雨の音は嫌いだと思う。でも、雨の音がしない所はいつも暗くてじめじめしていて、わたしを安らぎに導いてはくれない。
「黒騎士さん、雨の音は好き?」
もう誰も居ない民家を『お借り』して、私達は休息を取っていた。もっとも、休息が必要なのは肉体があるわたしだけ。魂だけの存在となって私の旅を助けてくれる彼は、必要な時だけ仮初の実体を持って姿を見せる。他の仲間達も姿を現すことは出来るけど、彼みたいに話すことは出来ないらしい。だから、戦う時以外に会うのはいつも彼だけだった。
「昔はよく雨の音を聴きながら本を読んだ。晴れた日は剣の腕を磨き、日が沈めば眠る。今となっては雨が当たり前になってしまって、好きも嫌いもないと言うのが本音だな」
「じゃあ、飽きたってこと?」
「慣れた、と言うべきかもな」
「ふうん・・・・・・」
窓の外を見ると、穢者がうろうろと所在なげにしていた。彼等は生き物を見ると見境なく襲いかかる。寂しいのかもしれない。仲間を呼び出して彼等を葬る時、わたしは哀しいような、胸がすくような不思議な気持ちになる。これは、救えているということなのだろうか。
「あのね、もしも雨が止んだら何がしたい?」
「私にはもうどうすることも出来ないんだ。だが、強いて言うなら陽の光の中で思う存分昼寝がしたいな」
「実はなまけものさんなのね」
何だかおかしくてわたしは笑ってしまう。彼は普段と変わらない調子で「そういう君は何がしたいんだ」と尋ねてきた。
「そうだなあ。わたしはお洗濯がしたいな。汚れちゃった服をみーんな真っ白にするの。あなたの服も洗ってあげるね。きっと真っ白なあなたを見たらみんな驚くよ」
「ああ、それは楽しみだな」
彼の表情は兜で見えない。見えなくてもわたしには分かる。きっと微笑んでいる。
(ほんとはね、あなたの笑ったお顔が見たいの。黒騎士さん)
雨が止んだら・・・・・・わたしの小さなお願いをあなたが聞き入れてくれるといいな。そうわたしは願いながら、眠気を感じてまぶたを閉じる。ずっと歩いて戦い続けていたから、疲れているのだろう。黒騎士さんが声を掛けてくる。
「休める内に休んでおくといい。私が見張っている。おやすみ、リリィ」
「うん。おやすみなさい」
雨の音は嫌いだと思う。でも、いつか雨が止んで、陽の光を見ることが出来たら、その時は彼と雨を待とう。雨と太陽が咲かせる花を二人で待ちわびよう。そうやって、笑って過ごせる大地を取り戻せたなら、わたしは雨の中で眠ってみよう。睡蓮のように──