~エミヤ視点~
足を踏み出す度に、自らの居る周りで音が発生する。
ハデスの兜を被っているにもかかわらず金色のオーラが周囲を染め上げる。
体に残っている異能を魔力で流そうとしても、何故か金色のオーラが膨れ上がるばかり。
契約破りの短剣を使用するしかないか。
そう思い、自らの内に潜ろうとしていると、風を切る音が聞こえてくる。
まずい。
早くこの効果を切らなければ!
「あれは、光一?」
まだばれていない。
春日部嬢はオーラだけしか見えていないようで、私か光一か判別できていない。
逃げたのちに光一を伸した場所に向かって証拠隠滅を図らなければ。
兜などはがされてしまえば、私が光一ではないことがばれてしまう。
それだけは避けなければならない。
四肢に力を込めて全力で駆け出す。
バシュン!
謎の音と共に音速に達して春日部嬢の視界から消える。
光一を倒したところまでこの速度なら二秒もかからない!
「ちょっと反則臭いけど仕方ない……えい!」
聞こえるはずのない距離だ。
いや、春日部嬢の速度なら引きはがすことは難しいのかもしれない。
さらに言えば動物たちの五感をもってすれば今の私のいる場所などGPSをつけているより分かりやすい。
故に取るべき行動は隠れる場所を無くす範囲攻撃だろう。
一瞬の内に私が身を隠していた木々が薙ぎ払われる。
私が音速だとしても、周囲に存在していた風が猛威を振るえば影響から逃れることなどできない。
さらに、台風などを超す速度――秒速百メートルの風ならば、この程度の敷地など全て吹き飛ばせる。
局地的に吹き荒れる風を防ぐ手段が私には存在しない。
アイアスなど投影してしまえば一瞬で私だとばれる。
限りなく異能に近く、尚且つ武具の投影をほとんど必要としないもの。
くっ。
風除けの加護が欲しい!
砂漠の民にでもなっておくのだったか!
劣化したバルムンク――ばれる。
霊体化――受肉した今は不可能。
螺旋剣――ばれる。
鎧――恐らくばれる。
飛来矢――風は防げない。
単純な壁――防げない。
風王結界――あれは魔術だ、不可能。
魔術――とっさに発動することは出来ない。
あとは、あとは――後は――
風が周囲の木々をすべて攫った。
私に出来たのは対爆防御の体勢を取ることだけだった。
地面に這いつくばる私に出来たのは死んだフリ。
この体勢のまま春日部嬢が知被いていたところを眠らせれば!
「何やってるの? エミヤ」
ばれた……か。
私は兜を外さぬままに立ち上がる。
そして、契約破りの短剣を投影して突き刺す用意をする。
「えい!」
春日部嬢が私の手から短剣を蹴り落とす。
それを読んでいた私は逆の手に投影していた短剣を体に刺そうとする。
読まれていたのか、獅子のような柔軟な動きで短剣をけり落とす。
まずい。このまま行くとあと八手で魔力が尽きる。
私は両手に短剣を投影して右手に隙を作る。
これで――。
短剣が刺さるより早く真上から飛来した石が兜を破壊した。
その衝撃であおむけに倒れこんでしまい、刺そうとしていた短剣が間に合わない。
出来てしまった隙に春日部嬢が両手を取り押さえる。
「エミヤ? 見つけた」
シュインシュインシュイン。
完全に露わになった金髪碧眼ガングロの
「何してるの?」
「……私にもわからん」
「何があったの?」
「光一が私に異能を使った」
「何で味方のはずの光一が?」
「君の見方をすることに決めたみたいでな、私と戦った」
「なるほど」
「もうそろそろ英霊の座に戻りたくなってきたので、解釈を頼みたい」
「だめ」
「あと、私の負けは認めるから、この体勢をやめてくれると嬉しい」
私に馬乗りになっている春日部嬢に言う。
そう言うと少し頬を赤くして離れる。
「スーパー変態人えみや」
「やめてくれ!」
春日部嬢はそのまま歩き去ってしまった。
三十近くの男がコスプレ……か。
普段の装備は戦闘用といえば分からなくもないが、スーパーサイヤ人はきつい。
見る方も、見られる方も。
私はそっと契約破りの短剣を使用して金色の気を消す。
しかし、しばらくの間は立ち上がることはできそうにない。
~すーぱーさいやじんエミヤ視点終了~
光一「どうだった?」
エミヤ「死んでくれ」