英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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復興とメイド

~光一視点~

 

 黒死病から回復したと思ったら、もう町は復興を始めていた。

 

 ペストはサンドラに倒され、残りの二人の悪魔は久遠と十六夜が倒した。

 

 戦闘はハーメルンの街を丸々召喚して戦っていたため、大きな被害は出ていない。

 

 しかしその中で、最も修繕に時間がかかっているものは、十六夜と黒ウサギが破壊した時計塔だったりする。

 

 そう。

 

 時計塔の修繕費の問題は片付いていないのだ。

 

 黒ウサギが審判を務めたのは一戦。

 

 その後の魔王討伐の依頼料は全て修繕費に充てられたが、まだ返済しきれていない。

 

 ジンが結んでいたらしいサラマンドラとの取引には金銭面的なものは無かった。

 

 さらに言えば魔王を撃破したのはサラマンドラで、それに共力しただけの立場だと依頼料も少なかった。

 

 これでも作戦の立案・側近の撃破・魔王の足止め・黒死病から住民の保護・サンドラの強化までやったんだけどなぁ!  

 

 つまりだ。

 

 

 

 お金が……ありません。

 

 

 

 ここに戻ってきた時のギフトは、俺がカーボン紙を用いて同じ絵を書き、『無能箱庭(アルカトラズ)』を同時に発動していなければならない。

 

 しかしカーボン紙を使う以上、その上に乗ることは不可能で、浮いている状態だと絵がかきづらく何回も失敗したのもあり、飲み屋のトイレくらいの大きさにしかできない。

 

 同じ空間を繫げる異能としてサウザンドアイズの支店同士の移動方法をコピーしたが、二人までしか無理なのと、書くのに一時間以上かかる。

 

 つまりむちゃくちゃ大変だ。

 

 それを修繕費の返済の為に何往復もしていられない。

 

 さらに言うと、俺が黒死病で倒れた瞬間に本拠地で発動していた『無能箱庭(アルカトラズ)』は解除された。

 

 つまり帰れないのだ。

 

 何で黒ウサギは十六夜を止めなかったんだ――というか何で挑発に乗って建物を一つおじゃんにしてるんだ!

 

「ということで黒ウサギ? お金を稼ぎに行こうか」

 

「ややや、目が笑っていないですよ光一サン?」

 

 少し怯えながら後退る黒ウサギを捕まえる。

 

「なあ、黒ウサギ」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「今は北側のコミュニティのお祭りで、みんな楽しそうにゲームに興じ、お店の売り上げやらコミュニティが開催したゲームやらで盛り上がっている」

 

「そうデスネ。とても活気があっていいと思います」

 

「さて、俺たちの同志はどこにいるんだろうなぁ?」

 

「YES! エミヤさんとレティシア様ならここから少し離れたところで飲食店の屋台を、耀さんと十六夜さんと飛鳥さんはお金のかかったギフトゲームを、ジン坊ちゃんはサラマンドラとサウザンドアイズと会議をしておりま、っあう!」

 

 黒ウサギを無言でチョップする。

 

「何故みんな祭りを楽しむことが出来ていないんだろうな?」

 

「黒ウサギが十六夜さんとのゲームで発生した修繕費を稼ぐためです……」

 

「ああ、さらに言えば俺と黒ウサギがここに残っている理由が、俺は病み上がりで、黒ウサギは『審判権限(ジャッジマスター)』なんてもののせいでゲームに参加できないからだな」

 

「YES……」

 

 うさ耳をしおらせてうつむく黒ウサギ。かわいい。

 

 じゃなくてだ。

 

「考えがある」

 

「何でしょうか?」

 

「それはな――」

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

「あ、あのーコウイチサン? やっぱりこの格好は……」

 

「おう似合っているぞ?」

 

「ありがとう……ございます。いえ、そういうことではなくてですね」

 

「ん? メニューの用意もできたし。マンドラさんに頼んだらなんか開店資金と場所と食材と調理できる人員は融通してもらえたし、店自体は『無能箱庭(アルカトラズ)』でちょちょいのちょいだったし、何も問題はないはずだ」

 

「いえ、黒ウサギはそういうことを心配しているのではなくてですね……」

 

 黒ウサギは恥ずかしそうにもじもじしながらも、ミニスカのメイド服を着こなしている。

 

 うさ耳メイド服の美少女にウェイターをやってもらえるなら男としては最高だろう。

 

「さあ、ここから一週間で本拠地に帰るお金と修繕費を手に入れる! 行くぞ!」

 

「ううう。……はい」

 

 『うさ耳メイド喫茶 黒ウサギ』開店だ!

 

 

 

 

 

     ※※※

 

 

 

 

「おかえりなさいませご主人様! こちらのソファーで寛いでくださいぴょん!」

 

「は、はい!」

 

 店に入ってきた客は、一人残らず黒ウサギの美貌に驚き、にやにやした顔で席に座り、メニューを見るふりをして働き続ける黒ウサギを眺める。

 

 注文が遅いお客様がいれば、黒ウサギがさりげなく一番高いメニュー(黒ウサギの手書き文字付オムライス~笑顔を添えて~)を頼むよう誘導し、恥ずかしがりながらもニコニコで文字を書いてくる。

 

 さらに一時間ごとに黒ウサギとのジャンケンタイムがあり、それに勝つと黒ウサギと写真が撮れるサービスを有料で行う。

 

 高めの席料を取ってもまだ満席状態が続くほどの大盛況だった。

 

 もはや開店して三時間で一日の目標金額を殆ど達成するほどだ。

 

 ちなみにカメラは原理を知っていたので俺がギフトを駆使して似たようなものを作った。

 

 さらに、黒ウサギには『裏腹海月(トランスペアレント)』の劣化強化でさらに目立つようにしてある。

 

 帰り際に書いてもらったアンケートでは顧客満足度が驚異の百パーセントだ。

 

 ちなみに俺はその間、ギフトを用いて新しいイベントを考え続けている。

 

 これで売り上げが伸びないわけがない!

 

「おかえりなさいませご主人……さ……ま」

 

 ん?

 

 黒ウサギのさっきまでの威勢がなくなったぞ?

 

 ふと入口のほうに目を向けると、そこには。

 

「ま、マンドラ様! 何でこここここ此方に!?」

 

「自分の同志が働いているうえに、資金提供その他もろもろまで手を貸した店だ。見に来るのに何か問題があるか?」

 

「いえいえいえその節はありがとうございマス」

 

「ふむ、大盛況のようだな。私もここで休憩していくとしよう」

 

「え、と。こちらでお寛ぎくださいませご主人様」

 

 マンドラさんが来たのか。

 

 くくくっ。

 

 黒ウサギは忘れかけていた羞恥心がぶり返してきたみたいだ。

 

「ご注文は何にするぴょん?」

 

「ふむ。黒ウサギの手書き文字付オムライス~笑顔を添えて~と黒ウサギのラテアート付きカフェラテ。後はこの黒ウサギの元気注入シュークリームを頼む」

 

「分かりましたぴょん!」

 

 なかなかやり手だなマンドラさん!

 

 黒ウサギが最も振付をつけなければいけないやつを上から三つか。

 

 普通の客ならまだしも、知人に見られるのは相当恥ずかしいだろう。

 

 黒ウサギが注文を火龍さんたちに伝えると、火龍さんたちは今までにない速度で調理を終えた。

 

 そりゃあ、自分たちのコミュニティの幹部が来てるんだもんな。

 

 黒ウサギは厨房で少し縮こまって逃げていたが、注文が出来てしまえば逃げられない。

 

 カフェラテを受け取って、営業スマイルを張り付けてマンドラさんの元へ行った。

 

「黒ウサギのエネルギ―注入するぴょん!」

 

 そういって黒ウサギはマンドラさんの前でラテアートを全力でやった。

 

 

「ふむ。うまいな」 

 

 しかしマンドラさんの反応は実に淡白だった。

 

 あれはつらい。

 

 あれならいっそ大爆笑とかドン引きしてもらったほうがましだ。

 

「ううう。黒ウサギ、もう休憩していいですか?」

 

「がんばれ。後二品あるぞ」

 

「ううう~」

 

「オムライス出来ました!」

 

 うなだれる黒ウサギに火龍さんからの完成報告(死刑宣告)黒ウサギはもう一度マンドラさんの元へ行く。

 

「黒ウサギの手書き文字付オムライス~笑顔を添えて~お持ちしました! 文字は何にしますか?」

 

「マンドラ様大好き、で頼む」

 

「ぶっ!」

 

 くそ、吹き出しちまった。

 

 なんであの厳ついおっさんは黒ウサギの扱い方をマスターしているんだ!

 

 

「は、はい! マンドラ様、だーいすきぴょん♡」

 

 黒ウサギは笑顔を張り付けながらも完全に目が死んでる。

 

 しかしオムライスの文字は完璧だ。

 

 職人技を感じるな。

 

「ふむ。なかなかうまいな」

 

 笑顔の黒ウサギを横目にマンドラさんは無表情を保っている。

 

 それを見届けて黒ウサギは厨房に帰ってくる。

 

「コウイチサン。ツカレマシタ。黒ウサギを帰してください」

 

「ああ、閉店時間はあと一時間だ」

 

 黒ウサギは厨房の椅子に座って完全に沈黙。

 

 さすがに少し休ませてあげよう。

 

 黒ウサギがいない間の注文は俺が取る代わりに、じゃんけん大会のシード権を一枚ずつ渡す。

 

 そして十分後にマンドラさんからオーダーが届いたので向かった。

 

「貴殿はなかなか愉快な同志を持っているな」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 口いっぱいにオムライスを詰め込まないでほしい。

 

「一つ貴殿に聞きたいことがある」

 

「ん? なんだ?」

 

「ペストのことだが、何故貴殿は最初にあったときにペストを撃破しなかったのだ?」

 

 マンドラさんはオムライスを頬張りながらも当たり前のように質問する。

 

 確かに俺はやろうと思えばペストを撃破することはできただろう。

 

 しかしやらなかったのには理由がある。

 

「俺かエミヤが倒すのは確かに簡単だったろうが、それじゃあ魔王と戦うことを明言しているコミュニティなのに、俺たち以外戦えなくなっちまうだろう?」

 

「そういうことか。納得がいった。うちのコミュニティにも利益があったから助かった」

 

「そりゃよかった。あ、あとここの開店資金とか人とかありがとうな」

 

「礼には及ばん。既にノーネームのリーダーから貴殿の手伝いをするように頼まれていたからな」

 

「そうだったのか。でもまあ、それとは別にありがとう。助かった」

 

「ん? 何のことだ」

 

「わざわざ高いメニューを頼んでくれて」

 

 そういうとマンドラさんは少しだけ目を開いたのちに、食器を置いた。

 

「なに。美しい女性のメイド服を見に来ただけだ」

 

 そう言って残りのオムライスを食べ始める。

 

 そうか。

 

 この人はメイドスキーだったのか。

 

 さすがに気づかいだけであのオムライスの文字はないもんなあ。

 

「さあ、シュークリームを頼む。元気いっぱいでな」

 

「ああ、もうそろそろ回復しただろうし、全力でやるように言っておく」

 

「頼んだ」

 

 そう言って俺は厨房に戻り黒ウサギにシュークリームを持っていくように頼んだ。

 

 黒ウサギにこの後じゃんけん大会をやればそれで店を閉めるというと、元気になったので大丈夫だろう。

 

 ちなみにじゃんけん大会の優勝者はマンドラさんだった。

 

 

~光一視点終了~

 





光一「ふう。ようやくに二巻終了だな。と言いたいところだが、この後ももしかしたらグダグダと幕間を挟むかもしれないといっておく」

エミヤ「そうだな。正直もともとの構想だと三巻目で終わる予定ですらあったからな」

光一「ああ、でも一応今は一部は最低でもやる気でいるぜ」

エミヤ「そうだな。小説を書き始めてからこれほど長い間書き始めるとは思っていなかったらしいしな」

光一「まあ、とりあえずペスト戦で原作と違うのは死者ゼロ人というところが大きいだろう」

エミヤ「サラマンドラとしては渡りに船だな」

光一「まあ、俺が体を張ったかいがあったぜ」

エミヤ「そういえばサラマンドラで思い出したんだが、光一のお願いを使えば全員帰れた上に修繕費も出してもらえたのでは?」

光一「あっ!」
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