黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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皆さん、お久しぶりです。
gobrinです。

ぼちぼち書いていた分が個人的な1話の文字数に達したので投稿します。

ここのところ世界的に大変ですが、体調に気をつけて何とか頑張っていきましょう。

話は、カイが祖父に認められた続きですね。
では、どうぞ。


第三十一話 ALOでの新たな出会い、再会

 

俺はスズに手を引かれ、スズの部屋の前まで来ていた。

 

 

「じゃあシンにぃ、後でね」

 

 

スズは手を離し、俺にゆるゆると手を振ってくる。

俺は頷いて、言葉を返した。

 

 

「ああ。スズは初心者なんだから、チュートリアル説明とかはちゃんと聞いとけよ?」

 

「もう。そんな注意しなくても大丈夫だよ」

 

「……あ、後これだけは言っとく。キャラネームは絶対に本名にするなよ?」

 

 

拗ねたように言うスズに、忠告をしておく。

するとスズは、わかりやすく頰を膨らませた。

 

 

「そんなことしないよ!だって少し考えればわかるじゃない?本名でやるなんてあり得ないよ」

 

 

小六があり得ないとわかるようなことをやった奴が身近にいたんだよなぁ……怖くなって念押しした俺は悪くねぇと思うんだよ、うん。

 

 

「考えてもいなかったならいい。じゃあ、また後でな」

 

「むぅ〜……お詫びに後で1つお願い聞いてね!」

 

「はいはい。約束な」

 

「言質取ったからね〜〜!」

 

 

スズは半ば叫びながら自分の部屋に入っていった。

言質取ったなんてフレーズ、どこで覚えてきたんだか……。

 

俺は自分の部屋に向かいながら、スマホを起動する。

 

 

「…………ああ、和人?悪い、待たせた。今からやる。…………ああ、ああ。あー、合わせるか?いや、初回だし無理して合わせなくてもよくねぇか?このゲーム、確か複数種族があるはずだからそれ選ぶのにも時間かかるだろうし。……おう、そういうこと。んじゃ、後でな」

 

 

さて、和人にも連絡したし後はやるだけだな。

 

俺は自分の部屋に入ると、楽な服装にパパッと着替えた。

ベッドに寝転び、アルヴヘイム・オンラインをナーヴギアにセットする。

 

 

…………塗装が所々剥げているナーヴギアを眺め、思う。

 

俺達はこれを脱ぐことができた。……だが、まだこれを脱ぐことができずに()()()()囚われている奴らがいる。シリカもその中の1人だ。────────必ず、助け出す。

俺は、シリカを────珪子を守るとあの世界で誓った。その誓いを、果たす時だ。

 

 

ナーヴギアを被り、呟く。

 

 

「リンク・スタート!!」

 

 

再び、VRMMOの世界へ。俺達は、大切な存在を助けに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に気がついた時、俺は白っぽい空間にいた。

 

気が急いていたためにほとんど話を聞いていなかったが、どうやらチュートリアルとキャラの作成をする場みたいだ。キャラネームと、種族を選択する必要がある。

それらを聞き流しながら、設定を進める。

 

名前は当然、ニューカイ。SAOと同じ名前。これが、VRMMO世界での俺の名前だ。

 

そして俺は碌に種族説明を読むこともなく、ぱっと見で気に入った種族を選択した。

 

────闇妖精(インプ)族。俺の好きな紺色に一番近い色の基本装備をしている種族がこれだった。

 

まあ、極めてスキル重視のALOなら、種族間のスペック差みたいなのはほぼないと見ていい。

なら、見た目を気にいるかどうかは大事な要素だ。

 

俺は闇妖精族で確定する。

 

 

 

『それでは、ゲームが始まります。闇妖精(インプ)族のホームタウン────』

 

 

システム音声がごちゃごちゃ何か言ってるが、俺の耳には届かなかった。

これで、これでようやくシリカの手がかりを掴めるかもしれない。

ひたすら情報を漁るだけの苦痛の日々。それを断ち切ってみせる。

 

 

 

 

浮遊感を感じた時には、俺は落下を始めていた。

眼下に街が広がっている。

 

そういやさっきホームタウンとか言ってたような気がすんな。

名前何てったっけ……?覚えてねえ。まあいいか、誰かに訊きゃいいだろ。

 

それよりも重要なのはこれからどうするかだ。

和人────おっと、この世界ではキリトか。あいつと連絡を取るのか、それとも各々で先を目指すのか……明日あたりにそのことを話し合わねえと。

 

 

そんなことを考えていた俺を、異変が襲う。

突然視界の全てがフリーズし、あちこちにノイズが奔る。

ポリゴンが次々と欠け落ちていき、世界が黒一色に変わってしまった時────再び強烈な落下感が俺に叩きつけられた。

姿勢制御をしようにも、空気抵抗があるわけではないらしい。

困惑のまま、俺は暗闇に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと!」

 

 

かなり長く感じた落下の末、俺は視界が開けた時に姿勢を正して着地した。

衝撃を逃がすために膝をついたが、これはまあ仕方ない。

 

俺は周りを見渡す。

うん、森だ。

 

 

「さーて……どこだろうな、ここ」

 

 

こんな森の中がインプとやらの住処という可能性もゼロではないが、さっき眼下に見えた街が恐らくホームタウンのはず。つまりここは全く関係ない場所である可能性が高い。

 

 

「普通に困るんだがなぁ」

 

 

ここがどこだろうとどうでもいいんだが、行動の指針を決められないのは困る。

俺は少し考えて、取り敢えずメニュー画面を開くことにした。

 

右手を振り、メニュー画面を呼び出す────。

 

 

「あん?」

 

 

出ない。

さっきのバグらしきモノに続いてここでもバグか?……と思ったが、そういやさっきのチュートリアルで左手でメニュー画面が開けるとか言ってたような。

試しに左手を下に振ってみると、聞き慣れた音と共にメニュー画面が開かれた。

 

 

「ああ、よかった。バグだったらシャレにならねえからな」

 

 

ひとまずログアウトボタンが存在するかどうかを確認する。

ログアウトを見つけて一安心。…………これもう病気だな。

 

 

「さて、次はステータス……っと、は?なんだこれ」

 

 

ウインドウ最上部にある俺のキャラネームとHP、MP。これはいい。問題はその下、習得スキル欄。

そこには、カンストされた数々のスキルが表示されていた。

一部カンストしていないのもあるが……それもほぼ900オーバー。明らかに初期スキルの数値じゃない。

 

これもバグか?と疑ったが……どうやら違う。

 

 

「…………これ、()()俺のスキルか?双短剣スキルとかはねえようだが……」

 

 

間違いない、これは俺がSAOで二年間鍛え続けた各種スキルだ。

熟練度上げをしている時は毎日のように見ていた文字列と数値の組み合わせだ。忘れるわけがない。

 

だがそうなると、次の懸念が浮かび上がってくる。

 

 

「まさか……SAOの中だとでも?────いや、あり得ねぇな」

 

 

自分の疑問を叩き潰す。

あの茅場晶彦が、SAOはクリアされたと言ったんだ。

あいつが言葉を翻すわけがねえ。特に、あの世界に関することで。

 

 

「でも、なら何故俺のスキルが継承されているのか。そこは疑問のままか」

 

 

一分程考えていたが、情報がなさすぎる。

思考するだけ時間の無駄だと判断して、次に何をするかを考えることにした。

 

 

「……スキルが継承されてるなら、アイテムはどうだ?────うわぁ……」

 

 

ふとそう思い立ち、俺はアイテムストレージを確認して……呻き声を上げた。

そこには、文字化けした数々の()()があった。

漢字、数字、アルファベットが組み合わされた意味のない羅列。

俺があの世界で集め、培ったものの残骸。それが目の前にあった。

 

 

「…………ありがとうな、《ヴァイヴァンタル》。世話になった」

 

 

あの世界で一番俺の力になってくれた愛剣に別れを告げる。

この中のどれがあの名剣なのかはわからねぇが……一つのケジメだ。

 

 

「……さて。一応、ざっと見るか」

 

 

まあほぼ間違いなく全てのアイテムが文字化けしているんだろうが、何かの間違いで残ってるのがあるかもしれねぇし。

スクロールだけはしてみよう。

 

 

「あん?」

 

 

下までスクロールする途中で、意味のある文字列を見つけた、気がした。

ゆっくりと、スクロールして上へと戻す。

法則性のある文字列だった気がするんだが……あった。

 

 

「これだけ文字化けじゃなさそうだな……CDT-00?」

 

 

俺はそのアイテムを選択し、アイテム取り出しボタンをタップする。

 

出現したのは、……パッと見じゃわかんねえなこれ。えっと……正二十面体、か?

正二十面体の煌めく宝石。種類は不明だが、薄い紅色に淡く輝いている。

こんなものを所持していた記憶はねえが…………いや、展開してみるべきだ。

 

俺は、宝石を二度タップする。

すると、辺り一帯を眩い光が包み込んだ。

俺も目を開けていられず、腕を盾にして目を庇う。

 

 

光が落ち着くまで待っていると、目の前に何かが出現した気配がした。

腕を退けて、前を見る――――そこには、少女が立っていた。

 

先程の宝石が放っていた輝きと同色の長い髪の毛に、深い叡智を宿しているような薄紫色の瞳。

色素の薄い唇は、少女の儚さを演出していた。その逆の印象を与えるかのように、俺の胸までしかないその身に漆黒のドレスを纏っている。

 

俺と少女は見つめ合う。

互いが互いの行動を伺うような妙な間があり――――面倒になった俺は話を切り出すことにした。

 

 

「んで、誰だ?お前」

 

「……」

 

 

沈黙。そういうの一番困る。こっちがキメてカッコつけて質問してんだから答えろや。

 

 

「もう一度訊く。お前は、誰だ?」

 

「…………」

 

 

再び沈黙。答えを期待するだけ無駄かと思った、その時。

 

 

「……心当たりは、ありませんか?」

 

 

木々の騒めきに掻き消されてしまいそうな声で、少女が俺に問いかける。

声は小さいが、気弱な印象は一切受けない。芯の強そうな声だ。

 

にしても、心当たりだと?

 

 

「…………ねぇよ」

 

「そうですか、それは残念ですね。――――貴方に興味を持ったと、お伝えしたのですが」

 

「興味を、持った――――?」

 

 

……そのフレーズで思い当たることがあった。

しかし、こいつが()()なのか?

 

 

「ということはお前は、まさか――――」

 

「察していただけたようで何よりです。改めて名乗りましょう」

 

 

少女は、腕をゆっくりと広げた。

木々の隙間から漏れてくる月光が、幻想的な風景を演出する。

 

 

「ワタシは、カーディナルシステム。《ソードアート・オンライン》を維持・運営していたカーディナルシステムが生み出した複製端末です」

 

「…………本当に、カーディナルだとはな。複製端末……ってことはCDTはカーディナル・デュプリケーション・ターミナル、の略か?」

 

「その通りです。わかりやすい記号が必要だと考えましたので」

 

「そのおかげで俺が気付いたわけだし、意味はあったな。ところで……どうやって俺のストレージに組み込まれた?」

 

 

それがわからない。俺には、CDT-00などというアイテムを入手した記憶はない。

 

 

「貴方のよく知っている、プレイヤーキリトのテクニックを参考にしました。彼はMHCP-01をシステムから切り離した時、システムへの接続経路を通じて自身の外部ストレージに隔離していました。その外部ストレージには我々の影響が及ばないことを期待しての行動でしょうが、その発想は賞賛されるべきものです」

 

「…………隔離先を理解していたのか」

 

「はい、追跡は続けていました。そして貴方に興味を持った時、同様の方法を使用することにしました。ワタシの保存場所は、貴方の外部ストレージを間借りしている状態です、プレイヤーニューカイ」

 

 

キリトは確か、ユイをカーディナルシステムから切り離した、みたいなことを言ってたな。俺はそっち方面にあんま詳しくねえから正確な理解ができているとは思わねえが……外部ストレージってのがナーヴギアの内部容量のことなのか?まあ、今このカーディナルは俺のナーヴギアに保存されている状態ということだけ把握していればいいだろう。

 

 

「……とりあえず話はわかった。正直いい気持ちはしねえが、お前は役に立つだろうしな。訊きたいことがいくつかある。答えてもらえるのか?」

 

「はい。ワタシは貴方を最も近くで観察する見返りとして、貴方の疑問を解決しましょう。そのために、全力を尽くすことを契約します」

 

 

契約、ね。まあ正直、どうすることもできねえし。せめて利用させてもらおうか。

 

 

「なら、まず確認だ。何故かSAO時代の俺のスキルがこのキャラクターに引き継がれている。原因はわかるか?」

 

「はい」

 

 

ほう、即答か。こりゃ本当に役に立ちそうだぞ。

 

 

「説明してくれ」

 

「はい。この世界は、《ソードアート・オンライン》サーバーのコピーだと考えられます。基幹プログラム群やグラフィック形式は完全に同一です。カーディナル・システムのバージョンが少し古いことと、その上に乗っているコンポーネントが全く別個であることが差異でしょうか」

 

「ふむ」

 

 

このALOはSAO事件後にアーガスが消滅しレクトが事後処理を委託されてしばらく後にリリースされている。

ゲームの根幹などを流用し、開発費を抑えた、みたいな話なのか……?よくわからん。

 

 

「また、プレイヤーニューカイはスキルが引き継がれていると判断していましたが、それは誤りです。それは貴方がSAOで使用していたキャラクターデータそのものであり、セーブデータのフォーマットがほぼ同じなため二つのゲームに共通するスキル熟練度が上書きされたものでしょう。別形式のものは引き継がれていません……アイテム類は全て破損してしまっています。エラー検出プログラムに検知される可能性が極めて高いため、破棄すべきです」

 

「……なるほど、スキルだけでなく俺の前のデータそのものなのか。アイテムについては理解した、ありがとな」

 

 

俺はアイテム欄に指を滑らせ、文字化けしているアイテムを全て選択してデリートする。

…………めっちゃスッキリしたな。初期装備しか残ってねえわ。

 

 

「俺のステータスに関してはわかった。まだ訊きたいことはあるんだが、いいか?」

 

「はい、どうぞ。プレイヤーニューカイ」

 

「…………その前に、1つ頼みだ。以前本体にも言ったが、俺のことはカイと呼んでくれ。プレイヤーも要らねえ」

 

「────わかりました、カイ。これでよろしいですか?」

 

「ああ、すまねえな。それで質問なんだが────」

 

 

そこから俺は少しばかり質問をした。

 

こいつの返答をまとめると、こいつはこのゲームにおいてピクシーという存在らしい。このゲームに適した姿があったようで、質問に答えながら姿を変えてみせた。漆黒のドレスを纏った美しい妖精、って感じだな。可愛さより美しさが際立っている。

また、管理者権限は持ち合わせてないそうだ。そりゃそうだ、カーディナル・システムが端末に管理者権限を持たせる必要がない。ゲームマップにアクセスしたり、ある程度までは情報の検索もできるようだが、戦闘能力はないとのことだった。このナリで戦闘能力があったら怖えよ。

ついでに、俺の、俺達の目的────世界樹を目指すということは、伝えておいた。

 

 

「そういうことなら、さっそく検索を頼む。このゲームでは飛行が可能だが、どうやるんだ?」

 

「…………飛行の補助デバイスが存在します。物を軽く握るような形を左手で作ってください」

 

「こうか?────おっ、これか」

 

 

言われた通りに左手を握り込むと、スティック付きの小型コントローラーが出現した。

 

 

「使用方法は?」

 

「手前に引いて上昇、押し倒すと下降。ボタン押し込みで加速、離すと減速。左右に傾けると旋回です。飛行には制限時間があり、翅が光っている間のみ飛行が可能です。地に降りることで翅を休めることができます」

 

「了解。助かった、……あーっと…………」

 

「……?」

 

 

こいつの目を見て、その上で言葉に詰まったもんだから首を傾げられた。

そのちっちゃい見た目でそのリアクションは似合いすぎてるからやめろ。

 

 

「いや、なんて呼べばいいかと思ってな、お前のこと。なんか希望あるか?」

 

「いいえ、特にありません。ご自由にお決めください」

 

「んー、じゃあカーナビで」

 

 

────途端に、凄い表情で見つめてきた。

目つきが鋭くなって睨んでる、とかじゃないのが逆に恐ろしい。

真顔に近いが、真顔でもない。なんだこの表情。

……いや、不満に思ってることはわかるんだがな?

 

 

「…………自由に決めていいって言ってなかったっけか?」

 

「はい、問題ありません。ご自由にお決めください」

 

 

と言いつつも表情が変わらない。

……そろそろからかうのやめるか。

 

 

「悪かった、冗談だ。そうだな……カーディナルから二文字取って、『カナ』なんてのはどうだ?」

 

「カナ……了解しました。ワタシはこれからはそう名乗ります、カイ」

 

「おう、そうしてくれ。さてと、じゃあ少し飛んでみるか」

 

 

まず、翅を生やす。…………こんなうっすい翅で飛べるって、ゲームだなぁ。ま、いいや。

俺はカナの説明通りに手にした補助デバイスを操作して、数分間飛行感覚を身体に叩き込んだ。

うーん……飛べるけど、片手が潰れるのはいただけねえな。このゲームのことを調べた時、空中戦闘の映像を見たことがあるから、このデバイスなくても飛べるんだよな、きっと。

 

 

「なあカナ?お前は、現実のネットからも情報を探せるのか?」

 

「可能です。何か知りたいことが?」

 

「デバイスを用いない飛行について、やり方やコツの情報が欲しい。調べてみてくれないか?」

 

「わかりました。少々お待ちください。…………検索完了。情報を参考にした者の意見も鑑み、最も正確で役立つ情報はこちらだと思われます」

 

「助かる。………………ふむふむ」

 

 

それはブログの記事だった。一通り読んでみると、確かにコツがわかりやすく説明されている。

そこに記載されているコツに倣い、肩甲骨辺りから仮想の骨と筋肉が伸びているとイメージして動かす。

 

………お、本当に少し動かせた。さっきデバイスで飛んでいた時の翅の動きの感覚と合わせて考えると………こうか?

 

 

瞬間、俺は真上に物凄い速度で飛び出してしまった。

 

 

「おわぁっ!?」

 

 

俺は慌てて減速を試みる。な、何とか上手くいった……。

なんでこんな動きになったんだ?

 

カナが近くまで上昇してきてくれたのでこれ幸いと訊ねる。

 

 

「カナ、なんかすげえ飛び上がっちゃったんだが、これはバグか何かか?」

 

「いえ、カイの翅の操作が過剰だっただけだと思われます。情報を検索した際に閲覧した他のプレイヤーの翅の動きに比べ、明らかに過剰に振動していました」

 

「そうか……まあ、意志が伝わりやすいんだって前向きに捉えることにするわ。さてカナ、一番近い街……もしくは、プレイヤーの存在は確認できるか?」

 

 

俺は地面に向かって降りながら、肩に乗せたカナに訊ねる。

すると、カナは少し目を閉じた後、おもむろにある方向を指差した。

 

 

「あちらの方角に、スイルベーンというシルフ領の街があります。他種族の街だと攻撃される可能性があり、その場合でも反撃できないデメリットが存在しますが、インプ領はずっと東に行ったところであり向かうのは現実的ではありません。一番近くに存在するプレイヤーは、そちらの方向ですね。ワタシ同様のナビゲーション・ピクシーを連れているようです」

 

 

指差す方向を少し変えて、カナがそんな説明をしてくれる。

 

 

「そのプレイヤーに会うのが先決だな。シルフのプレイヤーの可能性もあるし、それなら交渉次第で協力してくれるかもしれない。というわけで、行くぞ」

 

「はい。先ほどの速度で移動する場合、ワタシは風圧で飛ばされますのでご注意ください」

 

「…………『ワタシを労ってゆっくり飛んでください』くらいは言ってもいいんだぞ。これからもカナに頼るだろうし、遠慮はなしでいこう。まあ、要望に応えられないことも当然あるだろうけど」

 

「わかりました。では、ワタシを吹き飛ばすことのないよう飛行してください」

 

「この胸ポケットに入れてもいいか?」

 

「………………………………構いません」

 

 

めちゃくちゃ葛藤するような間を開けて、カナが許可を出した。

嫌なんだろうなぁ……まあ、許せ。

 

 

「なら、失礼して。っと、そうだ。俺が呼びかけるまで出てこないでくれるか?」

 

「その要求の意図は不明ですが、了解しました。なるべく揺らさないようにお願いします」

 

 

いくらカーディナルシステムの複製とはいえ、カナに平衡感覚というものは存在するのだろうか……?

 

そんなことを考えながら、俺はカナの要望通り、無駄な旋回や宙返りのようなアクロバティックな軌道は自粛した。

本当は飛行練習も兼ねてやりたかったけど。

それにしても、キリトとスズはどこにいるのかねぇ。

 

数十秒後。

俺は、上空からプレイヤーの存在を発見した。

両手を挙げて敵意はないことを示しつつ、地に降りる。

 

 

「少しいいか。いきなり声を掛けるなんて、怪しいのは理解しているんだが、話を聞いてほし……」

 

 

降りて、相手の顔を見て話していた俺は、その肩に座っている存在に目を奪われる。

ピンク色の衣を纏った小さな身体には俺と同様の薄い翅が生えていて、なるほどカナの言っていたピクシーとはアレのことかと納得する。

驚いて言葉が止まった理由は、そのピクシーの顔に見覚えがあったからだった。

 

 

「…………ユイ?」

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 

俺の零した呟きに、黒ずくめの男とピクシーが反応する。

確かに、あいつが選びそうな見た目の種族がいたような……。

 

 

「まさか、お前……」

 

 

黒ずくめの男が俺を指差すのと同時に、相手のピクシーが俺に寄ってきて手を触れた。

そして次の瞬間、パアッと表情を明るくさせる。

 

 

「カイさん!」

 

「やっぱり、ユイなのか!てことは、お前も何故かこんな所に落とされたのか?キリト」

 

「その言い方だと、カイもか……。お互い、訳わかんないことになってるな」

 

 

黒ずくめの男……キリトは、やれやれと言った風に俺に歩み寄ってきた。

 

俺達は腕と腕をぶつけて、この世界での再会を喜ぶ。

 

 

「取り敢えず、合流できたな」

 

「ああ。キリトはどこまでユイから聞いてるんだ?あ、久しぶりだな、ユイ」

 

「はい!お久しぶりです、カイさん!」

 

「大体のことはユイから聞いたと思う。街の場所を聞こうと思った時、ユイがプレイヤーの接近を知らせてくれたんだ。まあ、カイだったわけだけど」

 

「なるほどな。最寄りならそっちの方向にスイルベーンって街があるらしいぞ」

 

「……?なんでカイがそんなこと知って……いや待て、『キリトはどこまで聞いた』ってどういう────」

 

「パパ、カイさん!プレイヤーが近くにいます!これは……2人と、7人!7人が2人を追っているようです!」

 

 

俺達が情報交換をしていると、ユイが鋭い声で掴んだ情報を伝えてきた。

 

俺達は一瞬ユイの方を見て、また視線を合わせる。

 

 

「どうする?」

 

「一応、見に行くか。何より情報が欲しい」

 

「そうだな、行くか」

 

 

キリトの問いかけに端的に返すと、キリトが左手に補助デバイスを出現させて飛び上がった。

俺も後に続く。

 

 

「ユイ、どっちだ?」

 

「あちらです!まっすぐ進んでください!」

 

「了解!」

 

 

キリトとユイが阿吽の呼吸で進路を定めた。

いやぁ、仲の良いことで。

 

少し飛ぶと、ユイがまた声を上げた。

 

 

「そこの木が密集していないところです!数は……6人です!」

 

「わかった、ユイは隠れていてくれ!……カイ、行くぞ!」

 

「おうよ」

 

 

そうして俺達は、拓けた場所に躍り出た。

 

 

「おぉぉぉぉおおあア゛ア゛ッ!?」

 

「よっと。なーにしてんだお前は……」

 

 

キリトは頭から、俺は足から着地する。

俺はキリトのアクロバティック(笑)っぷりに呆れた声しか出なかった。

 

 

キリトは時間をかけて、立ち上がった。頭が痛そうだ。

 

「これは……着陸がミソだな……というかカイ、お前はなんでそんなにすんなり着地できるんだ?」

 

「お前と合流する前に練習したからに決まってんだろ。それより、ほれ」

 

「ん〜?」

 

 

俺が顎をしゃくってみせると、キリトもようやく目の前に意識を向けた。

 

俺達の目の前では、全身鎧の重戦士5人が宙で槍を構え、軽装の女剣士1人を囲むようにしていた。円錐型の槍────ランス、日本では騎兵槍と呼ばれた槍だ。歩兵が使うのに向いているとは言い難い槍だが、ここでは全員飛べる。関係ないんだろうな。

アレは間違いなく、仕掛ける気だった。

 

 

「なっ……何してるの!早く逃げて!!」

 

 

その女が、俺達に逃げるよう警告する。

たぶん、装備が心許ない俺達を見て、新人(ニュービー)だと察したんだろう。マナーのあるMMOプレイヤーだな。

 

キリトはその声掛けを無視して、のんびりと感想を述べた。

 

「はぁ……重戦士5人で女の子1人を襲うのは、ちょっとカッコよくないなぁ。なぁ、カイ?」

 

「その同意の求め方は、俺が過去に同じことをやったことがあるみたいに聞こえるからやめろ。まあダセエとは思うが」

 

 

キリトがこんなことでビビるようなタマじゃないのは知ってるが、あまりにもマイペースが過ぎる。

 

 

「何だとてめぇ!?」

 

「初心者がノコノコ出てきやがって!」

 

「おい、ダセエとか言ってきたてめえもだよ!」

 

「どうせ《レネゲイド》かなんかだろ!まとめてやっちまうぞ!」

 

 

あーあ、怒らせちゃった。

しっかし、こっちが初心者だってわかってんのにその態度はどうなんだ?初心者の方が逆に興味津々になると思うんだが。こっちはマナーがなってねえな。

 

 

「望み通りに、狩ってやるよ!」

 

「オラァッ!!」

 

 

俺とキリトに対して、槍の突撃を仕掛けてくる。

うわー、初心者相手に容赦ねー。

 

 

パシッと。キリトが槍の先端を掴む。

それを横目に、俺は横に滑るように動いて槍を躱し、その手首を捻りあげて槍を奪い取った。

合気の応用で、相手の武装を解除させる技術だ。自身の武装補強にもなる。じいちゃんに様々な武器の扱いを叩き込まれた最大の理由でもあるな。

 

俺は捻りあげた腕を振り回し、ハンマー投げの要領で重戦士を相手方に向けて投げ飛ばした。おお、相手が飛んでるからすげえ楽に投げられたぞ。

キリトは、「よっと」とか言いながら槍を腕力だけで押し返し、相手を突き飛ばしていた。わぁお、STR重視は違うねぇ。突き飛ばされた相手は、別の重戦士を巻き込み地面に落ちる。

 

 

「えっと……その人達、斬ってもいいのかな?」

 

 

キリトが肩を回しながら誰ともなく訊ねる。

答えてくれる人は1人しかいないと思うが、果たして。

 

 

「そ、そりゃあ、いいんじゃないかしら。……少なくとも先方はそのつもりだと思うけど」

 

 

女剣士が答えてくれた。本当に優しいなー、こいつ。

ちなみに俺の答えは端から決まってる。攻撃してきたなら問答無用で倒していい敵、だ。

 

 

「んじゃ、失礼して……ハッ!」

 

 

キリトが剣を抜き、思いっきり踏み込んだ。

蹴り上げた土が、砂埃となって舞う。

キリトに斬られた奴は今の攻撃が見えたのかね?

 

 

「き、消えた……?……ぐわぁぁぁ!!」

 

 

キリトが斬りつけた敵が、火の玉みたいになった。

アレは、このゲームでの死亡エフェクト、か?

それはそうと、全員がキリトに注目している。思わぬラッキー。

 

 

「せぇーの……ッオラァ!!」

 

 

俺は首を鳴らし、敵から奪った槍を全力で投擲した。

俺の声に気づいて振り返ったようだが、遅ぇ。

 

 

「ぎゃああああ!!」

 

「ぐええええ!!」

 

 

俺に槍を奪われた奴と、運悪く延長線上にいた敵がまとめて火の玉に変化した。

やっぱ死亡エフェクトか。

 

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

 

ようやく、攻撃を仕掛けた初心者がただの素人ではないと察したか、地面に落ちていた奴が慌てて飛び上がろうとする。

でも、残念。

 

 

「おっと、逃がさないよ」

 

 

キリトが踏み込む方が速い。

再度敵をすれ違いざまに斬り捨てたキリトは、最後の1人に目を向ける。

 

 

「どうする?あんたも戦うかい?」

 

 

すると、その重戦士は両手を挙げた。降参のポーズだ。

 

 

「……いや、やめとくよ。もう少しで魔法スキルが900なんだ。デスペナが惜しい」

 

「ハハッ、正直な人だな。そちらのお姉さんは?」

 

「…………私もいいわ。今度はキッチリ勝つわよ、サラマンダーさん」

 

 

女剣士もしばし考えたのち、戦闘続行の意思を見せなかった。

だが、重戦士に対してそんな一言を残している。

なーるほど、負けず嫌いね。

 

 

「……キミともタイマンでやるのは遠慮したいな。では────」

 

「ちょっと待ってくれよ」

 

 

飛び去ろうとした重戦士を言葉で引き止めた。

────お前ら、俺の意見も同じだとか思ってねえだろうな?

 

俺達の戦闘を見てやり合いたくないと思ったか、重戦士が恐る恐るといった様子で質問してくる。

 

 

「キミはそっちの彼とパーティーだと思ったんだけど……違ったかな?」

 

「パーティーなのは違わねえよ?だが、パーティー内の意思が必ずしも統一されてるとは限らねえよな?俺達は、あんたらみたいな部隊じゃないんだから」

 

「………じゃあキミは、俺を逃がす気はないと?」

 

 

インプである俺と、スプリガンであるキリトを見て俺の言い分が理解できてしまったのか、重戦士は嫌そうに確認してくる。部隊ってのは推測だけど、合ってたみたいだな。

それはそうと、その推測はちょっと違う。

 

 

「いや、あんたを仕留める気は特にない。ただ、ちょっとばかり手伝ってほしいんだよな。俺の空中戦闘の練習台になってくれねえか?」

 

「……もし仮にどんなにキミが優勢になっても、トドメは刺さないと?」

 

「ああ、それは約束する。ま、信じられるもんじゃないかもしれねえがな。逆に俺が追い込まれても、見逃してくれると嬉しいね」

 

「…………わかった。その提案、受けよう。提案を断ったら、問答無用で襲いかかってくるんだろう?キミからは逃げられる気がしないからね」

 

 

肩を竦めてみせると、重戦士はそう言って俺の提案を受けた。

マジか。断られると思ってたわ。

 

 

「流石にそれは買い被りすぎだ。こっちはただの初心者だぞ」

 

「ウチの連中がただの初心者に負けるわけがないよ。ああ、練習台になるのはいいんだが、まだ待ってくれ。翅の使用時間を考えると、少し休ませる必要がある」

 

「ああ、それはいいぜ。あんた、名前は?」

 

「カゲムネだ。それじゃ、少し失礼するよ」

 

 

カゲムネと名乗った重戦士は、逃げる意思はないと示すためか地面に腰を下ろした。

ふーん。倒した奴らと違って、話がわかりそうなのもいるじゃん。

 

 

そこで俺は、ドン引きした視線をこちらに向ける2人に気づいた。

当然、キリトと女剣士だ。

 

 

「あ、俺の行動(こと)は気にせず、続けて?」

 

 

そう言ったのに、2人はありえないモノを見るかのような視線をやめてくれない。

えぇ、んなひどいことしてるか?俺。

 




はい、というわけでカイがキリトと合流しました。
ついでに、権限は持たないカーディナルが強制イベントで仲間になりました。やったねカイちゃん、家族が増えるよ!

ちなみに、アレに気づかずにアイテムを全消去しようとした場合、『『CDTー00』は破棄できませんでした。』とかいう呪いのアイテムみたいなシステムメッセージが出ます。カイはドン引きしながらも仕方なく確認するので結果は変わりません。初期対応の辛辣さが変わるかもしれませんが。

そして、サラマンダーの部隊長カゲムネを逃がさない発言。
これにはキリトと見知らぬ女剣士もドン引きです。実際カイにそんな気はなかったのですが、脅迫にしか聞こえない件について。それはそうとこの女剣士は誰なのかなぁ(痴呆)。


次話もどうせ時間がかかるので、気長にお待ちください。
では、また次回。
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