英雄の箱庭生活   作:英雄好きの馬鹿

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光一「FGO第一部完!」

エミヤ「ああ、なかなかに大変だった」

光一「お前黒くなって思わせぶりなこと言ってただけで、後はイベントに出てただけだろう」

エミヤ「それは言うな」

光一「いや、でも確かにお前の活躍は凄かった。剣と狂の魔神柱はワンターンキルだっしな」

エミヤ「フッ。黒聖杯九十七レベが強かっただけさ」

光一「ああ。ぶっちゃけヘラクレスでもワンキル出来たから特にお前じゃなくて良かったし、孔明さんの戦果のが多かったし、アーラシュでも余裕だったからな」

エミヤ「全員規格外なだけだ!」

光一「ああ、そういえば、後書きではクリスマスの出来事について報告しようと思うから、是非見てくれ」

エミヤ「遅れたのは一重に終章が面白かったからとだけ言っておく」

光一「ていうか、何で本編の倍の分量になったんだろうな」

エミヤ「バカだからだろう?」


打ち合い

~エミヤ視点~

 

「では、始めるとしよう」

 

「ああ、久々に本気で鍛錬ができる。ありがたく胸を借りよう」

 

 私は“サラマンドラ”の本拠地にてマンドラと剣を向けあう。

 

 といっても、二人とも刃をつぶした剣なのだが。

 

 何でも、高位の霊格を持つ者は、慢心して修行を怠る傾向にあるらしい。

 

 それは火龍の末裔たるサラマンドラの同志にも言えることで、マンドラが実権を握るまでは修行など碌にしたことのないものばかりで、マンドラの相手をするには役不足らしい。

 

 マンドラは火龍の象徴たる角が生えてこない病に罹った結果、武術に傾倒して強さを獲得した男だ。

 

 種族の強さに甘んじて鍛錬を怠っていたっものでは役不足だろう。

 

「では行くぞ?」

 

 マンドラはそういうとともに上段からの打ち下ろしを放つ。

 

 ――鋭い。

 

 角がなかろうと、火龍は火龍らしい。

 

 しかしまだ足りない。

 

 私は半歩横に動くことで剣を躱し、その勢いで右手の剣を振るう。

 

 マンドラもそれは十分読めていたのか素早く剣を引き戻すことにより柄で防ぎ、引いた勢いと私の剣の衝撃を使い突きを放つ。

 

 突きを左手の剣で突きをそらして相手の真下から振り上げ、その勢いで剣を上空に放り投げる。

 

 獲物一つ失った私に、喜々として突っ込んでくるわけでもなく、一歩下がって剣を正眼に構え直す。

 

 ふむ。この程度の罠ではかからないか。

 

 あのまま突っ込んできていれば、マンドラが三度剣を振るうまでの間に落ちてきた剣で不意を撃てたのだが。

 

 私は落ちてきた剣を掴み、開始時と同じ距離を保ったままマンドラと対峙する。

 

「さすがは魔王を倒すと豪語するコミュニティの主力だな」

 

「私はそこまで強くはないからとめたのだがね。――まあ、問題児たちが成長するまでは、死ぬつもりはないが」

 

「私もこのコミュニティが繁栄を極めるまでは死ぬつもりはない。続きを頼もう」

 

「了解した」

 

 私はマンドラとさらに打ち合う。

 

 火龍の膂力を活かした剣術に、頭の回転が速く、用心深い。

 

 攻めづらい戦い方をしているな。

 

 しかし、まだ力に頼り過ぎている。

 

 剣に振り回されることはないが、攻められるところで攻めず、かわせるところで防いでいる。

 

 ここが弱点か。

 

 私はマンドラとの打ち合いの最中に両手の剣を放し、一歩下がる。

 

 流石にそれを好機と見たかマンドラは今までで最速の突きを放つ。

 

 まともに食らえば、刃を潰していても死は免れまい。

 

 私は手の甲で少しだけ剣の腹を叩き、突きを反らす。

 

 剣が泳ぎ、重心が崩れたことにより生まれた隙を突き、背後に回ることで剣を回収しながら胴を薙ぎ払う。

 

「ぐっ!」

 

「君はもう少し力を抜くといい。そうすれば見えてくるものもあるだろう」

 

「ああ、ご忠告痛み入る」

 

 マンドラは両手を上げて降参のポーズをとる。

 

 私は剣を下して一歩離れる。

 

 立ち上がったマンドラは私のほうを向いて剣を構える。

 

「では次だ」

 

「ああ。次も期待に応えるとしよう」

 

 そう言ってマンドラと再び打ち合う。

 

 剣を打ち合わすごとに、マンドラは私の攻撃を的確に防ぎはじめ、三時間も戦う頃には十分以上打ち合うことも少なくなくなってきていた。

 

「随分と体力があるようだな」

 

「角に行く分の力が、体力にでもなっているのだろうよ」

 

「ならばこれを使うといい」

 

 私は一振りの剣を投影して渡す。

 

「私からの選別だ。“ノーネーム”との友好の証しだと思ってくれ」

 

「聖なる力を感じるな。それに、見たことがある。……これはデュランダルか。ありがたい。しかしいいのか?」

 

「ああ、存分に使ってくれ。その剣があれば大概の攻撃なら防げるだろう」

 

 マンドラはにやりと笑いながら剣を三回ほど振って、デュランダルを近くの岩にたたきつける。

 

 しかし曲がることもなく、逆に岩を砕く結果に終わる。

「いい剣だ。だが、いいのか?」

 

「ああ、もしも君たちが裏切るようなら爆発するようになっている。用心して使うといい」

 

「フッ! こんな素晴らしい首輪をもらったのは初めてだ」

 

 そう言いながら、マンドラは剣をしまう。

 

「礼に一つ情報をやろう。君と同じ、英雄たちが最近良く召喚されているらしい」

 

「英雄たち?」

 

「ああ、なんでも、召喚されるはずのない者たちだそうだ」

 

「ああ、生存した可能性がないと召喚されないのだったな」

 

「そうだ。確認できているのは三人。クランの猛犬と、裏切りの魔女と、形のない島の怪物だそうだ」

 

 なに?

 

 冬木の聖杯戦争に参加したことがあるものばかりが呼ばれている?

 

 原因は恐らく私がここにいることと関係あるのだろうが、何故だ?

 

 私の動揺を感じ取ったのか、マンドラはさらに情報を付け加える。

 

「ありえないはずの者だが、伝説と違わぬ力を振るうらしいな。ああ、そういえば北側にはもう一人、不思議な少女がいたな。先ほどの召喚の件とかかわっているかはわからんが」

 

「不思議な少女だと?」

 

「聖剣エクスカリバーを持つ者らしい。しかし伝承とは違い女性のようだ。おそらくは聖剣を何らかの理由で手に入れた誰かだろう」

 

「いや、それはアーサー王だ」

 

「何?」

 

 今度はマンドラが動きを止める。

 

「いや、今名が挙がったものには縁があってね。それに、エクスカリバーを振るうものなど一人しかいまい」

 

 脳裏にふと、思い出す。

 

 初めて召喚されたときの記憶が。

 

 それを大事にしまい込みながらも剣をしまう。

 

「急用が出来た。本拠地に帰るとしよう」

 

「随分と急だな……ん?」

 

 サラマンドラの同志と思われるものが走ってくる。

 

「なんだ?」

 

「マンドラ様に客人が来ています! 最近噂になっていた聖剣を携えた少女が!」

 

「では、私はここで退散するとしよう」

 

「会っては行かないのか? 知り合いなのだろう?」

 

「少し事情があってね」

 

 そう言って私は去ろうとする。

 

「ほう。ではその事情を聞かせてもらおうか。アーチャー」

 

 後ろを振り返ると忘れもしない金髪の少女が立っていた。

 

「……久しぶりだな。元気そうで何より」

 

「貴方も変わりが無いようで」

 

 アルトリア・ペンドラゴンがそこに立っていた。

 

~エミヤ視点終了~




「さあ、ついにこの日が来た。去年の雪辱を果たし、不名誉な称号を取っ払おう」

 ホワイトボードに作戦の案を十二通りほど書き連ね、既にサンタクロースの服に着替えた馬鹿がそこにいた。

 しかも何故か私の席の前には某激安量販店で売っていそうな、茶色い全身タイツと角。

 クーフーリンのマネでもしろというのか?

「お前にはトナカイになってもらう。更に今回は強力な助っ人を頼んだ」

「助っ人だと?」

「ああ、もうすぐ来るはずだ」

 光一は時間を確認しながら言う。

 時刻は午前九時。

 この時間というと彼女か。

「お待たせしました! 少々手間取っておりまして」

 やってきたのは黒ウサギだ。

 しかも何故か彼女もサンタの服を着ている。

 彼女も光一(バカ)に当てられたか。

「……まだ朝だぞ? 誰かに見つかってしまっては、水の泡だと思うのだが?」

「いえ、今回はこの三人を筆頭に、問題児様方や、子供たちにも手伝ってもらいます!」

「なるほど。今回はレティシアへのサプライズというわけか」

「YES! なので今日は白夜叉様からの仕事の依頼があったのでそちらに行って貰っています!」

「そうか。では、部隊分けをしよう。黒ウサギと私と子供たちは用意をして、問題児三人はレティシアを一番喜ばせたほうが勝ちというゲームを光一が仕掛けるという案はどうだ?」

「いや、俺とエミヤは別働隊だ。後は全員囮になってもらう。クリスマスに何も無いほうが不自然だからな」

「つまり、私たちが去年手に入れたギフトで、今度こそレティシアを喜ばせてやろうという話か」

「そうだ。だからエミヤも基本は黒ウサギの手伝いをしてやってくれ。俺は少しやることがある」

「ああ、分かった変なことはするなよ?」

「ああ、黒ウサギも料理のセッティングは頼んだ。会場は俺に任せてくれ」

「お任せください! 黒ウサギが手によりをかけて作りますとも!」

「それは楽しみだ!じゃあ、俺も張り切ろう」

「是非期待していてください」

 そういって私と黒ウサギはいくつかの段取りを決めて夕食の用意を始めた。





~レティシア~視点~



 白夜叉からの依頼を追え、本拠地に帰ってみれば明かりが一切付いていない。

 コレは光一か?

 すぐにこんなことをしそうな同士を思い浮かべる。

 恐らくは彼が多用するギフトの無能箱庭(アルカトラズ)だろう。

 つまり本拠地に入れば奴の領域に入り、クリスマスパーティが始まっていることだろう。

 私はいつも通りに本拠地の扉を開き、中に入る。

「? 無能箱庭(アルカトラズ)ではないのか?」

 扉をあけて入っても誰もいないままで、明かりもついていなかった。

「コレは、私を残して外食にでも行ってしまったのか? ……それは少し寂しいな」

 私はどこか食べに行った場所でもメモで残っていないか確認するため、リビングのテーブルへ向かう。

「ああ、ちゃんとあった。しかもご丁寧に封筒に入っているとはな」

 封筒の中身を確認する。

『レティシアへ。

 参加者『ギフトゲーム名 “CHRISTMAS CAROL ”

・プレイヤー 一覧
 ・レティシア
 
・ゲームマスター
 ・佐藤 光一
 ・エミヤ シロウ
 ・黒ウサギ
 ・逆巻 十六夜 
 ・久遠 飛鳥
 ・春日部 耀
 ・ジン=ラッセル

・クリア条件
 ・全力で楽しんだ時

・敗北条件
 ・感謝の言葉を伝えた時

宣誓 上記を尊重して、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。“ノーネーム”印』

「なるほど。主たちらしいな」

 私を楽しませることに全力であるのが分かる。

 つまり主たちからのゲームということは、恐らくこの後向かう場所は決まっている。

「まずはジンの元から向かおうか」

 そういってジンの部屋にたどり着く。

「ジン。レティシアだ。入っていいか?」

「いいですよ。どうぞお入りください」

「失礼する」

 ジンの部屋はいつもどおり変わらず、本に囲まれている。

「では僕からのプレゼントです。開けてみてください」

「ああ、いただこう」

 ジンから渡されたのは細長い包みで、そこまで重くはなかった。

 去年のことを考えると、ナイフでも入っているのかと思ったが、違うようだ。

 箱を開けると、そこには結構な大きさのルビーがはめ込まれたペンダントが入っていた。

「ほう。コレはなかなかのものではないか。高かったのではないか?」

「大丈夫です。少し疲れましたけどね」

「どこか働いてきたのか?」

 わざわざコレを渡すために働いてきたと思うと申し訳なくなるのだが。

「いえ、作りました」

「なんだと?」

「ちょっと精霊たちの力を借りて、宝石を精製して、ペンダントの部分はエミヤさんに作ってもらいました」

「なるほど。……いやいや、宝石を作ったとはどういうことだ!?」

「つまりは必要な材料を圧縮すればよかったので、大地の精霊の力を借りれば出来ましたね」

「そんな簡単なものではないだろう!?」

「ははは。確かに少し疲れましたね」

 彼は光一の悪? 影響を受けすぎているのかもしれない。


「レティシアさんは余り着飾らないので、付けてくれたら嬉しいなと思います」

「ああ、では付けてくれ」

「ええっ?」

 成長したとは思っていたが、こっちの方面にはまだ弱いらしいな。

「ふふ。冗談だ。では次の部屋に行くぞ」

「うう。からかわないでくださいよぅ。メリークリスマス、レティシアさん」

「ああ、メリークリスマス」

 そういってジンの部屋を後にする。

 ふふ。

 今貰った首飾りをつけると、少し自分が綺麗になったのではないかと錯覚しそうだ。

 それくらい私のために作られたものだった。

 そんなことを考えながら歩いていると、次ぎは黒ウサギの部屋についていた。

「失礼する」

 黒ウサギの部屋に確認も取らずにはいる。

「お帰りなさい、レティシア様! もうジンくんのところに行って来たのデスネ! とても良く似合っていますよ!」

「ああ、いいものを貰ったよ」

「ふふふ、では黒ウサギからのプレゼントはコレです!」

 黒ウサギは後ろ手に隠していた箱を手渡してくる。

「あけるぞ、黒ウサギ」

「どうぞご遠慮なく!」

 黒ウサギはこちらから視線をはずすことなく、私の反応に注目している。

 そして丁寧に包装紙をはがした後、箱の中に入っていたのは真っ赤なドレスだった。

「ほう、ドレスか。随分といい生地を使っているな」

「YES! 十六夜さんたちが随分と稼いで来てくれているおかげで、買う事が出来たのですよ。サウザンドアイズ一押しの一品です!」

「ああ、それはいいな。着てみるとしよう」

「では手伝いますね」

 そういってドレスに着替える。

 先ほどの真っ赤なルビーと相まって随分とお洒落なように見えるな。

「思わず感謝の言葉を述べてしまいそうだ」

「ふふふ、別に言ってくれてもかまわないんですよ?」

「全部見ずに言ってしまってはもったいないだろう?」

「それもそうですね。メリークリスマスです!」

「ああ、メリークリスマス」

 そういって黒ウサギの部屋を出る。

 しかし、ここまでくれば、このゲームの意図も分かってくるな。

 恐らくこの後も私のための服飾品だろうな。

 私を着飾らせたいのだろう。

 次ぎは十六夜の部屋か。

 コンコン。

「十六夜。入るぞ?」

「おう。待ってたぜ。入りな」

「失礼する」

 十六夜の部屋は思ったより小奇麗だ。

「さて、その服装を見る限り、御チビと黒ウサギの部屋に行ったみたいだな」

「ああ、似合っているか?」

「もちろん。このままベットの上でじゃれ合いたいくらいだ」

「主殿が望むのならかまわないが?」

「ヤハハ。今はゲームの最中だからやめておこう」

「残念だ」

「さて、気づいてるとは思うが、俺からもプレゼントだ」

 そういって十六夜は手の平サイズの包みを手渡す。

 その中には金で出来たイヤリングが入っている。

 それをその場でつける。

「コレで更に綺麗になっただろうか?」

「ああ、この場にいられると襲ってしまいそうだ」

「ふふ。それではゲームに支障が出てしまうから、退散するとしよう」

 先ほどの十六夜の台詞を真似していう。

「ああ、そうだ。エミヤと、光一の分は取りに行かなくていいから、春日部と、お嬢様のを受け取ったら一階に行くといい」

「了解した。では先に行こう」

「ああ、メリークリスマス」

「メリークリスマス。主殿」

 十六夜の部屋を出て歩く

 後二つということは、靴と指輪かな?

 そう思いながら耀の部屋に着いた。

 コンコン。

「レティシアだ」

「入って」

「失礼する」

 耀の部屋に入ると、直ぐに包みを渡してくる。

「私はこういうの経験したことないから苦手なんだ。だからちょっと早いかもしれないけれど受け取ってほしい」

「ああ、開けるぞ?」

「うん」
 そこに入っていたのは赤いハイヒールで予想を裏切らないものだった。

 それに足を通すと目線が少し高くなるのを感じる。

「ふふ。こうしていると、自分がお姫様みたいに思えてくるな」

「うん。凄く綺麗だよ」

「嬉しいな」

「じゃあ、次ぎは飛鳥の部屋に行ってね」

「ああ、分かっている。メリークリスマス」

「メリークリスマス」

 私は耀の部屋を出て飛鳥の部屋に向かう。

「次で最後か。しかし、エミヤと光一は何を仕掛けてくるのだろうか?」

 あの二人もゲームマスターとして書かれている以上、何かしてくるのだろう。

 しかし、同時に楽しみでもあるな。

 いや、逆に凝りすぎて変な方向に突っ走っている可能性もある。

 どちらなのだろうな?

 飛鳥の部屋に着き、扉をノックする。

「レティシアだ。飛鳥いるか?」

「ええ、入っていいわよ」

「失礼する」

 飛鳥の部屋に入る。

「あら、私で最後みたいね。随分とお洒落になったじゃない」

「ふふ。嬉しいな。これもみんなのおかげだな」

「ええ、みんな頑張ったもの」

 年頃の少女のような笑顔で飛鳥が言う。

 普段はお嬢様然してているが、なかなか可愛いところもある。

「私からのプレゼントをあげましょう」

「ほう。何をくれるんだ?」

「開けてみてからのお楽しみよ」

 そう言って飛鳥から二十センチ四方くらいの箱を渡される。

 箱を開けるとそこにはプラチナで出来た王冠が入っていた。

「コレでは本当にお姫様みたいだな」

「ええ、そういう風にみんなでデザインしたんだもの。当然でしょう?」

 やはりそういう意図があったのか。

 まさしく吸血姫としてデザインされていたわけだ。

「似合っているわ。では準備も整ったわけだし、会場にご案内しましょう」

「会場? どこから行くんだ?」

「こっちよ。ついて着なさい」

 飛鳥に手を引かれて部屋を出る。

「さあ、手をとってくれ、レティシア姫」

 部屋を出た瞬間、別の世界に迷い込んだかのように視界が切変わる。

 お城のパーティー会場のような場所に、クリスマスの飾り付けをこれでもかというほどしたような場所だった。

 そこにいたのはタキシード服に身を包んだガングロ白髪の男だった。

「随分と手馴れているようだが、王子様には見えないな」

「私も、この配役が決まったとき耳を疑ったよ」

「しかし、光一が王子様でなくて良かった。それに比べたらだいぶ似合っているぞ?」

「それは比べる対象が悪いな。奴が王子様をやっていたら、間違いなく奇抜な格好をしていただろう」

「それは嫌だな。お前でよかった」

 想像してみると、あの銀髪に白いタキシードは似合いそうだが、いかんせん本人の性格が向いてない。

 というよりも、普段やっていることを考えると、童話のいい魔女みたいなことをしているからな。

「ではレティシア姫。一曲踊っていただけませんか?」

「喜んで」

 唐突に始まったが、互いにダンスは経験しているようだ。

 滞りなくダンスは続く。

「しかし意外だな。エミヤがダンスを踊れるとは」

「昔、いろいろあってね。あかいあくまときんのけものの戦争に巻き込まれた際に覚えてしまった」

「詳しく聞くのはやめておこう」

 その後も他愛のないことを話しながらダンスは進む。

 そして三曲ほど踊った後、曲が止まった。

「もう終わりか。名残惜しいな」

「そう思っていただけて何よりだ」

 エミヤは恭しく一礼しながら言う。

「では私からのプレゼントだ。受け取ってほしい」

 どこから取り出したかは分からないが、一輪の花がエミヤの手には握られていた。

 どこまでも気障な男だ。

「ふふ。いただこう。ああ、でもこんなパーティーは初めてだ。黒ウサギたちが服をプレゼントしてくれて、光一が素敵な舞台を整えてくれて、エミヤは楽しい時間をくれた。これではゲームに負けてもいいとすら思える」

 本当にすがすがしい気持ちだ。

 だから今は心から思う。

「みんな、ありがとう!」

 その言葉を言うとともに契約書類(ギアスロール)が飛んでくる。

「こんなにすがすがしい敗北は初めてだ」

「何を言っているんだ? よく読むといい」

「なに?」

 私は先ほどの契約書類(ギアスロール)に目を通すと、そこにはホスト側とプレイヤーの両方の勝ちと書かれていた。

「これはどういうことだ? 全員勝ちなどとは……」

「フッ。聖なる夜なんだ。これくらいの奇跡があってもいいだろう? 君は全力で楽しむことが出来て、私たちも感謝の言葉をもらえた。ならば全員幸せになれるだろう?」

 それではもはやゲームの体などなしていない。

 そういうのは簡単だろう。

 しかし、そんな現実では太刀打ちできないほどの夢が込められた言葉だった。

 聞いたことがあった。

 エミヤは犠牲になる人数をゼロにするという理想のために、犠牲者を出し続けた。

 しかし、そんな諦めを一切することなく走り続けたバカがいるということを。

 どちらかを救えばどちらかが消える。

 しかし両方救わなければクリアできないパラドクスゲームをクリアした男。

 挙句の果てには、千五百万年もの月日を重ねて全てを救った大ばか者のことを。

 確かに、奴ならば互いに勝利する結末を迎えようとするのだろうな。

「さて。互いに勝利を勝ち取ったのだ。景品を受け取らねばな」

「景品?」

「ああ。この空間を消していいぞ、光一」

 その瞬間に、本拠地の中庭に出る。

 そこにはコミュニティの全員が楽しそうに笑ってこっちを見ている。

「さて。俺が最後を勤めさせてもらうが、是非楽しんでくれ」

 いつもどおりの格好をしたバカが自信満々の顔で歩いてくる。

 そして右手を高々と上げると、指を弾きながらこういった。

「――いい夢をここに。俺の煉獄(ゲヘナ)

 パチン。

 瞬間的に世界が変わる。

 見渡す限りの一面の蒼。

 空に浮かぶ雲が、湖の水面に移り、鏡のようになっている。

 どこまでも透明で、どこまでも美しい一つの風景がそこにあった。

「…………」

 言葉を失う。

 それほどの衝撃的な光景だった。

 だって、私は吸血鬼なのだぞ?

 これほど美しい空を見ることが出来る時が来るなんて思ってもいなかったのだ。

「ああ、その服なんだけどな、俺たち全員で作ったんだが、今日が終わるまでの間は、太陽の光の影響を受けないようになっているんだ。だから安心して楽しんでくれ」

 光一がいつの間にか隣に来てそう言う。

 それでも私は。

 言葉にすることが出来ない。

 気づけば私は何故か涙を流していた。

「……ああ。嬉しすぎると涙が出てくるのだな」

 それに対して何も言わずにみんなで空を眺める。

 どれくらいの時間がたったかは分からないが、長い間景色を眺めていた。

 ふと後ろを振り向くと、黒ウサギたちが料理を用意して後ろで待っていた。

「さあ、黒ウサギが手によりをかけて作りましたので、どんどん食べてください♪」

 黒ウサギはそういって笑っている。

 その後も、光一は世界中の美しい景色を作り上げながらパーティーは進み、惜しまれながらも終わってしまった。

 しかし、この日のことは忘れることはないのだろうな。


~レティシア視点終了~
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