英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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もう少しだけ休みをください by光一

~エミヤ視点~

 

 さて、少し予想外のこともあったが、北側に向かう策は手に入りそうだ。

 

 そして何より、何時の間にか驕っていた自分に気づくことができたのが大きいだろう。

 

 少年たちの成長が早いのは喜ばしいことだが、しばらくは抜かされないようにしたいものだからな。

 

 まあ、そんな葛藤は光一も抱いたらしく、こっそりと修行のようなものをするという話にもなった。

 

 そんなことを考えているうちに、サウザンドアイズについた。

 

 ジン君は手紙を握ってサウザンドアイズの扉を叩く。

 

「また貴方達ですか。うちはノーネームお断りだと何度言ったらわかるんですか」

 

「いや、今回の場合はサウザンドアイズのほうから招待状が届きましてね。地域で一番のコミュニティからの招待状をノーネーム如きが無下にしたとなると同志達に反乱を起こされてしまいますから」

 

 店員は考えごとをするようにジン君とにらみ合うと、少し経つと白夜叉が送ったのだろうと当たりをつけて口を開く。

 

 

「わかりました。今回は特例です。それに、どうせ白夜叉様からのものですし、先ほど四人ほど通していますしね」

 

「ん? ていうことはあの三人とレティシアが来たのか」

 

 光一がそうつぶやくと、店員は口を開く。

 

「そうです。残念ながら入られてしまいましたが」

 

「そうか。ありがとう」

 

 私はそう言って中に入ろうとする。

 

「……礼を言うくらいならこの店に入らないほうがありがたいです」

 

 店員の捨て台詞は嫌悪感に彩られながらも礼に対して無視することはしない。

 

 やはり良く出来た店員だな。

 

「ところで白夜叉はどこにいるんだ?」

 

 光一が入れてもらった店内でつぶやく。

 

 そうすると奥の部屋からガタゴトと五月蠅く聞こえた後、探し人達の声が聞こえ、柏手の音と共に静かになる。

 

 呆然としながら一分ほど立って居ると、もう一度部屋に柏手の音が響く。

 

 すー、という音と共にふすまが開くと、少し眉に皺を寄せた白夜叉と、白夜叉に捕らえられている春日部嬢を発見した。

 

「全く。黒ウサギも元気になったのはいいが、礼を欠き過ぎておる」

 

 白夜叉が少しだけ眉を寄せながらつぶやく。

 

「すまない。同志の私から謝罪しよう」

 

 言葉と共に頭を下げる。

 

 白夜叉には世話になっているからな。

 

「いや、よい。一時の黒ウサギよりはマシじゃからのう」

 

 白夜叉は大して気にした様子もなく謝罪を受け入れる。

 

 これで問題はないだろう。

 

「そうか。まあ、釘は刺しておこう」

 

「お主が釘を刺すというと、ずいぶんと物騒な釘が出てきそうじゃな」

 

 白夜叉が何気なく口にする。

 

 しかし私にとっては大問題だ。

 

 なぜなら未だに白夜叉の前では宝具の投影はしていないはずなのだ。

 

 そして、私が多数の宝具を持つと知っているものも極一部に限られる。

 

 

 ノーネームの同士ですら私の魔術を詳しく知っているものはいないはずなのだ。

 

 つまり、白夜叉に情報を与えたものが誰かは限られる。

 

「……クラーケンからか?」

 

「そうじゃ。あの時はまだペルセウスはサウザンドアイズの一員だったからのう」

 

「なるほど。私について知っているものはどれほどいる?」

 

「クラーケンと私ぐらいじゃな。だが、お主は一度英霊となった身じゃろう。そうやすやすと手札を見せれば正体はすぐに割れよう」

 

 白夜叉が今度は私に釘をさすように言う。

 

 確かに英霊となってしまった以上、どこかに伝承が残る。つまりは、私だけはノーネームの中でも手札が割れやすいメンバーということになる。

 

「気を付けよう。誰かの命が失われない限りな」

 

「それでよい。またクラーケンと戦ってやれ。普通に戦えばお主でも苦戦するじゃろ」

 

「ああ。今度も負ける気はないと伝えておいてくれ」

 

「うむ。それじゃあ、北側に行くことにしよう」

 

 そういってパン、と柏手を打つ。

 

「それで北側にはどうやって向かえばいいんだ?」

 

 光一が当初の予定通りの質問を白夜叉にする。

 

 そして白夜叉は少しだけ口角を上げた。

 

「すでにここは北側じゃ」

 

「「はい?」」

 

 柏手一つで空間転移だと?

 

 どうなっているんだこの世界は!

 

 もしや誰かしらの固有結界か何かなのか!?

 

 そもそも魔力の移動なぞほとんど感じないのになぜこんな大魔術を?

 

 疑問は尽きないがその言葉を飲み込む。

 

 信じられないことがあったところで、神だからな。

 

 これで大体のことが解決できそうな気がするのが少し悲しく感じる。

 

 こんな世界で私はまともに戦えるのか?

 

 そんな疑問はもはや尽きないが、とりあえず一つだけ言っておこう。

 

「光一。お前はこんな非常識な存在になるなよ?」

 

「ああ、原理を聞いても出力が足りなそうだから無理な気がする」

 

「お主ら、私を非常識な奴扱いするでない!」

 

 白夜叉の抗議はそっとスルーする。

 

「で、どうしてこんな簡単にバカみたいな距離を移動できたんだ?」

 

 光一が白夜叉に聞く。

 

「ああ。サウザンドアイズの支店が至る所にあるのは知ってるな?」

 

「もちろん」

 

「その支店は繋がっておるんじゃ。故に繋がっている場所なら移動は楽じゃろ?」

 

「なるほど。指定した区間を繋げることによる簡易的な瞬間移動なのか」

 

 光一と白夜叉の会話を聞く限りこういうことだろう。

 

 真っ白い紙に二つの場所を書いて、重なるように折りたたむ。

 

 そうするとその二つの場所は繋がることになる。

 

 つまりは紙を折りたたむ動作のみで二つの場所をつなげられるのだ。

 

 おそらくこの原理で移動が楽になるということなのだ。

 

「ふむ。それなら似たようなもので応用できそうだ」

 

 この説明を聞いて光一が呟く。

 

「なに!? たったこれだけの説明でできるというのか!」

 

「ああ、似たようなのはできるな」

 

 光一がさも当たり前のことのように言うが、白夜叉は言葉にならなそうだ。

 

「おぬしは本当に人間か?」

 

「ああ、普通の人間だぜ? 元天使で元悪魔のな」

 

「どこら辺が普通なんじゃ! ……まあ、よい。だが、くれぐれもその力で境界門を移動させる商売などするなよ?」

 

「ああ、光一に限っては大丈夫だろう。こいつにそんな長距離を移動させる出力はないだろうからな」

 

「ぐっ! てめぇ! 本当のこととはいえ言うことはないだろう!」

 

 光一が悔しそうに歯噛みする。

 

「ああ、済まない。口が滑ってしまった」

 

「心にも思ってないことを言いやがって!」

 

 光一が憤慨しながら配膳されたお茶を飲む。

 

 その姿を見て少し満足してから気になっていたことを聞く。

 

「ところで白夜叉。黒ウサギとレティシアと十六夜はどこにいるんだ?」

 

「ああ、あいつらなら今頃追いかけっこの真っ最中じゃないかのう」

 

 ズドドドドドドン。

 

 白夜叉がそう言った瞬間に、外から爆音が聞こえてくる。

 

「もう魔王が来おったのか! ずいぶんと速いお出ましじゃのう!」

 

「魔王ですって?」

 

「ああ、此度の祭には魔王が来ることがわかっておる。そういえばお主らには話していなかったな。少し待て」

 

 そして少し目を閉じる。

 

 誰かと念話でもしているのだろう。

 

 そして目を開くと、先ほどよりも落ち着いた表情の代わりに、青筋をこしらえて口を開いた。

 

「悪い話が二つあるんじゃがどちらから聞きたい?」

 

「どっちも悪い話かよ! 選びようがねえ! せめて一つくらいいい話を混ぜてくれ!」

 

「ん? ああ、今朝茶を飲んだら茶柱が立った」

 

「確かにいい話だけどどうでもいい!」

 

「なんじゃ、せっかくいい話をしてやったというのに。……まあいい。まず一つ目の悪い話じゃが、この爆音は魔王襲来の音ではない」

 

 この破壊音が魔王からのものではないのが悪いことだと?

 

 その言葉に何故だかわからないがあかいあくまの姿がちらつく。

 

「それのどこが悪い話なん……まさか!」

 

 そして光一も悟ったようだ。

 

「ああ、この音の原因はお主らの仲間が起こしたもんじゃよ! せっかく用意した飾りが丸々壊されたぞ!」

 

 ――十六夜と黒ウサギか(あのバカども)か。

 

「ギフトも封じてるのに派手なことをしてくれやがって!」

 

 光一が憤慨している。春日部ですら苦笑いだ。

 

「その代金は全て耳をそろえて払ってもらうからの!」

 

「ああ、承知した」

 

 後で働ける場所でも教えてもらおう。

 

「それで二つ目じゃが、こっちのほうが悪い話かもしれん」

 

「なんなんだ? いまとんだ生活費のことを考えればこれより悪い話は中々ないように思えるが」

 

 光一が訪ねる。

 

 そしてその質問の答えは予想以上に阿保らしかった、と同時に悪い状況だった。

 

「魔王が来るという話はしたじゃろう? それでお主らノーネームは、対魔王の戦力の一員となってもらうことが決まった。というよりもお主らよりも先に来た四人が決めた」

 

 この言葉と共に、にこやかな笑顔のままのジン君と、固まった表情の光一と、眉に皺を寄せる私が流れるようなコンビネーションで行動した。

 

 つまり、私が竹刀を投影し、光一が春日部を強制的に正座させ、ジン君がきれいな面を春日部嬢にはなった。

 

「いたっ!!」

 

 これに関しては完全に自業自得だろう。

 

~エミヤ視点終了~




エミヤ「ついに魔王との戦いか。今の私たちで戦力になるのかね?」

光一「何とかなることを祈るしかないだろうなぁ」

エミヤ「祈ると言ってもだれに祈るんだ。少し歩けば神様がセクハラしてる世界だぞ」

光一「……神様って煩悩にまみれてるんだな」

エミヤ「煩悩がない神など極少数だろう。だからと言ってやってることがセクハラなのは微妙だがな」

光一「じゃあ、だれに祈ればいいんだよ?」

エミヤ「さあな。とりあえず私たちは魔王との戦いよりも、家計簿との戦いのが忙しいんだからな。これ以上赤い字をつけるなと問題児どもに祈るしかないだろう」

光一「……ああ、そうだな」
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