黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

4 / 33
カイがちょっと嫌なことします。
ご了承ください。
彼は性格が悪いんです。


第四話 エクストラスキル

勝利の余韻に浸っていた他の攻略組のメンツに冷や水を浴びせるかのような言葉を放り込む。

もちろん片手剣は回収済みだ。

 

 

「おい、サボテン。この場で土下座で謝れ」

 

「な、なんでや!誰に!」

 

「ただ一人を除く全員にだよ。たりめぇだろ?てめぇは自分の都合だけでキリトの攻撃力を下げようとしたんだ。俺達にLAを取らせたくないっていうどっかの馬鹿な元テスターの言葉に唆されてな」

 

 

そう言ってディアベルを睨む。

奴は目をそらした。

周りの奴らはキョトンとしている。状況もわからないだろうから当然か。

まあ、今はナイトだ。ああいうのいらつくし。やめるつもりはない。

 

 

「う、嘘や!ディアベルはんが元テスターなんてあるわけが……あっ」

 

「確定だな。なぁ、ナイトさんよぉ?――何がナイトだ。裏からコソコソ手を回すことしか出来ねぇクソ野郎が」

 

 

皆の視線がディアベルに集まる。

 

 

「……ご、誤解だよ。そんなことあるわけないじゃないか」

 

「けっ、往生際の悪い。おいサボテン、お前は俺達のやったことを知っていたな。ディアベルはどうやって知ったと言っていた?」

 

 

見るからに狼狽しているサボテンに問いかける。

 

 

「せ、せやから『鼠』に……」

 

「その時点でダウトだ。この中に『鼠』から情報を買おうとしたことのある奴はいるか?」

 

 

何とか答えを返そうとしたサボテンの言葉を遮って全員に話しかける。

誰も声をあげない。言いづらいのではなくいないんだろう。

 

 

「そうか。なら教えてやる。アルゴは何があってもベータ時代の情報は売らない。他にも売らない情報もあんのかもしれねぇが……取り敢えず覚えとけ。さて、これでサボテンに情報を流した奴がテスターだとわかったなぁ?あれ?サボテン、テスター嫌いじゃなかったか?……サボテンも騙してご苦労なこった、ナイトさんよ」

 

「……ディアベルはん………ワイを騙しとったんか……?」

 

「いや、ちが……」

 

「ああ、喧嘩なら帰ってからやってくれ。俺らはこのまま次の層をアクティベートしてくる。

てめーらは邪魔だ。帰れ」

 

「「「なっ」」」

 

「うっせーな、当然だろ。最後寝てただけの奴らになんか言われる筋合いはない。帰れ」

 

 

そこまで言って、俺は振り返る。キリト達のとこへ……

っと、忘れてた。礼は言わねぇとな。

顔だけで振り向く。

 

 

「エギルとそのパーティーメンバーの奴ら、さんきゅーな。

あんたらのおかげで大分楽に戦えたよ」

 

「お、おう!次のボス戦も一緒にやろうぜ!」

 

「おう。じゃあな」

 

 

今度こそキリト達の下へ行く。

 

 

「悪ぃ。待たせたな。行こうぜ」

 

「あなた、あれは言いすぎじゃない?」

 

「同感。カイ、やりすぎ」

 

「なめたことしてくれた礼だよ、礼」

 

「はぁ……なんでこうなのかしらこの人。

……さて、もうあの人達に声は聞こえないわよね?質問に答えてもらうわよ」

 

「それまで待っててくれたのか。優しいな、さんきゅ」

 

 

軽くからかうように礼を言ったが、アスナは全く笑っていなかった。こわっ。

 

 

「どういたしまして。それで?

まず始めに、なんで最初一撃入れにいったの?」

 

「趣味だ」

 

「カイは前からこうなんだ。ベータ時代から二人でボスに挑む時は毎回。

あれ?でも今回大勢の前でやったな。なんでだ?

ベータ時代はやってなかったのに」

 

「そりゃ正式サービス初のレイドでのボス戦だぞ?

最初の一撃は譲れねぇ。記念だよ、記念」

 

「ふぅん。まあ、それはもういいわ。次、そのとき言ってた昨日ぶりってどういう意味よ?」

 

「ん?ああ、昨日、二回目の会議後に喧嘩売りにいったんだ。一人で」

 

「「一人!?」」

 

「カイ、それ俺も知らないぞ!あ、あの用事ってそれか!?」

 

「キリト君にも知らせてないの!?」

 

「一人でどこまでやれるか知りたかったんだよ。途中でやめたが」

 

「ホッ……。諦めて引いたのね」

 

「……多分違うと思う」

 

「え?」

 

「当たりだキリト。あのままなら本当は削りきれたんだけどな。

ただ、勝手に倒すとなに言われるかわかったもんじゃねぇし、ナイトがやったことかどうかの確証がとれないと思ってな。やめたんだ。

でも、HPバーの二本目でやめたのは失策だったか。まさか野太刀を使ってくるとは……」

 

「……え?え?一人で?コボルドロードを?センチネルは?」

 

「まとめて倒したが?」

 

「え?え?カイってどれだけ強いの……?」

 

 

アスナがえらく困惑している。そんなに驚くようなことか?

流石に誰でもできるとは言えないが、レベルを上げればできる奴は結構いると思うんだが。

 

 

「カイは多対一が一番得意なんだよ。もちろんカイが一の方な。

それにレベルも俺達とは段違いだしな。

味方は五人までがやりやすいんだっけ?」

 

「それぐらいがやりやすいな」

 

「……レベルは?」

 

「誰にも言うなよ?」

 

「……ええ」

 

 

アスナに耳打ちする。

 

 

「……ええっ!?高すぎでしょ!?わたしより十は上じゃない!?」

 

「めちゃめちゃレベル上げしたからな」

 

 

アスナがドン引きしていた。解せねぇ。

 

 

「どんな化け物よ……。じゃあ、昨日も憶えててくれたっていうのは?」

 

「キリト、説明よろ」

 

「逃げたな……。実は俺達はディアベル達よりも早くボス部屋を発見していたんだ。

アスナと会ったのは三回目の偵察の帰りだったんだよ」

 

「……なんでその情報を広めなかったの?」

 

「俺が止めた。俺達はかなりレベル上げに尽力してた。

それでも余裕で勝てるかと言われたら微妙なレベルだった。

俺達だけなら余裕だったんだけどな。ボス戦は他の奴もいるだろ?

それに最初は俺達ですら少し苦戦したからな。なんとか倒すことはできそうだったが。

このデスゲームではそんな微妙なアドじゃダメだ。

そう判断して、情報は抑えていた」

 

 

ここで俺は一息吐いて、アスナをしっかりと見つめた。

 

 

「アスナ。ボス攻略会議の前に俺が言った責任ってのはこれのことだ。そうしなければならないと考えたからだとはいえ、俺は意図的に情報を遮断し、ボスの攻略を遅らせた。結果、不安に耐え切れなかったプレイヤーや、多大なストレスを感じたプレイヤーだっていただろう。お前のように。だから、この場で謝る。すまなかった」

 

「……そう。いいわよ、別に。目的は理解できるしね。じゃあ憶えててくれたっていうのは?」

 

「そのままの意味だ。なんかあるみたいだな、そーゆー機能。

俺を目にしたとき、確かに恐怖してたぜ、あのボス。

一人で暴れたからなぁ」

 

「……そ。じゃあ最後に。あなたの戦い方はなに?

あんなに武器を替えて」

 

「あれが俺のスタイルだ。相手や状況に合わせて武器を替える」

 

「あ、ボスと戦う前に言ってたやつ?」

 

「そうだ。コボルドロードが使ってた刀の部類の武器は持ってないが、それ以外の手に入る武器は全て扱える。

まあ、武器スキルは取れてないのがほとんどだけどな。細剣もいけるぜ。

アスナには敵わないがな。お前のはすごすぎる」

 

「なに、それ……」

 

「無茶苦茶だろ?これがカイなんだよ」

 

「無茶苦茶言うな。…….お、出口だ」

 

 

俺達は第二層に足を踏み入れ、三者三様の呟きを漏らした。

 

 

「おお……」

 

「すごい……」

 

「これはこれは」

 

 

ちなみに上から、キリト、アスナ、俺だ。

中々に絶景だった。

 

 

 

 

第二層主街区はテーブルマウンテンの周りを残して掘り抜いた街だった。

 

 

「アスナはどっかに隠れてろよ。フードねぇんだし。その容姿は目立つぞ。

ついでにキリトもだ。そんなに真っ黒い奴もそうそういねぇからな」

 

 

キリトはLAボーナスで手に入れた黒のレザーコートをすでに装備している。

似合ってるんだが……如何せん目立つ。

 

 

「アクティベートは俺がやるよ。でも俺はやらかしたからな。

すぐにダッシュでそっち行くから場所確保したら呼びかけてくれ」

 

「「わかった」」

 

 

二人が場所を探してる間、俺は第二層のクエストを思い出し、どれを受けようか考えていた。

ちなみに有効化(アクティベート)とは『転移門』という街から街へ転移できる便利なものを使えるようにすることだ。

 

 

「おーい!準備できたぞ!」

 

 

あそこか。

キリト達が選んだのは教会っぽい建物だ。

 

 

「わかった!やるぞ!」

 

 

第二層をアクティベートし、全力でキリト達の下へ走る。

隠れ場所の三階に駆け上がり、窓から外の様子を眺める。

 

ちょうど一番最初のプレイヤーが転移してきたところだ。

次々とプレイヤーが転移してくる。

興味深そうに周りを見渡す者。地図を片手にどこかへ走り去る者。喜びの声をあげる者。様々だった。

 

そんな中、一人のプレイヤーが転移してきたと思ったら全力で走り出した。それだけならまあいい。

問題は、その後を二人のプレイヤーが追っていったことだ。しかも追われていたのはアルゴ。さすがに見過ごせない。

 

 

「キリト!」

 

「ああ、見た!追うぞ!」

 

「えっ、ちょ、あなたたちっ!」

 

 

アスナが何か言ってるが、無視。

俺とキリトは出せる全力のスピードでアルゴを追う。

《索敵》の派生機能(モディファイ)の《追跡》はもう使っている。

アルゴの足跡が緑色に輝いているので追うのに心配はない。

 

しばらく追いかけると、荒野エリアに足跡が続いているのを確認しさらに速度をあげる。

荒野エリアは少し危険だ。アルゴなら大丈夫だと思うが。

 

 

 

さらに少しすると、アルゴの声が聞こえてきた。

 

 

「――んども言ってるダロ!この情報だけは、いくら積まれても売らないんダ!」

 

 

その声から居場所に当たりをつけ、ステータスの限りを使って跳躍する。

キリト?少し前に置いてきた。ちょっと遅かったもんで。

 

 

「よっと」

 

 

地形を利用し連続でジャンプして、アルゴと追ってた二人の間に着地する。

三人とも呆然としてるな……。それもそうか。

 

 

「――な、何者でござる!?」

 

「た、他藩の透波(すっぱ)か!?」

 

 

そう言いながら背中に斜めに下げた小型シミターに手をかける。

全身、濃い灰色の布防具、上半身に軽めの……チェーンメイルか?

さらにバンダナキャップにパイレーツマスク。――忍者か。

 

 

「おい、ハイクオリティコスプレイヤー。俺が誰かなんてことより大事なことがある。後ろを見ろ。割と真面目に」

 

 

俺の言葉に真剣味を感じたのか、忍者達が振り向くと、

 

 

「ブモオォォォオオオーー!!」

 

 

超巨大な牛が。こいつ名前なんだっけ。忘れちまった。

 

 

「「ご、ござるぅぅぅうう!?」」

 

「ブモォオオーー!!」

 

 

二人と一匹は駆けていった。

さすがアルゴを追ってただけはあるな。速い。もう見えないぞ。

 

 

「アルゴ、大丈夫だったか?」

 

 

見たところダメージは負ってなさそうだが。

 

 

「……ああ、ところでカイ坊」

 

「んぁ?なんだ?」

 

「いや、なんでカイ坊がここにいるんダ?」

 

 

ま、当然の疑問か。

俺は経緯を説明する。

 

 

「────てなわけで転移門の様子を見てたんだが、なんか不穏な気配がしたんでな」

 

「なるほどナ。ところで――」

 

 

アルゴが話を続けようとしたとき、別の声が割り込んできた。

 

 

「ふぅん。それでわたしを置き去りにして駆け出したのね」

 

「あれ?アスナ来たのか。キリトどうした?そろそろ来ると思うんだが」

 

「多分近くにはいるわ。さっきその辺でモンスター押し付けてきたもの」

 

 

…………さらりと言いやがったよ、この女。

 

 

「アスナって存外鬼畜なのか」

 

「あなたも似たようなものじゃない」

 

「まあ、キー坊なら大丈夫ダロ」

 

 

まあ。

 

 

「そうだな」

 

「そうね」

 

「いやいや、死ぬかと思ったぞ!?」

 

「あれ?生きてた?そんな……あの数は無理だと思ったのに」

 

「最後の聞こえてるぞ、アスナ!何だその殺す気だったのに的な反応!?」

 

「気のせいよ、キリト君」

 

「嘘だッ!!」

 

「もうひぐらしネタは流行らないぞ、キリト」

 

「嘘だッ!!」

 

 

ッ!?

 

 

「まさかのかぶせネタだと!?……まあいい。

ところでアルゴ、なんで追われてたんだ?」

 

 

 

少し長かったから割愛。

要約すると、この層で習得可能なエクストラスキル《体術》の情報を売れと言われ、逃げていたそうだ。

ちなみに今はそのクエストを受けに移動中だ。俺とキリトが興味を持った。

お代は助けてもらったからサービスだヨ、と言ってたしな。

 

 

「オイラは、あれだけは売らないって決めてるんダ。恨まれたくないからナ」

 

「ならなんで、聞かれた時に知らないって言わなかったんだ?」

 

「……情報屋としてのプライドがナ」

 

「ああ……なるほど……」

 

 

察してしまった……。往々にして、プライドってのは厄介なもんだな。

 

そんな話をしていると、小屋のある開けた場所に着いた。道中はかなり色々あったが割愛する。色々ありすぎだ。

小屋の中にはハゲたジジイがいた。ちなみに、座禅を組んでた。微動だにしてねぇ。クエストMobとはいえ、すご。

 

 

「……入門希望者か?」

 

 

ジジイが薄目で話しかけてきた。

 

――キリトに。

 

 

「あ、ああ」

 

「修行は厳しいぞ?」

 

「わかった」

 

「そうか。ならばついてこい」

 

 

キリトかっけー。即答だよ。

 

キリトが連れてこられたのは、巨大な岩の前。

触ってねぇから正確にはわからねぇが、恐らく破壊不能オブジェクト一歩手前の耐久値だ。

 

 

「汝の修行はただ一つ。両の拳のみでこの岩を割るのだ。成し遂げれば、汝に我が技の全てを授けよう」

 

 

うわぁーお。そりゃエクストラスキルになるわ。ここまでの道のりと合わせてキツすぎだろ。まあ俺もやるけど。

キリトの頬が引き攣り、岩を軽く叩きその強度を確かめている。キリトの顔が絶望に染まった。

 

 

「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝には、その誓いを立ててもらう」

 

 

ジジイの手が残像を残す程の速度で閃く。

その手には一本の筆が。まさか………。

 

 

「……ア、アルゴ?アルゴがこの情報を売りたくなかったのって……」

 

「そうダ。その“ペイント”が原因だヨ」

 

 

キリトの頬がピクピクと引きついている。もちろん俺達の肩も震えている。ププッ。

キリトが諦めたのか、岩の前で構えを取り――岩を殴った!

 

 

「いってーー!!!」

 

 

まあそうなるわな。さて、俺もやるか。

 

 

「おい、ジーサン。これ、俺も追加で受けれるか?」

 

「別の岩になるがいいか」

 

「もちろん」

 

「よし。ならばこい」

 

「あなたもアレ、やるの?」

 

「何かと使えそうだしな。アスナもやっといた方がいいと思うぞ」

 

「え、遠慮しておくわ……」

 

 

頰が引き攣っているアスナ。

しかしもったいない。間違いなく有用なスキルだろうに。

まあいいか。さてと、まずはジジイの筆でも躱すかな。

 

 

「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝にも、その誓いを立ててもらう」

 

「────ッ!!」

 

 

俺はジジイの筆を躱そうとして―――躱しきれなかった。

俺が身体を引いたのに合わせて筆を突き出してきた。このジジイ……!

 

その後、俺が二日半、キリトが三日かけて岩を割り、無事《体術》スキルを手に入れた。

 

 

 

 

 

 

余談だが、第二階層のボス戦はボスが中ボス含めて三体いたが、俺とキリトがLAを総取りして幕を閉じた。

 




これでプログレッシブ編(扱い上、作者がそう呼んでるだけです)は終わりです。

次からは本編だ!
原作の時系列通りに進んでいきますので次は七十四層ではありませんのであしからず。

感想、質問その他、お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。