英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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大河の化身

~十六夜視点~

 

 笛が、ミサイルのような威力で突き出される。

 

 それを『韋駄天の下駄』のギフトを使って回避する。

 

 十秒間に三百メートル動けるギフトだが、そのペース配分は自由というオモシロイ性能をしている。

 

 だが、相手の攻撃が連続して来る以上、あまりに距離を取りすぎるとギフトが数秒間使えない。

 

 ヴェーザーが振るってるのが穴の空いてる笛なお陰で、空気圧で吹き飛ばされることは今のところ無いのが救いだ。

 

 光一に『正体不明(コードアンノウン)』を消されて以来、俺の戦闘能力は恐らく二十分の一未満と言ったところだろう。

 

 だがーー今までより楽しめる。

 

 誰も反応出来ない速度で圧倒するのは飽きた。

 

 誰も防御出来ない攻撃で唯勝つだけなのはつまらない。

 

 今後、ペストより強い魔王が現れたときには困るだろうが、この程度の相手ならハンデにもなりはしない。

 

 ちょうどとんとんと言ったところだろう。

 

 俺が持つギフトは五つで、『韋駄天の下駄』とエミヤからもらった剣のデュランダル、光一から奪った超越者(ギガ)の劣化コピー二種と、まだこの戦いでは使っていない一つ。

 

 それでも戦闘が続いているのが証拠だ。

 

 まぁ、奴もいくらか奥の手を残しているのは分かっているがな。

 

「まぁ、最近は俺についてこれる奴も増えてきたんだが、お前はそのなかでも中々楽しめるな」

 

「人間風情がでかい口を叩きやがる。親の教育がなってねぇんだな」

 

「生憎と育ての親は随分とはっちゃけた奴でな。俺も苦労したもんだ」

 

「ハッ! お前を育てる方が圧倒的に疲れるだろうよ」

 

「ヤハハ! それは否定しない」

 

 会話で時間を稼いだお陰でギフトの再使用までの時間が経ち、余裕ができる。

 

 それを確認してからギフトを用意する。

 

「お前との殴り合いはそこそこ楽しめたが、本気だして無いんだろ? ウォーミングアップは終わりだぜ」

 

「ろくなギフトも持ってないガキに本気出すことは無いと思ってたんだがな」

 

 ヴェーザーが呟くと同時に霊格が今までの比じゃない位に膨張する。

 

「ハッ! やっと本気でやりあうつもりになったか」

 

「俺が本気出すんだ。あんまり余裕ぶっこいてると死ぬぞ?」

 

「ほざけガキッ!」

 

 笛を全身で回転させながら、風圧によって音楽を奏で初める。

 

「この一撃でくたばりな。『舞闘曲・道化の誘い』!」

 

 瞬間。

 

 目の前にヴェーザーが現れて、巨大な笛による突きを放つ。

 

 それを回避しようと『韋駄天の下駄』を発動させ――

 

 そのまま吹き飛ばされる。

 

「ガハッ!」

 

 くそっ……五百メートルは吹き飛ばされたか。

 

「剣で防いでなきゃ死んでるぞ!」

 

「いや、むしろなんで生きてんだよ」

 

「ハッ。普段の行いのお陰だろうな」

 

 なんとか毒づくが、状況は笑えない。

 

 下駄がキャンセルされたか?

 

 いや、少し違うか。

 

「やってくれたな木っ端悪魔が。お前をヴェーザー川そのものと見立てた、川に飲み込まれたという伝承の具現、か」

 

「やっぱり見破るか。お前、こっちのコミュニティにこねぇか?」

 

「残念ながら既に心に決めた場所があってな」

 

「そりゃ残念。なら終いだ」

 

 ヴェーザーはもう一度笛を回し初める。

 

 今あの曲を止めれば回避することは容易い。

 

 更に言うなればヴェーザーから離れることが出来ないだろうが近づくことはできるだろう。

 

 つまり正面にはかわせる。

 

 そこまで考えて、止めた。

 

 なぜ俺はいつの間にかこんなに弱気になってたんだかなぁ。

 

「つまんねぇ事は辞めだ! 全力で来い!」

 

「その自信ごと砕けろ! 『マグダネーレ』!」

 

「『超越者(ギガ)』!」

 

 ゴッッ!!

 

 剣と笛が衝突し、互いに弾かれる。

 

 ヴェーザーは神格を預かる悪魔の膂力で。

 

 俺は『韋駄天の下駄』により上がった速度に、光一から貰った『超越者(ギガ)』によって二十倍に増加した体重を乗せた剣撃で。

 

 共に山河を容易に砕く攻撃を持って放った攻撃は相討ちで終わった。

 

「惜しい、笛ごと砕くつもりだったんだがな」

 

「……本当に変なガキだ」

 

「個性を大事にしてるんでな」

 

「それよりお前の望み通り、川まで来てやったんだ。今度こそ全力出しやがれ」

 

 俺が吹き飛んだ先にあったのはハーメルンの町並みから抜け、川のほとりだ。

 

 さっきからこっちに誘導しようとしてる節があったから乗ってやった。

 

「そこまでバレてんのかよ。ったくやりずれぇ」

 

「川の悪魔ってだけで分かるんだ、簡単だぜ?」

 

「普通そこまで分かってんなら川から離れようとするはずなんだがな。ーーまあいい。覚悟はいいんだな?」

 

「今さら聞くことじゃ無いぜ」

 

「そりゃ重畳」

 

 ヴェーザーは爆音を響かせながら笛を大地に突き刺す。

 

 その瞬間に川は流れを変えてヴェーザーに飲み込まれる。

 

「ヴェーザー川の化身にして真のハーメルンの笛吹道化! 覚悟しろ。人類の歴史とは災害と戦争の歴史。今の俺はその災害そのものと思え!」

 

「ハッ! 災害も戦争も乗り越えて来たからこその人類だってことを教えてやるッ!」

 

 数えるのもバカらしいほどの激突。

 

 瞬間的に近づいてきて、巨大な笛による横凪ぎが来る。

 

 それを後ろに下がって回避するが、笛から膨大な量の水が放出され吹き飛ばされる。

 

「くっ! 『韋駄天の足枷』」

 

 吹き飛ばされている最中に『韋駄天の下駄』の劣化反転コピーによる停止のギフトを使う。

 

 吹き飛ばされなくはなったが、足を止める結果になる。

 

 不味いな。

 

 笛の軌道上は殆ど範囲内か。

 

「ボケッとしてると終わるぞ?」

 

 ヴェーザーが追撃をかけてきて更に笛を振るう。

 

 それを『韋駄天の下駄』で回避しつつ剣を振るう。

 

 だがまあ、駄目だな。

 

 足回りと頑丈さはなんとかマシ程度に出来たが、このレベルだと体重増やして下駄で突進でもしないと決め手に成らない。

 

 剣と防御力上昇と体重増加と移動不可と瞬間移動。

 

 しかも元が同じ超越者(ギガ)というギフトな以上、防御力上昇と体重増加は同時に使えない。

 

 そして同じ理由で韋駄天の下駄というギフトが元である以上移動不可と瞬間移動も同時には使えない。

 

 さてどうするか。

 

「よし。決めた」

 

「あん? 何をだよ?」

 

「いや二、三個ほど作戦を考えてたんだが、止めようと思って」

 

 俺は剣を正面に突き出しながら構える。

 

「さっきから足が止まった瞬間に殺してやるって目が気に入らねぇから、正面から潰してやる」

 

「ハッハッハ! 随分とでかい口を叩きやがる! 本当に惜しいやつだったが、いいぜ」

 

 ヴェーザーは馬鹿でかい笛を地面に突き刺して、大地を砕く。

 

「ーーこの一撃、大河のエネルギーそのものと思え」

 

 呟いた後、ヴェーザーは大地を蹴り、肉薄してくる。

 

「舞闘曲・『ハーメルンの笛吹』!」

 

 とんでもない速さでヴェーザーは突撃してくる。

 

 恐らくアレは子供たちを飲み込んだ伝承の再現。

 

 回避はおろか、飲み込まれた瞬間に問答無用に溺れ死ぬという結果を突きつけてくるものだろう。

 

 だがそもそも逃げる気は無い。

 

 さあ、正念場だ。

 

 今もてる全力を出す。

 

 下駄と体重増加を使った突撃。

 

 そして、足枷を使って衝突地点の手前で急停止。

 

 そこで生まれる慣性のエネルギーを全て(・・)剣に乗せて投げる。

 

 一条の剣は真っ直ぐに、笛から放出される大河を裂く。

 

 しかしそこで勢いに負けて急激に失速する。

 

 ――当たり前だ。

 

 拳銃から放たれた銃弾ですら水の中で五メートルも進まない。

 

 剣は笛まであと一メートルといったところで止まるだろう。

 

「剣が弾かれるのなら、もう一度加速させればいいだろうが!」

 

 俺は放たれた剣の後を追うように下駄を使って加速し、剣の柄を殴りつける。

 

「なっ!」

 

 今度こそ剣は笛に吸い込まれて行き、竹を割るように綺麗に笛を断った。

 

「テメエ、まさかあそこからギフトを切り替えるとか正気かよ」

 

「ヤハハ、さすがに肝が冷えたぜ。しかも、全部うまく行ってもご覧の有様だ」

 

 俺はそういいながら笛を砕いた衝撃でお釈迦になった右腕を見せる。

 

 箱庭の治療能力なら何とかなるだろうが、この戦いでは使えないだろう。

 

 というか痛い。

 

 額から油汗が吹き出るくらい痛い。

 

 頭が回んなくなるくらい痛い。

 

 怪我してるのは腕だけのはずなのに全身が痛いと錯覚するほどだ。

 

 だがまあ、目の前の敵は笛を壊されただけ。

 

 まだ戦える。

 

「くそ。神格貰ったからって、テメエの様なガキを相手にするんじゃなかったぜ」

 

「そんな寂しいことを言うな。俺と真正面から殴りあえるやつがどれだけ希少だと思ってるんだ。誇っていいぜ?」

 

「そりゃ、ありがとよ。だがまあ時間だ」

 

「あん? 逃げるのか?」

 

「違えよ。悪魔が触媒壊されたんだ。いつまでも限界できるわけ無いだろう」

 

「は? それなのに触媒振り回して戦うとか馬鹿じゃねえのか?」

 

「悪魔なりのポリシーってやつがあんのさ」

 

「んで? オマエは魔王に対する忠誠も果たせないまま消えると?」

 

「よし。テメエ一人道ずれにしてやる」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

 今度は純粋に殴りあう。

 

 ヴェーザーは笛が無い以上消え行く体で殴りかかる。

 

 俺も剣と下駄は使わず、満足に動く右腕以外で殴りあう。

 

 消え行く悪魔と、利き腕の潰れたとはいえ戦える俺じゃあ、結果は見えていた。

 

「ハハハハハハッ!」

 

「かっかっかっか!」

 

 それでも最後の最後まで笑いながら殴り合い、三十秒もたたないうちにヴェーザーは消えた。

 

「悪くない戦いだったぜ?」

 

 ふと声が聞こえた気がしたが、随分と都合のいい空耳だ。

 

『今度召還()ばれたら、次こそ沈めてやる』

 

 華々しい悪魔からのデートの約束を果たす時が楽しみだ。

 

 

~十六夜視点終了~




エミヤ「前回質問があったんだが、光一が直死の魔眼を使って死を見えるのかという質問だ」

光一「結論から言うと見えない! せいぜい上っ面の部分だけコピーしたらなんかぼんやりとしたすっごい細い光の線が見えるから、それをなぞると少しの抵抗で物が切れるだけ。特に死ぬわけでもない」

エミヤ「既に直死でもなんでもないな。物の壊れやすい線を見るだけだろう」

光一「さらに言うと物の壊れやすい線も見えない。見えるのは壊れやすすぎると能力者本人からお墨付きを貰った俺の劣化コピーだけ。しかも昼間だと見えないから千里眼で少し視力を強化しなくちゃいけないというおまけつき」

エミヤ「もはや意味があるのかどうかすらも怪しいな」

光一「いやでも、俺だって使ってみたかったんだよ! こんな劣化コピーじゃなくて本物の魔眼とか欲しい!」

エミヤ「確か原作でもそんなことを言っていたな」

光一「だから本人が来て、劣化とはいえ使えたら使うだろう!」

エミヤ「その気持ちは分からなくはないが、その結果なんでもなく負けるのはかっこ悪いな」

光一「くそっ! 言い返せない!」

エミヤ「それにお前の物語の次の物語も本編は終わったんだ。一言あるだろう?」

光一「ああ、35試験小隊のみんなお疲れ様! 今後とも全員でがんばってくれ!」

馬鹿「柳実冬貴先生、本編執筆お疲れ様です! 35試験小隊の面々もお疲れ様でです! 作中で劣化コピーという単語が出てきただけでまだえ転げました! 次の短編集も楽しみにしてます! 面白い物語をありがとうございました!」
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