なんとか一年期間が空いてしまう前に更新できました。
早く書きたい気持ちはあるんですけどね……むむむ。
前回は、エギルから和人にメールが届いたところで終わっていました。
では、どうぞ。
「おい、エギル!!電話でも言ったけどアレが何なのか詳しく聞かせろ!!!!」
「和人、落ち着けって。よう、エギル。俺も話を聞かせてもらおうと思って来たぜ」
エギルがやっている喫茶店兼バー、《
俺は扉を押さえて壁にぶつからないようにしながら、カウンターの向こうに座っている巨漢に声をかける。
「……キリト、お前なぁ。気が急いているのはわかるが、その態度はねえんじゃねえか?まあいいけどよ。カイも、来ると思ってたぜ。座れよ」
SAO時代の気安いやり取りを交わし、俺とエギルは笑みを浮かべる。この感覚も懐かしいな。
今は明るい時間だからか客はおらず、エギルの目の前のカウンター席が二席、既に引いてあった。
和人は焦燥が表れている態度で座り、俺はそんな和人を窘めながらその隣に座る。
すると早速、和人がエギルを問いただした。
「それで、エギル。アレはどういうことなんだ」
「少しは待てねえのか……ほらよ、これだ」
エギルは少し呆れながらカウンターの下に手をやり、長方形のパッケージを二枚滑らせて渡して来た。
一枚ずつ、俺と和人の手に収まる。
「これは……?見たことないハードのソフトだな……」
和人は見たことがなかったようだが、色々調べていた俺には一目瞭然だった。
そう、これは――――。
「《アルヴヘイム・オンライン》じゃねぇか。こいつが件の画像の出所なのか?」
「《アルヴヘイム・オンライン》?」
俺は、自分が調べていたVRMMOのことや《アミュスフィア》、それと今爆発的な人気を博している《アルヴヘイム・オンライン》のことについて説明した。
そして、説明していて思い出したことがある。
あの画像……ちょっと前に話題になってた、アレか?
「へぇ、よく調べてあるんだな、カイ。俺が説明しようと思ってたんだが、その手間が省けたぜ」
「まぁな。俺にできることといったら情報を集めるくらいだろうしよ。《飛べる》、だなんてすげぇことだしな。すぐに調べられたぜ。んでよ、エギル。もしかしてあの画像って、
俺はそう言いながら、自分の端末である画像を表示する。
パソコンで調べたことは、端末でもすぐに引き出せるようにしておいてよかった。
エギルが覗き込んでいる画像は、果てしない空と極太の木の枝、そしてその上に鎮座する
「おう、その通りだ。これを解像度のギリギリまで引き伸ばしたものだぜ。けど、よく知ってたな?こんなもの意図的に調べないと出てこないと思うんだが……」
「実は、VRMMOが全く廃れてなかったことを知ってから、残された三百人は混線とかの原因で他のVR世界に入り込んじまったんじゃないかって疑っててな……。奇妙なVRMMOのネタは積極的に探してたんだ」
「なるほどな……流石はカイだ。抜け目がねえな。まあ、ていうわけでこれは《アルヴヘイム・オンライン》────ALOって所の上らしい。調べるなら、中に行くのが一番だろう。ナーヴギアで起動できるしな」
「へえ、そうなんだ」
「ああ。そもそもアミュスフィアってのが────」
俺は、エギルと和人が会話しているのを聞きながら────いや、正直後半はほとんど聞いてなかった。自分で表示した画像の方に意識を持ってかれてたからだ。
二人は気づいてないようだが……この画像の奥、
「────なら、帰ったら早速このゲームにログインしてみないとな。ほら新、行こうぜ」
和人は話が終わって決意を固めたのか、席から立ち上がろうとする。
俺はその腕を掴んで止めた。
和人が驚いて俺を見る。
「新?」
「どうした、カイ?」
「……エギル」
二人からの疑問の声を無視し、俺は低い声でエギルに呼びかけた。
「なんだ?」
「この画像の、この部分……できるだけ引き伸ばしてみてくれねぇか?」
俺は、元の画像の気になっている部分を指差す。
荘厳で巨大な金の鳥籠に気を取られがちだが、その奥に、間違いなく鈍色の籠がある。
「あん?それは、どういう…………いや、何かあるな。……鳥籠、か?」
指し示されればエギルにも認識できたのか、俺の望み通りに画像を拡大してくれる。
その完成を待つこと、十数秒。
「これが限界だ。まだまだ遠いが……これ以上やると一気に潰れて何が何だかわからなくなる」
エギルは申し訳なさそうにしてるが……充分だ。
荒い解像度で映される画像は、鈍色の鳥籠の中で、何かが吊り下げられているかのように両手を上げて頭の上で近づけているらしい物だった。
髪らしき位置に茶色が存在することくらいしかわからないが、俺には何故だか確信できた。
「……これ、シリカだ」
「あん?」
「どういうことだ、新?」
和人とエギルの声が揃う。
二人には、いきなり変なことを言い出した奴に見えてるかもしれねぇな。
でも、これは間違いない。
「俺にはわかる。これは、シリカだ」
改めて言葉にして認識した途端、怒りが湧いて来た。
これは、シリカが吊り下げられているってことだろう?
「喜べ、和人。元々、お前を手助けするために本気でやるつもりだったが……俺の
俺は、嗤う。
強気に。過激に。獰猛に。
ついに見つけた、ついに掴んだ。
シリカに繋がる希望の糸。
この幸運、離さない。
再起の時だ。
意気は上々。
心の底から。
謳い上げろ!
「最高だッ!ようやくだ、必ず助け出すぞ、シリカぁ!!」
俺は叫んだ。
歓喜を、誓いを、決意を。
全てをないまぜにして、想いを世界に刻み込む。
和人は少しの間びっくりしていたが、我に帰ると不敵な笑みを浮かべた。
「そういうことなら、相棒。今回もよろしく頼むぜ」
「おう、任せとけ」
俺と和人は、拳を合わせる。
ずっと昔からの、俺達が力を合わせる合図。
二年間、あの城でもやっていたように。
そんな俺達を見て、エギルも笑っていた。
「お前らがそうしてると、何でも成し遂げそうな気がしてくるぜ。
キリト、カイ。俺にはあの写真の女性がアスナとシリカなのかはわからない。だが、もし本当にそうだったら────必ず、連れて帰ってこいよ」
エギルの、大人の男からの、最大限の激励。
それは、恋人を助けるために身体の底から湧いてくる力とは別種の、でもとても大きな何かを、俺達に与えてくれた。
「任せとけ。死んでもいいゲームなんて、ヌルすぎるぜ」
「あの二人を連れて帰って元気になったら、ここでパーティーだな。その時は貸切、頼むぜ?」
「おう、それくらいならお安い御用だ」
「「じゃあ、行ってくる」」
俺達は、示し合わせたわけでもないのに同時に席を立ち、同時に声を発した。
顔を見合わせ、笑い合う。
「ああ、ぶちかましてこい!!」
俺達は、エギルのエールを背に受けながら、店を後にした。
「んじゃ、また後でな」
「ああ。新、頑張ろうな」
「たりめーだ」
俺達は互いの家の前で別れる。
次に会うのは、ALOの中でだ。
お互い準備があるから、ログインする前には電話で連絡しあうことにした。
「ただいまーっと」
俺は静かに扉を開けて帰宅した。
スズに気づかれないように、静かに静かに……。
「何をコソコソしてるの?シンにぃ?」
「げっ」
スズが廊下の壁に寄り掛かって俺を待っていた……。
「って、ちょっと待て。俺はいつ帰ってくるかは連絡してないはずだぞ。どうやって俺の帰宅に合わせた?」
「もちろん、ずっと待ってたんだよ。シンにぃが帰ってくるのを」
「待ってたって、そんな……」
「私、待つのは得意だよ。二年間ずっと、ずっとシンにぃが帰ってくるの待ってたんだから」
「スズ……」
俺は言葉を失う。そうだ。俺はスズに悲しい想いをさせていたんだ。二年間もの長い時間、ずっと。不安だっただろうに、やらなければならないことも増えたのに、じいちゃんは手伝ってくれないのに、一人で……。まだ小学六年生なのに、こんなにしっかりしなければならないほどに。
「……それで?シンにぃ、手に持ってるそれは何?」
俯いて何も言えない俺に、スズが問いかけてくる。
その視線は、俺が手に持つアルヴヘイム・オンラインのパッケージに注がれていた。
「これは……」
俺は、悩む。真実を伝えてしまうか、それとも誤魔化すか。
「……スズ、俺に誤魔化されたり、隠し事とかされたくないよな?」
だから俺は、スズに訊いた。スズの気持ちを。
「……人には、隠し事の一つや二つあるのが当たり前なのはわかってる。それでも私は、シンにぃに隠し事なんてされたくない。全部教えて欲しい」
「……わかった、手短に説明するよ。今は時間がないんだ。後で詳しく説明するから」
「……うん、わかった。後でちゃんと教えてね」
「ああ」
「そんなことが……」
俺は手短に、SAOでのシリカとの関係や他の仲間達のこと、そして今現在の状況――つまり、眠ったまま目覚めない三百人の中にシリカがいることを伝えた。
そして――――俺が再び、仮想現実の世界に行こうとしていることも。
「ああ。たとえスズに何を言われても、俺は気持ちを変えるつもりはないぞ。シリカに繋がる手掛かりになるかもしれないんだ――――絶対に行く」
「ちょ、シンにぃ!?戦意!戦意出てるから!?」
「あ、悪い……」
ついやってしまった。これは……。
「…………新。何をやっている」
「じいちゃん……」
まあ、じいちゃんが来るよなぁ……。戦意を感知して。
「……話は聞かせてもらった」
――――――え?
「認めるわけにはいかんな。お前がいないと、何かと不便だったのには違いないのだから。仮に安全管理が完璧なのだとしても、もうお前にゲームなぞさせる気はない」
――――おいおい、ちょっと待て……!!
「さあ、わかったらそれを渡せ」
――――――。
「……?どうしたのだ、新?早く渡せ」
「……いくらじいちゃんの言葉でも、それはできない相談だなぁ……!」
「――――ほう?」
じいちゃんがすっと目を細める。
ぐっ……!?じいちゃんからすげえ殺気が……!しかも、スズが感じないように正確に俺にだけ向けられてる……!!
「ならばどうする?儂に言うことを聞かせるか?どうやって?まさか、力づくでなどと言うわけはないよな?」
確かに、リハビリも完全に終わっているわけじゃねえ俺がじいちゃんに勝てるわけない――――
ま、じいちゃんに言うこと聞いてもらおうと思ったら、こうするのが一番手っ取り早いんでね――――!!
「――――そのまさかさ、じいちゃん。俺がじいちゃんに言うことを聞いてもらおうと思ったら、どんな困難も乗り越えられる力があると示すのが一番いいだろ?」
俺のその言葉に、じいちゃんからの殺気がさらに強くなる。背筋が震えてきたぜ……。
「――――男に二言はないな、新?今すぐ撤回するなら、今回だけは見逃してやる」
「し、シンにぃ……」
じいちゃんの殺気が強くなりすぎたためか少し周囲にも伝わり、スズがそれに震えながらも俺を心配して声をかけてくれる。
「スズ、心配すんな。俺は、シリカのためなら何でもできる。じいちゃん
「――――――。そうか、新の気持ちはよくわかった。これは、手加減なぞする必要はなさそうだな」
やべえ……。視線だけで殺されそうだ……。殺気が大きくなりすぎて、そろそろ感覚が鈍ってきたか?何とも思わなくなってきたわ。ハハッ。
「どうせ元から手加減する気なんてなかったくせによく言うぜ全く……」
「ここじゃあ狭すぎる。道場に行くぞ」
「ああ。――って、ちょっと待ってくれ。先に和人に連絡しとく」
「ああ、和人くんと一緒にやる約束をしていたのか。それは悪いことをしたな。彼に謝っておいてくれ」
「ああ、謝っておくさ。ちょっとだけ遅れる、すまねえな、ってな」
「……」
「……」
俺達は無言で戦意をぶつけ合う。
――――ん?
じいちゃんが驚いたような顔をしている。
「……ふむ。新、ゲームの中で色々経験したようだな」
「あ、ああ。だけど自分でもここまでとは思ってなかった。まさかじいちゃんと戦意をぶつけ合えるようになってるとは……」
「――――
――――!?
じいちゃんがボソッと呟いた瞬間、空気が変わって俺の全身が震えた。
おいおい……アレでもまだまだ手を抜いてたのかよ……!?孫相手だから加減してたってか!?
「先に行っている……和人くんに連絡したら、お前も来い……」
「わ、わかったよ、じいちゃん」
気が付けば俺は、後退っていた。
クソッ、こんなことじゃダメだろ……!
そう頭では思うのだが、身体が言うことを聞いてくれない。
俺は立ちすくんだまま、動けなくなってしまった――――。
「シンにぃ、気持ち強く持って!」
「ッ!?」
バシンッ。
スズに背中を叩かれて、正気に返る。
「……悪いな、スズ。助かった」
「やれそう?」
「ああ、もう大丈夫だ。心配かけたな。さて、和人に電話するか……」
俺は端末を取り出し、和人に電話を掛ける。
「おう、和人か。ちょっとじいちゃんと話し合いすることになってな。少し遅れる。……ああ、……おう、……そういうことだ。また後でな」
俺は電話を切ると、スズの頭に軽く手を置いてから道場に向かった。
私――――海原鈴音は、道場に向かって立ち去るシンにぃの背中を見送る。
その姿が見えなくなった時、私は小さく呟いた。
「頑張れ、シンにぃ」
私にできることは、こうやって勝手に応援の言葉を呟いて自己満足に浸ることだけ。
シンにぃがSAOに囚われる前は、背後に護ってもらいながら無責任に応援の言葉を吐くだけだった。
今まではそれでもよかったのかもしれない。いくら色々なことを経験して周りの同年代に比べてちょっとはしっかりしているとは言っても、私はまだ小学生。護ってもらって無責任に色々言う。それが普通なのかもしれない。――――でも。
(……私は、そんな自分は許せない。シンにぃが私の大切な人だと気づいてしまったから。大切な人が私を護って助けてくれるなら、私は大切な人を手伝って支えたい。SAOに囚われていたシンにぃを見て、強くそう思うようになった。…………まあ、等親的に結婚はできないんだけど……はぁ。それだけが悔しいな)
まあ、それは置いておいて。そのために私は、頑張った。シンにぃがこなしていた家事を覚え、短い時間でできるように努力していった。それだけでは足りないと思ったから、おじいちゃんに懇願して戦い方を教えてもらった。私には、護身用としての受けに回った戦い方しか教えてくれなかったけど。そこから応用して、攻めるための戦い方も少しは覚えることができた。そのことは身体の動かし方とかからおじいちゃんに見抜かれちゃったけど。私は、ずっとずっと強くなった。シンにぃに勝つことは無理でも、背中を護れるくらいには強くなったつもり。
あ、おじいちゃんは実際にはひいおじいちゃんなんだけど、そう呼ばれることを嫌がるからおじいちゃんって呼んでるの。家族の嫌がることはしたくないから。
でも、そんなことより。
(――今は、シンにぃがおじいちゃんに勝つことを信じてやるべきことをしないとね……。頑張れ、私の大切な人)
私は心の中でそう言って、自分の端末を取り出して掛ける。
「あ、私。スズ。……うん、久しぶり。いきなりで悪いんだけど、ちょっと訊きたいことがあって……」
よし、色々と準備してきますか!
俺は今。道場で。じいちゃんと向かい合ってる。
もう、勝負は始まってる。
だが―――――。
俺は棒立ちしたまま微動だにしていなかった。
……動けねぇ……。
「どうした?来ないのか?」
じいちゃんがそんなことを軽く言ってくるが……。
(ふざけんなよ……!!隙はどこにもねぇし、無理矢理作り出そうものなら、そうしようと動き始めた瞬間にやられるッ!!)
じいちゃんの隙のない構えに一歩も動けない俺に対し、じいちゃんは深いため息を吐く。
「はぁ……。その程度で儂を倒すなどと粋がったのか?もう少し身の程は弁えろよ、新……」
じいちゃんがため息を吐いている間も隙は全くできず、逆に殺気が膨れ上がる。
クソッ、どこまで大きくなるんだ、じいちゃんの殺気は……!?
「来ないなら、こちらから行くぞ……。――――シッ!」
「――――ッ!?」
声を上げる暇もなかった。
俺の目が辛うじて捉えたじいちゃんの本気の動きは、想像を絶するものだった。
残像を残しながら彼我の距離を一瞬で潰してきたじいちゃんは、その勢いを全て乗せた掌打を俺に当てようとしてきたらしい。
――俺に、考えて行動する余裕はなかった。
「―――ッ、ぐあぁっ!?」
「……ほう?」
怖気を感じた身体が勝手に動き、左腕でじいちゃんの掌打をブロックする。だが、それしきのことでじいちゃんの一撃を受け切れるわけもなく。
見事に吹っ飛ばされた俺は、壁に背中から叩き付けられた。
息が……!
――って、嘘だろ……!?いくら筋肉が落ちているとはいえ、俺の体重は六十五キロ程度まで戻りつつある。そんな俺を、壁まで吹き飛ばすとかどんな威力だよ……!!
じいちゃんは俺を見つめ、自分の手を見つめ、再度俺を見つめて言った。
「ゴホッ、ガハッ」
「やるではないか、新。反応されるとは思わなかったぞ」
「ゲホゲホッ。……あんな動きができる人に褒められても嫌味としか思えねぇよ……SAOでステータスなんてもんを得ていたプレイヤーどもより速いとはな……ゴホッ」
「いやいや、儂は本気で感心してる。正直、儂に呑まれている時点では成長が対して感じられなかったのでな。この一撃で終わると思っていた。お前があのクソくらえな世界で手に入れた物は、その程度の物なのかとな」
俺は、大層単純なことに……その言葉で、火が付いた。
もちろん、最初から全力だったが……何と言うか、意識のスイッチが切り替わった。
「じいちゃん……俺を挑発したこと、後悔するなよ?」
あの世界で培った物は、誰にも馬鹿にさせねぇ……!!
「……ふっ、中々いい顔もできるようになっとるじゃないか。それでこそ、儂が見込んだ孫だ」
「へぇ。俺は、じいちゃんに見込みがあると思われてたのか……。そいつは光栄だ。――じゃあ、行くぜっ!!」
俺は言葉と共に全力で飛び出す。じいちゃんの攻撃を受けた左腕は戦闘に使うには支障があるし、背中も痛い。だが………そんなのは、無視だ!!
「らぁぁぁあああああああ!!!!」
じいちゃんを威嚇するためではなく、自身を奮い立たせるために吼える。
左手を使わずに――――ラッシュ、ラッシュだ!!
「……ふむ。左手抜きでこの速度の連撃。身体の使い方も上手くなっているし、未だ筋力が落ちたままなのに威力も上がっている。儂を倒すと言う自信も、わからなくもないな」
「くっ……!!」
じいちゃんが、俺の連撃を物ともせずに全て受け切る。
―――受け流す、ではなく受け切る、だ。
相手の力の方向をずらせばそれで済む受け流しと違って、一切のダメージを受けずに相手の攻撃を受け切るのは至難の業だ。いや、受け流しが簡単ってわけじゃねえけど。
相手との腕力差が圧倒的ならばまた話は違ってくるが、この場合、俺とじいちゃんの腕力差は然程ないだろう。むしろ、俺の方が腕力が上でも不思議ではない。いくら化け物のような人とはいえ、じいちゃんも歳だからな。
そんな状態で俺の攻撃を完璧に受け切るってことは……衝撃を完全に殺してるってことだ。並大抵の業じゃねぇ!!
(正攻法で攻めてもダメだ――!何か、じいちゃんの虚を突かないと……!!)
考えろ、考えろ!!じいちゃんが今予想していない行動を起こすしかねぇんだ!!
「――――考え事もいいが、没頭しすぎるなよ?」
「――ッ!?」
打開策に集中しすぎたせいで並列思考が機能しなくなりかけた瞬間に、じいちゃんが攻勢に移ってくる。
ぐっ……タイミングが完璧すぎる!
俺の右腕が外に払われ、がら空きになった右脇目掛けてじいちゃんの右肘が飛んで来る。
――この、体勢、は……!!
じいちゃんは今の一瞬で体勢を低くし、俺の右側を駆け抜けて後ろに回り込もうとしている。
これを許せば、後ろから攻撃されてフィニッシュだ。
今俺の身体は、右腕を払われた勢いで右回転しかけている。
この勢いに身を任せて回転してしまえば、確かに肘の一撃は回避できるだろう。――――――だが。
「――――やあぁっ!!」
俺は身体を無理矢理動かし、払われた右腕を戻す動きと右脚を上げる動きでじいちゃんの肘を自身の肘と膝でロックする。
「むっ!?」
これにはじいちゃんも意表を突かれたようで、咄嗟には反応できなかった。俺が避けると思ってたんだろう。
だが、俺は避けるわけにはいかなかった。
俺が肘の攻撃を回避すれば、じいちゃんが反時計回りに回転して左後ろ回し蹴りを俺に叩き込んで、この戦いは終わっていたはずだ。
一か八かだったが……何とか上手くいった!
――ここからは、いかにじいちゃんの意表を突くかの勝負だッ!!
「おらあっ!」
「なっ!?」
俺は渾身の力を振り絞り、ロックしている右膝と右肘を支点にして身体を持ち上げる。さすがにこれには驚いたようで、じいちゃんが素っ頓狂な声を上げる。
しかし気を取り直したじいちゃんは俺に引き倒されるのを防ごうと、さらに体勢を低くして走り抜け俺のロックを解こうとする。
だが、そんなことはさせない。今逃げられたら、勝機が遠のいてしまう。ここで――決める!
「せいっ!!」
俺は
「ぐぬっ!?」
「落ちろッ!!」
じいちゃんの顔面が、道場の床に叩きつけられ――――何ッ!?
グワッ―――!!
「ぶっ!?」
「ぐっ」
横から飛んできた裏拳が、俺の右頬を強打する。
俺は勢いよく吹き飛び、床をゴロゴロと転がり壁にぶつかって止まった。
「ぐふっ、がほがほ」
血の味がする……口ん中を切ったのか。いや、鼻血も出てるな。しかし、今、何が起きたんだ……?
俺は何とか目を開き、道場の真ん中に視線を送る。
そこには――――――。
私は、急いでちょっとした買い物をして、凄く急いで帰ってきた。
(シンにぃとおじいちゃん、どうなったのかな……)
玄関で靴を脱いで揃えて、それから道場に向かって駆け出す。
(――あれ?物音がしない―――?)
戦っているなら、何かしらの音はするはず。それがしないってことは……。
――嫌な予感がする。
「シンにぃ!!」
開け放たれた扉から道場の中を覗き込むと同時に、叫ぶ。
「そん、な――」
――――中では、シンにぃが壁際で倒れていて、それを見下ろすようにおじいちゃんが傍に佇んでいた。
「おじい、ちゃん……」
「……鈴音か。この通り、儂の勝ちだよ」
「……」
「最後のは、少々危なかったな。あの瞬間に左手で吸収した勢いのほとんどを儂の攻撃に変換できなければ、負けていたのは儂だっただろうよ」
おじいちゃんは静かに語っているけど、シンにぃ、まだ終わってないんじゃ……?
だって、静かな戦意を、感じるよ――――?
私がそう思うのと同時に、シンにぃから物凄い殺気が迸る。
「ひっ!?」
「何だとっ!?」
私はつい悲鳴を上げてしまい、おじいちゃんはシンにぃから跳び退ろうとした。
――――でも、それは叶わなかった。
俺は、慌てて跳び退ろうとしたじいちゃんの右脚を左手で摑む。
腕を外に開いてじいちゃんを片脚立ちにさせる。それでもバランスを取るじいちゃんに感嘆しながら、左脚を蹴り払った。
床に転がったじいちゃんの蹴り技を封じるために膝で押さえつけ、じいちゃんを殺す気で二本の指を立てた右手を突きつける。
「――――待って!!」
――その手は、じいちゃんの目に突き刺さる寸前で止まっていた。というより、声に反応して止めることができた……。
「シンにぃ、待って。勝負はついてる。シンにぃの勝ちだよ」
「……おう。スズ、止めてくれてありがとうな」
「ううん、それはいいけど……殺す気、だったの?」
スズが悲しそうな声で訊いてくる。俺は、力なく頷く。
「……ああ。戦ってて、殺す気でやらないと勝てないってことがわかった。実際にじいちゃんを殺すつもりはなかったけど、止まらなくて……。こんなんじゃ、じいちゃんには認めてもらえないだろうから倒す気でやろうと思ってたのにな……」
「シンにぃ……」
俺とスズが二人して俯いていると、じいちゃんが身体を起こした。
「……新」
「じいちゃん、なんだ?」
俺は後ろめたさから逃げずに、しっかりとじいちゃんの目を見つめて問い返す。
じいちゃんは、厳しい表情をふっと崩して笑った。
「その意気だ。自分を阻む存在は何であろうと、仮に肉親だとしても殺してでも進む。それくらいの気持ちがあるなら、儂は止めんよ」
「……え?」
「仮に再びお前が、あの……何だったか。そ、そーどあーと、おんらいん?に囚われたように、何らかの事態に巻き込まれて帰宅が難しくなったとしても、その気持ちを持ち続けていれば必ず無事に帰ってこれる。儂が断言しよう」
「じいちゃん……。ああ、そうだな。俺は必ず、ここに帰ってくるよ。――まあ、今回やるのは安全確認は為されているから大丈夫だと思うけどな」
じいちゃんが立ち上がり、俺から少し距離を取って姿勢を正した。
それを見て、俺も姿勢を正す。
「強くなったな、新」
「ありがとう、じいちゃん」
俺達は同時に、礼をした。
「それはそうと、スズはどこに行ってたんだ?」
じいちゃんの許可を得た俺は、道場の掃除(俺の血とかまあ色々だ)をしながら、手伝ってくれているスズに訊ねた。
スズは優しいから掃除を手伝ってくれているのだと思っていたが、どうもそれだけではないみたいだ。
「ふっふーん。実はね?…………じゃーんっ!!」
「……?はあっ!?」
スズが道場の入り口の方にパタパタと駆けて行ったかと思うと、こっちからは死角になっている廊下に手を伸ばしてある物を掴んで見せてきた。
そのある物とは――――。
「それ、アミュスフィアじゃねぇか!?それに、アルヴヘイムオンラインのソフトも……しかも二セット!?どうしたんだよ!?」
「買ってきたんだよー。私の分と、おじいちゃんの分!これで私達もシンにぃと一緒に行けるでしょ?安心!」
「「………」」
俺とじいちゃんは口をぽっかーんと開けたまま呆然としている。
あ、じいちゃんも掃除を手伝ってくれてたんだよ。
……いやいや、そんなことより。
「スズには、ゲームとかの知識はほとんどないだろ?あんな短時間でどうやって揃えられた?」
「和人くんに教えてもらったの。シンにぃがやるゲーム、和人くんも目的は同じなんでしょ?ゲームに、ログイン?する準備は終えてたみたいで、間に合ってよかった」
「いや、やるって……ええ?」
「す、鈴音……。儂にも、それをやれと?」
俺とじいちゃんは困惑したまま顔を見合わせる。
そんな俺達に、スズは底抜けに明るい声音で言った。
「やれとかじゃなくて、心配ならおじいちゃんもやっちゃえばいいんじゃない?ってことだよ。さて、シンにぃ。やろ?」
「お、おう……」
俺はスズに促されるまま、自室に向かって歩き出す。
あ、掃除はちゃんと終わらせてるから問題ない。そっちの問題はないが……。
「じゃあおじいちゃん、道場の隅っこに置いておくから、気が向いたら一緒にやろう?これ、ゲームをやる人の身体能力に左右されるんだって。シンにぃ、これって脳の伝達とかそういうのだから、現実での現在の運動能力はそこまで関係ないんだよね?」
「ああ、そのはずだ。俺はそっち方面にそこまで詳しくねぇから、断言はできねぇけどな」
「だから、おじいちゃんも問題なくやれる……それどころか、すごい強いと思うよ?だから、気が向いたら、ね?」
「う、うむ……」
「それじゃ、後でね~」
俺とじいちゃんはスズに終始圧倒されたまま、道場を後にした。
いかがでしたか?
おじいちゃんの強さが伝わってるといいなぁと。
おじいちゃんは別に意地悪で新に行かせないと言っていたわけではありません。
大切な家族を守りたいが故の、保護者としての責務を果たそうとしたまでです。
新の強さを見て、実際に感じて、新が再びあの世界に飛び込むことを許可しました。
次回は、許可を得た新がVRMMO世界へ向かいます。
カイはシリカの、キリトはアスナの、情報を探すために。
二人の戦いはどうなるのか、お待ちください。
では、また次回。