雄英高等学校ヒーロー科。そこはプロヒーローになる為の資格取得を目的とする養成校であり、全国同科中最も人気で最も難しく、その入学試験は例年300を超える倍率を誇る。
国民栄誉賞に打診されたことさえある、知らぬ者のいないナンバーワンヒーロー、オールマイトを筆頭に、数多の名の知れたヒーローを排出した学校だ。
そして俺は件の入学試験に来ている。既に学力試験は終えたが手応えはまぁ、合格ラインには届いている……はずだ。
そして今日は実技試験。見たことの無いほど大きな会場に受験生が空席を作ることなくギッシリと詰め込まれて試験監督の登場を待っている。仕事柄、荒事が多くなってしまうためヒーロー志望は女性よりも男性の方が多く、気合いの入った奴らが多いため、心なしか温度と湿度が凄い気がする。クーラーは効いてるはずだが暑苦しく感じてしまう。
そんなことを考えながら脱いだブレザーを畳んでカバンの中にしまい、机の上に置いてあった試験内容についてのプリントを読む。ほうほう、3種類のポイントを持つロボットを潰して、ポイントを稼ぐ。そんで、ロボットは数に限りがあるから早い者勝ちと。
一通り目を通してすると、試験監督が壇上に出てきた……っていうかアレ、プレゼント・マイクじゃね?! スッゲー初めて見た。たまにラジオ聴いてる。
「今日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!」
「ヨーコソ──ーってあれ?」
コールアンドレスポンスに答えたのは俺だけ。え? みんなノリ悪くね? いや、緊張してるのはわかるし、俺も緊張してるけど、せっかくのホンモノのコールアンドレスポンスだよ?
横に座ってる君も、そんな、えぇ……? みたいな顔しないでくれよ。
まぁ、こういう時は発想の転換だ。変なやつじゃない。教師、そしてプロヒーローに顔を売れたと思えばラッキーだ。
「センキュー赤髪のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ! アーユーレディ!?」
「YEAHHH!」
半ばヤケになりつつも、もう一度返す。が、やはり俺一人。まぁ、もういいけどさ。こっちに親指を立てているプレゼント・マイクと知り合いになれたような気分だ。
「入試要項通り! リスナーにはこの後、10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってれよな!」
その後ちょくちょくコールアンドレスポンスを挟みつつ、試験の説明と三種の仮想敵の説明、他人への攻撃といった行為を禁止するなどの注意を聞いた。
「質問よろしいでしょうか! プリントには四種の敵が記載されております! 誤載であれば日本の最高峰たる雄英にて恥ずべき痴態! 我々受験生は規範となるヒーローよの指導を求めてこの場に座しているのです!」
堅苦しい口調で質問したのは、髪をツーブロックにしてキッチリと整えている、メガネを掛けた真面目かつ厳しそうな印象を受ける男子だ。
いや、めっちゃ言うやん。恥ずべき痴態とか普通に使ってる人見たことないな。ここ間違ってません? くらいの柔らかい感じでもいいでしょうに。
「ついでにそこの縮れ毛の君! 先程からボソボソと……気が散る! 物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ! そして赤毛の君も、間違った対応ではないというのは理解できるが、真剣に集中しようとしている受験生もいるんだ。少し声を抑えたまえ!」
「お、おう。それはすまんかった。次からは声量抑える」
縮れ毛の子が可哀想だなぁとか思ってたら、まさか俺のところにも飛んでくるとは。まぁ、確かに普通なら返さないし、集中してるときに横で大声出されたら嫌か。次からは全力のヒソヒソ声みたいな感じにしよう。
「オーケーオーケー受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな! 四種目の敵は0P! そいつはいわばお邪魔虫! 各会場に一体、所狭しと大暴れしている『ギミック』みたいなもんよ!」
「有難う御座います。失礼致しました!」
メガネくんは腰を直角に曲げてから座った。堅いなぁ。
「俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った! 『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!」
1拍置いて
「Plus Ultra!! それでは皆、良い受難を!」
……やっべぇテンション上がってきた。こういうのされると燃えちゃうよなぁ!
心が踊り、体も疼き、心身共に絶好調なまま更衣室で着替え、試験会場に向かうバスに乗る。車内は皆緊張しているようで、誰一人として話さない。聞こえてくるのは鼻をすする音と車のエンジン音のみ。緊張感が程よく高まってきた。
バスを降りて入口付近に立つ。周りを見回すとガッチガッチになった縮れ毛の子やメガネくんといった知った顔が二つ。他は皆知らない人。チラチラ見られてるような気がするけど、多分さっき目立ってたからだろう。
すると縮れ毛の子がメガネくんに何か言われている。縮れ毛の子が萎縮しちゃって試験どころじゃない感じだ。
一応一声かけておくか。なんだコイツって思われそうな気もするけど。
「まぁ、そんなに言ってやるなよ。そんな高圧的だと謝るしかないと思うし、ちっちゃい子とかだと泣いちゃうぜ? ヒーロー志望なんだし、もっと柔らかい雰囲気でいこう」
「む、君は赤毛の! そうか……たしかにヒーロー志望としては少し威圧的だったかもしれない。すまない! 俺も緊張で余裕が無くなっていたようだ」
「い、いや……僕も不用意な行動だったよ。ごめんね」
重い雰囲気が少し軽くなった気がする。メガネくんは真面目過ぎるだけで、頑固って訳でも無さそうだ。良いやつだ。
『ハイスタートー!』
ん? 何か聞こえた気が……
『どうしたあ!? 実践じゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられてんぞ!!?』
「えっマジか! じゃあ、健闘を祈る! 頑張ろうぜ!」
そう言って軽く跳び、赤色の炎を体に纏わせて飛び上がる。改めて上から見るとバカでかい会場だ。入口から広がるように受験生たちがなだれ込んでいる。
ここはひとまず空からチビチビとポイントを稼ぎつつある程度離れた場所で入口から離れるように減らしていくか。
ロボットの強度を確認するためにも炎の温度や大きさを変えてロボットに向けて撃ち出す。最初の壊しきれなかったロボットは、まぁサービスだ。他の受験生にあげよう。
数発撃ち込むと各ロボットの耐久値がわかった。案外脆いようで、意識して温度を上げる必要がない上に、拳大の大きさで撃てばどのロボットも問題なさそうだ。10分程度なら持つし、それでいこう。ちなみに飛んでいると持たない。飛ぶのは燃費が悪いのだ。飛ぶだけなら問題ないが、敵に向かって攻撃するとなればキャパがギリギリで余裕が無くなってすぐにガス欠になる。
5、6体倒して試験会場中心の最も大きい交差点の中央に降り立つと、人がまだ来ていないためロボットの数が非常に多い。あちこちから『ブッコロス!』って聞こえてくる。
だが耐久力もわかっていれば速さも対応出来るレベルだ。
「かかってこいやぁ!」
テンションが高まり口角が上がるのを抑えきれないが、気にしない。見回すためくるりと一回転して数と近さの確認をし、手から火球を撃つ。近づかせないように壊したロボットを盾兼足場にしつつ、後ろから来る場合はロボットの上で回避しつつ火球を撃つ。そうして出来たロボットの残骸その2も利用してその3、その4とポイントを稼いでいく。20体程倒した頃にはほかの受験生も数人ここに着いてロボットを倒していた。
そろそろ場所変えるか。結構ポイント稼げたから人の居ない場所に行ってポイント稼ぎ兼必殺技の練習台になってもらおう。
もう一度飛び上がって人のいない場所に降り立つ。今度は両手で火球を作ってそれを操作するのではなく、左手を前に突き出し炎を全力で噴出させ、右手で操作して拡散するのを絞り、射程距離を伸ばし、更に威力も上げる。
「ぐっ……中々難しい、が! 何とか行ける!」
炎の操作が少し大雑把になってしまった場所からは炎が漏れ出るが、それでも何とかビームの様相は保っている。
それをそのままロボットに向けて横薙ぎにする。炎の操作を追いつかせるために、ゆっくりとした横薙ぎである。しかし威力は想定以上のもので、鉄の体を持つロボットがビームの通り道をしっかりと融解されて赤く変色し、真っ二つになっていた。
「おお、これは強い……! だけど人相手に向けられる火力じゃねぇか。普通に真っ二つだ……ってうお!? 危ねぇ!」
悠長にし過ぎたからか、後ろには5体のロボット。容赦なく攻撃してきた。
咄嗟に前に転がって事なきを得たが、次がどんどん来る。
『残り2分〜』
「よっしゃそれなら全開だ!」
残り2分、移動も考えるとあと2、3回ロボットの群れを狩れるだろう。
それなら最大火力を出す。人には向けられない、外では出せない火力。
「炎波ァ!」
両手を高く掲げて炎を腕全体に纏わせる。そしてそのまま腕を振り下ろして炎を地面に叩き付ける。すると腕の炎が地面にぶつかって炎の衝撃波を生み出し、全方位に広がる。
衝撃波を受けたロボットは足を融解されて倒れ、そのまま壊れた。
「やっべぇロボットが脆いからか、無双系のゲームやってるみたいな万能感がある! これ楽しいけどやべぇ!」
そんなことを呟きながら炎を纏わせた拳で直接壊したり、かめは〇波みたいなポーズでドロドロにしたりしていると、遠くの方から大規模な破壊音が聞こえてきた。
建物が数棟ぶっ壊されたようなレベルの音だったため思わず振り向くが、近くの建物に阻まれて何も見えない。周りにいる受験生も何事かと音のした方向をみて怪訝な顔を浮かべているが、すぐに目の前のロボットに向き直って戦闘を再開した。
「ま、建物ぶっ壊すようなえげつない個性持ってるやつもいるか」
増強系でもオールマイトとかだと天候変えるレベルのパンチ打つし、案外建物ぶっ壊すような個性も珍しくないのかもしれない。それこそこの世に2、3人しかいないとかではなく、普通の学校に1人くらいいる程度の。ほら、またでかい音した。
そしてそのまま何体かぶっ壊していると、試験終了の放送が流れた。
『終了〜!』
その放送の直後、ロボットが停止した。
俺自身、結構疲れたためゆっくりと歩いて辺りを見回す。
周りの受験生もみんな疲れているようで座り込む者や倒れて肩を揺らす者もいた。
しかし入口に戻らないとならないため、ゆっくりと立ち上がってスピードに差はあるが入口に向かい始めた。
端の方だったため少し時間がかかったが、中央の通りにでると縮れ毛の子が担架で運ばれていくのが見えた。外傷は無いようだが、服の袖が大きく破れていた。
そしてやってきた方向をむくと、巨大なロボット、説明の際に出ていたお邪魔虫ロボットが頭部を大きく凹ませて壊されていた。周囲の建物の損害を見ると、その巨大さや強さがよくわかった。そしてそのロボットを壊すだけの強大な個性を持つ奴がいる。
合格自体は余裕、入学しても1位を取り続けてやると言う気でいたが、そんな余裕は無さそうだ。強いライバルがいる。これまでは張り合いのある相手がほとんどいなかったが、これからは楽しくなりそうだ!
完全燃焼するどころか、より大きな目標と楽しみを見つけたことによって心の炎はより大きく、激しく燃え盛っていくのを感じた。