黒の剣士と紺の浮浪児   作:gobrin

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ついに!

あの娘が!

登場!

やったね!


第六話 運命の出会い

ゲーム開始から約一年半が経過した。

 

 

今の攻略階層は五十五層。

 

だが俺達はそれより遥かに低い階層の《迷いの森》を歩いていた。

 

別にふらりと遊びにきて迷ったわけじゃない。

ただ探索してただけだ。

ここは三十五層にしてはモンスターが豊富で強く、熟練度上げには丁度いい。

最近俺達は新しいスキルを手に入れたからな。その熟練度を上げに来たってわけだ。

俺達なら安全マージンは十分だし――()()()()もあるしな。

 

 

「キリトー、そろそろ帰るか?」

 

 

装備を短剣に戻しながら聞く。

 

 

「そうだな……もういい時間だし……切り上げるか?」

 

 

キリトも装備を片手剣に戻しながら答える。

他人に手の内を明かさないためにも、早いうちから装備は戻しておく。

これが俺達のやり方だ。

 

キリトも俺もお互いがどんなスキルを習得したかは教え合っている。

んだが……実は、キリトにも言ってねぇスキルがあるんだよな……。

一応考えあってのことだが、隠し事っていうのがなぁ……。

 

 

「おう。じゃあ……待て、今何か聞こえなかったか?」

 

「え?俺は別に……空耳じゃないのか?」

 

「――――ゃぁぁ――――!」

 

「やっぱり!悲鳴だ!」

 

「どっちだ!?」

 

「……こっちだ!」

 

 

俺達は、上げに上げた敏捷パラメーターを使い、悲鳴を上げた人物を探す。

ここは森のかなり奥深くだ。プレイヤーのレベルによっては下手したら、死ぬ!

 

 

 

 

 

 

「……見つけた!行くぞ!」

 

「おう!」

 

 

女の子が座りこんでる!

周りにはドランクエイプ――この迷いの森の最強クラスのモンスターが十一体!

なんでそんなに群がってんだよクソ猿が!

 

 

「キリト、俺右六!」

 

「なら俺は左の五か!任せろ!」

 

 

だが、その中の一体が腕を振り上げ、攻撃に入った。

女の子のHPバーを見ると、とても耐えられそうにない!

――ダメだ!間に合わねぇ!

と思ったその時、

 

 

「キュアアア!」

 

 

と叫びながら、フェザーリドラが女の子とドランクエイプの間に割って入り、代わりに攻撃を受けた。フェザーリドラは敏捷に優れたモンスターだ。耐久は低い……。

 

あの子、ビーストテイマーだったのか。

すまない、フェザーリドラ……だが、お前のおかげでお前のご主人様は助かるぞ!

 

 

「うぉぉおおお!!」

 

 

《ラウンド・アクセル》で、ドランクエイプどもを一撃で切って捨てる。

向こうでは、キリトが《ホリゾンタル》でまとめて処理していた。

 

よくよく考えたら俺達って範囲攻撃使う機会多いな。どんだけ大群に出くわしてんだよ。

って、んなことどうでもいい!

 

 

「大丈夫か!?」

 

「は、はい……あたしは大丈夫ですけど、ピナが……ピナが……!――ピナッ、ピナァ!!」

 

 

ピナと呼ばれたフェザーリドラは、一枚の羽を残してポリゴン片となり、消えてしまった……。

 

 

 

 

 

 

俺はその少女に声をかける。

 

 

「悪ぃ、間に合わなくて……。フェザーリドラ、助けられなかった……」

 

「……いえ、いいんです……。あなたたちが来てくれなかったら、あたしも死んでいたかもしれない……そうなったら、ピナが身を挺して守ってくれた意味がなくなっちゃっていたので……ありがとう、ござい、ました……」

 

 

自分もとても辛いだろうに、俺達に礼を言ってきた。

……なんて、強い子なんだ。

 

 

「……とにかく、まずはここを出よう」

 

 

キリトがその少女を促す。

俺も頷き、声をかける。

 

 

「……あ、その友達の残してったアイテム、しっかりとストレージにしまっとけよ」

 

 

死んだのにアイテムが残ってるってことは恐らく――。

 

 

「はい……ピナの形見ですもんね」

 

 

後ろから確認すると、そのアイテム名は《ピナの心》と表示されていた。

やっぱりか。

 

 

「……おい、キリト。あれが、噂の……」

 

「ああ、生き返る可能性があるぞ、あのフェザーリドラ」

 

 

 

 

 

 

俺達は森を後にして、街に戻り宿屋で話をすることにした。

 

 

「君、名前は?俺はカイ」

 

「俺はキリトだ」

 

 

まず俺達から自己紹介をする。

ちなみにここは俺が借りた部屋だ。

『俺達』ではなく『俺』が借りたのには訳がある。

ま、それは追々な。

 

 

「……あ、すいません。助けていただいたのに名前もお教えしないで……シリカと言います。ビーストテイマーです」

 

 

その少女はシリカと名乗った。

 

ビーストテイマーというのは通称だ。

定義はモンスターをテイムして使役する者。

テイムできる条件は諸説あるが、知られているのはそのモンスターを倒し過ぎていないことだ。

つまり、めんどくさい。

エンカウントするたびにテイムイベントが発生しなかったら逃げる。

ということを繰り返さなくてはならない。

正気の沙汰とは思えない。

 

 

「よくフェザーリドラなんてテイムできたな。そもそも出現率からして低いはずだが」

 

 

頭の中の知識をさらう。

 

そして、さらにテイムモンスターについて思い出した。

確かあいつらは自発的にモンスターを攻撃することはなかったはずだ。

 

だが、先ほどあのフェザーリドラは確かに自らの意志でシリカを守ったように見えた。

シリカとピナの信頼が為せる業なのか。

シリカは優しいんだな……。守ってやりたいと、そう思う。

 

 

――――って、何考えてんだ俺!?

いきなりどうした!?

 

内心一人でテンパっていると、シリカが口を開いた。

 

 

「他の方からも言われました。すごい幸運だねって。ピナはあたしが途方に暮れていたときに出会って……すごく元気づけられたんです。でも……もう、ピナは……ぐすっ」

 

 

シリカが涙をこぼす。

俺はそんなシリカを見たくなくて、声をかける。

――さっきから何なんだ俺。自分の考えがさっぱりわからん。

こんなことは初めてだよ、ったく。

 

 

「そのことなんだが……ピナは生き返る可能性がある」

 

「本当ですかっ!?」

 

 

ピナが生き返る可能性があると聞いて、シリカがものすごい勢いで身体を乗り出してきた。

ちょっとビビった。

つーか近いって。なんか顔熱いし。

 

 

「お、おう……あくまでも可能性だが、本当だ。だから一旦落ち着け」

 

「あ、ごめんなさい……。それで、生き返る可能性があるっていうのは……?」

 

「ああ、テイムしたモンスターを生き返らせるっていうアイテムが確か……なぁキリト、あれって四十七層だっけか?」

 

「確かそうだ」

 

「のフィールドの奥地にあるって噂だ」

 

 

最近発見された情報を伝える。

 

その階層を聞き、シリカの顔に絶望が宿る。

 

 

「四十七層……そんな……」

 

「……少し酷だが、シリカのレベルじゃ厳しいと思う」

 

 

俺は隠すことなく事実を告げる。

こんなことを隠してもしょうがない。

本当に酷だが。

 

 

「……いえ、ピナが生き返る可能性があるとわかっただけでも十分です。どれくらいかかるかわかりませんけど、頑張ってレベルを上げてみようと思います」

 

 

シリカが前向きな発言をする。

本当に心が強い子だな……。

 

だが、その願いは残念ながら叶わない。

 

 

「それが……そのアイテムが有効なのは、使い魔が死んでから三日以内という話なんだよ」

 

「そ、そんな……じゃあ、絶対に無理じゃないですか……!期待させるだけさせておいて……」

 

 

そう、今のシリカのレベルじゃ絶対に無理だ。

だから――。

 

 

「だから、俺がついて行こうと思う」

 

「……え?」

 

 

再び絶望に打ちのめされかけていたシリカが素っ頓狂な声をあげる。

それにかまわず、キリトに予定を確認する。

 

 

「キリト、お前確か、()()以外にも用事あるんだったよな?」

 

「ああ、外せない用事がある。多分五日くらいかかる」

 

 

アレ、とは今俺達が受けている依頼だ。

 

――俺達で受けたものだが、できれば俺一人で決着を付けたいと思っていた。

だから、この状況は少し都合がいい。キリトの用事というのも俺が裏から手を回して取り付けたものだなんて言えない。

 

 

「てなわけで俺の相棒は行けねぇが、まぁ四十七層くらいなら俺一人でも何とかなるだろ。……なるよな?シリカの装備整えたら大丈夫だよな?」

 

「ああ、大丈夫だと思うぞ」

 

「じゃあ、アレの方も俺に任せてくれていい」

 

「そうだな……頼んだ」

 

 

シリカを置き去りにしたまま話を進める。

 

 

「……え、え?あの、ありがたいんですけど、いいんですか?迷惑なんじゃ……」

 

「いや、そういう心配はしなくていい。これを断るならそもそも助けてない」

 

 

シリカの懸念を否定する俺の言葉にシリカが固まる。ちょっと言い方キツかったか。

いや、内容がマズかったのか?

わかんね。

 

 

「でも……そしたら、何でここまで………?」

 

 

シリカの瞳に宿る警戒の色が濃くなった。

 

あー、そりゃ警戒されるか。

うーん。警戒されちゃなにもできねぇからな。

かなりハズいが………言うか。

 

 

「……笑うなよ?」

 

「笑いません」

 

 

 

「……シリカが俺の姪に似てる。あと、キリトの妹にも少し。だから何かほっとけなくてな」

 

「……ふふっ、あはは」

 

「あっ、おい!笑うなって!」

 

 

笑われた。ちょっとショック。

――ホントにさっきからの俺は何なんだ?感情の変動が大きい。

隣で俯いて密かに笑ってるキリトはあとでしばく。

 

 

「ふふっ、ごめんなさい。あんなに強いのに、可愛い理由だったから、つい。ふふっ」

 

「……まぁ、少しでも元気になってくれたならいいけどよ。で、どうするんだ?シリカがピナを助けたい、そして助力が必要だってんなら喜んで協力させてもらうぜ」

 

 

気を取り直して、しっかりとシリカに尋ねる。

 

 

「……はい!お願いします!」

 

「よし、決まりだ。ならキリト、一旦パーティーは解消だ」

 

「そうだな。俺も用事の準備するよ。またな、カイ」

 

「おう。後でメッセ送るわ」

 

 

キリトが部屋から出て行く。

 

さてと、できることはやっておくか。

 

 

「さて、シリカ。パーティーを組んでおこう」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「ああ。ピナは絶対生き返らせられるから安心しろ」

 

「はい!」

 

 

シリカは力強く頷いてくれた。

少しは元気になったみたいでよかった。

 

 

「じゃあ、ほいコレ。この装備で五、六レベル分くらいは底上げできるからな」

 

 

シリカにトレード申請をする。

一応全て非売品のアイテムだ。

 

 

「あ、ありがとうございます。あの、こんなんじゃ足りないと思いますけど……」

 

 

シリカが金を――中途半端な額だから全額か?――トレード欄に出してくる。

 

だが、これらは全部俺は使ってないしな。

そんなので金を取るわけにはいかない。

 

 

「ああ、金はいいよ。もらっとけ。……よし、ひとまず準備は整ったな。なぁ、シリカ。俺はこれから街の店見に行こうと思ってるけど、シリカはどうする?」

 

「あ、行きます!何か買いに行くんですか?」

 

「買うかどうかはわかんねぇけどな。そうと決まれば、行くか」

 

「はい!」

 

 

俺はホーム以外の層に宿を取る時の通例である店回りにシリカを誘う。

 

少しでも気を紛らわせてほしくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に部屋を出て、最初から気になっていたことを聞く。

 

 

「そういえば、何でシリカはあそこに一人でいたんだ?今のシリカのレベルだと《迷いの森》をソロで探索するのは危険だろ?」

 

「……えっと、実は迷いの森でパーティーを組んでた人達と喧嘩別れしちゃって」

 

「喧嘩別れ?シリカはいつもはどうやって探索してんだ?」

 

「えっと、いつもは基本的にはフリーでやってて、いろんなパーティーを転々としてるんですけど……今回は回復アイテムの分配の話になったところでメンバーの一人と喧嘩しちゃって」

 

「……なんでだ?」

 

 

……これは本当に意味がわからなかった。どういうことだ?

 

 

「ピナは回復が使えるんです。それで槍使いの人があなたには使い魔がいるんだからいらないでしょうって。それにあたしが前に出ない人に言われたくないって言い返したら口論になっちゃって」

 

 

なるほど。理解はできた。が、全く納得ができない。

 

 

「いや、それはシリカが正しいだろ。回復アイテムは全員で分配すべきものだ。そいつ、名前は?」

 

「えーっと、確か―――」

 

 

――ロザリア。

 

その名前を聞いて、俺は驚愕した。

まさに俺の用事にかち合っていたからだ。

 

そして、奴に対する俺の不機嫌メーターが上昇する。

あっさりレッドゾーンを振り切ってくれた。

 

――――奴のせいで、シリカは危険な目に遭って、ピナは死んだのかよ。

 

 

 

 

「あら、シリカじゃない」

 

 

シリカと話しながら宿屋から出ると、隣の道具屋から出てきたパーティーにいた女の槍使いがシリカに声をかけてきた。

シリカが僅かに身体を硬くする。

――こいつが。

 

ふつふつと怒りが沸き上がる。

でも、今は我慢だ。

 

 

「……どうも」

 

 

シリカが不機嫌さを顔に出さないようにしながら応答する。

ロザリアはシリカの態度に気がついているくせに再び話しかけてくる。

 

 

「へーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」

 

 

こいつの言葉全てにいらつく。

ここまでいらついたのは久々だ。

 

第一層のナイトでさえここまでじゃない。

 

そこでシリカの肩にピナが乗っていないのに気づいたのか、ロザリアが嫌な笑みを浮かべる。

 

 

「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?もしかして?」

 

 

――こいつ絶対わかってて言ってるだろ。

怒りがどんどん沸き上がる。爆発しそうだ。

 

…………ここまで不愉快な人間、初めてだ。

 

 

「死にました……。でも!ピナは、絶対に生き返らせます!」

 

「へぇ、てことは、《思い出の丘》に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるの?」

 

 

ニヤニヤ笑いながらロザリア――いやもうばばあでいいや。年っぽいし。がシリカを挑発する。

そこで堪忍袋の緒が切れそうになった。

 

 

「できるね」

 

 

俺はシリカの前に出た。

コイツむかつく。何か言い返してやりてぇ。個人的に用もあるしな。

このクソ女の不愉快な視線に、これ以上シリカが晒されないようにコートで隠しながら吐き捨てる。

 

 

「そんなに難易度の高ぇダンジョンじゃねぇからな」

 

 

そしたら何を思ったかこのクソ女、舐めたことを抜かしてくれた。

 

 

「あんたもその子にたらしこまれた口?見た目あんま強そうじゃないけど」

 

 

後ろでシリカの身体が震える気配がする。

言いたい放題言われて悔しいんだろう。

 

俺もものすっごい言いたいことがあるが、精神力をフルに使って押さえ込む。

 

 

「行くぞ、シリカ」

 

 

シリカの肩に手を置き、商店街の方へ足を向ける。

そこになんか言ってきた。

 

 

「ま、精々頑張ってね」

 

 

その上から目線な物言いにカチン!ときた俺は軽く言い返すことにした。

一応穏便に済ませようと思ってたんだがな。

 

――言いだしたら止まらなくなるかもしれねぇから。

 

 

足を止め、首だけで振り向く。

 

 

「おい、ばばあ。そのしょーもないことしか喋れねぇ薄汚ぇ口閉じな。不愉快だ。そしてそのダルンダルンなだらしねぇ図体を二度と俺達に見せるな。目障りだ。消えろ」

 

 

なんとかそれで済ませる。

 

罵倒だけで後一時間は軽く行けたが、今は商店回りだ。

 

 

「なっ――」

 

 

もう俺は歩き出していた。

後ろからなにやら絶句してから憤慨した感じの汚らしいオーラが飛んでくるのを俺は幻視した。

もしかしたら本当に見たのかもしれないけどな。

 

 

 

 

 

 

商店街に行く過程で転移門広場に足を踏み入れた俺達――いや、シリカはたくさんの野郎に声をかけられた。

それは全てシリカをパーティーに勧誘しようとするものだった。

―――こいつらなんか必死だな。哀れだ。

 

 

「あ、あの……お話はありがたいんですけど……しばらくこの人とパーティーを組むことになったので……」

 

 

シリカがぺこぺこと頭を下げている。

野郎共はええー、そりゃないよーなどと声を漏らしながら俺に視線を向けてくる。

その視線はどれも胡散臭いものを見る様な視線だ。

 

俺の服装は紺のコートに腰に短剣だけというなんとも簡単なものだ。

コートは高性能だが見た目は地味だし、短剣は鞘に収めているいてその鞘はこれまた地味。ちなみに色は紺な。

そんなだからこいつらは俺が大して強くもないくせにシリカを横取りしたとか考えてんだろ。

―――ほら来た。

 

 

「おい、あんた。見ない顔だけど、抜けがけはやめてもらいたいな。俺らはずっと前からこの子に声かけてるんだぜ」

 

 

一番熱心に――必死にとも言う――勧誘していた両手剣使いが、俺を見下ろしながら口を開いた。

結構でかいな。俺を見下ろせるとは。ぱっと見は強そうだ。――あくまでもぱっと見はだが。

 

 

「んなもん知ったことか。早いもん勝ちだよ。あんたらがトロいのが悪い。それにな、俺はシリカから頼まれたんだ。わかったらさっさと失せろ」

 

「あんだと!?弱そうなナリしやがって調子こいてんじゃねえぞ!」

 

 

この手の輩は挑発に乗りやすい。――まあ、俺は乗せるだけ乗せて相手はしないんだけど。

 

 

「うるせぇな、怒鳴ってんじゃねぇよ。それに俺は少なくともてめぇらよりは強い。相手をするのも面倒だけどな。

シリカ、行こうぜ」

 

 

シリカの手を取って歩き出す。

優位性を見せつける意味も含んでの行動だ。

 

 

こいつらの足りない頭が理解してくれることを願う。

 

 

「あの、ホントにあたしから頼んだんです、すいませんっ」

 

 

シリカが最後に一言告げてついてくる。

野郎共は俺に対して舌打ちした後、シリカにまたメッセージ送るよー、と声をかけていた。

未練たらたらだな。足りないオツムは一応は理解してくれたようでよかった。

 

 

 

 

 

 

 

あいつらが見えなくなったところでシリカに声をかける。

 

 

「悪ぃな。なんか偉そうな言い方になっちまった」

 

「い、いえ!あたしのほうこそ迷惑かけちゃって……」

 

「そんなもん気にすんな。それよりもシリカ、人気者だな」

 

「そんなことないです。きっとマスコット代わりに誘われてるだけなんです」

 

「あー、シリカ可愛いからそういう理由もあんのかもな」

 

「ふぇっ!?」

 

 

さらっと本音が漏れた。

結構恥ずかしい。

 

俺は心中の動揺を悟られないように、努めて平気そうな声を出す。

 

 

「あ?どした?」

 

「いえ、い、いきなり可愛いなんて言われてびっくりしちゃって……」

 

「事実だろ」

 

 

なんとかバレなかったようでホッとする。

そしたらシリカが顔を真っ赤にして小さく叫んだ。

 

 

「は、恥ずかしいからやめてください!」

 

 

――やべぇ、めっちゃ可愛い。

結果オーライだ。

 

 

「んー、そうか?まあわかった」

 

 

頭を掻こうとしてシリカと手を繋いだままだったのを思い出す。

 

 

「あ、シリカ。手ぇ繋いだままだけどこのまま商店街行って大丈夫か?シリカこの辺じゃ有名なんだろ?色々言われるかもしんねぇけど」

 

「あ……そうですね。カイさんに迷惑をかけるわけにもいきませんし……」

 

 

シリカのテンションが急激に落ちる。

 

そこで、あることを思いついた。

 

 

「いや、待てよ?シリカが嫌じゃなければこれもアリか。さすがに手ぇ繋いで歩いてる状態で話しかけてくる奴なんていねぇだろ。どうする?嫌だったらハッキリ言ってくれな」

 

 

中々に名案だ。

別にシリカと手を繋いでいたいなんて思ってない。

 

――お、思ってないったら思ってないんだからね!

 

 

……………俺はどこのツンデレだよ。気持ち悪ぃな。

 

密かに自己嫌悪に陥っていると、シリカが嬉しいことを言ってくれた。

 

 

「い、嫌じゃありません!カ、カイさんこそいいんですか?迷惑じゃありませんか?」

 

「――大丈夫だ。じゃ、行くか」

 

「は、はい!」

 

俺達は手を繋いだまま、商店街を見て回った。

何も買わなかったが、楽しい時間を共有できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その日の夜。

 

 

 

俺達は晩飯も一緒に食べた後それぞれの部屋で――偶然にも借りた部屋はシリカの部屋の隣だった――休んでいた。

 

俺がキリトにメッセージを送っていると、不意にドアがノックされた。

 

――誰だ?

疑問に思いながらも扉を開ける。

 

そこにはシリカが立っていた。

 

 

「お、シリカ。どうした?」

 

「ええと、あの、その――よ、四十七層のこと聞いておきたいと思って!」

 

 

からかいついでに、一言。

 

 

「なんだ、会いに来てくれたんじゃないのか」

 

「え、ええぇっ!?」

 

 

冗談だったんだが、シリカがえらい反応した。

 

 

「冗談だよ。じゃあ下に行くか?」

 

「いえ、あの――よかったら、お部屋で……」

 

 

さすがにこれには面食らった。

するとシリカが付け加えるように言ってきた。

 

 

「あ、あの、貴重な情報を誰かに聞かれでもしたら大変ですし!」

 

「あー、それもそうなんだが……まぁ、いいか。入れよ」

 

 

シリカを椅子に座らせ、俺はベッドに腰掛けてメニューウィンドウを操作しながらシリカに話しかける。

 

 

「新しい短剣、使ってみたか?」

 

「あ、はい!大丈夫そうです。ありがとうございます」

 

「そうか。ならよかった。――と、これだ」

 

 

本当に大丈夫そうで、安心する。

一つのアイテムを取り出し、実体化させる。

 

 

「これは《ミラージュ・スフィア》っていうアイテムだ」

 

「綺麗……」

 

 

こいつは指定した層をホログラムで映し出すアイテムだ。

もちろん未踏破階層は無理だが。

 

それを使って思い出の丘までの道のりを説明していたんだが………。

 

 

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 

「はい?どうしたんですか?」

 

 

シリカが俺を見上げて不思議そうな顔をする。

――やばいもうどうしようホント可愛いんだが。

 

平静を装って返す。

 

 

「いやなに、扉の前でコソコソしてる奴がいたから気になっただけだ」

 

「え?」

 

 

俺の言葉に反応して、扉の前の気配が消えた。

 

 

「もうどっか行った。逃げ足早ぇな」

 

「え……で、でも、ドア越しじゃあ声は聞こえないんじゃ……」

 

「聞き耳スキルを上げてるとその限りじゃねぇんだよなぁ、コレが」

 

 

途端にシリカが不安そうな顔になった。

 

 

「でも、なんで立ち聞きなんか……」

 

「――多分、すぐにわかる。ちょっとメッセージを打つから、待っててくれ」

 

 

俺は()()()()にメッセージを送る。

終わって振り向くと、シリカがベッドで寝息を立てていた。

 

 

――――――――!?

 

 

 

 

 

――困った。本当に困った。ベッドは一つしかない。

信頼してくれてる証と考えれば、嬉しいは嬉しいが……。

だが、どうしようもないので、シリカに毛布をかけて、俺は床で寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――次の日の朝。

 

 

俺はアラームの音で目を覚ました。

時間は六時に設定してある。

 

この世界は便利なもので、自分が設定した時間に自分にしか聞こえないアラームが頭の中に鳴り響く。

それを使って今日も定時に起きた俺はベッドの上を確認する。

 

――気持ち良さそうでなによりだ。

 

そこではシリカが気持ち良さそうに寝ていた。

ピナを失ってショックだっただろうから、少しでもそれが和らいでくれるといいと思う。

 

毎朝欠かさずに――それこそ現実(リアル)でも毎日やっていた鍛錬を行う。

こっちではあまり関係ないだろうとは思っても、染み付いた習慣というのは中々抜けない。

 

 

鍛錬を終え、タオルで汗を――この世界だとかかないけどな、汗――拭いていると、シリカが起きた気配がした。

俺が起きてから丁度一時間経過していた。

大きく伸びをしているシリカに話しかける。

 

 

「おはよう、シリカ。よく眠れたか?」

 

 

シリカが固まった。

壊れたブリキのようにこちらに振り向く。

 

 

「どうした?」

 

 

そんな行動も可愛いシリカさん。

 

 

「え、えと、ごめんなさい!ベッド占領しちゃって!」

 

 

シリカは顔を真っ赤にして言った。

 

 

「ああ、気にすんな。それより、朝飯食いに行こうぜ。今日の攻略のためにもしっかり食べなきゃな」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

朝食をしっかり食べた俺達は、四十七層に転移して、《思い出の丘》に続く南門の前に立っていた。

 

 

「さて、これから冒険開始なわけだが」

 

「はい」

 

「シリカのレベルと装備なら、ここのモンスターは倒せない敵じゃない。だが――」

 

 

シリカに自分の持つ転移結晶を渡して続ける。

 

 

「フィールドでは何が起こるかわからねぇ。

いいか、もし予想外のことが起こって、俺が離脱しろと言ったら必ずその結晶でどこかの街に跳べ。俺のことは心配しなくていい」

 

「で、でも……」

 

 

シリカが躊躇っているっぽいが、ここは譲れねぇ。

 

 

「約束してくれ。俺は大事な奴に傷ついてほしくねぇんだ。取り返しがつかなくなってからじゃ、遅いんだ………」

 

「カイさん……」

 

 

過去の経験から、声に悲壮感が宿る。

 

過去の出来事を思い出して、少し瞳が潤む。

決着をつけたと思っていたが、そうそう簡単にはいかねぇか。

 

シリカは悲しそうに、そして不安そうにしながらも、頷いてくれた。

 

 

「じゃ、行くか」

 

「はい!」

 

 

涙はこぼさずに、シリカに笑いかけると元気よく返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中襲いかかってくる植物型モンスターの容貌に、最初シリカは完璧にへっぴり腰だったが、次第に慣れていったようだ。

大量のモンスターを屠り、シリカのレベルが上がったりもして、俺達は丘の頂上に辿り着いた。

 

 

「うわぁ……!」

 

「とうとう着いたな」

 

「ここに……その、花が……?」

 

「ああ。真ん中あたりに岩があって、そのてっぺんに……」

 

 

俺の言葉が終わらないうちに、シリカは走り出していた。

俺も後を追って歩き出す。

 

 

「ない……ないよ、カイさん!」

 

 

岩を覗き込んだらしいシリカが振り返り、悲痛そうな顔で叫ぶ。

 

 

「んなはずは……。――お、ほら。見てみろよ」

 

 

俺の言葉にシリカが再び振り返る。

 

岩の上では、まさしく今、花が生長していた。

花の生長が終わっても、少しの間俺とシリカはその余韻に浸っていた。

シリカが花を摘み取り、その花に触れる。

――ネームウィンドウには《プネウマの花》と表示されていた。

 

 

「これで……ピナを生き返らせることができるんですね……」

 

 

シリカが達成感に満ちた声で呟く。

 

 

「ああ、心アイテムにその花に溜まってる雫を振りかければいい。だがここは強いモンスターが多いからな。街に戻ってからの方がいいだろ。ちょいと我慢して、急いで戻ろうぜ」

 

「はい!」

 

 

 

 

行きにモンスターを大量に倒していたおかげか、帰りではあまりモンスターに出くわさなかった。

 

行きでも通った、思い出の丘が見える場所にある、小川にかかる橋をシリカが渡ろうとした。

その手を掴んで止め、声を出す。

 

 

「――そこに待ち伏せてる奴、出てこい」

 

「え……!?」

 

 

道の両隣にうっそうと茂る木々のほうに視線を飛ばす。

が、出てこない。さっさと出てこいよ、勿体ぶりやがって。いらつくな。

 

ピックを投げつけて牽制でもしようかと思った時、突然その木々の葉が揺れる。

 

 

「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、あなた。侮ってたかしら?」

 

 

槍を携え、木陰から出てきたロザリアが嫌らしい笑みを浮かべて言う。

そして次にシリカに視線を向けた。

 

 

「その様子だと、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」

 

 

その言葉を受け、シリカが数歩後ずさる。

ロザリアの言い方に嫌な気配を感じ取ったのかもしれない。

俺の手が強く握られ、シリカが緊張していることが伺える。

 

ロザリアは言葉を重ねてくる。

 

 

「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」

 

「……!?な、何を言ってるの……」

 

 

動揺したシリカの前に歩み出て、ばばあと向かい合う。

 

 

「そうはいかねぇな、ばばあ。それとも――犯罪者(オレンジ)ギルド《タイタンズハンド》のリーダー、と言った方がいいか?」

 

 

俺の言葉にばばあが浮かべていた笑みを消す。

シリカがうろたえたまま呟く。

 

 

 

「え……だって……ロザリアさんは、グリーン……」

 

「オレンジギルドっつっても、全員がオレンジじゃないことの方が多いんだよ。グリーンの奴らがパーティーに紛れ込み獲物をおびき出して、オレンジで叩く……。こいつらの常套手段だ。昨日俺達の会話を盗み聞きしてたのもこいつの仲間だろ」

 

 

シリカの手を一瞬強く握り、元気づける。

 

それからばばあを睨みつける。

 

 

「大正解よ。でもそこのあなた、そこまでわかってながらノコノコその子に付き合うなんて、馬鹿?それとも本当にその子にたらしこまれちゃったの?」

 

 

その侮辱に、シリカが短剣を抜く動作をしたのがわかった。

手を握りそれを止め、ばばあに向かって口を開く。

 

 

「前にも言っただろ。その薄汚ぇ口を開くな、不愉快だ。シリカまで侮辱しやがって。それに、そのどっちでもねぇ。――――俺もてめぇを探してたんだよ、ロザリア」

 

「――どういうことかしら?」

 

 

不可解そうにするばばあ。

 

それに向かって言葉を吐き捨てる。

 

 

「てめぇ、十日前に、三十八層で《シルバーフラグス》っていうギルドを襲ったな。メンバー四人が殺されて、リーダーだけが脱出した奴だ」

 

「……ああ、あの貧乏な連中ね」

 

「リーダーだった男はな、毎日最前線のゲートで泣きながら仇討ちしてくれる奴を探してた」

 

 

言葉にしながら、身体の中で静かに怒りを沸かす。

―――俺も似たような経験があるからな。

 

 

「でもそいつは、依頼を引き受けた俺に向かっててめぇらを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言った。――てめぇに、奴の気持ちがわかるか?」

 

「わかんないわよ」

 

 

ばばあは吐き捨てるように言った。

その態度に、俺の中で憤怒の炎が燃え上がる。

 

俺は、こういう、奴らが、大嫌い、だ。体中に、虫酸が、走る。

 

 

「マジになっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬ証拠もないし。で、あんた、その死に損ないの言うこと真に受けて、アタシらを探してたわけだ。あんたの撒いた餌に釣られちゃったのは認めるけど……でもさぁ、たった二人でどうにかなると思ってんの……?」

 

 

ばばあが口角をつり上げる。

 

ばばあが合図を送り、それを受けて木陰からぞろぞろとプレイヤーが出てくる。

その数、十。うち九人がオレンジだ。全員が派手な服装をし、シリカに汚らわしい視線を送る。

 

俺はコートでシリカの身体を隠す。

シリカはホッとした気配を見せて、すぐに緊張した様子で小声で話しかけてきた。

 

 

「か、カイさん……人数が多すぎます……脱出しないと……!」

 

「大丈夫だ。俺が脱出しろって言うまで、そこで結晶準備して見てればいい」

 

 

俺はシリカの頭に手を置いてから歩き出す。

だが、シリカは無茶だと思ったのか、

 

 

「カイさん!」

 

 

と、叫んだ。

 

その叫びを聞いた盗賊の一人が、笑みを消してなにやら考え込む。

 

 

「カイ……?その格好、全身紺尽くしの装備と人を馬鹿にしたような物言い……。――――《紺の浮浪児》……?」

 

 

そいつはみるみるうちに顔面を蒼白にしながら呟いた。

 

そうそう、言い忘れていたが俺の通称が《紺の浮浪児》になった。

紺色の装備で身を固めていたらそうなった。俺は紺色が好きなんでね。

 

でもなぁ……。はぁ……。キリトだったら《黒の剣士》っていうまだカッコいい名前があるのに……。あいつは剣士で俺は浮浪児。どうしてこうなった。

 

つか、人を馬鹿にしたような物言いってなんだ。何を判断材料にしてやがんだあのオレンジ。

 

 

「や、やばいよ、ロザリアさん。こいつ……ビーター上がりの、こ、攻略組だ……」

 

「へぇ?こんな層のオレンジの奴に俺のことを知ってる奴がいるなんてな。よく知ってたな。褒めてやるよ。情報は大事だからなぁ?」

 

 

残りの盗賊は全員が強張った顔をしている。

ちなみに、当然ながら俺も《ビーター》の分類だ。

《浮浪児》が先に出てくる奴が多いけどな。

 

シリカはぽかんとしてるな。可愛らしいな。

ばばあもぽかんとしてるな。気持ち悪いな。

我ながらすげぇ差だな、おい。

 

 

「こ、攻略組がこんなところにいるわけないじゃない!それに――もし本当に《浮浪児》だとしても、この人数なら一人くらい余裕だわよ!」

 

 

ああー。また『紺の』がとれて《浮浪児》になったー。マジやめてほしい。

 

 

「そ、そうだ!攻略組なら、すげえ金とかアイテム持ってんぜ!オイシイ獲物じゃねえかよ!!」

 

 

オレンジの戦闘にいた図体だけでかい斧使いが大声を上げる。

その声に触発されたように、他の奴らも色めき立つ。

――――甘い考えだと言わざるを得ない。

 

そんな中、俺の耳にシリカの叫びが届いた。

 

 

「カイさん……無理だよ、逃げようよ!!」

 

 

俺は振り返りシリカに微笑みかける。

少しでも安心してほしい。まぁ多分無理だと思うが。

 

俺が武器を構えないのを諦めと見て取ったか、盗賊共が俺に走りよってきて、次々に武器を振り下ろす。

俺はぼかすかと殴られながら自分のHPバーを眺める。

 

途中シリカの叫び声が聞こえた。

――やっぱあれだけで安心するのは無理か。

だが、そろそろ気づくだろう。シリカも、盗賊共も。

 

 

「あんたら何やってんだ!さっさと倒しな!」

 

 

いらついた様なばばあの声が響き、再び数秒間に渡って殴られる。

痛くないからいいけど。

 

やがて盗賊共が攻撃をやめ、数歩後ずさった。

静寂が場を包む中、俺が声を出す。

 

 

「十秒当たり三〇〇ちょい、ってとこか?それがてめぇら九人が俺に与えるダメージの総量だ。

俺のレベルは86、HPは一六八〇〇……加えて戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルによる自動回復が十秒で八〇〇ポイントある。

どんだけ攻撃しても俺は倒せねぇよ」

 

 

俺の言葉を聞き、ばばあが舌打ちして転移結晶を取り出した。

奴が転移する前に、俺は走り出す。

 

 

「転移――」

 

「させるかよ」

 

「ひっ……」

 

 

俺の顔を見て顔を強張らせるばばあ。

楽でいいけど、失礼だな。

 

ばばあの手から転移結晶を奪い取り、ちゃっかり自分のポーチにしまう。

シリカに一個渡してたから丁度いい。

 

ばばあの襟首を掴んで、盗賊共のところまで引きずっていこうとする。

 

そこに野太い男の怒鳴り声が届いた。

 

 

「おらぁ!こいつに危害を加えられたくなかったら、ロザリアさんを放せ!」

 

 

その声にそちらを見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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怒りが沸点を超えた。

 

 

視界が真っ赤に染まる。

 

 

過去の光景がフラッシュバックする。

 

 

 

転移結晶はシリカの足下に転がっていた。どうやらとられたらしい。

 

 

 

俺は一瞬のうちに懐から投剣用のピックを取り出し、投剣スキル《パラライズシュート》を使い、シリカを拘束している盗賊に放つ。

この間、わずか〇・五秒。自己最高記録だ。

 

《投剣スキル》は珍しいスキルだ。

上位スキルの方がスキルモーションが短い。

俺の今の攻撃の早さもそれが理由の一つだ。

まぁ、んなこと今はどうでもいいが、な!

 

 

 

 

 

 

 

「シリカになにしてんだてめぇゴラァァァアア!!!!」

 

 

 

打ち出したピックに追いつくのではという程の速度で盗賊に肉薄する。

ピックが男の腕に突き刺さり、男の身体が硬直した。

《パラライズシュート》の効果、《麻痺付与》だ。

数瞬、敵の行動を阻害する。

 

男の手からシリカを取り戻し、ソードスキルが発動しないように速度重視で男の顔面に蹴りを叩き込む。

俺のレベルでソードスキルなんて使ったら一撃で殺しちまうだろうからな。

 

 

「大丈夫か、シリカ!」

 

「か、カイさん………!!」

 

「すまねぇ、怖い目に遭わせた」

 

 

シリカは涙目になっていた。

 

シリカの肩を抱いたまま、殺気を全力で放つ。

 

 

「おいこらてめぇ……。

シリカに手ぇ出すとか、死ぬ覚悟はできてんだろうな…………?」

 

「ひぃぃ!」

 

 

俺だけなら穏便に済ませようと思っていたが………シリカにまで手ぇ出されて黙ってるわけにはいかねぇ。

 

 

「てめぇらもばばあと同じで、ここで死んだ人間が本当に死ぬ証拠がないって考えてんだろ?

丁度いいじゃねぇか。殺してやるよ。よかったな、本当に死ぬかどうかハッキリするぞ」

 

 

殺気がいっこうに収まらない。シリカも少し怯えてるから抑えたいんだが。

 

 

「やめてくれ……やめてくれ……!」

 

「それがてめぇらがいままで襲った全プレイヤーが考えていたことだ。

てめぇは絶対許さねぇ。だが、他の奴にはチャンスをやるよ」

 

 

そう言って、俺はポーチから一つの結晶を取り出す。

 

全滅させてもいいんだが………不用意にシリカにトラウマを与えてもいいことはない。

シリカを側に立たせてから、言葉を紡ぐ。

 

 

 

「これは俺に依頼した男が全財産をはたいて買った回廊結晶だ。

黒鉄宮の監獄エリアが出口に設定してある。てめぇら全員これで跳べ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

 

ばばあが強気にも笑みを浮かべ、この期に及んで試すようなことをしてくる。

俺に挑発なんて効かねぇのにな。

自分の立場がわかってないらしい。

 

 

「全員殺す」

 

 

ばばあの笑みが凍りつく。

 

 

「いまのが最後の警告だ。

そこで寝てるシリカに危害加えようとした奴以外には選ばせてやるよ。

跳んで《軍》の世話になるか、ここで死ぬか。

どうするかは自分で決めな。

コリドー・オープン!」

 

 

結晶を掲げて叫ぶと、空間に青い光の渦が現れた。

 

ちなみに《軍》ってのは確か正式名称を《アインクラッド解放軍》という。

あの第一層で色々あったサボテン、ええと、名前が…………

…………まぁいいや。サボテンも所属していたはずだ。

第一層で色々好き勝手にやってるらしい。

 

盗賊共は、悪態をつきながらも光の中に入っていく。

 

そんな中、ばばあだけが動かなかった。

寝てる奴?俺は地面に倒れてるって意味で言ってたんだが、いつの間にかホントに気絶してたよ。

 

ばばあは最後まで強気に挑発してくる。

 

 

「――やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに攻撃すれば、今度はあんたがオレンジに……」

 

「最後の警告はしてあるからな。

つーか、俺がんなこと気にする人間に見えるかよ?」

 

 

俺は短剣を腰から抜き取り、ソードスキルの構えを取る。

 

 

「――本当に最後の警告だ。死ぬかどうか、さっさと選べ。あと三秒もないぞ」

 

 

俺はこういう腐った人種が大っ嫌いだが、一応は、生物学分類上は、同じ『ヒト』だ。

殺すのにも躊躇はしないが、別に嬉々として殺したいわけじゃない。

 

 

「い、いや!許してよ!ねえ!……そ、そうだ。あんた――」

 

 

――まだ断るか。

俺はさわやかな笑みを浮かべて話しかける。

 

 

「そうか。そんなに死にたいのか。じゃあちょっと待っててくれ。

コリドーも永遠じゃねぇしな。先にそっちの男を放り込む」

 

「な、なんだ。あんたも結局殺すとか言っといて、しないんじゃ………」

 

 

後ろでばばあが何か言ってるが、無視して男のところに行く。

そいつの頬を叩き、目を覚まさせる。

 

 

「おい、起きろ」

 

「……んぁ?………ひぃっ!」

 

 

ビビりまくってるそいつに優しい言葉をかける。

 

 

「いまからてめぇをコリドーに放り込む」

 

「た、助かった……」

 

 

男が安心したような顔をする。

 

 

――ここから落とすのが、俺だ。

 

 

 

「だが、シリカに危害を加えようとした報いは受けてもらわないとなぁ?

つーわけで、受け取れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は《アーマーピアス》で、男の右腕を切り落とした。

 

 

 

 

「ぎゃあぁぁあぁああっぁああぁあ!!!?」

 

「俺の怒りはこんなもんじゃねぇんだが………

これ以上やるとホントに殺しちまうからな。

自分が弱かったことに感謝しろ」

 

 

男の襟首を掴んで、コリドーの中に投げ込んだ。

見ると、ばばあはもういなかった。

逃げた気配は感じられなかったから、自分から飛び込んだんだろう。

どっちでもいいが。

 

 

シリカの方に向き直ると、シリカは座り込んでいた。

 

―――怖がらせちまった。

謝んねぇと。

 

 

「………悪い、シリカ。お前を囮みたいにするだけじゃなく、危険な目に遭わせちまって。

それと、俺のことも黙ってて悪かった。

言おうと思ったんだが………シリカに嫌われるかもと思うと、なんかな……言えなくなっちまった」

 

 

シリカは首を横に振ってくれた。

それだけで、少しは救われる。

 

 

「街まで、送るよ」

 

「あ――足が、動かないんです」

 

 

それで、お互いに少しだけ笑うことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

三十五層の宿に戻るまで、俺達はほとんどなにも話さなかった。

二階に上がり、俺の部屋に入ったところで、シリカが話しかけてきた。

 

 

「カイさん……行っちゃうんですか……?」

 

 

その声は震えていた。

答えたくなかった。

だが、答えないわけにはいかない。

口に出し辛かったが、なんとか声に出す。

 

 

「ああ……。五日も前線を離れたからな。さすがにもう攻略に戻らねぇと」

 

「そう、ですよね………」

 

 

うーん。さすがにレベルがなぁ……。

俺的には連れて行きたいんだが、俺のエゴでシリカを危険な目に遭わせたくはない。

もう遭わせちまったけど。

 

 

「……あ……あたし………」

 

 

シリカがかすれた声を漏らす。

見ると、シリカの瞳から二粒の雫が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

―――うん。決意を固めるか。

さっきとは違う理由で口に出し辛いが、これまた言うしかない。

 

 

 

 

――シリカが俺に好意を抱いてくれているのは気づいている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺が、シリカに好意を抱いていることも。

 

 

男なら、言うしかねぇ。

 

 

 

 

「シリカ」

 

 

俺の声にシリカが顔を上げる。

 

 

「………俺は、シリカのことが好きだ。

………………もしよかったら、俺と付き合ってくれ」

 

 

理由は色々あったが、ごちゃごちゃ御託を並べる必要はないだろう。

こういう経験がないからわからないが。

 

そして、シリカに断られることもないはず…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え、嫌です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死にてぇぇぇえええええええええぇぇええええええ!!!!!!

なに俺超ハズい人じゃん!!

 

何が『シリカに断られることもないはず……』だよ!!

断られてんじゃん!!

思いっきり断られてんじゃん!!

疑いの余地なくばっさりいかれたじゃん!!

 

何が『シリカが俺に好意を抱いてくれているのには気づいている』だよ!!

なにかっこつけてんの俺!?なに勘違いしちゃってんの俺!?

死ねばいいんじゃないの!?つか死ねちょっと前の俺!!突如血を吐いて死ね!!もしくはなぜか窒息して死ね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――冗談です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日冗談でからかわれたときのお返しです」

 

 

顔を上げてシリカを見る。

そのとき初めて俺が床を転げ回っていたことに気づいた。

 

シリカは瞳に涙を浮かべていた。

そんなに俺の痴態が面白かったんだろうか。

――って、んなことより、シリカが今――

 

 

「カイさん、嬉しいです。

――こんなあたしでよければ、喜んで」

 

 

 

シリカの言葉に思考が止まる。

 

 

あー。やべぇ。超嬉しい。嬉しすぎて言葉が出ないって本当にあるんだな。

今の俺がその状態だよ。

 

 

「冗談がえぐいぜ、シリカ…………」

 

 

本当に死にたくなったんだぞ。

つい愚痴ると、シリカは微笑んだ。

 

 

「ふふっ、ごめんなさい」

 

 

ま、この笑顔が見られたからよしとするか。

 

 

「これからもよろしく、シリカ」

 

「はい、カイさん」

 

 

夕日の中、二人の影が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、俺の大事な人がまた一人、増えた。




カイの過去はまだ明かす気はありません。
いつになるかな……。
多分シリカとの絡みで明かすことになると思います。

次はオリジナルの話を挟みます。
主にボス戦になると思いますが。

これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。


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