせる方法に辿り着きたいが、現実はそう甘くない。今の俺にできることと言ったら、俺達があの世界で戦っている間に変わったことを把握し、気になったことや関係ありそうな情報に片っ端から目を通すくらいだろう。あ、あと身体を本調子に戻すことだな。俺はSAO事件以前は朝に一回だった稽古を、今は夕方にもやることにしている。

 

 

よし、ここらで今まで集めた情報を整理しとくか。

 

 

未だに目覚めないSAO帰還者三百人に関しては、すでに知っている奴らも多い……というか、ニュースになった。報道の仕方に悪意が満ち溢れていて、茅場の陰謀であるというのが世の風潮になっている。それが気に食わねえ。あいつは、そんなことをする奴じゃない。あいつは、茅場晶彦は、自分が作り上げた世界で俺達が全力で生きた……それだけで満足していた。こんな後に引く状況、奴が望んでいたはずがねえ。茅場と全力で戦って、そして対話した俺が断言する。それに奴は、全員のログアウトを確認したと言った後で俺達の前から姿を消したんだ。ま、外でこんなこと言えねえんだけど。

 

ともかく、今起きている事態には、何か別の要因がある。これは間違いない。俺は、それを調べようと頑張ってみてるわけだ。

 

まず俺は、SAOサーバーのことを調べた。

SAOを開発したのはアーガス社だが、あんな事件が起きてそのまま管理を続けられるわけがない。会社は解散し、SAOサーバーの維持は総合電子機器メーカーレクトのフルダイブ技術研究部門に委託された。

次に、俺はVRMMORPG環境のことを調べた。

SAO事件があったため廃れていくかと思いきや、そんなことは全くなかった。人々の欲求は留まるところを知らず、アミュスフィアなるナーヴギアの後継機がSAO事件発生の半年後には市場に姿を現した。そしてその後、次々とSAOと同タイプのフルダイブ型ゲームも数多く発売されている。

俺は、フルダイブ中の三百人がいるのは、どこかの異世界の中だと睨んでいる。俺達があの浮遊城で戦っている間に似たようなゲームが多くリリースされたことで何らかの混線が発生し、また正規のログインでないためにログアウトやGMへの連絡が取れない、みたいな状況になっている可能性はゼロではないと考えたからだ。

俺の考えが正しいかはともかくとして、何かのヒントが得られるかもしれないと、日々掲示板などで不思議な出来事が起きているVRMMORPGがないか探している。

 

……そういえば、今日アスナの病室前ですれ違った男二人、どこかで見たことあるような気がするな……。片方は、多分アスナの親父さんだと思うんだが。

ちょっと調べてみるか。

 

俺は過去に調べた資料をネットの海から掬い出す。俺は今までに調べたネットの情報を全てマークしている。この中のどれかで、あの二人を見たことがあるはずだ。

 

 

────十数分後。俺は、あるインタビュー記事に辿り着いた。

 

 

「お、こいつか……?」

 

 

これを初めて見た時の記憶が蘇ってくる。そうだ……SAOの管理を委託されたレクトの関係者のインタビュー記事と、レクト社のHPに跳べるURLが載っていたはずだ。

内容を確認していくと……やっぱり。あの初老の男性が載っている。レクトのCEO、結城章三氏…………CEO!?明日奈の奴、んなお嬢様だったのかよ!?……いや、まあ教養が備わってる感じはあったから、不思議には思わねえが……。

 

まあいい、今はあの嫌な雰囲気の男だ。俺の記憶が叫んでいる。俺は、あの男を、ここで初めて見かけていると。

片っ端から、探せ。

 

────────とはいえ、探すのにそれ程時間はかからなかった。というか、1発で見つけた。何故なら、俺がした調べ物は全てSAOを始めとしたVRMMOに関するもの。そこに関連する事柄だけを漁ればいい。奴の名は────。

 

 

「須郷、信行……」

 

 

口に出して、その名を頭に刻みつける。あの嫌らしいニヤけ面を思い返す。

俺の勘が告げている。奴は、何かを知っている。いや、もしかしたら関わってるのかもしれねえ。

だが、確証はない。今は、情報を集めることしかできない。

 

 

「クソッ……」

 

 

俺は悪態を吐きながら、何か手がかりはないか、調べ物を続行する。

スズが夕飯だと呼びに来るまで、俺は調べ物に没頭していた。

だが結局、この日の収穫は何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「――ん?」

 

 

朝の稽古と風呂を済ませ、朝飯をおえて部屋でこれからのことを考えているとパソコンが機械的な音を発した。メールだ。誰からだ?……和人?

 

 

『お前に見て欲しいものがある。今すぐ俺の部屋に来てくれ』

 

 

メールには題名すら書かれておらず、ただ用件だけが無造作に表示されていた。人によっては、これをただ失礼な文章と捉えるだろう。

 

だが。逆に俺は、このメールから和人のただならない焦りと期待、そして動揺がないまぜになった気持ちを感じた。

 

 

――――これは、一刻も早く行った方がよさそうだな。

 

 

俺はパソコンを落として部屋を飛び出し、家の中に大声で呼びかけた。

 

 

「悪い、ちょっと急用ができた!!和人ん家に行ってくる!!」

 

「え!?ちょっとシンにぃ、待って!!」

 

 

スズの慌てたような声が聞こえるが俺はそれを意図的に無視し、家を飛び出して向かいの桐ケ谷家に駆け込んだ。

 

 

 

 

 

「よく来てくれた。悪いな、急に呼び出して」

 

 

和人が俺を出迎えて家に招き入れる。

 

 

「いや、それはいいんだけどよ。何があった?」

 

「今から説明する。まずは俺の部屋に行こう」

 

 

俺は和人の後について階段を上る。

と、後ろから声を掛けられた。

 

 

「あ、しーお兄ちゃん。いらっしゃい」

 

「お、すーちゃか。お邪魔してるよ」

 

 

和人の妹、桐ケ谷直葉だ。俺とは小さい頃からの知り合いで、俺のことをしーお兄ちゃんと呼ぶ。小さかった頃は(しん)お兄ちゃんという音が発音しづらかったらしい。俺は俺で直葉ちゃんというのが長くて嫌だったのか、すーちゃと呼んでいた。最初はすーちゃんと呼ぼうとしていたはずだったのだが、昔の俺はそれすら面倒になってたらしいな。お互い、小さい頃の呼び方が続いている。

 

 

「うん。お兄ちゃんに用事?」

 

「ああ、ちょっとな。煩くはしないから」

 

「あはは、そんなこと気にしなくてもいいのに。しーお兄ちゃんの体調が大丈夫だったら今度、試合しようね」

 

「お、剣道の試合か?すーちゃは昔から強かったからなあ。まあ、負けるつもりはないけど」

 

 

俺も男だ。道場に通っていた頃からすーちゃに負けたことはない。一本取られてしまったことはあるが。

俺は事情が事情で剣道の道場は大分昔に止めてしまったが、鍛錬はずっと続けていたし、それはすーちゃも知っている。たまーに試合もしていたからな。すーちゃは俺の復讐のことは知らないが、不登校になってしまうほどのショックは受けていなかったことは知っている。そのことを思い出しているんだろう。すーちゃが懐かしそうな顔になった。

 

 

「懐かしいなぁ。でも、あたしも強くなったんだよ。全中ベスト8なんだから!」

 

「おお、すごいじゃないか!これは俺も気を引き締めないとな」

 

「ふふん、楽しみにしててね。……あ、ご、ごめんねお兄ちゃん」

 

 

すーちゃのバツの悪そうな声に振り返って階段の上を仰ぐと、和人が呆れたようなジト目で談笑している俺達を見つめていた。

 

 

「し、しーお兄ちゃん、またね!」

 

 

そう言い残して、すーちゃは二階に上がって行った。

 

 

「悪い悪い。久々だったからつい、な。――それで」

 

 

謝りながら階段を上り、和人の部屋に入ったところで表情を切り替えて和人に問いかける。

 

 

「見せたいものってのは?」

 

「これだ」

 

 

和人も真面目な表情になり――まあずっと真面目だったが、さらに引き締めた感じがする――パソコンを操作する。

 

 

「――――ッ!?これは――――!!」

 

 

表示された画像を見て、俺は驚愕に包まれる。

 

 

「――――――アスナ!?」

 

 

そこに写っていたのは、アスナにしか見えない存在だった。

 

 

 

 

 

「これは?どういうことだ?」

 

「俺にもわからないんだ。やっぱりアスナに見えるか?」

 

「当たり前だろ。むしろそれ以外に見えないんだが……」

 

 

頭を突き合わせて会話する俺達。

 

 

「この画像はエギルから送られてきたものでさ。これからエギルのところに行って確かめてこようと思ってるんだ。新はどうする?」

 

 

――――ハッ、愚問だな。

 

 

「行くに決まってんだろうが。シリカの――――――珪子の手掛かりになるかもしれないんだ……そんなチャンスを逃すわけにはいかない」

 

「そうか。なら、後ろに乗ってくか?」

 

「いや、俺も自転車で行く。リハビリも兼ねてだ」

 

「そうか。ならまあ、気は急くけど……怪我だけはしないようにして行くか」

 

「そうだな。でもできる限り飛ばすぞ。……それにしても」

 

「ん?」

 

 

和人の目を見て呟くと、不思議そうな顔をして訊ねてきた。

 

 

「何だ?」

 

「いや、何か吹っ切れたような顔をしてるなと思ってな」

 

 

昨日アスナに何かがあると知った後のこいつの状態は、そりゃあひどいものだった。

顔は真っ青だし声は震えてた。夕方少し通話したんだが、テレビ電話だったのにこいつの絶望した心音が聞こえてくるんじゃないかと思ったくらいだ。

 

 

「ああ……スグに元気づけられちゃってな。俺もまだまだだよ」

 

「そうか。すーちゃに感謝するんだな」

 

「そうだな」

 

 

俺はもう大丈夫そうな和人から目を離し、和人の部屋の扉に手を掛ける。

 

 

「んじゃ、準備してくる」

 

「おう。俺も準備して待ってるよ」

 

「ああ」

 

 

俺は逸る気持ちを抑えながら家に戻った。

 

 

 

 

 

「悪い、またまた急用ができた!ちょっと出てくる!!」

 

「シンにぃ!!待って!」

 

「行ってきま―――――」

 

「待 ち な さ い !!!!」

 

「うおっ!?」

 

 

あ、そのまま出ようとしたら俺のことを玄関の近くで待ち構えていたスズに捕まった。これは少々面倒なことになりそうな……?

 

 

「どこに行くの?」

 

「あーっと……俺と和人の共通のダチのところだよ。ちょっくら自転車飛ばしてくる」

 

「…………」

 

「えっと……行ってもいいか……?」

 

「……いいよ。気を付けてね」

 

「あ、ああ。行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

うーむ……スズに頭が上がらなくなりかけてる……俺がSAOに囚われていた間、ずっと家のことをやってくれてたわけだしな。今度何か希望を聞いてやろう。

 

 

 

 

「お、和人。悪い、待たせたか?」

 

和人が家の前で自転車に跨っていた。

待ちきれないらしい。気持ちはわかる。

 

「いや、大丈夫だ。さ、行こう」

 

「おう」

 

 

俺は外に停めてあった自転車のロックを外す。

 

 

「……お前、スズちゃんの尻に敷かれてるのか?」

 

「はあっ!?おまっ、聞いてたのか!?」

 

「いやあ、あっはっはっ」

 

「あっはっはっ、じゃねぇよ!!それに、敷かれてもいねぇ!心配してくれてんだよ!スズは優しいからな!!」

 

 

変な勘違いをされても困る。ここはしっかり否定しておこう。

 

 

「ははっ、わかってるよ。ほら、行こうぜ」

 

「ったく……うっしゃ、行くか」

 

 

俺と和人はエギルのバーへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




改めまして、お久しぶりです。
gobrinです。
いつの間にか更新せずに3年半。時間経ちすぎですね、すみません。

お気に入り登録は300件以上してもらえてますが、しっかり更新していた時に読んでくれていた人たちは今もハーメルンで作品を読んでいるのでしょうか?
もしそういう方がいて、「おっ、久しぶりに見たなこの名前と作品!」となってもらえていたら嬉しいです。
本当にお待たせしました。
新規の方がいたら読んでくれてありがとうございます。気に入ったらお気に入り登録なり感想なり残していって頂けると幸いです。

さて、こんなに時間が経った原因ですが、ぶっちゃけただの怠慢です。
書きたいシーンは色々あります。何ならGGO編の終わりやカイとリッパーの関係の終わりまで構想はあります。
ただ、SSを書くのを他の趣味と比べて後回しにしてしまって……最近はリアルも忙しく、たくさんある趣味の全てに十全な時間を割くことができません。
なので、これからも更新頻度がかなり空いてしまうことはあると思います。
ですが、過去に前書きや後書きで書いたかどうか覚えていませんが、書くことをやめることはしません。
自分の書きたいところまで、絶対に書き切ります。

まあ、そんな決意だけはあるので、もしこの作品を少しでも面白いと思って頂ける人がいれば、たまに更新が来た時に読んでやるか、くらいの軽い気持ちで待って頂けると嬉しいです。

とても長い後書きになりました。
いつになるかはわかりませんが、次に更新する時にお会いしましょう。
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