英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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馬鹿VS正体不明

~光一視点~

 

「やっぱり生きてたか」

 

 俺が姿を見せると同時に十六夜が言った。

 

 何もなければ俺は岩の下から出ないでもよかったが、そういう事態ではなくなった。

 

 もともとはルイオスに対する伏兵として隠れていたが、その心配がなくなった代わりに十六夜の暴走を止めるために出てきた。

 

「なあ、光一。オマエは俺を止めるために出てきたんだよな?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

ちゃんと状況を理解して(・・・・・・・・・・)やっているのか?」

 

「当たり前だ」

 

「そうか。それならここで寝ておけ!」

 

 十六夜はそう言ってから踏み込む。

 

 俺ではとてもじゃないが反応できない速度だ。

 

 俺が認識したときはすでに距離を数メートルのところまで詰められている。

 

 俺が後ろに引こうとした時には、十六夜との距離は拳が届く範囲まで来ている。

 

 俺はなすすべなくそのまま殴られてたたらを踏む。

 

 もともとこんな状況になった時点で俺には勝ち目がない。

 

 俺は遠距離から中距離で戦うしか能がない。

 

 身体能力強化系の能力とは相性が悪い。

 

 反応できない速度で動かれれば手札のほとんどが使えない上に、敵の能力をコピーしたところで能力の劣化のせいで効果は薄い。

 

 もともとの効果が単純すぎるのだ。

 

 大概の場合は強化の倍率が低い上に、効果範囲が狭い。

 

 つまりどんなに強く念じても一つの性能しか強化出来ない『付け焼刃(イカロスブレイブ)』では性能を越すことは出来ない。

 

 それは劣化を反転できるようになっても同じで、身体能力の劣化くらいしかできず、意味がない。

 

 俺は応用力こそ使える能力ではあるとは思っているが、一点特化にはどうしても弱い。

 

 どう頑張ったところで十六夜と近距離では戦えない。

 

 これは間違い無く――前提条件だ。

 

「良く耐えたじゃねえか! 耐久力でも強化したのか?」

 

「お、お前のパンチが……軽いんだよ!」

 

 十六夜を睨みつけて言う。

 

 もちろんやせ我慢でしかないし、それは十六夜にも伝わっているだろう。

 

 そんなことは先刻承知だ。

 

 だが、勝たなければならない。

 

 でなければ十六夜がこのまま力をもて余してしまう。

 

 強さで全てを解決出来ると思ってしまう。

 

 だからここからはそれをどうするかだけ考えなければならない。

 

「俺は、お前の天狗の鼻を折ってやる。満足させてやる。限界を教えてやる。――そして、対等な仲間にしてやる!」

 

「ハ! オマエがか! そいつは楽しみだ! せいぜい俺を楽しませてみろ!」

 

 そう言ってもう一度十六夜は俺に殴りかかってくる。

 

 小手調べのつもりなのか先程と全く同じ軌道、速さだ。

 

 そして俺は身構えることすら必要がない。

 

 腕を盾にしようが、体を盾にしようが、能力で耐久力をあげようが関係ない。

 

 そんなものは十六夜の身体能力とギフトを砕くギフトの前には無意味。

 

 ならば俺のできることは一つだけ。

 

 パチン!

 

 いつもどうりに能力を使うことだけだ。

 

 しかし俺の能力はギフトを砕くギフトの前では無意味。

 

 つまりその結果は簡単だ。

 

 ズドン!

 

 大気が震える音がして、十六夜が何かにぶつかった音とともに尻餅をつく。

 

 そして十六夜を俺は見下ろす。

 

「テメエ……!」

 

「一発お返しだぜ、問題児君?」

 

「……面白くなって来たじゃねえか!」

 

「どうだ? これでお前は満足できそうか?」

 

「無理に決まってんだろ! もっと楽しませろ!」

 

 

 予想どうりに十六夜は突っ込んでくる。

 

 もともと反応できない速度の上、本気のようで、二度……いや三度フェイントを入れて俺の視界から消えた。

 

 一瞬遅れて後ろから爆音が聞こえたあと、拳を振りきる音と共に俺の能力が解除された。

 

 能力が解除されたのを見計らって『紫煙地獄(ヘビースモーカー)』を発動して黄色い煙を生み出す。

 

 一瞬で辺り一面を覆い尽くす煙に乗じて俺は『飛燕(トニー)』を発動して空に浮く。

 

「オラァ!」

 

「げっ! マジかよ!」

 

 思っていたよりも早く『紫煙地獄(ヘビースモーカー)』を解除される。

 

 そのせいで『身代わり(ドッペルゲンガー)』まで繋げられなかった。

 

 目くらましがなくなったのなら俺の姿が見えるのも道理だ。

 

「ハッ! 遅え!」

 

「くそっ」

 

 十六夜が『飛燕《トニー》』で浮いている俺の元にまっすぐ飛んでくる。

 

 それにあわせて俺はもう一度指をはじく。

 

 パチン!

 

 俺は『無能箱庭(アルカトラズ)』を使って空中に足場を作る。

 

 そして『飛燕(トニー)』で軽くなっている体で思いっきり飛び上がる。

 

 これにより十六夜の攻撃を回避することが出来て、なおかつ十六夜を能力が使えない空間に追いやることが――

 

「ヤハハ! こんなもんで捕らえられるか!」

 

「能力無効化の能力すら壊すのかよ!」

 

 十六夜の能力破壊のほうが『無能箱庭(アルカトラズ)』の能力が使えない空間よりも効果が高いのか!

 

 だが、一切の効果が無いわけじゃなさそうだ。

 

 あの一瞬確かに十六夜の身体能力は下がっていた。

 

 つまり『無能箱庭(アルカトラズ)』では足止めにしかならないのか。

 

 思ったより悪い状況だ。

 

 まだ空中に居る間に、もう少し作戦を立てなければ。

 

 少なくとも十六夜にダメージを与えることに成功した不意打ちは『無能箱庭(アルカトラズ)』の反転させた能力だ。

 

絵に描いた空間を作る性能は劣化したままで、絵に描いたものを具現化する能力に。

 

 能力を使用できなくする性能は劣化したままで、使いにくくなる程度。

 

 伸ばした性能は無い。

 

 ただし、反転は一つだけ。

 

 入ることは自由だが出るときは使用者の許可が必要な性能。

 

 これを反転すれば入ることは使用者の許可が必要で、出るのは簡単な結界のようなものになる。

 

 これを意識の薄そうな腹の位置に展開することで、高速で走る十六夜は腹だけ壁に突っ込んだようになり尻餅をついたのだ。

 

 その後にも何回か使ったが全て十六夜に気づかれて壊された。

 

 ネックだった馬鹿でかい紙が必要だったという弱点は、ギフトカードの中に収納するという手段で解決したが、それでも絵のストックがなさ過ぎておいそれと使えない状況だ。

 

 そして俺に撃てる『無能箱庭(アルカトラズ)』残数は後三回。

 

 正直な話、俺の能力には破壊力が欠けている。

 

 だから十六夜に少しでもダメージを与えることが出来た『無能箱庭(アルカトラズ)』はとっておきたい。

 

 他の能力で十六夜に効くくらい破壊力が高い能力は良くて二個。

 

 しかもそれすらも能力な以上砕かれる可能性のが高い。

 

 ああ、くそ。

 

 いくらなんでも準備不足過ぎだ!

 

「そんなにゆっくりと考える暇があるなんてずいぶんと余裕そうじゃねえか?」

 

 空中に居る俺の後ろから軽薄そうな声が聞こえる。

 

 俺は少なくとも二十メートルは飛んでいるのにだ。

 

「……どんな脚力してんだよてめえ」

 

「ハハハ! 限界を教えてくれるって言ったのはオマエじゃねえか。――んじゃ、落ちろ!」

 

 そのまま十六夜に蹴られて地面に真っ逆さまに落ちる。

 

「ぐああっ! あがっ!」

 

「おいおい、普通の人間は今のでも死ねるんだぜ? オマエも人間じゃないだろ?」

 

「ゲホッ! ゲホッ!」

 

 くそ! とっさに『不屈の卵殻(ハンプティダンプティ)』を使ってなかったら間違いなく死んでた。

 

そして一泊遅れて十六夜が俺のそばに降り立つ。

 

「大口叩いてた割にはずいぶんな様じゃねえか。救世主様?」

 

「う……るさい」

 

「その調子じゃあ俺が何故ルイオス坊ちゃんをここまで徹底的に攻撃したかも分かってないんだろう?」

 

「……レティシアを奪われた損失を取り返すべくリベンジマッチを仕掛けてくるのを防ぐため、だろ?」

 

「おお、それぐらいは分かってたか。じゃあ何で止めたんだ? てっきり何も考えない行動かとも思ったが、ちゃんと内情を理解してやがる。オマエの行動がちぐはぐにしか見えない」

 

「別の方法でもリベンジマッチなら防げただろう! あそこまでぼろぼろにする必要はないだろうが!」

 

「防げなかったときはどうするつもりだったんだ? オマエは同士が敵の人質になって死んででも見ろ! そいつらにオマエは何かを出来るのか!」

 

 十六夜は倒れている俺の首元をつかんで持ち上げて言う。

 

「そのために俺もエミヤも黒ウサギも久遠も春日部もジンもいる! 仲間のことを信用できない自分の弱点を敵に押し付けるな!」

 

「エミヤみてえに強い奴ばっかならそういえるだろう。だがお嬢様も春日部もまだまだ発展途上だ。俺ですらも白夜叉クラスにもなれば対処は難しい。そしてルイオス坊ちゃんの持ってるギフトは本来白夜叉と同格クラスの魔王のギフトだ。何人かが殺される可能性がある。そのときにお前の言う仲間は対処できる奴らばかりなのか?」

 

 十六夜の言っていることはコミュニティの安全を考える上で正しい判断だろう。

 

 完全に正論だ。

 

「だからといってお前が悪役ぶって敵をいたぶっていい理由にはならねえ」

 

「なら、オマエが俺以上に強いという所を見せ付けてくれれば納得してやる。かかって来いよ」

 

「ああ、分かってる! ­――『無能箱庭(アルカトラズ)』!」

 

 パチン!

 

「おいおい芸がねえな! コピー能力者なんだからもっとバリエーション増やせよ」

 

 そういって十六夜は俺の展開した『無能箱庭《アルカトラズ》』を破壊する。

 

 そしてその隙に二回指をはじく。

 

 パチン、パチン!

 

 俺は一つ目に発動したある能力によって魔方陣を展開する。

 

 そして俺のほうに向かってくる十六夜に向けて殴りかかる。

 

 圧倒的に速度が違う中でも、十六夜は俺の拳ごと砕くべく、俺の殴りかかっている手を狙ってきた。

 

 一瞬にも満たない抵抗の後、俺の手は弾かれる。

 

 しかし弾かれた後にもう一度掴む。

 

「これで寝とけ!」

 

 十六夜が俺が掴んでいるほうとは逆の腕で殴りかかってくる。

 

「いや、オマエの負けだ十六夜」

 

 十六夜が殴りかかる瞬間、俺は指を弾いた。

 

 

 

 

 

「――五十六億の救いをここに『木漏れ日現象』」

 

 

 

 

 

 一瞬で、十六夜の体は黒い光に包まれる。しかし十六夜の拳は止まることなく俺に当たる。

 

 そのまま俺は二、三歩たたらを踏んで立ちどまる。

 

 十六夜の攻撃でたたらを踏むだけなのだ。

       

「な……に? 俺のギフトが消されただと(・・・・・・・・・・・・)!?」

 

 能力を消す能力。

 

 俺が五十六億の世界を救った黒光。

 

 そして俺の理想全てを叶えた能力劣化反転『木漏れ日現象』。

 

 これが俺の最強だ。

 

 だがもちろん種はある。

 

 そうでもなければ十六夜の能力は消せない。

 

「ああ、お前のギフトを消すなんて普通なら無理だろうな。だが、もしも俺の『無能箱庭(アルカトラズ)』を食らった上に、自分のギフト無効化能力まで食らったらどうやって俺の『木漏れ日現象』を防ぐんだ?」

 

「確かにそれなら効くかもしれない。だがどうして能力のコピーが出来るんだ? 読み取ることすらも出来ないからこそ俺のギフトネームは“正体不明(コード・アンノウン)”だったはずだ」

 

 全てを見通す大悪魔ラプラスですら理解できなかった能力だからこそ“正体不明(コード・アンノウン)”の名だった。

 

 それをコピーするためにはどうするか。

 

「だから俺はお前の能力をコピーするために、一撃目を食らったときから試していた。そもそも最初に殴ったときに可笑しいと思わなかったのか? お前みたいな怪力に殴られて俺がたたらを踏む程度で済むと?」

 

「まさか、最初から俺の能力を封じるつもりで挑んできてやがったのか!」

 

 そう一撃目十六夜に食らったときには事前に『無能箱庭(アルカトラズ)』を引いて十六夜の攻撃力をそいだ上で攻撃を食らった。

 

 ただ、ここでは能力がコピーできるほど無効化の力が弱体化していなかったため何かに力を使った瞬間ならばコピーできると踏んだのだ。

 

 十六夜はいつもギフトに対する耐性に関しては常に発動しているが、能力を破壊する際には絶対に拳を振るう、蹴るなどの動作をしてきた。

 

 つまりそのときにはそっちのほうにエネルギーが回っているはずなのだ。

 

 だから十六夜は二度目の『無能箱庭(アルカトラズ)』を破壊した瞬間に俺に能力をコピーされたのだ。

 

 さすがに能力を制限されている状態で能力破壊を行うのなら結構な力を使うだろう。

 

 そして力を使った一瞬の隙に膨大な霊格を持つ俺が力技で能力をコピーしたのだ。

 

「……オマエは俺の能力がもっと問答無用で全てのギフトを破壊するものだとしたらどうしていたんだ?」

 

「ああ、その可能性はない。もしもそんな能力者なら、この箱庭に来るときの召還のギフトすら破壊しているだろうからな」

 

「……そういうことかよ。納得したぜこのやろう。そしてお前は最後に二つ能力を使った。一つは俺の“正体不明(コード・アンノウン)”の無効化能力だけを伸ばしたもの。そしてもう一つは能力の無効化の反転、能力の有効化をする空間として使われた『無能箱庭(アルカトラズ)』だ。それで能力を破壊するという能力が有効になるように後押しされた上に、強化された能力消去だ」

 

 十六夜のいうとおり、二つとも正解だ。

 

 さすがに頭いいなコイツ。

 

「ああ、無効化の能力同士で戦えばオリジナルが勝つだろう。だが、俺の『無能箱庭(アルカトラズ)』の無効化能力分の能力有効化能力があれば補える。俺がお前を捕まえた瞬間、お前の能力は封じられていた。そしてその瞬間なら俺の『木漏れ日現象』が効く。これでお前のが分かったか敗因が分かったか?」

 

十六夜は拳を数回動かした後、両手を挙げる。

 

「――完敗だぜ。お前の好きにしろ」

 

 そして十六夜に俺は勝利した。

 

 

~光一視点終了~

 




エミヤ「ふむ。前回いただいた感想を見る限り、光一を心配する声がゼロなのはまあ予想道理か」

光一「ああ、信用されてるのかもしれないが、ちょっと複雑だよな……」

エミヤ「お前などいいほうだ。私など一話分丸々一箇所も出てないがな」

光一「頑張れ」
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