機動戦士ガンダム パッチワーカーズ   作:ビブロス

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ーさやー

銃撃、怒声。男性のボランティアに肩を抱えられながら、僕は必死にスラムの中を逃げていく。

 

爆発による破片で僕の右足は明後日の方向に曲がっている、痛みと恐怖が身体を支配する。

 

コロニーからの移民が騒いでいる。

 

月の奴等が撃ちやがった。

 

娘が死んだ。

 

夫が死んだ。

 

月の奴等のせいだ。

 

月の奴等を殺せ。

 

移民は"持ち込んだ"武器で月の市民を追いかけ回すーーー僕達を殺そうとする。

 

涙と悲鳴が口から漏れる/必死で抑える/一緒に来ていた他の人達は何人も移民になぶり殺されたーーー恐怖で下着は当の昔にビシャビシャになっている。

 

僕達は少し頑丈そうな家に逃げ込んで、男性ボランティアは僕を奥の棚の中へと隠した。そして男性は外に出ようとする。

 

僕は行かないで、と彼に追い縋る/『後で迎えに来ます』/嘘つきの顔/絶対に迎えに来ない。

 

彼は足早に何処かへ消えていった。来るな来るな/僕は必死で祈る。

 

そしてすぐ後に悲鳴が聞こえた。

 

誰かが家の中に入り込んで来る。息を殺して扉の隙間から外を覗く、ドカドカと複数名が何かを引き摺りまわす。

 

ドカリ、と引き摺り回されていたものが目の前に倒れた。

 

頭を半分に割られた男性ボランティアの顔が私の目を見つめていた。ギョロリと動く瞳孔=まだ生きている。口から悲鳴が漏れた。

 

移民達が私を引き摺り出す。凄い力に抵抗する、シャツのボタンが弾け、下着がちぎれた。それでもがむしゃらに逃げる、半身が露になりながら外に出る/逃げる/痛い。

 

悲鳴と涙が止めどなく溢れ出す。イヤだイヤだと喚きながら地面を這うように逃げる。

 

もう少しで移民の手が僕に届く、その刹那の瞬間。ズドン、と金属の足が移民を踏み潰した。

 

飛び散る血肉、半身が引きちぎれた移民がのたうち回りながら死んでいく。僕は力無く見上げる、月の採光ミラーによって僕に影を落とすM'sがそこにいた。

 

2つ目、二本角、精悍な顔付きを思わせるマスク。多くの戦いで多くの敵を葬ってきた凄まじき鋼の戦士。

 

古より、人はそのM'sを"ガンダム"と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダム パッチワーカーズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2730年4月1日。

人がその居住領域を宇宙に伸ばしても、新生活というのは4月1日から始まるモノだった。古来からの習わし=様式に実用性が喰われている文化。

 

コロニーのフラクタル同士の隙間から漏れ出る人工太陽の光が私の頬を照らす=厚み50mm以上のシャトルの透過CNT素材を貫通して分子振動を起こす強烈な光。

 

僕はその光で目を覚ます。お母様に何か言われるのが嫌で飛び乗った夜行シャトル、"安め"の値段の割にはぐっすりと寝られた=一般人が新婚旅行で奮発して使うような値段設定。

 

窓の外を覗き見る、コロニーの艦船用の接岸ドッグには軍用の艦船が寄港しているのが見えた。

 

あれのどれかに僕は今から乗る事になる。僕=サヤ・エルフォードは今日から正式な軍人になるのだ。

 

月護衛軍LP(ラグランジュポイント)10コロニー群『ビル』派遣基地=月に守られる為にコロニー側が受け入れた条件の一つ。

そこで僕は入隊先の担当士官に敬礼していた。

 

「月護衛軍学校第1990期早期卒業組、サヤ・エルフォード、入隊の挨拶に参りました!」

 

カツンと踵を鳴らしながら機械のように寸分違わぬ敬礼+目線は上官の頭の上+腕の角度は45度=学校で習った事を自分が正確に実行出来る事をアピール。

 

 

【挿絵表示】

 

 

それを見た上官は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「流石"エルフォード家"のご令嬢と言ったところだな、きっちり仕上げられてる」

 

「お褒めのお言葉、ありがとうございます!」

 

「君も新生活でゆっくりしたいだろう、無駄な事は嫌いだから出来るだけ省いていこう、君の所属する部隊は本日19時に任務に出る、3番ドックに居るから補給物資の搬入班と一緒に行くように」

 

無駄な事は嫌い?豪華な部屋/豪華な調度品が当たり一面に置かれてる/無駄に時間かかりそうな髪型=ハズレの上官でも引いたか?

 

「了解しました!」

 

そんなこと関係ないかと考え直し大声で返答する。それに対して満足そうな顔で上官は頷く=自分好みの兵士で満足って思ってそう。

 

もしくは好みな体型、とか思ってるかも。

 

上官の後ろの窓に写る自分。肩より少し長めのウェーブが少しかかった白金のブロンドヘアー/"日本人"の血が四分の一入ったせいで柔らかく見える顔の造形/コーラの瓶みたいなボディライン/真っ青な碧眼/履歴書には全部"天然物"と様々な文面で記載=アーカイブに残ってる映画の女優みたいな風貌。

 

それが"16歳"だと分かっていればニヤついた顔にもなるのだろう。見事な鉄面皮の顔/心の中で悪態をつくーーー昔からの癖。

 

 

 

 

 

 

 

搬入班が来るのを手持ち無沙汰で待つことにする=派遣基地の最上階に設置された見晴らしの良いカフェのソファでだらり。目の前にはクリームたっぷりのフラペチーノ+カスタードの詰められたドーナツが3つ=バカみたいなカロリー量。

 

実家でも本家でもそうそう食べれない代物/厳しい家のしきたりでこういった物にはあまり触れられなかった。

 

むしゃむしゃと頬張りながら携帯端末(スマホ)を弄る/これも家では出来なかった芸当。

 

お母様からの着信がいっぱいーーー即座に履歴を消す/着信?来てませんよ、と言い訳するため。

 

「あ、メール来てる」

 

古めかしい/遅れてる/スマホ使いなれてないのか?へへっと笑いながらメールを開封="レオ"お兄様からのメール。

 

ドキリーーー流石お兄様、古風ですね/赴き深い/センスが違う。誰に向かって言い訳してるのか、誰に聞かせてるのかわからない言い訳を心でしながら文面に目を通す。

 

『卒業おめでとう。今日から部隊に配属と聞いた。新たな生活の始まりだ、慣れないことも多いだろうが、身体だけは気を付けて欲しい、何かあれば連絡してくるように。追伸、お前の母親が癇癪を起こしてるから電話ぐらいしてやれ』

 

簡素な文面。レオお兄様にしては言葉が"多い"ーーー"超"心配してくれてる!!/追伸の件は無視する。

 

ウッヒョい、と声をあげそうになるのをおさえてドーナツを頬張る/コロニーの食べ物にしては格段に美味しいーーー今日から頑張れる気がしてきた。

 

むしゃむしゃと頬張りながら最上階からの景色を堪能する。コロニーの内壁に貼り付くように街並みが広がっている/地球空洞説を題材にしたシネマに良くある光景。

 

そして"青空"。上層の外壁に写し出された青空と集光設備により集められCNT素材を通って降り注ぐ人工太陽の光。それを綺麗と感じるのは人間がまだ地球という物に惹かれるからだろうか。

 

直径150キロほどの球状コロニー、その構造は玉ねぎのように多層構造になっている。中心の人工太陽=相転移炉心による光と電力の供給、そこから数えて約10層の外壁が覆っている。

 

僕が居るのは6層目、コロニーでは最も快適な温度と重力が保証され、隕石による外壁破損の心配もない。しかも回転軸に対して垂直の位置にあり、重力が均等に掛かる。回転軸近くでは外壁にへばりつくような形で居住地が形成されている。

 

坂がキツそう/率直な意見ーーー僕は平地でしか住んだことしかない。こんな場所に住むつもりもない。月が僕の住む場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の中層区画、上層に比べ寒暖差が少なく、下層よりも生存環境が良い場所。月の富裕層が多く居住している。その中央環状線を一台の車両が走る。

 

電気自動車ではなく、内燃機関の車である。わざわざ地球から持ち込んだ石油燃料を使う富裕層の象徴と言うべき代物である。これを持つだけで月に一般人の年収並みの税金を払う事になるのだが、それが毛ほども懐に響かないお金持ち。

 

運転するのは雇われの運転手。その後ろの座席で中年で白髪の男が不機嫌そうに座り、その横にニヤついた薄毛の男が美味しそうに車に備え付けられている酒を飲んでいた。

 

「あれを軍人にする気はなかった」/ぼそりと聞こえるように呟く/にじみ出る不機嫌ーーー怒ってるのだから少しは俺の相手をしろ、といった感じ。

 

「まぁたその話ですかぁ?そりゃあ見目麗しい御息女が軍隊に入るのは嫌でしょうよ」/飽き飽き/何回目の話だ?もう勘弁といった顔/手元の携帯端末で写真を出す/金髪、ナイスバディ、端正な顔付きーーーウヒョォ、と声を出しそう。

 

「その見目麗しい姿にどれだけ金をかけたと思ってる?軍隊に入って傷でもついたらどうするつもりだ?」

 

「ちなみにどれくらいお金をかけてるんで?」

 

「家一軒は建つ」

 

「そりゃあ、たくさん金をかけましたねぇ……」/豪邸ってわけではないよな?という顔

 

「我がエルフォード一族は武を司る名家だ、月の軍事における重要な役割を担っている、しかし父上達は"金"という"武力"関しては些か理解が乏しい、だから俺が稼いでいる、アイツはその為の道具として育てた、あれの利用価値はそれしかない」

 

「どこぞの坊っちゃんの嫁にさせますかね?」

 

「当たり前だろう」

 

「本人はどう思ってるのでしょうねぇ、本当」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が来て搬入班のトラックに乗りコロニー回転軸内のシャフトを通り一番外層の区画に入る/少し肌寒く感じた=外層は人工太陽からの距離があるために気温が下がる。僕=サヤは着ていたジャケットのファスナーを上げた。

 

乗り込む艦船が見えてくるーーー上下左右にカタパルトを設置された一般的な月の軍艦『シーウィード』

 

軍に所属しているという実感ーーー月の排他的経済宙域を警備する素晴らしい仕事である。

 

「いやぁ、しかし若いお嬢さんが"この"部隊に配属されるとはなぁ」

 

感心といった感じで搬入班のおじさんが僕に話かけるーーー馴れ馴れしいというか慣れてる/勘弁してほしい。

 

「僕、一応M's乗れるんですよ、軍艦に乗るのは当然ですよ」

 

「M's乗り!おいおい"5人目"か、腕前は良いんだな、こんなおかしな奴等しかいない"実験部隊"に入るなんて」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が乗る戦艦の入り口にデカデカと飾られた『歓迎!待望の新人!!ようこそアパッチ部隊へ!!』と下手くそな字で書かれた横断幕。その下でパチパチと拍手してる"ハロ"が数体=整備補佐用の独立型マルチAIデバイスーーー古典CPUなので人間っぽくは喋らない。

 

「はぇぇ…?何これ」

 

「がんばれよーお嬢さーん」

 

ぶろろろとトラックおじさんは補給物資を置いて手を振って帰っていった。ゲラゲラと笑ってるーーー笑い事ではない。

 

何だか様子がおかしい部隊なのは一発で理解出来た。呆然と横断幕を見つめる僕を他所に無機質にハロ達はパチパチと手を叩き続けている。

 

なんだこれ。うちの軍ってこんなに緩かったっけ?

 

などと呆けて出入口前で立っているとブシュリと音をたてながら扉が開く。

 

出入口からだるそうな眼鏡の女性が一人出てきた/ボサボサの長い黒髪をおさげにして肩に垂らしてる/そばかすだらけの肌/適当なシャツとカーゴパンツ、ほつれた糸が飛び出してる軍支給のジャケット/顔と身体のパーツは完璧に整っているーーーほったらかしたダイヤの指輪みたいな印象。

 

「サヤ・エルフォード……ちゃんかな?」/思いの外綺麗な声。

 

「はい、サヤ・エルフォードです!呼び捨てでかまいません!」

 

「んじゃサヤで良い?ようこそ月護衛軍実証実験A中隊へ、私は舞姫・バートンです」

 

よろしく、と続けた。見る限り年齢は20代後半といった風貌ーーー艦内の人事関係の人っぽい。

 

「久々の補給物資でみんな忙しくて"艦長"の私しか出迎えに来れなくてごめんねぇ、後で歓迎会やるから楽しみにしといてぇ」

 

『艦長』と、このダルそうな女性は宣った。

 

「か、艦長……?」

 

「そうよぉ、M's乗れないから艦長やってるの」

 

いやぁお恥ずかしい、と彼女は頭を掻くーーー決して艦長という職はM'sパイロットの下位に位置するモノではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちは軍の中でもちょっと特殊でねぇ、規律とかは最低限守ってればとやかく言わない感じなの、というかそれぐらいしか守れない連中だし」

 

大変なのよねぇーーーえへへと、はにかんで笑う。モテそう、率直な感想/化粧しろ。

 

「……わかりました」

 

「あ、あとうちに女性は私含めて2人しか居ないから多分色めき立つと思うけど気にしないでねぇ、大丈夫取って食われたりはしないから、物理的にはねぇ」

 

物理的には……物理的には??/それ以外はあるのか?/怖いな。

 

「まあ、うちはセクハラ対策はバッチリやる方だから何かあったらすぐに言ってね!」

 

「うちの家の名を出して、それでもなお手を出して来る人は少ないと思いますけどね……」

 

「……"エルフォード"家ね、"シングルナンバー"のガンダムを継承する月の有力者、ガンダムの名前はたしか……」

 

「アルビオンです、ガンダムアルビオン、もう10年近く動かしておりませんので使えませんよ」

 

「何言ってるの、月の重要事変には必ず参戦し凄まじい戦果をあげる英雄の機体よ、誇っていいことだわぁ」

 

二刀流なんでしょ?ーーーエイエイブンブンと両手を振り回す/やっぱモテそう/『そうですね』、と答える=乗る当主によって違うらしいが、そう答えるのは無粋だろう。

 

「貴女が乗るの?」

 

「いえ、僕が乗ることはありません、分家筋ですので、乗るのは本家のレオ御兄様です」

 

「レオ?レオ・エルフォードね、アルセナーレ事件にいち早く駆けつけ、たった一人で穏健派の人々を守った英雄ね、一年くらい前に一緒に戦ったわよぉ」

 

「はい、僕が一番尊敬してる人です」ーーー鼻高々/もっと自慢したい/流石にここではマズイ/写真ぐらいみせても=僕と御兄様のツーショット/ダメ、大切な思い出=僕だけの思い出。

 

少し口角が上がっていたのが気付かれたのか、バートン艦長は少しニヤりと笑うーーー『イケメンだもんねぇ』と微笑む。好きだと感づかれた?いや、これは好きではなく尊敬。

 

というかイケメンじゃないし!と反論したい/いやイケメンだけれども/イケメンだけじゃないーーー品行方正×文武両道×碧眼×長身モデル体型×長く綺麗な銀髪×"ガンダム"乗り=超完璧イケメン/やっぱイケメンだわ。

 

そうこう考えている内に艦の居住ブロックに着いていた。

 

「それで部屋は此処ね、一時間後にブリーフィングルームに集合、その時に貴女につける先輩も決めるから、あ、好きな格好で来ていいからねぇ」

 

よろしくねぇ、とバートン艦長は手を振りながらどこかへ行ってしまった。

 

部屋は新人に与えて大丈夫なのかと思うくらいの個室、壁に腰ぐらいの高さから床まで人が入れそうな凹みがあり、そこにベットが備え付けられている=アルコーブベット。

 

一時間か、とベットに倒れ込む。何か硬い/湿気てる気がする/ほんのり人間の匂いーーー洗ってないのかこれ?

 

凄い所に入隊しちゃったなぁという感想ーーーもしかしてどこもこんな感じなのだろうか?/いや、絶対違う。

 

というか、入るとこ"此処"じゃない。

 

鞄の中から書類を引っ張り出す/一緒に色んな物が飛び出る=制服→私服→お母様が寄越した白下着→自分で買った黒下着→チャレンジ精神で買った際どい下着→お爺様とお婆様から贈られたエルフォード家の儀礼服。

 

そして最後に書類が飛び出す/しっかりと学校の印鑑と軍司令部の印鑑/『月護衛軍第3方面軍第8中隊』と印字=超正式な文書です、というのが伝わってくる。

 

やっぱ違うじゃん/どうすんだこれ/さっさと言えば良かった。

 

言いに行こう/即断即決/艦長室どこだ?/部屋の端末に記載ーーー艦の奥の方。

 

決断から実行まであっという間ーーーM's乗りの基本原理。スカート型の制服とシャツを脱ぎ捨てる。パンツスーツ型の制服を履く/ボタンに沿ってフリルがあしらわれたブラウスを着る/お爺様達にいただいた儀礼服の上着だけを肩にかけるように羽織る=明らかに新人ぽくない服装ーーー服装自由って言ってたし、良いでしょ。

 

お気に入りの服を着たら気分が上がってきたので艦長室へと軽やかな足取りで向かう。すいません配置された場所違うんですけど、と言うだけなのだが。それで良い、それが自由というモノなのだ。

 

「ひゃあー!見ろぉぃ!!女だぜぇっ!」

 

「おんなぁ!!おんなぁっ!!!」

 

「見知らぬ女がいるぜぇっ!!!」

 

普通にモヒカンヘッド三人組に廊下で絡まれたーーー自由の代償なのか。それよりここは軍属の艦船のはずなのだが、何でこんな海賊みたいな奴等が普通にいるのだろうか。

 

「こ、こんにちは」

 

「部外者は立ち入り禁止だぜぇ!!!コンニチハ!!」

 

「所属と名前をはきなぁ!!コンニチハ!!」

 

「ヒャー!!女だー!コンニチハ!」

 

ヒヤー、と三人組は僕の周りをグルグル回りながら距離を詰めてくる/オイルと鉄、汗の臭いが鼻につく/男臭い/何かお尻と胸を見られてる気がする。

 

「……サヤ・エルフォードです、所属は……」

 

「あ!新人じゃーねぇか!!へへ、よろしくぅっ!!」

 

「美人な新人だぜっ!案内するぜっ!!」

 

「ヒャー!女だー!」

 

新人とわかった途端に三人組は友好的にニコニコと笑いながら僕の周りをグルグル回る/ここの所属じゃねぇ/グルグル回るんじゃねぇ/尻と胸を凝視するんじゃねぇ。

 

ひやひや言いながら三人組は僕の手を引いて艦長室とは違う方向に連れて行く。

 

「お前M's乗りなんだろ?!だったら最初は格納庫だな!お前の機体も置いてるぜ!」

 

「あ、いや……ちょ」

 

「M's乗りがM's見なくてどうすんだ!」

 

「ヒヤー女!」

 

エアロックを兼用した二重のドアをくぐり抜ける/鼻腔をつく金属と油の臭い/不意に自分の重さが消える=艦船に張り巡らされたJED(ジャイロエフェクトドライバ)で重力を消してる。

 

うわぁ!と口から声が漏れ出す。M'sが4機も視界いっぱいに置かれていた。

 

それも"ガンダム"タイプが3機/ノーマルな顔が2機/バイザー顔が1機/あと1機はコロニー系M'sの特徴である縦型カメラが2個ついている顔ーーー悪趣味。

 

しかし、ガンダム3機はホントに凄い。

 

「ガンダムが……3機も!!見たこと無いのばっかり!!新型ですか??!」

 

「あー、試験機体を改修し続けたから見た目わからんくなってるんだ、元の機体は3年前くらいの奴なんだ」

 

「改修……、だからCNT排熱機関付近の装甲の形状が月の物と違うんですね、コロニー側の装甲形状が見て取れますが、何か理由が?」

 

「え、あー、それは……」

 

説明しにくそうに頭を捻る3人ーーー無視して機体に近付く/準待機状態のM'sの周囲は無重力状態=整備性向上のため

 

バイザー顔のガンダム、バイザーの下の"複眼"カメラ=M'sの眼は人のそれに比べて多種多様な情報を収集する機能がある。

 

しかし、この子の眼は普通の子に比べて複眼が片方に集約し過ぎている。左眼にだけーーー狙撃戦仕様?

 

するりと後ろ側へ回る/「勝手にうろちょろするなって」と後ろから注意が飛ぶ/大型の積層式CNT排熱機関がガンダムのエンジンに直結ーーーその左側にはエネルギーケーブル接続用の端子が設置/ビームによる長距離狙撃を想定してる=M's戦のセオリーにそぐわないコンセプト。

 

「広範囲における砲撃ならまだしも、長距離狙撃でビームを採用?実弾に比べて変動重力場の干渉が大きいのになんで?」

 

見下ろすと大型のビームライフルが機体の横に置かれていた。機体を蹴って下へ、銃身部分にはビームの収束率を上げる固有振動付加装置が通常よりも長く搭載されているーーーもしかして照射式?ビームを?ビーム発振器の磨耗が激しすぎ/実用的じゃない/使う奴の気が知れない。

 

ライフルの機関部ではビーム発振器の取り替えをおこなっていた/取り替えられている方は案の定ボロボロ/ビーム兵器運用上の規約に違反するレベルで使い倒してる/大丈夫かこいつ?

 

「誰だお前?」

 

突然、後ろから上着を掴まれる/掴んでいるのは短く刈ったツンツンヘアーの20代の男性/掴んでいる手=オイルでベトベトの手袋/お爺様の上着が汚れた/"レオお兄様"とお揃いの上着が"汚れた"。

 

「ここは危ないからさがっ……」

 

「触るなッッ!!」

 

口から大声が溢れた/格納庫が静まり変えり、僕に視線が集中する/最悪/最低/僕をそんな眼で"見るな"。

 

やらかした/リカバリーしろ/感情が浮き出ないように表情筋を操作=ニッコリ笑顔へ。

 

「すいません、驚いて大声あげてしまって」

 

「あ、お、そうかそりゃ悪かった、見ない顔だが誰だ?」

 

「ユーラックさーん、そいつ新人です、新人」/モヒカン3人組が遠くで叫ぶ/ユーラックと呼ばれた男性は"あぁ、アイツか"と思い出したような顔になった。

 

「新人か、京介・ユーラックだ、呼び方は好きにしていい、悪いな汚してしまって」

 

「あ、いえ、すいません、大声をあげてしまって……、あ、これ、このガンダムの武器なんですか?」/話題をそらす=内心ヒヤヒヤ。

 

「試作式長距離重金属粒子照射装置、セオリーに乗っ取った武器じゃないが、此処では重宝する、"一撃"で仕留めれるからな」

 

さも当然といった感じでユーラックさんは喋る=驕り高ぶりのない声/絶対の自負/というか、この人がこれに乗ってる?

 

「G-エイナス、元の名前が何だったのか忘れたが、此処では自分で自分の機体の名前をつけられる」

 

「貴方がエイナス"ちゃん"のパイロット……なんですか?!」

 

「ああ、そうだっ………え?"ちゃん"?」

 

「うわぁ!!すごいです!!」/ぐばぁっと両手に飛び付く/ええ……?という表情のユーラックさん/『ユーラックさんがもう新人に手を出した』/『京介、また新人に手を出したのかのぉ?』/『マジかぁ………うわ!新人すごい美人じゃん!!あんな金髪見たことねーぞ!』/『あー、エルフォード家のとこの御令嬢だからヤベーぞ』ーーーガヤがわちゃわちゃと喚いてる、でも無視する。

 

「"僕"、御兄様以外のガンダム乗りの方に会ったのは初めてなんです!!凄い!」/どよめく周囲の人間/『金髪巨乳僕っ娘だと……?』/『しかもお嬢様だと……?』/『属性のデパートッッ……!!』ーーーやかましいわ。

 

「え、おお……そんなに凄いか?」

 

「凄いですよ!ガンダムの相転移炉の出力は通常のM'sの50倍以上!高効率CNT排熱機関を搭載していてもその出力調整には常人離れした脳力が必要!故に投与されるAA(ArtificialAnims)との親和性、M'sの操縦技量、そして感覚加速能力!!全てが非凡でなければならない!それが此処に3人も!!凄い!!!」

 

ぶわーっと口から気持ちが溢れだす/ヤバ、気持ち悪い奴って思われた?/でもホントに凄いんだから仕方ない。

 

ユーラックさんは気圧されたような顔で僕に両手を握られたままだったーーーヤバイ、気まずい/すぐに手を離す/申し訳なさそうに微笑む=やらかした時の常套手段/美人だから笑えば大概許してもらえるーーー母親からの教え。

 

「ガンダム……好きなんだな」

 

「はい!!」/本心からの返事/超ニッコリ笑顔/ユーラックさんは"変な新人が来たな"みたいな苦笑いーーー気持ち悪い奴って思われてないだけセーフ。

 

何とかなったか?と思っているとブツリと艦内のスピーカーが起動する/皆が押し黙る/バートン艦長の声が響く。

 

『あー、急遽仕事が入ったからミーティングしますねぇー、M's乗りと忙しくない人は会議室に来てくださいねぇー、至急よー』

 

ブツリと切れる放送ーーーやっぱり緩いな、此処。ポケェ、と気の抜けた僕/突然、凄い勢いで引っ張られる/ユーラックさんが私の手を掴んだまま急いで格納庫から出ようとしていたーーー久々に男の人の力強さを感じる。

 

「わっ……!?ど、どうしたんですか?」

 

「うちの艦長が"至急"と言った時は厄介で危なくて今すぐに動かないとヤバイ案件だ、さっさと行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室と下手くそな字で書かれた看板/中はどう見ても食堂/乱雑にならんだ椅子に座らされるーーー椅子硬い、お尻が痛くなる。

 

艦長が現れる/立ち上がって敬礼/僕以外は着座のまま気だるそうに敬礼ーーーやっぱ緩い。

 

艦長は先程の服装と変わらず/頭に古めかしい帽子/修繕された跡が見受けられるーーー使い古してる"大切"な物っぽい。

 

「さっきLP2コロニー群『ファクトール』から本部経由で救援要請があってねぇ、同コロニーの鉱業会社が月保有のアステロイドベルトでの採掘中に"海賊"に襲撃されたのよ、負傷者が発生してるから助けに来てだってぇ」/めんどくさそうな顔でどうしよっか?と艦長は皆に問う。

 

コロニーの連中なのが気になるが、行くべきでは?とは思う、しかし会議室の面々は押し黙ったままであるーーー何か問題がある?

 

「艦長、明日から俺達は長い休暇のはずだ?何でこっちに話が回ってくる?申請はしてたよな?」/気怠そうな目付きの悪い赤髪癖毛の男性/作業用の鉛管服にパイロット用のジャケット/ジャケットには『一撃必殺』の刺繍ーーー"ニホン"かぶれ?というか全員揃って明日休みなのに仕事振られて怒ってるだけだった。

 

そう思うよねぇ、と艦長は資料をモニターに移す/遠距離から撮影した画像とデータ/変動重力場で光の直進を阻害されているせいで画像に歪みが発生していてかなり分かりにくい、しかしそれがM'sであることだけは理解出来た。

 

「舞姫、これは何じゃ?」/20代前半と思わしき女性/とんでもない美人/栗毛長髪/僕並のスタイル/見たことない変な学生服=胸の部分を締め付けて袋みたいになってる、加えてパイロットに支給された帽子を被ってるーーーこの場に相応しくない格好。

 

「付近にいた護衛艦がボコボコにされた帰りに撮影した画像でねぇ、そこで観測された重力波から計測出来たエンジン出力がねぇ、通常のM'sの50倍以上だったのよねぇ」

 

「はぁ?海賊がガンダム持ってるってのかよ?!超ありえねーじゃん!"偽装"海賊なんじゃねーの?!」/女の子みたいな"男"=声が完全に男性/20手前っぽい/青髪短髪=染めてるーーーやりたい放題/意外と身長低い=僕より少し低い。

 

「だから俺達を駆り出す事にしたな、ガンダム相手の実戦経験がある奴は少ない、その中で一番動かしやすかったのが俺達、そうだろ?」

 

ユーラックさんは少し怒った様子で艦長へと質問を飛ばす、大当たりといった感じで艦長は指で丸を作った。僕以外の全員がため息をつく。

 

「というわけで拒否出来そうにないから出撃ねぇ、あ、サヤちゃんはジャンケンで負けた人の下に付けるからM's乗りはジャンケンしてねぇー」

 

「「え?」」

 

やれやれー、と煽るバートン艦長ーーー流石にそれはないだろう。

 

先程発言していた4人がおずおずと集まり手首をグリグリして力を溜めていた。というかユーラックさん以外の3人がM's乗りなのか、ガンダム乗ってるの誰だろ。

 

「ちなみにねぇ、サヤちゃんの研修もあるから担当した人のお休みはなくなっちゃうよぉ」

 

ぶわっと4人の空気が変わる。絶対に負けられないという気概が見て取れるようだーーーそんなに休みたいのかこの人達。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俺が担当になった京介・ユーラックだ」/仕方ない受け入れようといった顔/腕組みで感情を抑えてる/この状況でこの人の下につくのはとても嫌なんですが。

 

「そしてこの任務が終わったら月運河で釣り三昧の休暇を過ごす予定の俺は赤城優だ、一応M's部隊の隊長をやってる、よろしく頼む」/ニッコリ笑顔の赤髪癖毛/休暇が確定して気分上々っぽい。

 

そして完全な"ニホン"系の名前。ニホン系の名前を名乗る者は多いが、条約によって姓名をニホン系にするのは正統な血筋の者しか出来ない。その血筋の者達は総じて月の特権階級に位置している。

 

"赤城"という姓名は月の水産資源の総元締め企業のCEOが名乗っていた覚えがある。もしかして結構なお坊っちゃんなのか、この人。

 

「そしてわしが連休使って溜まったゲームを消化して新しいゲームを買おうとしとるアスミ・ベイスノウじゃ、同性がやっと増えて嬉しいわい、よろしくの!」/歯茎丸出し汚い笑顔/でも超美人/ファッションセンスが皆無通り過ぎて虚無/しかしMAX美人/女らしいところは皆無の癖に美人ーーーアタマが混乱する。

 

「んで、俺がオウカ・ブラスホールな!いやぁジャンケン強くて良かったよ、食べ放題の店の予約取り消しするところだったからな!」/ヘラヘラ笑顔/中性的な顔立ち/チョコバー食べてる/口周りにチョコーーー年上に見えない。

 

「……自己紹介はこの程度で、エルフォードは……、この呼び方イヤだな……、"サヤ"は整備長に機体の説明を受けろ、その後は"役割"の説明だ、いいな?あと、俺の事は京介でいい」/有無を言わせない雰囲気、大きな声と敬礼で答えるーーーこれ以上機嫌を損なわれると困る。

 

というか、僕の配属は此処ではないじゃないか。今さら思い出す、流されてるのに気付かなかった。

 

スマホでスケジュールを確認する"京介"さんの横にすり寄って少しクシャクシャになった書類を見せる。

 

「あのぉ……京介さん、この書類なんですけど」

 

「ん?お前の配属通達だろ?あ……?配属先が違うじゃねーかこれ……」/訝しげな顔&早く言えよお前という顔ーーーヤバイ。

 

「あ、あのですね、早く言おうと思ってたんですよ!でも……皆さんがぐいぐい来るので言うのが遅れてしまいまして」

 

「通達が来てないのか、これ」

 

「え?」

 

「こいつの通達期日の次の日に俺達のところに書類が来てる、そいつの方が期日が新しかった、そいつには此処に配属されることが記載されてた」

 

「……僕、そんなの見てないんだけど……」

 

「"ないんですけど"、だ、変更通達がお前に届かなかったんだろうな、此処に配属される奴にはよくある」/うんうんと赤城隊長以下2人が頷くーーー大切な事なのに届かないなんてことある?

 

「てなわけだ、整備長!来てるんだろ?こいつの機体を説明してやってくれ」真上に喋る京介さん/何やってんだこの人ーーー休みがなくなってイカれた?

 

ズドンと真後ろから轟音/真後ろから金属の腕に掴まれて持ち上げられる=捕縛された猫みたいな格好。いきなりの浮遊感にお尻がふわつく。

 

「うわぁ!?うわあああ!?!」

 

「あんらぁ、あんまり女の子っぽい悲鳴あげないのね、気に入っちゃったわぁ」/ぐるりと反転、真ん前に1つ眼の金属の顔=全身サイボーグ。ちなみに物凄く猫なで系の男の声がする。

 

「う、うお、ぉおはようございます!」

 

「びっくりしながら挨拶出来るなんて良い子だわぁ、京ちゃん先にこの子借りてくわね、貴方も後で来るんでしょう?」/ねっとりしっとりした挙動で私を掴まえてる腕とは違う腕で京介さんを撫でる=副腕系サイボーグーーー見たことない。

 

「サヤのM's登録申請書を書いてからそっちに行く」/撫でられ慣れているというより、撫でるの拒否したらヤバい、みたいな表情。

 

「京介さん!登録申請書は僕が書きます!だから僕を降ろしてください!早く!」

 

「いや、時間ないから俺が書く、書き方は後でちゃんと教えるから、お前は機体のセッティングに専念しろ」

 

「じゃあ借りてくわねぇー!」/ズガガガ、と猛スピードで廊下をかっ飛んで行く/良く見たらこの人四脚ーーー聞いたことない。というか早くて怖い、抱えられて走るのってこんなに怖いの?

 

「あああああああ!!!!?!」

 

僕の不格好な悲鳴が廊下に永遠と響いていた。

 

 

 

 

 

 

M's格納庫の奥にまで連れて来られ、僕はこのオカマサイボーグ=ジョエル・アナスキーにコックピットブロックに座らされていた。無重力ブロック故にふわつく服をおさえながらコントロールスティックを握る。

 

「うわ、これ高い奴ですね、学校ではこんなの使ってなかったです」/絶妙な抵抗/適度なクリック感/自分の出したい数値にしっかり止まる。

 

「新人の子が来るからって補給品にねじ込んだのよぉ」/端末を操作してコックピットブロックをM'sに接続/接続先は『アームドトーナス』=月の主力可変M's、随伴機の牽引と後方支援用の機体。

 

「貴方のAAの適性率と脳力の高さから見て、単独運用も可能……、うちにくる任務的には都合が良いわね」

 

「都合が良い?」

 

「うちってガンダム4機も単独で運用してるから予備パーツが凄い量になるのよ、だから機体の運用数が限られてくるの、だからローンドッグ(1機編成)もしくはツインドッグ(2機編成)が基本になるわ」

 

「一人でも使えるから都合が良い、と?」

 

「そうよ、さぁM'sとの同期をしましょ、視覚と音はどうする?全天周囲にも出来るけど」

 

「"直接"でお願いします」

 

「はーい、流石に早期卒業組ねぇ、優秀だわ」

 

整備長が端末を操作すると体内のナノマシン『AA』がM'sの姿勢及び出力制御系のシステムを僕の脳に繋げる。身体がもう一つある感覚が全身に走る、もう一つの視覚が今の視覚に重なるように発生。脳の視覚野にM'sが認識している映像を直接認識させている。

 

『早い早い、流石よぉ、それじゃあ立たせてみましょうか、私を左手に乗せながらね』/自分の耳ではなく、M'sが認識した音が直接頭に響く/もう一つの身体を起こす=M'sが起きる/視界の隅にいたジョエルさんを手のひらに乗せる。

 

相転移エンジンから発生する重力をJEDを通して重力シリンダーに通わせることでM'sの"筋肉"となり、18mの巨体を人のように動かす。

 

『AAによる信号伝達速度もコンマ以下に仕上がってる……、バリバリの近接系じゃないの、ビームサーベルの担架本数増やす?』

 

「増やせるんですか?」

 

『パーツはあるからできるわよぉ』/アームドトーナスのビームサーベルの担架位置は手首にある。とにもかくにもビームサーベルは取り回しの良い位置が好まれる、古のM'sは背中のランドセル部分に担架している物が多かったが、排熱機関や緊急時の取り回し等の要因によって腰や手首付近に担架されるようになっていった。ビームサーベル4本も付けるのは過剰だが単独任務が多いのであれば、別にかまわない。

 

それよりも射撃はどうするのか。

 

「ビームライフル……、それよりもマシンガンってあったりします?」

 

『あるにはあるけれど、ガンダムの装甲のCNT薄膜を抜けないわよ?』/ガンダムを僕に倒させようとしてる?

 

M'sには相転移エンジンから発生する重力波があり、それが機体表面を覆い物理的衝撃を無効化する。戦車数台による集中射撃でも重力波はわずかに減衰する程度である。

 

M'sが登場した当初、撃破するにはM'sの重力を使用した投射砲で減衰させた上で撃ち込むか、もしくはM's同士が近付く事で重力波同士が干渉して無効化される現象を利用して近接武器を叩き込むことしかない。

 

そこに現れたビームライフルという新技術、高熱化した重金属粒子を2つの固有振動で収束させ指向性重力で撃ち出す。

 

一つ目の固有振動を付与された粒子が重力波を押し退けた後に霧散、二つ目の固有振動を付与された粒子がM's本体を貫通する。

 

この兵器の登場によりM's戦はビームが飛び交う戦場となった。そしてそれを防ぐ為の技術も開発された、それがCNT薄膜である。

 

熱を光と電気に高効率で変換するこの薄い膜をM'sの装甲に多層的に張り合わせることでビームを無効化する。

 

ただし、この膜はビームを無効化するほどの高効率になると生産費用と時間がかかる、なので量産M'sには少ししか装備されていない。

 

ビームマシンガンでも容易く装甲を抜けるだろうが、相手は"ガンダム"だ、ビームマシンガン程度の威力ではその厚い装甲を抜くことは難しいだろう。

 

だからジョエルさんは心配してくれているのだろうが、僕には考えがあるからマシンガンを選択したのである。

 

「僕、射撃が苦手なんでバラ撒けるマシンガンの方が良いんです、目潰しになれば簡単に近付けますから」

 

『そうなの?なら、マシンガンにしましょうか』/納得といった身振りで武器の在庫表を調べている/軍の学校で早期卒業組に入ってる僕が射撃が下手なわけがない、近接での戦闘がしたいだけだ。規律がなってない連中だ、僕の嘘なんて見抜ける頭なんてないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「あの子"嘘つく"わよ、気を付けなさい京ちゃん」

 

「あの子?サヤのことか?」

 

「そうよ」

 

サヤのM'sの大まかな設定が終わった整備長のジョエルは俺=京介・ユーラックのガンダムの設定の手伝いに来ていた。コックピットブロックの上部ハッチにぶら下がりながら、世間話のように喋りかけて来たーーー妖怪のようだ。

 

「嘘って、どんな嘘だ」

 

「自分の事よ、良く見せようとしたり、怒られないようにする嘘、あれは骨身に染み付いた感じね」/サヤの所に居たのは正味2時間程度のはずだったのだが、もうそこまで見抜いたのかと驚く/もしくはアイツがわかりやすいだけか?

 

「ヤバイ感じなのか?」/気になるのはそれが戦場で致命的かどうか。

 

「本人が致命的な事になるのは必然ね、悪くすれば誰かを巻き込むかもしれない、でもそれは普通の部隊では、ってところよ」

 

「うちだとどうなんだ?」

 

「あの子だけ死ぬわ、あなた達4人は死なないわよ」/率直な意見/ジョエルはサヤを悪く言おうとしてるわけではない、現状を正しく俺に伝えようとしてるだけーーーサヤを殺したくなければ"何とかしろ"、ということ。

 

「……アイツは?」

 

「まだ機体のところに居るわよ、あ、優しく言わなきゃダメよぉ、京ちゃんはズケズケ物を言い過ぎちゃうんだから、また後悔するわよ」

 

「……そうだな」/もっと優しくなれよ、と言われてるようで嫌な気になるーーー俺は充分に優しい、はずだ。

 

 

 

 

 

とは言うものの、新人が変なことしてれば叱るのも先輩の役割だと思う。例えば、デカデカと機体の肩に撃墜マークを塗装している、とか。

 

嬉しそうに"ド新人"のサヤは塗装用エプロンを着込んで塗装スプレーを型紙に吹き付けていたーーー何やってんだこいつ。

 

「サヤ!」

 

「あ、京介さん!」/人懐っこそうな笑顔+半オクターブほど高めの声=人気になりそうな女の子の反応ーーー"わざとらしい"という印象。

 

サヤは機体の肩を蹴り、俺の居る格納庫の重力区画へと降り立つ。無重力でふわついていた髪が重力でまとまっていく、そして無重力で縦横無尽に動いていた胸がクラッカーボレーのような軌道で重力による定位置につくーーーでけぇ/長げぇ/重そう/アスミが格納庫に居るときだけは胸をガチガチに固定してる意味がわかった。

 

違う、今はそんなことが問題ではない。

 

「……長物をマシンガンにしたと聞いたが、お前の射撃の成績ならライフルを持って欲しいが、無理か?担架位置ならまだあるはずだ」

 

「あー……、機体が重くなるのでマシンガンだけにしたいのですが、ダメですか?」/故意的な上目遣い=わかりやすく媚びてるーーー癪にさわってきた。

 

「理由」

 

「へっ……?」

 

「理由を聞かせろ、ちゃんと理由があるならそのままで良い、"嘘"はやめろ、いいな?」/本気の眼でサヤを詰めるーーー優しくしろと言われた事を忘れた。

 

「え、あ、あ、あの……」/故意的な媚びた行動はなりを潜め、不安そうな眼になるーーー脅し過ぎた?いやそんなに凄んじゃいない、脅してない。

 

「あ、あの……、御兄様……御兄様みたいにしたいからです」

 

「御兄様?」/こいつの家族は両親と同じ早期卒業組の"弟"が1人、兄は居ない。従兄弟の"あれ"の事か?

 

ため息が出る、正気かこいつ?

 

サヤの目が泳ぐ、絶対に俺と目を合わせようとしない/意外と気が小さい?/勘弁してくれ=M'sの動作に支障が出る。

 

とはいえ、心身の状況が如実に表れやすいM'sなのだ、少しはパイロットの意向を汲まないとまずいんじゃないか、とは思う。

 

それにサヤの使い方は"後方支援"じゃなくてもいい。

 

「……こいつ(アームドトーナス)の排熱容量はかなりデカイからな、マシンガン一つ積んだところで関係ないか……、乗せて良いぞ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ただし、現場では俺の言うことを聞けよ、良いな?」

 

「了解です!」/にこやかな笑顔=何とかやり過ごせた時の安堵の顔/やっぱりダメな気がしてきた。

 

結果としてサヤは言うことを聞かず、撃墜されることになった。ちゃんと言い聞かせるべきだったと後悔した。

 

 

 

 

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