機動戦士ガンダム パッチワーカーズ   作:ビブロス

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―明日があると思ってた―

「とまぁ、色々とあってこのハロを操作してる輩にガンダムをいただきました、はい」/食堂で艦長と京介さん達に囲まれて僕=サヤ・エルフォードは経緯を説明していた。

 

意識を取り戻したと同時にこれである。質問責めは勘弁してほしい、仕方ないけど。

 

「で、そのハロがこれです」

 

「やあやあ皆さん方、我輩、セレブレイトと申します、以後お見知りおきを」/ハロは器用に後足だけで立ち上がり、前足でお辞儀をする。

 

「すげぇな普通にハロが流暢に喋ってる」/桜萪さんがハロを持ち上げる──男に持ち上げられて嬉しくないのか足をだらりと下げてやる気がないように見える。

 

「それで、そいつが俺達の機体をぶっ壊してくれたのか」/京介さんが部屋の壁に寄りかかりながらハロを指差す。

 

「いやぁ、我輩的にも悪いと思ってるよ、でも4人がかりだったし、ねぇ?」/しょうがないじゃん?みたいな感じでハロは前足を上げた。

 

それがアスミさんの琴線に触れたのか、桜萪さんからハロを取り上げて、バスケットボールみたいに指一本でくるくる回し始めた。

 

「ねぇ?じゃないわこのボケクソ間抜けハロ!!あれのおかげでわしらは死にかけたんじゃぞ!!わかっとんのかこのボケェ!!!」/ぬおおー、とアスミさんはハロをバスケットボールを回すみたいに全力で回す。

 

「わっ!?わっ!?サヤ君!サヤ君!こののじゃ系コスプレお姉さん止めてくれないかな!ゲボしちゃう!我輩ゲボしちゃう!」

 

「自業自得」

 

「あー、ご無体!超ご無体!!」

 

ぬあー、と回されるハロを横目に艦長は僕に向き直る──超真面目な話されそう。

 

「サヤちゃん」

 

「はい」

 

「何か変なことされなかったー?話し方からしてドスゲス外道の匂いがするのよこのハロは、大丈夫?何もなかったー?」

 

「…………真っ裸にされてパンツ食べられました」

 

「アスミちゃん!多めに回しておいて!!!」

 

「本日は多めに回すのじゃー!!!」

 

「ぬぉわぁー!!!!!サヤ君!サヤくぅん!!」

 

閑話休題。

 

「んで、どうする?こいつとこいつのガンダムは、不可逆性の変動重力場を発生させたんだぞ、途方もない性能だ」/赤城隊長がタブレットを出し解析画像を見せる──僕が戦った宙域に赤い円が記されている=解析によって検出された大規模な変動重力場の跡。

 

「まあ、そうよねーでも正直言ってそのまま月のお偉いさんに渡すのは癪なのよねー、だってうちに舞い込んで来た貴重な戦力だし」

 

艦長はハロが寄越したランペイジのスペックデータをタブレットで突つき、ページを進ませる。

 

正直乗ってはいたものの数字としてのランペイジのデータは見た事がなかったので覗いて見てみたが、僕こんなお化けみたいなのに乗ってたの?と素直に驚いた。

 

出力的には通常でガンダム5機分、システムES発動でその何倍もの出力を叩き出している。良く僕はコックピットでシェイカーされなかったな。

 

「でもなぁー、あれ"ファースト"ガンダムなんだろ?220年前の最初のガンダム、サヤが言った時は驚いたけど、改修に改修重ねればああなるのかねぇ?」──比較で出される最初のガンダム、オーソドックスでどこかしら今のデザインに通ずるものがある。

 

「さあ?持ち主の見解は?」

 

「きもぢわるい……、え?あ、いや確かに改修し過ぎて何にも残ってないね、エンジンも総取っ替えしてるし、フレームも全体変えてるねー」

 

気持ち悪そうな顔(多分)でハロは答える。

 

ハロの言っている事をタブレットで確認する、分解した部品の説明には年代が記されており、一つとして同じ年代は記されていなかった──改修を続けてきた証拠。

 

「ここまで変えてるなら元が何かなんてお偉いさんにはわかんないわよー」

 

「じゃあ偶然サヤが拾った古いガンダムってことで押し通すか?」

 

「それしかないかー、だからこのままサヤちゃんのってことで行くわねー」

 

雑に僕の物という事になった。それ以外だとしても、あれは僕の物だ、僕の力だ、誰にも譲るつもりはない。ぎゅっと、気持ち悪そうな(多分)ハロを抱き抱える──絶対何か茶化してくるかと思っていたが、何も言わずされるがままにしている。

 

「サヤ、暇なら少し手を借りたいんだが、良いか?」

 

隊長が少し真剣な表情で僕に頼み事をしてきた、二つ返事で返すとそのままハロごと連れてかれた。

 

 

 

 

 

 

連れて来られたのは整備員の部屋。私物や書類が散らかった汚い部屋だった。何でこんなとこに?と考える間もなく隊長は部屋を片付け出した。

 

「隊長の部屋の片付けですか?」

 

「違う、死んだ奴の遺品整理だ」

 

死んだ?戦闘で?──撃墜されたもの──避難挺。

 

「避難挺に部隊の人が乗られてたのですか」

 

「お前を格納庫に連れてきた3人組覚えてるか?そいつらだよ、三人兄弟で三人ともコロニー出身、やかましい奴等だった」

 

「おや、そんなところに我輩を連れてくるってことは、我輩のせいっての強調したいやつかな?」/びっくりするような事を口走るハロ──慌てて口を閉じさせる。赤城隊長はゆっくりとハロを見つめる。

 

「万全だとしても、あの長距離狙撃について俺達は気付かなかった、お前のそのハロが何をしなくてももっと被害が出ていたかもしれない」

 

「おや珍しい、糾弾されるかと思ってたのに」

 

「正当な評価と分析は俺の仕事だ、感情論ありきで言えば思うところはある、ただそれは最終的には俺達の実力不足に起因する、だからお前達は死んだこいつらを"弔え"、それ以降は何も言わないし、言わせない」

 

それ以降赤城隊長は作業終了まで口を閉ざした、僕も無言で作業を始める、がハロだけは平気でベラベラ喋りながら作業していた。

 

一時間ほどで遺品は整理してしまい、台車に箱を乗せて部屋の外に出たところで赤城隊長は口を開いた。

 

「うちの唯一のしきたりとして新人は上司と死んだものの遺品整理をする、だからあんたもこれでうちの仲間だ」

 

赤城隊長はハロに視線を投げた。おや、とハロはニコリと笑い(多分)、僕へと向き直った。

 

「我輩も仲間入りだそうだ、サヤ君、先輩としてよろしく頼むよ、微力ながら頑張らせていただこう、まぁまずは亡くなった方の穴埋めだ、隊長殿、格納庫へ参りましょう」

 

前足を上げてハロは大袈裟に言い放った。

 

 

 

 

 

格納庫に着くや否やこちらに視線が飛んでくる。僕に飛んでくる視線もあるがほとんどがハロに集まっている。

 

ハロは格納庫の無重力区画を前足と後足で器用に進んで行き、ジョエルさんの前へとちょこりと着地した。

 

「整備員の補充で来ましたセレブレイトです、よろしくお願いします」

 

「……あなたが、あの新ガンダムに乗ってた奴ね、うちの機体達が世話になったわ、お礼にスパナでもぶちこんでやりたいくらいだけど、今は忙しいのよ、あなたに仕事はないわ」

 

ジョエルさん超キレてる──ヤバい。そそくさとハロだけ回収──されるがままに僕に抱き抱えられる──「仕事無いなら見学させてもらいますねー」

 

いらん事を言う奴だと冷や汗をかきながら格納庫の隅っこへと大慌てで向かった。

 

隅っこではハロは僕に抱き抱えられながら作業を見つめていた、時折目をチカチカさせて何かと通信しているような素振りを見せていたが、基本的には大人しく見学していた。

 

「ねぇ、どうするの、凄い敵視されてるわよ」

 

「まあ、仕方ないんじゃないかなぁ、壊しちゃったしね、しかし整備員は良くても整備環境がすこぶる悪いなここは、よくガンダム4機も運用出来てるねぇ、我輩感心してるよ」

 

「環境?」

 

「サヤ君、M'sの整備というのは不備のあるパーツを総取っ替えして既存パーツに合わせて調整するってのはわかってるね」

 

「わかってるわ」

 

「それは量産型での話なのだ、ここのガンダム達は試作機のみ、パーツというものの互換性は頗る悪い、そういった場合は無重力3D高速プリンタを使ってパーツを建造して差し替えるのが普通だが、此処にはそれが無い、普通の部隊に配給される部品のみだ、ほら見てみたまえ」

 

ハロが指差す先ではM'sのパーツをグラインダー等で形状を整えていた──大昔の大工とか言う奴があんなことをしていた気がする。

 

「規格品パーツを整備員の手で形成して組み込めるようにしているのだ、何と嘆かわしい事か、M'sの整備ではなく、ほとんどM'sの建造と言った方がいいね、故に調整が甘い、システムよりも機体のセッティングが特に悪い」

 

「で、セレブレイトならどうするのよ?」

 

「おや、初めて我輩の名前を呼んでくれたね、そうだねぇ、M'sにとって四肢は必要な物だ、人の感覚で動かすには必須と言っていい、故に最低限まで簡易化する、応急処置だがね、まあそれを彼等も解ってるが調整出来てないようだ」

 

まあ、手を出すなと言われたから何もしないよ、とハロは前足をぺちぺちと動かし暇そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

『月護衛軍首都防衛第2艦隊』はかの有名な艦隊司令長のレオ・エルフォードの指揮する艦隊である。大型戦艦『モリガン』と重巡洋艦等18隻を与えられ、その艦隊規模は月の軍の中でかなりの物である。

 

齢20でこの大艦隊を任された新進気鋭のレオ・エルフォード、その補佐官として配属された私=暁・スペンサー・卯都木。

 

此処に配属された感想としては、率直に言って最悪である。

 

月の特権階級であるスペンサー家は一人娘のエリナ・スペンサーをアルセナーレ事件で亡くし、現当主のリカルド・スペンサーは自身の病気のせいで子供を再び持つことは叶わずに月の兵器産業を担っていた卯都木家の私を養子に取った。それが私。よくもまあ20の成人した女を養子にしたものである。

 

穏健派のスペンサー家が兵器産業を担う卯都木家の末っ子を養子にするとあってゴタゴタがあったものの、軋轢なくスペンサー家の一人娘になった。

 

養子に引き取った理由としては義父曰く『娘が大きくなってたらこんな感じだろう』、である──どこが似てるのかさっぱりわからないが。

 

そして、スペンサー家のおかげで艦内勤務志望の私はプライベーティア保有のモリガンに配属されることとなった。しかもレオ・エルフォードの補佐官としてである、完全に安全出世コース。

 

と、思いきやレオ自身がM'sに乗る方を優先するせいで何故か私がモリガンの艦長になる始末。穏健派だからそんなに危ない所に突っ込まないと思ったら率先してそういう任務を拾ってくる。

 

おかげで前線に次ぐ前線である。レオはレオでとっととM'sで斬り込んで行ったりするので後の全体の指示は私が出すはめになる──乗員の指示も全部である。

 

彼自身も政界関係やM's開発等で忙しい為、それ以外の仕事が全部私に舞い込んで来ているのだ。おかしい、甘い汁を啜れると思っていたのに全然違うのである。

 

今も各所との連絡と報告でてんてこ舞いなのだ。

 

「搬入機体の予備パーツの置場所がないぃ?在庫管理番の奴がめんどくさいから突っぱねてるだけよ!私の名前を出してぶちこんどきなさい!!文句は私に言うように言っときなさい!」

 

ガシャリと受話器を置く、それと同時に電子ベルがジリリと鳴り響き、再び受話器を持ち上げる。

 

「はいはい艦長ですが、ああ?搬入機体の担当整備員がパーツ受け取り用の書類の様式が違うから突っ返してくる?あんなのに正式な様式があるか!運用規則にも乗っとらんわ!必要項目が合ってりゃ良いのよ!ちょっと電話変わりなさい!あ?!私の話を聞いて受け取ってくれた??あんたこれスピーカーで聞いてたの?!早く言えボケェ!!!」

 

ズガシャア!と受話器を叩き戻したところで艦橋のドアが後ろで開く──レオが入って来ていた。

 

「暁、ただいま帰った、何かあったか?」──申し訳なさそうにレオは私に留守の間大丈夫だったか聞いてくる。

 

私は出張した旦那を迎えた妻じゃねぇ、と一言返してやりたい所だったが、レオが気疲れしてるように見えたので、それは飲み込んだ。

 

「艦隊には問題ありません、機体及び予備パーツ群は搬入済みです、なので"うち"には問題ありません」

 

「?それよりなんで君は艦長席ではなく机に座ってるんだ?」

 

「まあ、それが問題って奴なのでして」/席をぐるりと反転させてレオに座っている"奴"を見せる──レオの顔が少し強張る。

 

「ほっほ、頭が高い童よのぉ、イケメンなので特別に許そう、わらわはエインヘリアル『オブザーブ』、白百合家とエーデルワイス家の武を司るモノ、此度はレオ・エルフォード艦隊司令長に白百合家からの勅命を与えに来た」/薄紫色にコーティングされた"ハロ"が女の声で流暢に喋る。思ってた通りレオは強張った表情から無表情へと変わる──考えるのを放棄した顔。

 

「……暁」/無表情で呆れたような眼でこちらを見る──『お前正気か?』みたいな顔──その顔やめろ。

 

「大丈夫、この人が持ってきた書類は正式な物よ、白百合家の調印付きのね」

 

手渡した書類を眺めるレオ。調印の所で目が止まる──訝しげな眼から少し柔らかい目付きに。そしてその任務内容で再び訝しげな眼に。

 

「……不可逆性変動重力場発生宙域の調査?」

 

「数時間前に強力な変動重力場が発生したの、それも相転移爆弾が炸裂したのと同等のね」

 

「封印指定の禁忌兵器だぞ?」

 

「それよりも"マズイ"奴が動きだしたかもしれない、とのことよ、オブザーブさんが言うにはね」/ムフーとした態度でオブザーブは艦長席でふんぞり返る。それをレオはホントかよ?みたいな眼で眺めていた。

 

「さあさあ、童達よ関係各所への調整はわらわが全部やっておる、厄介な奴を見つけに行こう、我が最強のガンダム『ボナイトハイロゥ』と共に」

 

オブザーブは両前足をあげ、大袈裟に言い放った。大丈夫かこいつ?という気持ちだけが高まっていた。

 

直後、ベルベットから『私の所に変なガンダム置いてる!!』と文句の通信が入り込んだ。

 

調整出来てないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

シーウィードの乗員とハロが凄いギクシャクしたままで気まずい僕=サヤ・エルフォードはすんなりと採掘艦を保有する会社が存在するコロニー群『ファクトール』へと到着した。

 

乗組員のいない艦を会社に返す為に。

 

コロニーの港に着岸し、艦長は採掘艦の受け渡し書類を会社に渡しに行くと言い出した。だから、僕もついて行くとわがままを言わせてもらった。

 

豪華なビルの待ち合い室。艦長が別の部屋で会社の責任者との話し合いをしている中、僕はハロと2人でソファーに座っていた。

 

「暇だねぇサヤ君」

 

「艦長、揉めてはないようだけど、手続きが長いみたいね」

 

「揉めないよ、コロニーの会社とは言っても月の依頼で採掘している所は月の資本で作られてるからね、"親"には逆らわないよ」

 

「そうなの……?」

 

「そういえば君は16歳か、まぁ暇潰しに聞きたまえ、月が自分自身で資源を自給している割合を知っているかい?」

 

「3割から4割……じゃなかった?」

 

「良いね、知識の下地がしっかり出来ている、これは月の資源が足りないというわけではなく、政府による月資源の採掘量の制限が設けられているからだ」

 

「月の資源がなくなるから?」

 

「それもある、が人が地球を生息圏にしていた時のように石油をじゃばじゃば使わなくて良くなった、相転移炉心という永久機関のせいだね、しかし資源の制限をおこなった」

 

「……環境問題?」

 

「原因の一つだね、様々な事が原因とはなっているが、最も大きいのはアステロイドベルトの採掘技術を発展させる為だ、これはだいたい30年くらい前に決まった」

 

「月の地下階層の人達が掘り過ぎるから規制したやつ?」

 

「大義名分的にはそういうことになってる、月の地下階層にはコロニー出身者も多いからね、月としては"人のせい"にしたいのさ、自分達は品行方正である、ってね」

 

「……む」

 

「サヤ君的には耳障りの良くない話だったね、大丈夫、コロニー出身者達がかなり掘り過ぎてたのは事実でね、違法に掘って月の民間居住区を崩落させたりしちゃってるから、規制されるのは時間の問題だったんだ」

 

「むふぅ……」

 

「満足そうだね、まあそれだけでは月の地下で採掘技術を保有したコロニー出身者達を放蕩させるには惜しいから、全面的な出資と融資を条件として親交の深いコロニーに採掘会社を作らせた」

 

「此処はその一つ?」

 

「そんなところだよ、正しくは採掘で儲けちゃったから多角経営始めたら思いの外に会社がでかくなっちゃって会社を分けた、その一つが作った直営の下請け会社が此処、業務的にはほとんど人材派遣みたいなもんだしね」

 

「人材派遣?」

 

「コロニーの強みはその人口の多さだ、安く買い叩ける労働力はそこら中にある、そんな人達をかき集めて教育し、採掘させる、そしてそれを月に売る」

 

結果、こんなに会社は大きくなった──ハロは大袈裟に両手を広げた。

 

「だから、こんなに被害が出てもウチへの注意はほんの少しなの」/スーツを着た艦長が部屋から出てきた──ピラピラと書類一枚を僕に見せる。

 

被害請求書──船の破損修理+その他の経費──採掘していた人達の保証金等は"無し"=経費に計上されない"人達"。

 

「……なるほど」/何か納得がいかない感じがするが、そこは納得すべき所なんだろう。

 

「しかしやっと終わったわねー、あー良い時間だからサヤちゃん行きましょう」/背伸びする艦長、纏めていた髪をほどいてボサボサへ──くたびれたOLみたいな風貌へ。

 

「どこへ行かれるんですか?」

 

「それはもう、サヤちゃんの歓迎会よ」

 

 

 

 

 

コロニー内の繁華街。艦長の後をついていった先、一般の人が使うような飲み屋に着いた。古そうな木の扉を開けると、コロニーの住人に紛れて店の奥の方で隊長達が既に飲んでいた。

 

運ばれてる料理の数は僅かだが、テーブルの上には既にいっぱいに空のジョッキが並んでる。

 

「えー、もう始めてるのぉー?」

 

「お前らが来るのが遅いんだ」/普通センスな私服+刺繍バリバリのスカジャン=普通じゃない風貌。

 

というか、僕の歓迎会という割には僕を待たないのか、この人達。

 

「うにゃー、サヤどーん、お姉さんの横に来てでっけぇおっぱい揉ませるのじゃー」/短パン+アニメキャラがデカデカとプリントされた白シャツ=近付きたくない人。

 

「ダメだね!サヤ君のおっぱいは我輩が守る!!」

 

ぐわしゃぁ、と僕の腕の中からハロがアスミさんに向けてかっ飛んで頭に噛みつく。ぬぉわぁ、とアスミさんがハロに反撃するのを横目に桜萪さんと京介さんの間に座る。

 

桜萪さんは料理を口いっぱいに頬張り、京介さんはタバコを口いっぱいに頬張っていた。

 

タバコを頬張っていた。

 

「うわぁ」

 

「なんあ(なんだ?)」

 

「きょうふけ、やすみのときはこうなんふぁよ、ふけーだろ(京介、休みの時はこうなんだよ、スゲーだろ)」

 

どっちも口いっぱいな状態で喋るな、何喋ってるかわからん。怪訝そうな表情が出ていたのか、桜萪さんが全部飲み込んでニッカリ笑う。

 

「あ、そうだサヤ、前回の戦闘でサヤの技量や色々な事がわかったから次回から俺とのツインドッグで前線を張る事になるからよろしくな!」

 

「あ、はい、え、京介さんは?」

 

「引き続き教練を含めて面倒は見るが、戦闘時は桜萪に付き従え、コイツの方がお前と戦闘距離が合ってる」/巻き藁みたいなタバコをふかしながら言われた=妖怪みたい。

 

確かに京介さんは後方からの狙撃が主な仕事だ、僕は近接ばっかりしてるからこうなるのは当然。

 

「だが、先ほど言ったとおり教練は俺が担当のままだ、前回の戦闘は機体の性能に助けられていた面も多い、同等の性能の機体同士での戦闘では詰め将棋のような展開を様する、"ミス"をした奴が負けるんだ、お前はミスも無駄も多い、それを失くしていくのが当面の目標だ」

 

「わかりました」

 

「わかったんならビールジョッキ全員分持ってこい、それで乾杯したらお前の歓迎会の開始だ」

 

「え、僕もビールですか?」

 

「当たり前だろ」

 

「僕、未成年ですけど」

 

そういやそうだ、という顔の桜萪さんと京介さん。コーラで良いんだよ、という命令が飛んできたので走ってビールを取りに行く。

 

カウンターの店員にビールを人数分頼み、配膳トレーに乗せて持って行こうとしたところで思い切りお尻を鷲掴みにされた。

 

尻を掴まれたのである。

 

悲鳴も挙げれず固まっていると、触ってきた男がニヤぁっと笑い顔を向けて来た/浅黒く染みだらけの肌+派手な服+悪いことしてそうな顔=まともな人種の人間ではない。

 

「お、やっぱケツデカイなこの女」

 

「ど、どこ触ってるんですか!」/感情的に手を振り上げようとしたが、ビール持ってるので出来ない。逃げようとしたところで腰に手を回されて引き寄せられる。

 

「恥ずかしがってるし、ウケる」

 

「……さ、触るな!!」/蹴りを叩き込もうと身構えたところで、尻を掴んだ男の仲間と思わしき奴等が携帯端末のカメラをこちらに向けているのに気付いた/点灯している=録画中。

 

「カメラ回してるから下手な事すんなよ、すぐにSNSに流すからな、あんたら月の軍人だろ?月の軍人がコロニーの奴相手に問題起こしたら世間からぶっ叩かれるぞ?」

 

良いのか?と男は僕に嫌らしい笑みを向けて来た。男の言う通りSNSに月護衛軍の軍人らしからぬ行為を撮られた物が出回って大騒ぎになったことがある。真偽は別として、そういった動画はみんな見たがる。

 

下手な事出来ない。そんな僕を見透かしたのか男は手を僕の胸に向かわせた。

 

しかし、手は僕の胸を掴めず、逆に掴まれていた。顔を真っ赤にした京介さんの手が男の腕を万力のように掴んで離さなかった。

 

「なんだお前?!お前も月の軍人か?!さっささと手を離せ!動画撮ってんだぞ!!」/男は暴れるが京介さんの力が強すぎて引き離せないでいる。

 

「サヤ、酒を持ってくるのが遅いぞ」/男を無視して僕にだけ話し掛ける/ホントに近くで見ると背が高いなこの人/胸板デッカ/肩幅ひっろ。

 

すいません、と言う前に京介さんは僕が運んでいたビールジョッキを一気飲み。そして空いたジョッキグラスを男の顔面に叩き込んだ。

 

ゴッ、と鈍い音を立てて男は白目を向いて仰け反る、それを掴んだ腕を引っ張って引き寄せてからもう一発ジョッキを叩き込む。

 

割れるグラス、飛び散る男の血と歯。京介さんは無表情に何発もグラスを男に叩き込み続ける。全員が唖然として見つめるしかなかった。

 

男が身動きを取らなくなったところで京介さんは殴るのを止めて、動画を撮ってる奴に視線を向けた。

 

「何撮ってる?見せ物じゃないぞ?お前もこうなりたいか?なりたいんだな?わかった」

 

「な、何も言ってねぇよ俺!!?!」

 

撮影している男に向かって一歩踏み出したところで京介さんは立ち止まり、動かなくなった。

 

え?と思ったと同時に京介さんは盛大に口から飲んだものを吐き出した=文化保存されたマーライオンを思い出した。

 

「ぎ……ぎもちわるい」/びたーん、と京介さんはこっちに向かって倒れる/ひっくり返るジョッキビール/ビールまみれの僕を京介さんの身体が覆い被さる/重い/男臭い。

 

「なめてンのかよ!?!」/男達はぶっ倒れた京介さんを見て激昂し、こちらに飛び掛かって来る/ヤバい、京介さんのせいで動けない=逃げられない。

 

「ビール飲み過ぎだろ!京介!」/桜萪さん/尋常ではない"跳躍"で飛び掛かってくる男へ向けて飛び蹴りをおみまいしていた=重力と筋力による破壊力は男の顎を粉砕する。

 

「アルコール苦手でもサヤが持ってきたから飲んだんだろ、京介は優しいからな」/音もなく男達に近づいていた赤城隊長の拳が顔面を強かに弾く=へし折れた歯が飛び散る。

 

ドガバキドゴ、と二人が男達と暴れだす。暴れる、というよりはコーヒー豆を砕くミルの様に機械的に男達を処理していく。

 

京介さんに挟まれていた僕を艦長とアスミさんが助けてくれた頃には男達はうめき声を微かに上げる程度には叩きのめされていた=固形物が一生食べれないくらい損壊した顔/肉体労働など到底不可能なほど粉砕された四肢=人間業じゃない。

 

「……いつもこんな感じだったりします?」/爪の汚れを気にしてるアスミさんに聞くと、さも当然といった顔で肯定する。

 

「いつもじゃいつも、今日は京介が珍しくぶっ倒れたからこんなもんじゃが、あいつ起きてたら店が半壊しとったわ」/カッカッカ、と笑うアスミさん。

 

「あーあ、派手にしたわねホント、警察来る前に逃げるわよー、京介起きてるー?」/転がる男達を足でどかしながら艦長は3人へタオルを放り投げる。

 

「うぇ……ぎもちわりぃ……」

 

「京介生きてるよー、早く行こう」

 

はーい、と僕以外が返事をする。本当に慣れてるんだなこういうこと。感心すると共に絶対にこうはなるまいと心に誓う。

 

そそくさと艦長が飲み屋の玄関を開けて逃げようとしたところで、艦長が足を止めた。なんで?と思ったところで凄まじい光量のライトを浴びせられた。

 

薄目の向こう側に大人数がこちらに向けて銃を向けていた、こんなのも慣れっこなのかと一瞬焦ったが、みんなの顔を見るにそうでもなかった=驚いた顔をしている。

 

銃を向けた人達=警察は大声を僕達へ浴びせかける。

 

「月護衛軍実証実験A中隊だな?コロニー採掘業者虐殺の罪で拘束させてもらう、全員手を上げて地面に伏せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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